場面緘黙に対する思い ー マギー・ジョンソンさんのポッドカストから

11月も半ばに差し掛かり、季節は秋から冬へと変わりつつあります。今年は日本でもコロナ禍が終焉した(様に報じられていますよね)ためか、この寒くて暗い時期にまだまだ海外からの訪問者が途切れません。

    今週末はブルガリアから友人家族が来訪。イスラエル軍のガザ侵攻に反対する大規模な抗議デモがあったため、街中は避けてテムズ河南岸&バラマーケット付近を散策してきました

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さて、マギー・ジョンソンさんのポッドカストの続きです。

マギーさんは最近NHS(国民保険サービス)におけるSLT(言語聴覚士)の仕事を退職されました。でも、その後もワークブック執筆や他国での講演会、国内でのワークショップなど多忙を極めているとのこと。

場面緘黙の定義や一般の知識については、まだまだ誤解が多く改善の余地があると思っているそう。

まず、Selective Mutismという疾患名について。「selective」は本人が話さないことを選択していると誤解されやすいため、Situational Mutism(状況的緘黙)という呼び方が適切だと考えています。

また、ASD(自閉症スペクトラム)とSM(場面緘黙)が併存するのは周知の事実なのに、DMS-5では併存が認められず(詳しくは『場面緘黙と自閉症(その3)SMiRAの立場』をご参照ください)、改正を望むとも。

マギーさんはDMS-5 (2013年)において、SMセクションのコンサルテーション・パネルに選ばれ、「不安障害」へのカテゴリー変更に尽力しています。これにより成人の場面緘黙が診断されやすくなりました。

現在は「場面緘黙」と「不安障害」との関連について、更に深く考察しているよう。SM児は社会不安を抱えている訳ですが、SMになる前からそうだった訳では無いといいます。

「SMは社会不安による極端なシャイネスと思われることが多いけど、家庭では活発でお喋りな子が多いの。よく考えて欲しいのは、SMは不安が原因で起こる症状ではないということ。恐怖症と同じで、SMは恐怖条件が起因となって起こる症状。そして、SMになったことが原因となって、大きな不安を覚えるようになるんです。

例えば、犬恐怖症の人は犬に対する不安が原因で犬恐怖症になった訳ではない。何かがきっかけがあって、何故だか解らないけれど犬に対して理不尽なまでの恐怖にかられる様になる――そこから、犬を避けたり、犬に遭ったらどうしようと大きな不安を抱えるようになるんです。

生まれつき不安になりやすい気質を備えているとしても、多くの子どもはSMになるまでは不安障害というほど重症ではなかったと思う。SMになったことで、深刻な社会不安になるんです」

そう言われてみると、抑制的な気質を持って生まれた我が息子も、SMになってから社会不安が深刻化したような…。SMはもう随分前に克服しましたが、未だ自己評価がとても低いと感じます。

DSM (米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアルDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)におけるSM(場面緘黙)の遍歴:

1980年DSM-3

  • 初めて記載
  • 疾患名はElective Mutism(選択性緘黙)
  • 分類カテゴリー:通常、幼児期・小児期、または青年期に初めて診断される疾患
  • 定義:正常に話す能力があるにもかかわらず、ほとんど全ての社会的状況で話すことを拒否し続ける(”a continuous refusal to speak in almost all social situations” despite normal ability to speak.)

1994年DSM-4

  • 疾患名がelective mutism(選択性緘黙)から現在のselective mutism(場面緘黙)に変更
  • 定義:特定の社会的状況では一環して話すことができない(consistent failure to speak in specific social situations)に変更

2013年DMS-5

  • 分類カテゴリー:不安障害に変更

DSMが改正される度にSMの定義は変わってきているので、今後も変わっていくんでしょうね。専門家・一般に緘黙の知識が広く浸透し、もっと多くの支援が得られるようになると良いですね。

このポッドカストはSMiRAのサイトからリンクされています: http://www.selectivemutism.org.uk/videos/

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マギー・ジョンソンさん出演のポッドカストから

ハロウィンも終わり、午後4時すぎにもう暗くなり始める今日このごろ。雨混じりの曇り空の下、そこかしこに残るハロウィンのジャカランタンがオレンジ色の灯火のようです。

先月天気のいい日を狙って訪れたノーサンプトンシャーの田舎町、オルニー(Olney)

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この5月に新書『保護者や専門家のためのワークブック The Selective Mutism Workbook for Parents and Professionals』を出版したマギーさん。教育コンサルタントのキャシー・ウエストン博士との対談から、印象に残った言葉やアドバイスをご紹介しています。

このポッドカストはSMiRAのサイトからリンクされています: http://www.selectivemutism.org.uk/videos/

どうして場面緘黙になるのか?

