BBCの緘黙記事とバイリンガル

以前の記事で書きましたが、場面緘黙啓発月だった先月、BBCのニュースサイトで5歳の緘黙児、エルシーちゃんのケースが紹介されました。

<ニュース記事の内容>

ウェールズ在住のエルシーちゃんは姉弟や家族、友達とおしゃべりするのが大好き。でも、家族以外の大人とコミュニケーションを取ることができず、9月に入学した小学校でもまだ言葉が出ていません。

「先生に本を読むことも、トイレに行きたいと言うこともできません。何かほしくても、頼むことができないんです。日常生活にかなり大きな支障があります」

エルシーちゃんは場面緘黙(症)と呼ばれる重度の不安障害。子ども140人にひとりの割合で発症します。家庭では英語とウェールズ語を話しています(注:バイリンガルの子どもは発症率が通常より高い)。

「娘は話す相手を選んでいる訳ではないの。話せる唯一の条件は、安心できるレベルまで不安が下がった時だけ。コミニュケ-ションを取るのが怖くて、緊張や不安で体が固まってしまい、声が出ないんです。恥ずかしがり屋では片づけらない、周囲のサポートが必要な症状です」

幸運なことに、家族は早い段階で問題に気付き、ヘルスビジター、言語療法士、学校の支援を受けることができました。言語療法士のローリーさんは、「質問したり、話すように圧力をかけないで」と警告。

父親のダフィドさんは、「エルシーが10代になるまで場面緘黙を引きずらないよう、早くから対処を始めました」と、早期発見・介入の重要性を強調しています。

母親のハンナさんは、もっと多くの人に場面緘黙を知ってもらおうとSNSで発信。10月末までに100マイル(160km)走ることにも挑戦しました。医師や教師、他の親から多くの反応があるそう。

記事と動画はこちら:https://www.bbc.co.uk/news/uk-wales-54731963

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イギリスのTV局は、これまでに複数の場面緘黙ドキュメンタリーを放映。場面緘黙がニュースで取り上げられることは、さほど珍しくありません。でも、ハンナさんの言葉から、まだまだ周知されていない症状なんだなと実感させられました。

私が興味を持ったのは、エルシーちゃんが英語とウェールズ語を話すバイリンガルだということ。息子もバイリンガル(小学校入学まで日本語中心)だったので、その影響がどれくらいあるのか知りたいです。

(日本ではあまり知られていませんが、ウェールズ語はケルト語派の言語で、英語とは全く違います。イギリス(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの国からなる連合王国。現在でもその意識は強く、新型コロナの規制もそれぞれの異なります)。

家庭で2か国語以上の言語を話す子どもは、場面緘黙になる確率が高いことがこれまでの研究で解っています。ただ様々なケースがあるため、どの程度の割合で高くなるのか一概には言えないよう。

ヨーロッパ在住のSMiRA委員会メンバー(3か国語を話す元緘黙児の父親)が、『SMリソース・マニュアルの』共著者であるマギー・ジョンソンさんとまとめたレポート&ガイダンスがあります。それには、「イスラエルで行われた研究によると移民の子どもたちのSMの割合は通常の0.76%と比べ、2.2%と高い統計を示している(Elizur&Perednik 2003)とあります。

2015年にアメリカで発表された論文(C. A. Mulligan, J B. Hale & E Shipon-Blum)でも、上記の論文を参照していて、移民の子ども達のSM有病率はネイティブの子ども達と比べ4倍近く高い(Elizur&Perednik 2003)と?。移民と第二言語学習を組み合わせた状況を、更に調査する必要があると述べています。

また、オランダのユトレヒト病院(UMCU)で1973年から2011年の間に診断・治療した139人の緘黙児の中で、オランダ語だけを話す子ども56%、多言語を話す子ども28%、ASDが併存する子ども15%だったという報告も(Veerhoek 2011)。

ひと言でバイリンガル、多国語を話す緘黙児といっても、例えばヨーロッパ人と移民とでは状況がかなり違います。また、移民の中でも、中東やアジアなどから来たばかりの子もいれば、第二、三世代としてイギリスで生まれた子どもも。後者の中でも、家族がイギリスの風習に溶け込んでいるケースと、自国の言葉や文化を軸に暮らしているケースでは、比較が難しくなります。また、息子のようにハーフの子どもや、多国語を話す文化のある国に生まれた子もいる訳で…。

