不思議の緘黙児

学校の夏休みも今週でおしまい…。イギリスではすでに初秋を感じさせる気候になってきました。今年は冷夏で猛暑日はほとんどありませんでしたが、昔のようにイギリスらしい夏だったと思います。

     今年も予期せず保育園時代からの旧友とロンドンで再会!来英は多分これが最後ということで、お気に入りのスポットを歩いて、語って。ハイドパークでは草間彌生の巨大な『南瓜』に遭遇

………………………………………………………………………………………………………………………………

緘黙の子どもの考え方や行動って、時としてすごく不思議に思いませんか? 身近にいる保護者や家族でさえ「何故??」と首をひねることも多いのでは?

うちの息子の場合:

1) 人に自分のことを知られるのを極端に恐れる

息子は小学校の4年生くらいまで作文が苦手でした(と思っていました)。他の子達が1ページ書くところ、息子は3、4行しか書かないのです…(;_;)

実は、息子の国語力を伸ばそうと、小2ごろからセリフ入りの漫画もどきを交互に描く遊びをしていました。セリフが多くなっても、私に聞くこともなく自分で文章を書きます。また、ドリルをやらせるとそれなりにできるので、国語(英語)は苦手かもしれないけれど、「何故学校ではこんなに書けないのか?」と謎でした。

小3の終わり頃だったと思うのですが、担任から「◯◯君は長い文が書けるようになりました」と言われました。ノートを見たら、課題は自分で物語を作るというもの(イギリスの公立小学校では通常、教科書もノートも学校に置いてあって、家に持ち帰るのは宿題のみ。親は懇談会の時にのみ各学科のノートを見ることができるのです)。

あれっ、もしかして自分について書くのが(先生や皆に知られるのが)嫌だった? それまでは、自分のことを書く課題が多かったような…。

多分、自分のことを書かなくてもいいので、やっと安心して作文に取り組めるようになったのではと思ったのでした。

2)「この人は大丈夫」と思うと、1対1なら本性を出す

息子の「話せる人ヒエラルキー表」では、大人の女性や子どもがけっこう話しやすい人に含まれています。

若くてきれいなベビーシッターさんが家に来てくれると、調子に乗って甘えまくり(『息子の緘黙・幼児期2~3歳(その3)』をご参照下さい)。

また、小2の夏休みに、当時16歳位だった友達のお兄ちゃんに半日ほど息子のベビーシッターを頼んだことがありました。その彼にも我儘をいって色々やらせ、私達が帰宅した際、二人は庭で水遊びをしてびしょぬれ状態(^_^;)

私が時々会う日本人の友人が遊びに来た際は、すぐに打ち解けて話しだし、調子に乗って歌ったり踊ったり、自慢の玩具を披露したりしてました。

3) 人が大勢いる場所でも、日本語でなら私と話す

日本語だったら周囲には何を言っているか分からないためか、大抵は知らない人の中で秘密の暗号のような感じで使うことが多かったです。

英語(外国語)でなら声が出やすいという日本人のお子さんも多いかも。

4) 転校生に自分から話しかける

息子の小学校は転校生が多かったのですが、小2の頃から転校生に自分から話しかけるようになりました。後で訊いたところ、「転校生は僕が話せないことを知らないから」とのこと…。

普段学校でほとんど話さない子が、いきなり転校生にアプローチして話しかけたら、皆に変だと思われますよね?でも、そこまでは頭が回らなかった様…。

そういえば、転校生のG君を家に連れてきたことがあったのですが(G君の希望)、お母さんがお迎えに来た際、「◯◯君は学校では喋らないんだよ!」と告発!「まあ、そんなはずないでしょ?!」と驚かれ、説明に困ったのでした(^_^;)

傍から見たら変でも、子どもは色々考えたり、感じたりしながら、自分なりに緘黙打開策を練っているのかもしれませんね。

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

Spread the love

子どもの可能性

もう7月も明日で終わりですね。夏休みの仕事の調整をしている内に、あっという間に1ヶ月が過ぎ去ってしまいました。イギリスの夏は日が長く夜10時頃まで明るいのですが、6月21日の夏至を過ぎてから少しずつ日が短くなって、最近では9時すぎると薄暗闇に…。今年も半分以上過ぎてしまったのだなと、淋しい気持ちになります。

  先週末ケント州の友達を訪ね、美味しいランチをご馳走になっておしゃべりを楽しんできました。ラムズゲートの海岸で午後の海風に吹かれ、夏休み気分満載

…………………………………………………………………………………………………………………………..

