SM H.E.L.P. 2022年10月サミット

今日はイギリスの緘黙支援団体、SMiRA(Selecive Mutism Information & Research Association )の30周年記念日です㊗ どうもおめでとうございます🎊

故会長のアリスさんとコーディネーターのリンジーさんがSMiRAを創設してくれたお陰で、我が家を含めどれだけ多くの家族が助けられたか。

関係者の皆さんの努力に、本当に頭が下がります。長い間ありがとうございます。

秋も深まってきて、日暮れがどんどん早くなってきました

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10月は場面緘黙の啓発月なのでSMiRAでもオンライン講習会などを開催しているのですが、時間が取れないでいました。やっと先週末にSM H.E.L.P.の秋サミットを視聴できたので、紹介させていただきます。

今秋のサミットでは場面緘黙の経験者や保護者らが自らの体験や支援状況、取り組みなどを語ってくれました。絵本や活動本を出版したり、セッションなどを提供している人も多く、現在子どもの緘黙と格闘している保護者にはとても励みになると思います。

講演者: アメリカ在住のヴェロニカ(Veronica DeStefano)さん。3人の子どもの母親で次女のルーシーちゃんが緘黙

ルーシーは他の子とどこか違う――そう気付いたのは、ルーシーが3歳のころ。幼稚園に通い始めて1年の間、「すごく静かで、全然話さない」と言われ続けたとか。最初は「とてもシャイだけど、今に慣れるわ」と答えていましたが、結局最後まで慣れることはなかったのです。

全く応答しないため園ではアセスメントも図工もできず、自宅に送られてくることに。話せないだけでなく、行動の抑制もあり、ルーシーが園で何を学び、何ができるのか全く見当がつかない状態でした。

「本当に不思議だったわ。家では姉弟の中でも一番賑やかで、ものおじせず声も大きいの。頑固なところもあるわね。園に入るのを楽しみにしてたのに、園と家では全く別人のようで…」

4歳検診の際に医師に1年間ずっと園で話さなかったことを告げると、「それは内気なだけじゃない、違う症状です」といわれました。

幸運なことに、そのクリニックで働く同僚の息子が場面緘黙と診断されたばかりだったとか。医師は同僚に意見を聞き、同じ症状だと確認。ヴェロニカさんは場面緘黙に関する情報や専門家・セラピストのリストを入手することができたのです。

すぐに行動を起こし、デンバーの不安障害センターを訪問。そこで正式に診断が下り、翌月には娘と一緒にSMキッズキャンプに参加したそう。

キッズキャンプで出会った専門家の協力を得て、園での支援体制を整えることができ、家でもスモールステップでの取り組みを始めました。

ルーシーは順調に進歩し続け、現在はレストランで注文したり、クラスでの発表もできるように。支援チームができたことで先生とクラスメイトの理解も得られ、友達もできたということ。ただ、7歳になった現在、学年が上がって新しい校舎、新しい支援チームと環境が変わり、家で癇癪を起こすことも。始めて学校に行きたくないと言い始めたとか。

SM H.E.L.P. 主催者のケリーさんとのQ&Aから

<場面緘黙の知名度はまだまだ低い>

「ルーシーはいつも隅っこにいて、誰とも遊ぼうとしない」と教諭にいわれ、不安が募った。医師から「場面緘黙」という症状名を聞くまで、誰も知らなくて…。ネットを検索すると多くの情報やビデオが出てくるのに、何故教諭や医師が知らなかったのか疑問に思った。

<SMと恥ずかしがり屋の違い>

極端にシャイな子でも最終的には人や環境に慣れて、遊びに加わったり、話したりするようになると思う。でも緘黙児は違う。いつまで経っても慣れることができず、不安が強いまま。特に、顔の表情が違うと思う――恐怖のためか無表情でその場にいたくないのが明白に感じ取れた。

<SMキッズキャンプ>

キャンプに参加した時は最年少。1日8時間のセッションで、色々なことにチャレンジさせてくれた。例えば、犬と猫とどちらが好きか他の子達にステッカーで答えてもらったり、1ドルショップで買い物をしたり。チャレンジブックにたくさんのステッカーをもらえて、それが自信に繋がった。今でも時々眺めて「こんなに頑張れたんだね」と話すそう。キャンプでは途中で疲れてスタッフの膝で寝てしまったことも。

保護者のミーティングでは主催者が長時間の質疑応答に応えてくれ、とても有意義だった。また、ここで出会った専門家が園に来て緘黙についての講習を行ったことで、支援体制を整えることができた。

<家庭での取り組み>

短時間の間にキャンプで学んだエクスポージャー法を、帰宅してからさっそく日常生活で実行。それが大きなターニング・ポイントとなった。

例えば、レストランに行ったら「注文を取りに来た時、あの小さい女の子に水がいいか、レモネードがいいか訊いてくれる?」と事前にウエイトレスに耳打ちするなど。常時、何ができそうかを考えて計画を立てる。娘の前で「この子の名前を訊いてくれる?」と訊ねるのは自身も恥ずかしいけれど、母親が勇気を出している姿を見せることも大切という。

<IEPと支援体制の重要性>

園や学校に緘黙の知識をつけてもらえるよう働きかけることは本当に重要。関わるスタッフ全員にルーシーのニーズを知ってもらえ、学校全体で対処できるようになる。特に、IEP(個別教育支援プラン)を作ってもらえたことが大きかったと思う。

<著書:『ルーシー・レモンと勇気のシャボン玉』>

ヴェロニカさんは自らの体験を生かして緘黙支援本『ルーシー・レモンと勇気のシャボン玉』シリーズを3冊出版。1冊目は子どもにも判りやすく緘黙を、2冊目はエクスポージャー法を説明。3冊目はエクスポージャー法にスモールステップで挑戦する実践的な内容。

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みく感想:

やはり緘黙治療には早期発見・治療が必須だと思い知らされます。診断後すぐにSMキッズキャンプに参加したり、専門家と学校との懸け橋になるなど、ヴェロニカさんの行動力には脱帽です。アメリカでも、イギリスでもそうですが、まだまだ緘黙支援が得にくい地区もあり、保護者も大変。抑制的な傾向のある人も多いと思うのですが、保護者もスモールステップで勇気を出していきたいですね。

