SMIRA2016年コンファレンス―― 子どもにあう多面的なアプローチ

《場面緘黙とスピーチセラピー:効果的な治療を組み合わせて》 言語聴覚士&アニマル関連セラピスト、リビー・ヒルさん

SMIRAの2016年コンファレンスにおける講演の内容を、できるだけ簡潔にお伝えしたいと思います。一番バッターはSLT(言語療法士)のリビー・ヒルさん。イングランド中部にあるスタフォード州に言語療法センターを構え、アニマルセラピーやCBT、学校との連携などを含む、多面的なアプローチで子どもの話し言葉、言語、コミュニケーションの改善に取り組んでいます。なお、このセンターは場面緘黙が専門ではなく、言語の問題からASDや学習障害を抱える子までを幅広くカバー。私立の施設ならではの、細やかな治療例について話してくれました。

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まず、最初に強調したのは「子どもはそれぞれ違うから、その子にあった治療法が必要」ということ。場面緘黙の発症率は150人にひとりとされていますが(昨年夏にBBCの情報番組で発表された最新の数字と同様。詳しくは、BBCの最新データをご参照ください)、学校とNHS(国民保健サービス)だけでは対処しきれず、プライベートの治療にたよるケースも多いのが現状のよう。

<治療例1>

17歳のエイミーさん: 幼稚園から現在まで学校では全く話せず、直接話せるのは家族のみ。友だちとはスカイプやSNSを通して会話するものの、人との集まりを避け、自分の部屋に閉じこもりがち。

年齢がうえの子どもやティーンについては複合的なケースが多いため、カウンセリング的なアプローチを用いるそう(リビーさんはマギー・ジョンソンさんの場面緘黙ワークショップで研修し、CBT(認知行動療法)の資格も持っています)。

エイミーさんのケースは「話す」ことよりも、「今後何をしたいか目標をたてチャレンジする」ことに焦点を当てました。これはマギーさんによる、年齢がうえの子への支援と同じですね。

エイミーさんのやりたいことは、以下の3つでした。

  • アルバイトをする
  • 運転免許を取る
  • カレッジで勉強する

人前で長年話せていない、引っ込み思案のティーンがどうやってこんな目標をかなえられるのか?

まず、セラピストに目標を打ち明け、どうすればいいか話し合う(多分、最初はキーボードを使用したんだと思います)ことで、エイミーさんのモチベーションをあげました。

詳細は判りませんが、「ほとんど話さなくてもいい」仕事探しをスタート。やりたい仕事を見つけたら、まず文書で自分の緘黙状況を説明してから応募するという方法を取ったとか。「そんな仕事あり?」って思ってしまいますよね?でも、ものすご~くいっぱい探した後に、見つかったそうです!それはネットで見つけたオンライン貸し衣装(コスチューム)の仕事。ネット上で注文を受けるため、顧客と話す必要はなく、職場は物静かな人とふたりだけ。あまり話をする必要はなく、注文のチェック&発注といった作業を淡々とこなせばOKの仕事だそう。実は、応募したのはエイミーさんのみで、めでたく採用となった模様。人生、何事もやってみなければ分からないものですね。

こうしてお小遣いが手に入るようになったエイミーさんは、次に運転免許取得に着手。まず、あまり話さなくてもいい教官を探すことから始めました(イギリスには自動車教習所がないため、プライベートの教官を雇って、いきなり路上で練習します)。口コミで探した末、ビデオで予習させてくれる女性教官を見つけ、実際あまり話しをせずに実技をマスター。その教官が試験官に事情を説明してくれて、エイミーさんはなんとか合格できました!(事前に動画サイトを見まくって、試験のパターンを学んだそう)

そして、最後がカレッジで勉強すること。イギリスでは18歳まで勉強する権利を保証されているため、カレッジとかけあってSkypeでのインタビューに挑んだそうです(結果はまだ出ていないそう)。

目標にタックルしている間、リビーさんはCBTでエイミーさんの考え方を徐々に前向きなものに変えていきました。その成果もあり、着実にスモールステップに取り組むことができたよう。また、実際にインタビューの練習をしてコツを覚えるなど、話す経験を積むことが自信に繋がりました。

エイミーさんが今どれだけ話せるようになったのか、そのあたりは曖昧でした。が、「話すこと」でなく、まず明確な目標を持たせて、「自分の力で目標をかなえる」ために動けたこと、人との信頼関係を築けたことが大きかったんじゃないかと思います。その過程で自信をつけ、自然と「話すこと」にもチャレンジする精神が培われたんじゃないでしょうか?