緘黙の人が声を出そうとすると、喉の筋肉が動かなくなって、実際に喉が詰まったように感じます。身体が麻痺した様になり、恐怖にかられ、胸がドキドキして、息が苦しくなったり、冷や汗が出たり、吐き気や頭痛がしたりということも…。

この反応が起こるのは、本人にとって安全圏外の人たちから話すことを期待されている時。

人は極度の脅威にさらされると、本能的に「闘うか・逃げるか(Fight or Flight)」反応が起こります。注目したいのは、恐怖のために身体が凍りつく・虚脱したような感じになる「不動化(Freeze)」反応も起こること。

蜘蛛が嫌いな人が蜘蛛を見たら恐怖で固まってしまう――それと全く同じ反応。場面緘黙は正式に不安障害と定義されていますが、マギーさんは恐怖症と捉えるのがいいと提唱しています。

恐怖症の治療はCBT(認知行動療法)のエクスポージャー法が基本。スモールステップで恐怖の対象に少しずつ慣れ、最終的に克服していくのは場面緘黙も同じことですね。

シャイネスとの違い――緘黙児の見分け方

緘黙の子どもは「内気な子」と見過ごされがち。マギーさんは、話さないことだけではなくボディランゲージにも注目して欲しいとアドバイスしています。

子どもは話すことを予期されると、身体の動きや表情まで不自然に凍りついたようになります。内気な子はもっと自然に振る舞うものです。身体やしぐさが極端にぎこちなくなったり、無表情になるということはありません。

また、緘黙児はアイコンタクトを避けて常に下を向いていることが多く、いつまでたっても特定の状況に慣れません。シャイな子どもは(1対1の場合は特に)徐々に打ち解けてコミュニケーションを取り始めるもの。

緘黙児は同じ学校内でも、安心できる子/ 人と一緒の時と、そうでない状況の時とでは、ボディランゲージが全く違います。そして、そのパターンは一貫して続きます。ある子/ 人とは話せても、他の子/ 人とだと凍りついたように押し黙ってしまう――教室では縮こまっているのに、校庭の片隅ではリラックスした表情を見せるなど。ある日は調子良く話せて、ある日は全く話せないということはありません。

保護者だったら家での様子と全く違うことにすぐに気づくはず、とマギーさんは言います。

でも、うちもそうでしたが、親は学校での子どもの様子を知らないため、場面緘黙に気づくのが遅れてしまうんですよね…。反対に、教師は学校での子どもの様子しか知らないため、内気な子なんだと思い込んでいる可能性が高いのです。

緘黙が起こっている場で早期発見してもらうためには、子どもの様子をよく見て、気になる点があったらすぐにアラームを鳴らすことが必要です。そのためにも、学校で緘黙を含むメンタルヘルスの研修をしてもらえたらと思います。

毎年盛大にハロウィンを祝うお向かいさん家

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マギー・ジョンソンさんの新しい実用書

もう10月もあと3日で終わりですね。イギリスでは昨夜時計を1時間進め、夏時間から冬時間へと切り替えました。ということは、日暮れが1時間早まる訳で、どっぷり暗い季節の到来…。暗くて長いイギリスの冬の始まりです。

雲の晴れ間に急いでお散歩。変わりゆく季節の風情を楽しんで

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イギリスで緘黙治療の第一人者と呼ばれ、専門家や一般の教育・支援に貢献してきたSLTのマギー・ジョンソンさん。マギーさんがアリソン・ウィンジェンズさんと共著した『SMリソース・マニュアル第二版』は緘黙治療のバイブルと呼ばれ、このマニュアルに沿って治療プランを立てるのがイギリス式です。

そのマギーさんが今年5月に『保護者や専門家のためのワークブック The Selective Mutism Workbook for Parents and Professionals』を出版。今回は中国の支援協会の代表、ユジュンファ・ライトマンさんとの共著です。世界中の保護者や教育者たちの協力を得て、15の基本戦略と43の活動方法を詳しく解説。学校や家庭ですぐ実践できるスモールステップ法やアイデア、アドバイスが詰まった実用書となっています。

出版を記念して、教育コンサルタントのキャシー・ウエストン博士のポッドカストに出演。その中で印象に残ったマギーさんの言葉やアドバイスをご紹介します。

ポッドカストはSMiRAのサイトからリンクされています: http://www.selectivemutism.org.uk/videos/

場面緘黙とは?

場面緘黙を説明する時、よく「話せないこと failure to talk」というフレーズが使われますが、子ども自身はどう思っているのか?

以下はマギーさんが緘黙の子どもやティーンから直接聞いた言葉です。

「(特定の人の前で)話すくらいなら、死んだほうがマシ」

「どんなに頑張っても声が出ない。まるで話す能力を奪われたみたいに」

「ものすごく怖くて身体が凍りついてしまう。そんな時に誰かに話せなんて言われたくない。月曜日になると頭が痛くて、家を出るのが嫌でたまらない」

「どうして話さないのか訊かれることに耐えられない。頭にピストルを突きつけられて『喋るな!』と言われる方がずっといい」

「母が私の味方をせずに、周囲に難しい子・扱いにくい子と思わせたことを決して許せない。本当に母が大嫌いだった」

「話せない」の影で、子どもたちはこんなに深刻な心理状態に陥っている…。

場面緘黙は成長したら治るものではなく、本人が話す不安に立ち向かい、少しずつ克服しなければならないというのを証明するよう。保護者や専門家、クラスメイトに真に場面緘黙を理解・支援してもらえる環境が整うことがベストですが、そうはうまく行かないのが現実。それでも、少しずつでも支援環境が変わっていくことを願うばかりです。

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提示カード作成をステップに場面緘黙を克服

あっという間に10月も半分過ぎてしまいました。欧米では今月が場面緘黙の啓発月間。でも、イスラエルとハマスの大規模戦闘が始まってしまい、世界中がその緊迫したニュース一色に染まっている感じですね。犠牲になるのはいつも一般市民、一刻も早く戦闘をやめて欲しいです。