昨年夏、日本語のGCSE(国家試験)で良い成績を収め、秋からカレッジでITの勉強も始めた教え子のC君。以来、カレッジ(週3日)とうちの学校(週1/2日)とで二足の草鞋を履く忙しい日々でした。この1年間、カレッジの課題をこなすため、日本語の授業に来れないこともしばしば(^_^;) でも、両校で「今年一番頑張った生徒」と表彰され、6月に私が勤めている特別支援学校を無事卒業していきました。

来年度(9月)からは、うちの学校からの支援無しでカレッジのコースを終えることになります。でも、この1年で学業だけでなく、初めて友達を作り、人前で食事ができるようになり、一般のボランティアもこなすなど、ものすごい進歩!

授業の一環として最後に日本食を食べに行ったのですが、食わず嫌いだった彼が寿司、ラーメン、餃子に挑戦したのにまずびっくり!そして、日本人スタッフと日本語で会話をする挑戦も、ぎこちなくはありましたが大成功!

うちの学校は高機能自閉症の子ども/ティーンを専門としているんですが、彼は書字障害他の困難も抱えています。それでも、17・18歳でこんな風にぐ~んと伸びることができるんだなと実感し、すごく嬉しくなりました。

「カレッジ2年目から独りでもやっていける様、自宅からは遠いけど学校に近いカレッジを選んだ」と言っていたC君。自宅に近いカレッジだとうちの学校からの支援が受けられないため、わざわざ遠くのカレッジに通う選択をしたのでした。独り立ちできるように頑張るという決意と、今年はサポートしてもらえるという安心感の中で(殆ど必要なかった様ですが)、カレッジでの生活や勉強に適応していけたんだと思います。

彼と話していると、言葉の端々に自信をつけたのを感じ、気力が充実しているのがビンビン伝わってくるのです。どんな子でも、良い環境と機会さえあれば、もっともっと成長できる可能性を持っているんだなと思わせられました。

<関連記事>

緘黙だった教え子のAちゃんが卒業しました

教え子が緘黙だった!!

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

Spread the love

PDA(病理的要求回避)の具体例

6月ももうすぐ終わり…ということは2024年がすでに半分過ぎ去ってしまったんですね。早っ!イギリスでは10日ほど前から天気が回復し、やっと初夏らしい気候になってきました。ここのところ夜9時半過ぎまで明るいのですが、6月20日の夏至から徐々に日が短くなっていると思うと、なんだか淋しいです。

      6月は果物が美味しい季節。露地栽培の国産の苺が出回り、時おりヘタに花びらがついた苺も。忘れた頃に芽吹いた鉢植えの苺は、5年連続で小さな実をつけました。ブルーベリーの実は、今年こそ小鳥に盗られないようにしないと…。イギリスでは甘みの強いフラットピーチ(平たい桃)が人気です

………………………………………………………………………………………………………………………….

これまで3回にわたってPDAの説明をしてきましたが、実際にはどんな症状なのか?文章を読んだだけでは良く判りませんよね。

9年前にイギリスで放送されたTV番組シリーズ ”My Aggressive Toddler/ Born Naughty?(うちの攻撃的な子ども/ 生まれつき反抗的?)” で、PDAと診断された子がいるので映像を観ていただければと思います(英語ですが、彼の行動を目で追うだけでもかなり参考になるはず)。

この回に出演したのは、3歳のビリーと8歳のチャーリー、そして家族たち。両家の保護者は、ともに子どもがASD(自閉症スペクトラム)ではないかと疑っています。

注目していただきたいのは、8歳のチャーリー(7:19-/ 15:18-/ 20:10-/ 28:17-/ 34:37-/ 34:40-)の方。母親のマキシーンさんは、彼の行動は発達上の問題に起因するものと確信し、支援を求めて4年のあいだ不毛な戦いを続けてきたそう( 15:18-)。番組の終わりに、ようやく「ASDのPDAプロフィール」という診断が降りました。

撮影時点では、チャーリーはホームスクーリングを余儀なくされ、ほとんど家で過ごす毎日(7:19-)。ゲームで負けると不機嫌になり、母親がスイッチを切った途端、叫んで母親を攻撃し始めます。自分の意向にそわないと態度が激変――そんな彼をマキシーンさんは「ジキル博士とハイド氏みたい。全く予測不可能」と告白。

ラビ医師が家を訪問し、まず祖父にインタビュー(17:09-)。祖父母には懐いていますが、祖父いわく「チャーリーは私達を側にいさせるけれど、いつもひとりで遊んでいる」とのこと。ソーシャルスキルの問題を示唆していますね。

