息子の緘黙・幼児期4~5歳(その17)「場面緘黙」だ!

ご無沙汰しています。今日で8月が終わり、明日からもう9月…。イギリスでは2週間ほど前から朝夕の気温が下がり、秋の気配が感じられます。「夏休みにはもう少しブログを書こう」と決心していたのですが、思いがけず仕事が入り、その上外出する機会も多かったので、すっかり怠けてしまいました…。

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さて、息子の症状が場面緘黙だと判ったのは、私がネットを徘徊し始めて3ヶ月ほど経った頃でした。最初は、ダイニングルームでの耳塞ぎからASDを疑い(詳しくは『その13』をご参照ください)、ASD児の保護者達が綴るブログを次々と訪問していました。

でも、こだわりや感覚過敏については似た部分があるものの、やっぱり違う…(今考えれば、「耳を塞ぐ」や「アスペルガー」で検索していたので、「学校で話せない」にヒットするはずはなく)。それでも、子どもひとりひとりの成長や保護者の苦悩、努力、喜びに心を動かされ、夢中になって夜半まで読みふけってました。

そんな中で出遭ったのが、確か小学校3年生くらいの男の子のお母さんが書いているブログでした。小さい頃から極度の恥ずかしがり屋で、家ではものすごくおしゃべりなのに、外に出ると別人のようになり、全く話せず動きも限定されてしまう――「うちの子に似てる!」と思いながら読み続けていくうちに、ついに「場面緘黙」という言葉に遭遇したのです!

場面緘黙――それまで一度も聞いたことがない言葉。急いで検索してみたところ、富重さんが運営する『場面緘黙ジャーナル』など一握りのSM関連サイトにたどり着きました。家では普通に話せるのに、学校など公の場では話せない――息子の症状はこれだ!ちゃんと名前があったんだ!

向き合うべき問題がクリアになったことが本当に嬉しく、「息子だけじゃなかった」と安心できたのを、今でもはっきり覚えています。英語ではSelective Mutismだということも判明し、検索の結果SMiRAのサイトにも行きつきました。今から13年も前の、2005年5月のことです。

勇気を出してSMiRAに電話してみたら、創設者のひとりであるリンジーさんが応えてくれました。その後、会長のアリスさんが電話をくださり、私の説明に「それは場面緘黙ね」と判定してくれたのです。色々アドバイスもいただき、とても心強かったです。

かつて精神医学ソーシャルワーカーだったアリスさんは、60年代にいち早く「家の外で話さない子ども」に遭遇し、場面緘黙とその治療法を研究してきた先駆者です。当時はイギリスでもSMがまだ広く認識されておらず、学校はもちろんSENCoでさえ知りませんでした。

そんな中、ネットの普及によって(当時はまだダイヤルアップ方式で接続に電話料金が必要でした)、全く面識のない人たちのサイトやブログから知識を得たり、助けてもらったことを本当に感謝しているのです。私のこのブログも、どこかで誰かの役に立つことがあったら嬉しいと思っています。

(蛇足ですが、「場面緘黙」に遭遇したブログのお子さんは、どういう訳か検診の時に突然ハイになってしまい、発達障害(ADHD)と診断されたとか…。あるASD児の母親のブログと彼女のブログが繋がっていたため、偶然発見することができたのです)

こうして、やっと判明した場面緘黙のことを知るために、まずはSMiRAの資料をプリントアウトし、SMiRAとレスター大学が出版した『Silent Children(日本版では『場面緘黙へのアプローチ』を購入。アメリカのSM支援サイトや日本の緘黙サイトを覗いたりしながら、息子の緘黙克服への支援が始まったのです。

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ブルガリア黒海沿岸の春休み(その5)

イギリスは5月から例年になく好天の日が続き、気温もぐんぐん上昇。7月は観測史上2番目の暑さだったとか。既に8月に入ってしまいましたが、やっと「春休み」の最終回です。

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ポメリエで朝を迎え、その日はバスで「黒海の真珠」と呼ばれる海辺の町、ネセバルへ行くことに。3千年以上の歴史を持つこの町は、黒海沿岸に突き出た小さな半島にあります。旧市街地は1983年にユネスコの世界遺産リストに登録され、古代都市の遺跡があちこちに残っています。

まずはホテルの朝食で腹ごしらえ

ホテルの近くにあるバス停に行くと、ネセバル行きのバスの本数はまばら。11時発のバスを待つ間、歩いて15分ほどの塩博物館まで足を伸ばしましたが、この日はお休み…(後で判ったのですが、シーズンオフなのでバスも少なく、町の殆どの博物館は休館)。仕方ないので、近所にあったスーパーを探索して時間を潰したのでした。

   

    塩博物館の建物。浅瀬に浮かぶ白いラインは何?と思ったら、白い鳥がずらりととまっていました

        キャラメルみたいなパッケージ入りのターキッシュデライトは、ひと箱約65円と激安!

