最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その4)

入院治療の有効性

『選択性緘黙への治療』では、入院を含めた治療の結果、外での(家庭外?)言語的コミュニケーションがどのように変化したかというデータも出しています。

あいち小児保健医療センターで緘黙の治療を受けた子ども89名(うち17名が入院治療)のうち、

  • 通常に近い会話が可能になった子ども 33名                                 (小3以前に受診 18名、小4以降に受診 15名)、うち入院治療は11名
  • 限定された会話が可能になった子ども 46名                                 (小3以前に受診 18名、小4以降に受診 28名)、うち入院治療は6名
  • 不変 10名                                                      (小4以降に受診)、うち入院治療は 0名

(『そだちの科学』2014年4月号掲載、『選択性緘黙への治療(山村淳一・内山幹夫・加藤大典・杉山登志郎)』より)

結論として、下記のことが明らかになっています。

  1.  小3以前(年齢が低い方が)が治りやすい
  2. 入院治療を受けて成果のでなかった子どもはいない

1. について

緘黙児が小学校中学年になると回復がゆっくりになることは、SMart Center(アメリカの場面緘黙症不安研究治療センター)のシポンブラム博士が早くから指摘していました。また、SMIRAは1992年の創設当時から早期発見・介入を唱えています。

この研究でも、上記の理論の正当性が証明されてますね(他に同じような調査結果かあると思うのですが、まだチェックしていません)。

どうして9歳の壁と重なる小学校中学年が、治療の転帰が分かれる年齢となるんでしょうか?論文では「この時期は神経の剪定が終了する時期であり、母国語や基本的なジェスチャーが決まることが知られている。さらに、この神経の剪定の後、新たな神経ネットワークの構築のためには、これまでとは別の方法が必要になる」と説明しています。

9歳という年齢は、自分のことを客観視できるようになり、自己肯定感や劣等感を持ちはじめる時期です(告知するかしないか(その3))。緘黙している自分を意識しすぎて自意識過剰になり、「しゃべらない子」として定着している自分のイメージを壊すことがより難しくなるんじゃないでしょうか?

また、小学校の6年間は、だいたい同じ学校・同じ顔ぶれのまま続くので、大きな変化がありません。あまり変化のない環境の中で、「しゃべらない子」として定着したイメージを変えることは、難しいのではないかと思います。

進学や転校などの大きな変化があれば、子ども自身が「何とかしたい」と危機感を持ち、自ら動き始めるきっかけになることもあるかと思います。ただ、中学進学時は思春期の真っ只中で、身体と心が大きく変化する時期なので、周りの目がもっと気になる時期でもありますね…。

2. について

確かではないのですが、場面緘黙の入院治療というのは日本以外では聞いたことがありません。イギリスにもそういう治療オプションはなく、多分日本特有ではないかと思います。

でも、入院治療が有効というのは、何となく納得できる気がします。というのは、緘黙治療というのは、基本的には子どもの不安を取り除き、信頼関係を築く(この人の前で話しても大丈夫と感じられるようになる)ことだと思うので。

子どもは家庭では話せるのだから、学校・クラスで話すという恐怖、クラスメートや先生、集団への不安を取り除くことができれば、家庭で話すほどではなくても、話せるようになるはずです。

イギリスでは、小学校低学年のクラスにはたいてい担任の他にTA(教員助手)がいます。クラスに2人大人がいるため、子どもへの支援をしやすい状況。また、学校によって差はありますが、特別支援教育のシステムが浸透しています。さらに、地区の医療機関が学校とつながっていて、専門家が学校に出張するなど、教育現場での治療が可能です。

一方、日本ではクラスに担任がひとりしかおらず、授業の妨害になるような子がクラスにいる場合、緘黙児にまで手が回らないのではないでしょうか?学校と児相などの相談機関、医療機関の繋がりが薄く、特別支援教育の制度もまだまだ浸透していない…。担任まかせのところが大きいため、教育の現場で治療(直接介入・支援)をするのが難しいと思います。

入院治療がどういうものか判らないのですが、小グループ療法のような感じじゃないかなと推測しています。保護者から切り離して、あてがわれた病室の環境と人間関係に慣れさせることで、不安を減少させ、少しずつ信頼関係を築き、コミュニケーションが取れるようにしていくような方法ではないかと…。

24時間病院にいて、同じメンバーの医師や看護師たちと頻繁に顔を合わせていれば、嫌でも慣れてくると思うんです。学校で担任が子どもと1対1でゆったり向かい合う時間なんて殆どないんじゃないんじゃないでしょうか?

緘黙児への接し方は、『北風と太陽』方式で忍耐が必要だと思います。繊細で傷つきやすい子どもが、自分で上着を脱ぐまで待つ必要があるのではないかなと。

論文の終わりでは、「緘黙の治療には得手不得手があり、頭が良すぎたり、切れすぎたりする治療者、積極的な治療者は緘黙児と相性が良くない」と述べています。こういう医師は、時として大人でも脅威ですものね。「こどもを脅かさない治療者や看護師が、子どもの沈黙を解く働きをすることが多い」のだそう。

忍耐強く見守りながら、必要なところで少しずつ後押しできるのが理想的なんじゃないでしょうか?

