神経生物学的要因 – 子どもの発達状態(?)による要因

『場面緘黙Q&A』では、緘黙児の中には以下のような発達の遅れや発達のアンバランスを持っている場合があると指摘しています。

  • 話し言葉や言語の問題(ことばの意味を理解するのに時間がかかる。単語の想起や文章構成に時間がかかる。発音しにくい音がある。吃音があったり、言語表出がなめらかにいかない)
  • 発達障害(境界域知能や発達障害と診断されなくてもその傾向がある場合を含む)
  • 感覚過敏(食べ物や着るものの好き嫌いが激しい。光や音に敏感。独特のこだわりがある。ちょっとしたことが気になる)
  • 非言語領域の問題(状況・場の雰囲気の読み取りが苦手。見通しをたてにくい。目と手の協応に問題がある。不器用)
  • 身体発達の問題(身体発達がゆっくり。身体の動きがぎこちない。体のバランスがとりにくい。運動が苦手)
  • 妊娠出産時にトラブルや異常
  • まれに聴覚障害

『場面緘黙Q&A』 かんもくネット著/角田圭子編 (学苑社 2008年)より引用

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聞きなれない言葉ですが、「神経生物学的」というと脳神経系の発達や疾患に関する学問のことを指すようですね。ここでは、脳神経の発達に伴う、子どもの身体機能、言語、感覚などの成長・発達全般の問題と考えていいのかな?

子どもの年齢に応じて成長や発達の目安があり、それに準ずる発達をしていれば定型ということになりますが、定型内であっても子どもによって発達の速度は違いますよね。定型よりちょっと発達の遅い子、うんと遅い子、中には発達の仕方が少し異なる子どももいるでしょう。

定型より明確に遅れていたり、異なっていたりすれば、早くから気づくと思うので、上記でいう発達の遅れやアンバランスというのは、そんなに目立たない程度のものかなと思います。

少々発達の遅れやアンバランスがあっても、普通の子なら「ちょっと苦手な部分」として育っていくことも多いのではないでしょうか?

でも、それが不安になりやすい抑制的な気質に生まれた子だと、「苦手なこと」が自己評価を下げ、さらに不安を増大させる原因になるのではないかと思います。また、不安にならないよう「苦手なこと」避けるようになり、やらないことで余計苦手になるという悪循環に陥るのではないでしょうか。

(注:全ての場面緘黙児が何かしら発達の問題を抱えているという訳ではありませんので、ご注意ください)

 

 

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遺伝的な要因 – 行動抑制的な気質

前のエントリーでいきなり息子の遺伝的な要因を書き込んでしまったのですが、場面緘黙の遺伝的な要因といえば、第一にくるのが「抑制的な気質」です。

緘黙の本をのぞいてみると、

緘黙児の多くは、不安になりやすい気質、つまり「抑制的な気質」を生まれながらに持っているのではないかと考えられています。

抑制的な気質の子どもは、脳の扁桃体(amygdalaアミグダラ)というアーモンドの形の部位の反応閾値が低く、刺激に対して過敏に反応してしまうのではないかという研究仮説があります。動物は、恐怖を感じるような出来事に出会うと、危険のシグナルを脳の扁桃体が受け取り、自分の身を守ろうとする働きがあります。この子どもたちは危険を感じる程度が、普通の人よりも敏感で繊細なために、小さな刺激に大きな不安を感じてしまうのではないかと言われています。それで、家では普通なのに、学校や人が集まる場所、特に新しい場面で、不安を感じやすいのです。

『場面緘黙Q&A』 かんもくネット著/角田圭子編 (学苑社 2008年)より引用

「ケイガン(Kagan 1989)は、乳児の気質に関する研究の中で、見知らぬ人や慣れない状況に適応するのに時間がかかる乳児を”行動抑制的”としています。全体の10~15%の子どもがこの気質を持つグループに属しており、近年の研究結果によれば、”その傾向は生涯続く”ということが示されています。