ひとつ言えるのは、抑制的な気質や恥ずかしがり屋の子どもが、学校など公の場で自信のない言葉を話さなければならない場合、不安がより大きくなるだろうということ。SMを発症するリスクがより高くなるのは理解できます。

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バイリンガルと緘黙(その1)

バイリンガルと緘黙(その2)

バイリンガル緘黙児あるある

10年後のレッド

先日、BBCのウエブサイトを見ていたら、見覚えのある名前が――10年前に緘黙のドキュメンタリー番組『My Child Won’t Talk(うちの子は話さない)』に出演した少女のひとり、レッドちゃんでした。https://www.bbc.co.uk/news/stories-48557674

     あの幼かった少女が、あっという間に成長してもう大学生なんですね(サイドの剃り上げにビックリ!メタルファンなんだ~)

記事の冒頭部分の翻訳:

19歳のレッドはメタル系音楽のファンで、メイクアップアーティストを目指す大学生。子ども時代の彼女は、家でだけおしゃべりで活発な女の子でした――が、家の外ではまったく違っていたのです。

ノーサンプトン州ケタリングにあるセカンダリースクール(12~16歳)の見学日。来期新入生の子ども達とゲームをしていた先生は、近くにいた女の子にも参加するよう声をかけました。

11歳のレッド・エリザベス・ジョリーは、肩をすくめて「OK」と応え、仲間に加わりました。その様子を見て、思わず視線を交わす両親。レッド自身はというと、「普通の子がやることをするだけ」と自分にいいきかせ、落ち着こうと努めていたのです。帰宅後、母親のキャリーさんはFBを更新し、「娘のことが本当に誇らしい」と書き込みました。

この短い「OK」が、レッドが家の外で何年も守り続けてきた沈黙を破る突破口となったのです。
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話せる人が8人しかいなかった小学生時代

レッドが緘黙になったのは幼稚園のころ。最初は、誰もいない教室でなら先生と話をすることができていました。でも、先生が変わるとそれも一切なくなり、11歳で「OK」と発するまで、園や学校ではひとことも口をきかなかったのです。

緘黙だった頃のことを「周囲がガラスの壁で遮断されていて、それを外から眺めているような感じだった」と振り返るレッド。知らない顔や「話すだろう」という周囲の期待が、大きな不安を引き起こしました――体は固まり、脳は過剰反応と停止の繰り返し…。

これではパニック状態に近いので、話すどころじゃないですよね?(でも、人からはそういう風に見えないことが多いのが辛いところ…)。学校でフラストレーションがたまり、帰宅してから泣いたり、叫んだりした記憶が強く残っているそう。

現在のレッドは静かながらも自信を持って話し、笑顔も多く出ています。セカンダリースクール入学後、少しずつ自信をつけて先生に応えられるようになり、話せる友達のサークルを広げていきました。まだ不安になる傾向は消えませんが、人前での発表も、知らない人との会話も問題ありません。

現在も話せない人

一見すると場面緘黙を克服したかのようにみえる彼女ですが、実はいまだに話せない人も。母方の祖父を含む、親戚の何人かがそうです。

BBCのドキュメンタリーでは、この祖父と話すことを目標に、携帯電話を使った試みを実行。番組内では上手くいっているようにみえました。この試みは番組放送後も続けたそうですが、いつの間にか止まってしまったよう。

話せない理由は不明ですが、祖父とは今後も話せないだろうと感じているよう…。周囲と自分の「話せるようになるだろう」という期待が重すぎたのかもしれませんね。頑張りすぎて、かえってトラウマになってしまったのかも…。

彼女は少しびっこをひいて歩きます。これは12歳の時に膝を脱臼した影響だとか。当初、不安のため病院で誰にも足を触らせず、医者の問いにも応えず、治療を拒否。やっとのことで、鎮静剤を打ってMRIスキャンにこぎつけ、2回の手術を決行。学校を5か月間休むことになりました。この時期、家族の心労はピークに達し、ストレスのため父親が休職を余儀なくされたとか…。

うちの息子もそうですが、緘黙克服といっても、生まれ持った不安気質が変わる訳ではないようです(人によって異なると思いますが)。でも、自分に合った対処法を身に着けていくことで、耐性がつき、生きることが楽になるのは確かだと思います。

それから、彼女が母親の変化について語っているのも興味深いところ。「かつて母は常に私のことを心配していたけれど、それがなくなった」と。ちゃんと解ってるんですね。子どもの緘黙克服を支援し、自立を後押しし、タイミングよく徐々に手を放すことができたら最高だなと思います。

