SM H.E.L.P. サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その7)

あっという間に2月も中旬ですね。昨日はバレンタインデーでしたが、イギリスでは男性が女性に赤いバラの花束を贈ったり、レストランでロマンチックなディナーを食べたり。うちの場合は、たまたま2人とも今日休みだったので、外でランチを楽しみました。

   

     先週末、すごく久しぶりに主人の友達2人(男性と女性)が泊りに来て、球根花のブーケをいただきました。赤いバラの花束よりず~っと嬉しかったです

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さて、マギー・ジョンソンさんの講演の続きです。

保護者へのアドバイス

  • 2つの重要なポイント:

1) まず、保護者は子どもの自立を応援すること。多くの親は自分たちがどれほど先回りして子どもを助けているか理解していません。自らが成功体験を重ねることで、子どもは自信をつけていくのです。その機会を奪わないよう注意して。ただ褒められたり、奨励されるだけでは、本当に自信を積み重ねていくことにはなりません。

実際のところ、ティーンは自分の親に褒められることは好きではないのです。できることは自分でやらせないと、いつまでたっても自信はつきません。

例えば、5歳の子どもに何か手渡そうとして、子どもが躊躇したとします。多くの親は自分でさっと手に取って、子どもに手渡すでしょう。でも、それは良くありません。

まず下記のような声掛けをしてみて。

① 大丈夫よ、受け取りなさい

② じゃあ、一緒に受け取ろうか?いい、1、2、3

③ じゃあ、後で受け取ろうね

セッション中に保護者が手助けしようとした場合、マギーさんは「じゃあ、あのテーブルの上に置くから、後から取りに来て」などと、子どもができそうな方法を提案するそう。

2) 子ども自身が自分で対処することが重要。だから、子どもの代わりにやってあげるのではなく、子どもがやりやすいように援助してください。子どもにとって何が難しいかを察知し、よりやりやすい方法を考えましょう。

ティーンの場合、本人が望むなら、教師やTA、保護者がメールを書くのを手助けすることに問題はありません。ただ、メールを送る時は本人にやらせること。緘黙の人は自分からものごとを始めるのが難しいからです。すぐしそうになかったら、「今送らなくてもいいよ」「送りたくなったら、送ればいいよ」と声かけをして、時間をあげましょう。その間はティーンを放っておくことが大切。

徐々に自立できるようサポートしていけば、いずれは全部自分でできるようになります。初めは非言語でOK、社会的な場面で居心地悪さや引け目を感じさせない様な配慮ができるとベスト。

例えばマックに行って、ケチャップをもらい忘れたとします。「ママ、取ってきて」と頼まれて、取りに行くのは簡単。でも、そこでやってあげないこと。

「自分で取りに行きなさい」ではなく、「ママ買い物で疲れちゃって、もう歩きたくないの。どうやって取ってくればいいか教えるね。あそこまで行って、紙カップを取ってケチャップのレバーを押せばいいのよ。大丈夫、できるよ」とアドバイスしてみて。

兄弟がいたら、一緒に取りに行くように提案してもいいでしょう。子どもがゴネたら、「別に行かなくてもいいよ。でも、ケチャップが欲しかったらあそこにあるからね」。そういって、自分は食べたり、携帯を見たりして、子どもから視線を外します。こうすると、だいたいは自分で取りに行くそう。

親は自分で気づかない内に、色々やってあげることが習慣化していることも多いのです。やってあげることで、子どもは「自分はできない」「ママがやってくれるから」と思い込んでしまい、自分から動こうとしなくなることも..。

こうしたアドバイスに対し、「あら、私息子がもう14歳になるのに学校のかばんをずっと持ち続けているわ。迎えに行くと、カバンを私の足元に置くから。それに、まだお風呂のお湯も出してあげているし…」と気づいた14歳の男の子の母親もいたとか。

なお、家庭で子どもに手伝いをさせる習慣をつけておくことも大切です。担当を決めて毎週必ずなにか仕事をさせるのでもいいし、何気なく手つだいを頼むのでもOK。例えば、食事のデリバリーを頼んだら、「テーブルにお皿を並べて」「後片付けを手伝って」という感じで。

また、子どもが自分で行動を起こすきっかけを作ることも大切。例えば、ゲーム器の乾電池をわざと切らして、「あ、ごめん、ごめん。来週オンラインショッピングする時に注文するね」とすぐには入手しないこと。子どもがゴネたら、「ここにお金があるから、角のお店で買ってくれば?大丈夫、できるよ。別に話さなくても、レジに乾電池とお金をおけばいいから」、「来週は必ず注文するから、あなた次第よ」と選択肢を与えて、子どもに決めさせるなど。

子どもが自分を信じて行動し、自信を積み重ねていけるよう支援してください。5秒ルールを作って、子どもが自分で対応できるかどうか5秒は待つようにしてみて。できない場合は、「頷き」「指差し」「はい、いいえ」など緘黙症状の度合に応じた返答ができるように誘導しましょう。

これでマギーさんの講演は終了です。振り返ると、子どもの一番近くにいる保護者がどう支援していくかが、とても重要になってきますね。以前は、家ではおしゃべりなので、親にも理解してもらえない子どもやティーンが多くいたと思います。場面緘黙の情報が増えた昨今、そういうことがないといいのですが…。

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SM H.E.L.P. サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その6)

ついに日本でもオミクロン株の一日の感染者が10万人を超えてしまいましたね…。イギリスでは、ここ3週間ほど8~11万人を行ったり来たり(1月31日は政府のサイトにデータが記載されず…何故???)。オミクロンのピークもピークアウトも早いと言われていたのに、欧米ではまだ下がりきってません…一体どうなっているんでしょう?