心のなかで「これがしたい」と思っている → 誰かにその思いを伝える

些細な事ですが、これだけでもかなり違うと思うんです。自分の思いを言う・書くことで、客観視もできるし、まずはコミュニケーションの始まりですよね。

なお、この講演については資料が配布されず、私のメモと記憶からお伝えしているため、誤りがあるかもしれません。その点はどうぞご容赦ください。

リビー・ヒルさんのサイト Small Talk http://www.private-speech-therapy.co.uk

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SMIRAの2016年コンファレンス

BBCの最新データ

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年とティーンの支援』

 

SMIRAの2016年コンファレンス

先週の土曜日2月20日に、イギリスの場面緘黙支援団体SMIRA(Selective Mutism Information Research Association)の定例総会に行ってきました。今年も全国から、緘黙児の保護者や家族、言語療法士を主とする専門家やTA(教育補助員)など、合計61名が参加。特に、場面緘黙の成人3名が友だちや姉妹と参加していたのが印象的でした。会場は例年とおなじくSMIRAの本拠地、レスターにある教会のホール。2階では参加者の子どもを集めた活動が行われ、午後になると上階でドタドタ走り回る音が聞こえたので、子どもたちも楽しめたようです。

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今年のプログラムは:

  • 場面緘黙とスピーチセラピー:効果的な治療を組み合わせて(SM & Speech Therapy: Doing what it takes)by 言語聴覚士&アニマル関連セラピスト、リビー・ヒルさん
  • 場面緘黙とスピーチブロック (SM & Speech Blocks) by シレジア大学(ポーランド)ソニア・ツラメク・カーツ教授と研究員
  • プレゼンテーション by サブリーナ・ブランウッドさん(場面緘黙の成人)
  • 『場面緘黙リソースマニュアル』第2版のプレビュー by 言語聴覚士、マギージョンソンさん
  • 啓発キャンペーンの成果発表 by SMIRAコーディネーター、リンジー・ウィティントンさん

特に、犬を使ったアニマルセラピーやCBTを組み合わせた多面的なアプローチ法と、大幅に改定されたという『場面緘黙リソースマニュアル』第2版のプレビューが興味深かったです。このマニュアルは今年8月に出版予定ですが、今回は家庭や学校外での取り組みを総括的にカバーし、学校での取り組みと平行して行う内容だとか。教育システムが違う日本でも、大いに活用できそうで期待大です。

なお、定例会の内容については、追ってかんもくネット掲示板とこのブログでお伝えしていく予定です。

 

専門家に相談する必要性?

前回の記事で、取り組みには「心理士とのセッションは必須ではない」と書いたのですが、良い心理士や精神科医に巡り合えれば、子どもも保護者も安心できるし、心強いと思います。私の印象だと、日本ではまだまだ特別支援教育が徹底しておらず、学校全体としての支援体制はあまり整っていないような…。その反面、担任の先生の個人的な努力によって、ものすごくきめ細やかで理想的なサポートが実現しているケースも多いですよね。イギリスではビジネスライクな人が多いのに、日本の教師ってスゴイ!

こちらでは特別支援体制は整っているのですが、各学校によって支援の程度が大きく異なります。特にセカンダリー(中・高校)だと、場面緘黙だけでは殆ど支援なしのところも…。NHS(国民保健制度)にはCAMHS(Child and Adolescent Mental Health Service 小児・青少年メンタルヘルスサービス)部門があり、児童から18歳までの子どものメンタルヘルスを専門に扱っています。とはいえ、受診は2~8ヶ月待ちというのもざらで、担当のセラピストや心理士が場面緘黙の知識や経験を持ちあわせていないことも。また、予算の関係もあるのか、保護者や学校に丸投げというケースも多いんです。

住んでいる地区によって、通っている学校によって、基準やサービスの格差が激しい――まるで宝くじだな、といつも思います。CAMHSのアポを待っている間にSMIRAの会員になり、学校と協力して取り組みを始める保護者が多いんじゃないかな。とはいえ、イギリスでは「学校でしゃべらない」というのは一大事なので、担任から保護者に連絡がくるのが早いんです。また、5歳になる年から小学校が始まるため、早期発見につながってると思います。

