CBTってどうやるの?(その2)

もう5月の前半が終わってしまいましたね。今年もGWに再度の緊急事態宣言が出てしまい、例年通りという訳にはいかなかった方も多いかと思います。イギリスでは、今月17日から室内での食事やジムでのクラス参加が可能となる予定です。

      ブルーベルの青い絨毯は英国の風物詩のひとつ。野生のアネモネが満開のハイゲートの森にて

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前回の記事で、車の運転に対する不安を下げるために私が踏んだスモールステップをご紹介しました。「これだったら私もやってる」と思われた方も多いのでは?

不安や緊張しやすい人(抑制的な気質の人?)でなくても、たいていの大人は心配や不安、苦手・嫌なことに対して、自分なりの対処法を身に着けているはず。

ただ、人によって何をするか、どの程度の時間がかかるかはまちまちですよね?また、状況によって不安度や対処法も変わってくるでしょう。これは子どもでも同じことです。

同じ緘黙児でも、ひとりひとり性格も感じ方もおかれた環境も異なります。また、年齢や緘黙症状の程度・期間、話せる相手や場所なども千差万別。緘黙という問題に直面している子どもには、伴走者の大人が辛抱強く見守りながら、段階的なエクスポージャー法を実行していくことが必要です。

イギリスでは、治療を請け負うのがSLT(言語療法士)であれ、CBTセラピストであれ、メインの治療は緘黙が起こっている場、学校で行われます。不安や恐怖を感じて緘黙になる場所で、本人が少しずつ不安を克服していかなければなりません。

多くの専門家は学校やSENCOと連携し(NHS国民健康保険制度で学校と医療が繋がっています)、学校における支援体制やスモールステップを提案していきます。

でも、初期に専門家が学校に出向くことはあるものの、学校で継続的な治療を行うことはごく稀。結局のところ、スモールステップを推し進めていくのは毎日学校で子どもと接するTAや担任、SENCOなのです。

まず保護者が学校に行き、子どもの発話を助け、徐々に話せる人の輪を広げていく療法(スライディングイン法)に関わることも少なくありません。多くの学校は予算・スタッフ不足のため、保護者が支援チームの中心となるケースも多いのです。

スモールステップの伴走者は、子どもの自立心を促していく上でもTAなど子どもが信頼できる第三者の大人が理想的といえます。でも、それがかなわない場合は、子どもの第一の理解者である保護者に勝る人はいません。

学校でも親のそばでなら声が出る、二人だけなら話せる子が多いのも利点。子どもの性格や、どこまで押しても大丈夫かなどが解っているからこそ、より綿密で子どもに合う計画やステップを考えたり、修正したりできるはずです。

特に、ステップが上手くいかなかった時、進歩が停滞してしまった時に、子どもの様子や気持ちを汲み取ることができるのが保護者だと思います。

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エクスポージャー療法とは?

恐怖や不安の原因になる刺激や状況に段階的にあえてさらすことで不安反応を消していく方法。主に恐怖症や不安障害などに用いられる行動療法のひとつ。

心理用法で「行動療法」とよばれる治療法のひとつです。何らかの恐怖や不安が原因となって不適切な反応(異常な恐怖心など)が出ている状態を改善するために用いられます。

患者の不適切な反応の原因となっている刺激や状態に、患者は段階的に直面していきます。直面する方法は、大きくふたつに分けることができます。イメージを用いて行うものと、現実場面を用いて行うものです。患者は、それらの刺激に向き合うことで、刺激に慣れ、不適切な反応を示さなくなります。

厚生労働省  生活習慣病予防のための健康情報サイトより

また前置きが長くなってしまいました…。次回こそ、スモールステップの目標の定め方、実行する時の注意点などに触れたいと思います。

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CBTってどうやるの?(その1)

緘黙児とオンライン学習

早いもので12月もすでに9日!イギリスでは先週火曜日に全国的なロックダウンが終わりましたが、ほとんどの地区は警戒レベル2「高い」か3「非常に高い」に逆戻り。店舗やジム、美容室などは再開したものの、個人宅に人を招くことは禁止されています。

それでも、政府は一年最大の祝日であるクリスマスには、5日間限定で個人宅に3家族まで集まることを許可しました。クリスマスショッピング(食料品、贈り物、デコレーション他)で経済が潤い、国民は家族との再会を楽しめる――政府への反発は弱まるかもですが、その後の感染拡大が今から心配。

