SM H.E.L.P. 2022年10月サミット(その4・エイブリーさん)保護者も変わる

イギリスは先週から寒気に包まれ、今日は最低気温がマイナス5度、最高気温が2度という経験したことのない寒さです。ロンドンでは日曜日の夜から初雪が降り始め、あたり一面真っ白に。気温が低いので雪が溶けず、踏み固められてアイスバーンに…。10センチ雪が積もったくらいで、交通が麻痺したり、学校が休みになったりというパニックに加え、郵便局・看護師・鉄道などのストで国が機能してない?!

初雪が積もった我が家の小さな中庭に、キツネがやってきました

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エイブリーさん自身の変化

特筆したいのは、娘たちの支援を続けるうちに、エイブリーさん自身にも変化が訪れたこと。子どもが進歩するにつれ、自分も変わらなければと強く感じるようになったそう。

子どもに自信をつけさせるためには:

  • 自分がもっと自由で幸せを感じ、人間関係を充実させて自信を持つ
  • 娘のお手本になる

自分がやっていないことを、子どもにやらせるのは難しいと実感し、上記の2つが必要だと感じたのです。

成人してからも社会不安や場面緘黙を引きずっていたエイブリーさん。何度もセラピーにかかりましたが、なかなか改善しなかったそう。でも、スモールステップで常に小さな挑戦を続けることで、自分自身を変え、社会不安を乗り越えることができたとか。自らの深層心理を見つめ、新しい挑戦に飛び込むのは簡単ではありませんでしたが、最終的には公衆の前でスピーチしたいとまで思うように。

そして、努力を続けた結果、ついに「こうありたい」と思うような人生に切り替えることができたといいます。

社会不安を克服するトレーニングを始めて、自分を愛すること、自分の声を持つこと、自信や自尊心を育てることができるようになったそう。

現在、エイブリーさんは「サンシャイン・マインドセット」というビジネスを立ち上げ、他の保護者や子ども達が内なる光を探し当てる支援をしています(セラピストではなく、米国のICF(International Coaching Federation)の資格を持つコーチ)。

https://sunshine-mindset.com/

エイブリーさんからの言葉

ネガティブに「私は内気だから」「できない」と言っていると、脳はそれを信じてしまいます。まず、「できる」「大声で叫べる」と思うこと。ネガティブな思考からポジティブな思考へと変えること。楽しいと思えた時、それが自信につながるんです。

小さな子どもにとっても、それは同じ。「大丈夫、〇〇ちゃんは勇気があるんだから」と口に出して言うことで、子どもは変わっていけます。

みく感想:

「子育て」は「親育て」といいますが、エイブリーさんはこの言葉通り、自分を変えて満足できる人生を得たようです。社会不安が強かった彼女が、学校や医療関係者に自分からアプローチすることは、どんなに勇気がいったことか。でも、娘たちの支援を勝ち取るために、必死で強くなっていったんでしょうね。小さな成功を積み重ねることで、母と子が少しずつ自信をつけていく姿が見えるようです。

緘黙児の保護者は自らも抑制的な気質の人が多いと思うので、自分から働きかけることが本当に難しい…。でも、子どものためと思えば、結構できてしまうもの。私も試行錯誤の末に色々鍛えられて、強くなれたような気がしています。理解されるのが難しくても諦めずに粘っていれば、なんとか道が開けてくるはず。頑張ってください。

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SM H.E.L.P. 2022年10月サミット(その3・エイブリーさん)親子の緘黙

イギリスでは12月に入って急に冷え込んできました。夕方4時頃になるともう薄暗くて、長~い冬の到来という感じです。光熱費や食料品、ガソリン代などが高騰していて、鉄道、郵便局、医療スタッフや救急車まで、クリスマスにかけてストが目白押し…人々の暮らしがどうなってしまうのか、本当に心配です。

散歩する公園のカフェに温かな光を灯すクリスマスツリーや飾り

<エイブリーさんが行った支援>

長女:4歳ころには緘黙などの症状があるのに気づくが、診断がおりたのは6歳。特に、社会性の問題が顕著だった

次女:2歳半~3歳くらいの時から兆候があり、入園の際に極端な母子分離不安が判明

<小児科・ソーシャルワーカーとの取り組み>

長女の症状に気づいてからすぐリサーチを始め、「場面緘黙」という症状名を発見。小児科医に連絡し、病院を通してソーシャルワーカーと2年ほど取り組みを続けた。しかし、少し進歩したところで、「娘さんは私には話すから場面緘黙じゃない。外でも一言二言話せるから、もう私のサポートは必要ない」と支援を打ち切られた。

<心理士との取り組み>

元主人が長女の学芸会をひとりで観に行き、娘の状態を危惧。「全然動かなくて無表情だった。絶対に何かおかしい」と、心理士を受診することを提案。

心理士とCBTを中心にしたセラピーを続けることで、少しずつ改善。誕生会などではしゃべれないが、先生に質問されたら小さな声で短く答えられるように。

それから次女が誕生。入園したあと、何もせず、何も食べられず、他の子達と一緒に座ることさえできない状態だった。

心理士に相談したところ、長女の症状の他に、社会恐怖や全般性不安障害も。より深刻で、園にいる間は全くしゃべらず、わずかに口を動かすだけ。そこからのスタートだった。

<学校での取り組み>

学校や園でもできる限りの支援を求めた。長女は小学校1年生から、次女は幼稚園からIEP(個人支援プラン)を作成してもらうことに成功。オハイオ州ではIEPのある子どもに予算がつくため、これが大きな転換点に。次女は幼稚園で週に3回TA(教育補助員)がつき、心理学者と相談して決めたゴールを目標に、スモールステップの取り組みを実施した。

