イギリスの緘黙啓発月間

あっという間に9月が終わり、すでに10月も末。ひとつの仕事が大体片付いたところで学校のハーフターム(1週間の中間休み)が始まり、やっとまったりできました。

たまっていた掃除と洗濯をした後は、PC中毒気味。それから、久しぶりに本を読んだり、しばらく会えなかった友達とお茶したり。今年の秋は怒涛のように過ぎてしまったな~と思いつつも、ぼーっと過ごす毎日…。

さて、イギリスでは毎年10月が場面緘黙の啓発月間。大変遅ればせながら、SMiRAの掲示板で拾ってきた情報をお伝えします。

SMiRAの今年の啓発イメージはこれ↓

娘が1対1で先生と話し始めた時、

彼らは「これで緘黙が治った」と思ったの。

気づかなかったのね。

これはまだ始まりにすぎないって、

克服への道のりは、まだまだ遠いということを。

掲示板の投稿で興味深かったのは、世界有数のこども病院でロンドンにあるグレート・オーモンド・ストリート・ホスピタルが、今月6日に発表した研究論文。場面緘黙児に対するASD(自閉症スペクトラム障害)の診断方法についての研究です。

http://adc.bmj.com/content/102/Suppl_3/A31.2

(SMiRAでは、かつてから場面緘黙児(人)の中には一定の割合でASDとSMを併発している子ども(大人)がいるというスタンス。掲示板では、ASDの診断がおりた子どもに対する相談が増えているような…。親としてはとても気になるところです)

間違いがあるかもしれませんが、論文の抄訳を訳してみました。

<緘黙症状を呈する子供のための自閉症スペクトラム障害の診断経路の開発>

著者:マッケンナ、Kスティーブンソン、Sティミンズ、Mバインドマン

論文抄訳

背景:自閉症スペクトラム障害(ASD)は複雑な発達上の症状であり、至適な診断基準は多面的なプロセスを要する。我々のクリニックにおける診断は、標準化した発達問診(3DI)、標準化した半定型の尺度(ADOS-2)を用いた子どもとの直接の相互交流における観察を含む。診断評価が複雑になる要因のひとつは、ASD児の約70%がひとつ、もしくは複数のメンタルヘルス系の疾患や、さらなる発達の問題を併発していることによる。約40%のASD児が不安障害の基準を満たしており、その中には特定の状況で話すことができないという特徴を持つ場面緘黙が含まれる(SM; DSM-5)。この子どもたちは、ある状況では自信を持って話すのに、話すことが期待される他の状況では、一貫して話すことができない。最近の研究では、緘黙児の69%に発達に関連する障害が診断されており、うち7%はASDの一種であるアスペルガー症候群と診断されていることが報告されている。

方法:我々のASD専門アセスメントクリニックでは、ASDの疑いがある緘黙児が紹介されてくるケースが増えている。社会的コミュニケーションに対する評価が重要になるが、子どもがクリニックで話さないことがチャレンジとなる。現時点では研究は限られており、緘黙症状を持つ小児におけるASD診断については合意された評価プロトコルはない。我々はケーススタディを使用し、緘黙症状を呈する小児のASD診断のための評価プロトコルを開発している。これには、子どもの緘黙症状の程度やそれが診断に及ぼすインパクトを理解するため、最初の評価を延長することも含まれる。その情報により、子どもがクリニックで話さなくても包括的な評価ができるよう、ADOS-2に必要な変更を加えたり、観察を追加するなどの計画を立てることができる。

結論:緘黙児におけるASD診断のアセスメントには、診断の信頼性と有効性を確保するためのスタンダードなプロセスを維持しつつも、繊細かつクリエイティブで慎重に個別化したアプローチが必要であり、またそれが可能であると提案する。

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まず最初に目が行ったのは、最近の研究では、「緘黙児の69%が発達的な障害を持ち、その中でアスペルガー障害を併発している子どもが7%いる」という部分。これはHクリステンセンが2000年に発表した論文からの引用だと思われます。

「緘黙児の69%が発達障害を併存」ときくと、ASDの子が半分以上も?! という印象を受けませんか?でも、アスペルガーを併発している子どもは7%となっています。

日本で「発達障害」というと、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。近年、広汎性発達障害という言葉が自閉症スペクトラム障害に置き換えられるようになりましたが、なんとなく発達障害=ASDというイメージが強くないですか?

文部科学省ホームページより:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/hattatu.htm

英語でDevelopmental Disordersという場合、例えばDSM-5だと「発達障害」には精神発達障害、運動能力障害(発達性協調運動障害など)、コミュニケーション障害(表出・受容性言語障害や音韻障害など)も含まれます。これらが上記の「その他これに類する脳機能の障害」に値するのかもしれませんが、不明確だし「その他」については障害名も記されていません。

私は、緘黙の子どもがASDと診断される場合、高機能自閉症/ アスペルガーのケースが殆どではないかと思っています。というのは、高機能ではないASDの場合、3歳くらいで家族や園などが気づくことが多いと思うので。

抑制的気質の強い緘黙児は、感覚過敏があったり、極端に怖がりだったり・頑固だったりと、普通の子より育てにくい傾向があるように感じます。彼らをHSC(非常に敏感な子)と呼ぶのか、発達の凸凹がある子と呼ぶのか――でも、それが即ASDには結びつきません。対人コミュニケーションの困難を抱えているかどうか、見極める必要があります。

だいたい、自閉症スペクトラムという概念には、健常の人も含まれるのです。例えば、健常の人を水として、自閉症の人をオレンジジュースとします。水に少しずつオレンジジュースを加えていくと、どこから水ではなくなり、どこからオレンジジュースになるのか?