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最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その3)

 

最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その3)

場面緘黙とASDの併存率

この研究では、自閉症スペクトラム障害(ASD)が89名中34名で全体の38%でした。

なお、2009年の金原洋治氏の『選択性緘黙例の検討-発症要因と併存障害を中心に』(日本では発達障害と見なされやすい?(その3))では、ASDは23名中12名で全体の52%となっています。

アスペルガー障害やコミュニケーション障害の緘黙児を除外していない、H.クリステンセンの研究 『Selective Mutism and comorbidity with developmental disorder/delay, anxiety disorder、and elimination disorder(2000年)』では、アスペルガー症候群が7%(ASDという項目はなし)とそれほど多くありません。

発達障害以外の問題を調べた結果は、

<言語発達関連>

  • 言語の遅れ 55名 (全体の62%)
  • 聴力障害 3名

<迫害体験の有無>

  • 被虐待児 29名
  • 学校でのいじめ体験が契機 16名

驚いたことに、純粋な場面緘黙児は20名(全体の22%)のみとあります。全体の75%が介入を要する問題を抱えていると、場面緘黙の背景にある問題にもスポットを当てています。

緘黙発症から受診まで

また、大変気になったのは、緘黙の発症年齢と初診年齢にかなりの差があること。

●平均初発年齢 4.7歳

  • 3歳(幼稚園入園時) 45名 (全体の51%)
  • 6歳(小学校入学時) 35名 (全体の39%
  • 7歳 4名
  • 8歳 2名
  • 9歳 2名
  • 11歳 1名

(7~11歳の9名は、もともと不適応があり途中から緘黙が加わったケース)

●平均初診年齢 9.45歳

90%の子どもたちは、集団教育の開始から緘黙があったのに、場合によっては6年間放置されておかれたことになる。緘黙は非行児とちがって人に迷惑をかけないので、放置されやすいという状況が如実に示されている」

(『そだちの科学』2014年4月号掲載、『選択性緘黙への治療(山村淳一・内山幹夫・加藤大典・杉山登志郎)』より)

もしかしたら、子どもが家で普通にしゃべっていれば、保護者はそれほど深刻に捕えられないのかもしれません。きちんと学校に通い、成績も良く、友達との交流もあり、学校から問題視されていない場合は、特に。また、児相やスクールカウンセラーには相談しても、病院の児童精神科を受診するまではいかないのかも…。

眠れない・朝起きれない、腹痛・体調不良といった身体症状が出たり、登校しぶり・不登校、学業不振、いじめなどの問題が起こってから、初めて病院を訪ねるケースが多いのかもしれません。この調査において、緘黙のみで受診した子どもが何人だったのか、とても知りたいです。

でも、問題が起こってから受診しても、緘黙も固定化しているだろうし、問題も深刻な状態になってますよね…。学校で話さないことが1ヶ月以上続いたら、保護者もですが、学校も動いて欲しいです。

全体の38%を占めるASDの子どもたちは、社会性とコミュニケーションに問題があるため、学校生活が大変だったはず。この子達は、受診するまでずーっとASDの診断がなかった訳でしょうか?学校で何らかの支援を受けていたのならいいんですが…。家族も気づかないということは、ASDの傾向くらいだったかも…それが、ずっと放置さ れマイナス体験が重なった結果、悪化したということも考えられると思います。また、精神遅滞、ADHD、言葉の遅れを持った子ども達も、授業についていくのが大変だったのでは?また、児童虐待が多いのも気になりますね…。

日本ではクラスに担任1人しかいないので、他に授業の妨害になるような子どもがいる場合、手が回らないような気がします。担任まかせではなく、子どもに何か問題があると感じたら、学校全体で取り組んでもらえるようになるといいなと思います。

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最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その1)

最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その2)

 

【今月は場面緘黙症啓発月間です】

  • 場面緘黙は子どもの将来を大きく左右しかねない深刻な状態です!早期の発見と介入が望まれます。どうか後回しにしないでください
  • わざと話さないのではありません。本当は皆と同じように話し、行動したいんです!ひとり黙っているのは、とても辛くて苦しいんです
  • 周囲の理解と共感が不可欠です!すぐには治りません。温かく、忍耐強く見守ってください
  • 緘黙していると、言語、社会性、コミュニケーション・スキルの発達が妨げらる恐れがあります。家庭では安心して、楽しくおしゃべりできる環境を整えましょう

 (5月の場面緘黙症啓発月間の発起人は、『場面緘黙ジャーナル』の富重さんです)

 

最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その2)

緘黙と不安障害、自閉症スペクトラム障害との関連性は?

