緘黙児とオンライン学習

早いもので12月もすでに9日!イギリスでは先週火曜日に全国的なロックダウンが終わりましたが、ほとんどの地区は警戒レベル2「高い」か3「非常に高い」に逆戻り。店舗やジム、美容室などは再開したものの、個人宅に人を招くことは禁止されています。

それでも、政府は一年最大の祝日であるクリスマスには、5日間限定で個人宅に3家族まで集まることを許可しました。クリスマスショッピング(食料品、贈り物、デコレーション他)で経済が潤い、国民は家族との再会を楽しめる――政府への反発は弱まるかもですが、その後の感染拡大が今から心配。

明るい話題としては、アメリカとドイツの製薬会社が開発したファイザー社のコロナワクチン接種が昨日からスタート。2回の接種が必要なので、効果が出るのは来年の1月5日以降ということですが…。

実は、昨日勤めている特別支援学校が、なんとコロナ感染のため閉鎖となりました!幸いにも、私は濃厚接触者ではなかったので自己隔離は必要なしですが、あまりにも身近!! 授業がリモートに切り替わったので、準備に追われています。

      学校近くの住宅街で見つけた街路樹の根元に広がるアートワールド。先週からクリスマスモードに。アイビーちゃんとノア君のママが美術監督です

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昨日、SMiRAのFBにオンライン学習で緘黙児の不安と緊張がより高くなったという投稿がありました。対面クラスの方が緊張するはずなのに、どうしてなのか悩んでいるという母親。この相談に対して、色々な回答や意見があったのでご紹介します。

ちなみに、娘さんは3歳の時に場面緘黙になり、現在15歳とのこと。

昔から、ビデオを撮って祖父母に見せるのは平気だったし、自らの映像をYouTubeに投稿して楽しんでいたよう。それが、今では写真もビデオも撮影はNGに…。

普段の授業では、100%正解でなければ絶対に答えないため、クラスで声を出す機会は少なかったといいます。その場合も、先生が指名する前に合図を送り、OKだったら指名するというサポート体制ができていたよう。

それが、オンライン授業だと体が硬直してしまい、無表情になり、質問されても全く答えられない状態に。そのうえ、頻繁にパニック状態が出るようになったとのこと。

「何か変なことを言ったらどうしよう?!」

「間違えたらどうしよう?!」

「みんなが笑うわ!ビデオに映ってるのよ!」

こう訴える娘に、母親は胸が張り裂けそうだといいます。

どうしてこんなに自己評価が低いのか?自分が皆にどう見られているのか、笑われているのではないか--そんな不安に苛まれているのは、前の学校で虐めにあったのが原因ではないか、と推測も。

一番安心できる自宅で行うビデオ通信での間接的なコミュニケーションと、不安が大きい学校での対面の直接的なコミュニケーション――前者の方が緊張が高くなるのはどうしてなのか? 学校では、時間割やルーティンが決まっているから予測がつけやすいから?

多くの回答の中で最も納得できたのは、PCのカメラの焦点が自分だけに当たっているから、という指摘でした。

教室では時々先生には見られていても、他の生徒に見られているという感覚は少ないかもしれません(イギリスの学校はグループで座ることが多いですが)。教室の方が、大勢の中のひとりとして隠れやすいのかも。

本人の画面上は、先生をメインに他の生徒達の顔が無数にこちらを向いている訳で――みんなに凝視されてるかのようにも感じるかも。

また、自分の顔が常に皆の画面上にあって、話す時には注視されると考えると、目立つことを嫌う緘黙児が嫌がるのも無理はありません。

緘黙児には自意識過剰な子も多く、一度怖いと感じると、どんどん不安が増大してしまうのではないでしょうか?

回答をみると、オンライン授業が苦手な緘黙児は少なくないようです(反対に、得意な子もいると思いますが)。その対処法としてあげられたのは、自分の姿や自分の声を隠せるミュート機能を活用すること。

事前に先生と打ち合わせをして、文字のみの参加から可能にしてもらうなど、それぞれの子どもに合う方法を取れるといいと思います。慣れてきたら、最初は文字だけで参加して、最後の挨拶だけ顔を出すなど、少しずつステップアップしていければ。

そういえば、私の学校の日本語の生徒達(高機能ASDのティーン)も、過半数は顔を隠して(アイコンのみ表示)オンライン授業を受けています。最初の挨拶の後は、画面をシェアして音読やQ&A方式ですすめているので、顔が見えなくても支障はありません(実は、私自身もできれば顔出ししたくないです…(;^_^

いずれにせよ、不安が少ない状態でオンライン授業に臨めることが一番ですね。

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オンラインで緘黙支援

BBCの緘黙記事とバイリンガル

以前の記事で書きましたが、場面緘黙啓発月だった先月、BBCのニュースサイトで5歳の緘黙児、エルシーちゃんのケースが紹介されました。

<ニュース記事の内容>

ウェールズ在住のエルシーちゃんは姉弟や家族、友達とおしゃべりするのが大好き。でも、家族以外の大人とコミュニケーションを取ることができず、9月に入学した小学校でもまだ言葉が出ていません。