この図はウィキメディアからお借りしました。

https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=51752079

大切なのは、ASDに限らず緘黙児が他に抱えている問題があれば、早期に発見して対処法を見つけてあげることだと思うのです。特別支援が必要な子どもと接してきて、治らない症状や障害であっても、子どもが抱えている生きづらさを軽減してあげることは可能だと感じているので。

NYのグループ治療プログラム『ブレイブバディズSM(Brave Buddies SM)』(その2)

SMiRAコンファレンスより、児童セラピスト、ルーシー・ネイサンソンさんの講演の続きです。

NYのグループ治療プログラム、『ブレイブバディズSM(Brave Buddies SM)』を経験して

<まとめ>

  • 場面緘黙を1週間で完全に克服することは不可能
  • このプログラムは治療プロセスの一部
  • 殆どの子どもは継続的な介入が必要
  • 克服するには長い時間がかかる
  • この集中治療により、子どもは話すきっかけを得、成果を積み重ねていくことができる

ひとつ注意していただきたいのは、この講演はルーシーさんが体験した範囲内での話だということ。決して『ブレイブバディズSM(Brave Buddies SM)』の全容ではありません。治療プログラム終了後、学校での支援にどう繋げていくのか、どの程度の子どもが学校で話せるようになるのか、などの詳細は不明です(Child Mind Instituteが考案した特別プログラムなので、外部に漏れないようにしている部分もあるのかも)。

ルーシーさん自身は、「もし自分がこのプログラムを取り入れるとしたら、全部取り入れずに一部だけ使い、他の治療法と組み合わせると思う」と言ってました。

質疑応答では、以下のような質問がありました。

1) 緘黙児全員が導入セッションで声を出せるようになるのか?

ルーシーさんが担当した子は声を出せたそうですが、全員が話せたかは不明とのこと。もし話せない子がいるとしたら、その子は本番には進めないんでしょうか?

2) この集中プログラムの後、学校で話し始める確率はどのくらいか?

これも不明。学校への支援に繋ぐためペアレントトレーニングが行われますが、学校がトレーニング通りの支援に協力してくれるかどうか――実際にやってもないと判りませんよね…。

3) 参加料金はどのくらい?

これも不明でした。が、アメリカは医療費が高いことで有名なので、もし医療保健がない・効かない場合は、一体どんな額になるんでしょう…?

4) 集中プログラムでは子どもの答えに対して、セラピストが長い文章で答えを反復する方法だが、慣れてくればもっと自由に会話できるようになるのか?

残念ながらこちらも不明。治療中に子どもがセラピストになついて、自由な会話ができるようになる、という感じではないみたいでした。……………………………………………………………………………………………………

今回のコンファレンスには、イギリスの緘黙治療の第一人者といわれるマギー・ジョンソンさんなど、多くのSM専門家が参加していました。専門家からは、セラピストが子どもの答えを反復するやり方ついて、「最初はいいとしても、ずっと続けるのはどうか?徐々に自由な受け答えができるようにしていく必要があるのでは?」という意見が多かったです。「長い目で見ると、短期間で発語を促す方法より、自発的な発語を促す長期的なスモールステップ方式の方がいいと思う」という人も。

イギリスはアメリカと比べると保守的な傾向が強く、薬の服用や発語を強制することに対しては否定的な意見が多いです。ただ、緘黙状態が長引けば長引くほど、同じ環境での自発的な発語は難しくなってきます。転校や進学をきっかけに、本人が頑張って話し始めるケースは多いですが、話し始めるきっかけって意外と少ない…。そういう意味では、きっかけを作ってくれるこの治療プログラムは貴重かなと。

あと、「自由な会話」ができるようにならなければ緘黙を克服したことにはならない、という意見もありましたが、これについてはちょっと疑問が…。

私は小さい頃とても内弁慶で、小・中・校を通して「大人しい子」と評されてました。授業中に当てられたりすると、緊張して必要最低限のことしか言えないことが多かったです。休み時間に友達とお喋りするのと、授業中やみんなの前で発言するのとでは、全く別の自分がいました。自由に会話ができる人って、本当に限定された数人だけ…。今だに自分の気持を上手く伝えられなくて、後になって「こう言えば良かった」「どうしてあんなこと言っちゃったのかな」と反省することも多いし…。

教室など多くの人に見られる公の場で自由に会話することは、緘黙の子・人でなくても難しいと思うんです。(イギリスの小学校とかだとグループで活動することが多いので、話しやすい雰囲気ではありますが)。だから、もう少しハードルを低くして、公の場では質問に答えたり、自分の意見を言えるようになればOKじゃないかな…。

ただ、たとえ口下手であっても、気の置けない友人や親族には、自分の興味のあることや得意なことだったら、安心して話せるんじゃないでしょうか?楽しく話せる人や場所があれば、それが自信に繋がります。だから、好きなことや趣味を持つことは本当に重要だと思うんです。親にすれば、子どもがネットゲームやアニメ、アイドルグループなどに夢中になれば心配になるもの。でも、親から見てどんなくだらないことでも、楽しみを持つことが生きる力になると思うんです。そして、それが行動を起こすきっかけになるかもしれません。

好きなアーティストのファンクラブに入ったり、ネットゲームでオンライン上の仲間を作ったり――そこから次なる発展があるかも。人間って「好きなこと」にはめっちゃパワーを出せると思うので。

話が反れてしまいましたが、この集中治療プログラム、もし息子が緘黙だった頃にアクセスできていたら…う~ん、参加させるかどうか悩むところですね。1対1ではなくて、知らない子どもや大人たちと一緒、しかもその中で話さなくてはいけない――結構プレッシャーが大きいかも。やってみる価値はあると思うのですが、やはり子どもの反応次第でしょうか。

治療プログラムではなくても、子どもがやりたそうな習い事をさせてみるとか、友達を誘って出かけてみるとか、まず楽しめるきっかけを作るのがいいかもしれませんね。

(おまけ)

