SM H.E.L.P.主催、ケリーさんのスモールステップ(その2)

イギリスでは1週間ほど前から急に天候が崩れて、雨、雨、雨の毎日。最高気温も16度くらいまで下がってしまい、肌寒い日が続いています。コロナのデルタ変異種が全国に蔓延してきていますが、ロックダウン疲れとワクチン信望から規則に従わない人も多いよう…。これからどうなってしまうのか、まったく見当がつきません。

 

激しい雨が来る前に庭のイングリッシュローズを切りました

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さて、ケリーさんのスモールステップの続きです。

ケリーさんは買い物の時だけでなく、幼稚園や自宅でのプレイデート、公園遊びなどでも同時進行でスモールステップを行ってきました。

●幼稚園でのチャレンジ(例)

娘さんは幼稚園で口をきくことができませんでしたが、友達と話したい気持ちが強かったそう。そこで以下のような作戦をたてました。特に園で緘黙状態が深刻だったので、ゆっくり時間をかけたようです。

  1. 誰が一番話しやすいかリストを作成。まず、一番話したい子と視線を合わせる
  2. 「ハイ」と書いたフラッシュカードを友だちに見せる 失敗  カードを持つことも拒否 ← 娘さんに謝罪
  3. 登園時に駐車場で友だち家族の車が来るのを待ち、車の窓から友だちに手をふる
  4. 園の待合室で、やってきた友だちに手をふる  これは長期間かかったとか

先生に慣れさせるため、入園前(夏休み)に週1で先生が話しかけてくれるビデオを見せた。また、園にスモールステップ計画と成果表を渡し、できたらステッカーを貼ってもらって進歩をチェック。

●プレイデート

  1. 先生や他の保護者に連絡して娘の状態を説明し、遊びに来てもらう(一番話したい子ひとりから)
  2. どんな会話をするか娘に事前に相談し、練習する。ゲームを利用して、どうしたら子どもに合うステップを踏んでいけるかを考える

話題:好きな動物、好きな色、やりたいゲームなど

●カードゲームでのスモールステップ例(話す言葉を多くするためのステップ)

  1.  「はい」「いいえ」をうなずきで答える
  2.  色を言う、色の種類の数を言う等
  3.  閉じた質問に答える(「はい」「いいえ」/ 数語で返答可)
  4.  開かれた質問に答える(「はい」「いいえ」/ 数語で返答不可)

●公園で年下の子と話す練習(小さい兄弟がいたので、年下の子どもにアプローチするのに慣れていた)

  1. 公園で見つけたケムシを見せる
  2. 母親もついて行って「このケムシ何色?」「蝶々になるのかしら?」など、間に入って子どもたちに話しかける。娘の不安が下がったら、話し始めるきっかけを作る
  3. 他の子どもや保護者が集まってきたら、娘の様子を見ながらコミュニケーションの機会を作っていく

みく注:うちの息子もそうでしたが、同年代の子より年下の子の方が話しやすいという緘黙児は多いよう。母親がすぐ側にいてアシストすることで、子どもの不安は随分下がります。また、相手の視線を自分ではないもの(この場合はケムシ)に集めることにより、不安を下げることが可能に。それ故、猫や犬などのペットを飼うこともお勧めです。

買い物チャレンジでも、進歩に合わせたスモールステップを。ステップ毎に子どもに合う目標を立て、慣れるまで同じステップを踏むことがコツ。

●店員に挨拶する

  1. レジに置いてある募金箱にコインを入れる
  2. レジの店員と視線を合わせる
  3. 募金箱にコインを入れる時に視線を合わせる
  4. 店員に挨拶する

●ショップで話す練習

  1. まずは周囲の人や店員の前で母親と話す ①決まった質問:「兄弟は何人?「歳はいくつ」など指で答えられるもの ②「名前は何?」など言葉で答えなくてはいけない質問   まずは車の中で練習 → 外で → 人が聞いてない店の中で → 人の近くで  → 店員の近くで
  2. レジの店員に「Brave voice の練習をしているんだけど、娘に名前を聞いてくれる?」とお願いし、チャレンジ開始  最初は口の中でモゴモゴ → 少しずつクリアに → 慣れてきたら「もう一回言ってみて?」と、慣れるまで何度も繰り返す。口の中でモゴモゴ言っているだけでも大進歩と捉え、チャレンジできたらその都度褒める。

そのうち娘さんもやりたがるようになったとか。店員に名前を言えるようになるまで1年ほどかかったそうで、工夫と忍耐と根気が必要ですね。

スモールステップの際、成功したら勇気券 (brave ticket) をわたし、チケットが何枚かたまったらご褒美。スモールステップの梯子を細かく細かく組み立てたといいます。

ケリーさんは娘さんの診断が下りてから2、年間エクスポージャー法を実践(4歳半~6歳半)。その後ミネソタ州に引っ越して転校することに。小学校では2日目にクラスメイトや先生と話すことができたとか。

ケリーさんの例を見ていても、常にチャレンジし、スモールステップを踏み続けることの大切さが解ります。スモールステップは発話だけが目的ではありません。それぞれの子どもの苦手意識を克服し、自信を持たせることが重要。まず苦手な場面(人前にでる)ことから始めて。発話が最終目的ではなく、不安や緊張を感じずに人とコミュニケーションを取れるようになることがゴールです。

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SM H.E.L.P主催者、ケリーさんのスモールステップ(その1)

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SM H.E.L.P.主催者、ケリーさんのスモールステップ(その1)

 

