学校での支援体制

昨年から途切れ途切れに掲載してきたマギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンへの支援』も、あと2回ほどでおしまいです。マギーさんが所属するケント州のNHS(国民保険サービス)トラストでは、この支援が大きな効果をあげているよう。支援者が専門家に相談できるシステムが整っているのが、何といっても強みといえます。イギリスでも住む場所によって支援サービスが全く異なるため、マギーさんのいるケント州やSMIRAのあるレスター州を羨む保護者が多いのが現状です。

《緘黙に苦しむ小学校中・高学年&ティーンへの支援》

場面緘黙アドバイザリーサービス 言語療法士マギー・ジョンソン著/ ケント州コミュニティヘルスNHSトラスト

内容の著作権はマギーさんに属しますので、この記事の転記や引用は固くお断りします。なお、年が上の子どもへの支援は、緘黙支援のバイブルと呼ばれるマギーさんとアリソン・ウィンジェンズさんの著書『場面緘黙リソースマニュアル(Selective Mutism Resource Manual Speechmark社)』の第二版(2015年春/夏出版予定)に新項目として掲載される予定です。

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その15)

4. 家庭と学校の協力的な環境

学校職員全体の教育を

  • 個別教育プラン(Indivisual Educational Plan)の作成(定期的に見直し、ターゲットを更新)
  • リスク要因も含め、職員会などで子どもについて話し合う
  • 場面緘黙のDVD(『場面緘黙へのアプローチ』など)を利用し、関係者の理解を深める
  • 支援原則を学校全体に浸透させる — 最初は言語コミュニケーションへのプレッシャーを取り除く(話すことを期待せず、機会として捉える)
  • 全ての活動に参加させる
  • ひとりの支援者が継続して関わり、言語による参加を徐々に増やせるようコーディネートしていく

主となる支援者/学校職員をひとり決める

  • 緘黙の生徒と定期的にコミュニケーションを取る(直接的/間接的)
  • クラスの状況を監視する
  • 子どもの不安度(快適度)を確認
  • 職員間で支援策を決め、協力しながらそれぞれが貢献していく

学校での基本的な方針

  • 必要であれば、1対1もしくは小グループで話す機会を設ける
  • 学校内に安心できる場所を与え、ランチタイムや休み時間に孤立しないようにする
  • 苛めがないよう徹底管理する(生徒が報告するまで待たない)

みく注: 通常、支援プログラムは学校もしくは家庭で行います。実際にはとても難しいですが、プログラムを始める前に、まず子どもを取り巻く学校と家庭での環境 — 対人関係はもちろん、授業や休み時間に不安なく過ごせ、家庭ではリラックスできる環境を整えておくことが望まれます。特に、思春期の子どもは傷つきやすいため、予め子どもにどのように対処して欲しいかをきくことも大切ではないでしょうか。

緘黙が起こる主な場所、学校の環境は本人にとって死活問題。頼れる大人がいて、自分の教室以外に逃げ場があると随分違うと思います。ただ、緘黙児は自分から動くことが難しいので、声をかけたり、誘導してもらえると心強いかも。また、先生全員に子どもの特徴や支援策を知らせ、学校全体で取り組むことも大切ですね。中学校以上だと科目によって担当教師が変わり、より多くの先生と接することになります。それぞれの先生が子どもに対して一貫した態度・支援方針を取ることが、子どもの心の安定に繋がるかと思います。

公的な試験に際して

  • 試験をする際の配慮

緘黙の子どもは、試験時間の延長(うまくできるか/間違えるかもという不安からスピードが落ちるため)、及び普段教室で使う用具や学習環境、特別教育プラン(IEP)に記されている用具等の使用を認められる権利を持つ

(例)

  • 録音やビデオの使用
  • 小グループ、または単独試験官による試験
  • 外部の試験管でなく、馴染みの先生による試験

みく注: 症状が場面緘黙のみだと、イギリスでも試験の際の特別な配慮は困難です。例えば、ディスレクシアなどの学習障害を抱えている場合は、特別な用具の使用などが認められやすいのですが…。長期間緘黙が続いている子どもの中には、問題を解くスピードが遅かったり、動作自体が鈍かったりする子もいるようですし、実技や口頭試験が難関となることも多いでしょう。他の子どもとのかね合いや学校の方針もあるでしょうし、とても難しい問題だと思います。