保護者は子どもの学校での様子が全く分からないから、学校とのコミュニケーションは大切。子どもの可能性を違う視点で見ることもできる。

<心理士からのアドバイス>

・就学前に担任に会う

・教室内でその時々のゴールを子どもに確認させる

・学校と家庭間のコミュニケーションを密に

<講習会などへの参加>

場面緘黙の講習会にも積極的に参加。学んだ知識や情報をもとに、より効果的な治療法を探って、心理士の治療と並行して取り組んだ。NYで開催しているBrave Buddy’sにも参加した。

次に、娘たちを連れて1週間のSMキャンプに参加。母子分離不安がある次女は最初は嫌がったが、常にオープンに話していたことで心の準備はできていたと考えている。

長女にはキャンプの効果大で、初めてなのに全ての挑戦をクリアできた。その反面、次女には難関だったが、その後も諦めずに3年ぐらい参加した結果か、囁き声で話せるように。

SMキャンプには保護者の講習会もあり、緘黙への理解、取り組みを継続することの重要性、各ステップの実施、不安がどのように機能するか、していい事いけないことなどを学習。不安を抱える保護者にとって、緘黙は改善できるという希望を持てた。キャンプ終了後に普段の生活で何をすればいいのか学べたのも収穫。

成功のモメンタム(勢い)を継続させるため、高額だったが心理士を2人に増やした。場面緘黙を専門とする心理士と月に1度オンラインで話し(母親のみ)、取り組みや対処法を細かく計画。もう一人の心理士に取り組みを実践してもらう方法で、数年間続けた。

<専門家を味方につけること>

母子で取り組みをしていると、母と子の関係がセラピストと緘黙児の関係に変わってしまうことがある。だから、第三者の心理士がいるのはとても大切。その上に、学校関係者と専門家を含めたチームを作ることができれば、異なる場所(家と学校)での子どもの状態や進歩を確認できる。

<薬の服用について>

薬は最後の手段にして、まずできることを全部やってみた。次女の場合はSMキャンプを数年続けたが、心理士に「話す時だけでなく、通常でも不安が強い」と言われ(ASDの可能性も考えている)、服用に踏み切ることに。プロザックを低量から開始。

服用3日目に「私、話してる。どうしてこんなに話せるの?ママ、友達に言って」と、娘から言ってきた(この状態は継続した訳ではなかったよう)。これが、自分から友達に電話する挑戦を後押しすることに。

自分が「声を出せる」「話せる」と解った時、「自分はできるんだ」と考え方が変わり、自信が持てる。色々治療を試してみて、超えられない不安の壁があると解ったら、薬を試してみてもいいのではと思う。

(またまた次回に続きます)

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SM H.E.L.P.2020年10月サミット(その2)

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SM H.E.L.P. 2022年10月サミット(その2・エイブリーさん)親子の緘黙

天気が変わりやすい灰色の日々が続くイギリス。時どき青空が見えると、本当にほっとします。

    勤務先は小高い丘の上。母と小学生の子ども達による通勤路の街路樹アートはまだまだ続く

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さて、SM H.E.L.P.の秋サミットの続きです。

講演者: アメリカ在住のエイブリー(Avery Sunshine)さん。緘黙体験者で2人の娘の緘黙を支援しているうちに、自らの緘黙の過去を断ち切り理想としていた自分になることに成功。現在、他の子ども達や保護者が内なる太陽を見つけられるよう支援を行っている。エイブリーさんのサイト:sunshine mindset

<成人しても緘黙に苦しんできた>

私は人生のほとんどを社会不安、分離不安、場面緘黙に悩まされてきました。そんな私が変わったのは、幼い娘たち2人に同じ兆候があると気づいたとき。娘たちには自分とは違う未来を歩んで欲しい――勇気を奮い起こしてサポートしている内に自分自身も変わることができたんです。今では、かつて理想としていた人生を送れています。

<場面緘黙と社会不安>

私は幼少の頃から、極端に内気で不安の強い子どもでした。それは大人になってからも変わらなかったわ。これらの症状は場面緘黙の人なら誰でも持っているという訳ではないけれど、重なる部分も多いのでは?

<場面緘黙と社会不安の違い>

場面緘黙と社会不安との違いは、SMは話すこと・口語でのコミュニケーションに対する恐怖症。一方、社会不安は自分がいつも舞台の上にいるような気持ち――常に人に見られていて、どう判断されることへの恐れです。この2つが併存していることは多いのではないでしょうか?

<幼少期の思い出>

小さい頃は社会不安が大きくて、両親としか話せなかった。自分から友達を作れなかったから、母が友達を連れてきてくれたけど、すごく孤独でした。

中学では虐めにあって「ミュート(唖)」と呼ばれて…。特にひとりに虐めのターゲットにされて、髪にガムをつけられたり、持っている本を落とされたり。どうしていいか判らず、とにかく忙しいふりをしていたの。ひとりで座ったり、誰かのグループに入ったりする勇気がなかったから、用事もないのに学校の公衆電話から母親の職場に電話したり…。すごく大変だった。

高校では少しマシになったけど、個人発表やグループプロジェクトが苦痛で。1000%正しいと解っていても、挙手できない。個人の発表が迫ってくると、仮病で学校を休むすこともしばしば。課外活動を見学に来た母が、誰にも話をせず・かかわらず、何もしない私を見て狼狽していたのを覚えています。