イギリスは晴天のいい天気が続いています。が、やはりデルタ変異種が蔓延傾向にあり、6月21日のロックダウン完全解除は4週間ほど延期となりそう…。政府はワクチン頼みですが、ワクチンだけでは予防できません!分析によるとデルタ変異種で亡くなった方43人中14人は1回以上の接種済。その中には、2回接種済みの方も複数。ファイザー社のワクチンだと1回接種で予防効果率は50%くらい、2回目で90%近くになるよう。でも、接種後2週間経たないと効果がでません。みなさんも、どうぞお気をつけて。

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Selective Mutism H.E.L.Pは米国の保護者ケリー・メルホーンさんが主催するオンラインサミット。2年目となる今年は5月中旬に開催され、専門家や緘黙体験者9名が場面緘黙や不安に関して話した他、ケリーさん自身がスモールステップ体験を語ってくれました。

ケリーさんの娘さんは現在7歳。4歳半で場面緘黙と診断され、すぐ専門家を探して治療を始めました。治療法のひとつがCBTのエクスポージャー法で、実践して学びながら娘さんのペースをつかんだよう。前回までがエクスポージャー法の話題だったので、ケリーさんのケースと照らし合わせてみました。

エクスポージャー法でスモールステップに取り組むにあたり、大切だと思われる点:

1)  子どもの不安度を人・場所・環境に分けて細かくチェック(学校の内外)

2)  その子に合うスモールステップを計画・実行する(子どもを参加させ、高学年からは主導権を握らせる)

3)  ステップ毎に克服できそうな目標を定める(無理な目標は禁物) 

4)  モチベーションや明確な目標を持たせる

5) 1回10~15分ほど、推進力を失わないため週に3回以上(『場面緘黙リソースマニ ュアル』より)

6)  不安度の低い挑戦から始め、徐々にハードルをあげていく

7)  そのつど柔軟に修正しながら、小さな成功体験を積み重ねていく

8) 実践の後には必ず振り返りをし、成功・不成功の内容を分析。反省点を次のステップに生かす

ケリーさんのスモールステップ

最初の挑戦:お店でお菓子をひとつ選び、レジカウンターまで持って行く。

結果:カウンターまで行くことができず、通路に座り込んで泣き出した

振り返り:「自分はいったい娘に何をしてしまったんだろう?!」と、驚きと困惑でいっぱいに。母娘ともに、次のチャレンジが怖くなった。

1)  子どもの不安度を人・場所・環境に分けて細かくチェック

ケリーさんは娘さんの不安度を把握しておらず、これなら簡単にできるだろうとステップを設定。ハードルが高すぎたことが判明したと同時に、子どもの緘黙の深刻さも理解することに。緘黙児はひとりひとり違うので、試行錯誤しながら模索していくしかないと思います。

でも、そんなことでは怯まなかったケリーさん。SNSで他の保護者たちに相談し、娘さんができそうな、もっと細かなステップを考案し、実践していきました。

二度目の挑戦:一緒にカートを押してレジカウンターまで行き、ケリーさんがカートから買うものを出して隣にいる娘に渡し、娘がそれをレジのコンベアベルトに置く

結果:成功

振り返り:できたけれど、娘はまだ不安な様子 → 慣れて不安がなくなるまで、数週間続ける

2)  その子に合うスモールステップを計画・実行  

~   8)  実践の後には必ず振り返りをし、成功・不成功の内容を分析。反省点を次のステップに生かす

娘さんに合う挑戦を見つけ出し、娘さんのペースに合わせてそれを繰り返しています。子どもによって不安度も進みぐあいも異なるので、とても重要なことですね。ステップ実行の前に、「どのくらい難しい?」「私が隣にいたらできそう?」と確認し、一緒に計画を立てたとか。

モチベーション:4回できたらアイスクリームがご褒美、少しずつ難しいステップへ。

4)  モチベーションや明確な目標を持たせる

4歳半の子どもなので、好きな食べ物や玩具をご褒美に。ステッカーチャートなどでも効果があります。

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<ケリーさんのスモールステップ計画全容>

① ひとりでお菓子をレジまで持っていく  失敗

② 一緒にレジに行き、ケリーさんがカートから買うものを出して隣りにいる娘に渡し、娘がそれをレジのコンベアベルトに置く  数週間繰り返し  クリア

③ 母親の隣でなく向かい側に娘を立たせ、買うものをコンベアベルトに乗せさせる(母親のほうが店員に近い位置) しばらく練習   クリア

④ 娘が店員の近くまで行って、買うものをコンベアベルトに乗せる クリア

⑤ 最終目標: 店員にクレジットカードを渡す ← ここでも更に細かな計画を立て、時間をかけた  クリア

ケリーさんの言葉:

子どもが成長していく段階ごとに、これほど幅広いエクスポージャー法があると知らなかった。また、娘のSMがどれだけ深刻なのかもやってみるまで判らなかった。

スモールステップは一回でうまくいくものではない。マラソンのように長期戦になると心得たほうが良い。子どもが慣れるまで何度も繰り返す必要も出てくる。子どもを励まし、小さいステップができたら褒めること。常にチャレンジし続けることが重要。

本当に小さなチャレンジでいいんです。週に3回くらい、買い物などのついでに親子で頑張ってみてください。不安に対する耐性を身につけるには、不安と向き合うしかないのです。

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CBTってどうやるの?(その5)

5月末から急に初夏の気候に変わり、庭のイングリッシュローズが一気に咲きそろいました。例年は1輪ずつ開く花を楽しむところ、今年は複数のつぼみが一斉に開花した感があります。

Abraham Darby、Queen of Sweden、Mary Rose とピンク系バラが先に開花

同時にピクニックシーズンが到来。やっと緑の中で寝そべったり、ピクニックランチを楽しんだりできるようになりました。

   