次の段階(中学、高校、大学、専門学校、就業研修など)への計画的な移行

  • 新しい環境に慣れるための準備
  • スタッフの教育
  • 家庭訪問の回数を増す(相互協力 ― 3月に新担当者が学生を訪ねることを検討)
  • 16歳以上の子どもには、将来にむけた計画を立てる

専門家間のネットワーク

学校/家族用に個別教育プラン(IEP)の評価ミーティングをする際、言語聴覚士や教育/臨床心理士などの専門家を交えるとより有効

  • 支援活動をうまく持続するため、目標ターゲットや戦略を定期的に見直し、更新することが不可欠。記録を取る係を決めておくこと
  • 通常アセスメントのフレームワーク(CAF)または(教育的ニーズの)ステートメント
  • 16歳以上の子どもに対する特別支援
  • 関連チャリティ団体へのアクセス

みく注: 日本では特別支援制度がどの程度浸透しているのか私には判りませんが、IEPを作成して関係者が定期的に会合するというところまではいってないのでは?(文部科学省のサイトで、平成19年度に作成された「特別支援教育の推進について(通知)」を見つけました。基本的には、個別指導計画(IEP)の作成を推進しているようですね。 

http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/07050101.htm)。

イギリスでも学校によって緘黙児に対する支援の体制・程度は本当にまちまちです。ただ、特別支援の対象になれば(通常は何か問題があれば、診断が下りてなくても対象になります)IEPの作成が義務付けらるため、何らかの支援は受けられるはず。また、保護者が関わることによって、SENCO(特別支援コーディネーター)と担任との連携も強くなるような気がします。緘黙児は問題をおこさないため放っておかれがちです。また、緘黙期間が長ければ長いほど、担任も保護者もどうにもできないと思いがち…。保護者から学校への働きかけが必須になるかもしれません。

 

関連記事:

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その1)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その2)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その3)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その4)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その5)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その6)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その7)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その8)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その9)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その10)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その11)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その12)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その13)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その14)

 

ひと足遅れの花便り

4月上旬に日本から戻ってきたら、知らないうちに中庭の植物たちがぐ~んと成長して、緑いっぱいになってました。全く手入れせず、肥料もあげてなかったのに、植物って健気ですね。

バタバタ忙しくしている内に季節が駆け足で過ぎてしまいましたが、今年の春の風景を少しだけおすそ分けします。

IMG_20150429_193252

4月中旬の日曜日の夕暮れ、家に帰る道すがらふと空を見上げると、まだ青い空に薄い月が出ていました。散りかけの桜の大木の下を通ったら、冷たい風とともに花びらがはらはら。

IMG_20150428_193059偶然桜の花吹雪みたいな写真が

IMG_20150424_173031IMG_20150424_173058

     今年はぼんぼりのように咲くロンドンの八重桜の季節を見逃してしまったよう…。でも、代わりに知人宅でりんごの花を満喫しました

うちの小さな中庭で一番早く花を咲かせるのは、フェンスいっぱいに蔓を巻きつけているアケビの花。今年は、その蔓にアルピナ系のクレマチスも加わりました。実は、タグの写真についていた葡萄色の小さな花が気に入ってアケビとは知らずに苗を購入し、後で「フェンスにあの不思議な実がいっぱいぶら下がる?!」と後悔したのです。でも、4年経っても一度も実をつけません(ほっ)。

IMG_6273目を凝らすと、濃い臙脂色のアケビの花も見えます

IMG_6258

アケビというのは不思議な植物で、ひとつの株に雄花と雌花が別々に咲きます(雄雌同株)。写真の大きい方の花(実際は萼)が雄花で、右側の小さいほうが雌花。昆虫によって受粉するらしいのですが、うちの庭では4月に蜂は見たことないし…。

IMG_6253IMG_6310

昨年植えた白い花たちが一気に増えてました。花にも本当に色々な個性がありますね。

 

『私はかんもくガール』―場面緘黙児のなんかおかしな日常って?

