2019年SMiRAコンファレンス(その7)ASDとSMの併存が疑われる場合

あっという間にもう6月ですね。イギリスではバラの花薫る季節が到来し、どこを歩いても美しいバラが目に飛び込んできます。

リージェントパークにあるメアリー女王のバラ園。今が真っ盛りです

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ASDSMの併存

  • 大部分のASDの人たちは、SMを併存していない
  • ASDの人は社会不安、特に予測不安を抱えていることが多い
  • 内気なASDの人でも、不安が薄れれば状況に慣れてくる
  • ASDの診断基準にSMは含まれていない

2018年度、SMiRAのFBグループで行った調査から(詳しくは『2018年SMiRAコンファレンス(その5)』をご参照ください)

1) 第一調査:参加者(大半は保護者)364名

SMのみ   66% (240名)  /  SM とASDが併存 34% (124名)

2) 第二調査(1) 対象:「SMのみ」の診断に納得している参加者(162名)

男女比:      男子 23%(37名) :  女子 77%(125名)

3) 第二調査(2)対象:「ASDとSMが併存」の診断に納得している参加者(98名)

男女比:      男子 50%(49名) : 女子 50%(49名)

みく備考:この調査はSMiRAのFBグループに呼びかけて行われたもので、参加したのは364名(FB参加者は現在1万人に達しているので、調査に参加したのは全体の4~5%程度ではないかと考えられます)。その中の3割近くの回答者が併存と答えています。今のところ、ASDとSMの併存率については公式な数字が発表されておらず、イギリスではこれまでもっと少ないと考えられていたように思います。

この結果について、クレアさんは「きちんとした調査が必要」と語っていました。SMとASDの特性に重なる部分があるため、過剰に診断されている可能性がある。また、まだASDの診断が下りていないため、過少に診断されている可能性も考えられるとのこと。以前は、SMがまだ一般に浸透しておらず、ASDの二次障害として現れるSMが見逃されていた点があるとも。

ASDSMの併存が疑われる場合

<ASD児に対するチェックポイント>

  • 他の状況と比べ、ある状況では格段に良く話すか?
  • ある特定の状況において、殆ど話さない、または特定の人(たち)にしか話さないか?
  • 答えが正しいと解っている時のみ話す?
  • 自らコミュニケーションを始めるか?(SM児には困難)
  • 話すこと以外にも、広範囲の行動抑制があるか(例:給食が食べられない、学校でトイレに行けない、決まった解答のない課題は拒否するなど)?
  • 人から「無作法、不愛想、引込み思案」と思われているか?

★もし上記の答えが「はい」の場合は、SMを考慮に入れる

<SM児に対するチェックポイント>

  • 子どもが安心でき、話せる状況で、非定型な言語特徴があるか?

(極端に狭い範囲の話題、ひとりで延々と話し続ける、エコラリア、声の高低や音量の異常、限定的な会話のやり取りなど)

  • 社交的というより、内容重視の会話ではないか?

下記の事項を確認(ビデオ、マジックミラー、保護者の報告などを利用)

  1. 視線が合わない
  2. 拒否的、否定的なボディランゲージ(自分が興味のあること以外は、会話をするモチベーションが低い)
  3. ジェスチャー他の非言語的なコミュニケーションの有無(表情が豊かでジェスチャーを多用する=ASDではない可能性大)
  4. 挨拶など社会的習慣は?
  5. 質問されると不安がる
  6. 感覚過敏があるか

★これらのチェックポイントは子どもが普通に話せる場面・状況においてのみ有効

みく備考:SMであれASDであれ、子どもの普段の姿や言動を撮影しておき、心理士にビデオを見せることはとても重要だと思います。病院やクリニックで子どもが本来の姿を見せることは難しいため、診断の大きな助けになるはず。長年の習慣で家族が個性と捉えていることでも、専門家の目から見ると何かの症状ということもあるかもしれません。

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2019年SMiRAコンファレンス(その6-2)ASDの定義

5月も後半に入り、イギリスでは天気のいい日が続いています。先日、仕事の帰りに公園を抜けていったら、不思議な光景に出遭いました。

  「葉っぱが白くなってる?」とよく見たら、どうやら花のよう。調べたところ、Dove Tree(鳩の木)という名前らしいんですが、「ハンカチの木」とも呼ばれているらしいです。不思議な光景でした~。

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この講演におけるASDの定義について

ある方から、この講義におけるASD(Autistic Spectrum Disorder自閉症スペクトラム障害)の定義について訊かれたので、講演者のクレアさんに確認を取りました。

結論から言うと、クレアさんのいうASDの中には、グレーゾーンやASD傾向の子は含まれていません。なので、確実にASDと診断された子ども(人)を対象にしています。

教育心理学者のクレアさんはASDの診断の専門家でもありますが、勤務するマンチェスター地区ではグレーゾーンやボーダーラインASDという診断は避けているということ。曖昧な診断は本人のためにならないという見解で、疑いがある場合は時間を空けて再度様々な角度から慎重に診察するそう。

イギリスではグレーソーンやASD傾向という言葉をあまり聞かないので、イギリス全国で同じような方針なのかな?自閉症のような習性(Traits)を持っていても、3つの特性が備わっていなければASDと診断しないということですね。

(DMS5 では「コミュニケーション」と「社会性」の質的障害から、「社会的コミュニケーションと対人相互交渉の障害」にまとめられ、自閉症の「3つの特性」から「2つの特性」に変わりました。が、イギリスでは80年代にアスペルガー症候群の研究を発表したローナ・ウィング女史(英国人)の「3つの特徴」説が基本となっているよう)

対して、日本ではグレーゾーンやASD傾向と診断を下すことが多いようです。そう診断することで、本人や周囲の利点になると考えてのことだと思います。多分、各国の医学的・文化的な背景の違いが影響しているのではないでしょうか?