この子どもたちは変化への適応力が乏しいため、ひとつの発達段階から次の段階に進むのが難しいと考えられます。そのため、場面緘黙の発症時期がたいてい3歳頃であることは驚くにあたりません。子どもはちょうどこの時期に家庭の保護から出て、初めて不慣れで形式ばった状況の中で人と話したり、交流したりすることを期待されるからです。

『場面緘黙へのアプローチ-家庭と学校での取り組み-』(Rosemary Sage & Alice Sluckin/編著 かんもくネット/訳 田研出版 2009年)より引用

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場面緘黙という症状が現れ、それが固定化する主要因となるのが、抑制的な気質だと考えられています。今年5月に改訂されたDSM-Vでは、不安障害のカテゴリーに移行し、場面緘黙は不安がもたらす症状だということが明確になりました。

ケイガンによると、世界中の子どもの10~15%が「抑制的な気質」に生まれついていることになります。が、場面緘黙の発症率(欧米では5~7%という説が多いようです)を考えると、その全員が場面緘黙になる訳ではありません。

抑制的な気質に生まれついた子どもは、場面緘黙になりやすい要素を持っている。では、同じような気質に生まれついているのに、場面緘黙になる子とならない子がいるのは何故なんでしょう?

抑制的な気質も程度の差があり、その気質が強いほど不安の度合いが強いのかもしれません。

でも、それ以上に大きな影響を及ぼすのは、『場面緘黙Q&A』に書かれている子どもひとりひとりによって異なる「神経生物学的要因」と、「環境的な要因」のようです。

 

 

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PYO(Pick Your Own) 農園に行ってきました

昨日の日曜日、息子の友達とお母さんを誘って、車で20分くらいのところにあるPYO農園に行ってきました。写真の貼り付け方が解らなくて、一日遅れのエントリーです(笑)。

この農園は苺狩りで有名なんですが、ラズベリーやブラックベリー、フサスグリ、すももなどの果実類に加え、ズッキーニ、玉葱、ほうれん草などの野菜類も豊富です。

今年は6月まで天候が悪く、作物の発育が大幅に遅れて、苺狩りが解禁になったのは7月に入ってから。8月にまだ苺狩りができるなんて、例年にないことです。

             テーブルトップ形式の苺畑は、かがまずに摘めるのでラクチン

最高気温は23度くらい、からりと晴れて気持ちのいい天候でした。ロンドン郊外にある田舎町の端っこなので、周辺は緑ばかり。どこまで行ってもコンクリートのビル群が続く東京に比べ、ロンドンって都心から少し離れただけで、すぐにのんびりした風景に変わってしまいます。

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 食べごろの苺がたわわに実ってました

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時期が早すぎて熟してなかったブラックベリー

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アカスグリの実は宝石のよう

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小さな子ども連れの家族がいっぱい

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ズッキーニってこんな風になるんですね~

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昨日の苺の収穫は1.5kg。夕方苺ジャムを作りました

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息子が大好きなラズベリーとアカスグリ

広い農園をあちこち歩き回りながら、瑞々しく実った苺やベリー類、野菜を見ているだけで、心がほっこり。のんびりと夏休み気分に浸れた日曜日でした。

 

 

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遺伝的な要因 — 引っ込み思案

私自身、とても大人しくて内弁慶な子どもでした。

思い出すのは小学校1年生のとき。教員仲間だった父を訪ねてきた担任に、「えっ、家ではこんなに活発なの?!」とものすごく驚かれたエピソードが。

緘黙でこそなかったけれど、学校ではなかなか本当の自分を出すことができず、いつも縮こまっていました。特に、入学したての頃は、毎日がとても不安だったように記憶しています。

広くて迷路のような校舎、大勢の人、安心できる居場所がない…。先生たちは厳格で怖い大人のように感じていました。

ちなみに、小学校時代の通知表にはお決まりのように、「ちゃんと自分の意見を持っているのに、なかなか発言できません」と書かれていました…。低学年のころは、指名されない限り授業中はほとんど発言しませんでした。