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どうしても言葉が出ない時、自分が場面緘黙だということを理解してもらうために提示できるカードをご存知でしょうか?上記のカードを考案したのはエリザベス・ヘルプスさん。自身も場面緘黙でしたが、カードを作成することで回復への第一歩を踏み出すことができたとか。

エリザベスさんは現在29歳。場面緘黙と診断されたのは16歳の時でしたが、それまでずっと軽度の緘黙症状を引きずっていました。「大人しくて目立たなかったから、問題にされなかったのかも」と振り返ります。

診断が下りた頃には症状が悪化していて、ほんの一握りの人にしか話せない状態だったそう。それから事態は更に悪化し、数年後には誰とも話せない全緘黙に。家族とも、ペットのうさぎとも話せない時期が3年も続いたというのです。

そんなエリザベスさんが直面した問題が、話せないために「失礼な人」と誤解されること。自分を理解してもらうために、自分と同じ様に緘黙に苦しむ人たちのために、25歳の時にカードを作成しました。それを場面緘黙のグループに紹介したところ、当事者や保護者から「私も欲しい」と声がかかるように。

「私には言葉が出にくくなる場面緘黙という不安障害があります。言っていることは理解できますが、返事ができないかもしれません」

自らカードを使ってみて、「相手は返事を期待していない」と思えるだけでプレッシャーが減り、人と接することが楽になったとか。不安が減ったこと、仲間に共感してもらえたことに勇気づけられ、少しずつ場面緘黙を克服していくことができました。

現在は場面緘黙を引き起こしていた病院という場所で、週に数時間ボランティアができるまでになっているとか。本人いわく、「緘黙をほとんど克服できた」といえる心境だそう。

プラスティック製のカードは名刺タイプとネックストラップ付のタイプがあり、デザインはそれぞれ4種類ずつ。当事者用と子どもにつけさせる保護者用があり、今ではアメリカやスウェーデンなど海外の購入者も増えているとか。

緘黙児/ 緘黙の人は自分から行動を起こすのが苦手です。緘黙を理解してもらうのもそうですが、まず勇気を出してカードを提示してみることが小さな一歩につながりそう。提示カードがコミュニケーションを取るためのツールになればいいですね。

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緘黙だった教え子のAちゃんが卒業しました

もう2週間が過ぎようとしていますが、7月に教え子のひとり、Aちゃんが卒業していきました。 私が勤務している学校は、高機能ASD(自閉症スペクトラム障害)の子どもを専門とする特別支援学校。Aちゃんは高等部で日本語のGCSE(国家試験)コースを選択したので、3年間の付き合いでした。

 

        最後の授業の日にAちゃんにもらったカード、とても嬉しかったです。右は彼女が作った日本語すごろくのイラストの一部

このAちゃんが場面緘黙(だった?)と知ったのは、なんと教え始めて1年ほど経ってからのこと(詳しくは『教え子が緘黙だった!!』をご参照下さい)。

私の授業では何ら問題がなかったので、彼女が緘黙だということに全く気づかなかったのでした^^;  ただ、いつも声が出るまで少し間があくのが気になっていました。

声を出そうと緊張しているのは解っていたため、5秒くらい待つことにしていました。日本語を選択している生徒は1つのクラスに片手で数えられる程。だから時間をかけられたんですね^^;

Aちゃんの最初のクラスはなぜか寺子屋スタイルで、一時期レベルが違う生徒4人が一緒に授業をしていたことも。が、Aちゃんが黙ってしまったことは一度もありませんでした。

その理由は小人数で安心度が高かったためか、自分の知識に自信があったためか?それとも、負けず嫌いの一面が影響したのか…。

負けず嫌いといえば、日本語3年目の生徒と一緒に会話の練習をした際、Aちゃんの声のほうが大きかったのが印象的でした(習ったばかりの箇所だったので、自信もあったはず)。

GCSEのクラスに変わってからは、もうひとりの生徒に負けじと自主的に応えることも多くなっていったのです。

日本では、よく場面緘黙時に英語を習わせるといい、と言いますよね?外国語の方が母国語より話しやすいと感じる緘黙児は多いようです。考えてみれば、語学学習の初期は、復唱や回答が決まっていることがほとんど。自分で答えを考えて言うよりは随分楽です。

この3年間でAちゃんに変化がありました。質問をふると、応える時に微笑むことが多くなり、応えた後もニコニコしているのです。応える時の間もほとんどなくなり、応えるスピードも上がりました。

(まあ、これは試験用の「会話」の練習をした成果かもしれませんが)

外国語のGCSE(国家試験)で試されるのは、「会話」「読解」「聞き取り」「作文」の能力。「自分」「将来の希望」「地域・旅行」など5つのテーマがあって、自からの意見を表明することが重要になってきます。

だから、彼女の趣味がPCゲームで K&J-ポップのファンであることや、将来の夢など、授業で聞き出して、それをテーマに会話の練習をすることも多かったんです。興味のあることを話すのは、誰でも楽しいですよね?