<子どもの心情を理解して>

保護者や教師たちが子どもの心情を理解することは本当に大切。「恥ずかしがり屋なだけ。成長したら治るから大丈夫」と客観視するのは危険です。子どもは心の中で多くの葛藤を抱えている。独りぼっちでいたくないのに、自分からグループに混じることはできない――どうしたら輪の中にいるよう見えるのか、絶えず心配し心を痛めていました。それなのに、傍からは「平気そうだから大丈夫」とみられてしまう。誰かに判ってもらえるだけで、全然違うと思います。

<子どもが抱えている違和感>

「私はみんなとどこか違う。どこがいけないの?」と自分でも判ってました。実は、私の家庭は機能不全で健全ではなかったから、家族からのサポートや手引きを受けるのは無理だったの。「もし支援を受けられていたら、自分の人生はどう変わっていたんだろう」とよく思います。

娘たちが生まれるまでは、自分はこんな家庭で育ったからこんな風なんだと思い込んでいた――娘たちが私と同じパターンの行動を取るようになるまで。その時点で、やっと自分が場面緘黙で不安障害と分離不安も抱えていたことを発見したの。私が娘たちに注いでいる愛情や支援が、私の両親にはまったくなかった。大きな困難を抱えていたのに…。支援や支援チームがあるかないかとでは、子どもの未来が全く変わってくると思います。

(長いので次回に続きます)

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SM H.E.L.P. 2022年10月サミット

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SM H.E.L.P. 2022年10月サミット

今日はイギリスの緘黙支援団体、SMiRA(Selecive Mutism Information & Research Association )の30周年記念日です㊗ どうもおめでとうございます🎊

故会長のアリスさんとコーディネーターのリンジーさんがSMiRAを創設してくれたお陰で、我が家を含めどれだけ多くの家族が助けられたか。

関係者の皆さんの努力に、本当に頭が下がります。長い間ありがとうございます。

秋も深まってきて、日暮れがどんどん早くなってきました

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10月は場面緘黙の啓発月なのでSMiRAでもオンライン講習会などを開催しているのですが、時間が取れないでいました。やっと先週末にSM H.E.L.P.の秋サミットを視聴できたので、紹介させていただきます。

今秋のサミットでは場面緘黙の経験者や保護者らが自らの体験や支援状況、取り組みなどを語ってくれました。絵本や活動本を出版したり、セッションなどを提供している人も多く、現在子どもの緘黙と格闘している保護者にはとても励みになると思います。

講演者: アメリカ在住のヴェロニカ(Veronica DeStefano)さん。3人の子どもの母親で次女のルーシーちゃんが緘黙

ルーシーは他の子とどこか違う――そう気付いたのは、ルーシーが3歳のころ。幼稚園に通い始めて1年の間、「すごく静かで、全然話さない」と言われ続けたとか。最初は「とてもシャイだけど、今に慣れるわ」と答えていましたが、結局最後まで慣れることはなかったのです。

全く応答しないため園ではアセスメントも図工もできず、自宅に送られてくることに。話せないだけでなく、行動の抑制もあり、ルーシーが園で何を学び、何ができるのか全く見当がつかない状態でした。

「本当に不思議だったわ。家では姉弟の中でも一番賑やかで、ものおじせず声も大きいの。頑固なところもあるわね。園に入るのを楽しみにしてたのに、園と家では全く別人のようで…」

4歳検診の際に医師に1年間ずっと園で話さなかったことを告げると、「それは内気なだけじゃない、違う症状です」といわれました。

幸運なことに、そのクリニックで働く同僚の息子が場面緘黙と診断されたばかりだったとか。医師は同僚に意見を聞き、同じ症状だと確認。ヴェロニカさんは場面緘黙に関する情報や専門家・セラピストのリストを入手することができたのです。

すぐに行動を起こし、デンバーの不安障害センターを訪問。そこで正式に診断が下り、翌月には娘と一緒にSMキッズキャンプに参加したそう。

キッズキャンプで出会った専門家の協力を得て、園での支援体制を整えることができ、家でもスモールステップでの取り組みを始めました。

ルーシーは順調に進歩し続け、現在はレストランで注文したり、クラスでの発表もできるように。支援チームができたことで先生とクラスメイトの理解も得られ、友達もできたということ。ただ、7歳になった現在、学年が上がって新しい校舎、新しい支援チームと環境が変わり、家で癇癪を起こすことも。始めて学校に行きたくないと言い始めたとか。

SM H.E.L.P. 主催者のケリーさんとのQ&Aから

<場面緘黙の知名度はまだまだ低い>

「ルーシーはいつも隅っこにいて、誰とも遊ぼうとしない」と教諭にいわれ、不安が募った。医師から「場面緘黙」という症状名を聞くまで、誰も知らなくて…。ネットを検索すると多くの情報やビデオが出てくるのに、何故教諭や医師が知らなかったのか疑問に思った。

<SMと恥ずかしがり屋の違い>

極端にシャイな子でも最終的には人や環境に慣れて、遊びに加わったり、話したりするようになると思う。でも緘黙児は違う。いつまで経っても慣れることができず、不安が強いまま。特に、顔の表情が違うと思う――恐怖のためか無表情でその場にいたくないのが明白に感じ取れた。

<SMキッズキャンプ>

キャンプに参加した時は最年少。1日8時間のセッションで、色々なことにチャレンジさせてくれた。例えば、犬と猫とどちらが好きか他の子達にステッカーで答えてもらったり、1ドルショップで買い物をしたり。チャレンジブックにたくさんのステッカーをもらえて、それが自信に繋がった。今でも時々眺めて「こんなに頑張れたんだね」と話すそう。キャンプでは途中で疲れてスタッフの膝で寝てしまったことも。