明るい話題としては、アメリカとドイツの製薬会社が開発したファイザー社のコロナワクチン接種が昨日からスタート。2回の接種が必要なので、効果が出るのは来年の1月5日以降ということですが…。

実は、昨日勤めている特別支援学校が、なんとコロナ感染のため閉鎖となりました!幸いにも、私は濃厚接触者ではなかったので自己隔離は必要なしですが、あまりにも身近!! 授業がリモートに切り替わったので、準備に追われています。

      学校近くの住宅街で見つけた街路樹の根元に広がるアートワールド。先週からクリスマスモードに。アイビーちゃんとノア君のママが美術監督です

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昨日、SMiRAのFBにオンライン学習で緘黙児の不安と緊張がより高くなったという投稿がありました。対面クラスの方が緊張するはずなのに、どうしてなのか悩んでいるという母親。この相談に対して、色々な回答や意見があったのでご紹介します。

ちなみに、娘さんは3歳の時に場面緘黙になり、現在15歳とのこと。

昔から、ビデオを撮って祖父母に見せるのは平気だったし、自らの映像をYouTubeに投稿して楽しんでいたよう。それが、今では写真もビデオも撮影はNGに…。

普段の授業では、100%正解でなければ絶対に答えないため、クラスで声を出す機会は少なかったといいます。その場合も、先生が指名する前に合図を送り、OKだったら指名するというサポート体制ができていたよう。

それが、オンライン授業だと体が硬直してしまい、無表情になり、質問されても全く答えられない状態に。そのうえ、頻繁にパニック状態が出るようになったとのこと。

「何か変なことを言ったらどうしよう?!」

「間違えたらどうしよう?!」

「みんなが笑うわ!ビデオに映ってるのよ!」

こう訴える娘に、母親は胸が張り裂けそうだといいます。

どうしてこんなに自己評価が低いのか?自分が皆にどう見られているのか、笑われているのではないか--そんな不安に苛まれているのは、前の学校で虐めにあったのが原因ではないか、と推測も。

一番安心できる自宅で行うビデオ通信での間接的なコミュニケーションと、不安が大きい学校での対面の直接的なコミュニケーション――前者の方が緊張が高くなるのはどうしてなのか? 学校では、時間割やルーティンが決まっているから予測がつけやすいから?

多くの回答の中で最も納得できたのは、PCのカメラの焦点が自分だけに当たっているから、という指摘でした。

教室では時々先生には見られていても、他の生徒に見られているという感覚は少ないかもしれません(イギリスの学校はグループで座ることが多いですが)。教室の方が、大勢の中のひとりとして隠れやすいのかも。

本人の画面上は、先生をメインに他の生徒達の顔が無数にこちらを向いている訳で――みんなに凝視されてるかのようにも感じるかも。

また、自分の顔が常に皆の画面上にあって、話す時には注視されると考えると、目立つことを嫌う緘黙児が嫌がるのも無理はありません。

緘黙児には自意識過剰な子も多く、一度怖いと感じると、どんどん不安が増大してしまうのではないでしょうか?

回答をみると、オンライン授業が苦手な緘黙児は少なくないようです(反対に、得意な子もいると思いますが)。その対処法としてあげられたのは、自分の姿や自分の声を隠せるミュート機能を活用すること。

事前に先生と打ち合わせをして、文字のみの参加から可能にしてもらうなど、それぞれの子どもに合う方法を取れるといいと思います。慣れてきたら、最初は文字だけで参加して、最後の挨拶だけ顔を出すなど、少しずつステップアップしていければ。

そういえば、私の学校の日本語の生徒達(高機能ASDのティーン)も、過半数は顔を隠して(アイコンのみ表示)オンライン授業を受けています。最初の挨拶の後は、画面をシェアして音読やQ&A方式ですすめているので、顔が見えなくても支障はありません(実は、私自身もできれば顔出ししたくないです…(;^_^

いずれにせよ、不安が少ない状態でオンライン授業に臨めることが一番ですね。

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オンラインで緘黙支援

時間があくと増す不安

毎日快晴の初夏の気候が続いているイギリス。3月末のロックダウン開始から現在まで、雨や曇りの日は数えるほどしかありませんでした。実は、1929年に気象庁がデータを記録し始めて以来、この春は最も晴れの日が多かったのだとか。