Aちゃんの唯一の欠点といえば、欠席がものすごく多かったこと(ストレスに弱い?)。試験前後もかなり休んで焦ったのですが、勉強は家で続けていたよう。なんとか無事に試験を終えることができました。

そして、卒業間近になって彼女のTAから連絡がありました。

卒業式の日にAちゃんを送り出す祝辞を述べなければならないのに、言うことが見つからないというのです…。

「クラスでは何も話さないし、褒めるべきことが何もないから、良いところを教えてほしい」と。

えーっ、良いところはいっぱいあるのに!

そして、いまだクラスで話せてなかったということがショックでした…。

2年前、彼女が緘黙であることを偶然耳にした時、1対1なら話すけどグループ活動やクラスでは声が出せていないと聞いて、

「まずは一番仲の良い子とスライディングイン法をしてみれば」と提案し、その後も、時々クラスでの様子を訊ねたりはしていたのですが…。

でも、私には生徒のケアをする役割は与えられていないし、講師の分際で口出しすることも憚られ…。そして、カリキュラムの遂行や細かな授業計画・各生徒の学習状況報告の要求に追われて、いっぱいいっぱいの状況。

もっと何かしてあげられなかったのかと、今とても悔やまれます。

殆どの卒業生たちは9月から学校近くのカレッジに通うんですが、Aちゃんは自宅に近いカレッジに1人で電車通学する予定。

知っている人が誰もいない全く新しい環境で、Aちゃんが希望に満ちた新たなスタートを切れます様に!!

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SM H.E.L.P. 2022年10月サミット

今日はイギリスの緘黙支援団体、SMiRA(Selecive Mutism Information & Research Association )の30周年記念日です㊗ どうもおめでとうございます🎊

故会長のアリスさんとコーディネーターのリンジーさんがSMiRAを創設してくれたお陰で、我が家を含めどれだけ多くの家族が助けられたか。

関係者の皆さんの努力に、本当に頭が下がります。長い間ありがとうございます。

秋も深まってきて、日暮れがどんどん早くなってきました

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10月は場面緘黙の啓発月なのでSMiRAでもオンライン講習会などを開催しているのですが、時間が取れないでいました。やっと先週末にSM H.E.L.P.の秋サミットを視聴できたので、紹介させていただきます。

今秋のサミットでは場面緘黙の経験者や保護者らが自らの体験や支援状況、取り組みなどを語ってくれました。絵本や活動本を出版したり、セッションなどを提供している人も多く、現在子どもの緘黙と格闘している保護者にはとても励みになると思います。

講演者: アメリカ在住のヴェロニカ(Veronica DeStefano)さん。3人の子どもの母親で次女のルーシーちゃんが緘黙

ルーシーは他の子とどこか違う――そう気付いたのは、ルーシーが3歳のころ。幼稚園に通い始めて1年の間、「すごく静かで、全然話さない」と言われ続けたとか。最初は「とてもシャイだけど、今に慣れるわ」と答えていましたが、結局最後まで慣れることはなかったのです。

全く応答しないため園ではアセスメントも図工もできず、自宅に送られてくることに。話せないだけでなく、行動の抑制もあり、ルーシーが園で何を学び、何ができるのか全く見当がつかない状態でした。

「本当に不思議だったわ。家では姉弟の中でも一番賑やかで、ものおじせず声も大きいの。頑固なところもあるわね。園に入るのを楽しみにしてたのに、園と家では全く別人のようで…」

4歳検診の際に医師に1年間ずっと園で話さなかったことを告げると、「それは内気なだけじゃない、違う症状です」といわれました。

幸運なことに、そのクリニックで働く同僚の息子が場面緘黙と診断されたばかりだったとか。医師は同僚に意見を聞き、同じ症状だと確認。ヴェロニカさんは場面緘黙に関する情報や専門家・セラピストのリストを入手することができたのです。

すぐに行動を起こし、デンバーの不安障害センターを訪問。そこで正式に診断が下り、翌月には娘と一緒にSMキッズキャンプに参加したそう。

キッズキャンプで出会った専門家の協力を得て、園での支援体制を整えることができ、家でもスモールステップでの取り組みを始めました。

ルーシーは順調に進歩し続け、現在はレストランで注文したり、クラスでの発表もできるように。支援チームができたことで先生とクラスメイトの理解も得られ、友達もできたということ。ただ、7歳になった現在、学年が上がって新しい校舎、新しい支援チームと環境が変わり、家で癇癪を起こすことも。始めて学校に行きたくないと言い始めたとか。

SM H.E.L.P. 主催者のケリーさんとのQ&Aから

<場面緘黙の知名度はまだまだ低い>

「ルーシーはいつも隅っこにいて、誰とも遊ぼうとしない」と教諭にいわれ、不安が募った。医師から「場面緘黙」という症状名を聞くまで、誰も知らなくて…。ネットを検索すると多くの情報やビデオが出てくるのに、何故教諭や医師が知らなかったのか疑問に思った。

<SMと恥ずかしがり屋の違い>

極端にシャイな子でも最終的には人や環境に慣れて、遊びに加わったり、話したりするようになると思う。でも緘黙児は違う。いつまで経っても慣れることができず、不安が強いまま。特に、顔の表情が違うと思う――恐怖のためか無表情でその場にいたくないのが明白に感じ取れた。