以前、『イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その3)』で、発達障害の権威、杉山登士郎氏の考え方について書きました。

杉山氏は、認知に高い峰と低い谷の両者を持つグループを発達凸凹とし、その中で適応障害があるグループを自閉症スペクトラム障害としています。典型的な自閉症ではなく、知的障害のない、より軽度の、しかし社会的な問題を多発させている人たちの中で、適応障害がない状態(=困っていない状態)が発達凸凹

発達凸凹レベルの問題を自閉症スペクトラム適応障害を持ち、教育的、治療的な介入が必要なレベルのものを自閉症スペクトラム障害と分けて書くことにする(『発達障害のいま』より引用)。

(日本ではASDに対して、自閉症スペクトラム、自閉症スペクトラム症、自閉症スペクトラム障害と3種類の呼び方があり、グレーゾンについては明確な定義がないように思います)

ASDの特性を持っていても、周囲とうまくやっていけるようであれば、「障害」と診断する必要はないということですね。発達凸凹というと、誰でも多少なりとも持っている感じがして受け入れやすいです。

SM児とASD児の特性は重なるところがあり、見分けは難しいです。大事なのは、それぞれの子どもの特性をふまえてサポートを行うことだと思います。

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2019年SMiRAコンファレンス(その6)SMとASDへの基本姿勢

早いもので、5月もすでに中ば。イギリスではずっと天気がすぐれず肌寒い日が続いていたのですが、やっと5月らしい陽気になってきました。まだまだSMとASDの記事が続きます。

森林公園ハムステッドヒースで午後の散歩

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ASD児とSM児に対する基本的な姿勢

<ASD: 考慮すべきこと>

  • 自閉症は生涯続く
  • 当事者にとっては、自分が一生自閉症のままであること、それは問題ではないことを自覚することが精神的な助けとなる
  • 常に自閉症の三原則(アイスクリームサンデーの3種類のアイスクリーム、及びシロップ(感覚の違い))が存在するが、ウエハース部分(行動・言動)は時間の経過とともに変化してゆく
  • 自閉症の脳は一般的な脳とは異なるが、劣位にあるという訳ではない = 脳の多様性
  • 自閉症はその人から切り離せる症状ではなく、その人の個性を形成しているもの
  • 本人が自閉症を個性として受容する
  • 周囲はその子の個性として捉える

<ASD児が問題行動を起こしてしまうリスク要因>

  • 常に不安や恐怖症を抱えている
  • 感情的な反応を規制することが難しい
  • 他人の意図を読み取ることが難しい
  • 予測可能でない・自分でコントロールできない状況だと不安になる
  • 場や人に合わせたり、応じたりするモチベーションの欠如
  • 経験から学ぶことが難しい

みく備考:ASD児は成長するにつれて自分が他の子と違うこと(人とうまく関与できず、社会的な集団になじめない等)を意識するようになります。この違和感 /疎外感が自己否定感に繋がらないよう、自分も周囲もASDを個性として受容し、自己肯定感を育んでいくことが課題になってくるかと思います。

ASD児は常に不安や恐怖症を抱えており、思考の柔軟性に困難があるため、二次障害としての不安障害(恐怖症、社会不安、強迫性障害)やうつ病などを発症しやすい傾向にあります。私が働いている特別支援学校の生徒たちも、高機能ASDと他の症状を抱えているケースが多いです。

先月、『環境運動の旗手は場面緘黙?』というタイトルで、今欧州で時の人となっているグレタ・トゥーンベリさんについての記事を書きました。彼女はASDとSMの併存のみならず、OCD(強迫性障害)や摂食障害など(定かではないですが)にも苦しんできたよう。現在では、物事を「白か黒か」でしか見られないことやこだわりの強さを自分の個性と受け止め、活動の原動力としています。ASDの特性を生かした彼女の強さは賞賛に値しますし、ニュートンやアインシュタインなど、多くの天才たちがASDだったという説も。

(もし時代が変わって、自閉症の人口が健常と呼ばれる人たちの人口を越えれば、健常の人たちがマイナリティになり、「社会性」は重要ではなくなるのかも…。私たちはもっと脳の多様性(ニューロダイバーシティ)を理解し、色々な個性を尊重し合って共生していくべきなのかもしれませんね)

<SM: 考慮すべきこと>

  • SMは表に現れるウエハース部分(行動・言動)で、本人の意思で話さないのではない
  • 症状は変えることが可能で、時間をかければ改善できることが多い
  • SMを個性として受容することは、本人の精神的な助けにはならない
  • その子・人の個性として捉えず、外側にあるものとして捉える
  • 本来のその子らしさを第一に