学校はハーフタームの1週間休み中だし、あまりにも天気がいいので、昨日ハイゲートの森まで友達に会いに出かけました。車を運転したのも、彼女に会ったのも、ロックダウンを経て2か月ぶりのこと。

   

    木陰が多くて涼やかなクィーンズ&ハイゲートウッド。でも、みんな社会的距離なんて保ってないし、マスクしてる人はごく僅か…

実は、久々に車に乗るのが怖くて、決行をずるずる引き延ばしていたのです。

2週間前にはイングランド内の車での移動が解禁になり、ガーデンセンターが真っ先にオープン(イギリスならではですね)。車で20分ほどの距離にある地元のガーデンセンターにめっちゃ行きたかったんですが…。我が家の古~い愛車、ロックダウン前に故障して修理に出したところ、「あと1年くらいで寿命かな」とダメ出しが。

もともと車の運転・駐車が下手という苦手意識があって、家の周囲6キロ程度しか運転しない(できないと思っている)私…。

2か月乗ってないけど、ちゃんと運転・駐車できるのか。

途中で故障したらどうしよう。

ガーデンセンターの駐車場がいっぱいで、うまくナビゲートできなかったらどうしよう。

そんな不安が渦巻いて、運転する勇気がなかなか出ませんでした。

昨日エイヤっと乗ってみたら、「なーんだ。何で心配してたんだろう」と、不安はあっけなく消失。

こんな風に心配症で不安になりやすい私の気質を、元緘黙の息子はもっと強力に受け継いで生まれてきた訳ですが…。長い休みの後、緘黙児が学校に行くのを怖がる気持ちが、とてもよく解るような気がしました。

苦手意識があると、それまで普通にできていたことでさえ、できないような気がしてくる。

自信や自己評価があっけなく低下してしまう。

まずは、勇気を出して一歩を踏み出すこと。それを回避していると、ますます不安が大きくなってしまいます。回避することで不安は下がりますが、避ければ避けるほど恐怖が増します。

子どもの不安を低減させるためには、子ども自身が「なーんだ、大丈夫だった」「できた」と自分で体験するしかありません。不安と少しずつ向き合い、慣れていくことでしか克服できないのです。保護者、教師、セラピストなどの伴走者はその手助けしかできません。

息子の場合は、困難に直面する場面を色々想像してしまい、事前に不安が膨らんで「やりたくない」「できない」と思い込んでしまうパターンでした。でも、いざその場面に直面してみたら、思ったほど緊張しなかったということが多かったです。

「学校に行くのが怖い」という子には、事前に何度か通学路を歩いてみたり、クラスメイトの話をしたりするといいかもしれません。ロックダウンの間に、オンライン授業に参加できていたか、仲の良い友達と繋がっていられたかも重要ですね。

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さて、イギリス政府はロックダウン解除の第二弾として、6月1日から6人のグループが集まることを許可。戸外(個人宅の庭を含む)で社会的距離を保ちながら会うという前提で、バーベキューやパーティもOKとなりました。

でも、昨日(5月29日)の感染者数は2095人、死者数は377人と、まだまだ規制を緩めてもいい数字ではない?! 何故緩めるのか??

どうやら政府は科学者たちの「まだ早すぎる」というアドバイスを無視して、経済復興のために解除を進めているよう…。危険な賭けだと思います。

大通りや公園ではカフェやレストランが営業を始めましたが、スタッフはマスクも手袋もしてない!政府のガイダンスでは頻繁に手洗いすればOKということですが、怖すぎ!最近は、スーパーなどでもマスクと手袋着用率が低下している状態で、大きな第二波が来てもおかしくありません…。

先週末、ジョンソン首相の主任顧問アドバイザー、ドミニク・カミングス氏が、自ら作ったロックダウンの規則を破ったのではという疑惑がさく裂。国民の怒りを反映して大臣がひとり辞任し、保守党の国会議員40人が彼の辞任を迫りましたが、官邸の庇護のもと、うやむやにもみ消されそうです…。

どうしてイギリスは世界でも最悪の感染被害国になってしまったのか、国民の政府に対する信頼は崩れつつあるような。

昨日から「テスト&トレース」作戦が始まり、25000人のトレーサーを雇用して、PCR検査をした人の濃厚接触者を探り出し、警告していくとのこと。陽性だったら、本人は1週間、濃厚接触者は2週間の外出禁止です。でも、どこで誰と接触したか、知人の他は判らなさそう。携帯電話のAppはまだ実験中だし、見切り発車じゃないかと思うんですが…。

