どうして場面緘黙になるの?

6月もすでに半ばを過ぎてしまいました。イギリスではロックダウン中の4、5月と記録的に晴天が続いたのですが、6月に入った途端に例年並みの変わりやすい天候に…。毎日のコロナ感染者も死者も、まだまだ安心できるレベルまで減少しておらず、第二波が心配です。

  3週間ほど前、パーゴラの両脇に植えた白薔薇の根本に大穴が!我が家の庭に毎晩キツネがやってきて、悪戯していくのです…。苦肉の策で、キツネ除けバリケード(夜間用)を考案しました(^^;)

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自分の子どもはいつ、どのように場面緘黙になったのか? 実は、思い当たるふしがないという保護者が多いのだそう。

今回の講演の中で、マギーさんが緘黙の引き金要因について説明され、なるほどと思いました。

家族は引き金となった出来事や原因を突きとめようと過去を遡り、「これに違いない」と見当をつけているかもしれません。でも、実はそうでない場合も多いようです。子ども自身も覚えていないかもしれません。

不安障害のひとつである場面緘黙は、恐怖症と同じメカニズムを持つ。

恐怖症を発症する3つのメカニズム

  1. Transference(転移)
  2. Modelling(モデリング)
  3. Direct Association(直接的な関連付)

1.Transference(転移)

殆どの緘黙児は話せない人・場所・活動が決まっているが、実のところ特定の人・場所・活動自体が怖いのではないことが多い。祖父母や先生など、大好きで話したいのに、喉が閉まったようになって声がでない。

この「話すこと自体が怖い」という不合理な恐怖症はどこから来たのか?

本来、恐怖を感じたのは「話すこと」ではなかったが、不安でパニック状態になっている時に、「話すこと」が恐怖の対象として結び付いてしまう(転移)ケースが多い。

引き金になる出来事が起きた際、親や家族が傍にいなかったケースが多いといい、原因がつかめないのもうなずける。

例えば、見知らぬ場所やショップなどで、子どもが親や家族を見失ったとする。子どもは頭が真っ白になり、心臓がドキドキしてパニック状態に。そんなところに、見知らぬ大人がやってきて、親切心で矢継ぎ早に質問を浴びせかけられたら?

子どもは喉が閉まったようになり、質問に応えることができず、恐怖は更に大きくなる。この「何か言わなきゃいけないのに、声が出ない」という体験が恐怖と結びついてしまう(転移)。

この恐怖体験をしばらくは忘れていることが多いが、次に親が傍にいない時に見知らぬ大人に話しかけられると、以前体験した恐怖と「声が出ない」状態が蘇る。これを何度か繰り返すうちに、子どもはどんな場面でこの恐怖に遭遇するかを学習し、極力そうなる場面を避けるようになっていく。

2. Modelling(モデリング)

子どもは頼りにしている人の言動を見て学習する。例えば、兄姉が話すことを恐れ・回避しているのをずっと見ていると、弟妹も「話すことは怖い」と思い込み避けるように。また、移民で内気な親が親族としか交わらず、家庭外(学校を含む)で英語を話したがらない様子を見て育ったケースなど。

3. Direct Association(直接的な関連付)

「話すこと」自体に恐怖を覚えたケース。例えば、話している時にからかわれたり、批判されたりした場合。また、不安な状態の時に、何かを言うよう強要されるような体験をした場合など。

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緘黙と恐怖症

早期発見・治療の重要性

あっという間に時間が過ぎて、またまた更新の間が空いてしまいました。ふと気づいたらすでに5月も半ばちかく――いつの間にか前庭のイングリッシュローズの一番花が咲いてました。ここのところ20度を超える日が続き、春爛漫の花薫るような気候です。

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Mary Rose の一番花。今年はピンクの色がちょっと濃いみたい