みく備考:SMに対しては、「話せない」ことをその子の個性としないことが肝心です。「話せないのが自分」と自ら納得し、周囲が温かく見守り続けるだけだと、緘黙が定着してしまいます。本人が「変われる」「変わりたい」と思うことが克服の第一歩。

ただ、不安になりやすい抑制的な気質の子は、自分がそういう気質であることを認識し、対応策を身に着けていくことも大事かなと思います。自己評価が低い子が多いので、保護者は子どもにどんどん成功体験を積ませ、自己肯定感を育てていけるといいですね。緘黙だと社会的な場で「自分らしさ」を出せないことが多く、自信を持たせることが難しいのですが…。

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2019年SMiRAコンファレンス(その5)SMとASDの対比

日本では10連休ももうすぐ終わりですね。昨日は関東地区でゲリラ豪雨が発生し、大量の雹が降ったとか…やはり、世界各国で気候変動の影響が出ているように思います…。さて、SMiRAコンファレンスの続きです。

<ASDとSMの対比>

  • ASD: 自閉症スペクトラムは、人がコミュニケーションをする方法、世界を見る方法、他者と関与する方法に影響を及ぼす、生涯続く症状。程度の差はあれ、全ての状況で起こる
  • SM: 場面緘黙はある気質的な素因を持つ人が、不安をベースにした反応として起こす症状。全ての状況で起こる訳ではなく、生涯続く訳ではない
  • そして、ASDに不安障害はつきものであるため、ある気質的な素因を持つ人の何割かはASDであると思われる

もし、表に出てくる行動や言動――アイスクリームサンデーのウエーハウスの部分――だけを見るならば、SM児もASD児も似たように見えるかもしれない。

<ASDとSMで重複する行動>

  • 視線を合わせるのを避ける
  • 自発的に、自由に人の輪に参加しない
  • 限定された社会的興味
  • 限定された相互関係
  • 感覚の違和
  • メルトダウン

<ASDの人が抱える困難>

  • 社会的な相互関係
  • 社会的コミュニケーション
  • 思考の柔軟性(想像力)
  • 知覚

          ↑

   ★あらゆる状況で常時存在する(うまく隠せているケースもある)

<SMの人が抱える困難>

  •  社会的な相互関係
  • 社会的コミュニケーション

       ↑

   ★常時ではない(子どもの不安が強い時)

  • 思考の柔軟性
  • 知覚

                         ↑

   ★時として困難が伴うこともある

<なぜ混同されるのか?>

  • 他人の言動や行動は目に見えるが、それを起こしている要因は見えない
  • 自閉症は場面緘黙より認知度が高い
  • 専門家がSM状態の子どもといる時、当然子どものコミュニケーションは通常とは異なる → 保護者に普段の様子をきく必要がある

ASDとSMの併存率は現在のところ知られていない

みく備考:人前では引込み思案な割に、頑固で完全主義なところがある緘黙児は多いのではないでしょうか?ただの「頑固」なのか「こだわり」なのか、判断が難しいところだと思います。でも、「こだわり(柔軟な思考の困難)」が強いからといって、すぐに自閉症には結びつきません。3つの特性をすべて持ち併せているかが鍵となります。

また、騒音が苦手、服のラベルが肌に触れるのを嫌がるなど、SM児の感覚過敏に悩まされる保護者は多いと思います。感覚過敏もASD児に共通する特性ですが、感覚過敏=自閉症ではありません。ただ、SM児の感覚過敏は、成長するにつれて薄らいでいく/ うまく適応・対処していけるケースが多いのでは? うちの学校のASD児やティーンを見ていると、年齢があがっても食べられる食品が極端に少なかったり、「〇〇は絶対にしない」と頑固一徹(思考の柔軟性がない)なような…。状況から判断して、「ちょっと我慢・妥協した方がいいかな」という姿勢は見られません。

イギリスでは、最近になってASDの診断を受ける女の子や成人女性の増加が報告されています。女子は男子より精神的な成長が早く、周囲を見て模倣することや社会性の欠如を隠すことに長けているため、見つけにくいというのが理由のひとつのよう。また、ASD児の男女比は4:1とされているため、女子がアセスメントを受ける機会が少ないとも。アスペルガーや高機能ASDのアセスメントには、女子用のマニュアルが登場しているようです。

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5月に入って、令和の時代が始まりましたね。16歳の環境アクティビスト、グレタ・トゥーンベリさんの話の続きです。

まずは、TED(Technology Entertainment Design 世界中の著名人による様々な講演会を開催・配信する非営利団体)で配信されたグレタさんの訴え(日本語訳つき)を聞いてみてください。堂々として、本当に素晴らしいスピーチです。

<1分33秒から2分5秒までに注目>

「それで私は11歳の時 病気になりました」

「うつ病になり 話さなくなり 食べなくなりました」

「2か月で10キロ痩せました」

「後に私はアスペルガー症候群で 強迫性障害で 選択的無言症だと診断されました」

「その症状は基本的に必要だと思う時しか話さないことで 今がその必要な時なのです」

うむむ…(未だに選択制無言症という古い訳)この説明だと、自分で話したい時を選んで話していると思われてしまいますね――実際、英国のガーディアン紙はこの路線でSMを説明し、後に訂正していました。