小型バスでガタガタ道を走ってネセバルに着くと、人出が多くてやっと「観光地」という雰囲気に。まずは、旧市街へと繰り出しました。

ネセバルの入口。驚くほど青い空が広がってました

 

聖ステファン教会跡とビザンチン様式のパントフラトール教会

 19世紀の典型的な木造住宅。ランチのサメのフライは、割と淡白な味

   

帰りのバスまでちょっと時間があったので、ひとりで写真撮影に繰り出したところ、夫と息子に大声で呼び戻されました。時間前ですが、ポモリエ行きのバスが来たとのこと。「あれ、このバス大型だし、料金も少し安い???」と不思議に思ったら、それには訳がありました。ポモリエも突き出た小さな半島の先っちょにある町なんですが、このバスは町の入口までしか行かないんです。

   とぼとぼ40分ほど歩いて、ホテル(ピンクの建物)に到着。携帯のグーグルマップがあって、本当に助かりました

ところで、ポモリエで泊まったのSt Georgeは、スパホテルというふれこみ。ホテル内にプール、ジム&サウナ各種があり、宿泊客は無料で利用可能とのこと。サロンでは黒海で有名な泥パックを安価で体験できるというので、楽しみにしていたんです。

結構疲れたので、夜は主人と二人で無料スパ体験。が、ずーっとつけっぱなしになっていたためか、5種類あるサウナはどれも熱すぎ!このままだと倒れるかもと思い、頑張る主人を残して私は主に12m程度のプールでパチャパチャ。結局、ソルトルームが一番寛げました。

翌日は黒海沿岸のホリデー最終日。ホテルをチェックアウトする前に、泥パック(フェイシャル)に挑戦してみました。温かい泥をハケで顔にベタベタ塗られ、簡易ベッドに横になって待つこと20分あまり。「こんな真っ黒な泥どうやって取り除くのかな?」と思っていたら、「はい、そこのシャワーで流して」と。固まった泥を一生懸命自分で落として、トリートメントは終了。

愛想のないエステシャンは泥を塗ってくれた後いなくなっちゃうし、美容のプロという雰囲気とはほど遠く…。最後に化粧水と名産のバラのクリームくらいつけてくれよ~、と思いつつ、「まあ、この料金だったらこんなものかな」とスゴスゴ部屋に戻りました。泥パックの効果は――良くわかりませんでした…。

この日はあいにくの曇り空で、町はすっぽりと霧に包まれていました。とにかく町を歩いてみようということで、ぐるっと1周してみたのですが、博物館もみーんなお休み。結局、ホテル近くのレストランで長~いランチタイムを過ごしました。

  

海にも霧がかかってぼんやりした風景。右は夏季のポモリエの海岸

    暇だし、これで最後ということもあって、とにかく食べました~。「巨大イカゲソ」を注文したら、燻製でした

イギリスと比べると物価が半分くらいなので、ブルガリアではすごく得した気分でした。空港でミネラルウォーターを買ったら、町で買っていた値段の4倍近くになっていて、カルチャーショック(笑)。

こうして私たち家族の黒海沿岸のホリデーは終わりました。今でもあの誰もいない海を恋しく想い出します。

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ブルガリア黒海沿岸の春休み(その4)

イギリスの公立学校は7月21日頃から夏休みに突入しました。授業がないので時間がいっぱい取れるはずだったのに、急な仕事が入ってしまい毎日バタバタ。春休みはすでに遠い思い出--ですが、自分の記録のために続きを書いておくことにします。

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4月8日はブルガリアの復活祭の日曜日でした。朝食は前日きれいに塗ったゆで卵、甘いパンと果物。この日は午前中にアパートを後にして、友人家族は私たちをポモリエのホテルまで送ってから、ソフィアに戻る予定でした。途中、友人(奥さん)の想い出の地だというバニャ村のカフェでランチして、自然保護地区になっているイラクリの海岸で数時間過ごそうという計画。でも、計画通りにいかないのが旅の醍醐味ですよね。

早めに荷造りし、フラットの片付けや掃除を始めた我々をしり目に、10時過ぎてからシャワーを浴びるブルガリア友…ムムム。最後にもう一度海岸まで下りて海に別れを告げ、車に乗り込んだのは既に正午近く。

「国道沿いに、元村一番のハンサム君が経営するカフェがあるの。ランチはそこよ」

そう言われて楽しみにしてたんです。なのに、行ってみたら復活祭のためかお休み…。女の子の憧れの的だった彼は、すごい美女と結婚し、めっちゃ可愛い娘に恵まれたそう。でも、二人とも中年太りで昔の面影は薄れてしまったとのこと。「彼らの過去を証明してるのが娘よ!」、ということで興味津々だったのに、ああ残念。

ちなみに、ブルガリアの女性は金髪碧眼のヨーロッパ系から黒髪茶眼のアジア系まで、本当に美女が多いんです、友人曰く、「オスマントルコ帝国時代にハーレムで美女を集めた名残り」なんだとか。