  

晴れの日は空が春めいてきました。学校へ向かう途中で出会う猫ちゃん

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さて、マギ-・ジョンソンさんの講演の続きです。

★保護者への助言:自らが不安を抱える17歳の娘さんを支援した経験から

「こうしてみたら? ああしてみたら?」と親が言い続けることで、子どもは親が自分に対して失望していると感じます。「今のあなたではダメだから、変わらなくちゃ」と言われているように感じてしまうのです。親が助言すればするほど、子どもは「あなたはこのままではダメ」というメッセージを受け取ることに…。

ティーンにまだ準備できていない時、親が手を差し伸べようとすると反発しがち。親への拒絶反応を起こすこともあります。

保護者ができるのは場面緘黙が恐怖症であることを説明し、いつでも支援する準備ができていると伝えること。「話すこと」だけに集中しないで。「小さなステップを少しずつ踏んでいけば、絶対克服できるよ。いつでも支援するからね」と伝え、子どもを信じて待ってください。

(なお、本人に気づかれないよう、保護者がしてあげられることはたくさんあります)

親は心配ばかりせずに、子どもと一緒に過ごす時間を楽しんで。将来が心配でも、今のこの時間を大切にして、子どもとの時間を満喫しましょう。

なんでもOKです。例えば、一緒に映画を見たり、料理をしたり、ガーデニングしたり、ウォーキングをしたり。子どもが興味を持っていることを探し出して、子どもの興味に沿って一緒に楽しみましょう。そこから「自分が変わりたい」というモチベーションが生まれてくるかもしれません。

★主導権を持たせることでティーン(子ども)は安心できる

言わないかもしれませんが、どの子も「自分はこれをやりたい」という夢を持っています。どうしたらその夢を叶えられるか――親は子どもを人として尊重し、そのままの子どもを愛してあげてください。子どもには恐怖症があるけれど、それが一生続くわけではありません。必ず克服する道を見つけられるはず。

子どもがモチベーションと緘黙を克服する決意を固めるのを辛抱強く持ちましょう。

情報は与えて、でも押しつけないこと。

★ティーンとの接触を持つための具体例:

緘黙のティーンとのセッションでは、パワポの作り方やどうしたらもっと良いプレゼンになるかを訊いたり、助言してもらったりするとか。そして、「完成したものをPCで見て欲しいから電話してもいい?いつだったら時間がある?」と自然に切り出すのです。こうして、PCを観ながら電話でコミュニケーションを取るきっかけを作るのだとか。

こういった間接的な方法だと顔を見合わせずにすむので、やり取りしやすいそう。まずPCの画面を見てもらい、修正した方がいい点を書いて送ってもらうことからでOK。

ティーンの得意な分野を見つけ、何気なく手伝いを頼むことで、自信をつけさせモチベをあげることが可能です。あくまで本人主導であることを忘れないで。

長い講演だったので、また次回(最終回)に続きます。

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SM H.E.L.P.2021年秋サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その5)

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SM H.E.L.P. サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その5)

あっという間に1月も後半になってしまいました。今年のイギリスの冬は暖冬で、霜が降りる日が珍しいくらい。快晴の日には、なんとなく空気に春の気配が感じられるような…。

   冬でもあちこちに花が。イギリスには古い住宅が多く残っているのですが、この建物はヴィクトリア王朝後期のもの。間取りが大きく、高い天井と大きな窓が人気です

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さて、マギー・ジョンソンさんの講演の続きです。

★カフェで行うスライディングイン法例

1) メニューを読む (小声 → 音量を上げていく)

2) 同席者と言葉を交わす(小声 → 音量を上げていく)

3) ウェイトレスに飲み物を注文する (1単語 → 文章)

まずはその場で声を出せるかどうか、事前に声を出す練習をすると安心。カフェに入る前にハミングしてみると「できる」と判ります。まずは、テーブルについて声を出せる、お喋りができることが重要。注文するのはその後で良いのです。知っている人に何かを言うより、見知らぬ人(この場合はウエイトレス)に飲み物の名前を言う方が簡単だということを覚えておきましょう。

みく注:本人の緘黙症状や緊張の程度によって、ステップを更に細かく分けたり、省略したりできます。

親が子どもの代わりに答える習慣がある場合は、親以外の人(はなせる友達や親戚など)とトライする方がベター。親の干渉を嫌うティーンは多いので。

(保護者は代わりに答えを言う前に、笑って数秒待ってください。声が出なかったら、「はい、いいえ」で応えられる形にして質問しなおして。まずは、頷いて返事ができればOK。失敗しても気にしないこと)

★ひとり語り(Lone talking)

保護者とのスモールステップに抵抗があるというティーンや成人には、ひとり語り(Lone talking)というテクニックもあります。

ひとり語りのスモールステップには、友達や親戚の人など、保護者でない第三者が必要。「一人で本を読む/ 録音する → 読本をしている部屋に誰かをスライディングインする/ 録音したテープを誰かに聞かせる」という方法も。

実際に誰かに本を読んでいる声を聞かせる場合:

部屋で一人で声を出して本を読む → 少しドアを開けて外の人に声が聞こえるようにする → 第三者がドアを開けてゆっくり部屋に入っていく

★緘黙改善に否定的なティーン

緘黙することに慣れて、話さなくても良い状況で止まっているティーンには、どのように対処したらいいのか?

