英国政府が特別教育支援制度を大幅改革

4月もすでに中旬にさしかかりましたね。3月は誕生日がらみのイベントやら、新たな仕事やらで急に忙しくなってしまい、気づいたら一度もブログを更新せず…(;^_^A   3月末に学校のイースター休みに入ったものの、なまけ癖がついてしまい、なかなかブログに取り掛かれませんでした。

その間に季節はどんどん移り変わり、一重の桜もラッパ水仙も咲き終わってしまいました

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イギリス政府は2026年2月23日、イングランドの特別教育ニーズ・障害(SEND)制度の大幅な改革を発表しました。これには、EHCP(教育・健康・ケアプラン)の変更が含まれており、保護者や学校、教育関係者などから心配の声があがっています。

特別支援を必要とする子どもが世界中で急増?

イギリスでは2025年6月時点で、170万人以上の児童生徒がSEN(Special Educational Needs 特別な教育的ニーズ)を抱えています。これは2024年から5.6%の増加で、この数字には地方自治体から支援費用が与えられるEHCPを持つ児童生徒数と、学校でSEN支援を受けている児童生徒数が含まれ、いずれも2016年以降増加傾向が続いています。

EHCPを持つ児童生徒は482,640人で、その割合は2024年の4.8%から5.3%に増加。SEN支援を受けている児童生徒(EHCPなし)の割合は、2024年の13.6%から14.2%に増加しました。EHCPを持つ児童生徒のなかで、最も多いニーズはASD (自閉スペクトラム症) で、SEN支援を受けている児童生徒で最も多いニーズは言語・コミュニケーションの障害です。

EHCP(Education Health Care plan  教育・健康・ケアプラン)とは?

EHCP とは、0〜25歳の特別支援が必要な子ども・若者の教育、健康、社会的ニーズと、それらを支援するサービスを定めた法的拘束力を持つ文書です(かつてはstatementと呼ばれていました)。重度の障がいや教育ニーズを持つ子ども・若者を対象に、学校教育から生活ケアまでの一貫したサポートを提供。この制度は、子どもの具体的なニーズを明確にし、必要な支援を詳細に示し、地方自治体から資金を確保して、学校、保健、介護サービス全体でサポートを行うもの。

EHCPの資金は地方行政が賄っていますが、長引く不況の影響で財政困難に陥っている自治体も少なくありません。EHCPが必要な児童がこれ以上増え続けると、財政的にやっていけないという理由で、政府は改革に踏み切ったのでしょう。

世界的な傾向

特別支援教育を必要とする子どもの増加は、イギリスだけでなく世界中で起こっています。主因は診断技術の向上、自閉症やADHDなどの疾患に対する認識の高まり、そして診断基準の拡大によるものと考えられています。その他の要因としては、早産児の生存率の向上、新型コロナウイルス感染症流行後の社会情緒的な問題の増加、そして専門的な支援に対する親の期待の高まりなど。

日本でも特別支援教育を必要とする子どもは近年急増しており、10年間で特別支援学級の在籍者数は2倍以上に増加。全児童数が減る中でこの増加は顕著とされています。

(英国政府のソース:https://explore-education-statistics.service.gov.uk/find-statistics/special-educational-needs-in-england/2024-25)

新たな改革の概要

イギリス政府が決定した改革が記されているのは、「すべての子どもが達成し、成長できる」と題された学校白書。2029年から2035年の間に大幅な変更を実施すべく、制度の抜本的な見直しに向けた長期計画が示されています。

主な改革案には、特別支援教育の対象となるすべての児童生徒にISP(Indivisual Support Plan)を導入すること、EHCPは最も複雑なニーズを持つ児童生徒のみに適用すること、そして一般校へのインクルージョンを強化することなどが含まれています。

発表された改革の主なポイント:

  • 対象を絞ったEHCP2035年までに、EHCPは最も重度かつ複雑なニーズを持つ子どもに限定される。
  • 再評価:2029年9月から、既存のEHCPを持つ子どもは、重要な移行ポイント(例:小学校または中学校の卒業時)で支援を受ける権利が再評価される。
  • ISP(Individual Support Plan 個別支援計画):EHCPを持たないSENDの子どもには、法的拘束力のある文書として新たなデジタルISPが導入される。
  • 段階的実施現在のEHCPのサポートに対する変更は2030年9月まで行われず、段階的な移行が可能となる。