今年2月に出版されたコミックエッセイ『わたしはかんもくガール』(合同出版社)は、元緘黙児でイラストレーター&2児の母親でもある、らせんゆむさんの作品です。(実は、私も帯のお手伝いさせていただきました)。

download

もう読まれた方も多いと思いますが、今さらながら感想を。まず最初に思ったのは、やはり日本のコミックカルチャーはすごい!ということで、文字だけだと判りにくい緘黙児や抑制的な気質の子どもの気持ちや態度、表情などがつかみやすいですね。苦悩の末、どんな風に緘黙を克服し、後遺症と戦ったかをユーモアたっぷりに綴っています。

らせんさんが緘黙になったきっかけは、幼稚園に入園したこと。初めての公の場で緘黙になる子どもは多いですが、それ以前の3~4歳の段階で自ら「外ではしゃべらなくていい」と決心するなんて…とても早熟で利発な子だったのでしょう。そして、とても感受性が高かったんじゃないでしょうか?それゆえに、家庭環境からの影響も強く受けただろうと想像されます。

私は所属しているTAエージェントでも、ボランティアをしていた特別支援校でも、愛着論理(Attachment Theory)の研修を受けました。乳・幼児期に少なくとも一人の養育者と親密な関係を維持できないと、子どもは社会的・心理的な問題を抱えるようになるというものです。Wikiの愛着論理の説明: http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%9B%E7%9D%80%E7%90%86%E8%AB%96

両親が喧嘩をしていると、子どもは自分のせいではないかと不安になります。その上、無条件で愛してくれるはずの母親が、時として自分を否定するような言動を取るというのは、めちゃくちゃ辛くて混乱することだったに違いありません。

軽妙なタッチで描かれていますが、緘黙と家庭での問題がダブルでのしかかり、それを自分だけで克服していくのは本当に、本当に大変だったと思います。

学校で話せない緘黙児は、同世代の子ども達や大人とコミュニケーションを取ることが難しく、社会的な体験を積む機会が失われがち。学校は子どもが社会性を培い人格を形成していく集団生活の場でもあるので、長く緘黙していると社会性の発達に支障をきたし、いわゆる「後遺症」が残ってしまいます。ちなみに、緘黙に限らず、話し言葉、言語、コミュニケーションに難しさを持つ子どもは、心理的・社会的な問題を抱えやすく、その影響が態度やふるまいに反映される傾向が強いようです。(2年ほど前、『Supporting Children with Speech, Language & Communication Needs』というコースで学びました)。だからこそ、家庭が安心できる場であり、のびのびと過ごせる環境であることが望まれます。

ゆむさんは社会人になってうつ状態になった時、自らクリニックに通い、たくさんの本を読んで思考を転換する強さを持っていました。そして、「母も母なりにしんどかったんだろうなあとは思う」、お父さんと旅行した際「初めて父の心境や苦労を聞けた」と、不安や怒りを浄化し、過去を受け入れて親に思い遣りを持つまでに自分の気持ちを整理できたよう。すごいことです!

ゆむさんを支えていたのは、「好きなこと」で培った自信だと思います。「やりたい」ことへの情熱と追求心は半端なく、苦境を創作意欲に変えてきた面もあったでしょう。もともと才能があったところに、努力を積み重ねて希望する職業に就き、色々な人と関わって自信をつけていった結果、緘黙もうつも克服できたのではないでしょうか。

「好きなこと」「得意なこと」の力ってすごいなと、改めて思いました。

それと、私も母親なので、読んでいてお母さんのことが気になりました。彼女は彼女なりに娘のことを愛し、心配していたのではないかな?好きな習い事を続けさせたり、美術系の高校に進学させたり、ゆむさんの個性を尊重し才能を認めていたと思います。ただ、自分が問題に直面すると、その不満のはけ口が自分より弱い存在である子どもに向かってしまった…特に攻撃しやすい対象だった長女のゆむさんに…。