重要なのはモチベーションをあげることではありません。子どもが「話せなくても構わない。別に話したくない」と言っても、鵜呑みにしないこと。話さなければならない苦しい状況に陥ることを、恐れているだけです。

緘黙の人は「話すだろう」と誰もが期待している場で話せないことが一番怖いのです。話し始めるためには、その恐怖に打ち勝たなければなりません。実際には、モチベは既に持っているし、本心では話をしたいのです。ただ、不快で困難な状況に陥ることを恐れているのです。

もし蜘蛛の恐怖症を克服するのにタランチェラを使ったらどうでしょう?恐怖心がさらに増しませんか? 蜘蛛と同じ空間にいなければならないだけで、既に緊張がマックスに達してしまいます。

声を出すことはあくまで最終段階です。その前に「場面緘黙は恐怖症」という自覚を持たせること。それがティーンや成人の緘黙克服の要です。緘黙を克服するためのテクニックは複数あって、スライディングイン法はそのひとつ。保護者と行う人もいれば、そうでない人もいます。また、一人で行う方法もあります。実際に顔を見ながらビデオで、もしくは音声だけで行う方法もあるので、本人が「これだったらできる」と思う方法を選ぶことが大切。

マギーさんの場合は、ある子にはスライディングイン法が適していると思っても、「これとこれがある」と複数の方法を提案してみるのだとか。

重要なのはティーン本人がやり方を決めること。彼らは自分を解ってくれる人、どんな思いをしているか理解してくれる人、悩みを話せる人を欲しているのです。

またまた次回に続きます。

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SM H.E.L.P. 2021年秋サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その4)

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SM H.E.L.P. サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その4)

新年、明けましておめでとうございます。といっても、1月ももう10日経ってしまいましたね。今年こそは準備万端にと思っていたのに、日本語の模擬試験の準備や、今月末に迫った確定申告の締め切りなどに追われている日々です。

     バービカンアートギャラリーで開催中のイサムノグチ展。温かみのある灯にほっとひと息

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さて、マギージョンソンさんの講演の続きです。

<20代前半の場面緘黙の女性2人のケース>

緘黙に苦しんできたラーナとリサは、お互いに話しをしたいと希望していました。各自がスモールステップ法で少しずつ改善し、留守番電話にメッセージを残すところまで進歩。2人は友達になりたくて、SNSでメッセージを送りあう仲になったのです。

マギーさんが仲介するオンラインおしゃべり会では、ラーナはリサがいる前でマギーさんと話すことに成功。でも、リサはできませんでした。

2人がマギーさんと一緒に緘黙のコンファレンスに参加した際、3人で同じホテルに宿泊。マギーさんは、下記の4段階のスモールステップを実施しました。

1) ラーナをバスルームに行かせて、2分間待たせる(第1段階)

マギーさんとリサはベッドの端に座って食事のメニューについて話す。ラーナには事前に「その時が来たら、こちらに来るように呼ぶから待ってて」と指示。

2) ラーナはドアを少しだけ開けて、再び2分待つ(第2段階)

3) ゆっくりドアを開ける(バスルームから出られるだけの幅)

4) 部屋に入ってアームチェアに座る(第3段階)

5) アームチェアをベッドの近くに寄せて3人が円状に座る

6) 一緒にメニューを読む(最終段階)

最終的には、お互いが質問し合う形までもっていく。スターターは何にするか、AとBではどちらが好きかなど、話題は全てメニューに関すること。

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スライディングイン法で導き出す最初の会話は、『SMリソースマニュアル』のステージ 5(Confident Talking段階)に該当します。3人は話しているけれど、自由にコミュニケーションとっている訳ではありません。メニューは読んでいるものの、メニューに関する自由な会話ではない訳です。

言葉を引き出すためにスライディングイン法でよく行う活動のひとつに、交互に数字や日にち、曜日を順番に言うというのがあります。緘黙児(成人)は声を出していますが、それは厳密には会話といえません。脳が知っている単語を自動的に読んでいる自動スピーチ(Automatic Speech)なのです。

自動スピーチは自分で内容を考えて話すより簡単です。

1996年にマギーさんが13歳の少女、ケリーにスライディングイン法を試した際、気づいたことがありました。母娘に “I Spy”(アルファベットの文字を使ったなぞなぞ)ゲームをさせたところ、上手くいかなかったのです。

“I Spy” ゲームでは次に言うこと自分で考えなくてはならない。だから難しいのだ――そう悟ったマギーさんは、答えを読ませたり、数字や曜日など誰でもすっと出てくる言葉を順番に言うなど、まず自動スピーチから先に練習させることにしました。

また、次回に続きます。

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SM H.E.L.P.2021年秋サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その3)

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SM H.E.L.P. サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その3)

2021年も明日で終わりですね。去年末はアルファ株の激増でロックダウンしていたイギリス。今年はオミクロン株が激増して、本日の感染者数はパンデミック始まって以来、最多となる18万9000人を越えてしまいました!それでも、昨年に比べると重症化率が低く、死者数も少ないのが救いのひとつ。一部の科学者が指摘するように、コロナウィルスが徐々に弱毒化して、風邪のような存在になれば良いのですが…。

