時間があくと増す不安

毎日快晴の初夏の気候が続いているイギリス。3月末のロックダウン開始から現在まで、雨や曇りの日は数えるほどしかありませんでした。実は、1929年に気象庁がデータを記録し始めて以来、この春は最も晴れの日が多かったのだとか。

学校はハーフタームの1週間休み中だし、あまりにも天気がいいので、昨日ハイゲートの森まで友達に会いに出かけました。車を運転したのも、彼女に会ったのも、ロックダウンを経て2か月ぶりのこと。

   

    木陰が多くて涼やかなクィーンズ&ハイゲートウッド。でも、みんな社会的距離なんて保ってないし、マスクしてる人はごく僅か…

実は、久々に車に乗るのが怖くて、決行をずるずる引き延ばしていたのです。

2週間前にはイングランド内の車での移動が解禁になり、ガーデンセンターが真っ先にオープン(イギリスならではですね)。車で20分ほどの距離にある地元のガーデンセンターにめっちゃ行きたかったんですが…。我が家の古~い愛車、ロックダウン前に故障して修理に出したところ、「あと1年くらいで寿命かな」とダメ出しが。

もともと車の運転・駐車が下手という苦手意識があって、家の周囲6キロ程度しか運転しない(できないと思っている)私…。

2か月乗ってないけど、ちゃんと運転・駐車できるのか。

途中で故障したらどうしよう。

ガーデンセンターの駐車場がいっぱいで、うまくナビゲートできなかったらどうしよう。

そんな不安が渦巻いて、運転する勇気がなかなか出ませんでした。

昨日エイヤっと乗ってみたら、「なーんだ。何で心配してたんだろう」と、不安はあっけなく消失。

こんな風に心配症で不安になりやすい私の気質を、元緘黙の息子はもっと強力に受け継いで生まれてきた訳ですが…。長い休みの後、緘黙児が学校に行くのを怖がる気持ちが、とてもよく解るような気がしました。

苦手意識があると、それまで普通にできていたことでさえ、できないような気がしてくる。

自信や自己評価があっけなく低下してしまう。

まずは、勇気を出して一歩を踏み出すこと。それを回避していると、ますます不安が大きくなってしまいます。回避することで不安は下がりますが、避ければ避けるほど恐怖が増します。

子どもの不安を低減させるためには、子ども自身が「なーんだ、大丈夫だった」「できた」と自分で体験するしかありません。不安と少しずつ向き合い、慣れていくことでしか克服できないのです。保護者、教師、セラピストなどの伴走者はその手助けしかできません。

息子の場合は、困難に直面する場面を色々想像してしまい、事前に不安が膨らんで「やりたくない」「できない」と思い込んでしまうパターンでした。でも、いざその場面に直面してみたら、思ったほど緊張しなかったということが多かったです。

「学校に行くのが怖い」という子には、事前に何度か通学路を歩いてみたり、クラスメイトの話をしたりするといいかもしれません。ロックダウンの間に、オンライン授業に参加できていたか、仲の良い友達と繋がっていられたかも重要ですね。

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さて、イギリス政府はロックダウン解除の第二弾として、6月1日から6人のグループが集まることを許可。戸外(個人宅の庭を含む)で社会的距離を保ちながら会うという前提で、バーベキューやパーティもOKとなりました。

でも、昨日(5月29日)の感染者数は2095人、死者数は377人と、まだまだ規制を緩めてもいい数字ではない?! 何故緩めるのか??

どうやら政府は科学者たちの「まだ早すぎる」というアドバイスを無視して、経済復興のために解除を進めているよう…。危険な賭けだと思います。

大通りや公園ではカフェやレストランが営業を始めましたが、スタッフはマスクも手袋もしてない!政府のガイダンスでは頻繁に手洗いすればOKということですが、怖すぎ!最近は、スーパーなどでもマスクと手袋着用率が低下している状態で、大きな第二波が来てもおかしくありません…。

先週末、ジョンソン首相の主任顧問アドバイザー、ドミニク・カミングス氏が、自ら作ったロックダウンの規則を破ったのではという疑惑がさく裂。国民の怒りを反映して大臣がひとり辞任し、保守党の国会議員40人が彼の辞任を迫りましたが、官邸の庇護のもと、うやむやにもみ消されそうです…。