保護者のミーティングでは主催者が長時間の質疑応答に応えてくれ、とても有意義だった。また、ここで出会った専門家が園に来て緘黙についての講習を行ったことで、支援体制を整えることができた。

<家庭での取り組み>

短時間の間にキャンプで学んだエクスポージャー法を、帰宅してからさっそく日常生活で実行。それが大きなターニング・ポイントとなった。

例えば、レストランに行ったら「注文を取りに来た時、あの小さい女の子に水がいいか、レモネードがいいか訊いてくれる?」と事前にウエイトレスに耳打ちするなど。常時、何ができそうかを考えて計画を立てる。娘の前で「この子の名前を訊いてくれる?」と訊ねるのは自身も恥ずかしいけれど、母親が勇気を出している姿を見せることも大切という。

<IEPと支援体制の重要性>

園や学校に緘黙の知識をつけてもらえるよう働きかけることは本当に重要。関わるスタッフ全員にルーシーのニーズを知ってもらえ、学校全体で対処できるようになる。特に、IEP(個別教育支援プラン)を作ってもらえたことが大きかったと思う。

<著書:『ルーシー・レモンと勇気のシャボン玉』>

ヴェロニカさんは自らの体験を生かして緘黙支援本『ルーシー・レモンと勇気のシャボン玉』シリーズを3冊出版。1冊目は子どもにも判りやすく緘黙を、2冊目はエクスポージャー法を説明。3冊目はエクスポージャー法にスモールステップで挑戦する実践的な内容。

Lucy Lemon and the Brave Bubbles      

Lucy Lemon’s Brave Bubble Pop!

Lucy Lemon’s Brave Bubble Activity Book

 

 

 

みく感想:

やはり緘黙治療には早期発見・治療が必須だと思い知らされます。診断後すぐにSMキッズキャンプに参加したり、専門家と学校との懸け橋になるなど、ヴェロニカさんの行動力には脱帽です。アメリカでも、イギリスでもそうですが、まだまだ緘黙支援が得にくい地区もあり、保護者も大変。抑制的な傾向のある人も多いと思うのですが、保護者もスモールステップで勇気を出していきたいですね。

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SM H.E.L.P. 2022年5月サミット

季節が目まぐるしく移り変わり、またアメリカの保護者、ケリー・メルホーンさんが主催するSM H.E.L.P.サミットが開催されました。が、先週末はいろいろ先約が入っていて、残念なことに最初のビデオしか視聴する時間がありませんでした。

     Regents Park のバラ園では早咲きのイングリッシュローズがほぼ満開でした

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スティーヴン・クィンラン 臨床ソーシャルワーカー  Stephen Quinlan, Licensed Clinical Social Worker

不安を抱える子どものセラピストとして20年の経験を持つスティーヴン。非営利支援団体、イースターシールズ(Easterseals)では、ニューイングランド唯一のマルチディシプナリー形式の場面緘黙クリニックにて、メンタルヘルス面を担当。場面緘黙と診断された数百人の子どもと向き合った実績の持ち主。著書に『Raising Voices: A workbook for parents, teachers, and kids with Selective Mutism 』がある

場面緘黙は年齢が若いほど治療プログラムによって克服できる可能性が高い。将来的に何らかの不安を持ち続けるかもしれないが、充実した人生を送れることが多い。

1) どのようにして子どもの不安と向き合い、支援するか

場面緘黙にせよ、それ以外の不安障害にせよ、不安への向き合い方は同じ。子どもが「怖い」と感じる時、脳は自衛のために扁桃体(アミグダラ)から「何らかの危険が迫っている」というシグナルを送る。実際に危険が存在するかしないかに関係なく、脳はそのように反応してしまう。次に同じような体験をすると、簡単にシグナルのスイッチが入り、それが不安や恐怖症に結びつく結果となる。

最良のアプローチは、その子が恐怖を乗り越えられるよう支援すること。恐怖から逃げようとしたり、同じ体験をしないよう回避しようとしたりすることは、結果的にその恐怖を強化する。少しずつ恐怖に直接向き合い、問題はなんなのかを解明していくことが大切。

例えば、犬が怖い場合:CBTのエクスポージャー法を使って、徐々にその子が犬との肯定的な関係を築けるようにしていく。まずは、恐怖の程度を把握し、子どもが耐えられる範囲のエクスポージャーを試みれば、少しずつ恐怖を克服していくことが可能。そうすることで、脳は自動的に書き換えられていく。

例(思考の流れ):

  •  あそこに犬がいる ⇒  怖いと感じる
  •  逃げる/ 回避する ⇒   思考を変換        全部の犬が吠えたり、襲ってきたりするわけではない
  • お母さんと一緒なら、5メートル離れているなら大丈夫? ⇒ チャレンジできそう
  • チャレンジ成功  ⇒ 肯定的な体験をすることで自信がつく

2) 場面緘黙子どもになぜその症状が起こっているか理解させるには

殆どの子どもは自分の体に何が起こっているか理解しているが、それを自分の言葉で表現することは難しい。年齢や症状に応じて場面緘黙がなぜ起こるのか、その症状など例や比喩などを使って分かりやすく説明する。リラックスした雰囲気で、自分の体験やユーモアを交えながら。

例(緘黙の症状):