仕方ないので、もう1軒あるという村の中の小さなカフェ&雑貨店へ。そこに着くなり、彼女は昔馴染みとの抱擁+キス+昔話の嵐!小さい頃、毎年この村で夏を過ごしていたから、村人はみんな彼女のことを知ってるんだそう。

とっても長閑な村ですが、日本と同じで廃墟がチラホラ…

雑貨店で食料品を買い込み、車でイラクリの海岸にたどり着いた時には、既に午後2時を回っていました。昔(社会主義国だったころですね)は小一時間もかけて村の友だちや家族と海岸まで歩いて行ったとか。途中、アーモンドの樹林があって、両手いっぱいのアーモンドを食べながら歩いたといいます――社会主義が崩壊してアーモンド林は荒れ放題になってしまい、もうその面影も残っていませんでした。

イラクリは黒海沿岸部でまだ観光化が進んでいない数少ない海岸のひとつ。無料のキャンプ場がある他は、自然のままの海が残されているということでした。が、この日浜辺ではモダンなコンドミアムとバーを建設中。こうやって、どんどん開発が進んで、静かな海がなくなっていくんですね…。

とても天気が良かったのですが、復活祭のためもあるのか人影はまばら。早速砂浜に座って、パンとハム、チーズ、村人にもらった復活祭のゆで卵と野菜でピクニックを楽しみました。ここでも友人のストールが敷物に早変わりし、彼女が常に持ち歩いている大きなナイフが大活躍。ブルガリアのキュウリとトマトは、本当に瑞々しくて元気いっぱいの味です。

ゆったりとした河が海に流れ込んでいます

河の畔にはガマの穂が群生。河に手作りの舟をうかべて

浜辺で見つけた流木のオブジェ

  写真(下)の真ん中にある黒い星型のものは菱の実です。砂浜を歩いていた時、足の裏に鋭く尖った角がぐっさり刺さって、激痛!

食後は海や海に合流する河で遊んだり、砂浜で見つけた小石や貝でオブジェを作ったり、お喋りしたり。あっという間に時間が経ち、5時になってしまいました。でも、そろそろ腰をあげようとする私たちを尻目に、頑固なブルガリア友(運転手君)は粘る、粘る。

みんな根負けして、「まあ、いっか」と誰もいなくなった海で再び羽を伸ばしました。結局、彼らの車でホテルに着いたのは9時近くで、子供が寝てしまったため、一緒に夕飯を食べることもままならず。彼らはそのままソフィアへと向かい、家に辿り着いたのは、午前1時過ぎだったそう。

ポモリエのホテル前のプロムナードから見た夕焼けがきれいでした

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2018年SMiRAコンファレンス(その7)

場面緘黙トーキングサークル―場面緘黙経験者による成人のためのサポート              SM Talking Circles- Peer support for adults with lived experience of SM

公演の最後は、緘黙経験者のジェーン・サラザーさん。何と45歳の時までずーっと緘黙だったんだそう! 5年かけて克服し、現在はTalking Circleというグループの代表として場面緘黙の成人たちを支援しています。

Talking Circleはその名前通り「話すためのサークル」です。同じ緘黙で苦しんでいる仲間が集り、お互いに助け合いながら一緒に克服していこうという趣旨。グループに加わって、気軽に参加して欲しいとのことでした。

ジェーンさんは1対1のセラピーでグループセッションを勧められて参加し、グループによる支援の効果を実感したといいます。不安を感じる状況で、普通に話すことがどんなに難しいか――それを理解し合える仲間同士なら、言葉に詰まっても、黙っていても気兼はいりません。

今やSNSの時代ですが、同じ問題を抱える人同士が顔を突き合わせて対話に挑むことの大切さ、人と接することの大切さを力説。とにかく、まずは人と繋がりを持つことが重要だと。長い間緘黙が続くと、人と接したり、コミュニケーションを持つ機会が少なくなるので、こういったグループの存在は本当に貴重だと思います。

それぞれの頑張りを見て、刺激し合えるという利点もありますよね。例えば、ひとりでダイエットに挑戦すると、どうしても甘えてしまいがちですが、グループに参加することで頑張れるのと同じように。

ジェーンさんは、2016年に地元のカンタベリーでこのグループを立ち上げ、最近南ロンドンでも新たなグループを開始したとか。機会があったら、是非一度のぞいてみたいなと思います。

堂々と明確な口調で話すジェーンさんは、とても45年間(?)緘黙だった人とは思えませんでした。そんなに長い、長い年月をどんなに苦しい思いで過ごしてきたのかと思うと、本当に胸が痛みます。ジェーンさんの努力と勇気に、会場からは暖かい拍手が沸き起こりました。