どうしてイギリスは世界でも最悪の感染被害国になってしまったのか、国民の政府に対する信頼は崩れつつあるような。

昨日から「テスト&トレース」作戦が始まり、25000人のトレーサーを雇用して、PCR検査をした人の濃厚接触者を探り出し、警告していくとのこと。陽性だったら、本人は1週間、濃厚接触者は2週間の外出禁止です。でも、どこで誰と接触したか、知人の他は判らなさそう。携帯電話のAppはまだ実験中だし、見切り発車じゃないかと思うんですが…。

とにかく、大きな第二波が来ないよう祈るばかりです。みなさんもどうぞお気を付けて。

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英国のロックダウンは続く

英国のロックダウンは続く(その2)

英国のロックダウンは続く(その3)

英国のロックダウンは続く(その4)

英国のロックダウンは続く(その5)

ロックダウン解除へ第一歩

緘黙児とロックダウン

息子の緘黙・幼児期5~6歳(その5) 学校外でのスモールステップ

イギリスの秋はどんどん深まってきました。今年もあと2か月半で終わりかと思うと、時間が過ぎるのが本当に早いです。

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Cちゃんの誕生会に行ってから、学校外で随分人目を気にするようになり、緘黙が悪化してしまった息子(詳しくは『息子の緘黙・幼児期4~5歳(その24)』をご参照ください)。

それまでは割と平気だった、学校外での社会的場面――買い物、外食、公共交通機関での移動など――を嫌がるようになりました。周囲をすごく意識するようになったのです。緘黙だけでなく、対人恐怖症というか社会不安も一挙に増大。

学校の支援のお陰で少~しずつ改善しつつあると思えた対人関係も、一気にどん底に…。

う~ん、どうやったら元の基準にまで戻せるものか…。ここでも、やはりスモールステップで場に慣れさせるCBT(認知行動療法)を試みました。

この時に役立ったのが日本でもお馴染みになったIKEAのカフェでした。その利点は、

  • 家から離れていて、知り合いに会う確率が0に近い
  • 大好きなミートボールが食べられる
  • 自分で好きな席を選べる
  • 周囲がガヤガヤしている

最初は嫌がっても、好きなものを食べている時は、食事に集中して周囲の目を気にしなくなりました。回を重ねる毎に、誰も見ていないことを徐々に実感できたよう。

バスや地下鉄にも頻繁に乗るようにしました。その時に息子が安心できるよう注意したのは、

  • 最初は知り合いに会わないよう、ちょっと遠くで練習してから徐々に近所へ
  • あまり混んでいない時間帯に利用
  • バスでは息子が窓側に、私が通路側に座るようにする
  • 声かけ「大丈夫」「怖くないよ」「よくできたね」を忘れずに

スーパーや息子の欲しいものがある玩具屋/文具店での買い物作戦も有効でした。注意点は、

  • まずは学校から離れたお店で
  • 好きなものをひとつ選ばせる
  • 嫌がらなかったら、レジまで持って行かせる
  • 様子を見ながら自分でお金を払わせる
  • 声かけを忘れずに
  • (全部クリアできたら、私の声に合わせて「ありがとう」と言わせてみる)

上記のようなスモールステップで、少しずつ少しずつ恐怖症が治っていったように思います。長い道のりですが、諦めずに根気よく。注意すべきは、緘黙児は間が空くと元に戻ってしまう習性があること。なるべく頻繁に行う必要があります。

私が実践したスモールステップは、息子ができそうなことを選んで、自分で考案したもの。緘黙児はひとりひとり違うので、その子に合うスモールステップを組み立ててください。自分の子を一番良く理解しているのは保護者だと思うので、プロに頼まなくても大丈夫です。

そして、ひとつできたら次はもう少し高めのステップにチャレンジさせます。できなかったら、ステップをもっと細かく修正して再チャレンジ。

常にできそうなステップを準備して、少しずつ自信をつけさせることが重要です。失敗して後退してしまうこともあるかと思いますが、その時はその時。怖がらずに親子でチャレンジしましょう!

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息子の緘黙・幼児期5~6歳(その2)社会的な機会を増やす

息子の緘黙・幼児期5~6歳(その3)1年生に進学

息子の緘黙・幼児期5~6歳(その4)先生が僕を喋らせようとする

スモールステップで自信をつける

7月も中旬を過ぎ、そろそろ3学期が終わって夏休みに入る時期です。私が行っている特別支援校(フリースクール)では、先週の金曜日が終業式でした。日本語を教えている子(ここではS君とします)は、社会不安が強く集団や集団行動が苦手。外出やショッピングを好まないと聞いていますが、1対1だとおしゃべりで人懐っこく、授業では何の問題もありません。でも、抑制的な気質を持っているのは明確で、息子に似たところも多いのです。