<SMキッズキャンプ>

キャンプに参加した時は最年少。1日8時間のセッションで、色々なことにチャレンジさせてくれた。例えば、犬と猫とどちらが好きか他の子達にステッカーで答えてもらったり、1ドルショップで買い物をしたり。チャレンジブックにたくさんのステッカーをもらえて、それが自信に繋がった。今でも時々眺めて「こんなに頑張れたんだね」と話すそう。キャンプでは途中で疲れてスタッフの膝で寝てしまったことも。

保護者のミーティングでは主催者が長時間の質疑応答に応えてくれ、とても有意義だった。また、ここで出会った専門家が園に来て緘黙についての講習を行ったことで、支援体制を整えることができた。

<家庭での取り組み>

短時間の間にキャンプで学んだエクスポージャー法を、帰宅してからさっそく日常生活で実行。それが大きなターニング・ポイントとなった。

例えば、レストランに行ったら「注文を取りに来た時、あの小さい女の子に水がいいか、レモネードがいいか訊いてくれる?」と事前にウエイトレスに耳打ちするなど。常時、何ができそうかを考えて計画を立てる。娘の前で「この子の名前を訊いてくれる?」と訊ねるのは自身も恥ずかしいけれど、母親が勇気を出している姿を見せることも大切という。

<IEPと支援体制の重要性>

園や学校に緘黙の知識をつけてもらえるよう働きかけることは本当に重要。関わるスタッフ全員にルーシーのニーズを知ってもらえ、学校全体で対処できるようになる。特に、IEP(個別教育支援プラン)を作ってもらえたことが大きかったと思う。

<著書:『ルーシー・レモンと勇気のシャボン玉』>

ヴェロニカさんは自らの体験を生かして緘黙支援本『ルーシー・レモンと勇気のシャボン玉』シリーズを3冊出版。1冊目は子どもにも判りやすく緘黙を、2冊目はエクスポージャー法を説明。3冊目はエクスポージャー法にスモールステップで挑戦する実践的な内容。

Lucy Lemon and the Brave Bubbles      

Lucy Lemon’s Brave Bubble Pop!

Lucy Lemon’s Brave Bubble Activity Book

 

 

 

みく感想:

やはり緘黙治療には早期発見・治療が必須だと思い知らされます。診断後すぐにSMキッズキャンプに参加したり、専門家と学校との懸け橋になるなど、ヴェロニカさんの行動力には脱帽です。アメリカでも、イギリスでもそうですが、まだまだ緘黙支援が得にくい地区もあり、保護者も大変。抑制的な傾向のある人も多いと思うのですが、保護者もスモールステップで勇気を出していきたいですね。

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イギリスの場面緘黙支援団体、SMiRAからの声明文

もう9月も後半ですね。イギリスでは19日にエリザベス女王の国葬を終えてから、穏やかな秋の日が続いています。

 空には一面のうろこ雲。秋バラが咲く中、バラやボケの実が変わりゆく季節を感じさせます

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先週の水曜日、9月21日にSMiRAのFBでコーディネーターのリンジーさんから声明文が発表されました。

「話したがらない(reluctant speaker*)」「話すことに回避的(reluctant talker*)」という表現に関するSMiRAからの声明

SMiRAでは、このところ場面緘黙と同じ意味あいで「話したがらない」「話すことに回避的」という表現の使用が増えてきたことに気づきました。これらの表現を使うことは、誤解を招いたり、場面緘黙の子・人たちは「話せない」のではなく「話すことを拒否している」という誤った考えを助長したりするため、有益ではありません。

会員の家族の多くは、「Selective Mutism 場面緘黙」という症状名は理想的ではないと考えています。というのも、「選択的  Selective(日本語訳は場面)」という言葉は、まだまだ混乱を招きやすいからです。Selective Mutism/ SMにおける「Selective 選択的」とは、あるものには影響を与え、他のものには影響を与えないことを意味する医学用語です。何かを選ぶときに用いる「選択」を指しているのではありません。これは重要な違いです。

「Selective Mutism  場面緘黙」という名前は、アメリカ医学界の診断統計マニュアル(DSM 5)や国際疾病統計マニュアル(ICD 11)により、国際的に認定され、診断基準が設けられています。SMiRAでは、正式に名前が変更されるまでは、この名前を使用すべきだと考えます。

これまでの研究から、場面緘黙はその複雑さ、症状の現れ方、発生に寄与する要因などの点で差異が広範囲にわたることを示す証拠が増えています。単純にタイプ分けしたり、スペクトラムだと説明できないことが明らかになってきました。従って、診断基準に適合するすべてのケースを場面緘黙(SM)と呼ぶべきです。ただし、SMiRAでは現在のところ、ジョンソン&ウィンジェットが2016年に『場面緘黙リソースマニュアル第2版』『ハンドアウト3』で定義した記述「Low Profile Selective Mutism(認識されにくい場面緘黙)」および「High Profile Selective Mutism(認識されやすい場面緘黙)」を引き続き使用します。場面緘黙は今なお見過ごされたり、誤解されがちな症状です。これらの記述を使うことで、若者が緘黙かどうか見分ける際に、話すことが困難な状況で全く無言である必要はないことを明確にすることに役立つはずです。

SMiRAでは過去30年にわたり、場面緘黙は話すことを拒否しているのではなく、(全く話せない、もしくは自由に)話すことができない不安障害としての認識を高め、風説を払拭し、場面緘黙の特性に関する誤った情報に異議を唱える努力をしてきました。今後も精力的に取り組んでいく所存です。

*speaker・talker(話し手)をより解りやすいと思われる表現にしました

SMIRA statement regarding the use of the terms ‘reluctant speaker’ and ‘reluctant talker’.