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緘黙のドキュメンタリー

緘黙のドキュメンタリー

イギリスではこれまでに場面緘黙のドキュメンタリーが複数制作されています。国営放送のBBCでも、2009年に『My Child Won’t Speak(うちの子は話さない)』を制作。これは、3人の少女の緘黙克服への道を追いかけたもの。

それぞれの心の葛藤や家族たちの心境がとてもよく描けていて、秀逸な番組だと思いました。また、架け橋となるキーワーカーを軸に、新しい人に少しずつ話せるようにする「スライディング・イン(Sliding In)法」や、クラスメートに緘黙のことを告げる貴重な映像も含まれています。

実は、2010年に日本語に訳してサブタイトルを入れ、内輪で公開したのです。それ以後、すっかり忘れていたのですが、先日出演者のひとりのレッドちゃんがBBCニュースで取り上げらているのを発見。久しぶりにこのドキュメンタリーのことを思い出し、再度新しい映像を入手し、日本語のサブタイトルを修正して、ツベにUPしました。

もしかしたら、すぐ消されてしまうかもしれないので、良かったら早めにご覧ください。

どきどきコテージと減感作療法

先週イギリスを含むヨーロッパは、シベリアからの大寒波にすっぽり包まれていました。ロンドンでは水曜日から本格的に雪が降り始め、それほどの積雪はなかったものの、とにかく零下の気温が継続。主人曰く「冷蔵庫の方が暖かい」という感じで、交通はマヒするし、私の学校も休校に…。

少し雪が積もったくらいでどうして混乱するかというと、イギリスではスノータイヤやチェーンがないんです…(例年雪が少なく、道路がデコボコになるのを防ぐため?)でも、スコットランドではかなりの豪雪となり、軍隊が出動して医療スタッフを病院に運んだり、不通になった道路の雪かきをしたり。大寒波にハリケーンが加わったウェールズでは、農家の人たちがトラクターで救助作業に当たったそう。

そんな中、主人と息子はいつも通り通勤・通学し、私だけ木・金と休みでした。先週はどういう訳か人に会う約束が多く、今日はSMiRAの定例会の予定だったんですが、全部キャンセルに…。雪道を運転するのが怖いので、ピラテスのクラスも休んでずっと家に籠ってました。

すごく楽しみにしていたんですが、こういう時もありますよね。気を取り直して、バナナケーキを焼き、大きな鍋いっぱいに野菜スープを煮、小豆とラベンダーのホットアイマスクを作りました。

      水曜の午後は息子のアレルギーチェックでパディントンの病院へ。駅の前を流れる運河も凍結。少々不格好ですが、ホットアイマスクを2個作りました

さて、先回の記事を書いた際、イギリスで放送されたTV番組のことを思い出したので追記します。

もう10年以上前になりますが、イギリスの国営放送BBCで『The House of Tiny Tearaways』というシリーズ番組がありました。様々な問題を抱える子どもとその家族3組が、同じ家で6日のあいだ衣食住を共にし、凄腕心理士のタニアさんの指導のもと、問題を解決していくという内容。

その中で、3歳半の緘黙の少年、チャーリーとその家族が出演。初めはみんなの前で全く声を出せませんでしたが、お母さんをかけ橋役にスモールステップを踏み、最終日には両親がいないところでも他の家族と話せるように!

克服方法はSLTのマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんの共著『Selective Mutism Resource Manual』を元に、マギーさんが提案・助言したもの。スモールステップで克服していく様子を実際に映像で観ることができ(今映像が見当たらないんですが)、すごく参考になりました。

緘黙児(人)の問題は新しい状況に慣れにくいことですが、一定時期を同じ家、同じメンバー(20名以下)で過ごすことが、減感作療法(Desensitisation)となるようです。

日本では緘黙には病院治療が効果的(イギリスにはありません)といわれています。これも、一定期間同じ環境・人・場面が継続することで、減感作療法desensitisationをしているんだと思います。それほど大きくない病棟で、同じ顔ぶれの医師、看護師などのスタッフと、毎日少しずつ「コミュニケーションを取る・話す」ステップを踏んでいく訳ですね。

病院という環境ではなく、どきどきコテージみたいな環境でこれができるといいなと思います。また、親戚の家に泊まりに行ったり、来てもらったりするのも同じ効果が期待できますね。後は、どうやってその人にあったステップを踏んでいけばいいのかかな。

緘黙克服に大きなプレッシャーはNGですが、常に小さなプレッシャー(挑戦)に立ち向かうことが必須です。経験からいって、抑制的な気質の子どもは挑戦を止めてそのまま時間が経つと、以前の状態に戻ってしまう傾向が強い。言葉が出始めていたのに、途中で夏休みが入ったことで、また元に戻ってしまったというような例が多いんです。プレッシャーとは感じないまでも、CBTの感覚で「今日はこれに挑戦してみよう」という目標を持ち、コツコツ実行し続けていくことが大切だと思います。

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『バリバラ』を観て--身体的な緊張

身体的な緊張をほぐすには?

