『選択性緘黙への治療』を読んで(その1)

この春出版された『そだちの科学』2014年4月号に、『選択性緘黙への治療』と題された特集記事が掲載されました。山村淳一・内山幹夫・加藤大典・杉山登志郎(敬称略)と、4人の名だたる児童精神科医たちが共著した最新の緘黙研究論文です。

http://www.nippyo.co.jp/magazine/maga_sodachi.html

(その中でも、杉山登志郎氏は日本における高機能自閉症の権威と呼ばれる存在(日本では発達障害と見なされやすい?(その5))。『そだちの科学』の編集にも関わり、複数の記事を執筆されています)。

この論文を入手することができたので、元緘黙児の保護者として、勝手に疑問点をあげさせていただき、更にちょっとツッコミを入れさせていただけたらと思います。

まず冒頭の書き出しから、

「選択性緘黙は、家庭でのコミュニケーションは問題がないにも関わらず、学校など、主として集団教育場面での言語交流を拒否するという病態である」

(『そだちの科学』2014年4月号掲載、『選択性緘黙への治療(山村淳一・内山幹夫・加藤大典・杉山登志郎)』より引用)

えっ、どうして!?しょっぱなから、「言語交流を拒否」と断言されてしまうと、ものすごいショック…。最近ではメディアの露出も徐々に増え、緘黙児が「話さない」のではなく、不安のため「話せない」のだという概念は、かなり定着してきていると思ってたのに…。臨床医の先生方はそれが間違いだと考えておられるのか、それとも場面緘黙がまだまだマイナーで古い文献を参照しておられるのか…。

1994年にDSM-IVにおいて、場面緘黙の診断名は、”elective mutism” から”selective mutism” に変更されました。これは、”elective” という単語が、子どもが特定の場面で話さないことを、自らの意思で選んでいるという意味合いが強かったため。多数の研究に基づいた変更であり、SMIRAのアリスさん達の尽力もあったと聞いています。

更に、2013年5月に改訂された最新版(DSM-V)では、場面緘黙が「通常、幼児期・小児期、または青年期に初めて診断される疾患」というカテゴリーから、「不安障害」へと移行しました(場面緘黙とは?(その2))。

『選択性緘黙への治療』では、緘黙と不安障害との関連を調べていて、その結果が下記のように示されています。

  • 分離不安 全体の35%
  • 不登校 全体の46%                                                (重複しているのは16名(全体の18%)、有意の相関は認められない)

またまた疑問ですが、どうして分離不安と不登校?社会不安についてはどうだったんでしょう?また、この結果を受けて、「不安が原因で話せないのではない」という見地から、上記の書き出しになったんでしょうか?とっても知りたいです。

ちょっと時間がないので、今回はここまで。

 

【今月は場面緘黙症啓発月間です】

  • 場面緘黙は子どもの将来を大きく左右しかねない深刻な状態です!早期の発見と介入が望まれます。どうか後回しにしないでください
  • わざと話さないのではありません。本当は皆と同じように話し、行動したいんです!ひとり黙っているのは、とても辛くて苦しいんです
  • 周囲の理解と共感が不可欠です!すぐには治りません。温かく、忍耐強く見守ってください
  • 緘黙していると、言語、社会性、コミュニケーション・スキルの発達が妨げらる恐れがあります。家庭では安心して、楽しくおしゃべりできる環境を整えましょう

 (5月の場面緘黙症啓発月間の発起人は、『場面緘黙ジャーナル』の富重さんです)

 

 

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バラの季節の到来

イギリスの初夏の風景に欠かせない、バラの季節がやってきました。日本でもひと足先に、そこかしこのバラ園で薫り高い花が咲き誇っているようですね。バラの前にはライラックの季節があったんですが、写真を貼りそびれてしまったので、一緒にご紹介します。

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 近所の庭先に咲いていた2種類のライラック

我が家のイングリッシュローズも2週間ほど前から蕾が膨らみはじめ、週末お天気が良かったためか、一気に開花しはじめました。

家の改築工事の作業スペース&ご近所の猫のたまり場になっていた小さな庭を、やっと改装したのが4年前のこと。私はミミズやナメクジが大の苦手で、ガーデニングなんて殆どしたことがなかったんです。でも、せっかくイギリスに住んでるんだからと、一念発起して憧れのDオースティンのバラを植えることにしたのでした。

まず、近所のガーデンセンターで入手したのがMary Roseの苗。Dオースティンのバラは4種類しかなく、多分これらが最もポピュラーな品種だったんでしょう。欲しかったのとは違ってましたが、「まっ、いっか」と思い、その後に枝変わりの白花ヴァージョン、Winchester Cathedralも購入しました。

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 タグについたクォーター咲きの写真を見て、花が咲くのが待ち遠しくて。7分咲きの頃は古典的な美しさ!なのに、満開になると花が開ききって花弁がクシャクシャに。う~ん、騙された…?