「先生に本を読むことも、トイレに行きたいと言うこともできません。何かほしくても、頼むことができないんです。日常生活にかなり大きな支障があります」

エルシーちゃんは場面緘黙(症)と呼ばれる重度の不安障害。子ども140人にひとりの割合で発症します。家庭では英語とウェールズ語を話しています(注:バイリンガルの子どもは発症率が通常より高い)。

「娘は話す相手を選んでいる訳ではないの。話せる唯一の条件は、安心できるレベルまで不安が下がった時だけ。コミニュケ-ションを取るのが怖くて、緊張や不安で体が固まってしまい、声が出ないんです。恥ずかしがり屋では片づけらない、周囲のサポートが必要な症状です」

幸運なことに、家族は早い段階で問題に気付き、ヘルスビジター、言語療法士、学校の支援を受けることができました。言語療法士のローリーさんは、「質問したり、話すように圧力をかけないで」と警告。

父親のダフィドさんは、「エルシーが10代になるまで場面緘黙を引きずらないよう、早くから対処を始めました」と、早期発見・介入の重要性を強調しています。

母親のハンナさんは、もっと多くの人に場面緘黙を知ってもらおうとSNSで発信。10月末までに100マイル(160km)走ることにも挑戦しました。医師や教師、他の親から多くの反応があるそう。

記事と動画はこちら:https://www.bbc.co.uk/news/uk-wales-54731963

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イギリスのTV局は、これまでに複数の場面緘黙ドキュメンタリーを放映。場面緘黙がニュースで取り上げられることは、さほど珍しくありません。でも、ハンナさんの言葉から、まだまだ周知されていない症状なんだなと実感させられました。

私が興味を持ったのは、エルシーちゃんが英語とウェールズ語を話すバイリンガルだということ。息子もバイリンガル(小学校入学まで日本語中心)だったので、その影響がどれくらいあるのか知りたいです。

(日本ではあまり知られていませんが、ウェールズ語はケルト語派の言語で、英語とは全く違います。イギリス(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの国からなる連合王国。現在でもその意識は強く、新型コロナの規制もそれぞれの異なります)。

家庭で2か国語以上の言語を話す子どもは、場面緘黙になる確率が高いことがこれまでの研究で解っています。ただ様々なケースがあるため、どの程度の割合で高くなるのか一概には言えないよう。

ヨーロッパ在住のSMiRA委員会メンバー(3か国語を話す元緘黙児の父親)が、『SMリソース・マニュアルの』共著者であるマギー・ジョンソンさんとまとめたレポート&ガイダンスがあります。それには、「イスラエルで行われた研究によると移民の子どもたちのSMの割合は通常の0.76%と比べ、2.2%と高い統計を示している(Elizur&Perednik 2003)とあります。

2015年にアメリカで発表された論文(C. A. Mulligan, J B. Hale & E Shipon-Blum)でも、上記の論文を参照していて、移民の子ども達のSM有病率はネイティブの子ども達と比べ4倍近く高い(Elizur&Perednik 2003)と?。移民と第二言語学習を組み合わせた状況を、更に調査する必要があると述べています。

また、オランダのユトレヒト病院(UMCU)で1973年から2011年の間に診断・治療した139人の緘黙児の中で、オランダ語だけを話す子ども56%、多言語を話す子ども28%、ASDが併存する子ども15%だったという報告も(Veerhoek 2011)。

ひと言でバイリンガル、多国語を話す緘黙児といっても、例えばヨーロッパ人と移民とでは状況がかなり違います。また、移民の中でも、中東やアジアなどから来たばかりの子もいれば、第二、三世代としてイギリスで生まれた子どもも。後者の中でも、家族がイギリスの風習に溶け込んでいるケースと、自国の言葉や文化を軸に暮らしているケースでは、比較が難しくなります。また、息子のようにハーフの子どもや、多国語を話す文化のある国に生まれた子もいる訳で…。

ひとつ言えるのは、抑制的な気質や恥ずかしがり屋の子どもが、学校など公の場で自信のない言葉を話さなければならない場合、不安がより大きくなるだろうということ。SMを発症するリスクがより高くなるのは理解できます。

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バイリンガルと緘黙(その1)

バイリンガルと緘黙(その2)

バイリンガル緘黙児あるある

子どもの自己評価低下を防ぐ

イギリスでは天気の悪い日々が続いています。どんより曇り空の下、雨・晴れ間のインターバルで一日にくるくる変わる天気。おまけに、午後4時頃にはもう日が暮れてしまいます。

気が滅入ってしまうような時期に、コロナ感染再爆発で2回目の全国的なロックダウン。人々のメンタルヘルスに影響しそうです。クリスマスは家族・親族と祝えるようにと政府は謳ってますが、人が移動すれば、また感染が拡大してしまう訳で…。

 

   一日にくるくる変わる天気。どんより曇り空が基本なので、晴れ間を見てウォーキングや散歩をしています

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うちは庭無しのフラット(アパート)が手狭になったため、息子が3歳になる前に現在の小さな庭付きの家に引っ越しました。前よりももっと郊外で、子育て中の家族が多く住む(今も)地区です。