自己肯定感を培う

『バリバラ』の続編を観て

『バリバラ』の続編を観て

2月も今日で終わりです。ラッパ水仙の一番花が咲き、春の兆しが感じられるようになったと思ったら、シベリアからの大寒気が。先週から最低気温が氷点下の日が続いています。今朝はロンドンも雪景色となり、午後は大雪警報…でも、こういう日に限って外出しなければならない用事がいっぱいという…。

1月下旬に放送されたNHK『バリバラ』の『どきどきコテージ』(前・後編)を観ることができました。

場面緘黙と吃音に悩む全国の若者たちに声をかけ、「コミュニケーションは苦手だけど人と関わりたい」と集まった男女8名。場面緘黙の女性と吃音の男性各4名が、三重県の海辺の町にあるどきどきコテージで2日間を一緒に過ごします。

昨年の場面緘黙特集に出演したユリエさんとサナさんも参加。吃音を抱える男性4名のうち、特に症状が顕著なトモヒロ君が、ムードメーカー的な役割を果たしていました。

1日目は顔合わせと自己紹介、そして2手に分かれての活動。写真が好きで緘黙の本も出版しているエリさんのグループは写真撮影に、もう一つのグループは横並びで釣りに挑戦。が、無言の女性たちに男性たちはどうやって対応していいのか分からず、まだまだぎこちない雰囲気…。

4人という小グループ、「カメラ」という媒体を通じたコミュニケーション、「横並び」という位置関係――こういった作戦いいですね!

緘黙の人は直接顔を見ながらのコミュニケーションが苦手です。人に感情を見られるのが怖くて、自分の気持ちを顔に出せず無表情になってしまう…。反応が薄いため、相手はどうしていいか判らず、「自分とやり取りしたくないんだ」という誤解を与えがち。

ワンクッション置いたコミュニケーションからスタートすれば、安心できますよね。そこから徐々に慣れて、少しずつ顔を見ながらのコミュニケーションに移行できればいいと思います。

1日目の夜、夕食を囲んで和やかな雰囲気にと思いきや、女性たちはとても緊張した様子。緘黙児(人)は人前でものを食べることが苦手なことが多いんですが、症状がひどい場合は「会食恐怖症」(せせらぎメンタルクリニックのサイトで詳しく説明されていました eseragi-mentalclinic.com/deipnophobia/」)だと思います。

イギリスでは場面緘黙を恐怖症のひとつとして捉える考え方が主流になっていますが、会食恐怖症も恐怖症のひとつ。CBTのスモールステップで少しずつ克服していく方法は、場面緘黙の治療法と同じです。

1日目の夜、男性たちはエリさんの本を読むなどして、場面緘黙についてより深く理解します。翌日は、筆記、カメラを通じてなど様々なコミュニケーションを許容し、女性たちのアシスト役に。

写真が好きなエリさんは、自らの写真アルバムを皆に見せ、筆談のスピードも分量もアップ。1日目に自分から話せなくて輪の中に入れなかったマイさんは、「一緒に言おう」と協力してくれた男子のおかげで一歩を踏み出すことができました。ユリエさんとサナさんも自分なりのペースと工夫で参加。

2日目は水族館へ。ここでも二手に分かれて行動しましたが、魚という媒体を通してのコミュニケーションはかなり和んだいい雰囲気に。最後に一緒にピザを作って食べる過程も、前日よりスムーズでグループとしての一体感ができていました。女性たちを気遣う男性たちの目が、とても温かかったです。

1泊2日はちょっと短いかなという気がするので、彼らが今後も個人的なお付き合いをしていけたらいいですね。

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『バリバラ』を観て--身体的な緊張

身体的な緊張をほぐすには?