緘黙と不安障害の関連性については、過去に多くの文献で取り上げられていて、最新版のDSM-V(アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル)から、場面緘黙は「不安障害」のカテゴリーに含まれるようになりました。

緘黙と不安障害の強い関連性を示した文献:

“研究対象となった50名の子ども全員が、社交恐怖症または回避性障害というDSM-III-Rの基準を満たした” -1997 ”Systematic Assessment of 50 Children With Selective Mutism”(Dummit, E.S. Klein, R.G. Tancer他著)の抄録より引用

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S089085670962832X

“対象となった30名の子どもの97パーセントは、幼年期あるいは青春期に、社交恐怖症または回避性障害と診断された” -1995 ”Psychiatric Characteristics of Children with Selective Mutism: A Pilot Study”(Black, Uhde著)の抄録より引用

http://www.jaacap.com/article/S0890-8567%2809%2963594-2/abstract

上記の2つの文献では、不安障害を併せ持つ割合は97%と100%。ものすごく高いです。

一方、『選択性緘黙への治療』では、分離不安35%、不登校46%(回避性障害とは異なりますが…)。論文内でも、「選択性緘黙は本当に不安障害なのだろうか」と疑問を投げかけています….。

説明が遅れましたが、『選択性緘黙への治療』の調査対象は、2001年~2010年までの9年間に、あいち小児保健医療センター診療科を受診し、選択性緘黙の診断を受けた89名(男児35名、女児54名)の子どもたち。母集団が89名というのは、緘黙研究では規模が大きい方だと思います。

ちなみに、2009年の金原洋治氏の『選択性緘黙例の検討-発症要因と併存障害を中心に』(日本では発達障害と見なされやすい?(その3))では、社会不安障害は23名中15名で全体の65%となっています。

こちらも、海外の2つの研究と比べると、不安障害の割合は低いですね…。日本では社会的、文化的な背景が異なるため、欧米とは異なる特有のパターンになるんでしょうか??

次に気になったのが、「調査の対象はいずれもDSM-IVの選択性緘黙の診断基準を満たしている」のところ。

発達障害の有無を調べた結果、

  • 自閉症スペクトラム(ASD) 34名 (その多くは高機能で、全体の38%)
  • 精神遅滞 7名
  • ADHD 2名

という結果が出ているのですが、DSM-IVによる場面緘黙の定義には下記の項目が入っています。

E. コミュニケーション障害(例えば、吃音)が原因ではなく、また、広汎性発達障害、統合失調症やその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものは含めない

(『場面緘黙へのアプローチ-家庭と学校での取り組み-』(Rosemary Sage & Alice Sluckin/編著 かんもくネット/訳 田研出版 2009年)より引用)

ASDは「広汎性発達障害」に、精神遅滞とADHDは「その他の精神病性障害」に含まれるのではないでしょうか?その場合、この定義によると場面緘黙は二次障害になるため、診断基準を満たさないのではないか、と思ったのですが…。

(尚、2013年に改定されたDSM-Vでは、広汎性発達障害(PDD)という診断がなくなり、自閉症スペクトラム(ASD)に代わりました。また、ASDの判断基準が変わり、アスペルガーという用語が消滅しています)

★追加情報: DSM-Vでは、場面緘黙の定義の部分でも、PDDがASDに変更されています。(ネットで見つけることができず、SMIRAのVicky Roeさんが助けてくださいました)

E. コミュニケーション障害(例えば、吃音)が原因ではなく、また、自閉症スペクトラム障害、統合失調症やその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものは含めない

長いので、またまた次回に続きます。

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最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その1)

場面緘黙とは?(その2)

 

【今月は場面緘黙症啓発月間です】

  • 場面緘黙は子どもの将来を大きく左右しかねない深刻な状態です!早期の発見と介入が望まれます。どうか後回しにしないでください
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 (5月の場面緘黙症啓発月間の発起人は、『場面緘黙ジャーナル』の富重さんです)

 

『選択性緘黙への治療』を読んで(その1)

この春出版された『そだちの科学』2014年4月号に、『選択性緘黙への治療』と題された特集記事が掲載されました。山村淳一・内山幹夫・加藤大典・杉山登志郎(敬称略)と、4人の名だたる児童精神科医たちが共著した最新の緘黙研究論文です。

http://www.nippyo.co.jp/magazine/maga_sodachi.html

(その中でも、杉山登志郎氏は日本における高機能自閉症の権威と呼ばれる存在(日本では発達障害と見なされやすい?(その5))。『そだちの科学』の編集にも関わり、複数の記事を執筆されています)。

この論文を入手することができたので、元緘黙児の保護者として、勝手に疑問点をあげさせていただき、更にちょっとツッコミを入れさせていただけたらと思います。

まず冒頭の書き出しから、

「選択性緘黙は、家庭でのコミュニケーションは問題がないにも関わらず、学校など、主として集団教育場面での言語交流を拒否するという病態である」

(『そだちの科学』2014年4月号掲載、『選択性緘黙への治療(山村淳一・内山幹夫・加藤大典・杉山登志郎)』より引用)