とにかく、大きな第二波が来ないよう祈るばかりです。みなさんもどうぞお気を付けて。

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英国のロックダウンは続く

英国のロックダウンは続く(その2)

英国のロックダウンは続く(その3)

英国のロックダウンは続く(その4)

英国のロックダウンは続く(その5)

ロックダウン解除へ第一歩

緘黙児とロックダウン

息子の緘黙・幼児期5~6歳(その5) 学校外でのスモールステップ

イギリスの秋はどんどん深まってきました。今年もあと2か月半で終わりかと思うと、時間が過ぎるのが本当に早いです。

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Cちゃんの誕生会に行ってから、学校外で随分人目を気にするようになり、緘黙が悪化してしまった息子(詳しくは『息子の緘黙・幼児期4~5歳(その24)』をご参照ください)。

それまでは割と平気だった、学校外での社会的場面――買い物、外食、公共交通機関での移動など――を嫌がるようになりました。周囲をすごく意識するようになったのです。緘黙だけでなく、対人恐怖症というか社会不安も一挙に増大。

学校の支援のお陰で少~しずつ改善しつつあると思えた対人関係も、一気にどん底に…。

う~ん、どうやったら元の基準にまで戻せるものか…。ここでも、やはりスモールステップで場に慣れさせるCBT(認知行動療法)を試みました。

この時に役立ったのが日本でもお馴染みになったIKEAのカフェでした。その利点は、

  • 家から離れていて、知り合いに会う確率が0に近い
  • 大好きなミートボールが食べられる
  • 自分で好きな席を選べる
  • 周囲がガヤガヤしている

最初は嫌がっても、好きなものを食べている時は、食事に集中して周囲の目を気にしなくなりました。回を重ねる毎に、誰も見ていないことを徐々に実感できたよう。

バスや地下鉄にも頻繁に乗るようにしました。その時に息子が安心できるよう注意したのは、

  • 最初は知り合いに会わないよう、ちょっと遠くで練習してから徐々に近所へ
  • あまり混んでいない時間帯に利用
  • バスでは息子が窓側に、私が通路側に座るようにする
  • 声かけ「大丈夫」「怖くないよ」「よくできたね」を忘れずに

スーパーや息子の欲しいものがある玩具屋/文具店での買い物作戦も有効でした。注意点は、

  • まずは学校から離れたお店で
  • 好きなものをひとつ選ばせる
  • 嫌がらなかったら、レジまで持って行かせる
  • 様子を見ながら自分でお金を払わせる
  • 声かけを忘れずに
  • (全部クリアできたら、私の声に合わせて「ありがとう」と言わせてみる)

上記のようなスモールステップで、少しずつ少しずつ恐怖症が治っていったように思います。長い道のりですが、諦めずに根気よく。注意すべきは、緘黙児は間が空くと元に戻ってしまう習性があること。なるべく頻繁に行う必要があります。

私が実践したスモールステップは、息子ができそうなことを選んで、自分で考案したもの。緘黙児はひとりひとり違うので、その子に合うスモールステップを組み立ててください。自分の子を一番良く理解しているのは保護者だと思うので、プロに頼まなくても大丈夫です。

そして、ひとつできたら次はもう少し高めのステップにチャレンジさせます。できなかったら、ステップをもっと細かく修正して再チャレンジ。

常にできそうなステップを準備して、少しずつ自信をつけさせることが重要です。失敗して後退してしまうこともあるかと思いますが、その時はその時。怖がらずに親子でチャレンジしましょう!

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息子の緘黙・幼児期5~6歳(その2)社会的な機会を増やす

息子の緘黙・幼児期5~6歳(その3)1年生に進学

息子の緘黙・幼児期5~6歳(その4)先生が僕を喋らせようとする

スモールステップで自信をつける

7月も中旬を過ぎ、そろそろ3学期が終わって夏休みに入る時期です。私が行っている特別支援校(フリースクール)では、先週の金曜日が終業式でした。日本語を教えている子(ここではS君とします)は、社会不安が強く集団や集団行動が苦手。外出やショッピングを好まないと聞いていますが、1対1だとおしゃべりで人懐っこく、授業では何の問題もありません。でも、抑制的な気質を持っているのは明確で、息子に似たところも多いのです。