余談ですが、私のすぐ近くにSMの成人として2015年にBBCのドキュメンタリー(詳しくは『BBCが大人の場面緘黙を紹介』をご覧ください)に出演し、一昨年のコンファレンスでプレゼン(詳しくは『場面緘黙の成人、サブリーナさんのプレゼンテーション』をご覧ください)を行ったサブリーナさんと妹さんが座っていました。

最初に声をかけた時は、まだ緊張が強かったのかちょっと固い表情で会釈してくれました。それが、時間が経つにつれて表情がリラックスし、妹さんと内緒話も。実際に声を聞いた訳ではないですが、ランチタイムには多くの人に話しかけられ、笑顔で応えていたよう。

「皆が理解してくれる場」として、SMiRAコンファレンスに参加するSMのティーンや成人が増えています。参加したら話せるようになるという訳ではありませんが、当事者や保護者が勇気づけられる場所になっていることは確か。

SMの克服は長期戦で、人によって、また状況によっても回復のスピードはそれぞれ違います。焦らずマイペースに前進できるよう、トーキングサークルのようなグループが全国各地にできればいいなと思います。

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2018年SMiRAコンファレンス(その6)

保護者そして教員の視点から見た場面緘黙 SM from a parent and teacher’s perspective

次の講演は、小学校の教員で緘黙児の母親、そしてSMiRA委員会メンバーでもあるクレア・ニールさん。彼女の娘さんは4歳の時に場面緘黙になり、12歳の現在も克服中だとか。小学校の現状や教師がおかれている立場を踏まえ、いかに学校と協力関係を築くかを語ってくれました。

娘さんについてはあまり触れなかったので、今緘黙症状がどの程度なのかは不明です。ただ、7歳の時引っ越しのため転校することになり、本人は「次の学校では話す」と強く決意していたものの、結局話すことはできなかったと(家族もですが、本人は相当ショックだったでしょう…)。

(みく注:転校や進学は子どもが話し始めるチャンスといわれます。成功率が高いのは、本人の「話せる」という自信や「話したい」気持ちが充実していているケース。「これまでずーっと黙っていたのに、今話し始めたら皆に変に思われる」という自意識から「今いる学校では、どうしても話せない」と強く思いこんでいる子が多いようです。

新しい学校では、話し始めるという課題だけでなく、新たな友人関係や先生たちとの関係の構築、新たな環境への適応も必要となってきます。新しいクラスに途中からは入っていくのは、SM児でなくても勇気がいりますよね?それを考えると、転校よりも皆が新しいスタートを切る進学の方が、チャレンジしやすいかもしれません。それでも、どんなクラスか、どんな先生か、初日がどうだったかに随分左右されると思います)

クレアさんによると、今小学校で何らかの問題を抱える子どもが増えているとのこと(私も5年ほど前に小学校でボランティアをしてみて、同じように感じました。35人のクラスのうち、10人弱がSEN(特別支援)リストに載っていてビックリ。でも、そのうち何らかの診断が下りている子は2人だけでした)。

それぞれの子どものニーズが異なる中、一番手がかかるのは行動に問題がある子です。席にじっと座っていられない、友達と問題をおこす、授業についていけない――こういった子どもの支援をするだけで、教師とTAは手いっぱい。クレアさん自身はSM児を受け持ったことはないそうですが、普通に授業についていければ、どうしても支援の優先順位が低くなってしまうと実感しているそう。

イギリスだったらキーワーカーがついて支援プログラムを実行してくれる、と思われるかもしれませんが、現実は厳しいです。学校側がいち早く場面緘黙を察知して、支援プログラムを用意してくれるケースもあるようですが、ほんの一握りの本当にラッキーな例にすぎません。

クレアさんのアドバイスは、「ひとりでもいいから子どものことを理解してくれる人を味方につける」こと。日本だと普通はTAがいないので、担任の先生が一番子どもに近い存在になるかと思います。忙しい担任にいかにアプローチするかは、とても難しいですよね。保護者も内向的な傾向が強い場合は、不安やストレスも大きいと思います。

イギリスの学校には必ずSENCo(特別支援教育コーディネーター)がいるので、相談することができますが、日本では教師と兼任というケースが多いと聞きます。でも、できるだけ多くの学校関係者に相談して、子どもの問題を理解してもらうことが必要不可欠だと強調していました。

もうひとつ、進学や転校の際は、なるべく早く進学先・転校先に連絡を入れ、できるだけ多くの教師や学校関係者に関わってもらうようにとのアドバイス。子どもが「言わないで」と主張しても、念のため手を打っておいた方がよさそうです。

なんらかの支援をお願いする時は、スケジュールと期限を決め、できるかどうか返事をもらうこと。というのも、忙しい教育現場ではイベントやハプニングも多く、時間が経つとうやむやになってしまいがち。できない場合は、他のできそうな方法を提案してみましょう。支援の効果をきちんと記録して、次の支援やステップを話し合ったり、提案したりしていくのも大切とのこと。