昨年イギリスで出版された最新の緘黙研究本、『Tackling Selective Mutism』では、『場面緘黙リソースマニュアル』の著者、マギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが、場面緘黙のカテゴリーを大きく3つに分けています。

  • 純粋な場面緘黙
  • 言語に問題がある、または学校で話される言語が母国語でないケース
  • 複合的な場面緘黙 - 自閉症スペクトラム障害(ASD)や学習障害(LD)、社会不安障害(Social Anxiety Disorderなどの障害が併存していたり、親の死など大きな心理的問題を抱えているケース

あれっと思ったのは、以前はなかった社会不安障害SADが複合的な場面緘黙に含まれていること。2013年に改定されたアメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル、DSM (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)の最新版DVS-Vでは、場面緘黙が「通常、幼児期・小児期、または青年期に初めて診断される疾患」から、「不安障害」へと移行しました(詳しくは場面緘黙とは?(その2)をご参照ください)。

同じく不安障害のカテゴリーに入っている社会不安障害については、DSM-Vから社会恐怖(social phobia)という名称が社会不安障害(Social Anxiety Disorder)に変わりました。子どもの社会不安障害については、下記の基準1で触れています。

  1. 他者から意識、注目、または批評されていると感じる社会的状況において生じる、特有の恐怖や不安。成人では初デートや面接、初対面の人と会う時、発表会、クラスや会合での発言などを含む。小児では、これらの恐怖症的/回避的行動は成人との交流というより、同世代の子どもとの社会的場面で起こるものでなければならず、親から離れない・泣くなど、年齢相応の明確な恐怖や不快感を示す
  • fear or anxiety specific to social settings, in which a person feels noticed, observed, or scrutinized. In an adult, this could include a first date, a job interview, meeting someone for the first time, delivering an oral presentation, or speaking in a class or meeting. In children, the phobic/avoidant behaviours must occur in settings with peers, rather than adult interactions, and will be expressed in terms of age appropriate distress, such as cringing, crying, or otherwise displaying obvious fear or discomfort.

基準6には「こうした状態が6ヶ月以上続く」とあります。

場面緘黙の子どもは抑制的な気質の子が多く、繊細で不安になりやすい--普通だったら気にしないような出来事や他者の言動に、酷く傷ついてしまうこともあると思います。振り返ってみると、息子は幼少の頃、複数の犬に追いかけられて犬恐怖症に、レジャープールのすべり台から水の中に深く沈んでプール恐怖症になった過去が…。2つともDIYのエクスポージャー法で7、8歳までに克服できたものの、恐怖症になる傾向が強かったよう。

小児の不安障害を調べてみたら、場面緘黙や社会不安障害のみでなく、全般性不安障害(GAD)、強迫性不安障害(OCD)、パニック障害、分離不安障害、外傷後ストレス障害(PTSD)もあるんですね…。

メルクマニュアル医学百科 小児の不安障害 (←このサイトに詳しく書かれています)

言語に問題がある、または複合的な緘黙になると、取り組みがなかなか進まず、改善がゆっくりになる傾向があります。取り組みやステップが子どもに合わないケースもあるでしょうし、併存している問題が絡んでいるかもしれません。そういう場合は、心理士や精神科医を訪れた方が良さそうです。また、新たな兆候や症状が出たり、いつもと違うなと感じたら、二次的な問題を防ぐためにも専門機関に相談してください。なんでもなければ安心できるし、早期発見だったら症状が軽いうちに治せるかもしれません。

風邪をひいたら医者に行くように、心が風邪をひいたら気軽にセラピストや心理士を訪ねられるといいですよね。イギリスではプライベートのカウンセリングルームがあちこちにあって、人間関係や仕事の悩みなどの相談をする人も多いんです。ただ、敷居は低いんですが、なにせ料金が高い!色々あって落ち込んでいた時期に、誰かに話を聴いてもらいたいと思って調べたら、1回1万円以上でした..。そのうえ、通常は4~6セッション必要と書いてあって、すぐ断念。その代わりに、新しいサークルに入ったのでした(笑)。

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サキ君の動画について(その5)ー 緘黙とエクスポージャー法