引っ込み思案な性格は、中学に入ってから徐々に変わり、完全に自分の殻を破れたのは、短大に進むために家を出た頃だったと思います。

うちの家族はというと、私以外とても社交的です。とくに、兄は小さな頃からリーダー格で、いつもクラス委員に推薦され、児童会長になるような人望のある子どもでした。

親戚縁者を見渡してみると、内気な性格なのは父方の叔父と母方の祖母くらい。確率としてはかなり低いのに、何で息子に遺伝しちゃったのかと考えると、ちょっと申し訳ないような…。まあ、仕方ないですね。

ポジティブに考えると、私も内気だったからこそ、息子の気持ちや行動を理解し、共感できるという利点があります。

「マミーが小1の時、学校や先生が怖かったなあ。先生に何か言われると、ドキドキしたよ」

息子ではなく、私の体験や不安だった気持ちを話してあげることで、息子は自分だけじゃないと解って安心できたようです。大人でも同じですが、「解ってくれる人がいる」と感じるだけで、心が温かくなりますよね。

息子は学校で話せないことを、「いけないこと、駄目なこと」と感じていたようでした。緘黙児は、みんなと同じように話せないことで自己評価が低くなっていると思います。

直接自分のことを話題にされるのは嫌がる傾向があるので、まだ小さいうちは第三者のこととして話してあげるのがいいかもしれません。「世界中に同じような思いをしている子がいる」と知らせてあげてください。

恥かしがり屋さんを題材にした絵本を、親子で一緒に読むのも効果的だと思います。緘黙の少女、なっちゃんを描いた絵本『なっちゃんの声』(はやしみこ作、学苑社)はお勧めです。

 

 

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場面緘黙になる要因

マギー・ジョンソンさんのワークショップから(その3)

 マギーさんは場面緘黙になる要因を下記のように分類しています。

 1) 素因的要素

  • 行動抑制的な性質(遺伝的&環境的要因)
  • 心配性、繊細(神経質)、完全主義的な傾向
  • 家族や親戚に内気な人や場面緘黙だった人がいる
  • 不安障害など、家族に心理的な病気を抱える人がいる

 2)   誘発的要素(引き金となる要因)

  • 入学や入園
  • 別離や事故などの出来事やトラウマ
  • 引越し
  • 社会的/文化的な違いに関する気付き
  • 言語の遅れに関する自意識の芽生え
  • 他の児童からのからかいなど、否定的なリアクション

 そして、場面緘黙が定着する理由として、下記の要因をあげています。

 3)不安を持続させる要因

  • 増大する周囲の注目や同情
  • 適切な介入や支援マネージメントの欠如による自己へのマイナスイメージ
  • 緘黙への過度な容認
  • 緘黙の兄弟姉妹による影響
  • 家族内でのコミュニケーションの悪い手本
  • 地域コミュニティーとの接触の欠如

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うちの息子の場合は、

1)の素因的要素では、4つ目を除いて全て当てはまっています。

特に、心配性、繊細(神経質)、完全主義的な傾向というのは大当りで、そこに頑固で実は威張りやというのも付け足したいところ…。

 

 

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場面緘黙とは?(その4)

マギー・ジョンソンさんのワークショップから(その2)

場面緘黙の支援を始めるにあたり、

まず第一に、純粋な場面緘黙かどうか、他に併存している問題はないかを見分けることが重要。

純粋な場面緘黙児は、話せる人のパターンが大体決まっていて、話せる人とは年齢にあった会話力&ソーシャルスキルを持っていることが前提とされる。

純粋な緘黙の場合は、緘黙に対する取り組みだけでいいが、その他の場合(3、4、5)はそれぞれ併存している問題への対処が必要になる。純粋な緘黙に比べ、回復はゆっくりになる傾向が強い。

また、場面緘黙は心理的な問題であり、子どもの気分に左右される感情的な問題ではないこと(例えば、機嫌が悪いときに緘黙になるということはない)に注意。

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うちの息子の場合は、

3)の「英語が第二言語」、というバイリンガル環境が大きく影響したと思っています。

母親の私が日本人なので、赤ちゃんの時から日本語で話しかけ、イギリス人の夫(大学で日本語専攻)には「必ず英語で!」と念をおしてたんですが…。

しゃべり始めたときは、やはり日本語が先に出てきて、夫はいつの間にか日本語で話していました。でも、周りはイギリス人ばかりだったので、そのうちに英語も自然に話すようになると思っていたのです。