次は失敗しないようにと、気合をいれて大規模なガーデンセンターまで遠征。そうしたら、やっぱり希望の品種が無いんです…。とにかくカップ咲きをと、中央がアプリコット系ピンクのThe Alnwick Rose とパーゴラに這わせる白い蔓バラ、Claire Austinを選びました。

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咲き姿がピオニーそっくりのThe Alnwick Rose。最初の1、2年はどういう訳か蛍光ピンクみたいな色でガッカリしてたんですが、その後本来の優しいピンクが戻ってきたよう

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  花が終わる頃は色褪せたピンクに

IMG_4492  Claire Austinの蕾も膨らんできました。ロマンティックな風情のある花ですが、花弁が多すぎ+すぐ散ってしまうのが悲しい。

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   バブルガムのような甘い香りのAbraham Darby。ガーデンセンターの片隅で枯れかけてたのを救出した時には、貧相な花が1輪のみ。それなのに、思いっきり特大の花が咲くようになって、ビックリしてます

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 真紅のバラL D Braithwaiteはもっと枯れそうな状態でしたが、うちの庭にしっかりと 根を下ろし、ぐんぐん成長しました。ロゼット咲きのはずなのに、形が歪ですね…。

 

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       お気に入りのご近所の黄バラ。この位軽やかな方が可愛いかも…あっ、よくみたら、虫君が…。

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塀や家屋にバラを這わせている家がいっぱいあります。

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告知するかしないか(その4)

年齢が上の子どもに告知する方法?

前回の記事にコメントをいただいたのですが、この年齢の子どもに告知する方法は、子どもの性格や親子関係、緘黙の程度、学校環境、友達関係といった状況により、人それぞれということになると書きました。告知した後の反応もまた、子どもによってそれぞれでしょう。

学校での友人関係や担任に恵まれて、安心して学校に通えている子は、「変わらなくてもいい」と感じているかもしれません。そんな時は、学校で話し始めることにこだわらず、学校以外の場所で少しずつステップアップに挑戦したり、勉強や習い事などで自信をつけ、自己評価を上げていくことが重要だと思います。また、テキストチャットなどで、友達とのコニュニケーションを促進していけるといいですね。

「聞きたくない」、「知りたくない」と、拒絶する子もいるかもしれません。そんな時は、親の直感がたより。子どもの気持ちを尊重しつつ、より添うことができたらいいのでは?いつでも手助けする気持ちがあることを、伝えておきましょう。

不安や恐怖といった感情をブロックして、諦めムードだったり、投げやりになっている子もいるかもしれません。また、ストレスで攻撃的になっている子もいるかも…。

緘黙している時間が長ければ長いほど、ひとりで不安を抱える時間が長くなり、想像できないほど辛い思いをしているのではないでしょうか?

「話せない」ことばかり話題になりますが、それは氷山のほんの一角にすぎません。子どもが不安や劣等感、疎外感や孤立感といったネガティブな感情をひとりで抱え込んでしまうと、身体やメンタルに影響してしまう可能性もでてきます。早く対処できるよう、子どもからのサインを見逃さないようにしたいものです。

誰だって嫌なことがあれば、眠れなかったり、朝起きられなくなったり、お腹が痛くなったりしますよね?繊細な子どもには、些細なことが大きな心の傷になりかねません…。抑制的な気質の子は、思い込みも激しかったりします。だからこそ、自分のことを無条件で受け入れてくれる存在、文句や愚痴をいえる存在がとても大切になってくると思うのです。

前置きが長くなってしまいましたが、思いついた告知方法をいくつか書きとめておきますね。

●子どもが信頼している相談員、医師、心理士などに告げてもらう

子どもが専門家の治療を受けていて、改善の兆しが見られるようであれば、予め相談したうえ、親子で一緒に診断をきくというのもアリかなと思います。実際に克服した/克服中の子どもの例などを話してもらえると、勇気付けられるんじゃないでしょうか。

●場面緘黙の本を一緒に読む/子どもに手渡す

欧米に比べ日本では場面緘黙の研究が遅れていましたが、2007、8年頃から様々な書籍が出版されていますね。私が所属するKnetからも、2008年に『場面緘黙Q&A』、2009年にDVD付の翻訳書『場面緘黙へのアプローチ-家庭と学校での取り組み』、2013年に『どうして声が出ないの?-マンガでわかる場面緘黙』が出版されています。

こうした書籍の中から適切な箇所を選び、子どもと一緒に読んでもいいですし、小学校の5、6年や中学生だったら、『どうして声がでないの?』を手渡してもいいと思います。また、高校生なら、ひとりで専門書を読んで理解できますね。手渡した後は、子どもの反応を見ながら、フォローするのを忘れずに。

●映像(TV/DVD/You Tubeなど)を一緒に観る/子どもに手渡す

日本では昨年、元緘黙だったミスイングランド、カースティさんの幼少時代をドラマ化した『ザ! 世界仰天ニュース-静かな少女の秘密』が放送されました。その時、親子で観られた方もおられたのでは?