自己肯定感を培う

自己肯定感を培う

ふと気づけば、既に2月も半ば過ぎ。バレンタインデーももう終わってしまいましたね。

2018年の出だしは、受験生君がクリスマス休みからインフルで体調が悪く、赤信号のスタート。元々家で全く勉強しない/できないうえ、授業も休みがちになってしまいました。やっと治って通常運転になったと思ったら、2学期のハーフタームに突入。その間、確定申告や他の仕事が入って、気持ち的にアップアップ…。

ということで、前回の投稿からずいぶん時間が空いてしまいました。

さて、前回の続きです。緘黙のために身についてしまった無表情や身体の緊張を、まず家で改善できないか?――家では普通に話してるんだから、関係ないと思われるかもしれません。

でも、緘黙の人にとって、家は唯一普通の自分でいられる場所。いわば陣地です。身に着けてしまった自分を守る殻を、いきなり外で破るのはハードルが高いですよね。まず、陣地で「自分を認める」「自己肯定感を持つ」ことから始めるのがいいと思うんです。

まずは、自分を認めて好きになることから。「私は大丈夫」「なんとかなる」という基盤がないと、何をやっても不安がつきまといます。最近つくづく思うのですが、自分という存在がこの世に生を受け、今ここにいるってまさに奇跡。誰かに廻り遭うのもそうとうな奇跡ですよね。だから今ここにいる自分を大切にして欲しいです。

1) 自分に優しく

私には、自分は「すごく内向的」と宣言している友達がいるんですが、実は彼女の仕事は大勢の会社役員や大企業のビジネスマン・ウーマンを相手に講義したり、指導することなんです。自分の内向性と対峙するため、今までに様々なセラピーを試してきたそう。以前、SE(Somatic Experiencing ソマティック・エクスペアリエンシング 体細胞療法)について書いたのですが(『出生時のトラウマ体験と不安になりやすい気質』をご参照ください)、彼女がSEについて興味深いことを教えてくれました。

SEは主にトラウマの解消に効果的といわれていますが、彼女は「自己調勢力」を養うことを学んだそう。

「自己調勢力」というのは、簡単にいうと「心のバランスを調整する力」という感じでしょうか。例えば、落ち込んでいる時って気持ちがネガティブになりますよね?そういう時に、天気が悪いと余計に気分が落ち込んだり、家族のふとした言葉が気に障ったり…。すべてが自分に反するように感じて、負のスパイラルに陥りがちです。

(特に、不安の強い人は、悪い方へ、悪い方へと考えがちじゃないでしょうか?私自身その傾向があって、被害妄想気味でした)。

悩んでいる時に、何故こうなってしまったのか?どうして自分が?--などと嘆いたり、原因を追究するよりも、まず心を落ち着かせて、居心地をよくすることが大切だと。

少しでも気持ちを楽にするために、お気に入りの音楽をかけたり、好きな飲み物を作ったり。ペットの猫を抱っこしたり、好きなものに囲まれて、心の持ちようを変えてみるんだそうです。

滅入った気分はいつか自然に晴れますが、ただ待ってるだけでは先が見えません。誰かに慰めてもらいたくても、そういう時に限ってあまり声をかけてもらえないことが多いし…。というのも、内向的な人って自分自身の問題を人に打ち明けられない傾向が強いように思うんです。そういう点では、かなり損してますね。

「自分なんかダメだ」から、「なんとなく大丈夫かな」になれたら、問題を違う角度から見ることもできるはず。心が落ち着いていると視野も開けてくるし、チャンスが来た時にすぐ動けると思うんです。

2) いつもより積極的に

自分から家族に話しかけたり、いつもより長く話したり、家事を手伝ったりして、コミュニケーションを多くとりましょう。また、アプリや電話を使って声を出す練習をしてみてください(過去記事『声を出す練習を』を参照してください)

3) 大声で歌ってみる

おもいっきり大声で気持ちよく歌ってみましょう。大音量で音楽をかけられる状況だったら、一緒に歌っても恥ずかしくない?安心できる人(兄弟姉妹や親)と一緒にカラオケに行ってみるのも楽しいかも。

4) ひとりで外に出てみる

まずはコンビニやスーパーでの買い物など、外に出る機会を多く作りましょう。家族に声をかけて、一緒に外出してください。知り合いに遭遇することが怖いかもしれませんが、会釈できればOK。犬を飼っている方は、散歩係を引き受けてみては?少しずつ行動範囲を広げていくことで、自信がついて次のステップに進みやすくなると思います。

またとりとめのない文章になってしまいましたが、もう春がそこまで来ています。早春の花々の生命力を見て、感じて、パワーに変えたいですね。

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『バリバラ』を観て--身体的な緊張

身体的な緊張をほぐすには?

身体的な緊張をほぐすには?

