場面緘黙と自閉症(その3)SMiRAの立場

イギリスはもうすっかり秋の気候。今日は久しぶりに秋晴れのいい天気になりました。これから落葉樹の梢がだんだんと紅葉していくのが楽しみです。

    雨降りの夕方、東の空にくっきりと円い虹がお目見え。よく見たらダブルレインボウでした。近くの公園でイギリスでは珍しいススキを発見

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場面緘黙の診断に関するSMiRAの立場

a. 診断担当医は、患者がSMの診断基準を満たしていると考える場合、SM(かどうか)の評価を行う必要がある。2018年、ICD-11が発表される前に推奨されていた診断基準は、SMを不安障害として記載していた DMS-5の診断基準でした。ICD-11ではSMを「不安障害または恐怖関連障害」として分類しています。除外疾患として次のものが挙げられます:

  • 統合失調症
  • 幼児の分離不安の一部としての一過性緘黙症
  • 自閉症スペクトラム障害

ICD-11における除外とは、「他(の分野)に分類されるという条件」であり、「ICD内で相互参照として機能し、カテゴリーの境界を定めるのに役立つ」ものです。これはSMとASDが別の障害として分類され、したがって併存疾患として診断できることを意味します。これは「(ASDの経過中)のみに起こるものではない」というDSM-5で使用されている除外の定義とは異なります。

注:解りにくいのですが、DSM-5ではASDの経過中にSMを発症した場合はASDが一次障害として上位診断され、二次障害であるSMは除外されて診断されないことになります。

SMIRA’s position on diagnosis of SM:

a. Diagnosing practitioners should make an assessment for SM where they believe the patient meets the criteria for such a diagnosis.The preferred diagnostic criteria prior to the publication of ICD-11 in 2018 were those published in APA DSM5, which lists SM as an anxiety disorder. ICD-11 classifies SM as an ‘Anxiety or Fear Related Disorder’. It lists as exclusions:

  • Schizophrenia
  • Transient mutism as part of separation anxiety in young children
  • Autism spectrum disorder

Exclusions in the context of ICD-11 are ‘terms which are classified elsewhere’ and which ‘serve as a cross reference in ICD and help to delimitate the boundaries of a category’. This means that SM and ASD are classified as separate disorders and can therefore be diagnosed as co-morbid. This differs from the definition of exclusions used in DSM5 as ‘does not occur exclusively’.

b. 診断担当医は、たとえ他の疾患に対する既存の診断があったとしても、SMについては別個の診断をくだす必要があります。SMiRAではDSM-5の併存診断からSMを「除外」することは、医療従事者とその患者にとって非常に無役だと考えています。これは、特に併存障害がASDの場合に当てはまります。私たちはASDを持つ人はSMの可能性もあると考えており、これはIDC-11の分類を使用すれば〈診断は)許容されます。

このSMiRAの立場は、『場面緘黙リソースマニュアル第2版 The Selective Mutism Resource Manual 2nd Edition』と『場面緘黙支援の最前線 Tackling Selective Mutism』で明らかにされており、後者ではマイケル・ラッター教授(キングスカレッジ・ロンドン精神医学研究所)によって支持されています。

b. Diagnosing practitioners should make a separate diagnosis for SM even if there is a pre-existing diagnosis for another disorder. SMIRA believes that ‘excluding’ SM as a comorbid diagnosis in DSM5 has been very unhelpful to medical practitioners and their patients. This is especially true in the case of ASD. We believe a person with ASD can also be selectively/situationally mute (SM), and this is allowable using ICD-11 classification.

This position is made clear in The Selective Mutism Resource Manual 2nd Edition and in Tackling Selective Mutism, the latter being endorsed by Professor Sir Michael Rutter (Institute of Psychiatry, King’s College London).

SMiRAがこの声明を出しているということは、イギリスでもまだSMの併存診断がつかないASD児がいるということですね…。うちの特別支援学校でも、SMや書字障害などのLD、ADHDを併せ持つ子が大勢います。イギリス国内ではASDの他に、これらも別個の障害として診断がおりているものと思いこんでいました…。

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場面緘黙と自閉症(その2)DMS-5 と ICD-11

今週は雨が降ったり・止んだりの肌寒い天気が続いています。雲の合間に陽が射して青空がのぞく時間もありますが、あたりはもうすっかり秋の空気。学校は始まったものの、まだ最終的な時間割が決まらず、ちょっと中途半端な日々です。

      久しぶりに訪れたハイゲートの森。うちの四季咲きのイングリシュローズは色も姿も儚げ

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さて、前回の続きです。

「現在の規定ではASDとSMの併存を診断できないのか?」という質問に対して、匿名で下記のような回答がありました。

DMS-5 (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders  米国精神医学会が作成する精神疾患の診断・統計マニュアル第5版) においても、ICD-11 (International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems 世界保健機関WHOが作成する疾病及び関連保健問題の国際統計分類 第11版) においても、ASDとSMとが同時に診断することは可能です。ただし、そのためには子供の持つ発話の問題はASDが原因ではないことを確認する必要があります。

DMS-5よりSMの規定の抜粋

The disturbance is not better explained by a communication disorder (e.g. childhood-onset fluency disorder) and does not occur exclusively during the course of autism spectrum disorder, schizophrenia, or another psychotic disorder.