そういう私も、時々息子に怒りを爆発させてしまいます。何かにつけて慎重な性格なので、「早く!早く!」とガミガミ急がせることもしょちゅう…注意しないといけませんね。緘黙支援をしている時、子供や自分のことで悩んでいる時、のめり込んでしまってどうしても視野が狭くなりがちかと思います。母親にも話し相手や息抜きがとても大切ですね。

*ここ数日間サーバーがダウンしていて、ブログへのアクセスができない状態でした。もしアクセスしてくださった方がいらっしゃったら、どうもすみませんでした。

 

緘黙児と習い事-うちの場合

緘黙児、というか抑制的な子どもにとって、好きなことを奨励し、個性を伸ばすことはとても重要だと思います。本人が「これが好き」「楽しい」「得意」と感じることが自信につながり、自己評価があがるからです。また、将来的に仕事に結びつけば素晴らしいですが、趣味としてキープできれば社交の糸口になってくれそう。

うちの息子の場合は、4歳の頃から音楽教室に参加し、その延長で7歳から吹奏楽器を習い始めました。理由は小さいころからいつも鼻歌を歌ったりと音感が良かったこと。また、スポーツ好きの子どもではないのが明白だったからです。

音楽教室に入った当時は、引っ込み思案だったものの、まだ緘黙ではありませんでした。途中で(4歳半で小学校に入学してから)緘黙になったんですが、その後も先生から「お宅の子は歌ってません」とか「固まってます」と注意されたことはなく、多分何とかやってたんでしょう。

吹奏楽器を選んだ理由は、お試しでヴァイオリンとコルネットをやってみたら、初めて挑戦したコルネットで結構音が出て先生に褒められたから。この頃は緘黙症状が徐々に和らいでいて、人前で「吹く」ことが、「話す」練習になるように思えたからでもありました。また、楽器ができれば、学校以外の友達を作れるかもという希望もありました。

スポーツもやらせたかったんですが、本人がものすごく嫌がり、やってもいいよという感じになったのは緘黙が随分改善した9歳のころ。が、この年齢になると、既に同級生は空手3年目とか、地区の少年サッカーチームのレギュラーとかになっていて、これから始めるにはすでに時遅しという感じでした。

その後、アーチェリーと卓球にトライしたものの、どちらも正式にクラブに入会する段階になって脱落…試合のために猛練習するほど好きじゃなかった/上手くなかったんですね…。今では、時々祖父に連れられてゴルフに行くくらいかな。

これまでの経験で思うことは、

  • 適性がないと長続きしない
  • 周りの子と同じ時期にスタートしないと、後からは入りづらい
  • 集団よりマンツーマンで習えるもの、マイペースで進めるものがベター

息子はマイペースで今も楽器を続けています。地区のブラスバンドにも入っていますが、ポジションはいつもその他大勢のひとり。そんな息子ですが、今年に入って楽器をやっていて良かったと思えることがいくつかありました。

2月のハーフタームに義両親宅に滞在した際、村の公民館で小中学生のための音楽セッションがありました。義両親は責任者夫婦と親しく、息子も彼らとは顔見知り。私と義父は公民館に息子を預け、3時間ほど買い物へ。帰りがけに息子を迎えに行くと、年下の男の子と一緒にドラムを叩いていました。

夕食の支度をしていた時、「今日は大勢の子に楽器を教えたよ。これだったら、日本でホームスティもできそう」と息子が漏らしたのです。(我が家には主人のドラムキットとギター、息子がグラニーにもらったウクレレなどがあり、息子はよくこれらで遊んでいます)。

3月中旬には、遅れに遅れていたグレード5の検定試験を受けました。ゆっくり目だったものの、大幅に遅れたのは1年半歯の矯正をしていたためと(高音が出せなかった)、昨年試験間際になって先生が突然変わったため。

2年以上も同じ課題曲を練習してたので受かるハズの試験でしたが、当日思わぬ落とし穴が…。息子を連れて試験官の家に行くと、伴奏してもらう先生がなかなか来ない!(試験は平日の授業中に、不便な住宅地で行われるのです)。そのうえ、息子は「サイレンサー(消音ミュート)忘れた!」とパニック気味。チューニングに5分もらえるのですが、別室から聴こえる音がビビってました~!