お知らせ

めっちゃ遅れてしまいましたが、教育・知育ソフト、学び空間などの企画・開発を行っているレデックス社のメールマガジンで、『場面緘黙の子どもへの理解と対応』という連載記事を掲載中です。この連載はかんもくネットが執筆を担当し、リレー方式で5回まで続く予定です。第2回目の『(第2回)場面緘黙児の不安を減らす』(担当させていただきました)をレデックス社のHPで読むことができます。よろしかったら、下記のWebページをのぞいてみてくださいね。1月29日配信の2つ目の記事です。

レデックス社メールマガジン http://www.ledex.co.jp/mailmag/20160129

サキ君の動画について(その5)-緘黙とエクスポージャー法-

サキ君は緘黙を克服するにあたり、まず心理士に会いに行きました(動画の7:42分あたりから)。緘黙を克服するために、専門家のアドバイスを求めたんですね。

場面緘黙の克服には、認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)が効果的といわれています。特に、CBTのひとつであるエクスポージャー法(暴露療法 exposure)を用いるのが一般的。緘黙を恐怖症と捉えると、恐怖症の改善に有効なエクスポージャー法を用いるのは、理にかなっています。

イギリスの国民保健サービス、NHSのサイトでは、エクスポージャー法を次のように説明しています。

エクスポージャー法は、秩序だった体系的なアプローチによって、不安を引き起こすものや状況に向き合うことを学んでいく方法。不安を感じるものや状況をリストアップして順番をつけ、最初は不安度の低いもの・状況から始め、不安度が下がるまで何度かリピートしたら、順番に難度をあげていく。

認知行動療法という名前をきくと、何やら難しげ…。やはり心理士とのセッションが必須なのかなと思ってしまいます。でも、実は多くの人が取り組んでいるスモールステップこそが、エクスポージャー法なんです。素人でも理論とやり方さえ把握すれば、自己流でどんどんエクスポージャー法を実践していけると思います(ただし、他に何らかの問題を抱えている場合は専門家に相談する必要がありますが)。

病院やクリニックで心理士と信頼を築き、指導してもらうのもひとつの手段だと思いますが、場面緘黙が起こる現場は学校。学校で話せるようにするには、やはり学校内でのエクスポージャーが必要になってきます。伴走者として専門家のバックアップがあれば心強いですが、子どもの全体像を一番把握している保護者が、教師と協力してその子に合うステップを考え、実行できればベストなんじゃないでしょうか。ちなみに、イギリスでは緘黙治療を担うのは、言語療法士やTA(教育補助員)が中心です。

サキ君も心理士のアドバイスを元に、「自分に合う」エクスポージャー法を編み出しています。彼の場合は、まず普段より多く両親と話すことからスタート。日常的に話していても、自分から話しかけたり、その日の出来事について色々喋るのは苦手だったようです。その苦手を少しずつ克服することで、街に出て見知らぬ人に話しかける勇気が出てきたんじゃないでしょうか。学校内での取り組みは、いくつかの段階をクリアしてからの最終段階。最初は場所と人を設定しておいて「”ハイ”とひと言だけ声をかける」という小さな挑戦からスタートしたのが、成功の秘訣だったのではと思います。

息子の場合は、お店で好きな品をひとつ買って自分でお金を払うことから始め、「ありがとう」と言えるまでをスモールステップで練習しました。ちょっと遠くの大きなスーパーからスタートし、徐々に近所の小さなお店に移行。当時大流行していた『Dr Who』のカードを手に入れるため、かなり頑張れたと思います。楽しみがあると、子どもも抵抗なく挑戦できそう。

ひとつ注意したいのは、緘黙児には抑制的な気質の子が多いので、少し間が空くと元に戻ってしまう可能性があること。せっかく学校で進歩したのに、長い休みの間にできなくなってしまったケースも…。頻繁にステップを繰り返していると、自発的に挑戦できるようになってくるので、そこまでしっかり続けてください。

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明けましておめでとうございます

サキ君の動画について(その1)

サキ君の動画について(その2)

サキ君の動画について(その3)

サキ君の動画について(その4)

 

サキ君の動画について(その4)-家庭での会話の大切さー

幼少の頃は両親しか話せる人がいなかったというサキ君(動画の1:20分あたり)。学校で話さなかった9年間も、やっぱり親が一番の話し相手だったようです。学校や家庭外で話せないからこそ、家庭での会話やコミュニケーションを増やし、楽しい体験を積み重ねて自信を培うことが本当に大切になってきます。

といっても、保護者は忙しい一日の終わりに、家でほっと一息つきたいという気持ちが大きいですよね。子どもも宿題をしたり、塾に行ったり、TVを観たり、SNSで友だちとやり取りしたりと忙しいし--自分の部屋に閉じこもりがちなティーンも多いかも…。平日家族が集って話す時間といえば、夕食時かTVタイムくらいでしょうか?