この障害はコミュニケーション障害(例えば、小児期発症流暢症)では説明がつかず、ASD、総合失調症、その他の精神障害の経過中のみに起こるものではない。

DMS-5より(どこに記されているか不明)

Neurodevelopmental disorders Individuals with an autism spectrum disorder, schizophrenia or another psychotic disorder, or severe intellectual disability may have problems in social communication and be unable to speak appropriately in social situations.

ASD、総合失調症、その他の精神障害を持つ神経発達障害の人、または重度の知的障害がある人の中には、社会的コミュニケーションに問題があったり、社会的状況で適切に話すことができなかったりするケースがある。

       ⇑  <上記に対する投稿者の意見>

でも、彼らにSMの症状がある場合、そのコミュニケーション上の問題は別の種類のものだから、ASDだからという理由ではうまく説明ができません。その問題は様々な場面(状況)を超えて持続する、もしくは会話の欠如ではなく会話の内容に関連するかのどちらかです。

ICD-11から

Boundary with Autism Spectrum Disorder and Disorders of Intellectual Development:

Some individuals affected by Autism Spectrum Disorder or Disorders of Intellectual Development exhibit impairments in language and social communication. However, unlike Selective Mutism, when language and social communications impairments are present in Autism Spectrum Disorder and Disorders of Intellectual Development, they are notable across environments and social situations.

ASDおよび知的発達障害との境界:

ASDや知的発達障害がある人の中には、言語や社会的コミュニケーションに問題を抱える人もいる。しかし、ASDや知的発達障害の人に言語や社会的コミュニケーションの障害がある場合は、SMとは異なり、その問題は環境や社会的状況を問わず現れる。

 ⇑   <上記に対する投稿者の意見>

そのため、ASDの子どもが場面緘黙になっている状況でのみ沈黙している場合は、SMとASDの両方を診断することが可能。反対に、彼らが常にコミュニケーションの問題を抱え、その原因がASDである場合はSMの診断はできません。ASDが除外セクションに記載されているのはこのためです(SMと診断する前に、言語の障害の原因としてのASDを除外する必要があるため)。子どもが安全と感じる状況では話し(例:家庭)、不安が強い状況では話さない(例:学校)のはSMに特有な性質で、ASDが原因ではないからです。

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DMS-5の「SMはASD等の経過中のみに起こるものではない」という言い回し、すごく解りにくくないですか? ASD経過中にも起こりうるし、そうじゃない時にも起こりうるということ?

追記:DSM-5では、ASDの経過中にSMが起こった場合、医学的にはASDが一次障害でSMは二次障害という位置づけ。そのため、一次障害のASDが上位診断となり、原則的に併存するSMは診断されないということだそう。

私は高機能ASD児を専門とする特別支援校に8年間勤務しているのですが、ティーンの生徒たちは言語能力が高く目立つ常同行動もないため、一見するとASDだとは分からない子が殆ど。グレーゾーンの子も入れると、学校などで問題が起きなければ、周囲が子どものASDに気づかないということも理解出来るんですよね…。

スレを立てた方の質問は、診察やテストの際にSM児が話さないから診断不可ということでしたが、子どもが家で話している映像を利用したら、少しは手助けになるかもしれないと思ったのでした。

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場面緘黙と自閉症(その1)

もう9月も半ばですね。今年は日本から友達が二人もやってきて、あっという間に夏休みが終わってしまいました。最後の最後に、この夏の課題だった遮光ブラインド作りに着手。やっと完成したんですが、ギリギリになるまで夏休みの宿題をやらなかった学生時代と同じ^^;  なんやかんやでブログをさぼってしまい、前の記事から1ヶ月近く空いてしまいました…。

     

     秋風が吹き始めた中庭に咲く花々。ご近所さんにもらったナスタチウム(?)が巨大化して、あっという間に庭の一角を占拠してます😲

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私がこのブログを始めた2013年頃、イギリスでは場面緘黙(以降SMとします)と自閉症(以降ASDとします)の関連はほとんど取り沙汰されていませんでした。当時はSMとASDの併存という話題も非常に少なかったと記憶しています。その反面、日本では多くのSM児に発達障害が認められると言われていました。

当時、イギリスでは緘黙治療法が進んでいて、マギー・ジョンソンさんをはじめとする専門家たちや緘黙支援団体のSMiRAが全国的な活動を行っていました。そのイギリスで発達障害との関連について議論されていないのに、どうして日本では?と不思議に思っていたのです。

そこで、『日本では発達障害と見なされやすい(1-6)?』という記事で自分の見解を書いた訳です。

ところが、ここ5、6年ほどの間に随分様相が変わりました。SMiRAのFB掲示板でもSMとASDの併存についての話題がぐっと増えてきたのです。

今ではASDとSMが併存することは周知の事実。ただし、これはSM=ASD/ 発達障害ということでは決してありません。ただ、SMの背後に潜んでいるかもしれないASDや他の発達障害、言語の問題等の可能性を慎重に考慮すべきという姿勢になっていると思います。