2歳になる前に現在の家に引っ越し、初めて親しい日本人の友達ができました。3歳になって幼稚園に入る頃には、日本語75%、英語25%くらいの割合だったように思います。

入園3ヶ月目に日本人の男の子がクラスに入り、即親友に。でも、台湾人の男の子も交えて3人で遊んでいたので、英語力もかなりついてきていました。

そして、4歳半で小学校に入学。親友とは違うクラスになって不安だったところに、英語の問題が浮上してきたのでした。

息子の学校では、早生まれの子は9月でなく1月入学という制度。そのうえ誕生日順に日にちをずらしてクラスに入れていくので、8月生まれの息子は1月下旬に最後に入ることに。もう友達関係がかなりできあがったクラスに入らなくてはならず、随分気後れしたと思います。

この年齢の子どもは、数ヶ月違うだけで体の大きさも、言語能力も、できることも随分違います。小さくて繊細な息子は、クラスのみんなが英語でベラベラしゃべっているのを見て、かなり萎縮したようでした。

登校一日目を終えたひと言目が、「マミー、僕の英語みんなみたいに上手じゃない…」でした。

息子の小学校は多国籍の子ども達が集まっていて、入学時に英語ができない子は結構いたはず—でも、普段から自己評価のひくい彼は、「自分が一番ダメ」と思い込んでしまったようでした。

新しい環境への不安に言葉の不安が重なって自己評価がぐぐっと下がり、毎日ものすごく不安だったんだろうなと思います。

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場面緘黙とは?(その3)

マギー・ジョンソンさんのワークショップから(その1)

ちょっと昔のことになるのですが、昨年5月に言語療法士、マギー・ジョンソンさんのワークショップに参加しました。

マギーさんはイギリスでは緘黙治療の第一人者と評されていて、アリソン・ウィンジェンズさんと共著した『場面緘黙リソースマニュアル(The Selective Mutism Resource Manual 2001)』は、緘黙支援のバイブルと呼ばれています。

イギリス国内で精力的にワークショップを開催し、SMIRAのイベントにも頻繁に顔を出してくださる、とても優しくチャーミングな女性です。

イギリスで放映された緘黙のドキュメンタリー番組、Channel 4の『Help Me Speak (2006年)』、BBCの『My Child Won’t Speak (2010年)』でもアドバイザーとして登場。『場面緘黙へのアプローチ-家庭と学校での取り組み(田研出版2009年)』のDVDにも登場しているので、ご存知の方もいるかもしれませんね。

マギーさんは独自に場面緘黙のカテゴリーを設けていて、それがとても総括的で解りやすいので、ここでご紹介します。

 <マギー・ジョンソンさんによる場面緘黙のカテゴリー>

  • 1) 場面緘黙の要素を持つ引っ込み思案
  • 2) 純粋な場面緘黙
  • 3) 言語に問題がある、または英語が第二言語であるケース
  • 4) 複合的な場面緘黙 - 自閉症スペクトラム障害(ASD)や学習障害(LD)などの障害が併存していたり、親の死など大きな心理的問題を抱えていたりするケース
  • 5)年齢があがってから発症する場面緘黙 (通常、不安が大きく、大人や子どもによるイジメに合って発症するケースが多い)

 注1: 心的外傷性緘黙 (Traumatic Mutism)と混同しないように注意。心的外傷性緘黙は場面緘黙とは異なり、治療は遊戯療法を中心とすることが多い。

 注2: 1) の「SMの要素を持つ引っ込み思案な子ども」は、「どの場面で話さないか、人や場所が決まっている」という場面緘黙の特徴を持たない。話せるかどうかは「すぐ話さなければならないプレッシャー」、「言われたことの曖昧さや複雑さ」、「話し相手の態度や性質」、「文化的な慣習」などに影響される。