やはり、保護者が積極的に関わって、教師たちの動きを監視(?)しながら、一緒に子どもを支援していくことが大切だという結論でした。話し合いをした後も継続して関わっていかないと、途中で支援が止まってしまうことも…。緘黙治療は長期戦故に、保護者も途中でメゲずにマラソン感覚で頑張らなくては、ですね。

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ASD(自閉症スペクトラム)とSM(場面緘黙)の併存  ASD & SM Overlap

今回のコンファレンスで一番興味深かったのは、教育心理学者のクレア・キャロルさんによる短い報告でした。実はこれ、プログラムには記載されてなかったんです。事前に参加者に質問を募ったところ、「ASDとSMの併存」についての質問が多くあったそうで、それに対し回答したもの。SMiRA委員会メンバーでもある彼女は、このテーマを研究中だそう。

         午後の部の最初に登場したクレアさん。用事があってこの後退室されたので、質問タイムには不在でした

「これは正式な調査ではない」と前置きした後、SMiRAのFB会員にアンケートをした結果を発表してくれました。このアンケートには300人以上の保護者が回答を寄せたそうです。

1) お子さんは純粋な場面緘黙か、それともASD併存(診断済)か

  • 場面緘黙のみ: 66%
  • ASDとSMが併存: 34%

3割近くの回答者が併存と答えました。今のところ、ASDとSMの併存率については公式な数字が発表されていませんが、イギリスではこれまでもっと少ないと考えられていました。

(以前の記事で併存率について触れましたので、興味のある方はご参照ください。『日本では発達障害と見なされやすい?(その4)』

この結果について、クレアさんは「きちんとした調査が必要」と語っていました。SMとASDの特性に重なる部分があるため、過剰に診断されている可能性がある。また、まだASDの診断が下りていないため、過少に診断されている可能性も考えられるとのこと。以前は、SMがまだ一般に浸透しておらず、ASDの二次障害として現れるSMが見逃されていた点があるとも。

2) 男女比

  • 場面緘黙のみ     男子 23% :  女子 77%
  • ASDとSMが併存     男子 50% : 女子 50%

SMの出現率は、男児より女子の方が多いということは周知の通り。場面緘黙のみのケースは女子が77%と圧倒的に多いですが、併存のケースだと男女比はきれいに半分ずつに分かれています――どうしてでしょう?

ASDの出現率については、男子の方が多いことが分かっていますが、イギリスでは最近になって女子の出現率の増加が話題になっています。これは、女の子の方が成長が早く、自分が周囲と違うことを隠したり、模倣して周囲に合わせるスキルが高いため、ASDが見えにくいという理由からのようです。そのために問題が起きるまで発見が遅れるケースが多いということ。

SMとASDの関係については、更なる研究・調査が必要となりそうです。でも、ともにコミュニケーションや社会性に関わっているので、いずれにしても早期発見がカギとなってくると思います。

長い間子どもがひとりで苦しむことがないよう、「あれっ、変だな」と感じたら、どこかに相談することが必須じゃないでしょうか?SMもASDも周囲の対応次第で本人が随分楽になることは確かなので。

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場面緘黙のセラピー  SM Therapy

SMiRAのホームページを見ると、『場面緘黙の支援の求め先一覧』は1で、その後に2『SMのセラピー』、3『SMについて学ぶ』、4『SM情報』と続きます。この4つの情報があれば、子どもの場面緘黙を発見したばかりの保護者や大人の当事者が、すぐ行動を起こすことができそうです。

ただし、すぐ行動したからといって、緘黙克服は長期戦だし、学校や担任に当たり外れがあるので、速攻で支援を得られるという保証はありません。また、全部の項目をスルスルとクリアできる訳はなく、いっぱい壁に突き当たりながらの長旅になると予想されます。

それでも、まず家族が理解して周囲に支援を求める姿を見れば、子どもは心強いし、親子の信頼も深まるはず。学校や専門機関とのやり取りは、時間もストレスもかかりますが、とにかく早いスタートを切ることが肝心だと思います。

Info: Where to Get Help with Selective Mutism

SM児に対するセラピー(英国の場合)は、下記のプロセス(かなり簡略化されてます)を踏んで行われます。

  1. 家庭と学校でのSM教育
  2. 家庭、学校、その他の身近な場所で、子どもに対する大人の応答や行動を変える
  3. 子どもに場面緘黙について説明し、治療・克服方針を決める際にできるだけ子どもに関与させるようにする(子どもの意見を取り入れる)
  4. 『新SMマニュアル』に沿って、学校で*定期的な介入セッション(週3回が理想的)を行う。セッションは保護者(もしくは子どもが自由に話せる人)と学校のキーワーカーによって行い、子どもがキーワーカーに自由に話せるようになったら、保護者はセッションから退く。定期的なセッションを一貫した一貫して行えば、子どもがキーワーカーと話せるようになるまでに何か月もかかることはない
  5. 保護者はスモールステップ方式で、学校外でも話せるようにしていく
  6. より多くの場面・人と話せるようになるよう、機会を増やしていく(一般化)