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ご近所を歩いていると、色々な花との出会いがあります

ところで、しばらくブログを見ないうちに、いきなり文字の色が薄くなっているのに気づきました。字がボヤケてしまい、読みにくくてすみません!多分、WordPressをアップグレードした段階で問題が生じたと思うのですが、主人にきいても原因が判らず…。どうしようもないので、今回は太字にしてみました。

さて、4月20日に参加した場面緘黙ワークショップでは、「障害(disorder)」という言葉がすごく引っかかりました。Hクリステンセンによる研究データ(『場面緘黙のワークショップに行ってきました』を参照ください)を見ると、「分離不安障害」や「社会不安障害」など、併存する症状には殆ど “障害(Disorder)” という言葉がついています。

クリステンセンの論文の抄録をチェックしたところ、対象となった54名の子どもの年齢には触れてないよう。発症年齢を考えると、3~12歳くらいと思うんですが…。併存する障害があるかないかの判断は、DSM4を基準にして、子どもへのアセスメントと親への調査を通して行われたとあります。

併存している症状が、厳密に「障害」と名がつくほど深刻だったのか?話さない子どもに対して厳正な診断ができたのかどうか?また、何歳くらいの子どもが多かったのか?いろいろ気になります。

これに対して、年齢順に併存症をならべたマギーさんとアリソンさんのデータを見ると、最初の4項目(年齢が幼い順から)は「分離不安」や「全般性不安」など、”障害(Disorder)”という言葉がついていません。

「~症」と「障害」の違いについてマギーさんに質問したところ、「簡単にいうと、深刻な症状が長期に渡って持続し、生活に支障をきたすレベルが『障害』」ということ。例えば、「社会不安障害」だと、DSM-Vでは深刻な社会不安の状態が6ヶ月以上続く場合と定義されています(詳しくは『専門家に相談する必要性?』をご参照ください)。

2年ほど前に、《9歳の壁》について書きました(詳しくは『告知するかしないか(その3)』をご参照ください)。小学校の中・高学年になると、場面緘黙の治療は難しくなるといわれています。その理由は、プレ思春期に入る9歳頃から、子どもはものごとを対象化してみることができるようになり、自分と周囲を意識しはじめるため。その時点で、すでに何年も緘黙状態が続いて「話さない子」のイメージが固定化してしまい、自意識も強くなるため、話し始めることがより困難になるのです。

マギーさんとアリソンさんのデータにも年齢は書かれてないのですが、子どもが自分を客観視できるようになり、周囲と比べることが多くなるこのプレ思春期あたりから、併存する症状が悪化する可能性があるのではないか――そう思い当たりました。

例えば、入園したばかりの園児の中には、初めて母親と離れて大泣きする子がよくいますよね?それでも、大体の子は1ヶ月くらいで園に馴染みはじめるんじゃないでしょうか?こういった子ども達は「母子分離不安」はあるものの、「障害」まではいってないはず。

(1ヶ月以上経っても全く母親から離れられず、ストレスで心や体に不調が出てくるようであれば、「障害」になるのかな?その場合は、専門家に相談したり、入園を見合わせる必要もでてくるかと思います。年齢的な目安はありますが、子どもは一人ひとり違うので、我が子からのサインを見逃さないことが重要になってきそう)。

マギーさんとアリソンさんのリストをみると、「障害」という名がつく不安症は最後から2番めの「社会不安障害」。順番からいって、幼児期ではなくプレ思春期~思春期のころかなと想像できます。幼児期でも社会不安を感じている子は多いはずですが、それは家庭とは違う学校や園の雰囲気、知らない大人達に対する、感覚的・生理的なものが大きいんじゃないでしょうか?