今学期の目標のひとつは、最後の授業で日本のスーパーに行き、習った日本語を使ってみることでした。そのことは学期の初めに説明してあって、ここ2週間ほど買い物に必要な初級の会話を練習してきたんです。S君の素振りや態度からは、お店に行くことへの不安は全く感じられませんでした。

が、当日になって、いきなりシャットダウンモードに…。最初に会話のおさらいをしたところまでは平気だったのに、いざ出発という段階になって、突然机に顔を伏せてしまったのです。

今まで少し塞ぎこむことはあっても、体を動かしたりゲームをしたりすることで気分を切り替え、授業が終わる頃には上向きになっていました。でも、こんな状態は初めて…。どうしようかなと思いつつ、「話したくなければ話さなくてもいいから、お店まで行ってみよう」と何とか説得。一緒に学校を出ることに成功しました。

歩きながらずっと下を向いていたものの、S君が私を拒否している様子はありません。さりげなく何が嫌なのか訊いてみたところ、「お店に入るのが苦手」、「店員と向き合うのがイヤ」とのこと。

少しずつ練習すれば慣れることができると話し、近くの大型スーパーに自分で支払えるセルフチェックアウトがあるのを思い出して、「まず、そこで練習してみる?」と訊ねてみました。が、答えは「No」。とにかく、日本のスーパーまで行ってみることにしました。

途中、ふと思いついて、マギー・ジョンソンさんの『年齢が上の子の支援』の記事に出てきたサキ君のことを話してみたのです。学校で声を出すのが怖くて9年間ずーっと沈黙していた15歳のサキ君。彼が一大決心して、学校で話し始めようと決めた際、まず最初にしたのは小さな成功体験を積み重ねて自信をつけることだったと。それほど怖くないことから始めて、少しずつ少しずつ怖いと思う状況に慣れていき、「できる」と自分で思えた時に、一番怖かった「学校で話す」ことにスモールステップで挑戦し始めたことを手短に話しました。

S君は何も言わずに私の話を聞いていました。その後、S君が好きな食べものや日本のスーパーで何を買いたいかなど、会話しながら目的地へ。S君のボディランゲージは徐々にリラックスしてきたようでした。

が、目的地についた途端、顔がこわばって体が硬くなったのが判り、彼の緊張が伝わってきました。お店に入って、まず「お菓子はどこですか?」と店員さんに質問する予定だったのですが、そんなの無理。お菓子のコーナーに連れて行って、英語で説明しながら「これはどう?」と色々訊きましたが、首を横にふるばかり…。緊張を和らげようと、お店をぐるっと周りながら私も買い物を始めました。

ドリンクのコーナーに来た時です。S君の視線がファンタグレープに釘付けに!「これイギリスでは売ってないんだ。2本買う」とすぐ手を伸ばしました。一緒にレジ近くまで行き、私は「麦茶を買ってくるね~」と言って外へ。その時、背後で突然「オハヨウゴザイマス」というS君の声が聞こえました!!

午後だったし、練習では「こんにちは」だったのですが、そんなこと問題じゃないですよね。「ヤッター!」と思いつつ麦茶を持って中に入ると、支払いを終えたS君はささっと外に出て行きました。店員さんにこっそり「今の男の子、何を言いました?」とチェック。他には「アリガトウ」ぐらいだった模様。

帰り道、S君は緊張が溶けたのかものすごく饒舌になりました。「日本語で言えたね!」と褒めると、すごく嬉しそうにどんなに緊張してたか話してくれました。きっとサキ君に負けたくないという気持ちもあったんでしょう…。

来る途中でミカンが好きなのを発見したので、学校に帰る前に八百屋さんにも寄ってミカンを選んでもらい、代金を渡して払ってもらいました。店を出ようとしたら、目の前で商品が床に落ちるというハプニングが…。S君はさっと商品を拾って「はい、どうぞ」と店員さんに渡し、お礼を言われてました。

その時点ではショップに入るのが苦手な子には全く見えず、学校を出る前のあの拒否反応は一体何だったのかという位の変わりようにビックリ。成功体験を重ねて、自信がついたんですね。

2013年からDSM(アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)で場面緘黙が不安障害のひとつと定義されましたが、本当にそうだなと思いました。これからお店に行ったり、買い物したりという経験をしない時期が長くなると、きっとまた不安がムクムクと頭をもたげてくるんでしょう。とにかく、成功体験を積み重ねることが大事。S君には、夏休み中もいっぱい外出して色々な体験をして欲しいなと願っています。