えっ、どうして!?しょっぱなから、「言語交流を拒否」と断言されてしまうと、ものすごいショック…。最近ではメディアの露出も徐々に増え、緘黙児が「話さない」のではなく、不安のため「話せない」のだという概念は、かなり定着してきていると思ってたのに…。臨床医の先生方はそれが間違いだと考えておられるのか、それとも場面緘黙がまだまだマイナーで古い文献を参照しておられるのか…。

1994年にDSM-IVにおいて、場面緘黙の診断名は、”elective mutism” から”selective mutism” に変更されました。これは、”elective” という単語が、子どもが特定の場面で話さないことを、自らの意思で選んでいるという意味合いが強かったため。多数の研究に基づいた変更であり、SMIRAのアリスさん達の尽力もあったと聞いています。

更に、2013年5月に改訂された最新版(DSM-V)では、場面緘黙が「通常、幼児期・小児期、または青年期に初めて診断される疾患」というカテゴリーから、「不安障害」へと移行しました(場面緘黙とは?(その2))。

『選択性緘黙への治療』では、緘黙と不安障害との関連を調べていて、その結果が下記のように示されています。

  • 分離不安 全体の35%
  • 不登校 全体の46%                                                (重複しているのは16名(全体の18%)、有意の相関は認められない)

またまた疑問ですが、どうして分離不安と不登校?社会不安についてはどうだったんでしょう?また、この結果を受けて、「不安が原因で話せないのではない」という見地から、上記の書き出しになったんでしょうか?とっても知りたいです。

ちょっと時間がないので、今回はここまで。

 

【今月は場面緘黙症啓発月間です】

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  • 緘黙していると、言語、社会性、コミュニケーション・スキルの発達が妨げらる恐れがあります。家庭では安心して、楽しくおしゃべりできる環境を整えましょう

 (5月の場面緘黙症啓発月間の発起人は、『場面緘黙ジャーナル』の富重さんです)

 

 

バラの季節の到来

イギリスの初夏の風景に欠かせない、バラの季節がやってきました。日本でもひと足先に、そこかしこのバラ園で薫り高い花が咲き誇っているようですね。バラの前にはライラックの季節があったんですが、写真を貼りそびれてしまったので、一緒にご紹介します。

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 近所の庭先に咲いていた2種類のライラック

我が家のイングリッシュローズも2週間ほど前から蕾が膨らみはじめ、週末お天気が良かったためか、一気に開花しはじめました。

家の改築工事の作業スペース&ご近所の猫のたまり場になっていた小さな庭を、やっと改装したのが4年前のこと。私はミミズやナメクジが大の苦手で、ガーデニングなんて殆どしたことがなかったんです。でも、せっかくイギリスに住んでるんだからと、一念発起して憧れのDオースティンのバラを植えることにしたのでした。

まず、近所のガーデンセンターで入手したのがMary Roseの苗。Dオースティンのバラは4種類しかなく、多分これらが最もポピュラーな品種だったんでしょう。欲しかったのとは違ってましたが、「まっ、いっか」と思い、その後に枝変わりの白花ヴァージョン、Winchester Cathedralも購入しました。

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 タグについたクォーター咲きの写真を見て、花が咲くのが待ち遠しくて。7分咲きの頃は古典的な美しさ!なのに、満開になると花が開ききって花弁がクシャクシャに。う~ん、騙された…?

次は失敗しないようにと、気合をいれて大規模なガーデンセンターまで遠征。そうしたら、やっぱり希望の品種が無いんです…。とにかくカップ咲きをと、中央がアプリコット系ピンクのThe Alnwick Rose とパーゴラに這わせる白い蔓バラ、Claire Austinを選びました。

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咲き姿がピオニーそっくりのThe Alnwick Rose。最初の1、2年はどういう訳か蛍光ピンクみたいな色でガッカリしてたんですが、その後本来の優しいピンクが戻ってきたよう

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  花が終わる頃は色褪せたピンクに

IMG_4492  Claire Austinの蕾も膨らんできました。ロマンティックな風情のある花ですが、花弁が多すぎ+すぐ散ってしまうのが悲しい。

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   バブルガムのような甘い香りのAbraham Darby。ガーデンセンターの片隅で枯れかけてたのを救出した時には、貧相な花が1輪のみ。それなのに、思いっきり特大の花が咲くようになって、ビックリしてます

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 真紅のバラL D Braithwaiteはもっと枯れそうな状態でしたが、うちの庭にしっかりと 根を下ろし、ぐんぐん成長しました。ロゼット咲きのはずなのに、形が歪ですね…。

 

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       お気に入りのご近所の黄バラ。この位軽やかな方が可愛いかも…あっ、よくみたら、虫君が…。

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塀や家屋にバラを這わせている家がいっぱいあります。

告知するかしないか(その4)

年齢が上の子どもに告知する方法?