赤ちゃん時代の友達とは交流を続けたかったのですが、時間が経つにつれて疎遠に…。でも、その中でひとつ年下の男の子とそのママとの交流はいまだ続いています。(息子たちが最後に会ったのは、2年前だったかな?その後も、彼のママが息子のバンドのライブに来てくれて大感激)。

また、違う幼稚園・小学校に行った日本人の友達とも、2005年頃に彼が帰国するまで家族ぐるみでお付き合いしていました。

学校で話せない緘黙児にとって、話せる同世代の子がいるのはすごく貴重だと思います。学校でしゃべれない自分の姿を知らない(と思い込んでいる)ためか、久しぶりにあってもそれまで通り話せていました。

話せないことで、緘黙児はどうしても同世代の子ども達と社会的な経験を積む機会が少なくなってしまいます。グループに入っていても、気兼ねなくおしゃべりする友達を見て「どうして自分だけ」と引け目を感じたり、意思表示できなかったり…。フラストレーションが溜まるのも無理はありません。

昔の友達でも、少し年が離れた親戚やいとこでも、習い事関連の知り合いでもいい、学校外で安心して話せる機会・人・場所があれば随分違うと思います。

「普通に話すことのできる自分」がいると感じることで、自己評価の低下を避けられるかもしれません。ひとりっ子ならなおさらです。

コロナ禍が続く中、社交の場がどんどん狭まってしまっていますが…。兄弟姉妹がいる子は、毎日家でのびのび会話したり、外で楽しく遊んだりできるといいですよね。

また、声を出しやすい場所、例えば近所のコンビニやスーパー、スポーツや習い事の場、公園、ファミレスなど、楽しみな(何か買ってもらえる・習える・食べられる・遊べる)場があるといいなと。

これもコロナ禍で難しくなっていますが、家以外で話せる場所があるのも自己評価の低下防止に繋がるかも。ちなみに、息子の場合は大型スーパーやIKEAなどでは(知り合いに会う確率が少ないと信じていたためか)普通に声を出せてました。

それから、何でもいい、熱中できることや趣味があればいいなと思います。緘黙ではありませんが、知り合いの14歳の息子さんがOCD(強迫性障害)を患い、一時不登校になってしまいました。そんな彼を救ったのがインターネットゲーム。彼の母親は時間を制限しながら息子を応援し、競技会に参加できるようサポートしました。

家から一歩も出られず鬱気味だったのですが、少しずつ気力と自信を取り戻したよう。秋に学校が再開した時には、再び登校できるようになりました。1回目のロックダウンで学校閉鎖したため、不登校が目立たずに済んだのも幸いしたかも。

好きなことがある、没頭できることがあるって凄い、と再び実感した次第です。漫画やPCゲームも馬鹿にできません。そういえば、息子が12の歳ころMinecraftのホストをしていて、赤ちゃん時代の友達とその友達や、違う中学に行ったクラスメイトと一緒に遊んでました。オンライン上でも同世代との交流ができますね。

子どもでなくても、自己評価が下がってしまうと「自分なんかダメ」と思いがち。「何か新しいことをしよう」という意欲がなくなってしまいます。子どものやりたいことや趣味を応援し、さりげなく褒めて自己評価をあげられるといいと思います。

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買い物作戦

プレイデート作戦

声を出す練習を!

同年代の友達の重要性

オンラインで緘黙支援

イギリスは先週木曜日から4週間のロックダウンに突入しました。今回は学校閉鎖がないため、週2回車で隣町にある学校に通っているのですが、ロックダウン前より外出してる人が多いような?

外での運動はOKなので、学校が終わった後に近くの森を散歩するのが楽しみ

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2015年4月に、マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援(その14)』として、『どうして緘黙のティーンが短期間で話し始めるのか?』という記事を投稿をしました。(もう5年も前とは――月日が過ぎるのは本当に早い(;^_^ )

その中で、下記のような疑問を持ち、私なりにその理由を4つ考えてみました。

>さて、番外編の続きです。年が上の子への支援について、マギーさんに直接お伺いしたところ、「支援を受けたティーン全員が2、3週間で口をきくようになった」との答え。これらのティーン達は緘黙が長期間続いていたと思われるのに、すごくないですか?

実は、機会があって現在21歳の緘黙男子をオンラインで支援しています。セッションは先週で4回目。通っているカレッジで最も緊張が強く緘黙状態が酷いため、誰にどのようにサポートを求めるか、彼の気持ちを確認しながら一緒に作戦を立てている最中です。

最初はSNSでやり取りし、次にオンラインでセッションを行ったのですが、何せ一度も会ったことがない相手。セッションで初めて顔を合わせるので、声が出せるのかどうか全く予測できませんでした。とにかく、少しずつでも声を出せるようになればいいなと考えていたのです。

そこで、一番楽なコミュニケーション法を選べるよう下記のような提案をしました。

<選択肢>

  • アイコンだけの参加(顔見せしない)OK
  • ミュート機能をオンにし、こちらに自分の声が聞こえないようにしてもOK
  • メッセージでの返答・やり取り(こちらの声は聞こえる状態で)OK