昨日、イチゴを食べようと思って洗っていたら、「あれっ?」。イチゴのさきっぽ(ヘタじゃない方)に何やら緑のものが…。

ツブツブの種が集中してる実の一番先から発芽してました~!生まれて初めて見ました

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場面緘黙克服のために抵抗力 Resilience を高める

ナターシャ・デールさん(21歳)の緘黙克服

ナターシャ・デールさんの緘黙克服(その2)

NYのグループ治療プログラム『ブレイブバディズSM(Brave Buddies SM)』

 

NYのグループ治療プログラム、『ブレイブバディズSM(Brave Buddies SM)』

SMiRAコンファレンスより。

児童セラピスト、ルーシー・ネイサンソンさん 「NYのグループ治療プログラム、『ブレイブバディズSM(Brave Buddies SM)』を体験して」

NYのChild Mind Instituteは、メンタルヘルスや学習における障害に苦しむ子ども達をサポートする独立した国の非営利団体。このブレイブバディズSMは、2009年に児童心理学者カーツ博士によって考案された、グループ緘黙治療プログラムです。

https://childmind.org/center/selective-mutism-service/

(このプログラムを経験したリリーちゃんと両親がビデオに登場しています)

(みく注:このサイトでは、1日もしくは2日間のプログラムを行っていると記されているので、ルーシーさんが参加したセッションは特別だったのかも…)

ロンドンに住む児童セラピストのルーシーさんが、この短期治療プログラムに参加。今回の講演では、彼女が実際にセラピストのひとりとして体験したことやその感想を伝えてくれました。

『ブレイブバディズSM(Brave Buddies SM)』の概要

  • 内容:行動療法を用いたグループセラピー
  • 対象:3~8歳
  • 期間:1日5時間、5日間継続(事前の導入セッションあり)
  • 場所:学校の教室を模した部屋

Brave Buddies は「勇敢な仲間たち」とでも訳せばいいんでしょうか?学校の教室を模した部屋で、授業のような形態を用いて行う小グループ治療プログラムです。緘黙が学校で起こっていることを考えると、疑似学校で治療プログラムを行うことは理にかなってますね。プログラム終了後、実際の学校で効果を持続できるよう、保護者の教育もあるとか。

プログラムを開始する前に行う活動:

  •  導入セッション
  •  ブレイブバディズ
  •  ペアレントトレーニング

セラピーに参加する子どもたち(薬を服用している子も含む)は導入セッションで合流。子どもたちが同じ部屋で遊んでいるところに、それぞれの子どもを担当するセラピストが徐々に入っていく。

  • セラピストはまずCDI (Child Directed Interaction 子ども主体のインタラクション)を用いる。側にいて、子どもの行動を声に出して説明し、模倣し、省みる(褒める)。
  • VDI (Vocalisation Directed Interaction 音声主体のインタラクション) を用いて、計画的に、意図的に声を出すよう促す。
  1. Yes, Noの2者選択ではなく、答えを言わなくてはならない質問やオープンエンドの質問を使用し言葉を導き出す。
  2. 答えを何秒か待ち、発語がなければ再び答えを促す。
  3. 質問例: ○○ちゃんは、赤い花がいい、それともピンクの花がいい?
  4. 子どもが「ピンク」と答えたら、セラピストは「○○ちゃんは、ピンクの花がいいんだね」と長い文章で繰り返す。
  5. セラピストの質問に答えられたら、後で玩具と交換できるブレイブバッジを与える

導入セッションでセラピストの質問に答えられるようになった子ども達は、次に5日間の集中プログラムへ。

学校と同じように、サークルタイムや工作の時間などを設ける。主任セラピストが加わり、全体の活動を引っ張っていく。

子どもたちは同じ部屋で活動するが、各自に担当セラピスト(導入セッションと同一)がつき、最初は1対1で対応。慣れてきたら、新たな主任セラピストが子どもたち(全体)に質問。子どもはまず自分の担当セラピストに答えを言う。次に、主任セラピストがひとりずつ子どもに質問し、子どもから直接答えを引き出す。答えることができたら、皆の前で褒める。

  • 教室のような部屋で何度も話す練習 <連続的なエクスポージャー法> → 実際に教室で話す練習へ
  • 担当セラピストを交代させる <「強化法」> → 話せる人の輪を広げる
  • より多くの人と話すことに焦点を当てる
  • 「忍耐への耐性」を積み上げることに焦点を当てる
  • 同じ質問をすることで不安を減らす
  • ペアレントトレーニングにより、保護者がセラピストになってエクスポージャー法を持続できるようにする

まとめと質疑の様子は次回お伝えする予定です。

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SMiRAの2017年コンファレンス

場面緘黙克服のために抵抗力 Resilience を高める

ナターシャ・デールさん(21歳)の緘黙克服

ナターシャ・デールさんの緘黙克服(その2)

 

ナターシャ・デールさんの緘黙克服(その2)

遅くなりましたが、ナターシャさんの講演の続きです。

実は、ナターシャさんがスピーチしている間、昨年のコンファレンスの講演者でSLTのリビー・ヒルさんが傍でずっと見守っていました。それで、リビーさんの支援を受けてるんだなと思ったんですが、彼女の話しの中には出てこず…。

また、18歳でカレッジに進学したことが緘黙を克服のきっかけとなったということでしたが、どんな支援を受けたのかイマイチ不明確…。

この辺りの詳細を知りたくて本人に連絡してみたら、すぐ返事をくれました。写真もお貸りできることになったので、ここに掲載しますね。

よく転校や進学によって環境が変わることで緘黙を克服・改善できた、という話を聞きます。自分が緘黙だということを周囲が知らない新たな場所で、勇気を出して話し始める人は多いよう。ナターシャさんの場合もそうでした。