前回の記事にコメントをいただいたのですが、この年齢の子どもに告知する方法は、子どもの性格や親子関係、緘黙の程度、学校環境、友達関係といった状況により、人それぞれということになると書きました。告知した後の反応もまた、子どもによってそれぞれでしょう。

学校での友人関係や担任に恵まれて、安心して学校に通えている子は、「変わらなくてもいい」と感じているかもしれません。そんな時は、学校で話し始めることにこだわらず、学校以外の場所で少しずつステップアップに挑戦したり、勉強や習い事などで自信をつけ、自己評価を上げていくことが重要だと思います。また、テキストチャットなどで、友達とのコニュニケーションを促進していけるといいですね。

「聞きたくない」、「知りたくない」と、拒絶する子もいるかもしれません。そんな時は、親の直感がたより。子どもの気持ちを尊重しつつ、より添うことができたらいいのでは?いつでも手助けする気持ちがあることを、伝えておきましょう。

不安や恐怖といった感情をブロックして、諦めムードだったり、投げやりになっている子もいるかもしれません。また、ストレスで攻撃的になっている子もいるかも…。

緘黙している時間が長ければ長いほど、ひとりで不安を抱える時間が長くなり、想像できないほど辛い思いをしているのではないでしょうか?

「話せない」ことばかり話題になりますが、それは氷山のほんの一角にすぎません。子どもが不安や劣等感、疎外感や孤立感といったネガティブな感情をひとりで抱え込んでしまうと、身体やメンタルに影響してしまう可能性もでてきます。早く対処できるよう、子どもからのサインを見逃さないようにしたいものです。

誰だって嫌なことがあれば、眠れなかったり、朝起きられなくなったり、お腹が痛くなったりしますよね?繊細な子どもには、些細なことが大きな心の傷になりかねません…。抑制的な気質の子は、思い込みも激しかったりします。だからこそ、自分のことを無条件で受け入れてくれる存在、文句や愚痴をいえる存在がとても大切になってくると思うのです。

前置きが長くなってしまいましたが、思いついた告知方法をいくつか書きとめておきますね。

●子どもが信頼している相談員、医師、心理士などに告げてもらう

子どもが専門家の治療を受けていて、改善の兆しが見られるようであれば、予め相談したうえ、親子で一緒に診断をきくというのもアリかなと思います。実際に克服した/克服中の子どもの例などを話してもらえると、勇気付けられるんじゃないでしょうか。

●場面緘黙の本を一緒に読む/子どもに手渡す

欧米に比べ日本では場面緘黙の研究が遅れていましたが、2007、8年頃から様々な書籍が出版されていますね。私が所属するKnetからも、2008年に『場面緘黙Q&A』、2009年にDVD付の翻訳書『場面緘黙へのアプローチ-家庭と学校での取り組み』、2013年に『どうして声が出ないの?-マンガでわかる場面緘黙』が出版されています。

こうした書籍の中から適切な箇所を選び、子どもと一緒に読んでもいいですし、小学校の5、6年や中学生だったら、『どうして声がでないの?』を手渡してもいいと思います。また、高校生なら、ひとりで専門書を読んで理解できますね。手渡した後は、子どもの反応を見ながら、フォローするのを忘れずに。

●映像(TV/DVD/You Tubeなど)を一緒に観る/子どもに手渡す

日本では昨年、元緘黙だったミスイングランド、カースティさんの幼少時代をドラマ化した『ザ! 世界仰天ニュース-静かな少女の秘密』が放送されました。その時、親子で観られた方もおられたのでは?

ここで観られます → http://youtubeowaraitv.blog32.fc2.com/blog-entry-26558.html

また、前述の『場面緘黙へのアプローチ』のDVDにも、緘黙だったレイチェルさんの体験談が収録されています。映像の方がより具体的なので、わかり易いかもしれませんね。

(3月に開催されたSMIRAコンファレンスでは、緘黙のドキュメンタリー番組の録画を子どもと一緒に観たという保護者の方がいました。番組に登場したSLTのマギー・ジョンソンさんを子どもが指差し、「この人に会わせて」と主張したため、マギーさんとアポを取ったのだそう。幸運にも同じ地区に住んでいたためセラピーを受けることができ、かなり改善されてきているということでした)。

告知した後にどんな反応が返ってくるか、何ともいえません。でも、ひとりで悩んでいるよりも、「自分はこれだったんだ」と解かった方が、本人のためになるはず。周りがいくら説明しても、子ども自身がその気になって問題に立ち向かわない限り、話す不安は改善されません。自分はどうしたいのか、子どもの意思を確認することができたら、支援の方向性も決まってくるかと思います。

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告知するかしないか(その1)

告知するかしないか(その2)

告知するかしないか(その3)

『ザ! 世界仰天ニュース』(その1)

『どうして声が出ないの?マンガでわかる場面緘黙』

 

告知するかしないか(その3)

小学校中・高学年以上

小学校の中・高学年になると緘黙の治療は難しくなる傾向にあり、治療の効果もゆるやかになるといわれています。一般的には、幼稚園や小学校低学年までの方が治りやすく、早期発見と早期介入がその鍵になってくるというのが定説です。