TEDの動画にはありませんが、他の記事で環境活動を始める以前の自分を、下記のように語っています。

「私はいつもみんなの後ろにいる、何も言わない子どもでした」​​

「学校ストライキを始める前、私は透明人間みたいな存在でした。話さなければならない時以外は、全く話さなかったわ

緘黙の子どもが周囲の輪に入れない自分を、「透明人間みたいな存在」と感じることは多いと思います。が、やはりここでも、自分が選んで話さなかったような表現…。

グレタさんの場面緘黙に関して、もっと詳しく知りたいと検索していたら、オンラインマガジン(?)Quiletteで記事を見つけました。ここには、グレタさんと家族のことがもっと詳しく書かれています。

https://quillette.com/2019/04/23/self-harm-versus-the-greater-good-greta-thunberg-and-child-activism/

グレタさんの母マレーナ・エルンマンさん(Malena Ernman)は、ヨーロッパでは知られたオペラ歌手。父のスヴァンテ・トゥーンベリさん(Svante Thunberg)は俳優、祖父も俳優と、著名な家族の元に生まれています。(でも、実はグレタさんの妹もADHDとOCDを併発しているのだとか)

記事によると、母親のマレーナさんが昨年出版した本『Scenes from the Heart (心の風景?)』に、学校ストライキに至るまでのグレタさんのメンタルヘルスと家族の葛藤が克明に描かれているよう(現在この本はスウェーデン語版のみ)。

グレタさんが初めて環境問題に触れたのは、8歳のころ。小学校の授業で観たビデオ――海洋に集積するプラスティックや飢えてやせ細っていく北極グマなど――に大きなショックを受けました。

クラスメイトたちの興味は、ビデオが終われば別のことにうつっていきました。でも、グレタさんの脳裏には映像が生々しく残り、いつまでたっても不安や悲しみが色あせなかったのです――気候変動が自分や地球にもたらす危機についてひとり悶々と悩み続けたことが、11歳の時にうつ病を発症した主因だったと書かれています。

(これは自閉症の特徴である「こだわり(思考の柔軟性の困難)」に(もしかしたら「フラッシュバック」にも)起因していると思われます。グレタさんはそれを承知していて、現在では自分の個性として受け入れ、モチベーションを保つ原動力にしているとか)

記事では、何年ものうつ病、摂食障害、不安の発作に悩まされた後、やっと医学的な診断がおりたとあります。そして、その当時は家族としか話さなかったと。

この時、うつ病、アスペルガー症候群(ASD)、強迫性障害(OCD)、そして場面緘黙と診断された訳です。

回復のきっかけは、環境についての心配を家族に打ち明け始めたこと。そして、CO2排出量を極力抑えるよう両親を説得し、彼らを変えることができたことが自信になったよう。それから国会前での座り込みを始め、あっと言う間に名が知れ渡って、一躍時の人となりました。

(ちなみに、本人はヴィーガンになり、服など新しいものは極力購入せず、飛行機を避けて列車で移動するという徹底ぶり。自らのポリシーを貫く姿勢がすごいですね)

ストライキを始めたばかりの頃は、お父さんが彼女のスポークスマンとしてメディアや研究者たちとやり取りしていたこともあったとか。国際的な会議などでスピーチをする娘の姿に、グレタさんの両親が一番驚いているよう。

緘黙についてまとめると、

  1. もともと寡黙な子どもだった(すでにこの時点で緘黙だった可能性あり)
  2. 11歳でうつ病を発症した際に家族としか話さなくなり、その後場面緘黙と診断される
  3. 15歳で環境運動を始めると、両親がびっくりするほど話せるようになった

本人は「話さなかった」という言葉を使っていますが、実際のところは「話せない」状態だったのかどうか――本を読んでいないので不明です。

ただ、自閉症の人が抱える不安に環境問題の大きな不安が加わったため、二次障害として不安障害である強迫性障害(OCD)や場面緘黙を発症したのではないかと推測できます。

ニュースやインタビューの映像を観ると、グレタさんはディスカッションにも参加し、デモでも多くの人と関わり、対話しています。

学校や地元でのパーソナルな状況は判りませんが、公の場においては既に場面緘黙を克服しているのでは?