今学期の目標のひとつは、最後の授業で日本のスーパーに行き、習った日本語を使ってみることでした。そのことは学期の初めに説明してあって、ここ2週間ほど買い物に必要な初級の会話を練習してきたんです。S君の素振りや態度からは、お店に行くことへの不安は全く感じられませんでした。

が、当日になって、いきなりシャットダウンモードに…。最初に会話のおさらいをしたところまでは平気だったのに、いざ出発という段階になって、突然机に顔を伏せてしまったのです。

今まで少し塞ぎこむことはあっても、体を動かしたりゲームをしたりすることで気分を切り替え、授業が終わる頃には上向きになっていました。でも、こんな状態は初めて…。どうしようかなと思いつつ、「話したくなければ話さなくてもいいから、お店まで行ってみよう」と何とか説得。一緒に学校を出ることに成功しました。

歩きながらずっと下を向いていたものの、S君が私を拒否している様子はありません。さりげなく何が嫌なのか訊いてみたところ、「お店に入るのが苦手」、「店員と向き合うのがイヤ」とのこと。

少しずつ練習すれば慣れることができると話し、近くの大型スーパーに自分で支払えるセルフチェックアウトがあるのを思い出して、「まず、そこで練習してみる?」と訊ねてみました。が、答えは「No」。とにかく、日本のスーパーまで行ってみることにしました。

途中、ふと思いついて、マギー・ジョンソンさんの『年齢が上の子の支援』の記事に出てきたサキ君のことを話してみたのです。学校で声を出すのが怖くて9年間ずーっと沈黙していた15歳のサキ君。彼が一大決心して、学校で話し始めようと決めた際、まず最初にしたのは小さな成功体験を積み重ねて自信をつけることだったと。それほど怖くないことから始めて、少しずつ少しずつ怖いと思う状況に慣れていき、「できる」と自分で思えた時に、一番怖かった「学校で話す」ことにスモールステップで挑戦し始めたことを手短に話しました。

S君は何も言わずに私の話を聞いていました。その後、S君が好きな食べものや日本のスーパーで何を買いたいかなど、会話しながら目的地へ。S君のボディランゲージは徐々にリラックスしてきたようでした。

が、目的地についた途端、顔がこわばって体が硬くなったのが判り、彼の緊張が伝わってきました。お店に入って、まず「お菓子はどこですか?」と店員さんに質問する予定だったのですが、そんなの無理。お菓子のコーナーに連れて行って、英語で説明しながら「これはどう?」と色々訊きましたが、首を横にふるばかり…。緊張を和らげようと、お店をぐるっと周りながら私も買い物を始めました。

ドリンクのコーナーに来た時です。S君の視線がファンタグレープに釘付けに!「これイギリスでは売ってないんだ。2本買う」とすぐ手を伸ばしました。一緒にレジ近くまで行き、私は「麦茶を買ってくるね~」と言って外へ。その時、背後で突然「オハヨウゴザイマス」というS君の声が聞こえました!!

午後だったし、練習では「こんにちは」だったのですが、そんなこと問題じゃないですよね。「ヤッター!」と思いつつ麦茶を持って中に入ると、支払いを終えたS君はささっと外に出て行きました。店員さんにこっそり「今の男の子、何を言いました?」とチェック。他には「アリガトウ」ぐらいだった模様。

帰り道、S君は緊張が溶けたのかものすごく饒舌になりました。「日本語で言えたね!」と褒めると、すごく嬉しそうにどんなに緊張してたか話してくれました。きっとサキ君に負けたくないという気持ちもあったんでしょう…。

来る途中でミカンが好きなのを発見したので、学校に帰る前に八百屋さんにも寄ってミカンを選んでもらい、代金を渡して払ってもらいました。店を出ようとしたら、目の前で商品が床に落ちるというハプニングが…。S君はさっと商品を拾って「はい、どうぞ」と店員さんに渡し、お礼を言われてました。

その時点ではショップに入るのが苦手な子には全く見えず、学校を出る前のあの拒否反応は一体何だったのかという位の変わりようにビックリ。成功体験を重ねて、自信がついたんですね。

2013年からDSM(アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)で場面緘黙が不安障害のひとつと定義されましたが、本当にそうだなと思いました。これからお店に行ったり、買い物したりという経験をしない時期が長くなると、きっとまた不安がムクムクと頭をもたげてくるんでしょう。とにかく、成功体験を積み重ねることが大事。S君には、夏休み中もいっぱい外出して色々な体験をして欲しいなと願っています。