学校や友達について聞かれると(17:38-)、チャーリーは「やってないのにいつも怒られるから学校は嫌い」「友達はX Boxの仲間たち。喧嘩しても実際に殴り合いにならないから」と答えました。ラビ医師は「思考や行動に柔軟性がなく、曖昧な言葉や冗談が理解できない。変化を嫌い、社交性がない」とASDの疑いを強めます。

私が気になったのは、ASD児の5人に1人が学校システムから排除されているというナレーション(20:10-)…チャーリーもそのひとりで、週に数時間は家庭教師がつくものの、ほとんどの時間をTVやPCゲームに費やしているのです。外出は極度に嫌うそう。

「犬の散歩に行くから靴を履いて」と頼む母親を拒絶するチャーリー。なんとか玄関まで来させると、チャーリーは止める母親を無視して外へ猛ダッシュ。いつも公園の樹に登り、母親が犬を散歩させている間中ずっとそこにいるのが習慣なんだそう。今まで母親や犬と一緒に歩いたことは一度もないとか…。

次に、児童心理士のケネリーさんと言語聴覚士のヘレンさんがチャーリーを訪問(21:52-)。一人がアセスメントを行う間、もう一人はボディランゲージ他を確認します。体を揺らす、思考が狭い範囲に限定されている、非言語コミュニケーションを使わない――ASDの特性が見て取れます。

また、いつもと違うビスケットを出されたチャーリーは、彼女たちと視線を合わせたり、問いかけたりしません。食べかけのビスケットを口から出して「おいしくない」とテーブルに戻しました。

チャーリーの睡眠のパターンを調べてみると(28:17-)、寝かせようとする母親に対してメルトダウンを起こし、暴力を振るっています…。ここで心理学者のケネリーさんが着目したのは、チャーリーが何度も体を揺らしていたこと。

複数のアセスメントの結果、常同行動や思考の狭さから、専門家チームはチャーリーがASDであると診断(40:00-)。加えて、新しくできたPDA問診を行ったところ、通常よりかなり高い数字が出たため、ASDのPDAプロフィールであることも同時に診断されました。診断結果が出ると、母親のマキシーンさんは安堵の涙を浮かべました。これでやっと皆に理解してもらえ、適切な支援をしてもらえると希望を持てたからです。

診断後、この情報は地方自治体に通達され、チャーリーは新しい学校に受けいられることに(TVで取り上げられたため、上手く行った部分も大きいかと思います)。家庭でも家族がPDAについて学んだことで、状況は好転。以前より笑顔が増え、かなり落ち着いて暮らせているよう。

朝チャーリーを起こす時(44:50-)、マキシーンさんは大きな砂時計を枕元に置き、「今から10分、砂が全部下に落ちたら起きるのよ」と告げます。こうすることで母親の要求は砂時計の要求にすり替わり、彼女が攻撃されることはないのだとか。

砂時計はゲームをやめさせる時や、寝る時にも使えそうですね。また、「◯◯をしなさい」ではなく、「何分で◯◯ができるかな?競争しよう」とゲーム感覚にすれば、要求の様には聞こえません。

緘黙もそうですが、子どもに合う支援を見つけることの重要性を感じました。

<関連記事>

PDA(病理的要求回避 Pathological Demand Avoidance)とは?

PDA(病理的要求回避 )とは?(その2)

PDA(病理的要求回避)とは?(その3)

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

Spread the love

PDA(病理的要求回避)とは?(その3)

イギリスでは先週末から天気が回復して、やっと通常の6月の気温に戻った感じです。一年で一番いい季節を楽しもうと日本からやってきた友達にとっては、雨降りの寒い日が続いて気の毒でした。

    ロンドンのキングスクロス駅近くにある生物学研究所、フランシス・クリック・インスティテュートで脳の研究をテーマにした『Hello Brain!』展を観てきました。現代神経科学の父、サンティアゴ・カハル(1852-1935年)による細密な脳細胞のスケッチや毛糸で編まれた脳細胞を見て不思議な気持ちに

………………………………………………………………………………………………………………………….