    

   イングランド中部のクリスマスは深い霧に包まれていました。義両親宅の近くのBrixworthの町まで歩き、その起源をアングロサクソン時代の7世紀まで遡るというAll Saint Churchを見てきました

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さて、マギー・ジョンソンさんのオンライン講演の続きです。

<ティーンと成人向けのスライディングイン法>

マギーさんがスライディングイン法を重要視するのは、最小のストレスで最速の回復を期待できるから。

ティーンや成人と子どもとの主な違いは、年齢的に場面緘黙が恐怖症だと理解できること。不運にも恐怖症になっているだけで、緘黙状態は本来の自分ではない――スモールステップ法を実践すれば、少しずつ恐怖心を克服できると理論的に理解できることです。

(みく注:ティーンや成人は緘黙を「恐怖症のひとつ」と捉え、第三者的な視点でみることができるということですよね)

脳が間違った反応をしているため、脳を再訓練して危険でないことをゆっくり学習していきます。危険がないと判断できれば、脳内でFight or Flight(戦うか逃げるか反応)の自動スイッチが入ることはありません。

例えば、大きな黒い犬が向こうからどんどん近づいてくると仮定してみてください。犬が自分に危害を加えるかもしれないと判断すると、脳は自動的にFight or Flight モードに。でも、危険はないと解れば、恐怖はなくなりパニック状態に陥ることはありません。

スモールステップに対して、「じゃあ、試してみようか」と本人が思えること、大きなプレッシャーを感じずに自分のペースで進めること――本人が「大丈夫、できる」と思えることが重要になってきます。

16歳のポーランド人の少年、サンダー君の例:

症状:2年間心理士にかかったが進歩はなく、親しい関係の祖父母にも話せなかった

母親が渡英して緘黙の研修を受け、緘黙は恐怖症だからスモールステップで克服できると説明。サンダー君は「それならできる」と同意し、まず祖母とスライディングイン法を試み、話すことに成功。翌日、祖父とも試みる予定だったが、スライディングイン法を実施することなしに話すことができた。

心理士とセッションを続けていた間、サンダー君は「原因は自分にある」と自分を責めたり、絶望したりしていました。それが、たった2日間で祖父母と話せるように!彼はその後、理解のある学校に転校し、そこで徐々に緘黙を克服することができたそう。現在は、緘黙だった過去を想像できないまでに回復しているとか。

マギーさんは、年を重ねることに緘黙が固定化して話せない人が増え、克服が難しくなる傾向があると指摘。けれど、適切な支援と本人の理解があれば、必ず克服できると語っています。まず、「緘黙は恐怖症で、克服できるもの」と理解すること。この気づきがあれば、長いセッション1回で話せなかった人と話すことも可能となるのです。

子どもの場合は、恐怖を感じさせないよう、短時間のセッションを何度も行う必要があります。プロセスを小さなセクションに分け、根気よく積み重ねるのです。親子のいる部屋にマギーさんが入り、子どもと話をするまでに平均で10セッション程度かかるそう。

一方、ティーンや成人の場合は、長いセッションを一度行うだけで話せるようになるケースも。スライディングイン法は、緘黙の程度や個々の状況に合わせてやり方や回数・時間などをいくらでも調節できるところが利点だといいます。

(次回は具体的なケースをご紹介します)

オミクロンの脅威は消せませんが、皆さん身体と心の健康に気をつけて、良い新年をお迎えください。

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SM H.E.L.P. 2021年秋サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その2)

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SM H.E.L.P. サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その2)

早いもので、12月もすでに中盤に入ってしまいました。仕事も生活もなんだか慌ただしくて、時間だけがびゅんびゅん過ぎていく感じ…毎年この季節になると焦るのですが、今年は高速感が半ばないです~。

    通勤途中の風景。最近では4時ごろになるともう薄暗いのですが、寒桜や赤い実が暗い季節を彩ってくれてます

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さて、マギージョンソンさんの講演の続きです。

場面緘黙児の不安は一体どこからくるのか?

その謎が解けたのは、1995年にマギーさんの娘さん(当時10歳)が酷い蟻恐怖症になり、児童心理士を受診した時のこと。心理士は恐怖症がどのように始まり、作用するかを説明したうえで、マギーさんが無意識のうちに恐怖症を強化してしまっていると忠告…。マギーさんはショックで泣きだしてしまったそうですが、同時に「あっ、場面緘黙も同じなんだ!」とピンときたそう。

不安障害は心理的な問題――恐怖やパニックは現実のものだけれど、感じる脅威は頭の中でつくられた/ 想像されたもの。現実の不安要因に対して、感じる恐怖は不合理に大きく、全くつり合いが取れていません。大きな恐怖を脳が察知すると、身体が条件反射的に反応して、冷や汗が出たり、足がすくんだり、体全体が硬直したり、パニックに陥ったり…人によって症状はさまざま。場面緘黙の場合は、喉が締まったようになり、声が出なくなるのです。

場面緘黙の人にとって、特定の人や場面で話すだろうという期待は大きな脅威。ほとんどの緘黙児には、不安を感じることなく話せる小さなサークル(安全領域/ コンフォートゾーン)がありますが、大多数の人はこの安全領域の外なのです。その人・場面を知っている期間の長い・短いは関係ありません。

子どもはすごく話したいと思っているのに、恐怖のために声がでないのだ――そう理解したマギーさんは場面緘黙の治療に恐怖症への対処法を取り入れることに。それまでにスモールステップ法が有効なのは明らかでしたが、その上に必要なものが判明したのです。