私には20歳の息子がいるし、主にハイティーン達に日本語を教えている関係で、若い人とのコミュニケーションには慣れているつもり。でも、彼から見たら、知らない東洋人のおばさんな訳で…。一体どんな反応をするのか、少々心配ではありました。

そうしたら、「普通で大丈夫」という返事が…。

まずは、趣味について話そうということになりました。雰囲気が良ければ、彼のSM情報を収集し、将来やりたいことやトーキングマップ(話せる人のマップ)作りができればなと…。

当日は、不安が募ってオンライン・セッションに現れない可能性も充分あると思っていました。そうしたら、約束の時間の1分前に「今、すごく不安。ただミーティングに参加するだけでいいの?」とSNSメッセージが。

「不安だって教えてくれてありがとう。参加してくれると嬉しいよ。実は、私も緊張してるんだ」

そう返事を返した途端、彼が画面に現れました。そして、何と普通にしゃべり始めたのです!

お互いに短い自己紹介をして、すぐさま自分の状況を話してくれたのですが、まったく自然な感じで、「本当に緘黙?」と疑うほど。

彼によると、緊張が強くても大人と1対1だったら、人によっては何とか声を出せるそう。ただし、同世代のクラスメイトは全くダメ。話そうとすると、喉が締まったようになって体が硬直してしまうと…。

何とか緘黙から脱出したいという強い気持ちに加え、私の日本語訛りの英語も安心材料のひとつだったかもしれません。

一緒に計画している作戦で、カレッジが動いてくれるかどうか--彼はダメもとで自分でやってみるつもり。第三者である私と話すことで、自信をつけたり、自分の問題を客観的に見ることができたらいいなと願っています。

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マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その1)

どうして緘黙のティーンが短期間で話し始めるのか?

おまけ: 世界中がコロナ禍であえぐ中、アメリカでは大統領交代でひと悶着起きそうな気配…。そんな中、ワクチン完成への希望と共に、ロシアの16歳のフィギュアスケーターが大きな感動をくれました。

https://www.youtube.com/watch?v=WVOyCTa0kZc&ab_channel=%D0%9F%D0%B5%D1%80%D0%B2%D1%8B%D0%B9%D0%BA%D0%B0%D0%BD%D0%B0%D0%BB

アレキサンドラ・トゥルソワ選手の戦うジュリエット。4回転3種類を4つ投入して、何と171.21という驚異のスコア!転んでも転んでも立ち上がる、そのファイティングスピリットが凄い!

代弁しないで

すでに7月も5日となり、2020年も折り返し地点を過ぎてしまいました。これから夏休みがやってきますが、そのあと一体どうなってしまうのか?新型コロナ感染の第二波が来るのか、それとも抑制できるのか、全く予測がつきません。

イギリスでは先週からやっと毎日の感染者が1000人を切るようになり、死者数も減ってきました。が、土曜日からパブやレストラン、美容室、ホテル業界などが再オープンし、保つべき社会的距離も2mから1m+αに収縮。でも、みなさん1mの距離も保てていないような…。

     再開した土曜日のウォーキング中に見かけた紫陽花屋敷(?)。イギリスは土壌がアルカリ性のためかピンクの紫陽花が多いのですが、ここは青からピンクのグラデーションがお見事!

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子どもと一緒に買い物に行くと、店員さんが子どもに話しかけてくることが多いかと思います。子どものものを選んでいる時は、特に。幼稚園くらいの子どもは可愛いので、つい声をかけたくなる気持ちも解ります。

「何年生?」「どこの幼稚園に行ってるの?」「どんな色が好き?」などと問いかけられて、固まってしまう我が子…。

そんな光景を見て、緘黙児の母はすかさず代わりに返事をしてしまいがち。聞かれてもいないのに、「うちの子は恥ずかしがり屋で」と言い訳してしまうことも多くないですか?

我が子が話せなくて困っているのを見ると、いてもたってもいられなくなりますよね…。

子どもに気まずい思いや、辛い思いをさせたくない。また、自分も恥ずかしい思いをしたくないという気持ちがあるかもしれません。

でも、子どもの代わりに答える習慣を作ってしまうと、子どももそれに慣れてしまい、親が答えるのが当たり前になってしまいます。

それが緘黙の維持要因になっているとしたら?

子どもが第三者とコミュニケーションを取る機会を奪っているとしたら?

マギーさんは、親が子どもの代弁をせず、子ども自身に答えるチャンスを与えるよう提案しています。

まず5秒待って答えられない時は、自分が子どもと向き合い、より簡単な質問になおして同じことを聞いてみましょう。

「ピンクが好きよね?」

声が出せなくてもいいんです。子どもがうなずいたらYesのサイン、首を横に振ったらNoのサイン。自分で意思表示をすることが大切なのです。

親の質問に対して5秒待っても反応がなかったら、店員さんには「ちょっと待って」と声をかけ、子どもをわきに連れていって、もう一度質問してみましょう。

それでも反応がなければ、話題を変えましょう。店員さんは子どもと話したい訳ではないので、別に気にしません。「じゃあ、違う色も見せてください」「〇〇はありますか?」など本題に戻ればいいのです。

母親の心配そうな様子や戸惑う様子は、子どもに不安を与えます。感じやすい子が多いので、その場の空気を肌で感じてしまいます。堂々として微笑んで。

子どもに答えるチャンスを与え、サポートしてあげてください。

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緘黙と恐怖症

どうして場面緘黙になるの?