「気候問題に積極的に取り組むことで、私はもう孤独でも、静かな存在でもなくなりました。今は世界を変えることに忙しく、この活動を楽しんでいるの」

この言葉から、自己肯定感が高まり、現在の自分に満足している様子がうかがえます。

大人たちがずっと後回しにしてきた環境問題を、今解決しなければならない緊急の課題として突きつけるグレタさん。時間がかかるのを承知のうえで、金曜日の学校ストライキや環境運動を続けています。その強い意志、忍耐強さ、ごまかしを許さない潔癖さが、世界を大きく動かしているのです。

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日本は今日から10連休ですね。イギリスでは先週末がイースター(復活祭)の4連休でした。その間、メディアを賑わせたのは、ロンドン中心部で行われた『絶滅レベリオン(Extinction Rebellion)』のデモ活動。普段人で賑わう主要部の5か所を占拠し、交通をストップさせて大騒ぎになりました。

     ロンドン随一のショッピング街、オックスフォードサーカスの交差点を占拠するデモ参加者たち

彼らの訴えは、政府の気候変動への対応に不服をとなえるもの。地球温暖化を減速させるために、現実的な対策の実行を要求しています。こうした環境運動は、今ヨーロッパを中心に世界各国に広がりをみせているよう。特徴は、中高生を巻き込む若い世代が参加していること。

その発起人が、スウェーデン人の16歳の少女、グレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)さん。昨年の夏休み明け、たったひとりでストックホルムの国会議事堂前に座り込み、3週間のデモを決行。その後も、毎週金曜に学校を休んでこの抗議活動を続けています。

わずか16歳の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさん

彼女の活動はSNSやメディアを通じて広がり、中高生の賛同者もどんどん増えていきました。これが『未来のための金曜日(Fridays for Future)』運動となり、今年3月15日(金)には、グレタさんの呼びかけで125カ国の約2000か所で、100万人を超える学生がデモに参加したとか。

     『気候変動問題のための学校ストライキ(School Strike for Climate)』のプラカードを掲げるグレタさん

今や国際的な環境アクティビストとして知られるようになったグレタさん。ヨーロッパ各国の抗議デモに参加したり、国連の環境会議や世界経済フォーラムなどで、堂々たる英語で演説したり。TVやメディアのインタビューや対談にも多数出演し、先日ノーベル平和賞候補にノミネートされました。まさに時の人なのです。

先週末は汽車で渡英し、ロンドンにもやってきました。デモのステージで演説したり、政治家に会ったりと精力的に動き、多くのメディアに取り上げられました。

私はグレタさんがアスペルガーだということは知っていたのですが、一昨日、ネットの記事を読んでびっくり。何と、場面緘黙の診断も下りているというのです!

政治家や著名人の前、大勢の聴衆の前で、臆することなく理路整然と英語のスピーチを繰り広げるグレタさんが場面緘黙??

ここのところ、SMiRAコンファレンスの講演『SMとASDの共存』の報告をしている際中なので、とても興味を持ちました。もう少し詳しく調べて、次回に私なりの見解を書いてみたいと思っています。

みなさん、素敵な大型連休をお楽しみください。

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再々度、緘黙は発達障害 or 障害なのか?

日本では、場面緘黙=発達障害というイメージが強いことについて、再び考えてみました。全く専門家ではないので、いち素人の考えとして受けとめてください。

(以前に書いた記事はこちら → 『緘黙は発達障害なのか?』『再び、緘黙は発達障害なのか?』)

大前提として、緘黙は「発達障害」ではなく「不安障害」のカテゴリーに含まれています。そういう意味では発達障害ではないといえますが、発達障害の子が緘黙になるケースもあるし(詳しくは、「場面緘黙とは?(その3)」をご参照ください)、学校や病院など公の場で緊張状態にあるため、家庭での本来の姿が見えにくく、判定が難しいのではないでしょうか?

特に、緘黙児とASD児の持つ特性がオーバーラップする部分があるため、(詳しくは、『ASD児と緘黙児--類似する特性?(その2)』をご参照ください)、見分けがつきにくいというのが現状ではないかと。病院など不慣れな場所で、不安を抱えながらWISCなどの発達テストを受ける場合、本来より低い判定が出たりしないんでしょうか?

私は息子が場面緘黙になった時、緘黙は「障害」なのか「症状」なのか、ものすごく気になりました。というのも、「障害」というと「治らない」というイメージが強かったから。

例えば、「睡眠障害」というと重篤な印象ですが、「不眠症」というとそれほど重い感じはしませんよね。でも、正確には「睡眠障害」という大きなくくりがあり、その中のひとつが「不眠症」なのです。

では、「障害」とは何か? 障害者基本法の定義には、「この法律において、障害者とは身体障害、精神薄弱又は精神障害(以下「障害」と総称する)があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう」と書かれています。(「長期に渡り」の「長期」がどれくらいの長さなのか調べてみないと判らないのですが、多分1ヶ月以上からではないかなと…)。

緘黙の場合、話せないことにより長期に渡って日常・社会生活に制限を受けるわけなので、定義からすれば障害に分類されるのかもしれません。ただ、緘黙が起こる場所が学校を中心とした公の場で、家庭では制限を受けないことも多いので、ややこしいですね。

精神障害の中でも「うつ病」や「パニック障害」など治るものもあれば、「てんかん」など生まれつきで治らないものも。脳の機能的障害により引き起こされる「発達障害」は後者です。場面緘黙については、治る不安障害のひとつと考えればいいのかな?