注:4)の学校における定期的な介入セッションは、スライディング・イン法(Sliding In:SM児が自由に話せる人を架け橋に、徐々にキーワーカーに話せるようにしていく)ですが、他にシェイピング法(Shaping:徐々に声を出せるようにする)から始める方法もあります。

スライディング・イン法で、キーワーカーと自由に話せるようになったら、次はキーワーカーを介して話せる人を徐々に増やしていきます。その速度や人数などは、進行状況や子どもの状態によって異なるため、その子にとって現実可能なチャレンジを行うことが重要。

(みく注:3)子どもにSMについて説明する――保護者にとって子どもに緘黙のことを告げるかどうかは、悩むところだと思います。以前これについて書いたので、良かったらご参照ください(『告知するかしないか(その1)』

スライディング・イン法で、キーワーカーと自由に話せるようになったら、次はキーワーカーを介して話せる人を徐々に増やしていきます。その速度や人数などは、進行状況や子どもの状態によって異なるため、その子にとって現実可能なチャレンジを行うことが重要。

要となる 4) の学校でのセッションについてですが、これは日本ではすごく難しいですよね…。イギリスでも実際にやってくれる学校はそれ程多くなくて、途中でうやむやになったり、うまく進まないケースも耳にします。保護者が放課後の教室や校庭を借りて、自己流のセッションをするケースも。

また、一番下の欄に、「SMは子ども(人)が誰とでも不安なしに話せるようになった時、真に克服できたといえる」とあります。

これも以前も書きましたが、私自身は緘黙ではなかったものの、小さい頃はかなりの内弁慶で、小学校では常に緊張していました。特に、授業中に発言しなければならない時、緊張がマックスに。当時は、先生にため口をきける子が信じられなかったです。イギリスの小学校では、先生と生徒の距離が近いと感じますが、それでも全く不安なく話せるようになれるのかは疑問です――子どもの性格によると思うので。緊張はしても普通に受け答えできるようになったらOKじゃないかな?)

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「SMiRAによる『場面緘黙の支援の求め先一覧』の紹介」Introducing SMiRA’s “How to Get Help for SM” chart

次に登場したのは、SLTでSMiRA事務局メンバーのスザンナ・トンプソンさん。彼女はSMiRAのFBグループにおける常連アドバイザーで、とても頼りになる存在。でも、トレードマークのピンクの髪がブルーに変わっていて、一同ビックリ(笑)。日本では考えられないことですが、イギリスの学校には髪を派手な色に染めたり、入れ墨が見える服を着たりしている教育関係者がけっこういるんです(笑)。各学校によって方針は異なるものの、髪型、服装、宗教など本人の趣味や主張に対して寛容だなと思います。

講演は題名の通り、SMiRAが作成した「イギリスではSM支援をどこに求めればいいか」をまとめたチャートの紹介でした。この表はSMiRAホームページで検索することができます。

http://www.selectivemutism.org.uk/info-where-to-get-help-with-selective-mutism/

自分または知っている誰かが、ある場面では自由におしゃべりできるのに、他の場面では全くできないと気付いた時:

1) まず最初にすべきこと  → 場面緘黙について学ぶ

(場面緘黙が疑われる場合、環境や対応の仕方を変え始めるのに診断は不要)

2) 次に、気づかないまま緘黙を持続させる原因となっている大人の行動を見分け、その行動を変える

3) どうやって・どこで支援を得られるか見つける

チャートでは、公的・私的な支援を求める前に、まず緘黙の知識をつけることからスタート。そして、周囲が応答や環境を変え始めることが先になっています。

これは、適切な支援を得られるまでに時間がかかるケースが多いためかな?今すぐできるのは家庭での対応を変えることですよね。家族が味方と解れば、SM児(人)は心強いはず。

イギリスでは、子ども(17歳まで)と成人(18歳以上)とで支援先が異なります。子どもの場合は、SMiRAの資料を持参して学校のSENCo(特別支援教育コーディネーター)に相談するのが第一歩。一方、成人の場合は、GP(主治医)を訪ね、SMもしくは社会不安の専門家に紹介してもらう手順。でも、大人の場面緘黙はまだそれほど認知されていないため、治療者確保が難しいかもと注意書きがあります。

表の右下は、専門家の支援を得られないケース。

その場合は、保護者と学校、もしくは本人主導で介入を行います。SM支援のトレーニングを受けたSLTや心理士の支援の有無にかかわらず、『新SMリソースマニュアル』を参考にした克服法は効果大とあります。

イギリスでは住む地区や通っている学校によって、支援体制の有無や支援の程度が全く異なります。現在、場面緘黙の認知度はかなり高くなっていますが、支援や治療が得られるかどうかは宝くじみたいなもの。まずは家庭でSM児(人)の問題を認知し、大人が対応を変え、周囲へも啓発していくことが大切といえそうです。