ここで観られます → http://youtubeowaraitv.blog32.fc2.com/blog-entry-26558.html

また、前述の『場面緘黙へのアプローチ』のDVDにも、緘黙だったレイチェルさんの体験談が収録されています。映像の方がより具体的なので、わかり易いかもしれませんね。

(3月に開催されたSMIRAコンファレンスでは、緘黙のドキュメンタリー番組の録画を子どもと一緒に観たという保護者の方がいました。番組に登場したSLTのマギー・ジョンソンさんを子どもが指差し、「この人に会わせて」と主張したため、マギーさんとアポを取ったのだそう。幸運にも同じ地区に住んでいたためセラピーを受けることができ、かなり改善されてきているということでした)。

告知した後にどんな反応が返ってくるか、何ともいえません。でも、ひとりで悩んでいるよりも、「自分はこれだったんだ」と解かった方が、本人のためになるはず。周りがいくら説明しても、子ども自身がその気になって問題に立ち向かわない限り、話す不安は改善されません。自分はどうしたいのか、子どもの意思を確認することができたら、支援の方向性も決まってくるかと思います。

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告知するかしないか(その1)

告知するかしないか(その2)

告知するかしないか(その3)

『ザ! 世界仰天ニュース』(その1)

『どうして声が出ないの?マンガでわかる場面緘黙』

 

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告知するかしないか(その3)

小学校中・高学年以上

小学校の中・高学年になると緘黙の治療は難しくなる傾向にあり、治療の効果もゆるやかになるといわれています。一般的には、幼稚園や小学校低学年までの方が治りやすく、早期発見と早期介入がその鍵になってくるというのが定説です。

よく「9歳の壁」という言葉を聞きますが、文部科学省のサイトによると、「子どもは9歳頃から物事をある程度対象化して認識することができるようになる」、とあります。自分のことも客観視できるようになり、自己肯定感を持ちはじめる時期ですが、劣等感を持ちやすくなる時期でもあると…。自我がどんどん発達して、周囲をはっきりと意識するようになる頃なんですね。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/shiryo/attach/1282789.htm

小学校中・後年以上の緘黙児の多くは、もう何年も学校で話せない時期が続いていて、周囲から「話さない子」と見なされていると思います。自分の中でも「学校では話せない」という負のイメージが定着し、そこから抜け出すのは並大抵のことではないはず。特に、抑制的な気質の子どもは感受性が強く、思っている以上に人の目を気にします。

自分が話した時の周りの反応や、そんな環境の中で話し始める恐怖を思えば、緘黙状態でいる方が安全と感じていても不思議ではありません。話さない自分を受け入れてくれるクラスメートや担任がいれば、「別に話したくない」、「このままでいい」と言うかもしれません。

でも、子どもがそう言っても、本音は違うと思います。ただ、みんなと同じように学校でおしゃべりしたい気持ちはあっても、「話さない子」が定着した環境の中でその段階にまで到達するのは不可能、とさえ感じているんじゃないかな…。

もちろん、恥ずかしがり屋の子どもの気持ちを理解し、配慮してくれる先生がいたり、仲良くしてくれる友達がいるなど、環境が良いために気持ちが楽になり、きっかけがあれば話せるようになることもあるかと思います。また、子ども自身が変わりたいと熱望し、クラス替えや進学などの機会に努力して克服するケースもあるでしょう。

でも、周囲の目を気にしながら、子どもが学校で自分から積極的に動くことはとても難しい…。グループで固まったり、友達同士の会話が大きなウエイトを占めてくる時期でもあります。教室の中で誰とも話すことができず、ポツンと一人でいる子どもを想像すると、親も非常に辛いです。

成長すれば自然に治るという考えは、年齢が上になってくると全く当てはまらないと思います。子ども自身が「変わりたい」という意思を持ち、自分で克服していかなければならない。そのためには、周りの支援があった方がいいのは明らかでしょう。そして、傍らで伴走してくれる存在がいたら心強いのは、容易に想像がつきます。

子どもは学校で話せないことをずっと親に隠してきたかもしれないし、知られるのを嫌がるかもしれません。でも、話せない自分はおかしいんじゃないか、普通じゃないんじゃないかという悩みを一人で抱えこんでいると思います。そこからまず開放してあげたい…。

私は子どもの症状に「場面緘黙」という名前があると知り、すごく安心しました。これは、子どもにとっても同じことじゃないかなと思います。自分は変かもしれないと悩んでいたのが、実は不安によってもたらされる症状で、世界中に同じような子どもがいる--そう解かっただけでも全然違います。また、スモールステップで克服できると知れば、自分も頑張ろうという勇気が出てくるかもしれません。とにかく、子どもに「話せないのはあなたひとりじゃない。私は味方」と伝えることが第一歩じゃないでしょうか。

プレ思春期や思春期の子どもの心はデリケートで、ただでさえ難しい時期。親はどうアプローチすればいいか、難しい問題だと思います。子どもの緘黙状態、年齢や性格、親子関係、友達関係、先生との関係、学校の環境などによって、返ってくる反応は様々でしょう。大切なのは、まずは親が共感を示し、味方だと解かってもらうこと。最初は拒否されたとしても、いつでも助けの手を差し伸べる気持ちがあることを解かってもらえればいいと思います。