発達障害の定義を調べてみると、「脳機能の発達に関係する障害」とあり、具体的には主に広汎性発達障害(自閉症、アスペルガー症候群)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、LD(学習障害)をあげています。(他に、トゥレット症候群と吃音が含まれます。知らなかったのですが、吃音は2005年から発達障害の対象となったよう。ということは、吃音は治る部類の発達障害なんでしょうか??)。発達障害とは、子どもが成長する過程において、基準の発達段階に到達しない状態。発達期間中いつでも開始し、通常生涯を通じて続くとされています。

参考: 政府広報オンライン『発達障害って、なんだろう?』http://www.gov-online.go.jp/featured/201104/index.html

なお、欧米では「PDD(広汎性発達障害)」ではなく、主に「ASD (Autism Spectrum Disorder 自閉症スペクトラム障害)」という名称を使っています。DSM-5(アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル)では、「アスペルガー症候群」というサブカテゴリーが無くなりました(詳しくは、『DSM-Vに登場した新たなコミニュケーション障害(その2)』をご参照ください)

どうしてまた場面緘黙と発達障害について取り上げたのかというと、緘黙の背景にある問題を早期に見極めることの重要性を感じているから。発達障害だけじゃなくて、言葉に問題があるケースなど、早期に発見できれば早く対応することができます。また、緘黙が障害であれ、そうでなかれ、抑制的な気質を持つ緘黙児に対しては、通常とは違う配慮が必要だと思うのです。

性格的なものは変えられないことが多いし、たとえ完治しない問題があったとしても、環境を変えたり、対処していくことで、日常&社会生活はずっと楽になるはず。性格であれ完治しない問題であれ、一生つき合うのなら、早くから気づいて自分なりの対処法を身にけるのがベストではないかと。

こんなことをいうのは、私が日本語を教えているASDのティーン達(全員アスペ男子)を見ていて、早期対応がいかに大切か実感できるからなんです。みんな(今登校拒否中の一人を除き)マイペースで、学校生活をそれなりに楽しんでる感じ。まあ、30人位しかいない特別支援校で、先生やTA達とも気軽に話ができる環境ではありますが…。

生徒はそれぞれ、ASD以外にもADHDやLDなど複数の障害を抱えています。公立校で仲間外れにされたり、問題を起こして転校してくる子も多数。が、特別校ではなんとか自分の居場所を見つけ、自信を回復しているよう。友達を作り、得意科目の成績を伸ばし、趣味のゲームに没頭したり、ジョークを飛ばしたり。学校生活に不安を感じず、ノビノビしてる子が多いように感じます。

例えば、A君は「僕はADHDだから集中力ないよ。ちょっと休んでいい?」と主張。D君は「ディスレクシアだから読むのが遅いんだ」とか「もっと論理的に」と、自分が納得するまで質問したり、課題をこなすのに時間がかかってもメゲません。私の英語の発音やスペルミスは、嬉しそうに速攻で指摘してくるし(恥)。自分の特性をちゃんと理解して、自分なりに対処している様子。

この学校でも、常に何らかの問題は起きています(特に、小学部)。感情をコントロールできず、反省室に入れられるエピソードは頻繁に起きるし、昨年は怒りに任せて窓ガラスを割ってしまい、手を負傷した子も。でも、みんなある程度自己主張しながら学校生活を送れている印象。不安や緊張感がないということが、自信にも繋がっているように思います。そして、この自己肯定感こそが、社会の中で生きる上で一番大切ではないかと思う今日このごろなのです。

長々とひとりごとを聞いていただいて、ありがとうございました。次は抑制的な子どもへの対処法について考えてみたいとい思っています。

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緘黙は発達障害なのか?

再び、緘黙は発達障害なのか?

ASD児と緘黙児--類似する特性?(その2)

7月6日に書いた記事の続きです。2011年に行われたマギー・ジョンソンさんのワークショップの資料を掘り起こしてみたら、ノートにこんなメモがありました。「ASD児とSM児の持つ特性はオーバーラップするところがあり、ASDとSMを併発しているケースは以前考えられていたほど少なくない」。”not so rare as previously thought” とあるので、「多くはないけれど、時々見られる」程度の感じじゃないかと思います。

これは、「日本では広汎性発達障害と診断されるSM児が多いようなんですが、イギリスではどうですか?」という私の質問に対する答えでした。ここ数年来、マギーさんは主にセカンダリー(11歳~16歳)以上の子どもの治療を担当していて、あまり改善が見られない場合は、ASDが併存しているケースが見られるとも…。

緘黙の治療効果は小学校中学年から緩やかになり、年齢があがるにつれて回復が難しくなると言われています。特に、小学校高学年から中学までは、プレ思春期と思春期が重なるため、周りの目が最も気になる時期。高校や大学進学を期に自力で立ち直るケースも多いようなので、改善が見られないからASDということではありません。特に、日本では保護者と学校・専門家が連携して治療に当たるのが難しいため、年齢が上の子の緘黙治療はより困難といえそう…。