ロンドン南部にある鹿のいる王立公園、リッチモンドパーク

今週は学校のハーフターム休み(1週間)だったので、久しぶりに泊りがけで旅行を楽しんだ家族も多かったよう。でも、その間あっという間に変異種デルタのコロナ感染が広がり、6月21日のロックダウン完全解除は無理そう…。ワクチンだけに頼らず、感染予防をしっかり強化して安全第一でいってほしいです。

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さて、自己流CBTの続きです。

5) 定期的にコツコツ成功体験を積み重ねる

『場面緘黙リソースマニュアル』では、推進力を失わないよう1回10~15分ほど、週に3回以上のスモールステップ実施を勧めています。というのも、時間が空くと抑え込んだはずの「恐怖」や「不安」が頭をもたげ、以前の状態に逆戻りしてしまう傾向が強いから。

「なーんだ。それほど怖くなかった」「できた」を繰り返し実感することで、だんだん自信がついて、次の段階に進むことができるのです。同時に自己肯定感も育っていきます。

6)  不安度の低い挑戦から始める

ステップは不安度の低い挑戦から始め、徐々にハードルをあげていくのが基本。いきなり高不安度のステップに挑戦したら、できてしまったという子もいるかもしれません。でも、失敗してショックを受けると自信を失い、次に挑戦するのが怖くなってしまいます。

でも、同じ挑戦の繰り返しではなく、少しずつハードルを高くしていくことが求められます。毎回少し不安だけれど、可能なステップを計画すること。

次のハードルに進むのか、それとももう少し同じ挑戦を繰り返して自信をつけるのか、子どもを良く見て柔軟に判断して。

7)  そのつど柔軟に修正を加える

スモールステップの意義は、小さな成功体験を積み重ねて自信をつけていくこと。だから、「できたね」と声を出して褒めたり、「あとちょっとだよ」と励ますことも忘れずに。

子どもが自分で進歩を確認できるようチャートを作成するのも一案です。毎回、子どもが「できた」「次はできるかも」と肯定感をもって終われるようにできればベスト。

失敗した時は、大体はハードルが高すぎることが多いのです。人・場所・環境や子どもの特性をチェックしなおし、子どもと相談しながら、さらに細かいステップに組みなおす必要があります。

なお、もっと挑戦したいという意欲が高い時は、ハードルを少し高めに設定しても大丈夫かも。でも急がせるのは禁物、子どものペースに合わせて。

8) 実践の後には必ず振り返りをする

実践した後は、振り返って成功・不成功の内容を分析しましょう。成功の理由を確認したり、反省点を次のステップに生かしたりすることができます。

緘黙児は繊細で敏感な子が多いので、親や伴走者の失望を鋭く感じ取ります。失敗も前向きに捉え、次からのステップのヒントに。子どもが安心できるよう、声掛けを忘れないようにしましょう。

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CBTってどうやるの?(その4)

イギリスは雨が降ったり止んだりの日々が続き、記録的に寒い5月となりました。その天候不順もようやく終わり、今週末から例年なみの天気に回復するようです。

やっとモノクロームの空とサヨナラできそう

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3)  ステップ毎に克服できそうな目標を定める

スモールステップで重要なのは小さな成功体験を積み重ねていくこと。だから、高すぎるハードルは禁物です。だからこそ、目標を立てる際に当事者である子どもの意見をきくことが大切といえるでしょう。

段階的に少しずつ不安に直面し、その状態に慣れることで不安を克服していくのがエクスポージャー法。ステップ毎に達成できそうな目標を立てることが重要です。

ハードルが高すぎて失敗すると、後退することも多々あるので要注意です。「もうやらない!」と拒絶する子もいるかも…。でも、そういう時でも粘り強く励まし続けて、一歩一歩進むしかないのです。

子どもは新たな挑戦に対して、「そんなの無理」「イヤ」としり込みするかもしれません。そんな時、もうひと押ししても大丈夫かどうか判断できるのは、一番近くで子どもを見ている保護者だと思うのです。できそうだなと思ったら、「ちょっとだけ、やってみる?」と誘って反応を見てみて。

失敗を恐れず、子どもの気持ちに沿ってコツコツ進むしかないですね。

スモールステップに挑戦したら、必ず声をかけて褒めること。褒められることでだんだん自信がついてきます。しばらく続けると、自ら「挑戦したい」という気持ちに。挑戦を続けることで、自分で計画し自主的にスモールステップを実施できるようになっていきます。これは将来とても役立つと思います。

4)  モチベーションや明確な目標を持たせる

小さい子なら、ステッカーチャートやお菓子、玩具などのご褒美が有効。星が5つたまったら、好きなお菓子や欲しいものを与えることで、モチベーションが上がります。

息子が小2(6歳)の頃、Dr WhoがTV放送されて全国で大流行し、学校中の男子がDr Whoカードやグッズを集めていた時期がありました。息子はカード欲しさに、自分から「ありがとうを言うから買っていい?」と、何度も文具店に足を運んだものです。

年齢が上の子の場合は、ご褒美というよりも自分がやりたいことや将来の希望など、現実に沿ったスモールステップ計画を本人が主体となって立てるのが望ましいよう。でも、本人に「変わりたい」という気持ちがなければ、計画を立てることは難しいかもしれません。(年が上の子の支援については『マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』』をご参照ください)。

何年も緘黙が続くと、本人も周囲も「話さない子」に慣れてしまい、行動を起こすのに多大な勇気とエネルギーが必要になってきます。周囲の雰囲気が良くサポートもあって、本人があまり困っていない場合は特に。不安が低減し居心地が悪くない状態で安定しているため、新たな変化の方がより恐ろしいのです。