私が勤務している特別支援学校は私立で、殆どの生徒がEHCPを持っているため、TA(教育支援員)の人数も多く、少人数制のクラスや各種セラピーなど手厚いサポートが可能となっています。一方、私の友人は公立校の教師やTAが多いのですが、経費削減など状況は悪化しているよう。

EHCPの認定基準は過去も現在もかなり厳しく、保護者と教育機関が地方自治体を相手に法廷で争うこともしばしば。認定基準が引き上げられれば、認定のハードルはますます上がります。特別支援が必要な子どもの全体数が年々増えているのに、公立校の予算は増えるどころか、イギリス経済の悪化にともない削られているのが現状!将来的にEHCP認定からこぼれ落ちる子どもが増えても、支援員は増やせず、教職員や学校側の負担が増すばかりなのは明白です。今だって大変なのに、どうやって対処するのかと不安しかありません😰

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緘黙の子がすぐ話し始める?

この週末、イギリスでは急に寒さがまして、夜間は-1度まで気温が下がるようになりました。外に出ると頬にあたる風が冷たい!本格的な冬が到来したという感じです。

ちょっと前のことになってしまいましたが、先月ロンドンを訪れていた長野大学の高木潤野先生とお会いする機会がありました。私は日本の情報にうといのですが、高木先生は大学で活発に緘黙児の支援活動を行われていて、近年発足した日本緘黙研究会の事務局長を務めておられるようです。

高木先生の緘黙支援サイト:信州かんもく相談室

http://shinshu-kanmoku.seesaa.net/

高木先生の取り組みについてお聞きした際、日本でもマギー・ジョンソンさんの支援セッションと同じような成果が出ているんだなと思いました。それは、環境さえ整えば、年が上の緘黙の子でも第三者に話し始めるのに、それほど時間はかからないということです。

高木先生の支援方法はとてもユニークで、支援チームには大学の学生たちが支援スタッフとして参加。それぞれの学生さんが、決まった子どもを担当し、継続的にお世話をするというシステムのようです。

「正確にデータを分析した結果ではない」ということですが、1~数回の支援セッションで担当の学生スタッフに話し始める子が半数くらいいるそう。昨年、緘黙の女子中学生3名と、担当の学生スタッフ3名と共にキャンプに行ったところ、夜子供たちだけにしたら初対面同士で話しはじめたとか。

キャンプに行く前から担当の学生スタッフとは話せていたことで、安心感が大きかったのかもしれませんね。また、自分と同じように学校で話せない同世代の子、ということで親近感がわいたのではないでしょうか?ちなみに、キャンプに参加した女子中学生3人は、初回から学生スタッフに話せた子と1年くらいかかった子がいたとか。

これに対して、マギーさんのティーンへの支援方法は、第三者の大人がメンター(指導者・助言者)として1対1で支援し、伴走者として緘黙克服の後押しをしていくというもの。たいていの場合、メンターの役割を担うのは、学校のTA(教員助手、または特別支援員)です。こちらでは、支援を受けた子全員が2、3週間で口をきく(詳しくは、『どうして緘黙のティーンが短期間で話し始めるのか?』を参照)という結果がでています。

年が上の子どもの場合、多分学校ではずっと話すことができず、何年も緘黙状態が続いている子が多いはず。ずーっと沈黙を守っていた子どもが、たった数回のセッションで話せるようになるのは何故なんでしょう?

これには、子どもの不安度が大きく関わっていると思います。大学生も学校のTAも、教師や医師ではなく、割と普通の人というところがミソなんじゃないかな…?緘黙児に「不安を感じる人・怖い人」のヒエラルキー表を作成させると、大体「一番怖い人」は担任の先生であることが多いんです。特に、権威を持つ大人に対して不安を感じる傾向が強いよう。高木先生も「女子学生には話せても、僕には話さないことも多い」と言われてましたが、大人の男性が怖いと感じる緘黙の女の子も多いみたいですね。

反対に、教師ではない学校スタッフに対する不安は、それほど強くないことが多いよう。日本だったら、保健室の先生とか用務員さんの方が普通の先生より不安度が低いと思います。高木先生の支援セッションでは、比較的年齢が近い大学生のお姉さんが相手なので、それほど不安を覚えないんじゃないかな…。それと、緘黙の子は人見知りが激しいことが多く、相性が合わない人とはずーっと話せないかもしれません。

