ローカン君とジェシーキャット(その2)

2012年にジェシーキャットがキャット・オブ・ジ・イヤーを受賞し、ジェインさんとローカン君は新聞やTVなどのメディアで何度も取り上げられました。その中のひとつ、BBCのインタビュー番組を見つけたので、内容の翻訳と一緒にご紹介ます。

左側がお母さんのジェインさん、真ん中に座っている男の子がローカン君(多分、この時7歳)、右側にいるのは兄のルーク君です。ローカン君にはもうひとり、アダム君という父親の違うお兄さんがいて、彼もアスペルガー症候群と診断されています。

アナウンサーに質問されてるのに、我関せずという感じで猫を撫でてるところとか、どこを見てるのか分からない感じ、腕や体の特長のある動かし方など、やはりASD傾向が見られるような気がしますね…。兄のルーク君の方は、かなりカメラを意識していて、所在なさげで目が泳いでる箇所も。でも、アナウンサーに答える時はきちんと視線を合わせています。

現在ローカン君は9歳になっていると思うんですが、明日SMIRA全国保護者会の講演でジェインさんからどんなお話を聞けるのか楽しみです。どんな内容だったかは、また追ってお伝えしますね。

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BBC News – Meet the cat helping a boy with Selective Mutism 場面緘黙の少年を助けている猫

http://www.bbc.co.uk/news/health-19293190

途中までの映像がありましたので、お借りして貼り付けます。残りは上記のBBCサイトからどうぞ。

男性アナ: みなさん、ようこそ。ちょっと待って、ジェシカ(猫)はどこにいるのかな?ああ、ローカンの後ろに隠れてるね。では、まず最初に家族に何が起こったか、順を追って教えてください。

ジェイン: 分かりました。ローカンは3歳半の時に幼稚園に入園したんですが、子どもにも大人にも話さないので、スタッフに心配されました。それで、調べてみたら場面緘黙だということが分かったんです。これは不安からおこる症状で、子どもが話すことを恐れたり、話せる人や誰の前だったら話せるかなど異なるルールがある様です。それが何年も続きました。ある時、ツィッターかなにかでキャッツコントロール(猫の保護団体)の広告を見たんです。どうして猫が素晴らしいのか - もちろん…あら(ジェシーキャットがソファから移動しようとする)

▲50秒

男性アナ: ローカン、猫が良く見えるように膝に抱いてくれる?落ち着かせられる?

女性アナ:あら、我慢強い猫ね。

ジェイン: そうです、すごく忍耐力があります。ローカンは感情を表現するのが苦手で、お判りのように、会う人誰にでも話すような子ではありません。まあ、今学校ではかなり改善されてきてますけど。ローカンはジェシーになら話すし、行動をともにすることが多いんです。ご覧のように、ローカンはジェシーと遊んだり、抱っこしたり、「ジェシー、大好き」とも言います。彼らの間には特別な絆があるんです。

▲1分23秒

男性アナ: (兄のルークに向かって)ルーク、ジェシーが来てから、君や弟の生活がどう変わったか教えてくれる?

兄ルーク: (弟は)以前よりも先生に話すのが好きになって、友達みんなに話してます。

男性アナ: (ローカンに向かって)猫に話すってどんな感じ?どうやって猫に話すのか、知りたいな、ローカン。どうやって話すの?

ローカン: (猫の耳に口を近づける)

男性アナ: 耳に囁きかけるんだ。そうやって話すんだね?猫はちゃんと分かるの?…そういえば、僕自身も自分の猫に話しかけるな。

女性アナ: ローカンにとっていいのは、猫は返事をしないことかしら。

ジェイン: あら、返事はしますよ。

女性アナ: そうなんですか?

ジェイン: とても大きな声でニャーニャー鳴きます。

▲1分58秒

女性アナ: ルークが学校で大きな変化があったといいましたが、どんな変化ですか?

ジェイン: 大人とは全く話さない状態から、この2、3ヶ月はクラス担任に話し、彼女の前で声を出して本を読めるようになりました。これはすごいことなんです。なんといっても、子どもが話せなければ、どのくらいの学力があるのか解りませんから。もっとすごいのは、この9月にクラス担任になる予定の先生にまで話せたんです。明らかに、猫はすごく助けになっていて、息子に自信をつけさせてもくれます。幼稚園でも小学校でも、言語療法をするなど、努力してくれましたし…。

▲2分34秒

男性アナ: この番組で今までに色々な動物をスタジオに招いたけれど、君の猫はものすごく行儀がいいね。いつもこうなの?いつもこんなに大人しい?