治療を始める時は、子どもに対して、どんなに怖い思いをしているか解っていると共感。自分がすることは話をさせることではなく、恐怖心を少しずつ少しずつ減らしていく助けをするのだと説明します。子どもが「できる」と思えるように、小さなステップを重ねていくことが重要です。

もう一つの大きな変化は、子どもと保護者の前で場面緘黙についてオープンに話すようにしたこと。不安について話すことで、子ども自身も自分の状態を把握できます。

また、保護者が子どもの緘黙を強化しないよう、保護者も治療チームに加えるようにしました。親の育て方のせいで子どもが緘黙になるのではないことも強調。保護者はどうして自分の子どもが緘黙になったのか見当がつかないことが多く、原因を見つけようと苦悩します。でも、保護者が不在の時に緘黙になるきっかけに遭遇していることも多いのだとか。

治療法にこれらの変更を加えたことで、子ども達の回復はかなり早まったといいます。

治療にあたっては、主にスライディングイン法とフェイディング法を使いますが、重要なのは段階的なエクスポージャー法を取り入れていること。以前はシェイピング法(段階的に発話動作を形作っていく)を使い徐々に声を出せるようにしていましたが、スライディングイン法を使うと、最小のストレスで最速で子どもを回復させることができることが解ってきました。

(またまた次回に続きます)

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SM H.E.L.P. サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その1)

11月ももう半分過ぎてしまいましたね。イギリスでは冬時間に切り替わってから日暮れが早く、時間が経つのが本当に早い気がします。

     昨年は中止になった近隣の花火大会が今年は決行。燦めく光を求めて多くの人が集いました

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場面緘黙啓発月だった先月に開催されたSM H.E.L.Pサミットでは、ティーンと大人の場面緘黙がテーマでした。印象的だったのは、イギリスで緘黙治療の第一人者と言われるSLT(言語聴覚士)マギー・ジョンソンさんの講演。その内容を数回に分けてお伝えします。

場面緘黙との出会い

マギーさんが場面緘黙と出会ったのは偶然のことでした。SLT(言語療法士)の資格を取って初めて治療にあたったのが、話さない15歳の少年。保護者も周囲もどうしていいか判らず、少年は寄宿制の特別支援学校に入れられていたとか。唯一話せる相手、母親から切り離されてしまっていたのです。

新米SLTのマギーさんの仕事は、当時「選択性緘黙(Elective Mutism)」と呼ばれていた症状を持つこの少年を話せるようにすること。初めて聞く症状名――1976年当時はまだインターネットもなく、医学事典に載っていたのは「本人が話すことを拒否している」という説明。

(「選択制緘黙」は80年代前半にDSM-III(アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)に初登場しましたが、話すことへの継続的な拒否(persistent refusal to speak)とされていました)。

少年は母親と連絡を取るために、寄宿舎の公衆電話を使わなければなりませんでした。そこには他の生徒や教師がいて、話したら声を聞かれてしまいます。彼は受話器をトントン叩いて音を出すことで、母親とコミュニケーションを取っていたそう。

マギーさんは「当時は何も知識がなくて、彼と向かい合って座っていたの。私の視線をまともに受けて、長い沈黙がどんなに苦しかったことか」と回想します。

ある日のこと、沈黙し続ける彼のほほにひとすじの涙が…。それを見て、マギーさんは「話すことを拒否してるんじゃない。わざと話さないんじゃない。専門書は間違っている!」と直感したそう。でも、どうしたら助けられるのか判りませんでした。

この少年は1年後に学校を去ったそうですが、その後彼が自殺を図ったことを知り、マギーさんは大きなショックを受けました。そして、この体験こそが彼女を場面緘黙の治療法を見出すミッションへと駆り立てたのです。

この少年との出会いがなかったら、マギーさんが世界に先駆けて多くの場面緘黙児や青年、成人を助けることはなかったと思うと、運命的なものを感じます。

次の緘黙ケースは、同じように寄宿学校に入れられた8歳の男の子。この時は、まず話すことへのプレッシャーを取り除き、非言語でコミュニケーションを取るよう指示しました。子どもが話したいと思っていること、何かが話す妨げをしていること、それは不安によるものらしいと気づいたからです。

教育心理士に相談し、自分の持つコミュニケーション法の知識と心理士の持つ不安の知識を掛け合わせて、スモールステップ方式の取り組みを考案。幸いにもこれが功をなし、少年は1年半でマギーさんと話せるように。そのあと6か月で誰とでも話せるようになりました。なによりも、彼が幸せそうになったことが本当に嬉しかったとか。それ以来、学校でもクリニックでも同様の対処法を使うことにしたそう。

この間アメリカでも場面緘黙の研究が進み、1994年に発表されたDSM-IVでは症状名が「場面緘黙(Selective Mutism)」と変更され、「ある場面では継続的に話せない」という記述に。それでも、どこから不安が来るのかはまだ謎でした。

(長いので、次回に続きます)

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大人の緘黙ー緘黙啓発月の SM H.E.L.P.から 

沈黙  アンティジェ・ボーシン

家ではおしゃべりで、陽気で、声も大きいのに                                           人が大勢いる場所だと、声が小さくなって、引っ込み思案になってしまう                  学校やお店では黙ったまま                                                       この場面緘黙はいつか治るの?