緘黙は治っても、息子の抑制的な気質は変わってません。待合室には試験を受けに来た子どもや親がいるため、演奏を聴かれたくない気持ちが大きく、動揺してたと思います。

で、そのまま試験に突入。待合室で最初の課題曲を聴いた私は、「ああ、これは落ちた」と確信したのでした。それまで何回聴いたか判らない曲でしたが、あんなに詰まったのは初めて。2曲めからは失敗しませんでしたが、これは駄目だと思って息子にも言いました。そうしたら、先日合格したという知らせが!(息子いわく、「この曲の課題部分はクリアしてたから」だそう。賭けに負けて50ポンド取られました…)

そして先週木曜日は、息子の音楽人生のハイライト(多分)でした。地区の小中高生の吹奏楽団と管弦楽団、合唱団など総計1500名を集結させ、クラシック音楽の殿堂といわれるロイヤルアルバートホール(RAH)でコンサートを行ったのです。私が住む地区では音楽教育に力を入れていて、これは5年に一度の大イベント。私たち夫婦はRAHのボックス席の前列に陣取り、双眼鏡で息子を探すこと約10分。その他大勢のひとりに心からのエールを送りました。辞めたい時期もあったけれど、続けていれば何かいいこともあるんですね。

IMG_20150423_182833 BBCプロムスも開催される由緒ある会場

RAH1

 先生方の努力のお陰で一生の良い想い出ができました

どうして緘黙のティーンが短期間で話し始めるのか?

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その14)

先回の投稿から、またまた1ヶ月空いてしまいました。いきなり仕事が集中し、その後2週間ほど帰国している間はネット難民になっていました(日本では空港を除いて無料Wifiを飛ばしているところはないんでしょうか…)。イギリスに戻ったらすっかり春の気候。なにも手入れしていなかった中庭が、すっかり緑につつまれていました。

帰国中に息子は知人宅で生まれて初めてのホームスティ(4泊5日)を体験。なんと、スティ先の3人の子ども(特に、11歳の長男くん)が息子に輪をかけたような恥ずかしがり屋で、親が仲介して会話を盛り上げてくれたとか。あまり日本語は上達しませんでしたが、薪風呂や掘りごたつのある実家に連れて行ってくれたり、パネルで注文するくるくる寿司や空手教室など、貴重な経験をいっぱいさせていただきました。

さて、番外編の続きです。年が上の子への支援について、マギーさんに直接お伺いしたところ、「支援を受けたティーン全員が2、3週間で口をきくようになった」との答え。これらのティーン達は緘黙が長期間続いていたと思われるのに、すごくないですか?

その理由を色々考えてみて、下記のようなことを思いつきました。

1) 公の場で話せるようになった訳ではない

まず注意すべきなのは、彼らは自宅または学校の一室で支援者に話した、または読本などで声をだしたのであって、クラスで周囲に聞こえるように話せるようになった訳ではないということ。緘黙が習慣になってしまったティーンがそんなに簡単に話せるはずはなく、やはり克服までにはかなりの時間と努力が必要と思われます。でも、一言の答えであれ、一行の文章であれ、新しい人に対して発話できたというのはすごいことですね。これをきっかけに、どのようにステップを進めていくか、子どもが支援者と共に納得しながらどう取り組んでいくかが重要なんだと思います。

2) 学校内でのセッションの不安度が低い?