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イギリスの場面緘黙支援団体、SMiRAからの声明文

もう9月も後半ですね。イギリスでは19日にエリザベス女王の国葬を終えてから、穏やかな秋の日が続いています。

 空には一面のうろこ雲。秋バラが咲く中、バラやボケの実が変わりゆく季節を感じさせます

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先週の水曜日、9月21日にSMiRAのFBでコーディネーターのリンジーさんから声明文が発表されました。

「話したがらない(reluctant speaker*)」「話すことに回避的(reluctant talker*)」という表現に関するSMiRAからの声明

SMiRAでは、このところ場面緘黙と同じ意味あいで「話したがらない」「話すことに回避的」という表現の使用が増えてきたことに気づきました。これらの表現を使うことは、誤解を招いたり、場面緘黙の子・人たちは「話せない」のではなく「話すことを拒否している」という誤った考えを助長したりするため、有益ではありません。

会員の家族の多くは、「Selective Mutism 場面緘黙」という症状名は理想的ではないと考えています。というのも、「選択的  Selective(日本語訳は場面)」という言葉は、まだまだ混乱を招きやすいからです。Selective Mutism/ SMにおける「Selective 選択的」とは、あるものには影響を与え、他のものには影響を与えないことを意味する医学用語です。何かを選ぶときに用いる「選択」を指しているのではありません。これは重要な違いです。

「Selective Mutism  場面緘黙」という名前は、アメリカ医学界の診断統計マニュアル(DSM 5)や国際疾病統計マニュアル(ICD 11)により、国際的に認定され、診断基準が設けられています。SMiRAでは、正式に名前が変更されるまでは、この名前を使用すべきだと考えます。

これまでの研究から、場面緘黙はその複雑さ、症状の現れ方、発生に寄与する要因などの点で差異が広範囲にわたることを示す証拠が増えています。単純にタイプ分けしたり、スペクトラムだと説明できないことが明らかになってきました。従って、診断基準に適合するすべてのケースを場面緘黙(SM)と呼ぶべきです。ただし、SMiRAでは現在のところ、ジョンソン&ウィンジェットが2016年に『場面緘黙リソースマニュアル第2版』『ハンドアウト3』で定義した記述「Low Profile Selective Mutism(認識されにくい場面緘黙)」および「High Profile Selective Mutism(認識されやすい場面緘黙)」を引き続き使用します。場面緘黙は今なお見過ごされたり、誤解されがちな症状です。これらの記述を使うことで、若者が緘黙かどうか見分ける際に、話すことが困難な状況で全く無言である必要はないことを明確にすることに役立つはずです。

SMiRAでは過去30年にわたり、場面緘黙は話すことを拒否しているのではなく、(全く話せない、もしくは自由に)話すことができない不安障害としての認識を高め、風説を払拭し、場面緘黙の特性に関する誤った情報に異議を唱える努力をしてきました。今後も精力的に取り組んでいく所存です。

*speaker・talker(話し手)をより解りやすいと思われる表現にしました

SMIRA statement regarding the use of the terms ‘reluctant speaker’ and ‘reluctant talker’.

SMIRA has an increase in the terms ‘reluctant speaker’ and ‘reluctant talker’ being used as synonyms for Selective Mutism. We find the use of these terms is unhelpful, as they may be misleading, he mistaken belief that people with SM may be refusing to speak, rather than being unable to do so.

Many of our families feel that ‘Selective Mutism’ as a name for the condition is not ideal, as there is still confusion over the word ‘Selective’. In SM, ‘Selective’ is being used as a medical term to mean affecting some things and not others. It does not refer to selecting, as in making a choice. This is an important distinction.

The name ‘Selective Mutism’ has international recognition and diagnostic criteria within the Diagnostic Statistical Manual (DSM 5) and the International Classification of Diseases (ICD 11). SMIRA believes that until such time as the name is changed officially it should be the term used.

There is increasing evidence from research to suggest that SM varies widely in complexity, in how it presents and in the factors that contribute to its occurrence. It has become clear that SM cannot be simply divided into types or described as a spectrum and therefore all cases that fit the diagnostic criteria should be entitled ‘Selective Mutism’ or ‘SM’. However, at present, we will continue to use the descriptors ‘Low Profile Selective Mutism’ and ‘High Profile Selective Mutism’ as defined in the Selective Mutism Resource Manual 2nd Ed., Handout 3, Johnson & Wintgens (2016). SM is currently still an often overlooked and misunderstood condition, so we feel that the use of these terms helps to ensure that it is clear that young people do not have to be completely silent in their challenging spaces to “qualify” as having SM.

Over the past thirty years SMIRA has striven to raise awareness of SM as an anxiety disorder in which the person is unable to speak (either at all or freely) rather than refusing to speak, and to dispel myths and challenge misinformation around the nature of SM whenever possible, and we will continue to do so vigorously into the future.”

最近ではASD(自閉症スペクトラム)などの発達障害と場面緘黙を併発するケースの研究や、脳医学的な研究が進み、これまでの場面緘黙の定義が揺らぎ始めているという印象を受けます。それが上記の声明文からもうかがえますね。

もしかしたら、近い将来に場面緘黙の診断基準や定義が変更されるかもしれませんね。ただ、治療法としてCBTを利用したスモールステップ法が有効なのは同じじゃないかなと感じています。

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緘黙のカテゴリーはひとつだけ

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10月は場面緘黙の啓発月間です

早いもので今年もすでに3か月を切りましたね。秋も深まってきて、朝夕は暖房を入れるようになりました。イギリスではマスクをしない人が増えてきて、コロナ感染者の数は一向に減らず…。毎日の感染者数は3万~4万人と高いままで、冬に突入したら一体どうなっちゃうんだろうと不安です。

        雨上がりにみかけた二重の虹と玄関のステンドグラスの光

さて、10月は場面緘黙(メンタルヘルス全般)の啓発月間。イギリスのチャリティ支援団体SMiRAでは、オンライン講習会を複数開催中です。

10月2日に行われた第一回目の講習会は、SLT(言語聴覚士)のスザンナ・トンプソンさんによる『場面緘黙の案内(An Introduction to Selective Mutism)』。参加者は保護者、専門家、学校関係者、緘黙経験者など30名ほど。最初に録音された講習ビデオを観て、その後に質疑応答という形式でした。