SMIRA has an increase in the terms ‘reluctant speaker’ and ‘reluctant talker’ being used as synonyms for Selective Mutism. We find the use of these terms is unhelpful, as they may be misleading, he mistaken belief that people with SM may be refusing to speak, rather than being unable to do so.

Many of our families feel that ‘Selective Mutism’ as a name for the condition is not ideal, as there is still confusion over the word ‘Selective’. In SM, ‘Selective’ is being used as a medical term to mean affecting some things and not others. It does not refer to selecting, as in making a choice. This is an important distinction.

The name ‘Selective Mutism’ has international recognition and diagnostic criteria within the Diagnostic Statistical Manual (DSM 5) and the International Classification of Diseases (ICD 11). SMIRA believes that until such time as the name is changed officially it should be the term used.

There is increasing evidence from research to suggest that SM varies widely in complexity, in how it presents and in the factors that contribute to its occurrence. It has become clear that SM cannot be simply divided into types or described as a spectrum and therefore all cases that fit the diagnostic criteria should be entitled ‘Selective Mutism’ or ‘SM’. However, at present, we will continue to use the descriptors ‘Low Profile Selective Mutism’ and ‘High Profile Selective Mutism’ as defined in the Selective Mutism Resource Manual 2nd Ed., Handout 3, Johnson & Wintgens (2016). SM is currently still an often overlooked and misunderstood condition, so we feel that the use of these terms helps to ensure that it is clear that young people do not have to be completely silent in their challenging spaces to “qualify” as having SM.

Over the past thirty years SMIRA has striven to raise awareness of SM as an anxiety disorder in which the person is unable to speak (either at all or freely) rather than refusing to speak, and to dispel myths and challenge misinformation around the nature of SM whenever possible, and we will continue to do so vigorously into the future.”

最近ではASD(自閉症スペクトラム)などの発達障害と場面緘黙を併発するケースの研究や、脳医学的な研究が進み、これまでの場面緘黙の定義が揺らぎ始めているという印象を受けます。それが上記の声明文からもうかがえますね。

もしかしたら、近い将来に場面緘黙の診断基準や定義が変更されるかもしれませんね。ただ、治療法としてCBTを利用したスモールステップ法が有効なのは同じじゃないかなと感じています。

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10月は場面緘黙の啓発月間です

早いもので今年もすでに3か月を切りましたね。秋も深まってきて、朝夕は暖房を入れるようになりました。イギリスではマスクをしない人が増えてきて、コロナ感染者の数は一向に減らず…。毎日の感染者数は3万~4万人と高いままで、冬に突入したら一体どうなっちゃうんだろうと不安です。

        雨上がりにみかけた二重の虹と玄関のステンドグラスの光

さて、10月は場面緘黙(メンタルヘルス全般)の啓発月間。イギリスのチャリティ支援団体SMiRAでは、オンライン講習会を複数開催中です。

10月2日に行われた第一回目の講習会は、SLT(言語聴覚士)のスザンナ・トンプソンさんによる『場面緘黙の案内(An Introduction to Selective Mutism)』。参加者は保護者、専門家、学校関係者、緘黙経験者など30名ほど。最初に録音された講習ビデオを観て、その後に質疑応答という形式でした。

ビデオを観ている間に質問があればタイプしていき、ビデオが終わった時点でスザンナさんが質問に応答。質問者とのやり取りは少なかったものの、全部の質問にテキパキと答えてくれました。

まだ緘黙歴が短い園児や小学生を対象とした講習会でしたが、その中で興味深かった点をご紹介します。

1) 園や学校での緘黙教育を徹底する

まずは園や学校スタッフ全員に場面緘黙を知ってもらい、子どもに対して誰もが一貫した対応をすることが重要。緘黙児は緊張すると、固まったり、無表情になったり、下を向いたり、視線を避けたりと様々。中には、笑顔に見えたり、ニヤニヤしているように見えたりする子も。緊張と不安に対する反応はそれぞれ違うことを理解し、まず緊張をやわらげることを考える。

緘黙をいち早くキャッチし、すぐに保護者に知らせて支援を始めることが大切。発見が早ければ早いほど、回復も早い。

2) 専門家との関わり

SLTや小児心理士など、専門家が子どもと1対1でセッションを行う必要はない。これは緘黙状態がまだ固定していないため。専門家は主に保護者や学校にアドバイスし、緘黙を理解させ支援の指示をする。まずは子どもを取り囲む環境を変え、「話す」プレッシャーを取り除けば、改善は早い。

専門家がいなくても、周囲の理解と協力があればマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさん共著の『場面緘黙リソーズマニュアル(Selective Mutism Resource Manual)』で充分対応できるとのこと。(学校の別室で保護者やキーワーカーが子どもと週3回、10~15分ほどの『スライディング・イン』法セッションを行うことを奨励)。