10代で発症する場面緘黙

時間があくと増す不安

毎日快晴の初夏の気候が続いているイギリス。3月末のロックダウン開始から現在まで、雨や曇りの日は数えるほどしかありませんでした。実は、1929年に気象庁がデータを記録し始めて以来、この春は最も晴れの日が多かったのだとか。

学校はハーフタームの1週間休み中だし、あまりにも天気がいいので、昨日ハイゲートの森まで友達に会いに出かけました。車を運転したのも、彼女に会ったのも、ロックダウンを経て2か月ぶりのこと。

   

    木陰が多くて涼やかなクィーンズ&ハイゲートウッド。でも、みんな社会的距離なんて保ってないし、マスクしてる人はごく僅か…

実は、久々に車に乗るのが怖くて、決行をずるずる引き延ばしていたのです。

2週間前にはイングランド内の車での移動が解禁になり、ガーデンセンターが真っ先にオープン(イギリスならではですね)。車で20分ほどの距離にある地元のガーデンセンターにめっちゃ行きたかったんですが…。我が家の古~い愛車、ロックダウン前に故障して修理に出したところ、「あと1年くらいで寿命かな」とダメ出しが。

もともと車の運転・駐車が下手という苦手意識があって、家の周囲6キロ程度しか運転しない(できないと思っている)私…。

2か月乗ってないけど、ちゃんと運転・駐車できるのか。

途中で故障したらどうしよう。

ガーデンセンターの駐車場がいっぱいで、うまくナビゲートできなかったらどうしよう。

そんな不安が渦巻いて、運転する勇気がなかなか出ませんでした。

昨日エイヤっと乗ってみたら、「なーんだ。何で心配してたんだろう」と、不安はあっけなく消失。

こんな風に心配症で不安になりやすい私の気質を、元緘黙の息子はもっと強力に受け継いで生まれてきた訳ですが…。長い休みの後、緘黙児が学校に行くのを怖がる気持ちが、とてもよく解るような気がしました。

苦手意識があると、それまで普通にできていたことでさえ、できないような気がしてくる。

自信や自己評価があっけなく低下してしまう。

まずは、勇気を出して一歩を踏み出すこと。それを回避していると、ますます不安が大きくなってしまいます。回避することで不安は下がりますが、避ければ避けるほど恐怖が増します。

子どもの不安を低減させるためには、子ども自身が「なーんだ、大丈夫だった」「できた」と自分で体験するしかありません。不安と少しずつ向き合い、慣れていくことでしか克服できないのです。保護者、教師、セラピストなどの伴走者はその手助けしかできません。

息子の場合は、困難に直面する場面を色々想像してしまい、事前に不安が膨らんで「やりたくない」「できない」と思い込んでしまうパターンでした。でも、いざその場面に直面してみたら、思ったほど緊張しなかったということが多かったです。

「学校に行くのが怖い」という子には、事前に何度か通学路を歩いてみたり、クラスメイトの話をしたりするといいかもしれません。ロックダウンの間に、オンライン授業に参加できていたか、仲の良い友達と繋がっていられたかも重要ですね。

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さて、イギリス政府はロックダウン解除の第二弾として、6月1日から6人のグループが集まることを許可。戸外(個人宅の庭を含む)で社会的距離を保ちながら会うという前提で、バーベキューやパーティもOKとなりました。

でも、昨日(5月29日)の感染者数は2095人、死者数は377人と、まだまだ規制を緩めてもいい数字ではない?! 何故緩めるのか??

どうやら政府は科学者たちの「まだ早すぎる」というアドバイスを無視して、経済復興のために解除を進めているよう…。危険な賭けだと思います。

大通りや公園ではカフェやレストランが営業を始めましたが、スタッフはマスクも手袋もしてない!政府のガイダンスでは頻繁に手洗いすればOKということですが、怖すぎ!最近は、スーパーなどでもマスクと手袋着用率が低下している状態で、大きな第二波が来てもおかしくありません…。

先週末、ジョンソン首相の主任顧問アドバイザー、ドミニク・カミングス氏が、自ら作ったロックダウンの規則を破ったのではという疑惑がさく裂。国民の怒りを反映して大臣がひとり辞任し、保守党の国会議員40人が彼の辞任を迫りましたが、官邸の庇護のもと、うやむやにもみ消されそうです…。