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日本語の生徒さんと初めてのGCSE試験に取り組んでいる間に、すでに10日が過ぎてしまいました。イギリスは晴天が続き、今日は飛び切りの青空の下で、ハリー王子とメガンさんの結婚式が無事終了。式の時間帯に食料を買いに出たら、お店はガラガラで人通りもまばらでした(笑)。

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「恐怖の顔を変える Changing the Face of Fear」

2018年SMiRAコンファレンスの1番バッターは、SLT(言語療法士)でSMのための臨床ネットワーク団体事務局長のアナ・ビアバディ・スミスさん。

まず、「花という言葉から何をイメージしますか?」という質問からスタート。

「真っ赤なチューリップ」

「野に咲く白いデイジーの群」

など、会場からは様々な花のイメージが出ました。日本人だったら、季節がら桜の花を連想したかもしれません。

と、導入は楽しかったのですが、そこから脳科学の領域に突入。「ニューロプラスティシティ Neuroplasticity 神経の可塑性(かそせい)」という難しい言葉が飛び出し、頑張ってメモを取ったものの、進行が速すぎて後から見たらチンプンカンプン…。文章のつながりがおかしな部分もあると思いますが、どうぞご容赦ください。

簡単にいうと、以下の脳の働きに着目して「話すこと」への不安・恐怖のイメージを変えることができるというお話でした。

  • 同じ言葉でも人それぞれ持っているイメージが違う。
  • 人が言葉を発する(連想する)までには、イメージやそれにまつわる感情、そこにたどり着くまでの思考がある。
  • 人の行動や決定は意識的にコントロールされるだけでなく、無意識的な機能(潜在意識)による部分もかなり大きい(それまで蓄積された膨大な認識や体験が行動や決定の基盤となっている)。
  • 人にはそれぞれ「世界(外界?)」に対する自分のモデル(世界観?)があり、その「世界」の範囲内でものごとを理解しようとする。
  • 脳は適応可能な状態を維持し続ける → 人は誰でも脳を改善していく能力を備えている → 自助的な神経可塑性が備わっている。

周囲が子どもを「恥ずかしがり屋」「内気」とみなし、そう呼んでいると、子どもは自分がそうだと思い込んでしまう。大人のボディランゲージを読み取り、負のイメージを受け取ってしまう。その結果、塗り重ねた「自分は恥ずかしがり屋」という観念から抜け出すのが難しくなる。

また、不安が強い人・子どもは癖や習慣を持ちやすい傾向にある。

同じ思考や行動を何度か繰り返しているうちに、新しいシナプス(脳の神経細胞を繋ぐ回路)ができあがる。回を重ねることで回路が強化され、その思考や行動が癖になったり、習慣化してしまう。時に、習慣化した癖・行動はやめようと思っても、やめられないほど強くなることもある。

(みく注:場面緘黙の場合を当てはめてみると、最初は反射的に声を出せないことが多いのではないかと思います。次に同じような場面に遭遇した時、黙っていることで少し安心できた(無意識かもしれませんが)と感じる――「黙る」という不安・恐怖への対処法を繰り返していくうちに、それが強化され習慣化してしまう。自分も周囲もそれが「当たり前」になると、周りの反応が気になって声を出すことがますます難しくなります)。

しかし、これらのシナプスは固定化された回線ではないので、癖・習慣を変えていくことは可能。急に変えることは無理なので、スモールステップで少しずつ改善させる。それには、まず周囲が子どもへの見方を変え、態度を変えることが重要。

(みく注:まず、子どもが安心できる環境づくりをすることによって、周囲だけでなく、子ども自身の意識や考え方を変える → 子どもの心の準備ができたら、スモールステップに取り組む)

<スモールステップの注意点>

子どもが不安・恐怖を感じない「安全地帯」から少しだけ出て不安と向き合い、実現可能な目標を作ること。

その時に、子どもの学習タイプが役立つ。

  • 視覚優位型
  • 聴覚優位型
  • 体感優位型

学習タイプにリンクさせると、不安・恐怖のイメージを変えやすい。

まず、不安・恐怖がどんな風に見える/聞こえる/感じるかを探り、子どもの持つイメージ/音/フィーリングなどを変えていく。

不安・恐怖に名前をつけ、「脳の中の小部屋に怖がりのチャーリーが隠れてるのよ」と子どもに説明する。不安や恐怖は子ども自身ではなく、別の存在だと認識させる。その存在のイメージ/音/フィーリングなどを変えていく。

(みく注:緘黙の子どもは、「話すこと」以外にも、「トイレに行けない」「給食が食べられない」「体がうまく動かない」「人の目が気になる」など、他の不安・恐怖も抱えていることが多いです。これらに名前をつけて、絵を描いて可視化することも有効だと思います。