最近、SMiRAのFB掲示板に特別支援教育の関係者から下記のような質問がありました。

質問者は複雑なニーズを持つ子どもたちを担当。彼女の職場では、子ども達が話さないために5/6歳で行ったASDの診断テストの評価をすることができなかったそうです。子ども達が10、11歳になった現在、心理士達はASDの評価を行うことに消極的なのだとか。その理由が、SMの診断基準ではASDは存在し得ないと規定されているため。両方の診断マニュアルによると、ASDとSMの両方を持つことができないというのです。それで、実際のところはどうなのかと。

この質問に対して多くの反響があり、当事者1人と29人の緘黙児の保護者が「子ども(自分)にはSMとASD両方の診断がおりている」と返答。更に、「SMだからASDの診断ができないというのはおかしい」という書き込みが多くありました。

保護者たちの回答から、子どもたちの診断パターンが2つに別れているのが分かりました。ひとつは幼児期にSMの診断がおりて、複数年後(長くて10年ほど)にASDの検査をして診断がおりたケース。もうひとつは、ASDの診断が先におり、数年後にSMの診断がおりたケースです。SMとASDの診断が同時におりたケースはなく、何故なのか気になっています。別々の専門機関で診断してもらう必要があるんでしょうか?

次回はアメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)DSM5と国際疾病統計マニュアル(ICD 11)におけるSMとASDの規定を比べてみたいと思います。

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教え子が緘黙だった!!

すでに9月も半ば。イギリスでは冷夏で8月から秋っぽい気候だったのですが、9月に入ってから晴れの日がまた少し戻ってきた感じです。

      先日、1年以上ぶり(?)にロンドン市内のアートギャラリーに行ってきました。Camden Art Centre はコロナ対策も万全。平日で人も少なく、雰囲気のいいカフェの庭でのんびり

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先週から新学年が始まり、まだ夏休みボケの頭をひきずりながら、日本語の授業を再開させました。私が働いているのは、高機能ASD(自閉症スペクトラム障害)の子ども(7歳~19歳)を専門とする私立の特別支援学校の高等学部です。

うちの学校は3年前までは場面緘黙の生徒は一人もいなかった(ハズ)のですが、今日初めてスタッフルームに長居し(昨学年はコロナ禍で人が集まる場所を避けていた)、現在場面緘黙の女性徒が二人いることが判明! しかも、私が教えているAちゃんも場面緘黙だったというのです!(◎_◎;)

えええ〜っ!!! 1年も教えてきたのに、全然気がつかなかった︎!!

灯台下暗しとは、このことですね…(;^_^A

Aちゃんは昨年10月に転入してきて日本語を専攻することになったんですが、担任から彼女のパスポート(生徒の特性を記載した書類)を送ってきたり、事前に問題を指摘してくれることもなく…。授業をやってみて、パスポートを見る必要はないと判断した私 (;^_^A

(うちの学校では、ほとんどの生徒がASDの他に複数の併存障害(ADHD、特定の不安障害、読字障害などの学習障害、話し言葉・言語・コミュニケーションの問題など)を抱えていて、セラピーと薬物療法を並行して行っている子が多いです)。

日本語3年目の男子生徒と彼女を同じ時間内で教えることになり、一方を教えている間、もう片方は書く課題をひとりで行うという寺子屋形式に。

Aちゃんは初めから返事も復唱もできていました。

ロックダウンで学校閉鎖になった時期も、普通にオンライン授業(どの生徒も自分の画像はオフ。普段の授業よりリーディングとQ&Aが増加)をしてましたが、全く問題はなかったし。

いや、緘黙だったとは〜!!!!

そういえば、最初の授業で日本語の挨拶を復唱させた時から、声が出るまでに少し時間がかかっていました。今でも、必ずワンテンポ遅れます。

が、私は「この子は緊張し~なんだな」と思ってたんですね。気長に待っていれば言葉は出てくるし、「これを言うぞ」という決意が全身からうかがわれるので(;^_^A どうしても言葉が出ない時は、単語やフレーズが思いつかないんだなと思って、ヒントを出して応えを促してました…。

あややや〜。知らなかったとはいえ、「言わせる」姿勢を貫いてきてしまった訳です(まあ、その方が彼女にとってはプラスでしたね、きっと)。

思えば、Aちゃんは応えても、応えなくても、頷きをすることがクセのようになっています。(前の学校では、言葉がでないとき頷いて返事をしていたのでしょう)。

多分、Aちゃん自身が転校することで、「自分を変えたい」「絶対に話したい」と決心していたんだと思います。クラスメイトより2歳ほど年上なので、元の学校(多分、公立のマンモス校)で色々あったんだろうなと。今度、担任かTAに詳細を聞いてみようと思っています。

ちなみに、もう一人の子(女生徒が増えて来たのはここ3、4年くらいのことです)は、現在16歳で緘黙の期間が随分長かったとか。でも、うちの学校に来てからは話しているそう。