子どもの気持ちにそって、無理じいはせず、でも少しずつ後押ししていく--さじ加減が難しいです。どの子も違っているので、親は子どもの様子を見ながら、自分がどう支援していけばいいか、試行錯誤で行くしかないと思います。学校側への働きかけも、親にとっては重たい仕事(?)ですよね…。マギー・ジョンソンさんは、年齢が上の子どもの直接の支援者は、保護者ではなく第三者の方が適していると話しています。中学生にもなると、親が学校に介入することが難しくなるし、子どもの自尊心の問題もあるかと思います。

とにかく、子どもにも、親にも、家庭がほっと安らげる場所であることが一番ですね。全く違う話題でも、家で自由に話せることが、心の安定につながると思います。なるべく子どもの好きなこと、得意なことを伸ばすことができれば、自己評価の向上にもつながると思います。

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告知するかしないか(その1)

告知するかしないか(その2)

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告知するかしないか(その2)

<息子の場合>

息子が学校で全く話せなくなった/動けなくなったのは、4歳半で小学校に入学してから3週間目のこと。それから「緘黙」という言葉に巡りあうまで、数ヶ月かかりました。

いつの時点で話したのか、はっきりは覚えていません。が、「話す」とか「しゃべる」という言葉を使うと嫌がるかと思い、「怖い」という言葉を選んだのは記憶しています。私自身、小さい頃とても内弁慶で小学校に入学した頃不安だらけだったので、息子の気持ちは理解できるような気がしました。

(うちの場合は似たもの親子ですが、そうでない組み合わせの親子もおられることでしょう。抑制的でない気質の親にとって、抑制的な気質の子どもの行動は、かなり不可解で「何で??」と理解に苦しむことが多いかも…)。

自分の小さい頃を思い出しながら、「マミーが小1の時、学校はすごく怖いところで、先生は知らない大人の人という感じだったな。授業中は当てられないように、いつも小さくなってたよ」という感じで、自分のことに置き換えて話しました。

「○○は誕生日が一番遅いから、みんなよりできなかったり、英語でうまく話せなかったりしても当たり前だよ。マミーは仲良しのA子ちゃんが同じクラスだったけれど、○○はB君と別のクラスになっちゃったから、もっと怖いよね。それなのに、ちゃんと学校に行ってるから偉いよ」。

息子は癇癪を起こすこともなく、黙って聞いていました。何もいいませんでしたが、多分ほっと安堵したのではないかな…。直接自分のことを指摘されるのではなく、私の体験や感情について話しているので、気持ち的にも楽だったと思います。

緘黙児は繊細で完ぺき主義の子も多く、年齢や性格によっては「学校で話せない/しゃべれない」という話題に拒否反応を示す子もいるかもしれません。そういう時は、第三者のこととして話す方がいいかもしれませんね。以前のエントリー( 『どうして声が出ないの?マンガでわかる場面緘黙』 )にも書いたのですが、恥かしがりの子どもや動物を題材にした絵本を一緒に読むという手もあります。また、人形や子どもの好きなキャラクターを使って説明するのもいいかも。

子どもへの告知については、かんもくネットの<Knet資料No.10「子どもと共に話すことへの不安に取り組む」>に詳しく書かれています。

http://kanmoku.org/handouts.html

ちょっとした言葉や態度から子どもの心情を読み取ることができるのは、やはり子どもに一番近い存在である母親だと思うんです。子どもの気持ちに添う方法で、説明してあげられるといいですね。

(ちなみに、うちは「嫌!!」と強くいう時は、絶対駄目なのでその時はストップ。甘えを含む「イヤダ~」くらいだったら、少し時間をおいて再度プッシュ、「う~ん」と迷っている時は、チャレンジしてもいいなと思っている時です)

イギリスの母親って、子どもに”Love you”と声をかけたり、キスしたりハグしたりと、人前でおおっぴらに愛情を表現します。登下校に保護者が付き添うシステム(犯罪や事故防止のため)なので、こういうのは幼稚園やインファント(小学校低学年)では見慣れた風景。日本の習慣ではないですが、緘黙児は自己評価が低いことが多いため、言葉と態度で「あなたが大好き」と示してあげることも大切かなと思います。

子どもを安心させたら、子どもの伴走者として一緒に「話すことの不安」に立ち向かう訳ですが、まずは「話す」ことにこだわらないこと。少しずつでいいので、学校での不安を減らすことから始めましょう。

もしも、「どうして学校で話さないの?! 駄目じゃない」とか「今日学校で話せた?」と子どもを責めたことがあったとしたら、それは仕方ありません。そういう対応をしてしまっても、正直に子どもに謝れば、絶対に解かってくれると思います。子どもが態度に出さなくても、「ママが真摯に謝ってくれた」というのは心に残るはず。

うちは息子の癇癪が酷く、自分もストレスもたまっていたので、時々キレて怒鳴ったことも…。でも、そういう時は子どもに謝りつつ、何とか親子で成長してきたという感じです。緘黙治療は長期戦になることが多いため、保護者にも息抜きや心の支えが必要になってくると思います。相談所やクリニックに信頼できる心理士がいれば力強いですが、同じ悩みを持つ親の会に入るなど、ネット上でもいいので緘黙のことを話せる場所があるといいですね。