PDA(病理的要求回避)はASD(自閉症スペクトラム)のプロフィールのひとつ」と言われますが、標準的なASDの支援対策では機能しないことが多いといいます。

英国PDA協会が推奨するアプローチはPANDA:

P(Pick Battles)  やらせたいことを選ぶ

  • ルールは最小限に
  • こどもが選択しコントロールできるようにする
  • 理由を説明する
  • できないこともあると受け止める

A(Anxiety Management) 不安の管理

  • 低覚醒アプローチを使う
  • 不確実性を軽らす
  • 根底にある不安と社会的/ 感覚的な課題を確認する
  • 事前に考えて計画を立てる
  • メルトダウンはパニックアタックとして扱う:一貫したサポートを行い、先に進む

N (Negotiation & Collaboration)  交渉と協力

  • 冷静さを保つ
  • 課題を解決すべく積極的に協力し、交渉を行う
  • 公平性と信頼を主眼とする

D (Disguise & Manage Demands) 要求を隠して、管理

  • 要求は間接的に
  • 常に要求に対する許容範囲をモニターし、それに応じた要求をする
  • 子どもと一緒にやることが助けとなる

A (Adaptation)  臨機応変に

  • ユーモアや気晴らし、目新しさ、ロールプレイを試してみる
  • 柔軟な態度
  • プランBを立てておく
  • 十分な時間を与える
  • ギイブ&テイクの量的バランスを取る

では、具体的にはどうサポートしたらいいのでしょう?

例えば、部屋を片付けさせたい時:

<時間など選択肢を与える/ 柔軟な対応をする>

今部屋を片付けなさい  ⇒  今日は部屋を片付けてみようか? いつやってみる、今それとも後で?

★子どもが何かを要求してきたら、子どもと相談して小さなご褒美を与える

<間接的に言い換える:「~なさい」など直接的な要求は避ける>

部屋を片付けなさい ⇒ 何から片付けたらいいかな? 誰が早く片付けられるか競争しよう!

おもちゃを箱にしまいなさい ⇒ ゲームしようか? 何個おもちゃ箱に入るかな?

★要求されているのではなく、自分で選んでコントロールできるかのような言い方に換える

「色合わせ」をゲームにした具体例:

https://www.instagram.com/tv/Cbrk7S4pkrU/?utm_source=ig_web_copy_link

<関連記事>

PDA(病理的要求回避 Pathological Demand Avoidance)とは?

PDA(病理的要求回避 )とは?(その2)

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

Spread the love

PDA(病理的要求回避)とは?(その2)

6月ももう10日を過ぎました。今年がもう半分過ぎようとしているんですね…時間が経つのが本当に早い!

     日本からやってきた旧友と南ロンドンのトゥイッケナムにある、ストロベリーヒルハウス (Strawberry Hill House & Garden)  に行ってきました。18世紀の英国ジョージアンゴシック様式の内装が壮観で、ヤンファンホイスムの有名な静物画も観られて幸運でした

…………………………………………………………………………………………………………………………..

PDAという症状名は英国の発達心理学者、エリザベス・ニューソン(Elizabeth Newson 1929 – 2014)が1980年代に提案。2003年の論文(Newson et al., 2003)により、その存在がまず英国で認識されるようになりました。ちなみに、ニューソン夫妻の長男にこの症状があり、心理学者の両親が一緒に研究を続けた成果だとか。

現在のところ、PDAはアメリカ精神医学会が作成するDMS-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)にも、世界保健機関(WHO)が作成するICD(国際的な診断基準)にも掲載されていません。それだけに、まだまだ研究が必要な疾患といえますね。

では、PDAとは具体的にどんな症状なのでしょう?

撮影当時(2017年)18歳だったアイザック・ラッセル君が発信するビデオ、『僕のPDA体験』を参考にしてみました。スカイプを通して母親の質問に答えるという形式ですが、これが大きな反響を呼んだため、情報源として公開に踏み切ったそう。当時、ラッセル君は若者専用のケアホームに住んでおり、そこにはASDとPDAを併せ持つ当別支援学校が併設されていました。

<抜粋要約>

● 一番不安を感じるのは、「自分ができない」と感じているのに、周囲から「こんなに簡単なことが何故できないの?」と全く理解されず、やるよう期待される時

● 例えば、精神的に調子が悪い日、靴を履かなければ外に出られる様に感じたとする。誰かに「靴なしで外出なんかできない」と言われても、靴を履くことは絶対に不可能。もちろん、そんな考えは不合理だと自分でも解っている。でも、反対に「絶対できない」という自分もいて、それを周囲に説明できないし、何故なのか自分で理解することも難しい

● 機能的な能力――朝起きて、ベッドから出て、朝ご飯を作って食べて、洗い物をして――こういった普通のことをする能力は当たり前に持っているし、やり方も知っている。時によってはちゃんとできるのに、殆どの場合はできない。ただ、できない。どうしてか説明するのは困難で、本当にフラストレーションがたまる