彼女もAちゃんも1対1だったら大丈夫とのこと。二人とも、グループ活動になると緊張して声が出なくなるようです。

まずは一番仲の良い子とスライディングイン法をしてみて、と提案しておきました。(これからは、時間がある時にスタッフルームをのぞいて、もっと人とのコミュニケーションを増やそうと反省)

やはり、学校がかなり小規模でクラスの人数が少ないことが決め手になっているよう。イギリスの公立セカンダリースクール(12〜16歳)はマンモス校が殆どなので。また、TAの人数が多く、生徒ひとりひとりへのサポートが徹底していることも大きいと思います。

(若くて生徒に年齢が近いTAが多い(大学の修士課に進む前に1年休学して働いているなど)ことが、ASDの生徒のコミュニケーションや社会的スキルの向上にものすごく役立っているはず)。

そういえば、夏休み前に時間の関係で男子生徒と一緒に会話の練習をしたことも。男子生徒の方が知識も慣れも豊富なのですが、Aちゃんは臆さずにしっかり(いつもより?)大きな声で答えていました。「あっ、負けず嫌いの面があるんだな」とちょっと驚いたのですが、もっとこういう機会を増やしていければいいな、と思っている次第です。

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場面緘黙とASD(その2)

場面緘黙とASD(その3)ASDの女性

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場面緘黙と精神的な発達の関係

8月も半ばを過ぎ、森を散歩していると秋の気配が感じられるようになりました。1週間前には連続6日間の猛暑日を記録したのに、その後一気に気温が下がり、雨や強風が多い変わりやすい天候に。ちなみに、今日の最高気温は22度。イギリスでもやっと収まりかけていたコロナ感染が少しずつ拡大していて、秋の新学期がものすごく心配です。

広葉樹の葉っぱやドングリが地面に落ち始めました

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最近SMiRAの掲示板に、20歳の女子大生からの興味深い投稿がありました。彼女は小さな頃から実年齢より幼いところがあり、小学校の同級生に「ちょっと足りない」と言われていたとか。外見のことも含め12歳で酷い虐めにあい、ものすごく内向的になったと同時に場面緘黙に。それ以後6年間ずっと話すことができず、社会不安も大きかったそう。

大学生になって初めて友達ができ、それから話せるようになり、場面緘黙も社会不安も克服。初めて人生の素晴らしさ、ポジティブな面に目覚めたといいます。そして、それまでの自分を振り返り、いかに未熟で子供っぽい思考だったか――まるで時間が小学生時代で止まってしまったかのようだったと。

これは場面緘黙のせいで話せず、様々なことに参加できなかったため、社会的な体験を積んだり、人間関係を育むことができなかったりした弊害?

詳しくは書かれていませんでしたが、両親が彼女を医者や専門家に連れて行ったことはなかったよう。多分、学校での支援も受けてなかったのでしょう(中東在住と思われます)。

学業の面では自信を持ち、それなりの結果を出せていたそうなので、決して頭が悪い訳ではありません。ただ、社会的な面・精神的な面で非常に未熟で、年齢に見合う思考が全くできていなかったと…。話せる人との会話も年相応ではなかったと…。

長期化した場面緘黙の弊害として、精神的な発達が遅れることはあるのでしょうか?

この投稿には賛同的なコメントが多く目立ちました。自分も同じように感じていたと。成長し、どんどん新しい社会体験を積み重ねていく同年代の子供たち・ティーンたちとは対照的に、自分は殻の中に引きこもって外の世界をのぞくこともできなかったなど。社会不安を克服した後、新しい世界に足を踏み入れた様な気がしたという経験者も。

その中で印象に残ったのは、トラウマになるような事件にあって場面緘黙になった場合は、感情的な成長が止まってしまうこともあるという意見。(注:心的外傷性緘黙Traumatic (Reactive) Mutismは通常の緘黙とは異なり、心的外傷後ストレス障害(PTSD) の症状のひとつと言われています)。これは心的外傷性緘黙の娘の支援をしたという父親の言葉。

娘の心の成長が止まってしまったと心配したこの父親は、専門家に相談したそう。彼によると、6歳の心のままで中学・高校へと進んだため、実年齢と精神年齢がかみ合わず、娘の毎日は恐怖や不安、ストレスでいっぱいだったと。

カウンセラーは、彼女が感じている恐怖は本物だけれど、それらは潜在意識に基づいたもので現実とは異なることをひとつずつ例をあげて本人に説明。不安が徐々に減少し、少しずつ年齢相応の反応ができるようになっていったとか。

今月20歳になった元緘黙の息子(現在大学生で帰省中)にどう思うか聞いてみたら、「緘黙(4歳半~7歳くらいまで)だったせいで、いつも皆と比べて未熟な気がしていた」とのこと…。シャイな性格は昔とそれほど変わらず、人付き合いもそれほど得意ではないようですが、友達もでき大学生活をエンジョイしているようです(割と近くですが、殆ど家に帰ってきません😢)

場面緘黙のせいで精神的な発達が遅れるという学術研究はありません。ただ、緘黙児は学校で声が出ないだけでなく、皆からどんどん引き離されていくような気持になることが多いのだと思います。緘黙になる子は、ただでさえ抑制的な気質で自己評価が低い傾向にあります。引け目を感じて自尊心をなくしてしまわないよう、早期に発見して支援してあげて欲しいです。

場面緘黙とASD(その3)ASDの女性

8月もすでに半ばを過ぎてしまいました。イングランド南部では先週金曜日から6日間30度を超える(ロンドンは32~36度)猛暑日が続き、1961年以来の記録だそう!日本はもっと暑い毎日が続いているようですが、ちょっと想像がつきません。みなさん、熱中症にはくれぐれもお気をつけて!