  • 胸が苦しくて、呼吸ができなくなるような気がする
  • 心臓がドキドキする
  • 喉がつまったような感じがする

3) セラピールームでのスモールステップ支援

不安を感じさせず、リラックスできる環境を整えてから始めること。まず最初はどんな形でもいいので、子どもとコミュニケーションを取ることから。体を動かしたり、ゲームをしたり、音楽を聴いたりすることで緊張が溶けることも多い。事前に保護者から子どもの情報を収集しておくと良い。

  • セッションで何をするか子どもに選択肢を与える
  • 言葉がでるように期待をかけない(はじめから片言話せる子もいる)
  • 言葉が出なくても、指差しやうなずきなど返事ができるように
  • 子どもがどの段階にいるか判断する
  • 症状に合わせて質問形式を変える(「はい/いいえ」→オープン)

4) セラピールームから日常生活への移行

子どもの症状に合わせて、コミュニティ(ショップ、レストラン、スポーツクラブなど)や学校でも可能なスモールステップを組んで実行していく。失敗すると落ち込んでしまう保護者も多いが、急がず、長い目・スパンで考えることが大切。

  • 子どもも保護者も期待しすぎないこと
  • 失敗しても気にしないこと(いい時も悪い時もあるということを説明しておく)
  • チャレンジするだけでOK(チャレンジすることの重要性を理解)

5) 学校でのチャレンジ

学校は最後の、最も困難な場面であることが多い。学校側のサポートは必要不可欠。担任と保護者とのコミュニケーションが十分に取れていることが大切。

  • 事前に担任や学校の空間に慣れておくといい
  • 担任に子どもを知ってもらい、トイレなど子どもに一番やりやすい形のコミュニケーション法を予め決めておく

緘黙治療には人間関係が一番大きなファクターとなる 「沈黙」は誰にとっても居心地が悪いものだが、保護者でも、セラピストでも、学校関係者でも、子どもが反応するかどうか5秒間は待つこと。例えば、レストランで注文するチャレンジをする際、全く声が出せなくても、すぐに助け舟を出さないようにする。5秒間待って、反応がなければメニューを読んで「Aにする、Bにする?」と子どもに訊ねる。片言、指差し、うなづきで返事ができればOK。

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緘黙治療として目新しいものはありませんでしたが、子どもの心によりそって、気長に、コツコツと克服していくことの大切さを再確認できたような気がしました。

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SM H.E.L.P マギー・ジョンソンさんの講演(その1)

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SM H.E.L.P. サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その7)

あっという間に2月も中旬ですね。昨日はバレンタインデーでしたが、イギリスでは男性が女性に赤いバラの花束を贈ったり、レストランでロマンチックなディナーを食べたり。うちの場合は、たまたま2人とも今日休みだったので、外でランチを楽しみました。

   

     先週末、すごく久しぶりに主人の友達2人(男性と女性)が泊りに来て、球根花のブーケをいただきました。赤いバラの花束よりず~っと嬉しかったです

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さて、マギー・ジョンソンさんの講演の続きです。

保護者へのアドバイス

  • 2つの重要なポイント:

1) まず、保護者は子どもの自立を応援すること。多くの親は自分たちがどれほど先回りして子どもを助けているか理解していません。自らが成功体験を重ねることで、子どもは自信をつけていくのです。その機会を奪わないよう注意して。ただ褒められたり、奨励されるだけでは、本当に自信を積み重ねていくことにはなりません。

実際のところ、ティーンは自分の親に褒められることは好きではないのです。できることは自分でやらせないと、いつまでたっても自信はつきません。

例えば、5歳の子どもに何か手渡そうとして、子どもが躊躇したとします。多くの親は自分でさっと手に取って、子どもに手渡すでしょう。でも、それは良くありません。

まず下記のような声掛けをしてみて。

① 大丈夫よ、受け取りなさい

② じゃあ、一緒に受け取ろうか?いい、1、2、3

③ じゃあ、後で受け取ろうね

セッション中に保護者が手助けしようとした場合、マギーさんは「じゃあ、あのテーブルの上に置くから、後から取りに来て」などと、子どもができそうな方法を提案するそう。

2) 子ども自身が自分で対処することが重要。だから、子どもの代わりにやってあげるのではなく、子どもがやりやすいように援助してください。子どもにとって何が難しいかを察知し、よりやりやすい方法を考えましょう。

ティーンの場合、本人が望むなら、教師やTA、保護者がメールを書くのを手助けすることに問題はありません。ただ、メールを送る時は本人にやらせること。緘黙の人は自分からものごとを始めるのが難しいからです。すぐしそうになかったら、「今送らなくてもいいよ」「送りたくなったら、送ればいいよ」と声かけをして、時間をあげましょう。その間はティーンを放っておくことが大切。

徐々に自立できるようサポートしていけば、いずれは全部自分でできるようになります。初めは非言語でOK、社会的な場面で居心地悪さや引け目を感じさせない様な配慮ができるとベスト。

例えばマックに行って、ケチャップをもらい忘れたとします。「ママ、取ってきて」と頼まれて、取りに行くのは簡単。でも、そこでやってあげないこと。

「自分で取りに行きなさい」ではなく、「ママ買い物で疲れちゃって、もう歩きたくないの。どうやって取ってくればいいか教えるね。あそこまで行って、紙カップを取ってケチャップのレバーを押せばいいのよ。大丈夫、できるよ」とアドバイスしてみて。

兄弟がいたら、一緒に取りに行くように提案してもいいでしょう。子どもがゴネたら、「別に行かなくてもいいよ。でも、ケチャップが欲しかったらあそこにあるからね」。そういって、自分は食べたり、携帯を見たりして、子どもから視線を外します。こうすると、だいたいは自分で取りに行くそう。