進学した農学系のカレッジはのんびりした雰囲気で、動物飼育のコースにはたくさんの動物がいたそう。動物たちに囲まれた環境、そして学校が1対1でTAをつけてくれたことが、ナターシャさんの不安を減少させました。緘動が和らいだのがターニングポイントとなったようです。

かわいい動物たちに話題が集まって、彼女が話さないことがそれほど注目されなかったのかも?それで、以前ほど自意識過剰にならなくて済んだのかもしれませんね。

まずは不安度が下がらないと話す練習もままならないので、環境を変えたことが大きなプラスとなったケースだと思います。そこからかなり努力して、現在までコツコツと緘黙を克服してきたそうです。

どういう縁なのかは判りませんが、ナタリーさんは昨年からリビー・ヒルさんの言語療法センターで働いているとか。そこで場面緘黙に対処できるよう、リビーさんからソーシャルシンキングのセッションを受けたそうです。場面緘黙に対するセラピーは、これが初めてだったということ。

それ以前に不安(多分、社会不安ですね)に関連するセラピーを何度か受けたそうですが、緘黙状態は改善しませんでした。多分、学校の環境が変わらなかったため 、不安を下げることができなかったんでしょう。それでも、誰かが気にかけてくれることは重要ですが…。

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<SMiRAコンファレンスより>

ナターシャさんの緘黙克服法

  • 実現可能な、毎日の小さなゴールを定める
  • 微笑みやジェスチャーも進歩の印とする
  • 家族や親戚に文書でメッセージを送ることから始め、徐々に難度をあげていく

ナターシャさんから家族への願い

もし私が話すようになっても、「よくやった」とか言わないで欲しい。普通のことなんだから褒めたりせずに、他の子と同じように扱って。

(みく注:ナターシャさんは完璧主義の傾向が強いので、他の子と違う扱いをされるのが嫌なんだろうと思われます。子どもによっては、褒めることでどんどん自信をつける子もいます。お子さんの性格を見極めたうえで対応してください)

今はまだ緘黙克服の道半ば。まだまだ、私が緘黙であることを理解して、支援をしてもらう必要があります。

緘黙に苦しむ子や成人は完全主義の傾向が強く、ものを詳細まで見たり、物事を詳細まで考えたりする傾向が強いと思います。だから、写真を撮ることに向いているんじゃないかな。

私にとっては、カメラを持って外に出ること、写真で自分を表現することが助けになりました。

緘黙の克服に取り組んで1年経った19歳の頃、不安が原因で脱毛症になったことも…。ネガティブな思考が頭に浮かぶこともしょっちゅうでした。

でも、「もしこうだったら」と悔やんだり、考え込んだりするのは時間の無駄。

幼いころからの写真やビデオを観返して、自分が誰なのか、何がしたいのか――欠落した部分を探し出そうとしました。自らの不安が作り出した私、ではなく本来の私を取り戻すために。

緘黙は今もまだ私の一部です。まだ不安になることもあって、自分の限界を学んでいるところです。

現在は特別支援の場で働いていて、殆どの人と話すことができます。たとえ何かうまくいかないことがあっても、それでいい、違う形でアプローチすればいい、と思えるようになりました。

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環境を変えるのはひとつの方法ですが、「学校を変えれば、緘黙を治せる」と安易に考えない方が懸命です。環境は変わっても、それが合わないこともあるし、特に人間関係は運に左右されることが多いので。また、「このチャンスに絶対話し始める」とハードルをあげすぎると、かえって落胆してしまい、逆効果になることも…。

ナターシャさんも言ってましたが、緘黙児・の人は完璧主義の傾向が強いです。「これができなきゃ駄目」と頑なにならず、失敗しても「まあいいか」と居直れることも大事。自分に優しく、マイペースでゆっくり一歩ずつ進むことが大切ではないでしょうか?

学校外で話せるようになった子どもが、どうしても学校だけで話せないというケースだったら、転校してみる価値はありそう。その際は、本人の意志を確かめてください。規模が小さい面倒見のよさそうな学校、子どもが得意なことを活かせそうな学校が見つかるといいですね。

緘黙の克服には時間がかかります。思い通りに進まないことも、うまくいかないこともあるでしょう。有能な専門家やセラピストにめぐりあえても、彼らはあくまで支援者。誰かが治してくれる訳ではなく、自分が努力して声を出し、話す練習をしていくしかないんです。

不安で緘動になっていた時期が長かったというナターシャさん。18歳からコツコツ頑張って、21歳の今、100人近くの聴衆の前でスピーチできるようになっています。本人はもちろん、ご家族も長いこと悩み苦しんできたんだろうなと思うと、本当に感慨深いものがあります。

そうそう、ナターシャさんの質疑の時に、最前列の端にいた元緘黙の女性が、「緊張するので前を向いたまま話しますね」と前置きしてから発言したのが印象的でした。自分の不安を減らすだけでなく、周りの理解も得られる不安への対処法ですね。

あと、午後の質疑の時間には、家族以外と何年も話したことがないという女性が、手を挙げて堂々と発言!「周囲が緘黙を理解してくれる人たちばかりだと、話すのがこんなに楽!」と本人も驚いてました。きっと、同年代のナターシャさんが頑張っているのを見て、触発されたんだろうと思います。

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SMiRAの2017年コンファレンス

場面緘黙克服のために抵抗力 Resilience を高める

ナターシャ・デールさん(21歳)の緘黙克服

 

場面緘黙克服のために抵抗力(Resilience)を高める

2017年SMiRAコンファレンスより

SLT(言語療法士)アニータ・マッキアナンさんの講演『場面緘黙克服のために抵抗力(Resilience)を高める』

実は、当日地下鉄工事のため予定していた電車に乗り遅れ、講演会が始まってから会場入りした私。すでに満席に近くて、空いている席がなかなか見当たらず…。昨年より参加者が増えたという印象でした。