家庭でできることは、「できない部分」ではなく「できる部分を」に着目して、それを言葉にして伝える。例えば、「大人しい」の代わりに、「繊細でよく気が付く」など。人と比べず、その子の良さを見つけ、いいところを伸ばしていくこと。難しいですが、子どもがのびのびできる家庭環境を作れればベストですよね)

ちょっと尻切れトンボになってしまいましたが、主旨はこんな感じでした。脳の可塑性は生涯続くため、何歳になっても自分を変えることが可能とのこと。年齢を重ねると、より時間がかかるということですが、なんだか嬉しく思えました。私たちも、まだ変わることができるんですね。

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2018年SMiRAコンファレンス(その1)

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2018年SMiRAコンファレンス(その1)

先月21日、イギリスのレスターで2018年SMiRAコンファレンスが開催されました。例年だと3月に行われるのですが、今年は大雪で延期になり4月に。全国から保護者、学校関係者、専門家など90名ほどが集まり、4つの講演と意見交換会で盛り上がりました。講演の内容は下記の通りです。

  • 「恐怖の顔を変える Changing the Face of Fear」 アナ・ビアバティ゠スミス SLT(言語療法士)&場面緘黙のための臨床ネットワーク事務局長
  • 「SMiRAによる、『場面緘黙の支援の求め先一覧』の紹介 Introducing SMiRA’s “How to Get Help for SM” chart 」スザンナ・トンプソン SLT
  • 「保護者そして教員の視点から見た場面緘黙 SM from a parent and teacher’s perspective」クレア・ニール 保護者&SMiRAコミッティメンバー
  • 「場面緘黙トーキングサークル―場面緘黙経験者による成人のためのサポート SM Talking Circles- Peer support for adults with lived experience of SM」 ジェーン・サラザー 元緘黙当事者

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昨年と変わったことは、会長のアリス・スルーキンさんがご高齢のため正式に退任され、シャーリー・ランドック゠ホワイトさんが会長に就任されたことでした。

前会長のアリスさんは、シニア精神医学ソーシャルワーカーとして働いていた1960年代後半に「話さない子どもたち」に遭遇し、いち早く場面緘黙を研究・支援してきたパイオニア的存在。事務局長であるリンジーさんの娘さんを治療した縁から、1992年に二人でSMiRA(Selective Mutism Information Research Association)を創設。緘黙児支援に尽力されてきました。(実は、2005年に電話でうちの息子を「緘黙」と診断していただき、個人的にも大変お世話になりました)。

今回会長になられたシャーリーさんは、長らくSMiRA役員会のメンバーとして活躍されてきた女性です。元農学研究科学者で現在はセカンダリースクールの教師。20代の緘黙の娘さんがいるため(最近になって良い支援者に巡り合い、現在自立するための準備中だとか)、保護者、教師の立場も理解し、総合的な視点でSMiRAを引っ張って行ってくれそうです。

<シャーリーさんの挨拶より>

場面緘黙を患う子どもは、140人にひとり。イギリス全国だと7万9000で、成人も入れるとかなりの数になります。何と、世界中に約1370万人のSM児がいる計算になるそう。(ただ、私は地域コミュニティの絆が強い国は、発症率が少ないんじゃないかと推測していますが…)。

近年、イギリスでは財政赤字のため、国民医療(NHS)に費やされる国家予算がどんどんカットされています。学校における特別支援教育に対する援助も厳しい状況になってきているのが現状。

そのため、学校や公共機関からの支援を待つのではなく、保護者が学校での介入・対策に積極的に働きかけ、関わることを強調していました。

その際、武器となるのが2016年に改定された『場面緘黙リソースマニュアル(The Selective Mutism Resource Manual)』です。

約500ページに及ぶこの実用書は、緘黙治療の第一人者といわれるSLTのマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが最新の知見と治療体験をもとに共著。2001年に初版が出版されて以来、イギリスでは緘黙治療のバイブルと呼ばれ、専門家や学校関係者に高い評価を受けてきました。

改訂版では、最新の情報に加え幅広い克服方法がステップ・バイ・ステップで説明されていて、実践に役立つ情報が満載。マニュアルを購入すると、ウエブ上で膨大な資料にアクセスできる仕組み。(イギリスの学校・教育システムに合わせた実用書なので、日本の学校で活用できるかは不明ですが)

まず保護者がマニュアルを勉強して、介入・支援をリードしていく――難しいことですが、専門家による治療に頼らなくても、理論さえ正確に理解できていれば、自分の子どもの特質を一番よく知っている保護者と現場スタッフで、緘黙支援に取り組めるということ。もちろん、マギーさん著によるSMiRA資料やFBでの意見交換なども頼りにできる場です。「臆せずに、自分の子どものために行動を起こして」と、保護者の後押しをしてくれる挨拶でした。

★お断り:コンファレンスでは講演資料は配布されず、私が取ったメモを頼りに書き起こしています。間違った箇所があるかもしれませんので、どうぞご了承ください。

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