3)  子どもに自信をつけさせ、自己評価をあげる

どうせ答えないからと、とばしたりせず常に参加させること。できるだけ時間をあたえ、頷きなどでも応えられたら、言葉がけを忘れずに(褒められるのを嫌がる子も多いので、さりげなく)。

子どもは目立つことや他の子と違うことを嫌がる。保護者と子どもと取り決めをしておき、子どもが一番やりやすい方法(カード、秘密のシグナルなど、性格や年齢によって異なる)でコミュニケーションを取れるようにする。常にスモールステップで進むことが大切。

また、保護者や友達が緘黙児のために代弁するのは良くない(話さなくてもいい状態に慣れてしまうため、緘黙を強化する原因になる)。常に話す/ コミュニケーションを取れる機会を与え続けること。

4)トイレの問題

園や学校でトイレに行けない緘黙児は多い。カードや秘密の合図を使える子どももいるが、全員に有効という訳ではない。まず覚えておきたいのは、緘黙児は自分から行動を起こすのが難しいということ。

一番いいのは、先生がクラス全員にトイレタイムを促したり、二人一組でトイレに行かせたりする方法。みんながやれば不安は下がるし、誰かと一緒だったら行きやすいかもしれない。

それぞれの子どもによって違うので、まず何が不安なのか子どもに確認する必要がある(大人が思ってもみないことを不安に感じている子も)。どうしたら一番楽か子どもと話し合って対策を決めると良い。

スザンナさんは園児から大人まで場面緘黙に苦しむ多くの人たちの治療にあたっていますが、やはり早期発見・介入することが最重要と強調していました。現場に緘黙の知識があれば、専門家が関わらなくても改善は早いのです。学校側の支援体制も問題ですが、保護者も気づいた時点でいち早くアクションを起こすことが大事です。

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CBTってどうやるの?(その4)

イギリスは雨が降ったり止んだりの日々が続き、記録的に寒い5月となりました。その天候不順もようやく終わり、今週末から例年なみの天気に回復するようです。

やっとモノクロームの空とサヨナラできそう

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3)  ステップ毎に克服できそうな目標を定める

スモールステップで重要なのは小さな成功体験を積み重ねていくこと。だから、高すぎるハードルは禁物です。だからこそ、目標を立てる際に当事者である子どもの意見をきくことが大切といえるでしょう。

段階的に少しずつ不安に直面し、その状態に慣れることで不安を克服していくのがエクスポージャー法。ステップ毎に達成できそうな目標を立てることが重要です。

ハードルが高すぎて失敗すると、後退することも多々あるので要注意です。「もうやらない!」と拒絶する子もいるかも…。でも、そういう時でも粘り強く励まし続けて、一歩一歩進むしかないのです。

子どもは新たな挑戦に対して、「そんなの無理」「イヤ」としり込みするかもしれません。そんな時、もうひと押ししても大丈夫かどうか判断できるのは、一番近くで子どもを見ている保護者だと思うのです。できそうだなと思ったら、「ちょっとだけ、やってみる?」と誘って反応を見てみて。

失敗を恐れず、子どもの気持ちに沿ってコツコツ進むしかないですね。

スモールステップに挑戦したら、必ず声をかけて褒めること。褒められることでだんだん自信がついてきます。しばらく続けると、自ら「挑戦したい」という気持ちに。挑戦を続けることで、自分で計画し自主的にスモールステップを実施できるようになっていきます。これは将来とても役立つと思います。

4)  モチベーションや明確な目標を持たせる

小さい子なら、ステッカーチャートやお菓子、玩具などのご褒美が有効。星が5つたまったら、好きなお菓子や欲しいものを与えることで、モチベーションが上がります。

息子が小2(6歳)の頃、Dr WhoがTV放送されて全国で大流行し、学校中の男子がDr Whoカードやグッズを集めていた時期がありました。息子はカード欲しさに、自分から「ありがとうを言うから買っていい?」と、何度も文具店に足を運んだものです。

年齢が上の子の場合は、ご褒美というよりも自分がやりたいことや将来の希望など、現実に沿ったスモールステップ計画を本人が主体となって立てるのが望ましいよう。でも、本人に「変わりたい」という気持ちがなければ、計画を立てることは難しいかもしれません。(年が上の子の支援については『マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』』をご参照ください)。

何年も緘黙が続くと、本人も周囲も「話さない子」に慣れてしまい、行動を起こすのに多大な勇気とエネルギーが必要になってきます。周囲の雰囲気が良くサポートもあって、本人があまり困っていない場合は特に。不安が低減し居心地が悪くない状態で安定しているため、新たな変化の方がより恐ろしいのです。

こうした場合は無理強いせず、いつでもサポートできることを知らせてください。
進学や就職が近づいてきて、本人が「変わりたい」という気持ちになるまで、趣味など学校外でのスモールステップがお勧めです。ひとりで買い物する、電車に乗る、家事を手伝うなど、自立に向けた準備もできるはず。

下の図は、人が恐怖に対面した際の恐怖の度合を時間の経過ともに現したものです。赤い矢印は本人が予期する恐怖感。緑の線は1回目のトライ、紫は2回目、オレンジは3回目、ブルーは4回目と、同じ恐怖に4回繰り返して直面しています。

どの回でも恐怖感は2分でピークに達し、その後時間が経つにつれて下降。10分で半減、もしくはそれ以下に。1回目のトライでは最大90%の恐怖を感じますが、2回目は60%に軽減。4回目のトライでは最大で30%と恐怖感は1回目の1/3に。