夏の花がそこかしこに咲き誇っています

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先回、最近までASD(自閉症スペクトラム障害)の女性は、典型的なASDの特質が見えにくいため、見過ごされたり、診断の網の目を潜り抜けてしまうケースが多かったことを書きました。

これは診断を受けずに成人し、何とか社会生活を切り抜けている人も大勢いるということ。じゃあ、それでいいじゃないかと思われるかもしれませんが、そうではないことを学びました。

目立たなくても、彼女たちが実生活で多くの困難を抱えていることに変わりはないのです。

「なぜ自分は皆と違っているのか?」「どうして人並みにできないのか?」「なぜ対人関係が上手くいかないのか?」「どうして社会的な場面にストレスを感じるのか?」

何とか毎日をやり過ごすことができても、コミニュケーションの問題や社会的な困難を克服することはできません。困難を抱え続けることで自分に自信が持てず、自己評価が下がり、二次障害を発症しやすくなるといいます。

診断名がつくことで、なぜ自分が困難を抱えているのか理解できます、自分の存在について納得し、受容することができるのです。これは生きていくうえでの大きな力。

2013年に改訂されたDSM-5では診断基準やスクリーニングツールが見直され、それが診断改善の鍵になっているとのこと。

DSM-5 autism criteria relevant to gender is reviewed, along with the role diagnostic screening instruments play in perpetuating gender bias. Finally, the sensitivity of DSM-5 criteria to females on the autism spectrum is considered within the context of social work practice and research.

DSM-5においては、性別に関連する自閉症基準が、性別のバイアスを恒久化させる診断用スクリーニングツールと共に見直されます。最終的に、自閉症スペクトラムの女性に対するDSM-5基準の感度は、ソーシャルワークの実行および研究の範囲内で考慮されるようになります。

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ASDの女児・女性にも様々なタイプがいますが、私が気になったのは下記の2つ。

  • おとなしくて行儀がいい
  • 内気で受動的

内気、臆病、大人しい、受動的、あまりしゃべらない――世間は「女の子だから」と受容し、男児・男性ほどにはASDを疑いません。内向的な性格というよりも、どう行動・対応していいのか判らないため、黙っていることで対処しているケース。また、後ろの方でみんなのすることを観察・分析しているケース。間違えたり、目立つことを嫌い、大人しくしていれば注目されないことを学習したケースなどがあるよう。

それから、ASDを隠している二次的なメンタルヘルスの問題として、下記の例が挙げられていました。

  • 不安障害
  • 拒食症
  • 統合失調症
  • うつ病
  • 自傷癖
  • 場面緘黙

場面緘黙が出てきたのでハッとしたのですが、ASD児と同じようにSM児にも感覚過敏な子が多いですよね…うちの子もそうでした(成長とともに過敏さは鈍化したようですが)。

ASD児は感覚過敏のために授業や遊びに集中できないことも多いといいます。また、これは別問題かもしれませんが、会話や授業の内容(データ)を処理するのに時間がかかるため、すぐ会話に加われなかったり、答えられなかったりすることもあるよう。

SM=ASDではありませんが、もしかしたら場面緘黙の裏にASDが隠れているかもしれません。

でも、世間話ができなかったり、社交が苦手だったりするのは、長年緘黙で人と関わる体験を積んでこなかったせいもあるのかも…ASDはスペクトラムなので境界線は不明確ですよね…。

実生活で支障がなければそれでいいんですが、悩んでいる場合はやはり周囲の理解と支援が必要だと思います。

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場面緘黙とASD(その2)

7月も今日で終わりですね。ロンドンは今日、今年の最高気温36度を記録しました。久しぶりの猛暑だったためか、暑さ負け…なんだか体がだるくて頭痛がします。

でも、晩御飯にそうめんとお魚、サラダを食べたら、ちょっと回復。日本には季節に合わせた食文化があって、やっぱりいいなと思います。次は鰻のかば焼きを食べたいけれど、高くて手が出ないかな…。

真夏の入道雲?