ビデオを観ている間に質問があればタイプしていき、ビデオが終わった時点でスザンナさんが質問に応答。質問者とのやり取りは少なかったものの、全部の質問にテキパキと答えてくれました。

まだ緘黙歴が短い園児や小学生を対象とした講習会でしたが、その中で興味深かった点をご紹介します。

1) 園や学校での緘黙教育を徹底する

まずは園や学校スタッフ全員に場面緘黙を知ってもらい、子どもに対して誰もが一貫した対応をすることが重要。緘黙児は緊張すると、固まったり、無表情になったり、下を向いたり、視線を避けたりと様々。中には、笑顔に見えたり、ニヤニヤしているように見えたりする子も。緊張と不安に対する反応はそれぞれ違うことを理解し、まず緊張をやわらげることを考える。

緘黙をいち早くキャッチし、すぐに保護者に知らせて支援を始めることが大切。発見が早ければ早いほど、回復も早い。

2) 専門家との関わり

SLTや小児心理士など、専門家が子どもと1対1でセッションを行う必要はない。これは緘黙状態がまだ固定していないため。専門家は主に保護者や学校にアドバイスし、緘黙を理解させ支援の指示をする。まずは子どもを取り囲む環境を変え、「話す」プレッシャーを取り除けば、改善は早い。

専門家がいなくても、周囲の理解と協力があればマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさん共著の『場面緘黙リソーズマニュアル(Selective Mutism Resource Manual)』で充分対応できるとのこと。(学校の別室で保護者やキーワーカーが子どもと週3回、10~15分ほどの『スライディング・イン』法セッションを行うことを奨励)。

3)  子どもに自信をつけさせ、自己評価をあげる

どうせ答えないからと、とばしたりせず常に参加させること。できるだけ時間をあたえ、頷きなどでも応えられたら、言葉がけを忘れずに(褒められるのを嫌がる子も多いので、さりげなく)。

子どもは目立つことや他の子と違うことを嫌がる。保護者と子どもと取り決めをしておき、子どもが一番やりやすい方法(カード、秘密のシグナルなど、性格や年齢によって異なる)でコミュニケーションを取れるようにする。常にスモールステップで進むことが大切。

また、保護者や友達が緘黙児のために代弁するのは良くない(話さなくてもいい状態に慣れてしまうため、緘黙を強化する原因になる)。常に話す/ コミュニケーションを取れる機会を与え続けること。

4)トイレの問題

園や学校でトイレに行けない緘黙児は多い。カードや秘密の合図を使える子どももいるが、全員に有効という訳ではない。まず覚えておきたいのは、緘黙児は自分から行動を起こすのが難しいということ。

一番いいのは、先生がクラス全員にトイレタイムを促したり、二人一組でトイレに行かせたりする方法。みんながやれば不安は下がるし、誰かと一緒だったら行きやすいかもしれない。

それぞれの子どもによって違うので、まず何が不安なのか子どもに確認する必要がある(大人が思ってもみないことを不安に感じている子も)。どうしたら一番楽か子どもと話し合って対策を決めると良い。

スザンナさんは園児から大人まで場面緘黙に苦しむ多くの人たちの治療にあたっていますが、やはり早期発見・介入することが最重要と強調していました。現場に緘黙の知識があれば、専門家が関わらなくても改善は早いのです。学校側の支援体制も問題ですが、保護者も気づいた時点でいち早くアクションを起こすことが大事です。

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10代で発症する場面緘黙

6月も下旬に入った今週、ロンドンは32度の猛暑日を記録中。まだロックダウン中なのにも関わらず、大勢の人々が海辺に押し寄せて、社会的距離など頭の片隅にもない様子…第二波が来ませんように!

   我が家の小さな中庭に植えた紫陽花、アナベルは今年も増殖中。夜9時過ぎまで明るいので、夕食のあと庭に出て涼んでいます

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最も場面緘黙を発症しやすい年齢は2~4歳と、イギリスでは入園や就学を経験する時期と重なります。マギーさんは、これに加えて小学校からセカンダリースクールへの移行期(11~12歳頃)に緘黙になる子がいると指摘。日本だと小学校から中学校への移行期ですね。

この年齢は多感な思春期と重なり、身体的・精神的に最も影響を受けやすい年ごろです。

イギリスの小学校はおおむね小規模で1学年1~2クラスしかないところもざら。学校職員は全校生徒だけでなく、保護者の顔と名前まで覚えていて、とてもアットホームな雰囲気。そんな家庭的な環境の小学校から、大規模なセカンダリー(12~16歳・5学年)への移行は、どの子にとっても大きな変化の時期です。

特に、Comprehensiveと呼ばれる公立校に進学する場合、全校生徒数が1000人前後に膨れ上がることも。日本の中学の様にベースになる自分の教室はなく、教科ごとに教室を移動するシステム。校舎も複数棟あり、どちらかというと大学に近い感じです。また、複数の小学校から生徒が集まるため、交友関係もより複雑に。

マギーさんとアリソン・ウインジェンズさんが共著した『場面緘黙リソースマニュアル』第二版では、場面緘黙のカテゴリーをひとつに統一(詳しくは『緘黙のカテゴリーはひとつだけ』をご参照ください)。その中で、新たに追加されたのが、認識されやすい場面緘黙 (High-profile selective mutism)と 認識されにくい場面緘黙(Low-profile selective mutism)です。

(「目立つ緘黙」と「目立たない緘黙」ともいえそうですが、日本語訳がまだ決まっていないので、直訳で高プロフィールと低プロフィールとした方がいいのかも…)

認識されにくい場面緘黙(Low-profile selective mutism)は、出席の返事や短い答え、音読などができ、学校でもなんとか声が出せる状態。促されると少しだけ話すため、周囲は場面緘黙だとは思いません。

マギーさんの説明によると、このタイプは性格的な要素が強く、同調的で人の期待に応えようとする傾向が強いとのこと。頑張って質問に応えようと、何とか単語や短い言葉を絞り出すのです。

実のところ、話さない結果への不安が話す恐怖に勝るために声が出るのですが、このバランスは微妙で、答えに自信がある時しか作用しません。

よく観察すると、声が小さい、視線を合わせようとしない、無表情、身体が硬直しているなど、極度に緊張しているのがわかります。特徴的なのは、いつまでたっても緊張が持続し、自発的に発言したり、話しかけたり、長い文章で答えたりと、普通に話せるようにならないこと。