よく「9歳の壁」という言葉を聞きますが、文部科学省のサイトによると、「子どもは9歳頃から物事をある程度対象化して認識することができるようになる」、とあります。自分のことも客観視できるようになり、自己肯定感を持ちはじめる時期ですが、劣等感を持ちやすくなる時期でもあると…。自我がどんどん発達して、周囲をはっきりと意識するようになる頃なんですね。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/shiryo/attach/1282789.htm

小学校中・後年以上の緘黙児の多くは、もう何年も学校で話せない時期が続いていて、周囲から「話さない子」と見なされていると思います。自分の中でも「学校では話せない」という負のイメージが定着し、そこから抜け出すのは並大抵のことではないはず。特に、抑制的な気質の子どもは感受性が強く、思っている以上に人の目を気にします。

自分が話した時の周りの反応や、そんな環境の中で話し始める恐怖を思えば、緘黙状態でいる方が安全と感じていても不思議ではありません。話さない自分を受け入れてくれるクラスメートや担任がいれば、「別に話したくない」、「このままでいい」と言うかもしれません。

でも、子どもがそう言っても、本音は違うと思います。ただ、みんなと同じように学校でおしゃべりしたい気持ちはあっても、「話さない子」が定着した環境の中でその段階にまで到達するのは不可能、とさえ感じているんじゃないかな…。

もちろん、恥ずかしがり屋の子どもの気持ちを理解し、配慮してくれる先生がいたり、仲良くしてくれる友達がいるなど、環境が良いために気持ちが楽になり、きっかけがあれば話せるようになることもあるかと思います。また、子ども自身が変わりたいと熱望し、クラス替えや進学などの機会に努力して克服するケースもあるでしょう。

でも、周囲の目を気にしながら、子どもが学校で自分から積極的に動くことはとても難しい…。グループで固まったり、友達同士の会話が大きなウエイトを占めてくる時期でもあります。教室の中で誰とも話すことができず、ポツンと一人でいる子どもを想像すると、親も非常に辛いです。

成長すれば自然に治るという考えは、年齢が上になってくると全く当てはまらないと思います。子ども自身が「変わりたい」という意思を持ち、自分で克服していかなければならない。そのためには、周りの支援があった方がいいのは明らかでしょう。そして、傍らで伴走してくれる存在がいたら心強いのは、容易に想像がつきます。

子どもは学校で話せないことをずっと親に隠してきたかもしれないし、知られるのを嫌がるかもしれません。でも、話せない自分はおかしいんじゃないか、普通じゃないんじゃないかという悩みを一人で抱えこんでいると思います。そこからまず開放してあげたい…。

私は子どもの症状に「場面緘黙」という名前があると知り、すごく安心しました。これは、子どもにとっても同じことじゃないかなと思います。自分は変かもしれないと悩んでいたのが、実は不安によってもたらされる症状で、世界中に同じような子どもがいる--そう解かっただけでも全然違います。また、スモールステップで克服できると知れば、自分も頑張ろうという勇気が出てくるかもしれません。とにかく、子どもに「話せないのはあなたひとりじゃない。私は味方」と伝えることが第一歩じゃないでしょうか。

プレ思春期や思春期の子どもの心はデリケートで、ただでさえ難しい時期。親はどうアプローチすればいいか、難しい問題だと思います。子どもの緘黙状態、年齢や性格、親子関係、友達関係、先生との関係、学校の環境などによって、返ってくる反応は様々でしょう。大切なのは、まずは親が共感を示し、味方だと解かってもらうこと。最初は拒否されたとしても、いつでも助けの手を差し伸べる気持ちがあることを解かってもらえればいいと思います。

子どもの気持ちにそって、無理じいはせず、でも少しずつ後押ししていく--さじ加減が難しいです。どの子も違っているので、親は子どもの様子を見ながら、自分がどう支援していけばいいか、試行錯誤で行くしかないと思います。学校側への働きかけも、親にとっては重たい仕事(?)ですよね…。マギー・ジョンソンさんは、年齢が上の子どもの直接の支援者は、保護者ではなく第三者の方が適していると話しています。中学生にもなると、親が学校に介入することが難しくなるし、子どもの自尊心の問題もあるかと思います。

とにかく、子どもにも、親にも、家庭がほっと安らげる場所であることが一番ですね。全く違う話題でも、家で自由に話せることが、心の安定につながると思います。なるべく子どもの好きなこと、得意なことを伸ばすことができれば、自己評価の向上にもつながると思います。

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告知するかしないか(その2)

告知するかしないか(その2)

<息子の場合>

息子が学校で全く話せなくなった/動けなくなったのは、4歳半で小学校に入学してから3週間目のこと。それから「緘黙」という言葉に巡りあうまで、数ヶ月かかりました。

いつの時点で話したのか、はっきりは覚えていません。が、「話す」とか「しゃべる」という言葉を使うと嫌がるかと思い、「怖い」という言葉を選んだのは記憶しています。私自身、小さい頃とても内弁慶で小学校に入学した頃不安だらけだったので、息子の気持ちは理解できるような気がしました。