どうしてイギリスは世界でも最悪の感染被害国になってしまったのか、国民の政府に対する信頼は崩れつつあるような。

昨日から「テスト&トレース」作戦が始まり、25000人のトレーサーを雇用して、PCR検査をした人の濃厚接触者を探り出し、警告していくとのこと。陽性だったら、本人は1週間、濃厚接触者は2週間の外出禁止です。でも、どこで誰と接触したか、知人の他は判らなさそう。携帯電話のAppはまだ実験中だし、見切り発車じゃないかと思うんですが…。

とにかく、大きな第二波が来ないよう祈るばかりです。みなさんもどうぞお気を付けて。

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英国のロックダウンは続く

英国のロックダウンは続く(その2)

英国のロックダウンは続く(その3)

英国のロックダウンは続く(その4)

英国のロックダウンは続く(その5)

ロックダウン解除へ第一歩

緘黙児とロックダウン

買い物作戦

前の記事を書いてから、既に10日以上経ってしまいました…先月の中旬頃から、毎日毎日インターネットで新型コロナのニュースとにらめっこ。場面緘黙関係の大きな仕事がコロナのせいで延期となり、本当にガッカリしています。

それに追い打ちをかけるように、今イギリスの感染者がどんどん増えていて、学校が閉鎖になるのではと不安でたまりません。受け持っている日本語の生徒さん、5月の国家試験はどうなってしまうのか…。

心配しても仕方がないとはいえ、ニュースを見れば新型コロナのことばかり…。買い物にいけば空っぽの棚が嫌でも目に入るし、どこかに出かけよう、友達に会おうという気持ちにもなれず。世界中に不安が広がる中、人々の心が疲弊して元気を失ってしまわないことを祈りたいです。

  

 時は春。そこかしこで球根花や樹木の花々が春の到来を告げています。公園や地区のグリーンに群生するラッパ水仙の黄色に元気をもらいましょう。

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私は学校の外でできるスモールステップの取り組みのひとつとして、買い物作戦を実践していました(『息子の緘黙・幼児期5~6歳(その5)学校外でのスモールステップ』をご参照ください)。

大型スーパーや息子の欲しいものがある玩具屋/ 文具店などでチャレンジ。注意する点は、

  • まずは学校から離れたお店で
  • 子どもがスモールステップにチャレンジできる心理状態であること

まず大型スーパーから始め、慣れてきたら小規模なショップに移行しました。大型スーパーと小規模なショップを比較すると、

大型スーパー

  • 人が多く、周囲がガヤガヤしているので、声を出しても聞かれない安心感がある
  • 知らない人ばかりのうえ、話しかけられる心配もないので、気持ちが楽
  • レジは流れ作業風なので、注目されない
  • 支払いの際、声を出さなくてもOK

小規模なショップ

  • 周囲に人が少なく、店員と顔を見合わせるシチュエーションが多い
  • 「ありがとう」など、言葉を交わす必要性が高い

大型スーパーでは、

1.   チョコなど好きなお菓子をひとつ買って、レジに持っていく

2. レジで会釈する(その際に、私が「ありがとう」をいい、一緒に会釈)

3.   私と一緒に、小さい声で「ありがとう」を言う

4. ひとりで「ありがとう」を言う

1.から4.への移行に少し時間がかかりましたが、小1(6歳になる前)の2学期ごろに声は小さいものの、クリアできたと記憶しています。

小規模なショップでは、最初にレジでお金を払うだけでも躊躇。やはり店員に見られているという自意識から、緊張が強かったようです。

ただ、小2にあがった頃からTVで『ドクターフー』が始まって大ヒット。息子も毎週楽しみに観ていて、学校ではその話でもちきりに。男子の間でドクターフー・カード集めや交換が大流行したのです。

そのためか、自分から「カード買ってもいい?」と聞くように。レジに持っていって会釈できるようになった後、「ありがとうって言えたら買ってあげる」とハードルを上げてみました。すると、割とすぐにできるようになったのです。

カードが「欲しい」という気持ちが、「怖い」に勝ったんでしょうね(^^;)  買収じゃないけれど、様子を見てできそうだったら、時には背中をぐっと押してみてもいいと思います。ただし、無理強いは禁物。

いつも子どもの近くにいる母親だからこそ、子どもがチェレンジする気持ちになれるかどうか、微妙なニュアンスを察知することができるような気がします。

息子の場合は、「やってみる?」という問いに「嫌」と答えても、絶対拒絶の「嫌」ではないのです。最初は「嫌」と言っても、私が促すと「しょうがないな」という感じで同意。できた時はちょっと得意そうで、徐々に自信をつけていくことができたよう。

そのうちに、「ありがとう言うから、カード買ってもいい?」と自分から訊くようになり、ステップアップをゲーム感覚で楽しんでいるようでした。それだけ自信がついたんでしょうね。

子どもの様子をよ~く観察して、性格やリアクションを考慮したうえで、次のステップを決めることが大切だと思います。

スモールステップの取り組みで注意すべきは、常に少しだけ高いステップに挑戦すること。そして、継続して行うことです。抑制的な緘黙児は、しばらくやらないと元の状態に戻ってしまうことが多いので要注意。