NHK Eテレの『バリバラー場面緘黙編』を観た後、身体的な緊張をほぐすにはどうすればいいのか考えてみました。

緊張すると喉が閉まったような感じになって、体までいうことをきかなくなる…。そんな体験を重ねる毎に、話せず動けない自分が人にどう見られているかが怖くて、人と接する機会を避けるようになってしまう。

緘黙で苦しんでいる本人は、普通に人と接して話したい・友達を作りたいのに、ものすごく理不尽な状況ですよね…。

でも、事情を知らない人は、無言・無表情で身体を固くしている緘黙の人に、正直どう対処していいのか分からないんじゃないでしょうか?自分が受け入られていないように感じ、それこそ不安になって、そのシチュエーションを回避しようとするかもしれません。「この人は私と接したくないんだ」と誤解されることも多いかも…。

だからこそ、場面緘黙がもっと一般に広まって、もっともっと理解が深まることを願わずにはいられません。ひとりでも普通に接してくれる人が傍にいれば、周囲の見方や反応も変わってくるはず。

それにしても、緊張による無表情やぎこちない身体の動きを改善する方法ってないものでしょうか?

番組を観ていて、人と接する時の緊張度が低いほど、顔の表情やふるまいがより自然な感じになるのが判りました。人前で恥ずかしそうに黙っているのと、無表情でカチンコチンに固まっているのとでは、印象が随分違ってくると思うんですよね。

たとえ無言でも、「あの人感じいいな」と思ってもらえれば、相手の態度も違ってくるんじゃないでしょうか?

緘黙のために身についてしまった無表情と身体の緊張を、なんとか家で改善する方法はないものかと、色々探していたところ、次のような動画に巡りあいました。

ご存知かもしれませんが、大愚元勝という和尚さんの人生相談です。

ひとつめは、ほぼ引きこもりでニートの女性へのアドバイス。

話すことだけがコミュニケーションではなく、ボディランゲージ、絵を描くこと、歌うことなど様々な表現方法があるという言葉に、ハッとさせられます。

また、できないこと・持っていないものばかり追うのでなく、今できること・持っているものを磨くことを提案しています。

うまく話せなくても、素敵な笑顔があれば、思いやりのある手紙が書けばそれでいいと。処方箋として、鏡の前で笑う練習をすること(動画の10分あたりから)をあげています。

実は、私もこれを実行していた時期がありました。

息子が赤ちゃんだった頃、夜泣きが酷くていつも機嫌が悪く、母親の私の方が相当参ってました。睡眠不足で疲れはててしまい、一日を乗り切るのが精いっぱい。当時は、めっちゃ暗い顔をしていたと思います。

相談した保健婦さんのアドバイスは、「息子さんはちゃんと育ってるし、こんなに可愛いじゃない?あなたはよくやってるわよ。毎日鏡を見て、にっこり笑って自分に『頑張ってるね』って言ってあげて」というもの。

で、実際にやってみたら、ほんのりと暖かい気持ちになれたような…(息子の夜泣きは睡眠スペシャリストに相談したり、専門書を読んで、なんとか解消)。自己暗示かもしれませんが、一定の効果があったと思ってます。

気休めかもしれないし、何も変わらないかもしれませんが、気は持ちよう。まず試してみては?大愚和尚は、特に「女の子は」と言ってますが、男の子も是非試してみてください。

ふたつめは、何もしていないのにイライラのはけ口にされるという30歳の女性へのアドバイス

緘黙の人と状況は違うのですが、毎日5分正座をすることによって、身体を変える(22分あたりから)ことを提案しています。

私は昨年からピラテスを始めたんですが、やっているうちに姿勢が良くなったように感じています。みなさん若いんだから、試してみる価値大ありです。

みっつめは、精神的な多汗症に悩む18歳の男子高校生へのアドバイス

こちらも状況は全く違いますが、その元凶は不安です。自分の身体に起こることのしくみ(なぜ緘黙状態になるのか)を理解し、緊張した時にはそのことを考えるのではなく、何か別のことに集中することが問題の解決になるのではと説明しています(15分あたりから)。

大愚和尚さんの言葉、とても愛情がこもっていると思います。話だけでも聞いてみてください。

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『バリバラ』を観て--身体的な緊張

『バリバラ』を観て――身体的な緊張

明けましておめでとうございます。

えっ、もう2018年になっちゃったのか~という感じで始まった新年、もう6日目に入り、今日はクリスマス飾りをかたづけました。

そして、仲間の好意で昨年10月に放送されたNHK Eテレの『バリバラー場面緘黙編』を観ることができました。

10~20歳代の、いわば大人(ひとりは学生)の当事者さんと経験者さん計4名が出演。番組では長期間緘黙で苦しんだ・苦しんでいる人の問題が浮き彫りにされたように感じました。