それが、プレ思春期や本格的な思春期に入ると、より深刻化する可能性がでてくるように思います。その理由は、社会不安障害の定義は、「他者から否定的な目で見られたり、否定的な評価をされることへの恐怖や不安」というものだから。周囲の目が気になるようになり、自分についてより深く考えることができるようになってはじめて、「他者から見た自分の評価」を下すことが可能になるからです。

子どもの体と心が急激に変化する思春期は、誰もが悩みや葛藤を経験する時期。不安になりやすく繊細な緘黙児は、緘黙だけでなく併存症を抱えていることが多いのに、それに加えて、思春期特有の葛藤を抱えながら毎日を過ごさねばなりません。それが、かなりのストレスとなり、併存症が悪化しても不思議ではないと思うんです。

場面緘黙は早期発見・治療が重要といわれますが、それは緘黙の併存症を悪化させないことにも繋がるのではないかーー今回のワークショップで感じたことのひとつです。

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場面緘黙と他の不安障害の関連性--場面緘黙のワークショップから

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場面緘黙と他の不安障害の関連性――場面緘黙のワークショップから

前の記事『場面緘黙のワークショップに行ってきました』の続きです。

ここからは、場面緘黙と他の不安障害の関連性について、ワークショップで学んだことと、私が思ったことを書きますね。

データ1については出典が定かでないのですが、発達的な障害は除外して、情緒的な障害に的を絞っているようです。データ1と2の「不安障害全般」を比較すると、61-97%と74%で同じような傾向といえます。緘黙児には、不安になりやすい抑制的な気質の子が多いことが解っていますが、それを証明する数字ではないでしょうか?

2つのデータからみえてくるのは、場面緘黙の子どもや大人は、場面緘黙+別の不安障害を発症している確率が70%くらいは(あるいはそれ以上)あるということ。アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアルの最新版、DSM-V (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders) では、「場面緘黙」は不安障害に分類されています。ということは、同じ不安障害のカテゴリー内で、「場面緘黙」に加え、多くの子どもや大人が「社会不安障害」や「分離不安」などを併行して発症しているのです。

そんなこと当たり前と思われるかもしれませんが、

不安になりやすい気質 → 様々な不安障害になりやすい

ということを心しておくべきではないでしょうか?(もちろん、生まれ持った気質や発達の問題、育った環境、人間関係などが影響してくると思いますが)。

合併症ではなく併存症という言葉が使われているので、「場面緘黙」になったから、それが原因で「社会不安障害」など他の不安障害になる訳ではありませんよね…。どちらかというと、不安になりやすい子どもが、社会的な場面に適応できなかった場合、何らかの不安障害を発症したり、複数の不安障害を併せもつ傾向が強いといえるのではないでしょうか?

(Wikiで調べると、

合併症:「あ病気が原因となって起こる別の病気」または「手術検査などの後、それらがもとになって起こることがある病気」 

併存症:「異なる病気が時系列に関係なく起こる」)

マギーさんが強調していたのは、「場面緘黙」と「社会不安障害」などの他の不安障害は、異なるということ。一般的に緘黙児には社会的な不安が強い子が多いですが、社会不安が悪化して「社会不安障害」になった時、別の独立した障害として、緘黙と切り離して考える必要が出てきます。

  • 場面緘黙:人前で話すことに対する恐怖や不安
  • 社会不安障害:他者から否定的な目で見られたり、否定的な評価をされることへの恐怖や不安

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“場面緘黙の権威”として知られる、マギー・ジョンソンさん

例えば、不登校を考えてみると、緘黙だから不登校になる訳ではないですよね?学校や園の環境が整っていれば、緘黙児は毎日普通に学校に通い、普通に学校生活を送ることができるはず。不登校になる背景には、社会不安障害や何らかの恐怖症が潜んでいるのではないでしょうか?

場面緘黙治療や取り組みは、子どもの持つ「不安」にスモールステップで対処し、自己評価を高めていく、(認知)行動療法が主流。これは他の不安障害にも有効なようです。特に、早期発見・治療ができれば、その後の学校生活に問題が残らないことが多いよう。ただ、緘黙は治っても、併存していた他の不安障害が同時に治るとは限りません。特に、緘黙期間が長く続くと、併存症を発症する傾向が大きくなるように思います。ただでさえ心のバランスが崩れやすい思春期に、緘黙を抱えていることが大きなストレスになるのは想像に難くありません。

もし「社会不安障害」や「パニック障害」などが残ってしまった場合は、程度にもよりますが、そのための治療が必要になってきます。「後遺症」だから仕方ないと諦めず、早い段階で心理士やセラピストに相談してみてください。

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場面緘黙のワークショップに行ってきました

場面緘黙のワークショップに行ってきました

先週から、なにやらバタバタ忙しくなり、また更新が遅れてしまいました。なので、今回の記事の内容ももう1週間以上前のこと…時間が過ぎるのが早いです!