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告知するかしないか(1)

 

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リトルベニスの住人

すでに先週末のことになってしまったのですが、ロンドンのリトルベニス(Little Venice)に行ってきました。パディントン駅の北に位置し、2つの運河が交差する水辺の観光スポットです。

イギリスの運河は、産業革命が残した遺産のひとつ。18世紀末に、北イングランドの工業地帯から物資を運ぶため、主要交通網として運河が張り巡らされたといいます。19世紀半ばには鉄道が取って代わりましたが、時代を経た今では人々の憩いの場として愛されています。

「カナルフェスティバルがあるから来て!」と、主人の友達が誘ってくれたので、日曜日の午後に家族で出かけました。彼女はリトルベニスに停泊するカナルボートに住んでいるのです。

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               橋から見たフェスティバルの様子。当日は雨の予報でしたが、午後から天気が良くなりかなりの人手でした

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水際にある公園には出店やエンターテイメントが

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運河の両側には住居として使われているボート(Canal Boat ともNarrow Boat とも呼ばれています)がびっしり。ボート内には水道も電気も備えられていて、なかなか快適です。通路のスペースに花壇を作っている人も多く、郵便も届くとか。主人の友達は右手前の紫のボートに住んでいます。エンジンがないそうなので、本当に住居用なんですね。

IMG_20140504_191113瀟洒な住宅街の中にあるので治安も良いそう。このボートの庭には見事な藤棚が

IMG_20140504_175038友達のボートの上で寛ぎながら、運河を行き交うボートを見物。目が合うと手を振り合います。(ちなみに、リトルベニスからカムデンまでは観光用のボートが行き来しています)

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私達もこの小さなボートに乗って運河を探検しました

主人の友達はクロアチア出身で、イギリス暮らしもかなり長いとか。この冬1ヶ月の休暇をとって、伝統的な手法で造ったオランダ製の木の帆船に乗り込み、サザンプトンから喜望峰まで旅したという兵です。イギリスには本当にいろいろな国の人が住んでいて、世界は広い、こんな人もいるんだ、と驚くことがいっぱいあります。

 

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告知するかしないか(その1)

子どもが場面緘黙だと判明した時、本人にそれを話すべきかどうか、どう話すべきか — 保護者は悩むところだと思います。

子どもの年齢や性格にもよりますが、支援をしていくにあたり(長期戦です)、子どもと問題を共有し一緒に不安に立ち向かう必要があります。スモールステップで少しずつ緘黙を克服していくには、常に本人の気持ちを確かめながら進まなければなりません。

また、年齢があがって小学校中・高学年になると、改善のスピードがゆっくりになるため、子どもが自覚を持って積極的に治療に関わることが重要になるといわれています。そのためには、やはり本人が緘黙や自分の状態について把握しているべきでしょう。

<小学校低学年まで>

緘黙の発症は入園時や入学時に多く、いつの間にか全く話さなくなったというケースもよく耳にします。でも、「ママ、幼稚園でしゃべれない」と、助けを求めてくる子どもは殆どいないのでは?

たいていの親は、先生から「全く話しません」と告げられ、愕然とするのではないでしょうか?家では普通におしゃべりしているから(学校で黙っている反動でうるさいくらいかもしれません)、親は驚いて当然ですね。いくらシャイな子だったとしても、学校で全く話さないとなると、相当ショックです。

子ども自身は、幼稚園や学校で緘黙状態になっていることにネガティブなイメージを持っていると思います。皆と同じようにできないと劣等感を感じ、自己評価が低くなっているかもしれません。親に言ったら怒られると思っているかもしれません。

イギリスの言語療法士、マギー・ジョンソンさんは、場面緘黙を恐怖症の一種と考えると解りやすいと説明しています。例えば、高所恐怖症の人に、「何で高いところが怖いの?」と訊いても理由は分らないんじゃないでしょうか?ただただ、背筋がぞくっとして足がすくんでしまう…生理的な反応。緘黙になるきっかけも、そんな感じじゃないかなと思うのです。

自分が大きな会議に出席していて、周囲は全く知らない人ばかりという状況を想像してみてください。会場はしーんと静まり返り、壇上に立った権威ある著名人が、次々に出席者を指名して発言させています。誰もが立派な意見を述べていますが、あなたには議論の内容がよく理解できていません。

自分が指名されたらどうしよう?ちゃんとしゃべれないに違いない。笑われるかも – 心臓がドキドキして、「私に当てないで~!」と体が縮こまってしまうのでは?緊張して手に汗をかくかもしれません。緘黙児もこんな感じで恐怖を味わい、体がすくんでしまうんじゃないかなと…。そういう状態の時は喉が渇いて、声は出にくいと思います。

息子に、「緘黙状態の時、いつも喉が閉まるような感じになる?」と質問したら、「それは話そうとしてるのに声が出ない時」という答えが返ってきました。怖いけれど、何とか声を出そうとする時、喉に力が入る、もしくは意識がいくのかもしれません。同じ緘黙状態でも、状況によって感じ方は少しずつ違うのかもしれませんね。