(うちの場合は似たもの親子ですが、そうでない組み合わせの親子もおられることでしょう。抑制的でない気質の親にとって、抑制的な気質の子どもの行動は、かなり不可解で「何で??」と理解に苦しむことが多いかも…)。

自分の小さい頃を思い出しながら、「マミーが小1の時、学校はすごく怖いところで、先生は知らない大人の人という感じだったな。授業中は当てられないように、いつも小さくなってたよ」という感じで、自分のことに置き換えて話しました。

「○○は誕生日が一番遅いから、みんなよりできなかったり、英語でうまく話せなかったりしても当たり前だよ。マミーは仲良しのA子ちゃんが同じクラスだったけれど、○○はB君と別のクラスになっちゃったから、もっと怖いよね。それなのに、ちゃんと学校に行ってるから偉いよ」。

息子は癇癪を起こすこともなく、黙って聞いていました。何もいいませんでしたが、多分ほっと安堵したのではないかな…。直接自分のことを指摘されるのではなく、私の体験や感情について話しているので、気持ち的にも楽だったと思います。

緘黙児は繊細で完ぺき主義の子も多く、年齢や性格によっては「学校で話せない/しゃべれない」という話題に拒否反応を示す子もいるかもしれません。そういう時は、第三者のこととして話す方がいいかもしれませんね。以前のエントリー( 『どうして声が出ないの?マンガでわかる場面緘黙』 )にも書いたのですが、恥かしがりの子どもや動物を題材にした絵本を一緒に読むという手もあります。また、人形や子どもの好きなキャラクターを使って説明するのもいいかも。

子どもへの告知については、かんもくネットの<Knet資料No.10「子どもと共に話すことへの不安に取り組む」>に詳しく書かれています。

http://kanmoku.org/handouts.html

ちょっとした言葉や態度から子どもの心情を読み取ることができるのは、やはり子どもに一番近い存在である母親だと思うんです。子どもの気持ちに添う方法で、説明してあげられるといいですね。

(ちなみに、うちは「嫌!!」と強くいう時は、絶対駄目なのでその時はストップ。甘えを含む「イヤダ~」くらいだったら、少し時間をおいて再度プッシュ、「う~ん」と迷っている時は、チャレンジしてもいいなと思っている時です)

イギリスの母親って、子どもに”Love you”と声をかけたり、キスしたりハグしたりと、人前でおおっぴらに愛情を表現します。登下校に保護者が付き添うシステム(犯罪や事故防止のため)なので、こういうのは幼稚園やインファント(小学校低学年)では見慣れた風景。日本の習慣ではないですが、緘黙児は自己評価が低いことが多いため、言葉と態度で「あなたが大好き」と示してあげることも大切かなと思います。

子どもを安心させたら、子どもの伴走者として一緒に「話すことの不安」に立ち向かう訳ですが、まずは「話す」ことにこだわらないこと。少しずつでいいので、学校での不安を減らすことから始めましょう。

もしも、「どうして学校で話さないの?! 駄目じゃない」とか「今日学校で話せた?」と子どもを責めたことがあったとしたら、それは仕方ありません。そういう対応をしてしまっても、正直に子どもに謝れば、絶対に解かってくれると思います。子どもが態度に出さなくても、「ママが真摯に謝ってくれた」というのは心に残るはず。

うちは息子の癇癪が酷く、自分もストレスもたまっていたので、時々キレて怒鳴ったことも…。でも、そういう時は子どもに謝りつつ、何とか親子で成長してきたという感じです。緘黙治療は長期戦になることが多いため、保護者にも息抜きや心の支えが必要になってくると思います。相談所やクリニックに信頼できる心理士がいれば力強いですが、同じ悩みを持つ親の会に入るなど、ネット上でもいいので緘黙のことを話せる場所があるといいですね。

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告知するかしないか(1)

 

リトルベニスの住人

すでに先週末のことになってしまったのですが、ロンドンのリトルベニス(Little Venice)に行ってきました。パディントン駅の北に位置し、2つの運河が交差する水辺の観光スポットです。

イギリスの運河は、産業革命が残した遺産のひとつ。18世紀末に、北イングランドの工業地帯から物資を運ぶため、主要交通網として運河が張り巡らされたといいます。19世紀半ばには鉄道が取って代わりましたが、時代を経た今では人々の憩いの場として愛されています。

「カナルフェスティバルがあるから来て!」と、主人の友達が誘ってくれたので、日曜日の午後に家族で出かけました。彼女はリトルベニスに停泊するカナルボートに住んでいるのです。

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               橋から見たフェスティバルの様子。当日は雨の予報でしたが、午後から天気が良くなりかなりの人手でした

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水際にある公園には出店やエンターテイメントが

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運河の両側には住居として使われているボート(Canal Boat ともNarrow Boat とも呼ばれています)がびっしり。ボート内には水道も電気も備えられていて、なかなか快適です。通路のスペースに花壇を作っている人も多く、郵便も届くとか。主人の友達は右手前の紫のボートに住んでいます。エンジンがないそうなので、本当に住居用なんですね。