 アメリカ精神医学会のDSM -VやICD-10(国際疾病分類)では、自閉症スペクトラムや学習障害などがある場合は、場面緘黙は二次障害として扱われます。マギーさんはこれを承知の上で、あえて場面緘黙のカテゴリーに加えているということでした。

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場面緘黙とは?(その2)

場面緘黙を診断する世界的な基準になっているのが、アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル、DSM (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)です。

このマニュアルが今年5月に改訂され、最新版のDSM-Vとして公開されました。

場面緘黙に関する大きな変更は、場面緘黙が「通常、幼児期・小児期、または青年期に初めて診断される疾患」というカテゴリーから、「不安障害」へと移行したこと。

SMIRAの最新ニュースレター(7/10付)によると、この変更に際してSMIIRAとマギー・ジョンソンさんが尽力されたようです。

カテゴリーの他はほぼ変更なしということなので、改定前のDSM-IVの(1994年)診断基準を書いておきます。

<DSM-IVによる場面緘黙の定義>

  •  他の状況では話すことができるにもかかわらず、特定の社会的状況(例えば、学校のように話すことが求められる場所)では一環して話すことができない。
  •  この障害によって学業や職業上の成績、または社会的な意志伝達が阻害されている。
  •  このような状態が少なくとも1ヶ月以上続いている(学校での最初の1ヶ月間に限定されない)。
  •  話せないのは、その社会的状況で要求される話し言葉や話す楽しさを知らないことによるものではない。
  •  コミュニケーション障害(例えば、吃音)が原因ではなく、また、広汎性発達障害、統合失調症やその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものは含めない。

『場面緘黙へのアプローチ-家庭と学校での取り組み-』(Rosemary Sage & Alice Sluckin/編著 かんもくネット/訳 田研出版 2009年)より引用

(上記は2002年に出版された『DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引き』(高橋三郎他訳)などを参考に、Knetの翻訳チームで訳したものです)。

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改めて見てみると、の「話す楽しさ」というのが何となく気になります。これはcomfort withの訳し方の問題かな…。

原文ではFailure to speak is not due to a lack of knowledge of, or comfort with, the spoken language required in social situation.

「話し言葉の知識がないためや、話し慣れないことによるものではない」の方が判りやすいかもしれません。

この診断マニュアルは短く簡潔に書かれているのですが、緘黙児はひとりひとり違っていて、症状もひとくくりにはできません。

「学校で一貫して話せない」といっても、仲の良い友達にだけ呟ける子、授業中に当てられたら答えられる子、無表情でほとんど動けない子、表情豊かなのに言葉だけが出ない子など、本当に千差万別です。

ちなみに、うちの息子は教室内では全く話せないのに、なぜか放課後の校庭では普通に声が出て、動けていました。

理由は多分、

  • 学校が終わり校舎から騒がしい校庭に出て、ほっとしていた
  • 母親の私がいた
  • 幼稚園時代の親友たちと日本語で遊べた

同じ学校内でも、人、場所、時間帯によって不安の度合いがかなり違うのです。項目を細かく分けて詳しく調べていくと、学校での支援のヒントになると思います。

もうひとつ、は緘黙児の保護者や当事者にとって、すごく気になるところではないでしょうか。

「コミュニケーション障害(例えば、吃音)が原因ではなく、また、広汎性発達障害、統合失調症やその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものは含めない」

原文ではThe disturbance is not accounted for by a Communication Disorder (e.g., Stuttering) and does not occur exclusively during the course of a Persuasive Developmental Disorder, Schizophrenia, or other Psychotic Disorder.