また、支援セッションをする場所や環境もかなり影響してくると思います。自分の学校ではない安全と思える場所であれば、不安度は低いはず。また、自分の学校であっても、自分の教室ではない個室や外の安心できる場所だったり、放課後先生や生徒がいない環境であれば、不安度は変わってくるでしょう。知っている人に出遭わない場所・環境も不安度が低くなるので、キャンプというのはとてもいいアイデアですね。

支援セッションの頻度も重要で、頻繁にセッションを重ねると、支援者に対する親しみも強くなるよう。マギーさんは週に2回くらいの支援セッションができれば理想的としています。反対に、セッションの間が大きく空くと、振り出しに戻ってしまうことも…。せっかく担任に返事をするようになったのに、夏休み明けにまた話せなくなってしまったというケースもあるようです。

クラスには担任だけでTAがいない日本の学校では、緘黙の子にまで手が回らないというのが現状かもしれません。学校外の支援活動で話せるようになった子どもが、自分の学校で話せるように支援の輪を広げていくのは、なかなか難しい問題かと思います。でも、まずは不安度の低い学校外で自信を積み重ねていくことが、第一歩ではないでしょうか?

なお、支援セッションで成果があがらない子どもについては、多面的に原因を調べる必要がありそうです。言葉や発達の問題、深刻なレベルの社会不安などが背後に隠れている可能性も考えられるので。

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どうして緘黙のティーンが短期間で話し始めるのか?

BBCの最新データ

7月15日 (水) に放送されたBBC2の情報番組『Victoria Derbyshire』では、場面緘黙の最新データが提示されました。それによると、場面緘黙の出現率は下記のように推定されています。

  • 子ども(11歳まで?)       150人に1人(0.67%)
  • 青少年(12~19歳?)           1000人に1人(0.1%)
  • 若者(20~29歳?)                      2500人に1人(0.04%)
  • 大人(30歳から?)                       不明

この数字をみると、小学校を終える11歳頃までに、6、7人のうち1人を残して緘黙を克服(克服率は約85%)する計算。これってすごくないですか?

イギリスでは特別支援教育が根付いていて、学校での場面緘黙の教育もかなり進んでいるとは感じます。ただSMIRAの集会などでは、早期発見・介入はしているものの、各学校の方針や予算の問題があり、きちんと対応できていない学校も多いという印象。個人的には、この克服率はかなり高いのではという印象を受けました。

ただ、全般的に日本より学校の規則が緩いため、保護者が学校内でサポートしているケースも多く、それが高い克服率に結びついているのではないかと推測しています。小学校低学年(4~6歳)だったら、親が一緒だと不安がぐんと減り、環境次第(例:教室で2人きり、少人数)では学校で話せる子も多いはず。また、子どもの自意識もそれほど過剰でない年齢ではないでしょうか?放課後でなく、授業やランチタイムに親がボランティアとしてクラスに入ることができたら、進歩も速くなるのではと思います。

なお、ウエブマガジンの方では、イギリスの支援団体iSpekの創始者、カール・サットン氏による緘黙の大人のリサーチ(経験者を含む83名が参加)にも触れています。

それによると、大人が緘黙を克服するターニングポイントは22歳。緘黙の大人はうつ病や広場恐怖症など、他の不安障害を併発する可能性が大きいと示唆しています。

テレビ放送では、緘黙で苦しむ大人、サブリーナの言葉を借りて、場面緘黙を次のように紹介していました。

「場面緘黙の人生って、箱のなかに閉じ込められてるみたいな感じ。箱は透明だから外にいる人の姿も見えるし声も聞こえる。だけど、どんなに頑張っても出られないの。箱のなかで声の限りに叫んでも、誰にも聞こえない。怪我をしたり、怖くて助けを求めても、聞いてもらえないのよ」――これは、小さな頃から場面緘黙に苦しんできたある女性が、自分の状況を表現した言葉です。場面緘黙というのは、話すことへの恐怖症です

DSM(アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)では、2013年から場面緘黙を不安障害と分類しています。この番組では更に踏み込んで「場面緘黙=恐怖症」と紹介。解説者として出演したSLTのアリソン・ウィンジェンズさん (『場面緘黙リソースマニュアル』の共著者)は、この分類や定義によって周囲の人に場面緘黙を理解してもらいやすくなったと語っていました。SMIRAやアリソンさん、マギーさん他の専門家が、これまで学会などに働きかけてきた成果ですね。