下記は私がとったメモからの抜粋です。急いで書き写したので、間違いがあるかも…。

<SM児とASD児のオーバーラップする特性>

  1. 根本的な気質(same underlying disposition 不安になりやすい抑制的な気質?)
  2. 自分なりのルールへのこだわり(rule bound 食べ物、服装などを含む)
  3. 感覚過敏 (sensory sensitivity)
  4. 視覚的な説明やチェックリストが必要 (need visual explanation/ checklist SM児の場合、不安のため情報を受信できないこともある)
  5. コミュニケーション量の問題 (issues with communication load認識プロセスのレベルに問題があるため、一度に大量のコミュニケーションを処理できない)                           ASDを併発しているSM児の中には、多量で複雑なコミュニケーションを処理できないため、緘黙傾向に陥る子もいる。解決法 → 一度に大量の情報を与えないよう、「コミュニケーション量」を減らし、混乱しないように早めに助け舟を出す。自分で選ばせるなど、子ども自身に主導権を与える。

*注:どのSM児も1~5までの特性を全て持っているということではありません。上記の事項が類似していることが多いということだと思います。また、上記が当てはまるからといって、自閉症スペクトラムという訳ではありません。④⑤には言語の問題が含まれるかもしれませんね。

例えASDが併存する場合でも、治療や支援のアプローチは同じということ。ただ、純粋な緘黙と比べて回復はゆっくりになります。また、緘黙を克服してもASDが治る訳ではないので、ASDに対する支援も必須です。とにかく、緘黙とその背景にある問題を早期に発見し、早期介入することが大切ということでした。

うちの息子の場合を考えてみると、1、2(特に服装と髪型!)、3、そしてう~ん、同時に複数のことをするのが苦手なんですが、5 の傾向もあるのかな?視覚優位でもあるようだし…。

「ASD児に有効な支援はSM児にも役に立つことが多い」ということで、1~5 に問題がある時は下記のような対策が立てられるかなと思います。

  • 不安を減らす呼吸法や自分なりの対処方法を考えさせる
  • こだわりを責めず、徐々に納得させて自分なりに対処できるようにする
  • 新行事などがある時は、予め予定を伝えておく
  • 写真や絵、物を使って具体的に説明する
  • 指示する時は短かめに、解かりやすく
  • 一度に沢山のことを言わず、ひとつずつ順番に

もっとたくさんの対処法があると思うので、自分の子どもに合うような対策を考えられるといいですね。

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ASD児と緘黙児--類似する特性?

 

ASD児と緘黙児--類似する特性?

先週の金曜日、ASD児専門校の子ども達に付き添って、近隣の名門私立校に行ってきました。学校同士の交流があり、わが校のセカンダリー(12~16歳)の子ども達を対象にしたワークショップを開催してくれたのです。うちのクラスからも、6年生の子が3人参加しました。

地下鉄利用ということもあり、総勢16名の子どもに付き添いの大人がぞろぞろ…。スタッフの息抜きも兼ねた、学年末のイベントのひとつだったよう。

16世紀から続くという歴史ある名門校を訪問してみて、学校施設や人材の充実ぶりに驚かされました。広々とした敷地内に立派な校舎や専門の施設が点在し、専用のテニスコートやアスレチックグランドも。入学試験の難度が高く、学費もかなり高額らしいのですが、この充実度だったら納得という感じ。いや、ケタ違いにすごい!

最初に案内されたスポーツグランドではテニスの授業中でしたが、体育の先生じゃなくて、テニス専用のコーチが教えてるんです。生徒数は20名ほどなのに、助手が2名。各教科についても、えり抜きの優秀な教師陣と助手を揃えているだろうことは、容易に想像できました。

ワークショップはスポーツコーチ、D&T(デザイン&技術)教師、そして科学者(後で調べたら、結構有名な方でした!)が担当。スポーツで汗を流した後は、立派なD&T教室でミニLED懐中電灯作りに取り組みました(PC搭載のレーザーカッターで製作したキーホルダーのお土産つき)。最後の科学講座は、液体窒素などを使って次から次へと実験を繰り広げるスリリングな内容。おしまいに子ども達を部屋の隅に退去させ、ものすごい大音響で風船を爆発させたのには度肝を抜かれました。

どのセッションもプロ意識の高さが伝わってくる内容で、毎日こういう授業を受けてる子ども達がイギリスの将来を担っていくんだなと、感慨深かったです。予算の少ない公立の学校では、こうはいかないでしょう…。

話は変わりますが、このイベントを通じて感じたのは、緘黙児と似た傾向の子がいるということ。

スポーツイベントでソフトフハードル走をした際、付き添っていたグループの女の子が逃げ腰に…。やったことがないと不安がるので、「柔らかいハードルだから当たっても痛くないよ」 「一緒に走ろうか?」と声をかけ、手をつないでスタート。ひとつ目のハードルを飛び越えた後、ひとりで走っていくことができました。その後の競技でも「また一緒に来て」と頼まれて、一緒に走ったのですが、私の方が遅かったので自信がついたと思います(笑)。

また、最後の記念撮影では、ひとりだけ撮影拒否の子が…。いくらスタッフが誘っても頑として動かないので、そのままに。でも、担任が「じゃあ、写真撮って」と声をかけ、撮影側として参加させることに成功しました。

緘黙児と大きく違ったのは、D&T教室で男子生徒が我先にと手を挙げて質問に答えていたこと。得意分野に関する知識は、半端ないものがあります。実に堂々と答えるので、何だか誇らしかったです。