私の印象に残ったのは、「話せないこと」よりも、身体的な緊張です。

不安や緊張を隠すため(?)に長年身に着いてしまった無表情な顔、そして委縮した身体の不自然な動き…。

無表情だから、困っていてもあまり困ったように見えない…。手足や体の動きがぎこちなくて、話さないことよりもそれ自体が目立つような…。

緘黙のせいで「話せない」だけでなく、他人と接する場面で身体が思うように動かなくなってしまう――そのため外出したり、誰かと会うこと自体が怖くなり、家の外に出ること自体を避けるようになってしまう…。社会生活と直結しているだけに、ものすごく深刻です。

出演したのは、母親と祖母としか話せない加藤さん(男性)、小学校時代に緘黙で今も雑談が苦手な田中さん(女性)、学校ではほとんど話せないほのっぴさん(女性)、外ではほとんど話せない遠藤さん(女性)。

学校や外でほとんど話せないのに、明るいライトに照らされたスタジオで、大勢の人の視線を浴びながら自己紹介?!

と思いきや、ほのっぴさんも遠藤さんも、少し時間はかかりましたが声を出すことができて大感動!

みんなが固唾をのんで見守る中、ものすごい勇気だなと思いました。

きっと、出演者たちの中で「変わりたい!話せるようになりたい!」という気持ちがめっちゃ強かったんだろうなと…。

自己紹介したとき、司会者たちの方を見られたのは、緘黙経験者の田中さんだけでした。

番組冒頭で普段の様子を取材された加藤さんは、音声アプリを使用。無理に声を絞り出そうとはせず、自分が「これなら出来る」と安心できる方法でコミュニケーションしました。

彼は新聞配達の仕事や講演会などの啓蒙活動もしていて、チャレンジ精神がすごいです。まず自分ができそうなことから始めて、行動を広げてきたようですが、そこでは得意のケン玉が大いに役立っているとのこと。やはり好きなこと・得意なことがあると強いですね。「好き」「やりたい」というエネルギーが、緘黙の殻を破る力につながるんだと思います。

専門家の高木先生が言われるように、同じ場面緘黙でもひとりひとり本当に違います。「この人ができるから私も、うちの子も」という訳にはいきません。

声を出せそうな人は音声アプリに頼らない方がいいと思うのですが、音声アプリで自信を得てから、声を出すことに挑戦という人もいるでしょう。信頼できる人に協力してもらい、自分の緘黙・不安状態をしっかり把握することが大切だと改めて思いました。そのうえで、その人に合う方法で少しずつステップアップしていくのが一番かと。

加藤さんの場合は、自宅でも、勤務先の新聞販売所でも、スタジオでも、カメラの前では笑顔は見られませんでした。小学低学年までは話せたそうですが、緘黙になった当時は朝自分の席に座ったら、トイレも行けず、給食も食べられず、一日中ずーっとそのままの姿勢で過ごしたとか…。完全な緘動状態で、毎日緊張でヘトヘトだったのでは?

小学校高学年になると自意識が強くなり、他人の目が気になります。「みんなに変に思われる」と余計に緊張しがち。そのため、緘黙・感動状態が定着する傾向が強くなってしまうのです。

彼の中で、人に声を聴かれることと同じように、感情を外に出すことが一番怖いのかもしれません。母親と二人きりで会話しているシーンでは、言葉が普通にでるだけでなく、身体の動きもずっと自然です。そこに取材スタッフが入ると、すっかり固まって手や腕の動きまでぎこちなくなる…。

そんな彼が、新聞配達の仕事を3年間続けて周囲の信頼を得、講演会や啓蒙活動を通して大勢の人と接しているのは、本当にすごいと思います。

ところで、新聞販売店の所長の「加藤君は大事な戦力」という言葉――本人はもちろん、緘黙の人やその保護者たちにも本当に希望が持てて嬉しいですよね。

どんどん自信をつけて、緘黙克服の力をため込んで欲しいです。

一方、ひとりでの買い物に挑戦した遠藤さんは、自宅で母親が隣にいる状態だと、緊張もそれほど強くないよう。言葉も出やすく、表情も和らいで笑顔に近い…。話すとき、スタッフと視線を合わせているな、というのが判ります。