こうした場合は無理強いせず、いつでもサポートできることを知らせてください。
進学や就職が近づいてきて、本人が「変わりたい」という気持ちになるまで、趣味など学校外でのスモールステップがお勧めです。ひとりで買い物する、電車に乗る、家事を手伝うなど、自立に向けた準備もできるはず。

下の図は、人が恐怖に対面した際の恐怖の度合を時間の経過ともに現したものです。赤い矢印は本人が予期する恐怖感。緑の線は1回目のトライ、紫は2回目、オレンジは3回目、ブルーは4回目と、同じ恐怖に4回繰り返して直面しています。

どの回でも恐怖感は2分でピークに達し、その後時間が経つにつれて下降。10分で半減、もしくはそれ以下に。1回目のトライでは最大90%の恐怖を感じますが、2回目は60%に軽減。4回目のトライでは最大で30%と恐怖感は1回目の1/3に。

何度も繰り返すことで恐怖の対象に慣れ、それほど恐怖を感じなくなるのです。頭の中で想像がどんどん膨らんで、不安がマックスに達してしまうのが緘黙児。実際に恐怖と対面して最初の2分間を我慢すれば、不安が徐々に軽減していくことを自ら体験することが本当に大切。

「なーんだ。それほど怖くなかった」と思えたら、次もやってみようという気になるはず。

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CBTってどうやるの?(その3)

5月ももう半ばですね。イギリスはここのところ天候が変わりやすく、一日のうちに晴れたり雨が降ったり、雷が鳴ったり。例年よりも気温が低く、季節の花の開花も少し遅れ気味のよう。

今年もライラックのシーズンが到来。モーヴ系だけでなく、濃い紫や白い花もあります

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コロナ禍において、専門医や児童心理士を受診したり、児相に相談したりすることが難しくなってきているのではないでしょうか?何もできないまま時間が経つにつれ、子ども自身もクラスメートも、先生たちでさえ、「しゃべらない子」に慣れていきます。緘黙児は授業の妨げになることが少ないため、学業に支障がなければ後回しにされがち…。学校で「話さない」状態が許容され続けると、現状を打開する機会が失われ、子どもの「話したい」気持ちが萎んでしまう可能性も。

学校で協力が得られない場合は、まずは家庭でスモールステップを始めてみましょう。特に、子どもがまだ幼い場合は、保護者の頑張りで症状をかなり改善させることができます。SMiRAコーディネーターのリンジーさんも、「ロケット工学じゃないんだから、保護者でも十分できる」とよく言われています。

計画・実行にあたって

エクスポージャー法でスモールステップに取り組むにあたり、大切だと思われる点:

  1. 子どもの不安度を人・場所・環境に分けて細かくチェック(学校の内外)
  2. その子に合うスモールステップを計画・実行する(子どもを参加させ、高学年からは主導権を握らせる)
  3. ステップ毎に克服できそうな目標を定める(無理な目標は禁物)
  4. モチベーションや明確な目標を持たせる
  5. 1回10~15分ほど、推進力を失わないため週に3回以上(『場面緘黙リソースマニュアル』より)
  6. 不安度の低い挑戦から始め、徐々にハードルをあげていく
  7. そのつど柔軟に修正しながら、小さな成功体験を積み重ねていく
  8. 実践の後には必ず振り返りをし、成功・不成功の内容を分析。反省点を次のステップに生かす

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1)  子どもの不安度を細かくチェック

不安の対象や程度は、それぞれの子どもによって異なります。特別に仲の良い子とだったら教室でもヒソヒソ話ができる、保健室の先生と二人きりなら声が出せる、校庭でなら自由に動けて笑顔が出る、固まって動けず着替えや図工など先生に手を添えてもらわないとできない(緘動状態)、などなどケースは実に様々。

また、入学直後に緘黙になった子や低学年の子と、緘黙が固定化している高学年・中学生以上の子とでは、不安度もアプローチの仕方も異なってきます。

学校に協力してもらえれば理想的ですが、まずは学校外から保護者が主体となって始めましょう。子どもの不安度が低い場所・人・環境からスタート。学校の知り合いに合わない場所(隣町の大型スーパーやファストフード店など)で、まずは好きなものを選ぶことから始めてみては?

やっている内に子どもの不安状態や行動パターンが解ってくるので、次のステップに使えるはず。家庭で始めておけば、学校でのステップに移行する際に必ず活かすことができます。

2)  その子に合うスモールステップを計画・実行

それぞれの子どもによって、ステップの対象やハードルの高さを調整する必要があります。

スモールステップの挑戦について、子どもに「これやってみようか?」と持ちかけてみてください。低学年までなら、「緘黙」という言葉を使わず、「怖い」ことを克服する挑戦でいいと思います。緘黙が固定化してしまった高学年の子はやりたがらないかもしれません。「話すこと」ではなく、ひとりで買い物する、バスや電車に乗ることへの挑戦から。少しずつ不安を乗り越えていく体験が、次の挑戦へとつながっていきます。

子どもにどんなことならできそうか、できそうじゃないか、詳しく訊きましょう。子ども自身が納得して挑戦することが大事です。高学年以上の子にはスモールステップの主導権を握らせることで、不安を下げることができると思います。

一度の成功で自信がついて次のステップに進めることもあれば、不安がなくなるまで同じステップを何度も繰り返す必要があることも。できなかったことで不安が増して、後退してしまうことも少なくありません。

「一歩進んで二歩下がる」じゃないですが、生まれつき抑制的な気質を持つ子が多いので、劇的な進歩は期待しないこと(入園・入学で緘黙になったばかりの子どもであれば、素早く的確な介入をすれば短期間で改善するケースも)。最初から長期戦を覚悟し、辛抱強く気長に長旅に備えましょう。