やっと見つけた席につくと、既にSMiRAコーディネーターのリンジーさんの挨拶が終わり、アニータさんの講演が進行中。

講演者のアニータさん(右)

現代のカウンセリングの基礎である、来談者中心療法(Client-Centered Therapy)を創始した、アメリカの臨床心理学者、カール・ロジャーズの「Actualizing  Tendency (自己現実の性質)」について話しているところでした。

あとで調べたら、これは「人間には有機体として自己実現する力が自然に備わっている」という説。アニータさんは、緘黙の克服には生まれつき備わっている困難に抗う力、Resilienceを高めることが重要と考え、その方法を話してくれました。

 

<アニータさんによる場面緘黙の説明>

    子どもが初めて場面緘黙になった時:

     怖い体験  →   Fight or Flight(戦うか逃げるか)の本能的な反応 

                           ↓    

              脳からの信号により 喉がしまったような状態に                                                                                                                                                                ↓  

                  同じような恐怖に襲われそうになると、無意識のうちに同じ反応がおきる

               ★この反応が繰り返されることで、緘黙が定着

高い所に行くと足がすくんでしまう高所恐怖症などと同じように、場面緘黙の場合は話さなければならない状況になると、喉がしまったような状態になって声を出すことができない。この反応は無意識のうちに起こるので、本人にはどうしてそうなるのか判らない。

克服法:Graded Exposure(認知行動療法CBTによる段階的な暴露法)

何故話せないのかを本人に説明。スモールステップで少しずつ話す恐怖に立ち向かい、意識的に恐怖を克服していく(アニータさん自身、緘黙ではありませんでしたが、幼少の頃から複数の恐怖症を抱え、それをひとつずつ克服したとか。経験者故に話に説得力がありました)。

<緘黙の克服に重要な3つのキー>

  1. Resilience     抵抗力
  2. Self-Efficacy    自己効力感
  3. Healthy Coping   健全な対処 

1)Resilience 抵抗力を高める

SM児は学校で話せないこと、家庭外で友達や大人と円滑なコミュニケーションを取れないことで、集団やグループの中で孤立しやすく、弱い立場におかれやすい。学校生活が負担になることも多く、長期間の緘黙が人間関係に大きく影響することも。こういった負の状況に負けない抵抗力をつけることが重要。(「反発力」や「回復力」と訳すことが多いようですが、ここでは「抵抗力」という言葉を使いますね)

・肯定的な人間関係 → 家族、親戚、友人など、子どもを囲む社会的なネットワーク作り/ SM児にとって暖かい家庭環境・人間関係があることが必須

 ・感情面での支援     →   ひとりでも信頼できる人がいると、子どもの心境は全く違ってくる/ 友達や愛情を注げるペットを持つことも大きな支援となる

2) Self-Efficacy 自己効力感を育てる

「自己効力感」とは、簡単にいうと自己に対する信頼感や有能感のこと。何か問題がおきた時、「対処できる」「大丈夫」と思えること。自己効力感を育てることにより子どもの自己評価があがり、行動を起こすことができる。

・自分で問題を解決する機会を持たせる → 子どもが自分のアイデアを持てるようにする(親はサポーター役)

・役割や責任を持たせる → 自分のことは自分で

・自分の価値観を持ち、自己防衛できるよう奨励していく

・子どもの興味や才能を伸ばす  → 得意なことや好きなことが、話すことや対人恐怖のバリアを破るきっかけになる

3) Healthy Coping   健全な対処法を身につける

問題に対して健全な対処をするためには、自分の感情を理解してコントロールできることが必要。ネガティブな感情やストレスも人生の一部として受け入れ、自分なりの対処法を身につける。

・大人が模範を見せていく → 理知的な問題解決、問題に立ち向かい、ストレスに耐える姿など

・子どもの視野を広げる → ポジティブな行動や考え方を奨励し、間違いは認め、柔軟性のある対応を

・自分の感情について話せる環境づくり

・大人が自分の人生体験について話す機会を持つ

・緘黙を恐怖症と捉える → 恐怖症は無意識のうちに定着する不合理な思考 → 思考は変えられる → 克服可能

・不安になった時のために、自分なりの対処法を見つけ出す → 呼吸法やマインドフルネスなど、自分にあったものを

★緘黙児は自分の感情について話したがらない傾向が強いので、絵本などを使い誰でも不安になる時があることを理解させる

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3つのキーの他にも、ポジティブな学校環境、助けを求める勇気を持つことなど、いろいろな提案がありました。が、ひとつアニータさんが強調していたのは、「助けを待っているだけではダメ」ということ。イギリスでは緘黙支援が充実していると思われがちですが、参加した保護者たちの多くは「支援不足」を訴えていました。

学校が支援プログラムを準備してくれるといっても、やはり限度があります。政府は各セクターの予算カットを強要していて、特別支援に関しても見直されているのが現状…。場面緘黙のみでは行政からの予算はおりないため、どうしても後回しにされがちなのです。

また、「やっと専門家に会えた」と思っても、専門家が緘黙を治してくれるというものではありません。専門家の提案にそって支援プログラムを遂行していくのは、結局のところ家族が中心。イギリスでも保護者が中心となって、学校に働きかけて協力関係を築き、専門家も巻き込んでスモールステップで克服していくという感じです。それには、本人の努力も不可欠です。

アニータさんは、日常の「小さな機会」を見逃さないようにとアドバイス。例えば、赤ちゃんが産まれたばかりの同級生の家族がいたら、同級生の学校の送り迎えを引き受けたり、近所の子を自宅に招いて遊ぶ機会を設けたり、職場の同僚の家族と出かける機会をもつなど。