小学生時代はこの状態で何とか切り抜けることができても、セカンダリーに入ると対応しきれなくなり、認識されやすい場面緘黙 (High-profile selective mutism)へと移行する危険があります。

たまたま環境が良く、本人の努力で症状が改善していくこともあるかもしれません。でも、声が出ているから大丈夫だろうと、支援せずに放っておくことは大変危険です。

トイレなど必然の要求を発したり、指示に従って短いメッセージが言えても、親しい友達や家族を除いては、相互的な会話をすることができません。「~(して)ください」や「ありがとう」など、何でもない依頼や挨拶も困難です。

声が出せるから緘黙症状は軽いとみなされがちですが、大きなストレスを抱えて身体的な症状が出たり、不登校になってしまう子も。話さないことに慣れて緊張が少ない緘黙児と比べ、決して軽症だとは言えません。

助けや許可を求めたり、いじめや病気を報告したり、自ら説明することができないため、同級生や教師の理解を得られにくいのです。そのため、虐めの対象になったり、無視されたりと、危険にさらされる可能性が高くなります。

子どもの人格形成に非常に大切な自己評価が下がってしまう傾向も…。また、心のバランスを崩して、二次的な不安障害を発症してしまう可能性も出てきます。

認識されやすい場面緘黙 (High-profile selective mutism)の子が、まだ緊張は続くものの、スモールステップで何とか声がでるようになった状態も、認識されにくい場面緘黙(Low-profile selective mutism)といえます。場面緘黙を完全に克服できた訳でなく、環境によっては逆戻りしてしまうケースも。

人・場所・活動に関わらず、子どもが自信をもって自由に受け答えできるようになるまで支援を止めないことが大切です。

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どうして場面緘黙になるの?

緘黙児とロックダウン

ロックダウン8週間目にして、先週から第一段階の解除が始まったイギリス。気持ちのいい初夏の天候に誘われて、人々は風光明媚な海辺の町にどっと押しかけているよう。今週末は三連休なので、第二の感染の波が来ないか心配です…。

さて、先週から大きな問題となっている学校の再開。やはり6月1日からスタート予定で、各学校は準備に追われています。

政府の方針では、まず小学校(5~11歳)から再開するとしています。全学年ではなく、最も若いレセプションクラス(5歳)と1年生(6歳)、そして来年全国試験を受ける予定の6年生(11歳)を優先。

一度に教室に入れる人数を最大15人までに抑え、4~5人の小グループに分けて他のグループと交わらない様にする、下校の時間を早めるなど、様々な対策を考えているよう。

また、セカンダリースクール(12~16歳)は10年生を、6thフォームやカレッジ(17~18歳)は12年生を(両学年とも来年全国共通試験を受ける予定)、夏休み前に学校に戻す計画を立てています。

私が日本語を教えている特別支援学校でも、子ども達や担当の教師・TAのグループ分けや、様々な規則が決まりました。給食は当分ストップするため、保護者は毎朝お弁当を作らなければなりません。学校にはキッチンがあるのですが、こちらも使用禁止。

ただ、登校は強制ではなく、保護者の希望で安全性が証明されるまでは当面登校しない、または9月まで登校しないという子ども達も。

ヨーロッパの他の国々と比べると、イギリスでは毎日の感染者数も死者数も充分には減っていません。教師も生徒も全くマスクなしで授業を再開と言うのは、やはり心配…。

さて、ロックダウンの期間中、緘黙児の保護者達が集うSMiRAのFBページは、「ロックダウンのお陰で、子どもが元気になった!」という報告が相次ぎました。

学校に行く不安がなくなり、家で大好きな家族と一日一緒に過ごせるという安心感からでしょう。社会的なプレッシャーから解放され、のびのびと過ごせた子が多かったよう。

それと同時に、それまで学校で積み上げたスモールステップの成果が水の泡になりそう、と心配する保護者の声も…。

SMiRAでは、ロックダウン中に家庭の快適ゾーンに引きこもってしまわない様、自分の子どもにあった小さな不安を克服するスモールステップを計画・実行するようアドバイス。ロックダウン中はオンライン授業やオンライン受診に切り替わったため、SLTのマギー・ジョンソンさんからは、これを利用して発話に繋げるようにとの提案も。

その成果か、緘黙児が先生や心理士、セラピストに対して初めて声を出せたという報告もチラホラ。直接顔を合わせるよりも、PCやタブレットの画面越しの方が不安が少ないんでしょうね。

また、ティーンの緘黙児には、自立に向けて徐々に苦手なことや家事に挑戦させるという提案もありました。

緘黙児は新しい環境に慣れるのに時間がかかります。なので、長い休みの間にそれまでの進歩が逆戻りしてしまうことも珍しくありません。でも、もし後退してしまったとしても、そこまで達した経験があれば、またきっと戻れるはず。だからスモールステップでの前進体験は絶対無駄ではないと思うのです。

私の日本語の生徒たちは、オンライン授業では大体自分のカメラをオフにしています(写真嫌いと、多分パジャマ姿を見られたくない?)。この方法だと、緘黙児は自分の顔を見られることなくやり取りできるので、すごく気が楽なのではないでしょうか?