先週の水曜日、SMiRAが主催した場面緘黙ワークショップのエクステンションレベルに参加しました。講師は『場面緘黙リソースマニュアル』の共著者、言語療法士のマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさん。

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講師のアリソン・ウインジェンズさん

2日間の集中コースでしたが、基本的な対応を学ぶコアレベルは3年ほど前に済ませたので、今回は複合的な場面緘黙やティーンの支援に焦点をあてたエクステンションレベルに挑戦。この日の参加者30名のうち、両日参加した人が9割を占めました。言語療法士、教師、TA、看護師といった専門家が多かったです。

ちなみに、私の隣に座っていたのは、ポーランド出身でアイルランド在住という緘黙児のママ。ポーランド人のための支援グループを立ち上げ、今や会員が2000人近くいるとか。彼女の隣には、わざわざポーランドからやってきた言語療法士が2人。国内に場面緘黙の専門家がいないということで、彼らの熱意が伝わってきました。

ところで、3月14日に『ポーランドから場面緘黙の画期的な治療法?』という記事を書いたんですが、いまひとつピンと来ず。お隣さんに訊ねてみたところーー「私は信用していない!」と否定的な返答が…。実際のところはどうなんでしょうね?

 

さて、話を元にもどすと、今回のワークショップで興味深かったのは、場面緘黙と併存症、それぞれの対処方について。まずは、併存症とその発症率について、3つのデータを紹介します。

データ1:場面緘黙に併存する症状と併存率(概要)

□ 不安障害全般 ― 全体の61-97%

  • 社会不安障害(SAD)― 約65%
  • 分離不安 ― 12-32%
  • 特定の恐怖症 ― 30-50%

□ 反抗性障害 ― 6-10% (平均より高め)

  • 軽度の反抗的な兆候 ― 非緘黙児における不安障害の割合と同じ

*注:反抗性障害の認識は、教師よりも保護者の方がが少ない

*みく注:多分、イギリスにおける最新の統計かと思うのですが、資料にはこのデータのソースがついておらず出典は不明。できたらマギーさんに質問しようと思ってます。

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データ2:Hクリステンセン(2000年)による併存症と併存率/(研究対象:54名の緘黙児)

発達障害全般 ― 69% (うち調節障害 13%)

□ コミュニケーション障害 ― 50%

  • 音韻障害 ― 43%
  • 受容-表出混合性言語障害 ― 17%
  • 表出言語障害 ― 11%

□ 排泄障害 ― 30% (うち調節障害 9%)

□ 発達性協調障害 ― 17%

□ アスペルガー(ASD児は除外) ― 7%

□ 軽度の学習障害 ― 8%

不安障害全般 ― 74%

  • 社会不安障害(SAD) ― 68%
  • 分離不安障害 ― 32%
  • 全般性不安障害(GAD) ― 13%
  • 特定の恐怖症 ― 13%
  • 強迫性障害(OCD) ― 9%

★全体の46%の子どもが発達関連の障害と不安障害を併存

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データ3:マギーさんとアリソンさんの治療現場から見た併存症

  •  分離不安
  • 全般性不安
  • 問題行動
  • 他の恐怖症
  • 自閉症スペクトラム(ASD)
  • 社会不安障害(SAD)
  • 自傷/ うつ

*注:幼児からティーンまで、年齢の低い順から顕著な症状を並べています。

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ちょっと長くなりそうなので、次回に続きます。