声がでないのは                                                                              わざとじゃないわ                                                                周囲に人がいるとき                                                                          音がでないの

突然、金縛りにあったように                                                                     固まってしまって                                                                               話せない                                                                                               行ける場所がない

見たり、聞いたりすることは簡単なのに                                   質問したり参加したりするのは、とても難しい                                でも、何度でもトライしてみて                                        無駄なことは絶対ないから

寛容でいてくれるだけでいい                                                                                      もしみんながそれを知ってくれたら                                       プレシャーなしに、仲間に入れて、人生の楽しみをわかちあってくれたら                                         成長するのに必要なのはそれだけ!

Silence
by Antje Bothin      https://antjebothin.wordpress.com/

Talkative at home, happy and loud
But quiet and withdrawn in a crowd
Silent at school and in the shop

Does this selective mutism ever stop?

 

It is not a choice
This hiding of the voice
When people are around
There is no sound.

 

Like a sudden freeze
Being in a tight squeeze
Unable to talk
Nowhere to walk.

 

Like a sudden freeze
Being in a tight squeeze
Unable to talk
Nowhere to walk.

 

Observing and listening is easy to do
But asking and joining in is hard to pursue
Keep trying and trying again
Nothing is ever in vain.

 

If  people only knew
That kindness is the thing to do
Inclusion, no pressure and some fun in life
Is all that is needed to thrive!

…………………………………………………………………………………………………………………………..

 左がアンティジェさん、右は主催者のケリーさん

上記の詩は、先週末に行われたSM H.E.L.Pサミットのスピーカーのひとり、アンティジェ・ボーシンさんが書いたもの。小学校就学時から場面緘黙に苦しみ、1人でこつこつと緘黙を克服してきた女性です。ドイツとイギリスの大学で学び、ビジネスエンジニアリングの学士号、メディアテクノロジー修士号、情報学博士号を取得。現在はフリーランスのライター、詩人、翻訳家、語学教師として活動し、現在初の小説を執筆中だそう。

いまなお場面緘黙と対峙しているというアンティジェさん。柔らかな口調で緘黙だった時代を静かに語り、今悩んでいる人たちにアドバイスをくれました。

どんな風に緘黙を克服してきたか:

最初の記憶は定かではないけれど、小学校に入学した後、クラスメイトとは全く話しませんでした。先生には単語で応えることができたけれど、挙手などは無理。3世代家族の家庭では、おしゃべりで学校とはまるで別人でした。

学校では大人しくてすごく内気な子と思われていました。「変わらなきゃ、もっとしゃべりなさい、手を挙げて」と言われ続けた学生時代…でも、どうやったらできるのか誰も教えてくれませんでした。

当時「場面緘黙」は全く知られておらず、「あなたが変なのよ。あなたが変わらなきゃダメ」というスタンス。

成績は良かったから、進学してもっと勉強したかったのに、「話さないから無理」という教師も。学びたい科目があって、どうしても勉強を続けたいというモチベがあったから、頑張れました(博士課程まで進んだのは社会人になってから)。

「場面緘黙」という症状名に遭遇したのは、20歳のころ。本を読んで知り、自分に当てはまるところが沢山あると感じました。「昔から自分が人と違うと気づいていて、皆と同じようになりたかった。家での自分を外で発揮したかったんです」

場面緘黙という言葉を知り、できれば親しい人に伝えられたらと思いました。でも、その前に自分で克服したいと考えて。

大学では発表やディスカッション、そして友人関係上どうしても話す必要がありました。怖かったけれど常に挑戦して、少しずつ少しずつ慣れていったんです。クラスで発表する時、声が小さいので「もう一度繰り返して」とよく言われました。

1対1なら会話はできたけど、どうしても声が出ない時は紙に書いて渡しました。質問に答えることはできても、自分から話を振ることが難しくて…。ボランティア活動に参加し、毎日自分に課題を与えて、スモールステップを始めました。初日は誰かに「こんにちは」と話しかけ、次の日は2人にという風に。話しかけやすいのは、やっぱりおとなし目の人でしたね。

一番苦手だったのは、グループでの会話やディスカッション。人が大勢いるところで話しているのを聞かれるのが怖い――いつも気がかりでした。1対1なら上手く話せるのに、誰かに聞かれていると思うと緊張してしまうんです。

今緘黙に苦しんでいる人たちへのアドバイス:

本でもビデオでもオンラインでもいい、色々調べてみて。緘黙は自分で克服できると思います。決して諦めないで、モチベを持ってポジティブに。少なくとも状況は良くなると信じてください。

自分の意見を主張できること(Being assertive)が、とても大切です。

私の場合はSNSで支援グループを発見したことも大きかった。自分だけじゃないと知ること、緘黙の体験を共有できることがとても重要だと思います。緘黙仲間同士でのオンラインチャットにも挑戦してみてください。

…………………………………………………………………………………………………………………………..