ジェイン: いいえ(笑)。犬に追いかけられているような時は、家を壊しかねない勢いよ。

男性アナ: 犬も飼ってるんですか?

ジェイン: ええ。

女性アナ: 猫と犬では違いがありますか?ジェシーキャットは特別だと思います?

ジェイン: ええ、思います。よく、猫はよそよそしくて独善的という人がいますが、私はそうは思いません。ローカンはうちの犬とよく取っ組み合うんですが、う~ん犬は猫より知性が劣るというか…あら、酷い言葉ね。でも、猫がとても温厚なのに対し、犬は食べることとラフな遊びにしか興味がないんです。ジェシーはもっと優しくて、ローカンの隣に座って前足をのせたり。

▲3分18秒

女性アナ: ジェシーは賞をとったんですよね?

ジェイン: ええ、二つの賞を獲得しました。昨日、ベストフレンドのカテゴリーで受賞し、最後にキャット・オブ・ジ・イヤーに選ばれたんです。アナウンスされた時は、びっくりしました。(猫がジェインさんに噛み付いて、スタジオ内が和む)

男性アナ: こんな風に猫との絆が助けになった子どもの話を聞いたことはありますか?

ジェイン: もちろんあります。通常は自閉症のケースですね。これもコミュニケーションの障害ですが、とても似ているところがあります。場面緘黙はその症状の出方から自閉症と間違えられることも多いですし…。でも、明らかに、大人から子どもまで様々なケースの話を、特に猫と子どもの話はよく聞きますね。猫はとても温厚で愛情深く、よくしてあげれば愛情を返してきますから。

▲4分08秒

男性アナ: 聞いたところでは、ローカンは今僕たちとは喋らないけれど、スタジオの外では…。

ジェイン: お喋りが止まらなかったわ(笑)。

女性アナ: (ローカンに向かって)今朝はずっとお喋りだったんですって?

男性アナ: TVに映ってるからだよね?その違いだよね?今日はどうもありがとう。

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ローカン君とジェシーキャット(その1)

動物を飼うことで緘黙児が話し始めたという例はけっこう多いようです。自分のペットのことが話題になったり、褒められたりするのは、子どもにも大人にとっても嬉しいもの。実際に、”Show & Tell”(自分の好きなものを家から持ってきて見せ、クラスに説明する)で飼い猫のことを話し、大きく前進した子を知っています。

動物だけでなく、得意分野は発話の後押しをしてくれます。もし、友達や先生との会話を促す時は、子どもの得意分野を話題にしてみてください。うちの息子は地下鉄マニアだったのですが、課外授業で地下鉄の話題になった時、皆の前で手を挙げて答えたのにはもうビックリ!(たまたまクラスの付き添いをしていて目撃しました)

話が逸れましたが、今週の土曜日(29日)に開催されるSMIRAの全国保護者会では、言語聴覚士のマギー・ジョンソンさんと、猫を飼うことで沈黙を破ったアスペルガーの緘黙児の母親、ジェイン・ディロンさんが講演する予定です。

ジェインさんと息子のローカン君については、飼い猫のジェシーキャットが2012年にコンテストで最優秀賞「キャット・オブ・ジ・イヤー」に輝き、”緘黙の少年と猫の絆”が話題になりました。その後、ジェインさんは2013年に『ジェシーキャット - 少年の心を開いた猫(Jessie Cat: The cat that unlocked a boys heart)』を出版しています。

booksSMIRAではメンバーにASD児が少ないせいなのか、今までASDとSMが併存するケースはあまり話題になっていませんでした。今回ジェインさんがゲスト講師ということで、ASDで緘黙の子どもの支援について聞けるのが楽しみです。2013年にガーディアン紙に掲載された記事”The cat that gave a boy his voice back” を訳してみたので、よかったら読んでみてください。

なお、SMIRAなど複数のチャリティをサポートしているミスイングランドのカースティさんは、残念ながら今回の保護者会は欠席とのこと。彼女の次なるビッグベントは4月13日のロンドンマラソンです!’Variety’ という子どもためのチャリテイを代表し、42kmのフルマラソンに向けて現在トレーニング中だそう。日テレの『ザ・世界仰天ニュース』の続編に関しては、続編という形ではなくもっと大きな企画が実現するかもしれません。

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2013年8月31日ガーディアン紙

The cat that gave a boy his voice back

– 少年の声を取り戻した猫 –

8歳のローカン・ディロン君は話すことが難しい場面緘黙です。しかし、新しいペットが転機をもたらしました。

 