親は自分で気づかない内に、色々やってあげることが習慣化していることも多いのです。やってあげることで、子どもは「自分はできない」「ママがやってくれるから」と思い込んでしまい、自分から動こうとしなくなることも..。

こうしたアドバイスに対し、「あら、私息子がもう14歳になるのに学校のかばんをずっと持ち続けているわ。迎えに行くと、カバンを私の足元に置くから。それに、まだお風呂のお湯も出してあげているし…」と気づいた14歳の男の子の母親もいたとか。

なお、家庭で子どもに手伝いをさせる習慣をつけておくことも大切です。担当を決めて毎週必ずなにか仕事をさせるのでもいいし、何気なく手つだいを頼むのでもOK。例えば、食事のデリバリーを頼んだら、「テーブルにお皿を並べて」「後片付けを手伝って」という感じで。

また、子どもが自分で行動を起こすきっかけを作ることも大切。例えば、ゲーム器の乾電池をわざと切らして、「あ、ごめん、ごめん。来週オンラインショッピングする時に注文するね」とすぐには入手しないこと。子どもがゴネたら、「ここにお金があるから、角のお店で買ってくれば?大丈夫、できるよ。別に話さなくても、レジに乾電池とお金をおけばいいから」、「来週は必ず注文するから、あなた次第よ」と選択肢を与えて、子どもに決めさせるなど。

子どもが自分を信じて行動し、自信を積み重ねていけるよう支援してください。5秒ルールを作って、子どもが自分で対応できるかどうか5秒は待つようにしてみて。できない場合は、「頷き」「指差し」「はい、いいえ」など緘黙症状の度合に応じた返答ができるように誘導しましょう。

これでマギーさんの講演は終了です。振り返ると、子どもの一番近くにいる保護者がどう支援していくかが、とても重要になってきますね。以前は、家ではおしゃべりなので、親にも理解してもらえない子どもやティーンが多くいたと思います。場面緘黙の情報が増えた昨今、そういうことがないといいのですが…。

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大人の緘黙ー緘黙啓発月のSM H.E.L.P. から

第2回 SM H.E.L.P オンラインサミットから(その1)

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第2回 SM H.E.L.P オンラインサミットから(その3)

SM H.E.L.P. 2021年秋サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その1)

SM H.E.L.P. 2021年秋サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その2)

SM H.E.L.P.2021年秋サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その3)

SM H.E.L.P. 2021年秋サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その4)

SM H.E.L.P.2021年秋サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その5)

SM H.E.L.P.2021年秋サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その6)

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SM H.E.L.P. サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その6)

ついに日本でもオミクロン株の一日の感染者が10万人を超えてしまいましたね…。イギリスでは、ここ3週間ほど8~11万人を行ったり来たり(1月31日は政府のサイトにデータが記載されず…何故???)。オミクロンのピークもピークアウトも早いと言われていたのに、欧米ではまだ下がりきってません…一体どうなっているんでしょう?

  

晴れの日は空が春めいてきました。学校へ向かう途中で出会う猫ちゃん

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さて、マギ-・ジョンソンさんの講演の続きです。

★保護者への助言:自らが不安を抱える17歳の娘さんを支援した経験から

「こうしてみたら? ああしてみたら?」と親が言い続けることで、子どもは親が自分に対して失望していると感じます。「今のあなたではダメだから、変わらなくちゃ」と言われているように感じてしまうのです。親が助言すればするほど、子どもは「あなたはこのままではダメ」というメッセージを受け取ることに…。

ティーンにまだ準備できていない時、親が手を差し伸べようとすると反発しがち。親への拒絶反応を起こすこともあります。

保護者ができるのは場面緘黙が恐怖症であることを説明し、いつでも支援する準備ができていると伝えること。「話すこと」だけに集中しないで。「小さなステップを少しずつ踏んでいけば、絶対克服できるよ。いつでも支援するからね」と伝え、子どもを信じて待ってください。

(なお、本人に気づかれないよう、保護者がしてあげられることはたくさんあります)

親は心配ばかりせずに、子どもと一緒に過ごす時間を楽しんで。将来が心配でも、今のこの時間を大切にして、子どもとの時間を満喫しましょう。

なんでもOKです。例えば、一緒に映画を見たり、料理をしたり、ガーデニングしたり、ウォーキングをしたり。子どもが興味を持っていることを探し出して、子どもの興味に沿って一緒に楽しみましょう。そこから「自分が変わりたい」というモチベーションが生まれてくるかもしれません。

★主導権を持たせることでティーン(子ども)は安心できる

言わないかもしれませんが、どの子も「自分はこれをやりたい」という夢を持っています。どうしたらその夢を叶えられるか――親は子どもを人として尊重し、そのままの子どもを愛してあげてください。子どもには恐怖症があるけれど、それが一生続くわけではありません。必ず克服する道を見つけられるはず。

子どもがモチベーションと緘黙を克服する決意を固めるのを辛抱強く持ちましょう。

情報は与えて、でも押しつけないこと。

★ティーンとの接触を持つための具体例:

緘黙のティーンとのセッションでは、パワポの作り方やどうしたらもっと良いプレゼンになるかを訊いたり、助言してもらったりするとか。そして、「完成したものをPCで見て欲しいから電話してもいい?いつだったら時間がある?」と自然に切り出すのです。こうして、PCを観ながら電話でコミュニケーションを取るきっかけを作るのだとか。