もし電話でなら話せる友達や親戚がいる場合は、下記のようなスモールステップができそうです。

  1. 端末やタブレット、携帯でまず音声だけで話をする(途中から、相手のカメラをオンにしてもらい顔が見えるようにする)
  2. 慣れてきたら、相手の画像を見て話す(自分のカメラはオフ、不安が強い場合は最初はマイクもオフにして声を出す練習をする)
  3. 慣れてきたら、自分のカメラもオンにする
  4. 同じ建物内で1~3を繰り返し徐々に距離を縮め、最終的には同じ部屋へ
  5. 最初は背中合わせにタブレットを通じて会話、最終的には実際に顔を見て話す

電話でも話せない場合は、まず文字のメッセージ交換から始めてもいいですよね。

6月から登校を予定しているイギリスの緘黙児たちは、今大きな不安をつのらせています。でも、4~5人の小グループ活動が多くなりそうなので、発話のチャンスかも。親しい友達と同じグループにするなど、学校側が配慮してくれるといいですよね。

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ロックダウン解除へ第一歩

緘黙のカテゴリーはひとつだけ

イギリスで緘黙治療といえば、言語療法士のマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが共著した『場面緘黙リソースマニュアル(The Selective Mutism Resource Manual)』なくしては語れません。

2001年に出版されて以来、その実用性が高く評価され、緘黙治療のバイブルと呼ばれてきました(詳しくは『場面緘黙とは?(その3)』をご参照ください)。実際の取り組みで得た知見やエビデンスをベースに、子どもの不安を軽減する多様な手法を体系化して掲載。2016年10月に出版された第二版では、ティーンや成人にまで範囲を広げ、多くの資料を追加しています。

実は、この第二版から場面緘黙のカテゴリーが変わりました。そのことを書かなくちゃというのは頭の隅にあったのですが、既に二年以上が過ぎてしまったという…(^^;)

2001年の初版では、「場面緘黙の要素を持つ引っ込み思案」から「年齢があがってから発症する場面緘黙」まで5つのカテゴリーがありました。それが、2016年の第二版からはひとつに統一されたのです。

SAD(社会不安障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)、言語関連の障害などを併発するケースも、年齢があがってから発症するケースも、全て同じ場面緘黙と捉える考え方です(注:トラウマが原因の緘黙(Traumatic Mutism)は除外)。早期発見・介入が治療の鍵になることは、以前と変わりません。

興味深いのは、カテゴリーはひとつに統一されたものの、認識されやすい場面緘黙(High-profile selective mutism*)と 認識されにくい場面緘黙(Low-profile selective mutism*)が新たに追加されたこと。(*High-profileとLow-profileの翻訳に関して、ぴったりくる訳が見つからないので、「ハイプロフィール」「ロープロフィール」とカタカナ表記の方がいいかもしれません)。

SMiRAのウエブサイトからダウンロードできる資料『ハンドアウト3 大人しい子?それとも緘黙?(Handout 3  “Quiet Child or Selective Mutism?”)』からその部分を抜粋しますね。

http://www.selectivemutism.org.uk/info-quiet-child-or-selective-mutism/

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<大人しい子どもは、どの時点で場面緘黙と判断されるか?>

緘黙児はひとりひとり違いますが、以下の共通点がある

★特定の人とは自由に話せるのに、それ以外の人とは話せない(よく2重人格といわれる)

★話せる状況と話せない状況の明確なパターンがある

★発話が期待されるイベントへの参加に回避的、または消極的

★自由に話すことの困難さが理解されないと、大きな苦痛を感じる

<認識されやすい緘黙児と認識されにくい緘黙児>

認識されやすい場面緘黙(High-profile selective mutism)

これらの子どもや若者たちは、特定の人々とは全く話しません。会話パターンのコントラストが明確なため、簡単に場面緘黙と認識できます。例えば、教育の現場では子どもとは話すのに、大人とは話さない。校庭では友達と自由に話すのに、他の人に聞こえる室では話さない、といった具合に。また、良く会う親戚とは話すのに、あまり会わない親戚とは話さないなど。通常は、他人に聞こえないところだと、すぐさま両親と話します。

いったん緘黙だと認識されれば、この子たちの沈黙は不安のためコミュニケーションが難しいからだと理解されます。

認識されにくい場面緘黙Low-profile selective mutism

これらの子どもや若者たちは、促されると少しは話すので、大人は「恥ずかしがり屋」「大人しい」または「反抗的」と捉えがち。認識されやすい緘黙児と同様に、話すことが強い不安を引き起こすのに、それを理解されにくいのです。彼らは期待に応えようとする思いが強く、なんとか言葉を絞り出します。実のところ、話さない結果への不安が、話す恐怖に勝るために声が出るのですが、このバランスは微妙で、話題に自信がある時しか作用しません。学校では出席の返事をしたり、要求に応じて音読したり、シンプルな問いに答えたりすることがあるかもしれません。しかし、普段より声は小さく、アイコンタクトも減ります。トイレなど必然の要求を発したり、指示に従って短いメッセージを伝えたりすることもあるかもしれません。しかし、親しい友達や家族を除いては、相互的な会話をすることはなく、自分からは話しかけません。「(して)ください」や「ありがとう」といった、何でもない依頼や挨拶が非常に難しいのです。いじめや病気を報告したり、助けや許可を求めたり、自ら説明したりできないことを解ってもらえるまで、彼らは危険にさらされます。困難に気付かれず、自分を守る発言ができないため、支援どころか懲戒されてしまうかもしれません。

もっと大きな声で話しなさい、もっと貢献しなさいと繰り返し奨励することは、更に子どもを苦しめるだけです。彼らの困難を誤って把握し続けると、ますます話さなくなり、不登校が多くなり、どんどん自信を失っていく可能性があります。

認識されやすい場面緘黙の子どもが適切なサポートを受けると、最初は質問には答えるけれど自分から会話を始めることはない――認識されにくい場面緘黙の子どもの症状と似た感じになります。

場面緘黙の子どもや若者を支援する際、認知しやすい緘黙も認知しにくい緘黙も、不安のないコミュニケーションと活動参加を可能にするために、同じ支援が必要です。まずは、 話すことに対する全てのプレッシャーを取り除いてください。その後、各自のペースで段階的に話すことへの恐怖と向き合わせます。 重要なのは、場面緘黙が本人の性格ではないことを説明し、自覚させることです。 場面緘黙は、彼らが幼少の頃に経験した「恐れ(例えば、暗闇や花火のように)」のように、乗り越えることができるものだと。

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緘場面緘黙とは?(その3)

2019年SMiRAコンファレンス(その12)緘黙のティーン・成人の大学進学

昨日、イギリスでは今年の最高気温、34度を記録しました。刺すように暑い陽射しの中、徒歩とバスを使ってウォーキング仲間と近隣のオープンガーデンへ。木陰でいただいた紅茶とケーキが美味しかったです。お隣のフランスは45度を超えたそうで、地球温暖化を防がないと今後どうなってしまうのか恐ろしい…。