周りから見ると、緘黙状態の子どもは不安や恐怖を感じているようには見えないことが多い。これは、緘黙という、恐怖に対する回避行動が習慣になり、その状態でいることに一定の安心感を得ているからじゃないかなと思います。

本題に戻りますが、子どもがなぜだか判らないまま緘黙になり親にも言えずにいる時、親(誰か)が共感してくれて、自分の存在を肯定してくれたらとても安心できますね。また、世界中に同じような子どもがいることが解れば、自分ひとりじゃないと勇気づけらるはず。同時に、自分の不安を誰かと共有できるようになる、誰かに助けを求めることができるようになる、きっかけにもなるのではないでしょうか?

うちの息子は典型的ともいえる抑制的気質の持ち主です。緘黙は克服できても、不安になりやすく心配性のところは変わっていません。でも、自分の不安を突然ポツンと私に言うことで、半分くらい不安が軽減されているよう。口に出していうことで不安を客観視でき、実はそれほど大きな問題じゃないと把握できるからじゃないかな、と思っています。不安を自分の中に閉じ込めておくとストレスになるので、捌け口が必要ですよね。

 

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不安の対処法

PSHEの授業で脳に「心配」と「楽しい」を書き入れた翌週、お試し入学で8歳のM君がクラスにやってきました。私がお世話してたんですが、お昼の時間が近づくにつれて、「ダイニングホールに行くのが嫌だ」と繰り返し言い始めました。多分、今通っている学校のホールが苦手なのでしょう(人が大勢集まる講堂・ダイニングホールの騒音や雰囲気が苦手なASD児は多いよう)。勉強が手につかなくなってきたので、下記のように話してみました。

  • この学校のホールは小さくて人数も少ない
  • 休み時間に実際に見に行ってみよう

休み時間に担任に相談してみたところ、こんな風に対処していました。

担任: 「M君、これは大きな心配かな?それとも小さな心配?」

M君: 「う~ん、大きい心配」

担: さらっと、「例えば、今大嵐が来るなら大きな心配だけど、これは色々対策を考えられるから、そんなに大きな心配じゃないよ。どうしたらいいか、一緒に考えてみようね」

M: 「うん」

担: 「ダイニングルームがガヤガヤ騒がしいから嫌なの?」

M: 頷く。

担: 「このヘッドホンをすると音が聞こえないよ。試してごらん」と、ヘッドホンを持ってくる。

M: 「嫌っ」と即座に拒否!

担: 「じゃあ、一緒にダイニングホールに行ってみようか」と連れて行く — 誰もいなくて静かだったので、M君も落ち着いていました。

担: 「ランチタイムには、ここにテーブルを6つ並べるんだよ。もしどうしても嫌だったら教室でお昼を食べても構わないから、まずここに来て食べてみようね」

M: 「うん」

という会話があって、ランチタイムには皆と一緒にダイニングホールに行くことができたのですが、やはり食べ始める前に教室に戻ってきてしまいました。

ローマは一日にして成らず、ですね。でも、担任は「よくダイニングホールに行けたね」と褒めることを忘れませんでした。

小さなステップで不安に立ち向かい、何らかの成果をあげていくことで、子どもは自信を積み上げていくことができます。スモールステップ方式ですね。最初は大人がアドバイスしてですが、いずれは子どもが自分で不安と向き合い、対処法を考えられるようになることが目標なんだと思います。

ところで、前回の記事に書き忘れてしまったのですが、担任はPSHEの授業を始める前に、心配や不安は誰でも持っているものだと子ども達に説明しました(前記事に青地で追加したので、良かったら確認してください)。「車を駐車するのが苦手」と自分の不安を子ども達に明かし、TAや私達にもそれぞれ不安や困ったことの具体的な例を出させて、「ほら、みんな不安を持ってるね」と。

それから、授業の終わりに各生徒の「大好き」と「心配」を確認。それぞれに言葉をかけ、課題をこなした報酬として3分間のPCタイムを与えました。ブースでひとり離れて課題を終えた子にも、「苦手と思えることでも、ちゃんと終えることができたね」と労いの言葉と報酬は忘れません。

(ちなみに、もし授業で目標を達成できなかった場合や集中できなかった場合など、担任は簡単に問題点を指摘し、報酬やトークンを減らします。また、1日の終わりに反省タイムがあり、こども自身にその日の行動を評価させます。翌日の朝の会でも、前日の行動を振り返って評価し、チャートに信号の色を入れるので、その週の行動評価がひと目で判ります。これって多分ABA(応用行動分析)かな?)。

ブースでひとり課題に取り組んだ子は、すごく知能が高く、実年齢より1~2学年上の学力の持ち主です。ぱっと見た感じは理路整然としていて弁が立ち、とても賢い子という印象。ASD児には見えません。が、対人関係に問題があり、自己防衛のためか常に上から目線でものを言い放ってしまう…キレやすく、嫌なことにはものすごく抵抗します。