自宅は安心できる場所ですが、緘黙が起こっている現場の学校はかなりの難関のはず。どうして学校での支援も同じような結果がでるのか?これはイギリスのセカンダリースクール(12~16歳)の構造によるところが大きいような気がします。イギリスでは小学校はどこも小規模ですが、セカンダリーでは急にマンモス校と化します。日本の大学のようなシステムになっていて、教科ごとに教室を移動。ベースとなる自分の教室はなく、決まった席も机もありません。同じクラスでもバラバラの教室で授業を受けることが多く、常に移動している状態。誰かが特別な支援を受けていても、それほど目立たないのではと思います。

また、イギリスには特別支援チーム専用のスタッフや学校に通ってくる専門家がいて、教師でない大人が支援セッションを担当します。緘黙の子は自意識が過剰なことが多く、同じ学校内でも人・場所・時間帯で不安や緊張度が違います。自分のことを知っている(=苦手意識が強い)クラス担任と自分の教室でセッションするのでなく、別の大人と他の生徒が入ってこない部屋・時間帯にセッションをすることで不安度が下がり、成果が出やすいと考えられます。

3) 第三者の大人とのつながりを持ちやすい環境

年齢が上の子には、本人が納得したうえで意識的に緘黙を克服していく方法が有効といわれています。第三者の大人と信頼関係を持つことで、自分を客観的に見ることができ、それが大きな自信に繋がるのでしょう。イギリスではこの第三者の大人はだいたい特別支援員(TA)か言語療法士。こういった教師でない大人が長期の支援を行うシステムがあることが、すごく強いと思います。

日本で特別支援教育を担うのは教師だと思いますが、例えばスクールカウンセラーを増やすなど、外の大人に定期的な支援をしてもらえるといいなと思います。養護教諭や用務員など、教員以外の大人にも配慮してもらえると嬉しいですね。

4) 家庭のサポートも大きく影響していそう

マギーさんが所属しているケント州のコミュニティヘルスNHSトラストは、公共の機関です。ケント州に住む友人によると、親や支援者が直接マギーさんに無料相談できる定例会が開かれているそう。(同じイギリスでも住んでいる場所によって違うんですが、ケント州とSMIRAのあるレスター州は緘黙支援が充実しています)。ということは、支援者と親、専門家のネットワークも充実しているんですね。この支援プログラムでは親とのセッションもあるので、親も子どもの状況を把握でき、それに見合ったサポートが可能になります。

思春期の子どもとどうコミュニケーションを取り、家庭を居心地のいい場所にできるかは世界的な課題です。例え子どもが自分のことを話さなくても、親に信頼されていて、いつでも助けてもらえると感じていれば、心理的に随分違うのではないでしょうか。

 

緘黙のティ―ンが2、3週間で話し始める?!

 

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その13)

前回から随分間があいてしまいましたが、マギー・ジョンソンさんの年齢が上の子の支援について再開します。この講演は昨年3月のSMIRAコンファレンスで行われたものなので、既に丸1年が経ってしまいました~。講演の翻訳はもう終わりに近いのですが、今回はその続きではなく番外編をお届けします。

SMIRAの講演では、支援方法やセッションの進め方を中心に話が進められました。そのため、ジェイ君がどの時点でマギーさんに話し始め、学校でどのように変化していったかという説明はありませんでした。

小学校中・高学年以上の緘黙の子ども達は、幼稚園や小学校の低学年から学校でずっと沈黙を守り続けていることが多いと思います。支援を受けた子ども達(多分、11歳以上の子が多いと思います)は、マギーさん、もしくはマギーさんの指導を受けた支援者と何回目のセッションで話し始めたのか?それがとても気になり、昨年秋にマギーさんにメールで質問しました。そして、下記のような回答をいただきました。

1) 長期間緘黙してきた子ども達は、大体何回目のセッションで話すようになるのか?

大体このくらいというような目安はない。子どもへの対処の仕方、信頼関係、子どもが持つ困難に対してどんな説明が行われたか、またセッションの頻度にもよる。でも、私が担当する学校支援者に限っていうと、全員のティーンが2、3週間で支援者に口をきくようになっている。

2) 各セッションの長さと場所は?

各セッションは、最後に両親と話す時間も含めて1時間半ほど。ジェイ君の場合は、クリニックではなく自宅で行った。

3) 「声をだして読む」課題はだいたい何回目のセッションから始めたらいいのか?