こういった間接的な方法だと顔を見合わせずにすむので、やり取りしやすいそう。まずPCの画面を見てもらい、修正した方がいい点を書いて送ってもらうことからでOK。

ティーンの得意な分野を見つけ、何気なく手伝いを頼むことで、自信をつけさせモチベをあげることが可能です。あくまで本人主導であることを忘れないで。

長い講演だったので、また次回(最終回)に続きます。

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SM H.E.L.P. サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その5)

あっという間に1月も後半になってしまいました。今年のイギリスの冬は暖冬で、霜が降りる日が珍しいくらい。快晴の日には、なんとなく空気に春の気配が感じられるような…。

   冬でもあちこちに花が。イギリスには古い住宅が多く残っているのですが、この建物はヴィクトリア王朝後期のもの。間取りが大きく、高い天井と大きな窓が人気です

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さて、マギー・ジョンソンさんの講演の続きです。

★カフェで行うスライディングイン法例

1) メニューを読む (小声 → 音量を上げていく)

2) 同席者と言葉を交わす(小声 → 音量を上げていく)

3) ウェイトレスに飲み物を注文する (1単語 → 文章)

まずはその場で声を出せるかどうか、事前に声を出す練習をすると安心。カフェに入る前にハミングしてみると「できる」と判ります。まずは、テーブルについて声を出せる、お喋りができることが重要。注文するのはその後で良いのです。知っている人に何かを言うより、見知らぬ人(この場合はウエイトレス)に飲み物の名前を言う方が簡単だということを覚えておきましょう。

みく注:本人の緘黙症状や緊張の程度によって、ステップを更に細かく分けたり、省略したりできます。

親が子どもの代わりに答える習慣がある場合は、親以外の人(はなせる友達や親戚など)とトライする方がベター。親の干渉を嫌うティーンは多いので。

(保護者は代わりに答えを言う前に、笑って数秒待ってください。声が出なかったら、「はい、いいえ」で応えられる形にして質問しなおして。まずは、頷いて返事ができればOK。失敗しても気にしないこと)

★ひとり語り(Lone talking)

保護者とのスモールステップに抵抗があるというティーンや成人には、ひとり語り(Lone talking)というテクニックもあります。

ひとり語りのスモールステップには、友達や親戚の人など、保護者でない第三者が必要。「一人で本を読む/ 録音する → 読本をしている部屋に誰かをスライディングインする/ 録音したテープを誰かに聞かせる」という方法も。

実際に誰かに本を読んでいる声を聞かせる場合:

部屋で一人で声を出して本を読む → 少しドアを開けて外の人に声が聞こえるようにする → 第三者がドアを開けてゆっくり部屋に入っていく

★緘黙改善に否定的なティーン

緘黙することに慣れて、話さなくても良い状況で止まっているティーンには、どのように対処したらいいのか?

重要なのはモチベーションをあげることではありません。子どもが「話せなくても構わない。別に話したくない」と言っても、鵜呑みにしないこと。話さなければならない苦しい状況に陥ることを、恐れているだけです。

緘黙の人は「話すだろう」と誰もが期待している場で話せないことが一番怖いのです。話し始めるためには、その恐怖に打ち勝たなければなりません。実際には、モチベは既に持っているし、本心では話をしたいのです。ただ、不快で困難な状況に陥ることを恐れているのです。

もし蜘蛛の恐怖症を克服するのにタランチェラを使ったらどうでしょう?恐怖心がさらに増しませんか? 蜘蛛と同じ空間にいなければならないだけで、既に緊張がマックスに達してしまいます。

声を出すことはあくまで最終段階です。その前に「場面緘黙は恐怖症」という自覚を持たせること。それがティーンや成人の緘黙克服の要です。緘黙を克服するためのテクニックは複数あって、スライディングイン法はそのひとつ。保護者と行う人もいれば、そうでない人もいます。また、一人で行う方法もあります。実際に顔を見ながらビデオで、もしくは音声だけで行う方法もあるので、本人が「これだったらできる」と思う方法を選ぶことが大切。

マギーさんの場合は、ある子にはスライディングイン法が適していると思っても、「これとこれがある」と複数の方法を提案してみるのだとか。

重要なのはティーン本人がやり方を決めること。彼らは自分を解ってくれる人、どんな思いをしているか理解してくれる人、悩みを話せる人を欲しているのです。

またまた次回に続きます。

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SM H.E.L.P. サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その4)

新年、明けましておめでとうございます。といっても、1月ももう10日経ってしまいましたね。今年こそは準備万端にと思っていたのに、日本語の模擬試験の準備や、今月末に迫った確定申告の締め切りなどに追われている日々です。

     バービカンアートギャラリーで開催中のイサムノグチ展。温かみのある灯にほっとひと息

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さて、マギージョンソンさんの講演の続きです。

<20代前半の場面緘黙の女性2人のケース>

緘黙に苦しんできたラーナとリサは、お互いに話しをしたいと希望していました。各自がスモールステップ法で少しずつ改善し、留守番電話にメッセージを残すところまで進歩。2人は友達になりたくて、SNSでメッセージを送りあう仲になったのです。

マギーさんが仲介するオンラインおしゃべり会では、ラーナはリサがいる前でマギーさんと話すことに成功。でも、リサはできませんでした。

2人がマギーさんと一緒に緘黙のコンファレンスに参加した際、3人で同じホテルに宿泊。マギーさんは、下記の4段階のスモールステップを実施しました。

1) ラーナをバスルームに行かせて、2分間待たせる(第1段階)

マギーさんとリサはベッドの端に座って食事のメニューについて話す。ラーナには事前に「その時が来たら、こちらに来るように呼ぶから待ってて」と指示。

2) ラーナはドアを少しだけ開けて、再び2分待つ(第2段階)