プライドが高いため、自分の弱点を見つめること、人前で自分の感情について書くこと(考えること)に大きな抵抗があるのではないかなと…。担任は、大声で異議を唱える彼にタイムアウトの時間を取らせた後、自分のブースに行かせました。どうするかは彼自身に委ねられたのですが、結局すごく小さな字で「心配」と「楽しい」を書き入れることができました。

子どもが嫌がる場合は、無理にやらせないことも大切かなと思います。年齢や性格で反応が違ってくると思いますが、家庭で不安について話したり対処法を考える際は、特に本人の意思や気持ちを大切にして、子どもに合うやり方を見つけてあげられるといいなと思います。無理強いして親子の信用をなくしてしまったら、元も子もないですから。

関連記事 不安を可視化する

 

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不安を可視化する

イギリスの小中学校では、現在や将来の生活に役立つ知識や技術が身につくようPSHE(Personal, Social, Health and Economic Education 個人、社会、健康、経済にまつわる教育?)という科目を設置しています。先学期のPSHEは、「自分の持つ不安とどう向き合うか」というのがテーマのひとつでした。

ASD児は、社会性・コミュニケーション・想像力の問題を抱えているため、人との交流が難しく、気持ちや感情、暗黙のルールや場の空気、時間や空間といった曖昧な概念を理解することが苦手です。脳の構造や機能が通常とは異なるが故に、社会性がない振るまいをしがちになり、周囲から非常識と思われたり、変な目で見られてしまう…。それが大きなストレスになったり、どうすればいいのか判らず不安になることが多いようです。

一方、場面緘黙はDMS-V(アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル)では不安障害のカテゴリーに含まれ、SM児には抑制的な気質の子どもが多いといわれています。ひと一倍敏感で臆病に生まれついているため、新しい状況に慣れにくく、不安になることが多い…他の子どもが何とも思わないようなことが、この子達にとっては大きな恐怖となり得るかもしれません。

また、ASD児には感覚過敏の子が多く、特定の音、質感、味などを苦手とすることが往々にしてあります。程度の差はあれ、抑制的な気質のSM児にも感覚過敏を持つ子が多くいるよう。感覚過敏の子どもにとって、集団のざわめきや、運動会のピストルの音、水に濡れること、特定の食べ物の味などが、他の人には想像もつかないくらい苦痛だったりすることも…。

PSHEの授業では、子ども達が自分の心配と楽しみを、大きな画用紙に描かれた自分の頭のなかに書き入れました。自分は何に不安を感じ、どんなことに困っているのか?それを書くことで、自分の持つ不安を客観視することができます。頭の中では解っていても、文字や絵にするともっと具体的に把握できるよう。ASD児は特に視覚優位の子が多いため、目に見えると理解しやすいようですが、どんな子どもでも理解しやすいのではないでしょうか?

追加情報

絵を描く作業を始める前に、担任は「人は誰でも困ったこと、不安なことを抱えているものです」と切り出しました。そして、自分が不安に思っていることを話し、TA達も私も同じように子ども達に「私はこんなことが心配」という例をあげました。子どもの目には、大人は完璧な存在として映っていることが多いもの。「大人も同じなんだ」と解れば安心でき、心を開いてくれやすいと思います。

<授業で行った方法>

  1. 大きな紙に横向きの子どもの頭のシルエットを2つ、向かい合わせに描く                 授業では、映写機で子どもの横顔をA1の紙に写し、それをマジックでなぞりました(実際に自分のシルエットなので、ASDの子ども達には解りやすかったと思います)
  2. 頭の中に脳を書き入れる
  3. 一方に「ハッピーな脳」、もう一方に「困った脳」と題をつける
  4.  それぞれの脳の中に、自分の「大好き」と「不安・困った」を書き入れる                   簡単な言葉の他に、絵や印刷した写真・ロゴマークなどを入れてもOK

Sm notes2            クリックすると拡大します。実際は言葉や絵を脳の中に書き入れたのですが、スペースの都合上こうなりました(シルエット画は息子作です)。

上記の図の「困った」、「大好き」は私が適当に記入しましたが、「困った」では「ホールの騒音」が共通してました。後は、「評価が悪い時」、「好きなPCプログラムで遊べない時」、「意地悪された時」などなど。「大好き」で共通していたのは、「人」が全く出てこず、「モノ」ばかりだったこと…(人への興味が薄いというASD児の特質が色濃いかも…)。

場面緘黙の支援をする際、まず様々な場面での子どもの安心度をチェック(かんもくネットKnet資料No.13-安心度チェック表・発話状態チェック表  かんもくネットのHPから無料ダウンロードできます http://kanmoku.org/tool.html)しますが、上記の方法だと「大好き」も判るので、そちらも支援の際に使えて便利かなと思いました。

不安の対処法については、残念ながら私のいない時に教えた模様…。でも、それから何度か困った問題に対処している場面に出くわしたので、また別エントリーで書きたいと思います。

 