傍で見ていると歯がゆいことも多いかと思います。でも、緘黙児は親や周囲の反応を敏感にキャッチするので、落胆を見せるのは要注意。失敗しても修正できます。子どもの気持ちに沿って、ポジティブに進んでいけるといいですね。

また長くなってしまったので、続きは次回に。

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CBTってどうやるの?(その2)

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CBTってどうやるの?(その2)

もう5月の前半が終わってしまいましたね。今年もGWに再度の緊急事態宣言が出てしまい、例年通りという訳にはいかなかった方も多いかと思います。イギリスでは、今月17日から室内での食事やジムでのクラス参加が可能となる予定です。

      ブルーベルの青い絨毯は英国の風物詩のひとつ。野生のアネモネが満開のハイゲートの森にて

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前回の記事で、車の運転に対する不安を下げるために私が踏んだスモールステップをご紹介しました。「これだったら私もやってる」と思われた方も多いのでは?

不安や緊張しやすい人(抑制的な気質の人?)でなくても、たいていの大人は心配や不安、苦手・嫌なことに対して、自分なりの対処法を身に着けているはず。

ただ、人によって何をするか、どの程度の時間がかかるかはまちまちですよね?また、状況によって不安度や対処法も変わってくるでしょう。これは子どもでも同じことです。

同じ緘黙児でも、ひとりひとり性格も感じ方もおかれた環境も異なります。また、年齢や緘黙症状の程度・期間、話せる相手や場所なども千差万別。緘黙という問題に直面している子どもには、伴走者の大人が辛抱強く見守りながら、段階的なエクスポージャー法を実行していくことが必要です。

イギリスでは、治療を請け負うのがSLT(言語療法士)であれ、CBTセラピストであれ、メインの治療は緘黙が起こっている場、学校で行われます。不安や恐怖を感じて緘黙になる場所で、本人が少しずつ不安を克服していかなければなりません。

多くの専門家は学校やSENCOと連携し(NHS国民健康保険制度で学校と医療が繋がっています)、学校における支援体制やスモールステップを提案していきます。

でも、初期に専門家が学校に出向くことはあるものの、学校で継続的な治療を行うことはごく稀。結局のところ、スモールステップを推し進めていくのは毎日学校で子どもと接するTAや担任、SENCOなのです。

まず保護者が学校に行き、子どもの発話を助け、徐々に話せる人の輪を広げていく療法(スライディングイン法)に関わることも少なくありません。多くの学校は予算・スタッフ不足のため、保護者が支援チームの中心となるケースも多いのです。

スモールステップの伴走者は、子どもの自立心を促していく上でもTAなど子どもが信頼できる第三者の大人が理想的といえます。でも、それがかなわない場合は、子どもの第一の理解者である保護者に勝る人はいません。

学校でも親のそばでなら声が出る、二人だけなら話せる子が多いのも利点。子どもの性格や、どこまで押しても大丈夫かなどが解っているからこそ、より綿密で子どもに合う計画やステップを考えたり、修正したりできるはずです。

特に、ステップが上手くいかなかった時、進歩が停滞してしまった時に、子どもの様子や気持ちを汲み取ることができるのが保護者だと思います。

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エクスポージャー療法とは?

恐怖や不安の原因になる刺激や状況に段階的にあえてさらすことで不安反応を消していく方法。主に恐怖症や不安障害などに用いられる行動療法のひとつ。

心理用法で「行動療法」とよばれる治療法のひとつです。何らかの恐怖や不安が原因となって不適切な反応(異常な恐怖心など)が出ている状態を改善するために用いられます。

患者の不適切な反応の原因となっている刺激や状態に、患者は段階的に直面していきます。直面する方法は、大きくふたつに分けることができます。イメージを用いて行うものと、現実場面を用いて行うものです。患者は、それらの刺激に向き合うことで、刺激に慣れ、不適切な反応を示さなくなります。

厚生労働省  生活習慣病予防のための健康情報サイトより

また前置きが長くなってしまいました…。次回こそ、スモールステップの目標の定め方、実行する時の注意点などに触れたいと思います。

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CBTってどうやるの?(その1)

CBTってどうやるの?(その1)

もう4月も終わりですね。イギリスでは全国民の半数以上が1回目のワクチン接種を終えました。その成果なのか、毎日の感染者数はまだ1,700~3,000人の間を行ったり来たりしていますが、死者数と入院患者数が劇的に減少。このままいけば、5月17日からレストランやパブ店内での食事が可能となる予定です。

森の新緑が美しい季節。あちこちに野生の白い花が咲き乱れています

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緘黙治療にはCBT(認知行動療法)のエクスポージャー法を使ったスモールステップが効果的と言われます。そうきくと、CBTセラピストを探さなくてはならないと思いがち。でも、イギリスで緘黙治療を担うのは殆どの場合SLT(言語療法士)で、CBTセラピストではないのです。心理士を受診する緘黙児もいますが、多くはありません(ASD児を除く)。

SLTが緘黙治療の手引書として活用しているのが、イギリスの緘黙治療第一人者といわれるSLT、マギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが共著した『場面緘黙リソース・マニュアル』。SLTやプロの支援を得られなくても、このマニュアルを片手に奮闘している保護者は大勢います。

マギーさんは場面緘黙を恐怖症と捉え、主にエクスポージャー法を用いて緘黙を克服する方法を段階的に詳しく解説。多くの臨床体験を基にしているので、躓いた時の対処法なども万全に整っています。

