BBCの緘黙記事とバイリンガル

以前の記事で書きましたが、場面緘黙啓発月だった先月、BBCのニュースサイトで5歳の緘黙児、エルシーちゃんのケースが紹介されました。

<ニュース記事の内容>

ウェールズ在住のエルシーちゃんは姉弟や家族、友達とおしゃべりするのが大好き。でも、家族以外の大人とコミュニケーションを取ることができず、9月に入学した小学校でもまだ言葉が出ていません。

「先生に本を読むことも、トイレに行きたいと言うこともできません。何かほしくても、頼むことができないんです。日常生活にかなり大きな支障があります」

エルシーちゃんは場面緘黙(症)と呼ばれる重度の不安障害。子ども140人にひとりの割合で発症します。家庭では英語とウェールズ語を話しています(注:バイリンガルの子どもは発症率が通常より高い)。

「娘は話す相手を選んでいる訳ではないの。話せる唯一の条件は、安心できるレベルまで不安が下がった時だけ。コミニュケ-ションを取るのが怖くて、緊張や不安で体が固まってしまい、声が出ないんです。恥ずかしがり屋では片づけらない、周囲のサポートが必要な症状です」

幸運なことに、家族は早い段階で問題に気付き、ヘルスビジター、言語療法士、学校の支援を受けることができました。言語療法士のローリーさんは、「質問したり、話すように圧力をかけないで」と警告。

父親のダフィドさんは、「エルシーが10代になるまで場面緘黙を引きずらないよう、早くから対処を始めました」と、早期発見・介入の重要性を強調しています。

母親のハンナさんは、もっと多くの人に場面緘黙を知ってもらおうとSNSで発信。10月末までに100マイル(160km)走ることにも挑戦しました。医師や教師、他の親から多くの反応があるそう。

記事と動画はこちら:https://www.bbc.co.uk/news/uk-wales-54731963

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イギリスのTV局は、これまでに複数の場面緘黙ドキュメンタリーを放映。場面緘黙がニュースで取り上げられることは、さほど珍しくありません。でも、ハンナさんの言葉から、まだまだ周知されていない症状なんだなと実感させられました。

私が興味を持ったのは、エルシーちゃんが英語とウェールズ語を話すバイリンガルだということ。息子もバイリンガル(小学校入学まで日本語中心)だったので、その影響がどれくらいあるのか知りたいです。

(日本ではあまり知られていませんが、ウェールズ語はケルト語派の言語で、英語とは全く違います。イギリス(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの国からなる連合王国。現在でもその意識は強く、新型コロナの規制もそれぞれの異なります)。

家庭で2か国語以上の言語を話す子どもは、場面緘黙になる確率が高いことがこれまでの研究で解っています。ただ様々なケースがあるため、どの程度の割合で高くなるのか一概には言えないよう。

ヨーロッパ在住のSMiRA委員会メンバー(3か国語を話す元緘黙児の父親)が、『SMリソース・マニュアルの』共著者であるマギー・ジョンソンさんとまとめたレポート&ガイダンスがあります。それには、「イスラエルで行われた研究によると移民の子どもたちのSMの割合は通常の0.76%と比べ、2.2%と高い統計を示している(Elizur&Perednik 2003)とあります。

2015年にアメリカで発表された論文(C. A. Mulligan, J B. Hale & E Shipon-Blum)でも、上記の論文を参照していて、移民の子ども達のSM有病率はネイティブの子ども達と比べ4倍近く高い(Elizur&Perednik 2003)と?。移民と第二言語学習を組み合わせた状況を、更に調査する必要があると述べています。

また、オランダのユトレヒト病院(UMCU)で1973年から2011年の間に診断・治療した139人の緘黙児の中で、オランダ語だけを話す子ども56%、多言語を話す子ども28%、ASDが併存する子ども15%だったという報告も(Veerhoek 2011)。

ひと言でバイリンガル、多国語を話す緘黙児といっても、例えばヨーロッパ人と移民とでは状況がかなり違います。また、移民の中でも、中東やアジアなどから来たばかりの子もいれば、第二、三世代としてイギリスで生まれた子どもも。後者の中でも、家族がイギリスの風習に溶け込んでいるケースと、自国の言葉や文化を軸に暮らしているケースでは、比較が難しくなります。また、息子のようにハーフの子どもや、多国語を話す文化のある国に生まれた子もいる訳で…。

ひとつ言えるのは、抑制的な気質や恥ずかしがり屋の子どもが、学校など公の場で自信のない言葉を話さなければならない場合、不安がより大きくなるだろうということ。SMを発症するリスクがより高くなるのは理解できます。

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