3) ゆっくりドアを開ける(バスルームから出られるだけの幅)

4) 部屋に入ってアームチェアに座る(第3段階)

5) アームチェアをベッドの近くに寄せて3人が円状に座る

6) 一緒にメニューを読む(最終段階)

最終的には、お互いが質問し合う形までもっていく。スターターは何にするか、AとBではどちらが好きかなど、話題は全てメニューに関すること。

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スライディングイン法で導き出す最初の会話は、『SMリソースマニュアル』のステージ 5(Confident Talking段階)に該当します。3人は話しているけれど、自由にコミュニケーションとっている訳ではありません。メニューは読んでいるものの、メニューに関する自由な会話ではない訳です。

言葉を引き出すためにスライディングイン法でよく行う活動のひとつに、交互に数字や日にち、曜日を順番に言うというのがあります。緘黙児(成人)は声を出していますが、それは厳密には会話といえません。脳が知っている単語を自動的に読んでいる自動スピーチ(Automatic Speech)なのです。

自動スピーチは自分で内容を考えて話すより簡単です。

1996年にマギーさんが13歳の少女、ケリーにスライディングイン法を試した際、気づいたことがありました。母娘に “I Spy”(アルファベットの文字を使ったなぞなぞ)ゲームをさせたところ、上手くいかなかったのです。

“I Spy” ゲームでは次に言うこと自分で考えなくてはならない。だから難しいのだ――そう悟ったマギーさんは、答えを読ませたり、数字や曜日など誰でもすっと出てくる言葉を順番に言うなど、まず自動スピーチから先に練習させることにしました。

また、次回に続きます。

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SM H.E.L.P. サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その3)

2021年も明日で終わりですね。去年末はアルファ株の激増でロックダウンしていたイギリス。今年はオミクロン株が激増して、本日の感染者数はパンデミック始まって以来、最多となる18万9000人を越えてしまいました!それでも、昨年に比べると重症化率が低く、死者数も少ないのが救いのひとつ。一部の科学者が指摘するように、コロナウィルスが徐々に弱毒化して、風邪のような存在になれば良いのですが…。

    

   イングランド中部のクリスマスは深い霧に包まれていました。義両親宅の近くのBrixworthの町まで歩き、その起源をアングロサクソン時代の7世紀まで遡るというAll Saint Churchを見てきました

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さて、マギー・ジョンソンさんのオンライン講演の続きです。

<ティーンと成人向けのスライディングイン法>

マギーさんがスライディングイン法を重要視するのは、最小のストレスで最速の回復を期待できるから。

ティーンや成人と子どもとの主な違いは、年齢的に場面緘黙が恐怖症だと理解できること。不運にも恐怖症になっているだけで、緘黙状態は本来の自分ではない――スモールステップ法を実践すれば、少しずつ恐怖心を克服できると理論的に理解できることです。

(みく注:ティーンや成人は緘黙を「恐怖症のひとつ」と捉え、第三者的な視点でみることができるということですよね)

脳が間違った反応をしているため、脳を再訓練して危険でないことをゆっくり学習していきます。危険がないと判断できれば、脳内でFight or Flight(戦うか逃げるか反応)の自動スイッチが入ることはありません。

例えば、大きな黒い犬が向こうからどんどん近づいてくると仮定してみてください。犬が自分に危害を加えるかもしれないと判断すると、脳は自動的にFight or Flight モードに。でも、危険はないと解れば、恐怖はなくなりパニック状態に陥ることはありません。

スモールステップに対して、「じゃあ、試してみようか」と本人が思えること、大きなプレッシャーを感じずに自分のペースで進めること――本人が「大丈夫、できる」と思えることが重要になってきます。

16歳のポーランド人の少年、サンダー君の例:

症状:2年間心理士にかかったが進歩はなく、親しい関係の祖父母にも話せなかった

母親が渡英して緘黙の研修を受け、緘黙は恐怖症だからスモールステップで克服できると説明。サンダー君は「それならできる」と同意し、まず祖母とスライディングイン法を試み、話すことに成功。翌日、祖父とも試みる予定だったが、スライディングイン法を実施することなしに話すことができた。

心理士とセッションを続けていた間、サンダー君は「原因は自分にある」と自分を責めたり、絶望したりしていました。それが、たった2日間で祖父母と話せるように!彼はその後、理解のある学校に転校し、そこで徐々に緘黙を克服することができたそう。現在は、緘黙だった過去を想像できないまでに回復しているとか。

マギーさんは、年を重ねることに緘黙が固定化して話せない人が増え、克服が難しくなる傾向があると指摘。けれど、適切な支援と本人の理解があれば、必ず克服できると語っています。まず、「緘黙は恐怖症で、克服できるもの」と理解すること。この気づきがあれば、長いセッション1回で話せなかった人と話すことも可能となるのです。

子どもの場合は、恐怖を感じさせないよう、短時間のセッションを何度も行う必要があります。プロセスを小さなセクションに分け、根気よく積み重ねるのです。親子のいる部屋にマギーさんが入り、子どもと話をするまでに平均で10セッション程度かかるそう。

一方、ティーンや成人の場合は、長いセッションを一度行うだけで話せるようになるケースも。スライディングイン法は、緘黙の程度や個々の状況に合わせてやり方や回数・時間などをいくらでも調節できるところが利点だといいます。

(次回は具体的なケースをご紹介します)

オミクロンの脅威は消せませんが、皆さん身体と心の健康に気をつけて、良い新年をお迎えください。

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