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私が日本語を教えている特別支援学校では、ロックダウン中に多数のオンラインコースを受講させてくれました(というか、義務だったのですが…)。その大部分は、生徒やスタッフの安全を守るためのセーフガード関連。

それとは別に、ASD(Autistic Spectrum Disorder 自閉症スペクトラム障害)の女子生徒が増えてきたことを踏まえ、『少女と女性の自閉症』も受講できることに。これはイギリスの全国的なチャリティ団体、National Autistic Societyが作成した、最新の研究・情報に基づく研修コースです。

SMiRAのFBページでは、ここ5年ほどの間にASD併存やその疑いのある緘黙児が増えていて、緘黙とASDの関係が気になってました。

かつてASDは男児・男性に多いとされ、男女比は4:1とも5:1とも言われてきました。が、最近では女児・女性が増え、比率は3:1くらいとされているよう。これは実際にASDの女児・女性が増えた訳ではなく、相談件数が増えたり、診断漏れが少なくなったから。

自閉症(Autism)はレオ・カナーによって1940年代に発見されましたが、現在のように先天性の脳障害と判明したのは1960年代後半のこと。それから50年位しか経っていないので、明確になっていない部分もまだまだ多いんでしょうね。そういう意味では、場面緘黙もまだ研究が進んでいないかも。

オンライン研修でまず気づいたのは「masking 覆い隠す」という単語の多さ。(なお、本人が意識してmaskingしているケースもあれば、無意識のうちにmaskingが習慣になっているケースもあるとのこと)

典型的なASD検査は男児・男性を対象に作成されたものなので、ASDの特性を覆い隠すことに長けた女児や女性は、検査の網を潜り抜けてしまうらしいのです。また、社会に根強く残るジェンダーステレオタイプの概念――例えば、女児・女性は大人しくても当たり前――が、相談や診断への道を妨げているとも。

イギリスでは、80年代にアスペルガー症候群の研究を発表したローナ・ウィング女史の「3つの特徴」が、現在もASDの基本定義として使われています。その定義とは、

  • 対人相互作用における質的な障害 (非言語性行動や相互関係の困難さなど)
  • 意思伝達の質的な障害 (話し言葉の遅れ、偏り、言葉遣いの奇妙さなど)
  • 行動、興味及び活動の限定された反復的 (強いこだわり、固執、常同行動など)

これらの特性を兼ね備えていても、女児や女性はmaskingによってそれが目立たないことが多いとか。それでもよく観察すれば、目立たない特性が見えてくるのです(多分、ここでは高機能で言語の発達に遅れのない群が対象だと思います)

ASDの女児・女性の特徴

  • 分析的な思考
  • 社会的な対人スキルの高さ(男児・男性に比べ)

ASDの女児は、分析的な思考をベースにして世の中を理解しようする傾向が強いといいます。周囲を観察し、TVや映像等からも、人が言ったり、したりしていることを分析してコピーするのだそう。他人との関わり方もそうやってコピーするため、一見すると、ちゃんと社会性があり、人との相互関係も問題ないように見えます。

でも、実際のところはものすごく神経を使いながら、自分の役割を演じているのです。そのため、帰宅してから学校での我慢が爆発してしまうことも多いそう。また、自分が作ったシナリオ通りに物事が進まないと、非常な不安に襲われ、対処できなくなるとも。

視線は合うし、こちらの問いかけにはちゃんと答えるし、友達とも上手くやれているように見える――園や小学校の教諭たちは、そういう子どもに問題があるとは思わないですよね。それで、発見が遅れたり、見過ごされたりするのだそう。

ちょっと長くなりそうなので、続きは次に書きますね。

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場面緘黙とASD

日本は度重なる台風の影響で、豪雨による甚大な被害が出ているようですね…被災者の方々に心よりお見舞い申し上げます。世界中で今までにないような大災害が多発していて、いつ自分が被災してもおかしくないような状況になってきていると思います。

雨続きのロンドンでは秋がどんどん深まり、店先にはクリスマス飾りやカードが。まだそれほど寒くないけれど、近づいてくる冬の足音がきこるよう。

  

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2013年に『緘黙は発達障害なのか?』という記事を書いた頃、SMiRA掲示板ではASD(自閉症スペクトラム障害)の併存に関する話題は殆どありませんでした。当時は不安、言語やコミュニケーションに関する問題の併存については知られていましたが、ASDや発達障害との関連についてはそれ程着目されてなかったように思います。

それが、SMiRAのFBグループ内では、ここ3年あまりでASDを併存する緘黙児の割合が急増しているのです。

その理由を推測してみると、ASDとSMに対する全体的な知識が深まってきたからのように思えます。

1) 学校関係者や専門家、ASD児の保護者がSMという症状があることに気づいた結果

イギリスでは幼児期における自閉症のスクリーニングが定着していて、就学前(5歳になる前)にはASDの診断がおりていることが多い。以前はSMの症状があっても、その子が持つ自閉症状のうちのひとつ(一定の人や状況へのこだわり/ 他人への興味が薄いため、会話する気持ちの欠如/ 社会的な理解力の問題)と捉えていた。しかし、学校関係者や保護者がSMの知識を持つようになり、ASDの二次障害だと気付くようになった。

2) 子どもの緘黙に気づいた学校関係者、専門家、保護者がASDの併存を疑うケースが増えた結果

最近では、学校関係者や専門家の知識が豊富になったうえ、保護者の側からASDのアセスメントを要求することが増えている。

現在のところ、SMとASD併存率は明らかになっていません。が、2018年に教育心理学者のクレア・キャロルさんがSMiRAのFBグループを対象に行った非公式の調査では(対象者 364名)、SMとASD併存する子どもは、全体の約三分の一(34%)という比率になっていました(詳しくは下記を参照ください)。