2011年にマギー・ジョンソンさんの緘黙支援ワークショップに参加した際、「緘黙児とASD児の特性は重なるところがあるので、ASD児に有効な支援はSM児にも役に立つことが多い」と話されてました。その資料とメモを見つけ出して、もう少し詳しく説明できたらいいなと思ってます。

 

DSM-Vに登場した新たなコミニュケーション障害(その2)

ASDや広汎性発達障害と診断される緘黙児の割合が大きい--これは日本における場面緘黙の研究で、頻繁に見られる結果です。発達障害を専門とする医師の間では、場面緘黙は決して珍しくないとも言われているよう…。

DSM-Vで新たに設けられた、「社会的(実践的?語用論的)コミュニケーション障害(Social (pragmatic) communication disorder)」は、場面緘黙とどのような関連があるのか?とても気になっています。

新たな分類 「社会的(語用論的)コミュニケーション障害(Social (pragmatic) communication disorder)」は、下記のように神経発達障害(Neurodevelopmental Disorders)カテゴリーの2) に含まれています。

Neurodevelopmental Disorders(神経発達障害)

  1. Intellectual Disabilites (知的障害)
  2. Communication Disorders (コミュニケーション障害) ←★ここ
  3. Autism Spectrum Disorder (自閉症スペクトラム障害)
  4. Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder (ADHD)
  5. Specific Learning Disorder (学習障害)
  6. Mortor Disorders (運動機能障害)

2) のコミュニケーション障害に含まれるサブカテゴリーは、

  1. Language disorder (言語障害)
  2. Speech sound disorder (音韻障害)
  3. Childhood onset fluency disorder (stuttering) (小児発音障害(吃音))
  4. Social (pragmatic) communication disorder (社会的(語用論的コミュニケーション障害) ←★ここ
  5. Communication Disorders not otherwise specified (特定不能のコミュニケーション障害)

DSM-IVでは、アスペルガー障害(Aspergar’s Disorder)及び特定不能の広汎性発達障害(PDDnos)と診断された人たちは、いずれも広汎性発達障害という自閉症関連をくくった大カテゴリーに含まれていました。それが、DSM-Vでは、「社会性の障害」はあるが「常同性」はないとみなされると、自閉症スペクトラム症(ASD)ではなく、コミュニケーション障害に該当…。

(なお、DMS-IVにおける特定不能の広汎性発達障害(PDDnos)の定義は、他の広汎性発達障害の定義に当てはまらないケースで、「社会性の障害」もしくは「常同性」のひとつが該当すれば診断されるというもの)

平たくいうと、このグループに移行する人たちは、自閉症ではない(なかった)ということですよね?もしかしたら、広汎性発達障害やアスペスガーと診断された場面緘黙児の多くは、このカテゴリーに入るんじゃないでしょうか?また、広汎性発達障害の傾向やグレイエリアと診断された緘黙児は、ASD傾向ではなく、コミュニケーション能力に発達凸凹があるのかもしれません…。

例えば、相手のボディランゲージが読めなくて黙っている場合と、相手のボディランゲージが読めても、相手の反応が不安でどうしたらいいのか判らず黙っている場合では、ちょっと違うような気がするんですが…。特に、緘黙期間が長く閉じこもりがちになると、コミュニケーションスキルが向上しないため、年齢に見合う社会的コミュニケーションを取るのが難しくなると思うんです。病院など、馴染めない環境でコミュニケーションを取ることの不安もあると思いますし、このあたりのことは、診断にどう影響しているんでしょう?

話は変わりますが、最近イギリス人の言語療法士(SLT)から「専門分野で活躍するSLTの間で、治療に当たったASD児が実は重度のコミュニケーション障害児だったという話が良くでている」と聞きました。子どもがオルタナティブなコミュニケーション法を身につけると、徐々にASDの特性がなくなることが多いんだとか。

イギリスではWHOによる国際疾患分類、ICD-10を診断基準にすることが多いので、DSM-5における変更はあまり問題視されていません。でも、研修中のASD児専門校に通う子どもの中には、「常同性」はないように見える子もいて、その子達には違うアプローチが必要なんだろうか? などと考える今日この頃です。

最後に、DSM-Vの診断によって、この新しいサブカテゴリーに移行する人はどの程度の割合なんでしょうか?

2012年1月に『ニューヨークタイムズ』紙が、アスペルガーと診断されていた3/4の人たちがASDと診断されなくなるという記事を掲載し、世界中で物議をかもしたようです。これは、イェール大学のフレッド・ヴォルクマー教授他による予測ですが、10%程度という予測もあり、かなりバラつきがあるようですね。

“about three-quarters of those with Asperger syndrome would not qualify; and 85 percent of those with P.D.D.-N.O.S. would not(アスペルガー症候群の約3/4が、そしてPDDnosの85%が(ASDと)認定されない)”

NYタイムズの記事 → http://www.nytimes.com/2012/01/20/health/research/new-autism-definition-would-exclude-many-study-suggests.html?pagewanted=all

自分の中でよく整理できておらず、チンプンカンプンな独り言のようになってしまいました…。ここまでお付き合いいただいた方、ありがとうございました。多分、誤解している部分も多々あると思うので、お気づきの方はご指摘ください。

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