10月は場面緘黙の啓発月間

気がつけば、もう今月も半ばに突入。昨日、10月10日は世界精神保健連盟(WFMH)が定めるメンタルヘルスデーでした。10月はメンタルヘルスの啓発月で、イギリスでは毎年この時期になると場面緘黙がメディアに取り上げられます。今回ご紹介する記事は昨年3月にBBCエセックスニュースに掲載されたものですが、よりインパクトが強いと思い翻訳してみました。

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場面緘黙:『人は私のことを礼儀知らずとみなすけど、本当は恐怖で凍り付いてるの』

英国エセックス州に住むデイジー・メイさん

デイジー・メイさんが成長していく中、家族は彼女がただ内気なだけだと思っていました。しかし、見知らぬ人の前での頑ななまでの沈黙は、実は場面緘黙(SM)だったのです。

この不安障害のため、エセックスに住む12歳のデイジーさんは、両親以外の人とほとんど話すことができません。

NHS(英国国民保健サービス)によると、場面緘黙は特定の社会的状況でフリーズ反応を引き起こす外的な症状で、本人は不安やパニックに陥っていると言われています。

この症状のためにデイジーさんは友達を作ることができません。しかしながら、ダンスやオンライン動画を通して演技をすることに情熱を見出し、自分を表現して自信を持つことができるようになりました。

メールで行われたインタビューで、デイジーさんはSMが日常生活にどのような影響をもたらしているか、自分自身の言葉で語ってくれました。

楽しみは、ダンスとオンライン動画制作で自分を表現すること

「想像してみてください。毎日の生活の中で人と交流する時、体はそこにあるのに口が動かず、不安で言葉が出ません。頭の中は空っぽなの。周りの人たちが話しているのを見ても、自分は話せない――行き詰まってしまう。トイレに行きたくても、どこにあるのか訊ねることさえできません。

これが場面緘黙を抱える私の人生。

ただただ言葉が見つからない。家の外では、たとえ言葉が浮かんだとしても、怖すぎて固まってしまうんです。何の助けも求めることができず、笑ったりおしゃべりすることもできない。

周りの人は、私のことを無関心でフレンドリーじゃないと思っています。不愛想な子だと。まるで、自分たちと同じ世界の人間じゃないみたいに。

私は一人ぼっち。

友達は1人もいません。私は「友達はいらない、1人でいたい」と言っています。でも、友達同士が一緒にいるのを見ると、いいなって思う。でも、誰とも話せないから、私には無理でしょうね…。家族ともまともに話せず、人と会った後はすごく疲れてしまいます」

 母親のルイーズさんと一緒に舞台に立つことで、演技を通して自信を深めてきた

「昨年パントマイムに出演した時は、母とは更衣室が別でした。他の子たちはゲームをしていたけれど、私は参加できず側で見ているだけ。話すことも参加することもできないから、ただ傍観するだけでした。

でも、私は人真似がすごく得意で、家に帰って母に彼らの会話の内容を全部説明できるんです。皆が何を言っていたかちゃんと覚えています――皆は私が関心を持ってないと思っているかもしれないけれど、すごく興味があるので。

でも、演技をしている時は別。話すことはまだできなくても、その力があるように感じじられるんです。皆と一緒にショーに参加している時だけが、何かできるように思える唯一の時間です。一人ぼっちじゃない。

私は人と一緒にいること、そして大勢の観客の前で演技することが好きです。大勢の人がいるけれど、彼らは私が話しかけることを期待していないし、しっかりリハーサルするから演技には自信があります。

私は耳栓をしなければならないけれど、音楽が好きなんです。観客が笑顔になって、拍手してくれて、私を見てくれるのが好き。そうしたら、私も笑顔になれて、違う人間になれるから。

今月初め、「Uniquely Me(ユニークな私)」というチャリティ・タレントショーを開催しました。何週間も練習して、なんとか短いスピーチもすることができたんです。

彼女は今後、もっと多くの募金活動や啓発イベントを開催したいと考えています。

「特に、私と同じような人たちに才能を発揮する機会を持ってもらいたいと思って、タレントショーを開催しました。誰でも参加できて受け入れられる場――私がいつも感じる疎外感がない場を。

参加してくれた子どもたちは、様々な背景、文化、障害を持っていましたが、皆で一緒に幸せに過ごすことができました。イベントが上手くいって、人々に場面緘黙について知ってもらえたのがとても嬉しくて、また開催したいと思っています」

デイジー・メイさんは緘黙のせいで他の子どもたちと話すことができないため、友達はいらないと自分に言い聞かせようとしてきました。

「誰も場面緘黙症が何なのかを理解してくれません。私が話さないと大騒ぎするか、完全に無視して諦めてしまうかのどちらかです。人付き合いが悪いわけじゃなくて、人は好きなんだと説明できればいいんですが…。

場面緘黙と書かれたストラップを首から下げて、周りの人に理解してもらいたいです。自閉症の人と同じように。手話を習おうとしましたが、誰かの前で固まってしまうと腕も何も動かないから、難しいです。

私は自閉症なので、将来のことはあまり心配していません。将来のことを話したり想像したりするのが苦手だからあまり考えませんが、ママがすごく心配していることは知っています」

デイジー・メイさんの母親、ルイーズさんは、『Uniquely Me』の後、他の保護者たちから、このショーが子どもたちの自信を高めるのに役立ったという手紙を受け取りました。

ルイーズさんは娘が見逃してきたものについて心配しています。

「私は毎日娘の将来を案じています。デイジー・メイは何でも私に頼っているから。娘はお店で簡単なことさえ頼むことができないんです。緊急事態に自分で対処できないだろうと思うと、ひとり放っておくことはできず、本当に辛いです。

娘は一度も友達と遊んだり、お泊まりに行ったこともないから、どこかで何かを頼んだり、自分の要求を伝えたりすることはできないでしょう。もし私に何かあったら彼女はどうなるのかと、不安でなりません」

BBCエセックスニュース 記者:レイチェル・マクメネミー

https://www.bbc.co.uk/news/uk-england-essex-68388212

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