今回どうしてこの話題をあげたかというと、自分でも自己流エクスポージャー法をすることが多いから。ごく最近も、スモールステップで新しい車を運転する不安を乗り越えました。それを例にあげて自己流CBTのやり方を説明したいと思います。

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私は車の運転が苦手で、普段は知ってる道しか運転しないご近所ドライバーです。猛スピードでやってくる大型車に追い越されるのが恐怖で、恥ずかしながら高速には数回しか乗ったことがありません…。

わが家の愛車は2004年に駐在員の友達から譲り受けた、ホンダHR-V (;^_^A なんと今年で21歳なのですが、これまで故障らしい故障はなし。ガレージのトニーさんに「エンジンはまだまだ健在。買い替える必要ないよ!」と太鼓判を押され、乗り続けてきました。

が、今年の秋ロンドンの法律が変わるため、ついに買い替えることに。

先のイースター休暇中に新しい車(といっても2017年式の中古ですが)を購入。またホンダのオートマだし、すぐ乗れると思っていました。

が、私たちが古い車に乗り続けている間に、時代は大きく変わっていた!

  • まず、キーがない!
  • アクセルとブレーキの感度が前の車と全く異なる
  • アイドリングストップ機能つき
  • ウィンカーはハンドルの左側(前のは日本産で右側)
  • 計器のデザインが進化して、機能が倍増

主人は難なく慣れましたが(普通そうですよね。じゃないとレンタカーに乗れないし)、私は全く運転できる気がせず…。

でも、休み明けには車で通勤せねばなりません。

1) ひとりで乗るのがまず怖いので、呆れる主人に付き添ってもらい、夕方人のいない近所の駐車場へ。そこで初めて運転してみたのですが、まずアクセルとブレーキの感覚の違いに戸惑うことしきり。

うう~ん、アクセルの加速が遅い!でも、ブレーキはめっちゃ鋭敏!

主人に怒られながら練習しているうちに、ライトが自動で点いてまたびっくり(;^_^A

「じゃあ、帰りは自分で運転して」と言われ、こわごわ道路へ。大通りに出るところで素早く加速できず、後続車にクラクションを鳴らされるという…。

再び主人に注意され、「ここで怒られると自信を失うのに!」と内心凹みながら、なんとか無事に帰宅。でも、駐車するのに何度も切り返して、我ながらドンくさい。

2) 翌日、夕方ひとりで駐車場へ。足の位置に違和感があったので、運転席の位置をさらに前に移動させました。ひょえ~フロントに近い!でも、これでやっとアクセルを踏む感覚が足にしっくりきました。

安定感がでてきたので、思い切って駐車場を出て近所をぐるぐる。エンジンが止まる度にドキドキしたものの、これで「何とか大丈夫そう」と思えるようになりました。

3) その翌日、勇気を出して家から10分ほどの友達宅へ。駐車もスムーズになり、この時点で「来週、学校まで運転できそう」という気持ちに。

4) その翌日、20分くらいのところにある巨大スーパーへ。これで、やっと自信がついたのでした。

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不安を乗り越えるため、最終的には4回に分けてスモールステップを踏みました。不安や恐怖、苦手意識に立ち向かいながら、少しずつ自信をつけていくスモールステップ法は、場面緘黙の克服と同じです。

ちょっと長くなってしまったので、目標の定め方、実行する時の注意点などを次回に書きたいと思います。

緘黙児と歯医者

イギリスは今週金曜日から4日間のイースター(復活祭)連休に入りました。日曜日の今日はキリストが復活した日とされ、ローストランチを食べるのが習慣。再生を意味する卵型のチョコレートも定番で、子どもがいる家では、絵を描いたり、彩色したゆで卵をぶつけあって遊びます。

規制が緩み、好天にも恵まれて、半年ぶり?に友達を招いて庭でランチ

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さて、今日は医者についての話題です。うちの息子はアレルギー体質はあるものの、体はかなり丈夫な方。小さい頃から殆ど病気をしたことがなく、あまり医者に行くこともありませんでした。が、歯医者さんだけは頻繁に通っていたのです。

というのも、奥歯2本のエナメル質の形成が悪く、3歳の頃から歯医者にかかっていました(最初は虫歯と思って焦ったのですが、妊娠中のカルシウム不足?)。担当のP先生は優しくて子ども好きの男性。4歳半で緘黙を発症する前は、口数は少ないものの普通に会話ができていたのです。

息子が緘黙になってしばらくしてから、定期健診に行くことに。P先生のクリニックは車で20分程度の場所に移転し、新しい住所を訪ねたのは初めてのことでした。

心配ではあったのですが、学校じゃないし慣れている先生なので話せるかもと少し期待していました。が、全くの無言の上、頑なに口を開けようとしないのです!

子ども好きな先生は、「知らない場所だから緊張したのかな?今日は診察は無理そうだから、また2週間後に来てください。しかし、こんなこと開業以来初めてだなあ…」と。

この時、無理やりに口を開けさせていたら、きっと恐怖体験になって歯医者が嫌いになっていたことでしょう。この時のP先生の神対応に感謝、感謝。

2週間後に再訪すると、息子はまた口を開けず、私に目と表情で「いや!」と訴えかけてきました。

どうも、歯科医とアシスタントの視線が自分に集中するのが耐えられない?