わが子の満面の笑顔を見て大抵の親は嬉しくなるものですが、8歳のローカン・ディロン君が笑うと、母親のジェインさんは感慨でいっぱいになります — 例えその笑みがペットの猫にだけ向けられたものだとしても。

ローカン君は3歳の時、社会不安障害の場面緘黙と診断されました。彼の笑顔の裏には内なる会話が隠されているため、母親のジェインさんは常に息子の気持ちを読み取ろうとします。「みんなの警戒を解こうとアピールしてるのかしら?それとも、不安を緩めるために嬉しそうなふりをしている?」– こんな風に45歳の元助産婦は推測するのです。

場面緘黙の人達はある場面では流暢に話しますが、その他の場面では凍りついたように黙ってしまいます。家庭では早くから的確に話せていたローカン君の発達の様子からは、幼稚園に入園して話すのを止めてしまうまで、寡黙になる兆候など見当たりませんでした。

「家ではいつも声が大きくて自己主張が強いので、園に入った時はものすごいショックでした。どうして喋らないのか訊ねても全く説明できず、喉を指さすばかりだったんです」。

3歳児が園生活への適応を拒むのは良くあることです。しかし、息子が園で話すのを拒否し続けていることは、ジェインさんを悩ませました。というのも、その頃長男のアダム君がアスペルガー症候群と診断されたばかりだったのです。「場面緘黙について何かで読んだおぼえがあって、ローカンの先生に話したら、先生はもうその可能性を探っていました」。

SMIRAによると、この症状は165人にひとりを超える割合で発症します。ローカン君もそうであることが、言語療法士によってすぐに確認されました。

ローカン君の幼稚園では、園で話せない理由を見つけようとプレッシャーを与えたりせず、自信をつけさせるために遊びをベースにしたプランを遂行。ローカン君の症状は徐々に改善していきました。しかし、2009年9月に小学校にあがり、その12ヵ月後にレセプションクラスから1年生に進級した時点で、彼の歩みは逆転し、また口をきかなくなってしまいました。

さらに、ローカン君が自閉症スペクトラム障害ではないかという兆候もありました — 触られたり、抱かれたりするのを嫌がり、ほとんど共感を示さず、言われたことを言葉通りにとらえがち —  両親にも兄弟たちにも、愛していると口にしたことはありませんでした。

2010年9月にジェインの年老いた猫、フローが死んで新しい子猫がやって来たことが、ディロン家にとって予期せぬ転機となりました。ジェインさんによると、子猫のジェスはすぐさま変化をもたらしました。「彼らはお互いに惹かれあってました。ジェスは大きな青い目の、新しいふわふわした素敵な毛玉の固りで、ローカンの言うことに反応して鳴くんです。二人には深い絆がありました」

ローカン君は、出合ってすぐにジェスを抱くようになりました(名前もジェシーキャットに改名)。もっと驚いたことに、初めて保護者的な感情を見せ始めたのです。二人はすぐに切っても切れない仲となり、猫がやってきてから6ヵ月後、ジェインさんは息子から聞くことはないだろうと思っていた言葉を耳にしました。

「猫がお気に入りの玩具で遊んでいた時、ローカンがかがみ込んで、『ジェシーキャット、大好き』と。そして、『お前は僕の親友だね』と付け加えたんです。彼が”I love you(大好き)”の三語を話すのを初めて聞きました。涙が出るほど嬉しかったわ」。

「よく、私でなく猫に『大好き』と言ったことに対して、がっかりしてるんじゃないかと訊かれます。でも、最終的に人にも愛情を持つよう学んでくれたら本望です」

ローカン君はまだ学校で自由にコミュニケーションが取れる訳ではありませんが、ジェシーキャットとの絆が深まるにつれ、どんどん自信をつけてきています。ジェインさんは、ローカン君が最善の支援を受けられるよう仕事を辞めました。息子の不確かな将来や長期に渡るであろう家族へのインパクトについては、冷静に受け止めようとしています。

「思春期に入ってからのことは想像がつかないわ。上手くいけば、ちょっと変わってるくらいで治まるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。全く分かりません。でも、これは私にではなくローカンに起こる問題。私たちには選択の余地がないから、悲観にくれても仕方ありません」

母親が話している間、ローカン君は黙りこんでiPadに夢中になっていました。彼に簡単な質問をしてみましたが、始終ニャーニャー鳴いて私たちの会話を中断させるジェシーキャットと違い、お行儀よく沈黙を守ったままでした。

もし、彼の情緒の発達や育成に欠かせないジェシーキャットがいなくなったら、ローカン君はどうなるのでしょうか?

「ジェシーはまだ3歳。彼女が命を全うする頃には、ローカンが成人していることを願うわ」