取り組みに慣れてくると、子ども自身が次のステップを自分で考えて、実行できるようになっていきます。そうなったら、克服への道はあと少し。

バイリンガル緘黙児あるある

2月ももう半ばですね。相変わらず天気が悪い日が続くロンドンですが、鉛色の空の下、梅の花(?)が咲き始めています。

 

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うちの息子は日本人とイギリス人のハーフです。家庭では4歳半まで主に日本語を話していて、幼稚園や家庭外では英語を使っていました(75% 対 25%くらい)。英語は修学したら自然に身につくだろう、と楽観的に考えていたのです。

ちなみに、イギリス人の夫は大学で日本語を専攻したため、少々変ですが日本語が話せます。「息子をバイリンガルにしたいから、あなたは英語で話して」と何度も頼んだのですが、英語だと息子との自然な会話が難しく、ほとんど日本語に。

息子が2歳半のころ日本語をキープするため、日本人が多く住む地区(駐在員も併せて)に引っ越し、3歳の時に日本人児童が多い幼稚園に入れました。そこで日本人の友達ができ、「あー良かった」と一安心したのもつかの間…。

4歳半で小学校に入学した初日、息子が「僕の英語、みんなみたいに上手くない…」とポツリ(この時はまだ場面緘黙を発症していませんでした)。

学校には外国人が多く、クラスには渡英したばかりで全く英語が話せない子が複数人いたにもかかわらず、自信をなくして委縮する息子--「これはイカン」と180度方向転換することに!英語に自信が持てるよう、家庭でも英語中心に変えたのでした。

(この2週間後に息子が場面緘黙を発症(詳しくは『息子の緘黙・幼児期4~5歳』をご参照ください)。学校で話せるようになるために、英語に統一した方がいいと決意を新たにしました。日本語が駄目になってしまっても仕方ない、まずは緘黙を治したいと考えたのです)

すると、夫はさっさと英語に切り替え。主な話し相手が私だったせいか、部分的に私の文法の弱点や日本語なまりの発音を身に着けてしまい、複雑な心境。しばらくすると、日本語の文章に英単語がたくさん混じるように。

そのせいで、小1の時に一緒に遊んでいた日本人男子のグループから、「〇〇の日本語は変!」とからかわれ、息子は「もう絶対に日本語しゃべらない!」と宣言😢 子どもって、本能的に「異質なもの」を鋭く嗅ぎ分け、排除しようとするところがありますよね…。

息子のためにとわざわざ日本人が多い学校を選んだのに、それがかえって仇になってしまいました。トホホ。

でも、場面緘黙になってから、日本語は私との秘密の言葉にもなったのです。私が傍にいれば小声で話せることも多く、周囲の様子をうかがいながら日本語で会話をしていました。周りの人には日本語が解らないので、安心できたよう。

周囲から見ると、自分たちに挨拶や返事をしないのに、母親にだけ外国語でコソコソ話すなんて、印象悪いですよね。当時は場面緘黙があまり一般に知られておらず、「恥ずかしがり屋で…ごめんなさい」と弁明することも少なくありませんでした。

ただ、どうしたいのかその場で息子の意向を確認したり、「じゃあ、ありがとうと言わなくてもいいから、頭だけ下げてごらん」とチャレンジさせたり。その場で言葉がけができて、褒めたり励ましたりもできるので、とっても便利。

子どもによって違うと思いますが、緘黙支援のツールとして利用しない手はないと思います。

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バイリンガルと緘黙(その1)

息子の緘黙・幼児期5~6歳(その5) 学校外でのスモールステップ

イギリスの秋はどんどん深まってきました。今年もあと2か月半で終わりかと思うと、時間が過ぎるのが本当に早いです。

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Cちゃんの誕生会に行ってから、学校外で随分人目を気にするようになり、緘黙が悪化してしまった息子(詳しくは『息子の緘黙・幼児期4~5歳(その24)』をご参照ください)。

それまでは割と平気だった、学校外での社会的場面――買い物、外食、公共交通機関での移動など――を嫌がるようになりました。周囲をすごく意識するようになったのです。緘黙だけでなく、対人恐怖症というか社会不安も一挙に増大。

学校の支援のお陰で少~しずつ改善しつつあると思えた対人関係も、一気にどん底に…。

う~ん、どうやったら元の基準にまで戻せるものか…。ここでも、やはりスモールステップで場に慣れさせるCBT(認知行動療法)を試みました。

この時に役立ったのが日本でもお馴染みになったIKEAのカフェでした。その利点は、

  • 家から離れていて、知り合いに会う確率が0に近い
  • 大好きなミートボールが食べられる
  • 自分で好きな席を選べる
  • 周囲がガヤガヤしている

最初は嫌がっても、好きなものを食べている時は、食事に集中して周囲の目を気にしなくなりました。回を重ねる毎に、誰も見ていないことを徐々に実感できたよう。

バスや地下鉄にも頻繁に乗るようにしました。その時に息子が安心できるよう注意したのは、

  • 最初は知り合いに会わないよう、ちょっと遠くで練習してから徐々に近所へ
  • あまり混んでいない時間帯に利用
  • バスでは息子が窓側に、私が通路側に座るようにする
  • 声かけ「大丈夫」「怖くないよ」「よくできたね」を忘れずに