とっさのひらめきで、私は息子の顔にハンカチを被せ、「ほら、もう先生から隠れることができたから、恥ずかしくないよ~。大丈夫だよ~」と日本語で話しかけました。視線を遮断することで、「見られている」という意識を変えられるかなと思ったのです(今考えると、変な親子ですよね…(;^_^A)

すると、息子は安心したのか、すぐ口を開きました。その後、P先生は診察や治療の前にサングラスを貸してくれるように。診察拒否はなくなり、自分から進んで口を開け、声は出せなくても頷きで意思表示するようになりました。

多分、歯科医やアシスタントの視線の他に、頭上のライトがまぶしかったり、恐かったり、ということもあったかと思います。

サングラスは自分と外界との間の遮断壁の役割を果たすので、病院やクリニックなどでも使えるかもしれません。サングラスでなくても、度の入ってないメガネでもいいかも。ものは試し、困ったらやってみてください。

4歳半で緘黙になってから、歯医者でも「しゃべらない子」と認識されてしまった訳ですが、無言のままだった時期は1年位だったでしょうか。学校での進歩にあわせるように、ポツンポツンと言葉が出始めました。

6歳の誕生日を迎えた頃から、受付の女性がいる待合室で私と普通に話すようになり、翌年春には診察室で突然私に話し始めたのです。

「これはチャンス」と感じた私(とP先生も?)が、話をさせようとしむけたら、また口をつぐんでしまい、「しまった~!」と反省…。やっぱり焦ることなく子どもの様子を見ながら、少しずつ少しずつが原則ですね。

結果的には、7歳を過ぎたころからポツポツ返事をするようになりました。が、ずっと「照れ」があり、寡黙なのは変わらず…。その後、クリニックは家から5分のところに移転し、息子は5年生になってひとりで歯科医に行けるようになりました。多分、それなりに話せるようになったんだと思います。

ちなみに、息子が歯科医に通っていたのは、エナメル質がない奥歯のフッ素塗布と歯の健康状態を調べる定期検査のみ。20歳になった現在まで、一度も虫歯になったことがないんです。

チョコレートが大好きだった私は小さな頃から虫歯で歯医者に通い、怖い先生によく叱られたものです。が、同じおやつを食べている兄はあまり虫歯になりませんでした。きっと歯の質も生まれつきのものがあるんでしょうね。

  

歯には良くないけれど、チョコレートが冬のロックダウンを乗り切る助けになりました

 

緘黙児とオンライン学習

早いもので12月もすでに9日!イギリスでは先週火曜日に全国的なロックダウンが終わりましたが、ほとんどの地区は警戒レベル2「高い」か3「非常に高い」に逆戻り。店舗やジム、美容室などは再開したものの、個人宅に人を招くことは禁止されています。

それでも、政府は一年最大の祝日であるクリスマスには、5日間限定で個人宅に3家族まで集まることを許可しました。クリスマスショッピング(食料品、贈り物、デコレーション他)で経済が潤い、国民は家族との再会を楽しめる――政府への反発は弱まるかもですが、その後の感染拡大が今から心配。

明るい話題としては、アメリカとドイツの製薬会社が開発したファイザー社のコロナワクチン接種が昨日からスタート。2回の接種が必要なので、効果が出るのは来年の1月5日以降ということですが…。

実は、昨日勤めている特別支援学校が、なんとコロナ感染のため閉鎖となりました!幸いにも、私は濃厚接触者ではなかったので自己隔離は必要なしですが、あまりにも身近!! 授業がリモートに切り替わったので、準備に追われています。

      学校近くの住宅街で見つけた街路樹の根元に広がるアートワールド。先週からクリスマスモードに。アイビーちゃんとノア君のママが美術監督です

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昨日、SMiRAのFBにオンライン学習で緘黙児の不安と緊張がより高くなったという投稿がありました。対面クラスの方が緊張するはずなのに、どうしてなのか悩んでいるという母親。この相談に対して、色々な回答や意見があったのでご紹介します。

ちなみに、娘さんは3歳の時に場面緘黙になり、現在15歳とのこと。

昔から、ビデオを撮って祖父母に見せるのは平気だったし、自らの映像をYouTubeに投稿して楽しんでいたよう。それが、今では写真もビデオも撮影はNGに…。

普段の授業では、100%正解でなければ絶対に答えないため、クラスで声を出す機会は少なかったといいます。その場合も、先生が指名する前に合図を送り、OKだったら指名するというサポート体制ができていたよう。

それが、オンライン授業だと体が硬直してしまい、無表情になり、質問されても全く答えられない状態に。そのうえ、頻繁にパニック状態が出るようになったとのこと。

「何か変なことを言ったらどうしよう?!」

「間違えたらどうしよう?!」

「みんなが笑うわ!ビデオに映ってるのよ!」

こう訴える娘に、母親は胸が張り裂けそうだといいます。

どうしてこんなに自己評価が低いのか?自分が皆にどう見られているのか、笑われているのではないか--そんな不安に苛まれているのは、前の学校で虐めにあったのが原因ではないか、と推測も。

一番安心できる自宅で行うビデオ通信での間接的なコミュニケーションと、不安が大きい学校での対面の直接的なコミュニケーション――前者の方が緊張が高くなるのはどうしてなのか? 学校では、時間割やルーティンが決まっているから予測がつけやすいから?

多くの回答の中で最も納得できたのは、PCのカメラの焦点が自分だけに当たっているから、という指摘でした。

教室では時々先生には見られていても、他の生徒に見られているという感覚は少ないかもしれません(イギリスの学校はグループで座ることが多いですが)。教室の方が、大勢の中のひとりとして隠れやすいのかも。

本人の画面上は、先生をメインに他の生徒達の顔が無数にこちらを向いている訳で――みんなに凝視されてるかのようにも感じるかも。

また、自分の顔が常に皆の画面上にあって、話す時には注視されると考えると、目立つことを嫌う緘黙児が嫌がるのも無理はありません。

緘黙児には自意識過剰な子も多く、一度怖いと感じると、どんどん不安が増大してしまうのではないでしょうか?