もう一つ注目したいのは、最近になってASDと診断される女の子の数が急増していること。自閉症の名付け親、レオ・カナーの1943年の研究によれば、ASDの男女比は4対1。これに対して、2017年のルームズ他の研究だと、3対1の比率になっています。

私が働いている高機能ASD専門の特別支援学校では、これまで女生徒の人数は1割に満たないものでした。それが、今年9月の新学期から女子が急増! 日本語の生徒さんのクラス(15〜16歳)は、女子が3分の1以上に増えていてビックリ。

イギリスのNHS(国民保健サービス)によると、場面緘黙の発症率は140人の子どもにひとり。男女比は女子の方が多く、カナダの団体Anxiety Canadaによると、男女比は1対2となっています。

2018年のクレアさんの調査では、「SM とASDが併存」と診断されたのは、全体の34%(124名)、その中で診断に満足していると答えた98名について、男女比はきれいに1対1に分かれているのです。全体の男女比は公表されていないのですが、とても興味深い結果だと思います。

場面緘黙だからASDというのは決してありませんが、ASD児の中に二次障害として場面緘黙を発症する子が一定数いるのは、間違いないよう。…………………………………………………………………………………………………

2018年度、SMiRAのFBグループで行った調査から(詳しくは『2018年SMiRAコンファレンス(その5)』をご参照ください)

 1) 第一調査:参加者(大半は保護者)364名

SMのみ   66% (240名)  /  SM とASDが併存 34% (124名)

2) 第二調査(1) 対象:「SMのみ」の診断に納得している参加者(162名)

男女比:      男子 23%(37名) :  女子 77%(125名)

3) 第二調査(2)対象:「ASDとSMが併存」の診断に納得している参加者(98名)

男女比:      男子 50%(49名) : 女子 50%(49名)

合理的な配慮とは?

今週の日曜日は参議院選挙の投票日ですね。私はロンドン在住ですが、先週の金曜日に日本大使館に行って在外投票をしてきました。

その前に、動画で各政党のマニフェストを確認していたら、「合理的な配慮をお願いします」と、聞き覚えのある言葉が--れいわ新選組を立ち上げた山本太郎さんが、重度障害を持つ候補者ふたりと記者会見をした際に出てきた言葉でした。

こんな風に公の場で言葉を聞いたり、配慮の様子を見たりできると、「合理的な配慮」というコンセプトが一般に浸透しやすいかもしれないなと思いました。

さて、今年のSMiRAコンファレンスでは、緘黙のティーンや成人の大学進学にスポットがあたりました。イギリスの大学では障害や病気がある学生の支援サービスが設置され、対象となる生徒は”Reasonable Adjustments(合理的な配慮)”を受けられます。

イギリスでは平等法(2010年)と児童家庭法(2014年)により、緘黙児が他の子と同じように学校教育を受ける権利が保障されています。とはいえ、地区や学校によって受けられる配慮はまちまち。というのも、各学校によって状況(方針や予算)が異なるからです。

だから、”Reasonable adjustments”というのは「合理的な配慮」というよりも、「(状況に合う)妥当な配慮」と考えた方がいいのかなと解釈しています。

イギリスでは、政府や地方行政の予算がどんどん削られているため、支援や配慮を受けるのが難しくなっているのが現状。そのため、保護者や本人が声をあげないと、見過ごされてしまうことも…。何も言わなくても積極的に動いてくれる学校もあれば、動きが鈍い学校もあり、本当に宝くじのような感じです。

日本の法律については、高木潤野氏著の『学校における場面緘黙への対応』(学苑社)の第2章(学校生活における配慮や工夫)に詳しく書かれています。

P45 (2)場面緘黙は「障害」か

発達障害支援法によれば、「発達障害」とは自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。

場面緘黙はこの「その他」に該当することから、発達障害支援法において定義される「発達障害」に含まれる(場面緘黙は学校教育において「情緒障害」に分類される)。

P43 2014年に批准した障害者権利条約の第二十四条(教育)

c) 個人に必要とされる合理的配慮が提供されること

P45 配慮や対応にあたって

その時その時で直面しているさまざまな問題を、その子の気持ちに寄り添って丁寧に聴き取り、解決方法を考えることが大切である。

場面緘黙が「障害」なのかどうか――家庭では普通に話しているし、「治る」症状であることを考慮に入れると、「障害」と受け入れがたい気がしますよね。ただ、場面緘黙のために、他の生徒と同じように教育を受けられない/ 学校生活が送れないのであれば、配慮が必要です。

法律で守られている権利があるならば、子どもを守るためにその権利を行使したいというのが親心。子どもの将来がかかっていれば、なおさらですよね。

SM治療の先駆者と言われるマギー・ジョンソンさんは、「早期に対応しないと、深刻な結果を招く恐れがあります」(動画『うちの子は話さない』11:30から)」と警鐘を鳴らしています。

子ども自身が「助けて」と言えないがゆえに、「合理的な配慮」を受けられるかどうかは、保護者の頑張りにかかってくるかもしれません。特に、今学校では問題を抱える子どもが増加傾向にあり、担任は多忙を極めています。必要だと思ったら、保護者が勇気を出して、柔軟な姿勢で配慮をお願いしてみましょう。