治療のガイドは何もなく、支援者もいなかったため、ひとり手さぐりで挑戦しなければならなかったと振り返るアンティジェさん。「これを勉強したい」というモチベがあったからこそ、頑張れたんですね。ひとつでもいい、「これが好き」と言えるものを持つこと、発見することがとても重要なんだと再確認しました。

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第2回 場面緘黙 H.E.L.Pオンラインサミットから(その3)

<5月中旬に開催されたオンラインサミット、第2回Selective Mutism H.E.L.Pから>

緘黙体験者、ジェイミー・ラゴさん

ダンスの振り付師で緘黙絵本の著者でもあるジェイミー・ラゴさんは、幼少のころから20歳ぐらいまで場面緘黙でした。そんなジェイミーさんを救ってくれたのが踊ること。サミットでは緘黙になった時の状態を詳しく説明し、自分なりの対処法を語ってくれました。

ジェイミーさんは入園するまでただ内気な子と思われていました。でも、実は家族の中で打ち解けて話せたのは母親だけ。入園時のスクリーニングテストで言葉が出ず、場面緘黙症と判明しました。感覚過敏やADHD、ASDなどの診断はなかったそう。

園では周囲の子どもたちと交わることなく、ただ遠巻きに観察する毎日。遊びに参加したいのに身体が動かない――環境に馴染んで大丈夫と感じられるまでに、時間がかかりすぎたのです。

自分が普通に話せると解っているのに、どうして声がでないのか?そのメカニズムは不明でした。母親に「今日は園どうだった?」と訊かれる度に、「まあまあだった」と答えていたとか。

自らの緘黙状態を「冷凍庫の中にいるような感覚」と回想――頭が空っぽになって、自分の名前もわからなくなる…。本当にパニックになりそうな恐怖を感じていたといいます。

そんな恐怖の中で大人から矢継ぎ早に質問されても、何も言えないのは無理もありません。

「動けない恐怖から逃れられるなら何でも良かった。幼いころは、パーティーやお出かけなどで居心地が悪くなると、どこでも眠りこんでしまったわ」。

成人してから、「この不安を処理するには、ただ時間をかければいい」と自分なりのリカバリー法を発見。凍りついた瞬間をやりすごすことができれば、話せる状態になると判ったのです。

それからは、極度の不安に襲われることは稀になりました。でも、時間をかけても恐怖を処理しきれない時は今でもお昼寝するんだとか。「それが場面緘黙に対して起こる、私の身体の反応なんでしょう」とにっこり。

ジェイミーさんの場合、帰宅してからメルトダウンを起こすことはありませんでした。7歳のころからダンスを習っていたため、踊ることでフラストレーションを発散できていたと推測しています。

母親がダンスを始めさせた時、本当はやりたくなくて母親を憎んだそうです。でも、それは新しいことへの不安の裏返し。

当時、話せる仲良しの友達がいて、4人で一緒に習い始めたことが功をなしました。ひとりで参加していたら、続けられなかっただろうと振り返ります。

「チームスポーツだけど、自分で自分の体をコントロールできるから娘に合いそう」と、ダンスを選んだお母様。先見の明がありましたね。

小学校時代は『ジェイミーはシャイで内気』とレッテルをはられているようで、本当に嫌だったそう。園と小学校のメンバーが同じで、そのイメージを払拭するのは困難でした。

「小1の時が一番ましだったかな。みんなが私を変な目で見ないから、友達も一番できたの。でも、学年があがる度にクラスが変わって、話せる子と離れ離れになって、年々友達を作るのが難しくなった…」。

毎年慣れた頃に時計がリセットされる――違うクラス、先生、教室、クラスメイトたち――環境に慣れるのに時間がかかる緘黙児には辛い状況です。

学生時代を通して、緘黙を理解してくれた先生もいれば、そうじゃない先生も。

テストに関しては、ひとり別室で受け時間を延長してもらっていたとか。周囲のことが気にかかり、問題を処理するのに時間がかかったといいます。

学校や心理士を通して何度も検査を受けましたが、正式な治療プログラムを受けられたのは成長してから。場面緘黙症を克服できたと感じたのは20歳のころでした。

学生時代ジェイミーさんが習慣にしていたのは、不安を感じた時にそれを書きとめること。そのメモを心配箱(Worry Box)に入れると、少し安心できたといいます。

「後で心配箱を開けてみたら、メモに書いてあったのは取るに足りないことばかり。それでも、書くことで不安に対処できていたんだと思う」

なんでもいい、ジェイミーさんのように自分が安心できるなんらかの対処法を持てるといいですね。

場面緘黙症で苦しんでいるティーンへのメッセージ:

自分は自分のままでいい。言葉でなくても自らを表現できるものを探すことが大事。あなたはひとりじゃない。サポートグループやインターネットで仲間を探して、仲間を作って。

保護者へのメッセージ:

子どもが自分自身を発見できるように、十分な時間や機会を与えて辛抱強く見守ってほしい。

*          *            *

ジェイミーさんは26歳になった現在も、まだ場面緘黙(の後遺症?)に苦しむことがあるといいます。社会的な場面、特に大勢の人や同年代の人が集まる場では、自分に自信が持てなかった過去を思い出し不安になることがあると。

彼女の絵本『ウィローの言葉 Willows Words』は、話せない少女が踊ることで言葉をとりもどすというお話。この絵本を通じて緘黙の子ども達や保護者に希望をもってもらえたら、と願っています。

https://willowswords.com/willows-words/

なお、この記事はかんもくネットが発信しているnoteの記事に手を加えたものです。

https://note.com/kanmoku_net/

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第3回  場面緘黙H.E.L.P.オンラインサミットから(その2)

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第2回Selective Mutism H.E.L.Pオンラインサミットから(その2)