アニータさんが担当した子どもの母親は、友達の送り迎えをかって出たとか。初めは何も話せないので、お母さんが間に立って会話を盛り上げていましたが、子どもは徐々に声がでるようになり、友達とも話せるように!以前は通学の際に緊張が強かったそうですが、学校にいくまでの時間を楽しく過ごせるようになったということです(注:子どもの気持ち次第なので、無理強いは禁物です)。

緘黙児にとっては、ほんの小さな変化が大きなステップアップとなります。そのため、保護者には家庭や職場でのソーシャルネットワーク作りを奨励していました。

保護者もシャイな方が多いかもしれませんが、できる範囲で頑張りましょう。小学校高学年になると親の出る幕は少なくなってしまうから、低学年までが頑張りどころかもしれませんね。でも、日本の小学校だと集団登下校だし、他の保護者と会う機会が少ないかな…。

次回は、場面緘黙を克服中のナターシャ・デールさんの講演について書く予定です。

<関連記事>

SMiRAの2017年コンファレンス

 

SMIRAの2017年コンファレンス

学期末でバタバタしていて随分遅れてしまったのですが、3月18日(土)に、イギリスの場面緘黙支援団体SMIRAの定例総会に行ってきました。

今年も全国各地から緘黙児の家族、言語療法士を中心とする専門家やTA(教育補助員)などが集まり、参加者は90名ほど。昨年10月に『場面緘黙リソースマニュアル第2版』を出版したSLT(言語療法士)のマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさん、昨年の講演者でアニマルセラピストのリビー・ヒルさん、BBCに出演した緘黙克服中の成人女性、サブリーナさんなど、錚々たる顔ぶれが揃い、活発に意見が交わされました。

SMiRAコーディネーターのリンジーさん(左)と役員のヴィッキーさん

今年の講演プログラムは:

  • 場面緘黙克服のために抵抗力(Resilience)を高める SLT(言語療法士)アニータ・マッキアナンさん
  • 私の回復体験 ナターシャ・デールさん(21歳)
  • NYの治療プログラム “Brave Buddies” 参加体験 児童セラピスト ルーシー・ナサンソンさん
  • ディスカッション
  • 1月に亡くなった緘黙児、ケイティ・ラフちゃん(7歳)の追悼イベント(希望者のみ)

今回講演した二人のセラピストは、いずれもプライベートでSM治療を行っています。NHS(国民保健サービス)に頼る場合は、長い順番待ちがあるうえセラピストや専門家を選ぶことはできません。また、地区によってサービスにバラつきがあり、宝くじに例えられることも…。

最近イギリスでは、オンラインで言語やコミュニケーションの治療を受けられるプログラム等も出現。料金はかかりますが、プライベート治療の選択肢が随分増えたように思います。

コンファレンスでは資料が配布されなかったため、手書きのメモしかないのですが、講演の概要は追ってKnet会員掲示板と稚ブログで紹介していく予定です(大幅に遅れててすみません)。

追記:

コンファレンスが終了した後、会場となった教会ホールの向かい側にある公園で、ケイティ・ラフちゃんの追悼イベントが行われました。

春の花が一斉に咲き始め日増しに春めいてきていましたが、この日は朝から灰色の曇が垂れ込め、肌寒い気候に逆戻り。どんよりとした曇り空の下、ケイティちゃんの冥福を祈って、自由の象徴ともいえる白い鳩を空に放ちました。

 

イギリス北部の都市、ヨークに住む7歳のケイティちゃんがナイフで殺害されるという痛ましい事件が起きたのは、今年1月のこと。犯人がまだ15歳の少女だったという事実が明かされ、全国的なニュースになりました。

ケイティちゃんが場面緘黙だったこと、SMiRAとの関わりがあったことで、SMiRA役員や関係者、保護者や当事者のメンバーたちの間に大きな衝撃が走りました…。

はにかんだ笑顔が本当に可愛い女の子――ケイティちゃんは緘黙ではあったけれど、みんなと一緒に外遊びをするのが大好きで、友達も多かったといいます。いつもは自宅の庭で遊んでいたそうですが、彼女が発見されたのは自宅のすぐ近くの公園…。

もしかしたら、話せないケイティちゃんを無理やり誘い出したのかも…、叫びたくても「助けて」の声が出なかったのかも…。どんなに怖かったことか――そう考えると本当に切ないし、ご家族の気持ちを思うとやり切れないです。

娘を悲劇の少女としてではなく、自分たち家族を幸福にしてくれた茶目っ気ある美しい少女として覚えていて欲しい――そんなご両親の思いに敬意を払いたいです。

ケイティちゃんのご冥福を心からお祈りします。

https://www.theguardian.com/uk-news/2017/feb/13/funeral-seven-year-old-katie-rough-archbishop-of-york-sentamu

 

国会議事堂内で場面緘黙の啓発イベント

7月6日(水)、ウェストミンスター宮殿(国会議事堂)内で、ルーシー・パウエル議員(労働党)とナイジェル・エバンズ議員(保守党)、そしてSMiRAが共催する場面緘黙の啓発イベントが開かれました。

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このイベントは昨年10月の場面緘黙啓発月から計画されていたもので、何度か延期された後、一昨日無事に開催されました。SMiRAの活動に感銘を受けた保護者が匿名で大きな寄付をし、その資金でこのようなハイグレードの啓発キャンペーンが可能になったのです。

参加したのは、大学教授や言語療法士などの専門家、SMiRAの役員、SMiRA会員の保護者、そして複数の国会議員ほか。2階のビッグベン側に位置する個室で、ドリンクとカナペがふるまわれ、和やかな雰囲気の中で啓発会が始まりました。

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    左から、『場面緘黙リソースマニュアル』の共著者、アリソン・ウィンジェンズさん、トニー・クライン教授、SMiRAコーディネーターのリンジーさん。『Tackling SM』の寄稿者やSMiRAに協力する専門家たちが大勢参加していました