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ASD児の不安と緘黙児の不安

クラスの5人の子ども達に共通しているのは、「自閉症の三つ組」と呼ばれる特性です。子どもによって三つ組のバランスや現われ方は違いますが、程度の差はあれ全員これらの特性を持ちあわせているなあ、と納得しているところです。

1) 社会性の質的な差異

年齢相応の常識や社会性を身につけるのが難しく、場の空気を読んだり、人の気持ちを察して行動することが苦手

2) コミュニケーションの質的な差異

適切な言葉やボディランゲージを使って人と交流することが難しい

3) イマジネーションの質的な差異

目の前にない事柄(もの・情報・可能性など)について推測したり予測したりすることが困難

研修初日にクラス担任に言われたのは、「この子達は、時間や空間といった抽象的な概念を捉えるのが苦手だから、教室の移動やスタッフの顔ぶれが変わるだけでも不安になりやすいの。だから、スケジュールが変わる時は要注意」ということでした。

「抑制的な気質」を持つ緘黙児も、新しい状況に慣れるのに時間がかかり、未知の体験・環境・人に対して不安になると言われています。また、ASD児と同様に、感覚過敏がある子も少なくないようです。それでは、ASD児とSM児の感じている不安は同種類のものなのでしょうか?

以前、『Selective Mutism in Children(2003)』の著者のひとりであるトニー・クライン教授にこの質問をしたところ、「SM児とASD児では、抱えている不安の質が違う」という興味深い返事が返ってきました。

彼によると、SM児の不安は「自分が話しているところを人に見られたくない=人前で失敗したくない、目立ちたくない」という社会不安であり、ASD児の不安は「予測がつかない事態への不安」だということ。

これまで体験入学でやってきた子のお世話を何度かしたのですが、どの子も「次はなにをするの?」と質問してきます。担任が事前に必ず作成しておくのが、その子用の時間割。最初に時間割の説明は済ませているのですが、訊かれる度にそれを見せて、「今この授業をやってるから、次はこれだよ」と説明すると、みんな安心するのです。

(ちなみに、教室内には仕切りのついた個別のブースが5人分あり、それぞれの子どもに机とPCが与えられ、壁にはラミネート加工したその日の時間割が貼ってあります(曜日毎に貼りかえます)。驚いたのは、子どもによって時間割の表記が異なること。数字と教科を記しただけのシンプルなものもあれば、時計の絵と教科のシンボルマークが入ったもの、1教科終わるごとに閉じて、その時やっている教科と時間が明確になるものなど、実に工夫に富んでいて感心します)。

朝の会では、まず最初に担任がその日のスケジュールと変更事項などを説明するのですが、これが子ども達の不安を低減するのに役立っているよう。また、ひとりひとりの子どもに対し、その日の具体的な目標を確認(例えば、発言する時は手を挙げるなど)するのも、どう行動すればいいか解りやすいと思います。

子ども達には、普段心配そうだったり、不安そうにしている様子は見られません。何か嫌なこと、したくないことがあって不安になった場合は、即座に「嫌だ」、「やりたくない」と強い拒否反応を示すことが多いかな…。ASD児はとても正直なので、嫌な時、不安な時、困っている時はストレートに言動に現われるように思います。

学校にはホールがあって、ランチや全校集会、屋内体育の授業などに使用するのですが、全校集会に出ることを嫌がる子がいました(現在はあまり問題ありません)。途中で転校してきたこの子は、ランチの時間は全く平気なのに、全校集会の時だけ時々問題児に…。聴覚過敏で騒音が気になる部分もあったようですが、何をするのか予測がつかない部分と前の学校での嫌な体験が不安に繋がっていたようです。

皆と一緒にベンチに座っていたのに急に立ち上がって教室に戻ろうとした時もあれば、問題なく話を聞いていた時、嫌がってホールに入らず教室のドアを蹴飛ばして大声で叫んだ時もあり、何が原因なのか??? そうかと思うと、うちのクラスが発表会をした時には、皆の前でPCを操作し、堂々と発言するという…。

その時々の雰囲気や心理状態などが強く影響しているという印象で、すごく波がありました。人にどう思われるかを気にする面は、あまり大きくなかったような…。

一方、息子も全校集会を酷く嫌がっていた時期(小3の頃)があったのですが、理由を訊いてみたら、「もし校長先生に呼ばれたら、何か訊かれるかもしれない。怖い」と。更に、様々なシチュエーションを想像して、もし何か失敗したらどうしようと、心配しているのです。ちょっと考えすぎ、想像しすぎじゃないのと思えるくらいに。

全校集会では、その週に頑張った子ども達を校長先生が表彰(といっても、とても簡単なもの)する習慣があって、大勢前に出て行って簡素な表彰状をもらい、大抵は”Thank you”を言う程度だったと思います。何とかそういう場でも返事ができるくらいまで回復していた時期でしたが、まだまだ不安は大きかったよう。実際に体験してみて、「あっ、思ったほど大変じゃなかった」と実感することで、徐々に慣れていくことができたように思います。

この2つのケースを比較してみて、不安の質が違うというのはこういうことなのかなと考えていますが、どうなんでしょうか?

 

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