ややこしい言い回しなのですが、反対にいうと、広汎性発達障害、統合失調症や他の精神病性障害の経過中にも、場面緘黙になりうるということですよね。

ただし、この場合の場面緘黙は、広汎性発達障害、統合失調症や他の精神病性障害(一次障害)の結果として生じる二次障害と判断されるため、一次障害としての場面緘黙には含めないのだと解釈できます。

日本では「場面緘黙=広汎性発達障害」とみなす考え方もあるようですが、イギリスでは殆ど切り離して考えているようです。私はイギリスと日本の考え方の違いについて、ずーっと不思議に思ってきました。一次障害と二次障害で区別している他にも、様々な理由があるのではないかと考えています。

場面緘黙と発達障害の関連については、現在のところ世界でもまだきちんと解明されていないのではないでしょうか?これについては、おいおい触れていきたいと思っています。

 

 

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場面緘黙とは?(1)

かんもくネットが2008年に出版した『場面緘黙Q&A』に掲載されている場面緘黙の定義です。

  • 発症時期  多くは2~5歳、入園や小学校入学時、また小学校低学年までに発症します。
  • 出現率  男子より女子の方が多く、日本のこれまでの調査では0..2~0.5%くらい、近年の海外メディアでは0.7%をあげることが多いようです。仮に0.5%と考えると、200人に1人の割合です。
  • 特徴  場面緘黙は不安から生じる状態であり、恐怖症のひとつではないかと考えられています。子どもは話しているところを見られたり、聞かれたりすることに恐怖を感じます。
  • 原因  複合的な要素がかかわって生じます。子どもによって影響している要因が異なるが、多くの緘黙児が不安になりやすい気質を生まれつきもっているのではないかと言われています。

『場面緘黙Q&A』 かんもくネット著/角田圭子編 (学苑社 2008年)より引用

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うちの息子の場合、

  •  発症時期: 4歳半で小学校に入学して3週間後
  •  発症要因: 生まれながらの抑制的気質 + バイリンガル環境
  • 引き金となった要因: 込み合う滑り台の上でおしくらまんじゅう状態になり、押されて地面に落下

落ちたショックのためか、全く口をきかず泣きもせず、その場に立ちすくんでいたとか。一緒に遊んでいた幼稚園時代の親友(クラスは別)が先生を呼んできてくれました。

その翌日から教室で話せなくなり、更に緘動で動けなくなっていたようです。

息子のように、目立った出来事が引き金になる子もいますが、周りが気づかないうちに緘黙になっていたという子も多いようです。普通の感覚ではなんでもない友達や先生の言動が、不安が強く繊細な子どもには、恐怖体験となり得ます。

いつの間にか口をきかなくなっていても、家では話しているので親はすぐには気づけません。先生もすぐ気づいてくれないかもしれないし、情報が素早く保護者に伝わらないこともあるかと思います。

でも、緘黙治療は早期発見・早期支援が大切。

今年2月に放送された『ザ!世界仰天ニュース』で場面緘黙が取り上げられ、一般にも緘黙のことが少しずつ知られるようになってきたのでは?緘黙の正しい知識がもっと学校関係者にきちんと広がり、早期発見に繋がるようになればいいなと思います。

 

 

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はじめに

私が初めて場面緘黙という言葉に出会ったのは、日本語のブログでした。

小学校に入学したばかりの息子が、ある事件をきっかけに教室でひと言も話せなくなり、情報を求めてネットを彷徨っていた2005年の春のことです。

「ダイニングホールで耳を塞いでいた」と担任に告げられ、驚いて検索すると出てきたのは自閉症という言葉。またまたびっくりして色々調べてみましたが、どうも違う感じがする…。

だから、場面緘黙という言葉を見つけた時は、「これだぁ」と本当に嬉しくなりました。息子の症状に名前がついたのです。英語名がSelective Mutismと判ったおかげで、イギリスの支援団体SMIRAにコンタクトすることもできました。

それから3年くらいかけて息子は少しずつ回復していきました。その間に、かんもくネットに関わり、SMIRAとの親交を深めることになるとは思いもよりませんでした。よもや、自分が特別支援助手を目指すことになるなんて。

ブログを始めたのは、息子の緘黙を通じて経験したこと、学んだことを忘れないうちに記録しておきたかったから。ここ2年ほどスパム対策が強化され、海外からかんもくネット掲示板へのアクセスが困難になったのも一因です。

自分が見知らぬ人のブログで救われたように、どこかで誰かの役に立てたらいいなと願っています。

 

 

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