何度も繰り返すことで恐怖の対象に慣れ、それほど恐怖を感じなくなるのです。頭の中で想像がどんどん膨らんで、不安がマックスに達してしまうのが緘黙児。実際に恐怖と対面して最初の2分間を我慢すれば、不安が徐々に軽減していくことを自ら体験することが本当に大切。

「なーんだ。それほど怖くなかった」と思えたら、次もやってみようという気になるはず。

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10代で発症する場面緘黙

6月も下旬に入った今週、ロンドンは32度の猛暑日を記録中。まだロックダウン中なのにも関わらず、大勢の人々が海辺に押し寄せて、社会的距離など頭の片隅にもない様子…第二波が来ませんように!

   我が家の小さな中庭に植えた紫陽花、アナベルは今年も増殖中。夜9時過ぎまで明るいので、夕食のあと庭に出て涼んでいます

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最も場面緘黙を発症しやすい年齢は2~4歳と、イギリスでは入園や就学を経験する時期と重なります。マギーさんは、これに加えて小学校からセカンダリースクールへの移行期(11~12歳頃)に緘黙になる子がいると指摘。日本だと小学校から中学校への移行期ですね。

この年齢は多感な思春期と重なり、身体的・精神的に最も影響を受けやすい年ごろです。

イギリスの小学校はおおむね小規模で1学年1~2クラスしかないところもざら。学校職員は全校生徒だけでなく、保護者の顔と名前まで覚えていて、とてもアットホームな雰囲気。そんな家庭的な環境の小学校から、大規模なセカンダリー(12~16歳・5学年)への移行は、どの子にとっても大きな変化の時期です。

特に、Comprehensiveと呼ばれる公立校に進学する場合、全校生徒数が1000人前後に膨れ上がることも。日本の中学の様にベースになる自分の教室はなく、教科ごとに教室を移動するシステム。校舎も複数棟あり、どちらかというと大学に近い感じです。また、複数の小学校から生徒が集まるため、交友関係もより複雑に。

マギーさんとアリソン・ウインジェンズさんが共著した『場面緘黙リソースマニュアル』第二版では、場面緘黙のカテゴリーをひとつに統一(詳しくは『緘黙のカテゴリーはひとつだけ』をご参照ください)。その中で、新たに追加されたのが、認識されやすい場面緘黙 (High-profile selective mutism)と 認識されにくい場面緘黙(Low-profile selective mutism)です。

(「目立つ緘黙」と「目立たない緘黙」ともいえそうですが、日本語訳がまだ決まっていないので、直訳で高プロフィールと低プロフィールとした方がいいのかも…)

認識されにくい場面緘黙(Low-profile selective mutism)は、出席の返事や短い答え、音読などができ、学校でもなんとか声が出せる状態。促されると少しだけ話すため、周囲は場面緘黙だとは思いません。

マギーさんの説明によると、このタイプは性格的な要素が強く、同調的で人の期待に応えようとする傾向が強いとのこと。頑張って質問に応えようと、何とか単語や短い言葉を絞り出すのです。

実のところ、話さない結果への不安が話す恐怖に勝るために声が出るのですが、このバランスは微妙で、答えに自信がある時しか作用しません。

よく観察すると、声が小さい、視線を合わせようとしない、無表情、身体が硬直しているなど、極度に緊張しているのがわかります。特徴的なのは、いつまでたっても緊張が持続し、自発的に発言したり、話しかけたり、長い文章で答えたりと、普通に話せるようにならないこと。

小学生時代はこの状態で何とか切り抜けることができても、セカンダリーに入ると対応しきれなくなり、認識されやすい場面緘黙 (High-profile selective mutism)へと移行する危険があります。

たまたま環境が良く、本人の努力で症状が改善していくこともあるかもしれません。でも、声が出ているから大丈夫だろうと、支援せずに放っておくことは大変危険です。

トイレなど必然の要求を発したり、指示に従って短いメッセージが言えても、親しい友達や家族を除いては、相互的な会話をすることができません。「~(して)ください」や「ありがとう」など、何でもない依頼や挨拶も困難です。

声が出せるから緘黙症状は軽いとみなされがちですが、大きなストレスを抱えて身体的な症状が出たり、不登校になってしまう子も。話さないことに慣れて緊張が少ない緘黙児と比べ、決して軽症だとは言えません。

助けや許可を求めたり、いじめや病気を報告したり、自ら説明することができないため、同級生や教師の理解を得られにくいのです。そのため、虐めの対象になったり、無視されたりと、危険にさらされる可能性が高くなります。

子どもの人格形成に非常に大切な自己評価が下がってしまう傾向も…。また、心のバランスを崩して、二次的な不安障害を発症してしまう可能性も出てきます。

認識されやすい場面緘黙 (High-profile selective mutism)の子が、まだ緊張は続くものの、スモールステップで何とか声がでるようになった状態も、認識されにくい場面緘黙(Low-profile selective mutism)といえます。場面緘黙を完全に克服できた訳でなく、環境によっては逆戻りしてしまうケースも。

人・場所・活動に関わらず、子どもが自信をもって自由に受け答えできるようになるまで支援を止めないことが大切です。

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