回答をみると、オンライン授業が苦手な緘黙児は少なくないようです(反対に、得意な子もいると思いますが)。その対処法としてあげられたのは、自分の姿や自分の声を隠せるミュート機能を活用すること。

事前に先生と打ち合わせをして、文字のみの参加から可能にしてもらうなど、それぞれの子どもに合う方法を取れるといいと思います。慣れてきたら、最初は文字だけで参加して、最後の挨拶だけ顔を出すなど、少しずつステップアップしていければ。

そういえば、私の学校の日本語の生徒達(高機能ASDのティーン)も、過半数は顔を隠して(アイコンのみ表示)オンライン授業を受けています。最初の挨拶の後は、画面をシェアして音読やQ&A方式ですすめているので、顔が見えなくても支障はありません(実は、私自身もできれば顔出ししたくないです…(;^_^

いずれにせよ、不安が少ない状態でオンライン授業に臨めることが一番ですね。

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オンラインで緘黙支援

BBCの緘黙記事とバイリンガル

以前の記事で書きましたが、場面緘黙啓発月だった先月、BBCのニュースサイトで5歳の緘黙児、エルシーちゃんのケースが紹介されました。

<ニュース記事の内容>

ウェールズ在住のエルシーちゃんは姉弟や家族、友達とおしゃべりするのが大好き。でも、家族以外の大人とコミュニケーションを取ることができず、9月に入学した小学校でもまだ言葉が出ていません。

「先生に本を読むことも、トイレに行きたいと言うこともできません。何かほしくても、頼むことができないんです。日常生活にかなり大きな支障があります」

エルシーちゃんは場面緘黙(症)と呼ばれる重度の不安障害。子ども140人にひとりの割合で発症します。家庭では英語とウェールズ語を話しています(注:バイリンガルの子どもは発症率が通常より高い)。

「娘は話す相手を選んでいる訳ではないの。話せる唯一の条件は、安心できるレベルまで不安が下がった時だけ。コミニュケ-ションを取るのが怖くて、緊張や不安で体が固まってしまい、声が出ないんです。恥ずかしがり屋では片づけらない、周囲のサポートが必要な症状です」

幸運なことに、家族は早い段階で問題に気付き、ヘルスビジター、言語療法士、学校の支援を受けることができました。言語療法士のローリーさんは、「質問したり、話すように圧力をかけないで」と警告。

父親のダフィドさんは、「エルシーが10代になるまで場面緘黙を引きずらないよう、早くから対処を始めました」と、早期発見・介入の重要性を強調しています。

母親のハンナさんは、もっと多くの人に場面緘黙を知ってもらおうとSNSで発信。10月末までに100マイル(160km)走ることにも挑戦しました。医師や教師、他の親から多くの反応があるそう。

記事と動画はこちら:https://www.bbc.co.uk/news/uk-wales-54731963

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イギリスのTV局は、これまでに複数の場面緘黙ドキュメンタリーを放映。場面緘黙がニュースで取り上げられることは、さほど珍しくありません。でも、ハンナさんの言葉から、まだまだ周知されていない症状なんだなと実感させられました。

私が興味を持ったのは、エルシーちゃんが英語とウェールズ語を話すバイリンガルだということ。息子もバイリンガル(小学校入学まで日本語中心)だったので、その影響がどれくらいあるのか知りたいです。

(日本ではあまり知られていませんが、ウェールズ語はケルト語派の言語で、英語とは全く違います。イギリス(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの国からなる連合王国。現在でもその意識は強く、新型コロナの規制もそれぞれの異なります)。

家庭で2か国語以上の言語を話す子どもは、場面緘黙になる確率が高いことがこれまでの研究で解っています。ただ様々なケースがあるため、どの程度の割合で高くなるのか一概には言えないよう。

ヨーロッパ在住のSMiRA委員会メンバー(3か国語を話す元緘黙児の父親)が、『SMリソース・マニュアルの』共著者であるマギー・ジョンソンさんとまとめたレポート&ガイダンスがあります。それには、「イスラエルで行われた研究によると移民の子どもたちのSMの割合は通常の0.76%と比べ、2.2%と高い統計を示している(Elizur&Perednik 2003)とあります。

2015年にアメリカで発表された論文(C. A. Mulligan, J B. Hale & E Shipon-Blum)でも、上記の論文を参照していて、移民の子ども達のSM有病率はネイティブの子ども達と比べ4倍近く高い(Elizur&Perednik 2003)と?。移民と第二言語学習を組み合わせた状況を、更に調査する必要があると述べています。

また、オランダのユトレヒト病院(UMCU)で1973年から2011年の間に診断・治療した139人の緘黙児の中で、オランダ語だけを話す子ども56%、多言語を話す子ども28%、ASDが併存する子ども15%だったという報告も(Veerhoek 2011)。

ひと言でバイリンガル、多国語を話す緘黙児といっても、例えばヨーロッパ人と移民とでは状況がかなり違います。また、移民の中でも、中東やアジアなどから来たばかりの子もいれば、第二、三世代としてイギリスで生まれた子どもも。後者の中でも、家族がイギリスの風習に溶け込んでいるケースと、自国の言葉や文化を軸に暮らしているケースでは、比較が難しくなります。また、息子のようにハーフの子どもや、多国語を話す文化のある国に生まれた子もいる訳で…。

ひとつ言えるのは、抑制的な気質や恥ずかしがり屋の子どもが、学校など公の場で自信のない言葉を話さなければならない場合、不安がより大きくなるだろうということ。SMを発症するリスクがより高くなるのは理解できます。

<関連記事>

バイリンガルと緘黙(その1)

バイリンガルと緘黙(その2)

バイリンガル緘黙児あるある