● 映画『インサイドヘッド』みたいに、脳のコントロールパネルに20人の僕(感情)がいて、例えばそのうちの1人が食べたり、飲んだりしたいと思っても、PDAの僕がハンドルを握っていたら、食べることは不可能

● 例えば、友達との外出。自分でも行きたいし、いいことだと解っている。だけど、どこからか「できない」という感情が介入してくる。これは疲れている時に特に顕著

● 要求は外からだけじゃない。毎日学校に行かなければ、顔や身体を洗わなければと意識しただけで、脳が「できない、できない」とパニックに陥る。最悪な自己破壊行為といえる

● もし誰か近寄ってきて「◯◯をしなさい」と要求したら、すぐパニックになって泣き出したり、パニックアタックを起こしたりする

● 大抵の場合は、まず回避から始まって徐々に不安が拡大していく。例えば、目が覚めて学校に行くことを意識すると、自然にタブレットに手が伸びる。天気や今日のスケジュール、SNSをチェックしたりする。これ以上回避できないところまでいくと、不安が広がって落ち込むことも多い。こうなると、絶対に学校には行けない。反面、すっとベッドから起きて学校に行ける日もあって、自分でも何故だか解らないから、本当にフラストレーションがたまる

● できない自分に対して、自分がいかに無価値か、これからずっとベッドから起き上がれないんじゃないかと絶望的な気持ちになる。自己嫌悪感がつのる

● できないことが続けば、ハードルはぐっと上がる。3日も学校に行けなかったりすると、「今日こそ行かなければ」と困難さが倍増してしまう。たとえ行けたとしても肯定的な気分にはなれず、もっと落ち込んだりする

PDAの子どもは登校拒否になることが多いという統計が出ています。本人は学校に行きたいくないのではなく、行けないのです。また、登校できたとしてもタスク拒否や癇癪を起こしたりすることが多く、学校で対策が立てられないため、停学になることも…。

一見するとコミュニケーション能力が高そうに見えるため、家族にも周囲にも誤解されやすそうですね。ASDの支援では対処できず、当事者は本当に生きづらいし、周囲も大変だと思います。

緘黙でかつPDAも抱えた子ども/人もいると言われています。もし、生活に支障が出るほど言うことを聞かず、癇癪ばかり起こしていると感じたら、ただの我が儘ではなくPDAの可能性があるかもしれません。

次回はPDAの対処法について書く予定です。

<関連記事>

PDA(病理的要求回避 Pathological Demand Avoidance)とは?

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

 

Spread the love

PDA(病理的要求回避 Pathological Demand Avoidance)とは?

5月も今日で終わりです。何もしないうちに、またあっという間に時間が経ってしまいました。一時期は初夏の気候になって暑かったのですが、1週間ほど前からぐずぐずの天気に。今日は風が強い雨の一日で、冬に逆戻りした様な肌寒い一日でした。

   今年もまたリージェントパークのメアリー女王の薔薇園に行ってきました。生憎の雨の中、イングリッシュローズが静かに薫って

…………………………………………………………………………………………………………………………

イギリスではここ数年の間に、: PDA(Pathological Demand Avoidance 病理的要求回避)という症状名をよく耳にするようになりました。

PDAはASD(自閉症スペクトラム)のプロフィールのひとつと理解されていますが、その研究はまだ初期段階です。ただ、イギリスでは自閉症の診断時にPDAのアセスメントが追加されることも多くなってきているよう。

PDAの子ども/人は、社会的コミュニケーションの困難さや感覚過敏などASDの特徴を併せ持つといわれています。その上で、毎日すべき義務(タスク)を社会的な策略を駆使しながら、異常なまでに避けるというのが特徴。

英国PDA協会(Pathological Demand Avoidance Society)による定義は:

<自閉症スペクトラムのPDAプロフィール>

  • 現在「持続的な困難」と定義されるASDの特徴――社会的コミュニケーションと社会的な相互関係の困難さ、そして制限的で反復的な行動・活動・興味のパターンを――を併せ持つ
  • 多くの場合、一般とは異なる視覚・臭覚、触覚、聴覚、さらに飢えや渇きといった内的感覚などの感覚体験を覚えることが含まれる