買い物チャレンジでは、すっとお店に入って店員に会釈も。ただ、事前の分析で緊張レベル2(ふつう)と思っていた「服を選ぶ」行為が、実際やってみたら最難関のレベル5だということが判明。でも、スタッフの所にきて首振りでやり取りしている遠藤さんの緊張度はそれほど高くないように見えました。

急遽、服を決めることだけ母親と一緒にしたのですが、母娘で歩いている時はほっとして嬉しそう。服を決めた時言葉が出て、ひとりで試着した後に店員さんに笑顔で「大丈夫です」と言えました。

新しい洋服、とっても似合ってましたね。

気に入った洋服を手に入れるというワクワク感が、不安に勝ったように見えました。これからも、ひとりでお買い物したり、カフェに入ったりする挑戦をどんどん繰り返してステップアップして欲しいです。もし不安が強い場合は、最初だけお母さんにお店の外で待っててもらったり、店の近くにいてもらえばいいんじゃないかな。

和らいだ表情だと、周りの人も親しみが持てて、とっつき易いですよね。

次回は、どうやったら身体的な緊張をほぐせるか考えてみたいと思います。

サキ君の動画について(その5)-緘黙とエクスポージャー法-

サキ君は緘黙を克服するにあたり、まず心理士に会いに行きました(動画の7:42分あたりから)。緘黙を克服するために、専門家のアドバイスを求めたんですね。

場面緘黙の克服には、認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)が効果的といわれています。特に、CBTのひとつであるエクスポージャー法(暴露療法 exposure)を用いるのが一般的。緘黙を恐怖症と捉えると、恐怖症の改善に有効なエクスポージャー法を用いるのは、理にかなっています。

イギリスの国民保健サービス、NHSのサイトでは、エクスポージャー法を次のように説明しています。

エクスポージャー法は、秩序だった体系的なアプローチによって、不安を引き起こすものや状況に向き合うことを学んでいく方法。不安を感じるものや状況をリストアップして順番をつけ、最初は不安度の低いもの・状況から始め、不安度が下がるまで何度かリピートしたら、順番に難度をあげていく。

認知行動療法という名前をきくと、何やら難しげ…。やはり心理士とのセッションが必須なのかなと思ってしまいます。でも、実は多くの人が取り組んでいるスモールステップこそが、エクスポージャー法なんです。素人でも理論とやり方さえ把握すれば、自己流でどんどんエクスポージャー法を実践していけると思います(ただし、他に何らかの問題を抱えている場合は専門家に相談する必要がありますが)。

病院やクリニックで心理士と信頼を築き、指導してもらうのもひとつの手段だと思いますが、場面緘黙が起こる現場は学校。学校で話せるようにするには、やはり学校内でのエクスポージャーが必要になってきます。伴走者として専門家のバックアップがあれば心強いですが、子どもの全体像を一番把握している保護者が、教師と協力してその子に合うステップを考え、実行できればベストなんじゃないでしょうか。ちなみに、イギリスでは緘黙治療を担うのは、言語療法士やTA(教育補助員)が中心です。

サキ君も心理士のアドバイスを元に、「自分に合う」エクスポージャー法を編み出しています。彼の場合は、まず普段より多く両親と話すことからスタート。日常的に話していても、自分から話しかけたり、その日の出来事について色々喋るのは苦手だったようです。その苦手を少しずつ克服することで、街に出て見知らぬ人に話しかける勇気が出てきたんじゃないでしょうか。学校内での取り組みは、いくつかの段階をクリアしてからの最終段階。最初は場所と人を設定しておいて「”ハイ”とひと言だけ声をかける」という小さな挑戦からスタートしたのが、成功の秘訣だったのではと思います。

息子の場合は、お店で好きな品をひとつ買って自分でお金を払うことから始め、「ありがとう」と言えるまでをスモールステップで練習しました。ちょっと遠くの大きなスーパーからスタートし、徐々に近所の小さなお店に移行。当時大流行していた『Dr Who』のカードを手に入れるため、かなり頑張れたと思います。楽しみがあると、子どもも抵抗なく挑戦できそう。

ひとつ注意したいのは、緘黙児には抑制的な気質の子が多いので、少し間が空くと元に戻ってしまう可能性があること。せっかく学校で進歩したのに、長い休みの間にできなくなってしまったケースも…。頻繁にステップを繰り返していると、自発的に挑戦できるようになってくるので、そこまでしっかり続けてください。

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明けましておめでとうございます

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