スーパーや息子の欲しいものがある玩具屋/文具店での買い物作戦も有効でした。注意点は、

  • まずは学校から離れたお店で
  • 好きなものをひとつ選ばせる
  • 嫌がらなかったら、レジまで持って行かせる
  • 様子を見ながら自分でお金を払わせる
  • 声かけを忘れずに
  • (全部クリアできたら、私の声に合わせて「ありがとう」と言わせてみる)

上記のようなスモールステップで、少しずつ少しずつ恐怖症が治っていったように思います。長い道のりですが、諦めずに根気よく。注意すべきは、緘黙児は間が空くと元に戻ってしまう習性があること。なるべく頻繁に行う必要があります。

私が実践したスモールステップは、息子ができそうなことを選んで、自分で考案したもの。緘黙児はひとりひとり違うので、その子に合うスモールステップを組み立ててください。自分の子を一番良く理解しているのは保護者だと思うので、プロに頼まなくても大丈夫です。

そして、ひとつできたら次はもう少し高めのステップにチャレンジさせます。できなかったら、ステップをもっと細かく修正して再チャレンジ。

常にできそうなステップを準備して、少しずつ自信をつけさせることが重要です。失敗して後退してしまうこともあるかと思いますが、その時はその時。怖がらずに親子でチャレンジしましょう!

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合理的な配慮とは?

今週の日曜日は参議院選挙の投票日ですね。私はロンドン在住ですが、先週の金曜日に日本大使館に行って在外投票をしてきました。

その前に、動画で各政党のマニフェストを確認していたら、「合理的な配慮をお願いします」と、聞き覚えのある言葉が--れいわ新選組を立ち上げた山本太郎さんが、重度障害を持つ候補者ふたりと記者会見をした際に出てきた言葉でした。

こんな風に公の場で言葉を聞いたり、配慮の様子を見たりできると、「合理的な配慮」というコンセプトが一般に浸透しやすいかもしれないなと思いました。

さて、今年のSMiRAコンファレンスでは、緘黙のティーンや成人の大学進学にスポットがあたりました。イギリスの大学では障害や病気がある学生の支援サービスが設置され、対象となる生徒は”Reasonable Adjustments(合理的な配慮)”を受けられます。

イギリスでは平等法(2010年)と児童家庭法(2014年)により、緘黙児が他の子と同じように学校教育を受ける権利が保障されています。とはいえ、地区や学校によって受けられる配慮はまちまち。というのも、各学校によって状況(方針や予算)が異なるからです。

だから、”Reasonable adjustments”というのは「合理的な配慮」というよりも、「(状況に合う)妥当な配慮」と考えた方がいいのかなと解釈しています。

イギリスでは、政府や地方行政の予算がどんどん削られているため、支援や配慮を受けるのが難しくなっているのが現状。そのため、保護者や本人が声をあげないと、見過ごされてしまうことも…。何も言わなくても積極的に動いてくれる学校もあれば、動きが鈍い学校もあり、本当に宝くじのような感じです。

日本の法律については、高木潤野氏著の『学校における場面緘黙への対応』(学苑社)の第2章(学校生活における配慮や工夫)に詳しく書かれています。

P45 (2)場面緘黙は「障害」か

発達障害支援法によれば、「発達障害」とは自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。

場面緘黙はこの「その他」に該当することから、発達障害支援法において定義される「発達障害」に含まれる(場面緘黙は学校教育において「情緒障害」に分類される)。

P43 2014年に批准した障害者権利条約の第二十四条(教育)

c) 個人に必要とされる合理的配慮が提供されること

P45 配慮や対応にあたって

その時その時で直面しているさまざまな問題を、その子の気持ちに寄り添って丁寧に聴き取り、解決方法を考えることが大切である。

場面緘黙が「障害」なのかどうか――家庭では普通に話しているし、「治る」症状であることを考慮に入れると、「障害」と受け入れがたい気がしますよね。ただ、場面緘黙のために、他の生徒と同じように教育を受けられない/ 学校生活が送れないのであれば、配慮が必要です。

法律で守られている権利があるならば、子どもを守るためにその権利を行使したいというのが親心。子どもの将来がかかっていれば、なおさらですよね。

SM治療の先駆者と言われるマギー・ジョンソンさんは、「早期に対応しないと、深刻な結果を招く恐れがあります」(動画『うちの子は話さない』11:30から)」と警鐘を鳴らしています。

子ども自身が「助けて」と言えないがゆえに、「合理的な配慮」を受けられるかどうかは、保護者の頑張りにかかってくるかもしれません。特に、今学校では問題を抱える子どもが増加傾向にあり、担任は多忙を極めています。必要だと思ったら、保護者が勇気を出して、柔軟な姿勢で配慮をお願いしてみましょう。

上手くいく時も、いかない時もあると思います。でも、やらないよりやった方が絶対にいいし、後悔も残らないはず。ダメだった時は次の作戦を立てて、焦らず気長に。ネット上でもいいので、相談できる相手やグループがあるといいですね。