場面緘黙は話すことへの恐怖症が引き起こす症状であり、その背景には抑制的な気質やバイリンガル環境、言語や発達の問題などがある――アリソンさんは緘黙の引き金となった要因と緘黙を定着させている要因を見定めることが難しいと指摘していました。その2つの要因(複合的なケースも多い)を踏まえた上で、それぞれに合う方法で支援することが大切ということ。不安障害の治療に使われるCBT(認知行動療法)の有効性と、早期発見・介入の重要性も強調していました。

アリソンさんによると、引き金となる要因は毎日のささいな出来事であることも多いそう。場面緘黙になりやすい子どもは、リスクを冒したがらないタイプが多く、自意識過剰で用心深いため、入学など人生を変えるような出来事や、学校で誰かがしゃべらせようとすることなどは、子どもにとっては大きなショックだとも。

イギリスでは、10月が場面緘黙啓発月と指定され、1~17日まで全国で啓発キャンペーンが行われる予定です。私も今年はSMIRAのキャンペーンに参加する予定なので、おいおいその内容を紹介させていただきますね。

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BBCが大人の場面緘黙を紹介

緘黙を克服しつつある17歳

母親も緘黙だった6歳の男の子のケース

 

 

平等ってなに?

息子がイギリスの学校に入学して、つくづく日本と違うなぁと思うことが沢山あります。中でも全く違うと思ったのは、「平等の概念」でした。

個人主義の国というのもあると思うんですが、イギリスでは「人はみな平等」ではなく、「人は不平等に生まれつくから、できるだけ平等になるように」という考え方のように思えるんです。

イギリスは歴史的に移民を多く受け入れてきました。今でも海外からの移住者や移民が多いため、英語を母国語としない子どもが大勢います。ロンドンには特定の民族が集中する地区があり、英語を母国語とする白人の子が20%に満たない学校も!

例えば、息子が通っていた小学校では、EUが拡大したためか東欧からの転校生が目立っていました(特に、小5、6年ころ)。驚いたことに、両親がまだ経済的に自立できていない場合は、優先して学校に入れてもらえ、給食費やその他の経費が免除に!さらに、英語を母国語としない子どものために、特別な英語のクラスが設けられているんです。

こういった政策に反対しているイギリス人もいるし、移民が増えすぎて社会問題にはなっているものの、一般的には「仕方ない」という受け取め方のよう。クラスのママさん達の中で、文句を言ってる人はいませんでした。鷹揚というか、気にしないというか…。英語ができないんだから、支援するのは当たり前という感じ。

こういう状況なので、特別支援が必要な子どもや授業についていけない子に対しても、支援は当たり前というスタンスです。例えば、低学年のクラスにはTA(教育補助員)がいるんですが、TAはたいてい特別支援(SEN)が必要な子どもやできない子をアシスト。特別な小グループ活動をしたり、1対1の指導をすることもあり、その他の子を個別にアシストすることは殆どありません。

その一方で、”Gifted”と呼ばれる、高い能力を持つ子達が、特別な授業を受けることもあります。運動能力のある子どもを集めて強化チームを作り、地区の競技会に出場させたり、楽器が得意な子を集めてオーケストラを作ったり。

以前の記事にも書いたのですが、支援や強化をする子どもを選ぶプロセスについては、選ばれた子どもの保護者だけにしか通知されないことが多いんです。学校が毎週発行するスクールレターで、「陸上大会で○○君が優勝」、「学校のオーケストラが受賞」などという報告を見て、「えっ、そんな大会があったの?!」と初めて知ることに(笑)。

大雑把にいうと、特別上と特別下の子どもにはエクストラの支援が与えられ、真ん中のその他大勢は通常授業のみという状態…。

これって日本だったら考えられないと思うんですね。日本でいう「平等」って、どの子も同じように扱うことじゃないでしょうか?

例えば、子どもの友達が放課後特別に授業を受けているのに、自分の子は受けられなかったら、保護者は「あの子だけズルイ」と、思うのでは?

日本で学校に緘黙の支援をお願いしたら、「特別扱いはできません」と言われたという話を耳にしたことがあります。学校や担任に支援をお願いする時、「みなさんに悪いな」と遠慮される保護者もおられるのではないかと思います。

クラスに担任がひとりしかいないこともあり、特定の生徒により多くの時間を割くことが問題視される風潮があるような気がします。

日本の学校における緘黙治療の難しさは、こういったところにもあるような気がしています。イギリスの学校も千差万別で、受けられる緘黙支援はピンからキリまでなんですが…。先生に迷惑をかけるとか、他の保護者から迷惑に思われると気にしてしまうと、かなりやりにくいですよね。

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