緘黙の子どもに「今日は学校(園)どうだった?」と訊いても、あまり反応が返ってこないかと思います。5歳に満たない園児でも、「黙っていることは悪いこと」「自分は他の子と違う」と感じているよう。ちなみに、うちの息子は昔から園や学校の事を話したがりませんでした。でも、何かきっかけがあると、訊いてもいないのに色々ペラペラ喋りまくるのです。自分のことじゃない方が、話しやすいんですね。

食事を囲みながら、子どもが興味を持ちそうな話題をあげてみてはどうでしょう?例えば、好きなタレントやキャラ、ゲームのこととか(兄弟姉妹がいる場合は、発言のチャンスをふってあげる必要があるかもしれません)。家族で楽しくダベリングする時間は緘黙の話題はNGかな。その代わり、短くてもいいので子どもと2人きりの時間をとって、様子を見ながら話してみてもいいかもれません。

それと、話をする際はなるべく長い会話を引き出せるといいですね。子どもが何か言ったら、「うん、うん」「それ面白いね」「それで、それで?」など、相槌をうって子どもの話に興味をしめしながら、話を聴いてあげてください。子どもが次に何か言うまで10秒くらい待って、もっともっと言葉を引き出せるよう、何気なく促すようにするといいと思います。

私がイギリスで子育てしてみて感じたのは、「理屈っぽい子が多いなあ」ということでした。英語には丁寧な言い方や単語はありますが、日本語のような敬語体系はありません。なので、複雑さは別にして、だいたい大人と変わらない言葉遣い。言語構造上、英語だと文章をきちんと言わないと意味が通じないことが多いので、小さい子でもけっこう長い文章で話すんです。

それと、日本のように「察する文化」ではないので、自分の意見を言わないと「この人は何も言わないからこれで満足しているんだ」と思われてしまう。子どもでも、自己主張をすることが求められる訳です。自分はこうしたい、こう思うとハッキリ言わなければならないのもあって、なんか理屈っぽくなるのかなと…。

これに反して、日本語は主語や目的語、助詞などを省略しても意味が通じます。特に、気心がしれた家庭内では、短い単語だけで充分解り合えてしまう。それほど言葉で説明する必要がなく、また、あまりキチンと言うと返って角が立つのが「察しの文化」なんですね(その分、場の空気を読めないと、まずいことになりがちですが…)。

この前も触れたのですが、私は2年ほど前に『話し言葉、言語、コミュニケーションに困難を持つ子どもの支援(Supporting Children with Speech, Language & Communication Needs)』というコースを受講していました。「話し言葉」の課題で、当時13歳だった息子と友だちの会話をモニターして分析したんです。13・14歳の標準は、ひとつの文章が7~12単語で構成され、相手によって丁寧語やスラングを自在に使い分けられるというもの。

人がいくつの単語からなる文章で話してるかなんて、それまで全く考えたことがありませんでした。で、録音した会話を分析してみたら、全部ではありませんが、標準に近い単語数で話していることが判明。「えっ、私と話す時もそんなに長い文章で話してたっけ?」そう思って、主人と息子の会話に耳を傾けてみたら、文章が結構長くて専門的(PCやITに関する会話が多い)なのでした…。私と話してる時と比べると、なんか大人っぽい。もしかして、私との会話では、私の英語レベルに合わせてるのかも…(恥)。

緘黙の子どもたちは、一日の大半を過ごす学校で会話の実践練習ができません。頭で考えたことを、実際に口に出して話術をみがく機会が、普通よりかなり少ないんです。だからこそ、家庭でいっぱい話して欲しいです。親もなるべく単語を省略しない文章を使って、毎日楽しいダベリングタイムを持てるといいなと思います。

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暖冬だと思っていたら、もう1月末からスノードロップもクロッカスも水仙も咲き始めました。

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