最初の挨拶は、場面緘黙の著書を持つトニー・クライン教授。60年代に初めて緘黙児に遭遇した時の思い出や、場面緘黙を取り巻く状況がどのように変わってきたかをユーモアたっぷりに話してくれました。SMiRA会長のアリス・スルーキンさんは現在97歳というご高齢で、今回参加されなかったのですが、クライン教授は彼女の功績にも触れました。

次に、SMiRAに大きな寄付をし、このイベントの推進にも貢献したジョナサン・ストレイト氏が登場。保護者の心情とSMiRAを支援することになったいきさつを語りました。昨年は匿名で参加されていたのですが、今回は前に出て挨拶し盛大な拍手を浴びました。
IMG_20160706_133514娘さんが学校で話せない姿を見て愕然とし、学校側が手をこまねいているのを見かねてSMiRAに連絡したとか。娘さんの症状は、現在かなり改善しているとのこと。彼の寄付金のお陰でSMiRAのサイトデザインも一新し、昨年秋の啓発キャンペーンは効果大だったようです。
   

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その後は、SMiRAの役員や会員たちが、緘黙の子どもたちの声や保護者の心情を短い言葉で伝えました。特に、子ども自身が書いた文章や詩は、心にじーんと響くものが多かったです。

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   最後は、このイベントのホスト役を務めたパウエル議員が締めくくりました

近年、イギリスではNHS(国民保健サービス)の予算カットにより、子どものメンタルヘルスケアの予算も削られつつあります。そのうえ、先日の国民投票でEU離脱が決まり、政治的にも経済的にも不安定な状態――そんな中での啓発会でしたが、議員たちとのパイプが今後、場面緘黙の子どもたちの助けになることを願ってやみません。

<おまけ>

現在、国会議事堂として使われているウエストミンスター宮殿の歴史は、11世紀に遡ります。1529年に大火災が起こるまで王室の宮殿だったのが、修復後には議会や裁判が行われる場所に。1834年に再び大火事に見舞われ、1860年に修復した際に現在のゴシック・リバイバル様式になりました。

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     まさに豪華絢爛!バッキンガム宮殿にも勝っているような…。全長265mの建物内に1100以上の部屋と11個の庭があるとか…

仕事中の国会議員に混じって、観光客や社会見学できた小学生の一群など、人がいっぱい。至る所に警察官が立っていて、入る前に飛行場と同じようなセキュリティチェックがありました。

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           入口の大広間。1834年の大火を免れた天井の梁が荘厳です!

何とこの大広間の一角にはカフェと下院のギフトショップまであるんです。帰る前に、SMiRAの役員たちと一緒にお土産を物色しました~。もうこんな機会もないと思うと、ついつい真剣に。斬新なネーミングのアイテムも多かったです。

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下院のロゴ入りミントクリーム、”CHURCHILL’S” と名づけられたポートワイン、ビッグベンのTシャツ

 

 

マギー・ジョンソンさんの講演から――代弁はOK?

この8月に出版予定『場面緘黙リソースマニュアル』改訂版。言語療法士のマギーさんとアリソンさんが実体験や指導結果から導き出した緘黙支援・対処方法が、こと細かに解説されているようです。SMiRAの講演では、その一例として緘黙児の代弁をすることについて簡単に触れました。

友だちや親に代弁者として代わりに応えてもらうのが、緘黙児にとっていいことなのか、悪いことなのか?慣れすぎてしまうと、自分で話そうという気持ちや機会が失われてしまうのでは?そういう疑問を持つ保護者も多いのではないでしょうか。

<同年代の子どもの場合>

家の外でも、仲良しの友達や兄弟姉妹とだけなら囁ける・話せるという緘黙児も多いかと思います。マギーさんは緘黙児が「友達を通じて話す」ことを容認し、”架け橋”として使うことを奨励しています。

  1. 緘黙児への質問は友達を介して行う  例:「○○ちゃんに、何が飲みたいかきいて」「○○ちゃんは、何をして遊びたいかきいて」
  1. 最初は緘黙児が安心して話せるようその場から立ち去る、時間をかけて徐々に子どもたちの近くへ移動し、緘黙児が目の前で友だちとナイショ話しても平気になるようにする
  1. そのうちに第三者の存在に慣れ、緘黙児の声が徐々に大きくなってくる
  1. 第三者のいる前で、友だちに向かって直接聞こえる声で返事をするようになる
  1. 子どもが第三者に直接応えるようになる
  1. 友だちを介さずに、1対1で会話を始める   まずは、Yes/Noで答えられる質問から始め、徐々に長い答えを引き出していく

イギリスの小学校では席をグループで固めることが多く、支援の一貫として緘黙児の隣に話せる友達を座らせたり、同じグループにします。日本と比べると授業中もガヤガヤした雰囲気で、私語も多い(笑)。とてもインフォーマルな雰囲気なので、友達を”架け橋”役に使いやすいと思います。

日本の小学校では難しいかもしれませんが、幼稚園や保育園でならできそうですね。園だけでなく、例えば祖父母が兄弟姉妹を”架け橋”役に使えば、緘黙の孫とのコミュニケーションを改善していけるんじゃないかな?