さて、今回で今年のSMiRAコンファレンスの記事もやっと終わりです。長い間おつきあいくださった方、ありがとうございました。

   SLTのマギー・ジョンソンさん(中央メガネの女性)に支えられ、プレゼンや講演に臨むSMiRA会員たち。(左端ナターシャさん、中央奥ジェーン・サラザーさん、右端クリスティーナさん)

4) 緘黙の大学生による短い講演とプレゼンほか  SMiRA会員

場面緘黙を抱えながら大学で学ぶナターシャさんとクリスティーナさんは、10代後半に緘黙を克服し始めました。かなり話せるようになったものの、いまだその影響が残るといいます。

  • ナターシャ・デールさん(23歳) イーストアングリア大学 心理学専攻

2017年のコンファレンスでも講演したナターシャさん(23歳)(詳しくは『ナターシャ・デールさん (21歳)の緘黙克服』をご覧ください)は、最近になってASDの診断も下りたそう。イギリスの大学では、1年目は大学の寮で共同生活を経験することを推奨しています。生徒の部屋は個室か少人数でのシェアですが、キッチン、居間、バスルームはグループで共用。彼女はこの共同生活がとても辛かったと語ってくれました。

見知らぬ人たちと生活を共にする不安に加え、常に聞こえる人の声や生活音が気になり、部屋から出るのが怖かったとか。また、ルームメイトの場面緘黙に対する理解が浅く、孤独を感じたとも…。

その反面、大学には障害を持つ学生への支援サービスがあり、支援者に相談できるメリットも。偶然にも、クリスティーナさんと同じ大学だったため、頻繁に会うことができたのも大きな助けになりました。

  • クリスティーナ・キム=シムズさん(24歳) イーストアングリア大学 アート修士課程専攻

クリスティーナさんは、自分の作品も含めた画像を使ってプレゼンを行いました。アートが場面緘黙を克服する助けとなり、話す代わりに自分を表現できる媒体となっています。また、FBグループやSNSで多くの人と知り合い、支援を受けたとか。8月にはロンドンで個展を開く予定で、今後の活躍が楽しみです。

(余談ですが、私がコンファレンス会場に着いて受付に行くと、クリスティーナさんがいました。どうやら不安が大きく、受付にいたリンジーさんに空き室(控室)はないかと相談中のよう。こうやって、自分から配慮をお願いできることは強みだなと思いました)

この後、会場にいないメンバー2人の話もありました。

  • サブリーナ・ブランウッドさん(39歳)  オープン・ユニバーシティ 心理学専攻

2015年にBBCのドキュメンタリー番組で緘黙の成人として紹介され(詳しくは『BBCが大人の場面緘黙を紹介』をご参照ください)、2016年のコンファレンスに登壇(詳しくは『サブリーナさんのプレゼンテーション』をご参照ください)したサブリーナさん。彼女はオンラインでの通信教育を選び、週に一回メンタルヘルスの支援を受けているそう。

  • スザンナさん(19歳) バース大学  文芸科専攻

彼女もまた大学での寮生活が大きなネックとなりました。不安で共同キッチンに行くことができず、誰かに聴かれるのではという心配から、母親に電話することも、音楽をかけてリラックスすることもできなかったそう。寮を出て、出席できない時は講義をスカイプで聴講するなど、現在はうまく対応できているとのことです。

みく備考:

場面緘黙の人は、ASDの特性でもある感覚過敏を持つことが多いとされています。年齢があがるにつれて症状が和らぐことも多いようですが、不安な状態になると過敏さは増す傾向に。

また、生まれ持った不安になりやすい性質は、成長してもそれほど変わらないとも言われます。自分なりの対処法を身に着けていけば、徐々に社会不安とうまく付き合っていけるようになるのかな…。

新しい環境に慣れるまで頑張れればいいですが、無理は禁物。どんな配慮が必要か、どこまで我慢できるか――人によって違うので難しいですが、なんとか落ち着ける環境を整えられるといいですね。でも、それには周囲の理解が必須です。

夢に向かって一歩一歩進んでいる彼女たちの姿は、今緘黙で苦しんでいる子どもや成人、保護者に大きな希望と勇気を与えてくれたと思います。

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もう6月も終わりに近づいてきましたね。今週はヨーロッパ全体が猛暑に襲われているのですが、何故かイギリスは最高気温が22度ほど。でも、明日は33度に達するらしいです。

  

好天に恵まれ、友達の市民農園ではブラックベリーが豊作

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午後の部では、『大学生活をスタートするにあたって』と題して、約2時間に渡り緘黙のティーンの進学・進路について、複数の短い講演とディスカッションが行われました。イギリスの教育システムは日本のシステムと違うため、さらっとまとめたいと思います。

  1. 当事者が場面緘黙の理解を求める手紙/ メール
  2. 16歳からの進路、申請、インタビュー等について
  3. 大学における支援
  4. 緘黙の大学生らによる短いプレゼン

1) 当事者が場面緘黙の理解を求める手紙/ メールのテンプレート  SMトーキングサークル代表 ジェーン・サラザーさん Template for a letter/e-mail

ジェーン・サラザーさんは45歳で緘黙を克服し、成人のための支援グループ、SMトーキングサークルを主催する女性。昨年のコンファレンスにも登場しています(詳しくは『2018年SMiRAコンファレンス(その7)』をご参照ください)。

今回は、サークル活動から生まれた成果、「緘黙を理解・配慮してもらうための手紙/メールのテンプレート」を紹介してくれました。このテンプレートが役立ったというサークル員の声も多数あがっています。

緘黙の人が進学、アルバイト・就職、ボランティア活動、病院の受診などをする際、やはり話せない/うまく言葉が出てこないことがネックになりがち。そのため、事前に手紙やメールで自分について(緘黙・得意分野・希望・配慮して欲しいことなど)説明し、理解と配慮を求めるという趣旨です(テンプレートは状況に合わせて変更可)。

<テンプレートを使う前に、まず考慮すべきこと>

  • 手紙/メールを読んでもらった後、期待することは?
  • 相手に伝えたい自分の特技、才能、ポジティブな態度など
  • 相手に解ってもらいたいことは?(誤解されたり、実際とは異なる印象を持たれる不安を解消)
  • 前回コンタクトを取った際、伝えられなかったことは?