IMG_20140504_191113瀟洒な住宅街の中にあるので治安も良いそう。このボートの庭には見事な藤棚が

IMG_20140504_175038友達のボートの上で寛ぎながら、運河を行き交うボートを見物。目が合うと手を振り合います。(ちなみに、リトルベニスからカムデンまでは観光用のボートが行き来しています)

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私達もこの小さなボートに乗って運河を探検しました

主人の友達はクロアチア出身で、イギリス暮らしもかなり長いとか。この冬1ヶ月の休暇をとって、伝統的な手法で造ったオランダ製の木の帆船に乗り込み、サザンプトンから喜望峰まで旅したという兵です。イギリスには本当にいろいろな国の人が住んでいて、世界は広い、こんな人もいるんだ、と驚くことがいっぱいあります。

 

告知するかしないか(その1)

子どもが場面緘黙だと判明した時、本人にそれを話すべきかどうか、どう話すべきか — 保護者は悩むところだと思います。

子どもの年齢や性格にもよりますが、支援をしていくにあたり(長期戦です)、子どもと問題を共有し一緒に不安に立ち向かう必要があります。スモールステップで少しずつ緘黙を克服していくには、常に本人の気持ちを確かめながら進まなければなりません。

また、年齢があがって小学校中・高学年になると、改善のスピードがゆっくりになるため、子どもが自覚を持って積極的に治療に関わることが重要になるといわれています。そのためには、やはり本人が緘黙や自分の状態について把握しているべきでしょう。

<小学校低学年まで>

緘黙の発症は入園時や入学時に多く、いつの間にか全く話さなくなったというケースもよく耳にします。でも、「ママ、幼稚園でしゃべれない」と、助けを求めてくる子どもは殆どいないのでは?

たいていの親は、先生から「全く話しません」と告げられ、愕然とするのではないでしょうか?家では普通におしゃべりしているから(学校で黙っている反動でうるさいくらいかもしれません)、親は驚いて当然ですね。いくらシャイな子だったとしても、学校で全く話さないとなると、相当ショックです。

子ども自身は、幼稚園や学校で緘黙状態になっていることにネガティブなイメージを持っていると思います。皆と同じようにできないと劣等感を感じ、自己評価が低くなっているかもしれません。親に言ったら怒られると思っているかもしれません。

イギリスの言語療法士、マギー・ジョンソンさんは、場面緘黙を恐怖症の一種と考えると解りやすいと説明しています。例えば、高所恐怖症の人に、「何で高いところが怖いの?」と訊いても理由は分らないんじゃないでしょうか?ただただ、背筋がぞくっとして足がすくんでしまう…生理的な反応。緘黙になるきっかけも、そんな感じじゃないかなと思うのです。

自分が大きな会議に出席していて、周囲は全く知らない人ばかりという状況を想像してみてください。会場はしーんと静まり返り、壇上に立った権威ある著名人が、次々に出席者を指名して発言させています。誰もが立派な意見を述べていますが、あなたには議論の内容がよく理解できていません。

自分が指名されたらどうしよう?ちゃんとしゃべれないに違いない。笑われるかも – 心臓がドキドキして、「私に当てないで~!」と体が縮こまってしまうのでは?緊張して手に汗をかくかもしれません。緘黙児もこんな感じで恐怖を味わい、体がすくんでしまうんじゃないかなと…。そういう状態の時は喉が渇いて、声は出にくいと思います。

息子に、「緘黙状態の時、いつも喉が閉まるような感じになる?」と質問したら、「それは話そうとしてるのに声が出ない時」という答えが返ってきました。怖いけれど、何とか声を出そうとする時、喉に力が入る、もしくは意識がいくのかもしれません。同じ緘黙状態でも、状況によって感じ方は少しずつ違うのかもしれませんね。

周りから見ると、緘黙状態の子どもは不安や恐怖を感じているようには見えないことが多い。これは、緘黙という、恐怖に対する回避行動が習慣になり、その状態でいることに一定の安心感を得ているからじゃないかなと思います。

本題に戻りますが、子どもがなぜだか判らないまま緘黙になり親にも言えずにいる時、親(誰か)が共感してくれて、自分の存在を肯定してくれたらとても安心できますね。また、世界中に同じような子どもがいることが解れば、自分ひとりじゃないと勇気づけらるはず。同時に、自分の不安を誰かと共有できるようになる、誰かに助けを求めることができるようになる、きっかけにもなるのではないでしょうか?

うちの息子は典型的ともいえる抑制的気質の持ち主です。緘黙は克服できても、不安になりやすく心配性のところは変わっていません。でも、自分の不安を突然ポツンと私に言うことで、半分くらい不安が軽減されているよう。口に出していうことで不安を客観視でき、実はそれほど大きな問題じゃないと把握できるからじゃないかな、と思っています。不安を自分の中に閉じ込めておくとストレスになるので、捌け口が必要ですよね。