注:上記はまだ緘黙が定着していない、園児や小学校の低学年向けと思われます。

 

<保護者の場合>

医者、買い物、親戚との会話など、母親が子どもの代わりに返事をしてしまうことって多いんじゃないでしょうか?特に、緘黙期間が長いと、それが習慣になってしまっているかもしれませんね。

マギーさんは、人から何か訊かれた時、親は返事ができない子どもを”救済”するのではなく、子どもが会話に加わる際に”不安を減らす”役割を担うよう提案しています。子どもへの重要なメッセージは、「誰かに何か訊かれたら、できたら答えればいい。でも、もし答えられなくても大したことじゃない。誰も気にしない」というもの。

  • 人に何か訊かれたら、子どもの返事をまず5秒待つ
  • 質問を繰り返していう、もしくは二者選択の質問にして子どもに訊く
  • 5秒待つ
  • 親に囁いたり、最初は非言語でも答えられればOK。徐々に言葉がでるようにしていく。子どもが答えない場合は、「ちょっと考える時間をください」「また来ます」とその場を立ち去る。もしくは、話題を変える

こうすることで、緘黙児が親に代弁してもらうのでなく、自分で答えることに慣れるのが大切ということ。親が代弁してくれることに慣れてしまうと、家庭外で話す機会がどんどん少なくなってしまうので、その通りだなと思いました。

ケント州のNHS(国民保険サービス)で言語療法士として働いているマギーさんは、保護者やTA(教育補助員)を集めて定期的に懇談会を行っていてるそう。ディスカッションや個人的なアドバイスも活発に行われているということで、大変羨ましい環境です。マニュアルの対処・支援法は、こうした場でのフィードバックや情報にも裏付けされているとか。

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イギリスで緘黙治療のバイブルと呼ばれているのが、言語療法士のマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが共著した『場面緘黙リソースマニュアル』。場面緘黙の状態把握と学校での対処・支援において、最も効果の高い実用書として知られています。大版で312ページもあるうえ値段も高いため、保護者は購入をためらうことも多いよう。でも、言語療法士(SLT)やSENCOといった専門家の間では、必要不可欠な参考書なのです。

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そのマニュアルが改訂され、第2版としてこの8月に出版される予定です。

3月上旬に開催されたSMIRAコンファレンスでは、マギー・ジョンソンさんが講師として招かれ、改訂版の特別プレビューが行われました。

注目すべきなのは、オリジナル部分が修正された訳ではなく、下記の追加項目が加わったこと。

  • 家庭、学校外での支援
  • ティーンと大人の支援

改訂版の総ページ数はなんと、なんと900ページに及ぶそう!そのうち書籍として印刷されるのは500ページ、残りの400ページはインターネットでアクセスする仕組みです。書籍を購入するとアクセスコードがもらえて、資料を閲覧・ダウンロードできるとか。

緘黙状態を表すスケール(段階)表は4つの部門に着目。より的確なサポートができるよう、緘黙児が到達しているコミュニケーション状況をさらに細かく分けたということです。

第1版ではイギリスの学校における支援が中心でしたが、改訂版は日本でも充分に活用できそう。家庭や学校外での有効な支援法が解れば、保護者が中心になってどんどん支援の輪を広げていけるかも。また、まだまだ資料が少ないティーンや大人の支援法にも大いに期待したいところです。

ところで、先回のエントリーから随分日数が経ってしまいました。その間に仕事が集中したのと、復活祭の連休で主人の実家に出かけていたのとで、バタバタしていてなかなか更新ができず、すみません。

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復活祭というとお花はやはり水仙ですね

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3家族、合計9名が集まってローストランチを楽しみました

その間に桜の季節はすっかり終わり、今は沿道の黃水仙が満開です。義母の庭では忘れな草やムスカリが可憐な花を咲かせていました。

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昨年の夏、イギリスの国営放送BBCで場面緘黙の特集があり、サブリーナ・ブランウッドさんという35歳の緘黙の女性が登場しました。(詳しくは『BBCが大人の場面緘黙を紹介』を参照してください)。そのサブリーナさんが、今回のSMiRAコンファレンスでプレゼンを行ったのです。

偶然、私の後ろの席に妹(?)さんと一緒に座っていたので、図々しくも声をかけてしまいました。そうしたら、無言でしたが、はにかんだ笑顔で応じてくれたんです。TVで観た時の殻に閉じこもったような印象はなく、ずっと穏やかな表情になっていました。

サブリーナさんのプレゼンは、小さい頃から現在までの写真&映像アルバムに、字幕で短い説明をつけたもの。本人は前に出ずに、最後列の自分の席に座ったままでした。

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一番手前のポニーテールの女性がサブリーナさん。

写真の中のサブリーナさんは、ずっと微笑みを絶やしません。途中、「あれっ?」と思ったら、サブリーナさんが車を運転しているんです!そこに、「運転免許を取りました」と字幕が。次に、「NHS(国民保健サービス)でボランティアをしています」と…。

プレゼンを観ているうちに、BBCが取材する前からSMiRAとマギー・ジョンソンさんが介入していたことが判明。それから、ひとり暮らしを始め、運転免許を取得して、今ではボランティアの仕事もしてるんです。実家に閉じこもりがちだったサブリーナさんが、外に出てどんどん交際範囲を広げている!

最後の方では、特にお世話になったというマギー・ジョンソンさんやSMiRAの役員に対するお礼の言葉が。サブリーナさんの隣に座っていたマギーさんが、感極まってウルウルしていたのが、とても印象的でした。

サブリーナさんは今でも、初対面の人に対して普通にしゃべれる状態にはなっていません。でも、実家から出て自分ひとりで行動できるようになったんです。これって、すごくないですか?

長期間場面緘黙が続くと、社交・社会不安が高まって、外に出て働いたり、活動することを怖れる傾向が強くなります。その結果、就職できても長続きしなかったり、自宅に引きこもりがちになる人も多いんじゃないでしょうか?

このプレゼンは、緘黙の成人でも適切なサポートと周囲の理解が得られれば、ちゃんと自立できるという証明だと思いました。長い間自分を閉じ込めていた心の枷から抜けだして、自由になることができるんだと。

勇気を出してSMiRAコンファレンスに来てくださったサブリーナさんに、会場から惜しみない拍手が送られました。

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