<テンプレートの重要部分>

  • 場面緘黙の説明(SMは公式な障害)
  • 自己アピール(SMが自分の能力の妨げにはならないことを強調)
  • 配慮して欲しいこと(教育、就労の機会均等を強調)

みく備考:

このテンプレートでは、場面緘黙が公式な障害であること(SM-officially a disability)を明記し、そのための配慮を自分からお願いします(例:面接の質問を事前に送ってもらう/ 大学のグループ活動では話すように強要しない等)。

ただ、イギリスでも「そこまで配慮してもらえるのかな?」と思われる事項もあり、日本ではちょっと難しいかなと感じてしまいました…。

自己アピールの箇所では、自分のやりたいことや得意分野を説明。「〇〇する(例:仕事/入学/ボランティアなど)にあたり、場面緘黙が私の〇〇(例:勉強/働き/理解力/責任能力/思考能力など)に影響しないことを保証します」と結んでいます。

緘黙の人は自己評価が低い傾向にあり、特に就活の場合は「保証します」とは言いづらいかも…。日本における緘黙の認識状況や文化的な背景を考慮して、独自のテンプレートを考案できるといいですよね。

進学、ボランティアや病院での受診の際、事前に緘黙のこと・自分のこと・配慮して欲しいことを告げるのは、とてもいい方法だと思います。

2) 16歳からの進路、申請、インタビューについて  SMiRAチーム

3) 大学での支援   レスター大学学生支援サービス、シャロン・スタージェスさん

イギリスの教育システムについてなので、大部分を省きますね。重要部分は緘黙のティーンが持つ権利について:16歳で受ける全国試験GCSEや大学進学のためのAレベル試験では、SMを理由に試験時間の延長や個室での受験などが可能。また、大学やカレッジ(専門科目・就労コースなど)では、教育の均等機会を重視するため、事前に場面緘黙だと告げることで、一定の配慮を受けられます(各学校によって異なる)。

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2019年SMiRAコンファレンス(その10)緘黙のティーンの声

6月ももう半ばを過ぎたというのに、イギリスではまだ肌寒い天候が続いています。去年は春から夏まで天候が良かったので、また通常運転に戻ったかなという感じかな…。

   ケンジントンにあるデザインミュージアム。スタンリー・キューブリック展は見ごたえがありました

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「教師に伝えて欲しいこと」 SLT リビー・ヒルさん “What would you have wanted me to tell your teachers?”

リビー・ヒルさんは、CBTやアニマルセラピーなど多面的なアプローチでSM治療に取り組むSLT(言語療法士)。彼女が主催する言語療法センター、Small Talkの取り組みについては、 4年前に記事にしました(詳しくは『SMIRA2016年コンファレンス(その2)』をご参照ください)。

リビーさんは緘黙のティーンの治療にも多く関わっており、全員にかなりの改善があったと報告。今回の講演では、30名の緘黙のティーンの協力を得、治療の現場から彼らの生の声を届けてくれました。

<緘黙のティーンと保護者への質問>

1) SMを発症した時期は?

幼稚園・小学校入学時 / セカンダリースクール(12~16歳)入学時(原因:社会不安、虐め、ASDなど)

2) 今もSMの影響を感じているか

  • ティーン自身がまだSMだと感じている 22人
  • 保護者がまだSMだと感じている     6人

<緘黙のティーンの声>

  • もっと緘黙を理解して欲しい(話すことを拒否している訳ではない)
  • 緘黙症状の改善には担任の役割が大きいと感じている(75%)
  • 学校での不安を減少させることが、自信につながる(95%)
  • クラスでの席順はとても重要 → どの席がいいか訊いて欲しい
  • クラスで目立つのが嫌 → 支援も、褒める時も他の子に判らない様にして欲しい
  • 長期に渡って同じ支援スタッフをつけて欲しい。継続して関係を保ちたい(75%)
  • 自分から助けを求めることができない(100%) → 先生から聞いてくれると助かる
  • 先生に何か聞かれて応えることができなければ(非言語も含め)、とばして欲しい
  • 先生やTAとコミュニケーションを取るツールが欲しい(75% 例:WhatAppなどのSNS機能)
  • 場面緘黙であることで、周囲から好奇/哀れみの目で見られていると感じる(67%)
  • 信頼できる友達がいると安心(100%)
  • 小グループ活動の時に信頼できる友達と一緒だと安心(93%)
  • 放課後の活動に参加したいけど、できない(67%)

リビーさんから:

クラスにひとりだけでも信頼できる友人がいると、学校生活がぐんと楽になる。緘黙症状の改善には小グループ活動が効果的。休み時間、特にお昼休みはSMのティーンにとってトリッキーな時間。他の子たちと一緒にご飯を食べられないこともあるので、適切な配慮を。また、課外活動では、話せなくても役割を考慮してあげると良い(演劇部だったら、照明や音響、衣装係など裏方の仕事を)

不安を感じている状態だと、情報処理に時間がかることが多い。課題を与える時は、何を求められているかを明白にすること。SMのティーンは目立つことを嫌がるので、クラス全体に指示を出した方がいい。また、次にする活動を事前に教えておくと安心できる。

セカンダリースクールでは子どもの自立を推奨し、家庭との連絡が少なくなる傾向にあるが、連絡は密に取ること。介入・支援することで、学業・社会性ともに進歩が見られることが多い。緘黙や不安が試験の結果に影響を与えている場合は、試験会場や試験の方法、時間を延長することなどを考慮に入れる

SMのティーンは自分のSMに対する周囲の反応に非常に敏感。言動には注意が必要。場面緘黙と関係ない分野で、子どもを評価してあげる必要がある。

みく備考:

イギリスの公立校システムでは、小学校(5~11歳)の次は、5年間のセカンダリースクール(12~16歳)に通います。2018年調べによると、小学校の全校生徒数は平均で280名ほど、それがセカンダリーになると平均で1000名近くに膨れ上がります。

小学校では1学年が平均1、2クラスとアットホームな感じなのに、セカンダリーに上がると途端に規模が大きくなり、大学のような移動教室式に。ベースになる教室や自分の机はなく、カバンを持ったまま次の教科の教室(別棟のことが多い)に移動しなければなりません。休み時間やランチタイムにいられる教室がないため、緘黙のティーンにとっては、過酷な環境といえます。