上記に加え、下記のPDAプロフィールの多くの主要特性を備えている

  • 日常生活のあたり前の要求に抵抗し、回避する
  • 回避のいち手段として、社会的な策略を使う
  • 社交的に見えるものの、理解力に欠ける――予測よりもっと「社交的」に見えるかもしれない(例えば、より「従来型」に近いアイコンタクトや会話スキルなど)。しかし、これによって根底にある社会的コミュニケーションと社会的な相互関係の困難さが隠蔽されている可能性がある
  • 感情や気分の起伏が激しい
  • 時として極端なまでに、ロールプレイ、ふり、空想に没頭する
  • 多くの場合、度を超えて人に執着する――PDAの場合「反復的または限定的な興味」は社会的な性質のもので、実在または架空の人物が対象となる
  • 自己コントロールの必要性が高い――これは不安、または要求に直面した際の自動的な「脅威反応」によって引き起こされることが多い
  • 支援、子育て、教育における従来的なアプローチに反応しない傾向が強い

About autism & PDA

緘黙児のなかにもPDAを持つ子どもが?

緘黙児にとって「おはよう」や「いただきます」など、毎日の挨拶はとても難しいことです。当たり前のことだからこそ、話すことを期待されていると強く意識してしまう。だから、余計に緊張して言葉がでなくなると考えられます。

当たり前の挨拶をしない――緘黙を知らない人からすれば、「失礼な子」と誤解されてしまいますよね。

言うことが決まっているから簡単と思ってしまいがちですが、うちの息子も学校で声が出始めてから、朝の出欠確認に答えられるようになったのは随分後のことでした。

ただ、日常の挨拶ができないのは緘黙のせいではなく、PDAのケースもあるかもしれません。

イギリスのSLT(言語療法士)、リビー・ヒルさんは、緘黙児の中にもASDの特性を併せ持ち、PDAの症状を持つ子どもがいると警鐘を鳴らしています。

もしPDAの場合は、従来とは異なるアプローチが必要だからです。

(長くなってしまったので、次回に続きます)

Spread the love

いよいよ今週末!場面緘黙の国際コンファレンス

今週末、5月11日(土)と12日(日)に英国バースのノーランド大学において、場面緘黙の国際コンファレンスが開催されます。

前回の記事で少し触れましたが、より詳しい内容が明らかになってきました。

11日(土)には、場面緘黙が各年齢の子ども、十代の若者、大人にどのような影響を与えるかについて、またそれぞれの年齢層にどのようなサポートの選択肢があるかについて、6つのプレゼンテーションが予定されています。

また、12 日(日)のプレゼンテーションは、音楽療法と動物療法の他、神経系への理解、個人とその嗜好への理解、家族の力関係の重要性への理解などがテーマになっています。

この国際コンファレンスを共催するSoundEmotiveとSM H.E.L.P.を代表する二人も講演する予定。

◎ジョアンナ・ターナーさん(Joanna Turner)

ジョアンナさんはイギリスのサマセット州をベースに活動する SoundEmotive の音楽療法士です。原始反射の統合(primitive reflex integration)、安全で健全なプロトコル(Safe and Sound Protocol-SSP) 、子供のためのヨガの研修も。娘さん2人が場面緘黙で、場面緘黙に対する認識を高め、緘黙に苦しむ全ての人を支援するためにイギリス全土で改善された治療経路が導入されるようキャンペーンを行っています。 SMIRA のコミッティーメンバーのひとり。

◎ケリー・メルホーン(Kelly Melhorn)さん

ケリーさんは米国 SM.H.E.L.P.の主催者。2018年に娘さんが場面緘黙の診断を受けて以来、場面緘黙の理解に専念してきた行動分析官士補佐です。2020年に SM.H.E.L.P.(家庭教育学習プログラム)を立ち上げ、場面緘黙に関する答えを探す人々に無料のオンライン・サミット、ポッドキャストなどを提供。場面緘黙の人を支援するためのアプローチとして、外部環境と内部環境の両方を変えるだけでなく、固定化してしまった「戦闘(fight)」「逃避(flight)」「フリーズ(freeze)」反応状態を引き起こす可能性がある原子反応の統合を目指しています。

その他の講演者は、SMiRAやSM H.E.L.Pのコンファレンスやサミットでもお馴染みの専門家が多数。イギリスからは児童療法士のルーシー・ネイサンソンさん(Lucy Nathanson)、言語療法士のアンナ・ビアヴァティさん(Anna Biavati)、リビー・ヒルさん(Libby Hill)、アニタ・マッカーナンさん(Anita McKiernan)、スザンナ・トムソンさん(Susannah Thomson)。動物療法士のケリー・ベイカーさん(Kelly Baker)SMiRA委員会メンバーのクレア・ニールさん(Claire Neal)、そしてノーランド大学で学ぶ、場面緘黙経験者のジェス・ブリンさん(Jess Bryn)。アメリカからは言語聴覚士のジョリーン・フェルナルドさん(Joleen Fernald)が講演します。