ぐずぐずした天気が続くなか、イギリスのバラの季節が終わってしまいました。雨の合間に出会ったバラたちの美しい姿を、ここに留めておきたいと思います。

<5月中旬に開催されたオンラインサミット、第2回Selective Mutism H.E.L.Pから>

今回のサミットでは、子どもが「話せない」ことの根底に潜む問題にスポットを当て、作業療法やサウンドセラピー、感覚統合に関わるスピーカーも招いていたのが特徴的でした。その中に、内耳にあって重力と直線加速度を司る働きをする前庭器官(vestibular system) についての話が出て、とても興味深かったです。

私が勤めている高機能ASD児とティーン専門の特別支援校には、作業療法士と言語聴覚士が常勤。生徒たちの運動能力や言語・コミュニケーション力、情緒面など総合的な発達を支援しています。今まで粗大運動などの不器用さが、前庭器官と関係しているとは知りませんでした。

◎ジョリーン・ファーナルドさん:米国の音声言語病理学者(Speech & Language Pathologist)、DIR-SMモデル(Developmental, Individual-differences, & Relationship-based model  発達段階と個人差を考慮に入れた相互関係に基づく緘黙治療のモデル)を考案し、独自の治療方を持つクリニックを運営。著書に『The Comprehensive Guide to Selective Mutism』がある。

*            *             *

ジョリーンさんが場面緘黙症と向き合うことになったのは、娘さん(今年20歳)が3歳で場面緘黙症を発症したから。それまでは大学で少し学んだ程度で、緘黙とトラウマを結びつけていたそう。でも、それが間違った知識だということにすぐ気づきました。

緘黙治療といえばCBTのエクスポージャー法が定番ですが、ジョリーンさんが最初に採用したのは、ソーシャルワーカーとの遊戯療法(箱庭療法?)。社会的な場で固まって動けなくなる娘を見て、まずは遊びで不安を下げようと考えたのです。

次に、作業療法(OT: Occupational Therapy)を追加していく過程で、大きな変化があったといいます。(作業療法は人の感情的、社会的、身体的ニーズに影響を与える障壁を下げるための療法)。

「基本的に娘の行動が全く変わったのよ。前庭は私達の身体を統制する窓口のような器官だけど、それが正常に働いていなかったのね。だから、脳から出た司令を体に伝えるシステムが上手く機能していなかった」

脳は身体が受ける感覚的な刺激を統制していますが、その情報が脳にきちんと伝わらないと、闘争か逃走か反応(fight or flight)、フリーズ反応(freeze)、疲労感覚(fatigue)のシステムが誤作動してしまうといいます。緘黙は喉がしまったような感じになって声がでないのが特徴ですが、一部の緘黙児がそうであるように娘さんも体全体が硬直。また、感情の統制がうまくいかず、学校から帰ると癇癪を爆発させ、社会的な場に出ると疲労が激しかったとか。

それ以外にも、課題が見えてきました。

「娘にはまず自分自身の感情を理解する必要があった。それから、人の感情を理解することも」(ジョリーンさんは子どもの情緒面の発達を支援することの大切さを訴えています)。

「6歳のころに人の絵を描かせてみたら、大きな頭から短い手足が直接出ているだけ。胴体も首もなかった。普段の行動からみて、空間における自分の身体の位置がきちんと把握できていないようだったわ」

作業療法を続けることで、娘さんの不安の根底に何があるかを理解できたといいます。「話せないことは氷山の一角でしかない。それがよく解ったの」と回想。そこからは、薬も考慮に入れた総合的なアプローチに目を向けたそう。その過程で出会ったのが発達心理学者、スタンレー・グリーンスパン博士によるDIRモデル(ASD児の治療プログラムとして有名)でした。

緘黙児の中には音声や言語、コミュニケーション、感覚処理、運動機能、視覚空間など様々な問題を抱えている子がいます。その複雑さ考えると、障害のすべての側面に対処するDIR/ Floortime のような包括的な治療モデルが必要。

それぞれの子どもの発達に合わせて、音声や言語、運動や感覚の処理などを含む個人差を考慮したうえで、家庭・学校・地域での相互関係を通じて、社会性や情緒面の発達をサポートしていく。それがジョリーンさんの治療方針です。

追記:

緘黙児でなくても感覚過敏があったり、ちょっと体が硬かったり・バランス感覚が悪かったり、文字を書くのが苦手だったり、というようなことがあるかと思います。イギリスの公立学校では、5歳になる歳で入学。1年目はレセプションと呼ばれ、1年生になる前の準備コースのような感じです。

この学年中に、入学した子どもたちに対して、ひとりずつ身体面・情緒面(社会面を含む)・言語面・学習面(数字の観念や指示に従えているかなど)などの発達状態を調査。気になる点がある子に関しては、SENリストに載せ、保護者に連絡を入れ対策を考えます。

例えば、息子のクラスでは35人のうち半数以上がリストに。ASDや身体的な障害を持つ子から、話し言葉が不明瞭だったり、友達に譲ることができないといった情緒的な面まで幅広くカバーされていたよう(息子ももちろん入っていて、小児クリニックで診察を受けたため、IEPは「アクション+」という評価でした)。

SENリストに乗った子は、学期中は要観察。問題がないと分かるとリストから外され、レセプションが終わるころには半数以下になりました。

学校とNHS(国民保健制度)が連携しているため、気になるところがあれば学校を通じて保護者や医療機関に連絡が行きます。家庭では少々問題があってもそれを個性と捉え、保護者が気づかないこともあるかと思うので、このシステムは利点が多いと思います。

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