(息子がセカンダリーに入った時は(2012年)、学校との距離がとても遠くなったように感じました。連絡は学校のサイトで確認、担任や教師との面会は、メールでアポを取る形式。学年末の懇談会やたまにある保護者会をのぞき、学校に行った記憶があまりないです。そういえば、入学時の保護者会では「子どもを自立させるため、保護者はあまり学校のことに口を出さないように」と言われたような…)。

小学校で緘黙症状が改善したのに、セカンダリーに入って逆戻りしてしまったというケースも…。セカンダリーでは複数の小学校から生徒が集まるため、新たな友達関係を築く必要があります。緘黙児が新しいクラスで新たな友達の輪に加わることは、かなりの難関…。思春期の生徒がそれぞれ悩みを持つ難しい年頃でもありますね。教科数も担当教師もぐんと増えることから、学校での支援も難しくなると予測されます。

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2019年SMiRAコンファレンス(その9) ノーサンプトン州のSMケアルート

イギリスは相変わらず雨模様の日が続き、今朝やっと晴れたと思ったら、また雨雲が…。6月だというのに、室内で洗濯物を乾かす日々です。

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一番手の『SMとASD』がものすごく長くなってしまい、ここでやっと二番目の講演に移ります(^^;)。イングランド中部のノーサンプトン州における、場面緘黙のケア・パスウエイ(ケアルート)です。

イギリスのNHS(国民保健サービス)におけるSM治療は、住んでいる地区の方針によって千差万別です。また、学校によっても異なってくるため、まるで宝くじのよう。ノーサンプトンシャーではNHSのSLT(言語療法士)がSM治療に積極的に取り組んでいて、本当にラッキーだなと思います。

●ノーサンプトン州における緘黙児支援   SLT(言語療法士)ベス・シェリーさん&ハリエット・ウィルスさん Supporting Children with Selective Mutism in Northamptonshire

<ケアルート>

1) 初回アセスメント

最初のアセスメントには緘黙児を出席させず、まずSLTと保護者だけで面談。

  • できるだけ多くの情報を収集
  • SMかどうか話し合う
  • SMだと思う場合は、これからの治療ルートについてアドバイス

2) 支援チームの基礎作り

緘黙児に関わる人(NHS:  SLT、学校心理士?/ 学校:担任、SENCO、TA? / 家庭: 両親?)をできるだけ多く集める

  • 場面緘黙とは何か(そうでないケースも説明)
  • 緘黙になるリスク要因、引き金要因、持続要因
  • 適正な環境づくり:家庭と学校
  • キーワーカーの役割
  • 子どもに話す勇気を出させる方法
  • 支援計画

3) 介入(戦略)

毎日の生活における優先度を考えながら、直接的および間接的な戦略を立てる

  • 間接的な援助(子どもが言わんとすることをコメント風に解説/ 質問形式の考慮(まずYes, No形式から)/ 保護者が子どもの代わりに言う場合など)
  • CBTのエクスポージャー法(活動やコミュニケーション量は?)
  • 優先度に応じた支援計画を立てる

4) 介入(スモールステップのプログラム)

既成のプログラムに加え、子どもの性格を考慮したアプローチにする

  • 支援計画の実施
  • スライディング・イン法
  • その他の介入方法(読本、電話、電子メール、テキストなどを利用)
  • 自信のある話し方の模範を見せる

5) 支援プログラムのモニタリングと問題解決

  • 資料や活動を関係者でシェア
  • 特定の問題を発見・解決
  • ケーススタディと実践的なアドバイス
  • もし進歩がない場合は、SMが継続する要因を見直す
  • 活動プラン練り直し

6) 一般化と次の段階への移行

  • 学校で不安に向き合う
  • コミュニティ内で不安に向き合う
  • 社会的な機能: 自発的な会話への移行
  • 移行の支援
  • 活動プラン

<ポリシー>

  • SMが固定する前に早期発見・介入する
  • スモールステップ方式のプログラムを始める前に、子どもをめぐる環境を整え社会的に快適な状態にする
  • 緘黙治療に関わるキーパーソンの重要性
  • 治療に関わる関係者全員を教育し、子どもの情報を共有する

SLTが中心になって場面緘黙支援を整えた結果、1か月に4人ほどの子ども紹介されてくるようになったとか。

<実例: 9歳の少女ホリーのケース>

緘黙症状: 幼稚園時代に始まり、小学校4年生まで学校では全く話せない。

家庭状況: 両親は離婚しており、母親と同居。母親とは自由に話せるが、父親とは非言語のコミュニケーションのみ。学校では非言語だが、十分なコミュニケーションが取れている状態。

SMを持続させる要因:「しゃべらない子」としてのIDが確立されてしまっていた。母親は「性格的なもの」「成長したら治る」と娘のSMを容認。家族でも、学校でも、「話せるかもしれない」という期待は全くなく、「話す機会」が全く与えられていなかった。

介入の成果: 一回目のミーティングで母親がSMの知識を得、ホリーへの接し方を180度転換。ホリー自身にもSMを説明し、母娘が週に2回学校に行って支援をするように。現在10歳のホリーの緘黙状態は飛躍的に改善し、学校では自発的に話せるよう支援を受けている段階。父親とは普通に会話ができるようになった。

みく備考:このケアルートで大切なポイントは、各セクターで子どもに関わる大人にできるだけ多く支援チームに加わってもらうこと。家庭や学校での子どもの様子、緘黙支援の方法を皆でシェアすることで、サポートにブレがでないと思います。また、保護者にとっても、多くの関係者と直接話す機会があるので、とても心強いでしょう。

また、最初のミーティングは子どもを交えず、SLTと保護者だけというのもいい考えだと思います(この時点で、学校と保護者は連絡が取れているはず)。緘黙児には繊細な子が多いので、話せない場で自分のことを言われるのは嫌でしょうし。保護者が緘黙について知り、自分の子どものことをじっくり話せたら安心できますね。

日本では各クラスにTAがおらず、担任ひとりなので、緘黙支援のキーワーカーをつけるのが難しいですよね…。イギリスではキーワーカーが確保できない場合は、保護者が週に2回ほど学校に行って支援を行うことが多いんですが(小学校低学年)、日本ではそういう訳にはいかないでしょうし…。担任ひとりの努力に任せず、学校で子どもが頼れる人がいるといいなと思います。

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