<関連記事>

イギリスで場面緘黙の国際コンファレンスを開催

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

 

Spread the love

イギリスで場面緘黙の国際コンファレンスを開催

4月も来週でもう終わりですね。私は3月末になんと9年ぶりに帰国し、15日間ほど滞在して関東・中部・関西と駆け足で回ってきました。以前からこの時期によく帰国していたのですが、今回あまりの天気の悪さにビックリ!私の中では、桜の季節は各地でお花見を楽しめ、青空の下満開の桜の花に祝福されながら新シーズンを迎えるというイメージだったんです…。が、無情の雨、雨、雨、雨。でも、久々に会った友人達が「菜種梅雨だよ」と口々に言っていたので、最近では春の長雨は普通? 天候不順で桜の開花が2週間遅れましたが、井の頭公園で咲き始めの桜を、京都の哲学の道と岐阜県の地元で満開の桜を楽しみ、上野公園でも夜桜を見る機会に恵まれました。

  

肌寒い天候に閉口したものの、雨の祇園の桜には独特の趣がありました

……………………………………………………………………………………………………………………………..

さて、5月11・12日にイギリスのバースで場面緘黙の国際コンファレンスが開催される予定です。サマセット州をベースに音楽セラピーを提供するSoundEmotiveとアメリカのケリー・メルホーンさんが運営するSM H.E.L.P.が共催。

11日(土)は年齢別にみる場面緘黙、12日(日)は様々な治療方やセラピーを組み合わせた個別治療プランの立て方について。講演者は、主催者側の代表らに加え、イギリスで場面緘黙の治療を提供する専門家、SM経験者、保護者など。オンラインチケットも販売しています(詳しくは下記のリンクへ)。

https://www.soundemotive.com/smic2024

なお、このイベントの利益の10%はイギリスの場面緘黙支援団体、SMiRAに寄付される予定です。

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

Spread the love

ベルリンの夏休みの思い出(その5)

もう3月も半ばに入りますね。ロンドンでは一重の桜が満開に近いんですが、天気は相変わらずぐずぐず。最高気温が12、3度くらいと、まだまだ肌寒いです。

………………………………………………………………………………………………………………………….

さて、やっとベルリンの夏休み最終回です。

私はその昔、ロンドンの英語学校で知り合った友達と、欧州7か国をコーチで周る格安ツアーに参加した経験があります。アムステルダムからベルギー経由でドイツに入り、ローレライの歌で有名なライン河下りをし、ハンブルグ駅の近くでフランクフルトを食べ、確かミュンヘンだったと思うのですが、何故か街の一角で見世物の熊を見た記憶が^^;

その旅行はイタリアがメインだったのもあって、ドイツについては記憶が曖昧。昨年夏休みにベルリンに行くことに決めたのは、ドイツという国をもっとよく知りたかったのと、ベルリンがアートの街と聞いていたから。美術館はもちろん、街にアートが溢れていると聞いてワクワクしていました。

 

    噂通り街の至る所にグラフィティやアートワークが。手軽な値段で作品が購入できるギャラリーも多数

     

  バウハウス博物館は閉館中で仮ショップに行ってきました。日曜日にはマウアーパーク(Mauerpark)の蚤の市とその周辺をぶらぶら

ベルリン美術館(Berlinische Galerie)

ここは地元の芸術家による1880~1980年の作品を常設展示(上階)する比較的新しい美術館。お目当ては1910年代に起きたベルリン・ダダイズムの作品たち。他に、新客観性派や東欧の前衛アートなどのレクションも。1階の広い展示スペースでは、現役アーティストのインスタレーションが飾られていました。

森鴎外記念館(Die Mori-Ōgai-Gedenkstätte der Humboldt-Universität zu Berlin)

国会議事堂のガラスドームを訪れた帰り、偶然に森鴎外の記念館を発見。1887年にドイツ留学した鴎外がベルリンで最初に下宿したアパートを、フンボルト大学(旧ベルリン大学)が記念館として運営しているそう。鴎外の寝室が再現され、当時の写真や書籍、手紙に加え、遺書も展示されていました。担当のドイツ人女性の日本語(敬語)がめっちゃ上手でびっくり。

森鴎外といえば著書『舞姫』が有名ですね。物語にはブランデンブルグ門からプロイセン王宮まで続く目抜き通り、ウンター・デン・リンデン(菩提樹の下)が登場するんですが、菩提樹の並木道は思ったほどロマンティックではなかったです^^;

ベルリンの美味しい食べ物?