上手くいく時も、いかない時もあると思います。でも、やらないよりやった方が絶対にいいし、後悔も残らないはず。ダメだった時は次の作戦を立てて、焦らず気長に。ネット上でもいいので、相談できる相手やグループがあるといいですね。

2019年SMiRAコンファレンス(その8)SMとASDが併存している子どもへの介入

6月も半ばに近づいてきましたが、イギリスはここのところ雨模様の天気が続いています。今日は一日中雨で、最高気温が14度…寒っ。先週の土曜は午後から雨があがって天候が回復したので、ハイドパーク内のSerpentine Sackler Gallery に行ってきました。

    ギャラリー&カフェをデザインしたのは、東京の国立競技場の初回コンペで選ばれた建築家、故ザハ・ハディド氏。曲線の遊び心溢れるデザインは、昔流行ったTeletabbiesという子ども番組に出てくるTeletabby House(右)に似てる?

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SMとASDが併存している子どもへの介入

<SMを併発するASD児への対応>

ASDは理解されているが、SMは理解されていないケースの問題点

  • ASD児には、期待されていることを明確にする(例:ソーシャルストーリーなどを使って、社会性を身につけさせる)対応がとられる。しかし、SMを併発している子どもに対しては注意が必要。それがプレッシャーになると、不安による反応を誘発し問題が深刻化することもある
  • 言葉が出ない理由を、何を期待されているかを理解できていない(例:社会的な理解の問題)、会話をする気持ちの欠如(社会的コミュニケーションの問題)と限定して考えると、間違った指導方法に結び付きやすい(「何をしなければいけないか解っているのに、やりたがらない」と考えがち)。不安が原因、また話さない状態を持続させている要因だということを考慮すべき
  • 話さないこと、対話/ 自分の意見をいう課題をやらないことを、「頑固」「拒否」と誤解される可能性がある。賞罰式の指導に結び付いたり、長期に渡ってネガティブな評価を受けかねない

★早期介入がなされないと、緘黙状態が固定してしまう傾向が強い

SMは理解されているが、ASDは理解されていないケースの問題点

  • 表出している行動・言動のみに焦点が当てられ、ASD児が持つ三原則(TRIAD)と感覚過敏を背景にした通常とは異なる情報処理の方法や社会的理解のニーズが理解されにくい。子どもの行動・言動をひきおこしている要因への対処がないため、介入の成功がより難しくなる
  • 時間割変更などの問題に積極的に対処する支援が得られにくいため、学校での不安が続きやすい
  • 学校で一日中我慢し続けているため、家で「爆発」しやすく、保護者は子どもをネガティブに評価する傾向が強い。また、特別扱いしがち
  • 学校側は「単に言葉の問題だけではない」ことを理解できず、頑固な子と誤解されやすい

<結論>

  • ほとんどのASD児はSMを併発していない
  • ほとんどのSM児はASDを併発していない
  • しかしながら、重複する部分がある――根源に不安があり、コミュニケーションに影響を与えている
  • 表出している行動・言動の根底にある要因を探る
  • 子どもの幅広いコミュニケーションに着目する
  • 常に不安を減らすサポートを心がける――現時点からのスモールステップで可能なチャレンジを

クレアさんの講演はSMとASDの併存について、以下の点に着目して、今後のさらなる研究が必要ということで締めくくられました。

  • 2018年リサーチの結果と男女比に対しての更なる研究
  • SMとASDが併存する若者の支援
  • ASD児(人)が抱える社会不安がSMを引き起こす可能性
  • SMの若者に対して、適切なASD診断プロトコルが必要

みく備考:

ASDに関しては、「発達障害」という概念のもと1980年代くらいから一般に広く知られるようになりました。これに反して、SMの知名度はまだまだ低いように思います。

ただ、「自閉症」が一般に知られているといっても、ASD児は「人に興味がない」「一人でいることを好む」「視線が合わない」「会話ができない」など、ステレオタイプにはめ込んでいないでしょうか?実は、私がそうでした。

私が今働いている特別支援学校は、いわゆるアスペルガーの子どもを対象にしています。最初、「人に興味がない」はずのASDの子どもたちが、友達同士でゲームをしたり、校庭で一緒に遊んだりしているのを見てびっくり。一方的ではあっても「会話」は通じるし、視線を全く合わせないということもありません。「友だちが欲しい」と思っている子、「自分は人と違う」と違和感を持っている子が多いことも、だんだん判ってきました。

SM児もそうですが、ASD児にも色々なタイプの子がいて、一人ひとり個性が違います。また、発達の凸凹を持った子も多くいることが解ってきています。子どもの個性や特性を良く見極めて、困っている部分をうまくサポートしてあげたいですよね。

SM=ASDではないし、例えSMのお子さんがASD診断を受けたとしても、お子さん自身は今までと全く変わりません。最後にクレアさんが、「グレッグがASDじゃなかったら、今の彼じゃなくなるから、ASDで良かった」「今の彼が好き」と、息子さんをありのまま受け止めていたのに、とても共感できました。

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