ベルリン名物といえばカリーヴルスト(Currywurst)ですね。フランクフルトの輪切りにカレー粉入のケチャップソースをかけてあるんですが、う~ん私は一度食べれば充分かな…。ある日、主人がビールを飲みたいというのでビアガーデンに行ってみたら、ランチタイムは山盛りのザワークフトを添えたバーガーとフランクフルト、薄いピザみたいなおつまみしかなくて、ちょっとガッカリ。ケーキ類もちと甘すぎ?

  

主人推薦のドイツ料理はこんな感じ。お肉とポテトの量が半端ない?! 野菜は? メゾネットのキッチンではサラダっぽいご飯ばかり作ってました^^;

        

ベルリンで一番美味しかったものといえば、なんと滞在先のアパートのお隣にあったDump Lingという名の中華料理店。シンプルな内装に品数限定のシンプルなメニューだったんですが、これが美味!! 滞在中に2度食べに行きました。

これでベルリンの夏休みは終了です。最後までお付き合いしてくださった方、ありがとうございました。

<関連記事>

ベルリンの夏休みの思い出(その1)

ベルリンの夏休みの思い出(その2)

ベルリンの夏休みの思い出(その3)

ベルリンの夏休みの思い出(その4)

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

Spread the love

ベルリンの夏休みの思い出(その4)

春の足音が聞こえてきても、なかなか油断できない2月と3月。早春の花が咲き乱れるイギリスですが、再び寒波がやってくるよう。さて、またまたベルリンの夏休みの思い出の続きです。

パドル蒸気船でシュプレー河下り

シュプレー河では複数のクルーズ会社が多様なツアーを企画しています。私達が乗ったのは、船後尾に大きな赤い車輪がついた古風なパドルスチームボート。ベルビュー宮殿(Bellevue Palace)近くから出発し、博物館島の北東を通ってイーストサイドギャラリーの壁沿いにオーバーバウム橋の前まで航行しました。

ボートからはベルリンを代表する新旧さまざまな建物を見ることができました。中でも、2020年に史上初のスマート商業ビルの一つとして登場した近未来的なキューブベルリン(Cube Berline)は圧巻。アイスキューブのような外観にまず驚いたのですが、このハイテクビルでは、プロセス全てをAIで制御しているのだとか。また、国会議事堂やシュプレー川の中州にある世界遺産、博物館島の伝統的な建物郡も大迫力でした。

博物館島(Museumsinsel)で博物館めぐり

ユネスコの世界遺産に指定されている博物館島には、ベルリン美術館(Staatliche Museen zu Berlin)を構成する5つの博物館・美術館が集結。私達は事前に1日入場券を購入し、ミッテ地区の滞在先から徒歩で博物館島へ。旧博物館、新博物館、旧ナショナルギャラリー、ボーデ博物館、ペルガモン博物館があるのですが、見どころが多すぎて旧博物館はパス…。

     旧ナショナルギャラリーではクリムト展を観覧(左から2番目)。島の先端に位置する豪奢なボーデ博物館(写真右3つ)は、遅い時間だったためかほとんど貸切状態!写真に写っていない新博物館は特にエジプト文明エリアが有名で、『ネフェルティティの胸像』を観るために早足で周りました^^;

ハイライトはペルガモン博物館(Pergamon Museum)

5館の中で最も入場者が多いのがペルガモン博物館。何と現地から輸送した古代遺跡を館内でパズルの様に組み立てて再構築し、展示しているのです^^; あまりのスケールの大きさにもうビックリ!大英博物館も大英帝国の時代に各国から収集(略奪?)した文化財を展示しているのですが、ここは規模が違う!ペルガモン博物館は去年10月から改修工事のために14年間の予定で閉館したので、見学できてとてもラッキーでした。

左から、青と金のタイルが鮮やかな古代バビロニアの『イシュタル門(The Ishtar Gate 紀元前568年)』と輸送されてきたタイルの仕分け作業。別館では古代都市ペルガモンを再現した360度のパノラマ映像が観られます。写真右は『ミトレスの市場門 (Market Gate of Miletus 紀元前120年)』

4館を周っただけでも、疲れ果てた一日でした。

<関連記事>

ベルリンの夏休みの思い出(その1)

ベルリンの夏休みの思い出(その2)

ベルリンの夏休みの思い出(その3)

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

Spread the love