初回から読める子もいれば、もっと回数を経ないとできない子もいる。ジェイ君の場合は、2回目のセッションでできた。すぐに話し始める子には、「声を出して読む」課題は必要ない。子どもによってペースが異なるので、よく観察してどんな課題を与えるか判断する必要がある。

「全員のティーンが2、3週間で支援者に口をきくようになった」ときいて、正直ものすごく驚きました。学校で何年間も沈黙していただろう子どもが、たった2、3週間で話すようになる?! 本当なんでしょうか?しかも、ジェイ君の場合はマギーさんが彼の自宅でセッションしましたが、学校支援者は場面緘黙が起こっている現場の学校内で支援を行っているはず…。

どうしてそんなに早く話せるようになるのか、次はその理由を考えていきたいと思います。

春の兆し

1月の初めに日本から戻って以来、五里霧中のような感じで
何をするにも現実感が薄い毎日
霧の中にすっぽりと囲まれてしまったようで
出口を見つけようともがいていました。

久しぶりに帰った我が家では
キッチンのオーブンが壊れて使えず
今年で15年目になる車も故障中
そのうえ、予期せぬ爆弾のようなメールが届いて
ただでさえ沈んでいた気持ちが、さらに降下することに。

そんな時に話を聞いてくれた友達と
いつもマイペースの家族がいてくれて
何とか心のバランスを保つことができたような気がします。

TAの仕事には戻れませんでしたが
単発の仕事が舞い込んできて
急に忙しくなったのも良かったのかもしれません。

でも、いったん仕事が切れたら
やっぱりモヤモヤは晴れてなくて
またまた無力感に襲われる日々。

これではいけない、何とかしなくちゃと焦り
気分を上向きにするために
自分の好きなこと、今やりたいことを
とにかく実行してみようと思い立ちました。

偶然にもネットでアイスショー”Art on Ice”のチケットを譲りたいという人がいて
試しにコンタクトしてみたらトントン拍子に話が進み
ローザンヌへ一泊の旅にでかけることに。

IMG_20150212_161004

ロンドンからジュネーブまで飛行機で1時間半、ジュネーブからローザンヌまで電車で40分ほど。
知り合いが誰もいない土地にひとりで行くなんて、何年ぶりのことか…。

IMG_20150211_141022IMG_20150211_141008

まずホテルに荷物を置いて起伏の多い街をぶらぶら観光。まだ雪が残る中、陽光が暖かかったので外で遅いランチを摂りました。何の変哲もないサンドウィッチだったのに、ライ麦パンとマスタードがめちゃ美味しかったです。

IMG_20150211_144048IMG_20150211_144541IMG_20150211_144818IMG_20150211_145101

カフェから階段を上がるとすぐローザンヌ大聖堂。小高い丘の上にあり、街を見降ろせました。

IMG_20150211_213946

夜は無事にアイスショーを鑑賞。結構リンクに近い席で高橋大輔、ステファン・ランビエール、カロリーナ・コストナー、ジョアニー・ロシェット、ボロソジャル&トランコフ等をガン見してきました。チケットを譲ってくれた熱烈なフィギュアファンの女性と少しおしゃべりも。彼女はVIP席で公演後のパーティにも参加したそう。

IMG_20150212_105341IMG_20150212_103401

翌日は曇り空の下でレマン湖付近を散策

IMG_20150212_110225IMG_20150212_110135

オリンピック博物館を通りぬけてエリゼ写真美術館に行く途中、シュールな彫像がいっぱい。写真の彫像は何かルネ・マグリッド風じゃないですか?

ラクレットチーズをお土産に、夕食の支度に間に合うようにロンドンに帰りつき、ふたたび日常に戻りました。

ちょうどバレンタインの日から
息子の学校のハーフターム(学期中間の1週間休み)が始まったので、久しぶりに主人の実家へ。

IMG_20150214_090658

主人と息子からのチョコとカードに感激

どういう訳か義父と義母が順番に風邪(インフルエンザ?)で寝込んでしまい
1週間ずっと家事を担当するはめになりました。
帰国中に息子を預かってもらったので、少しはお返しができたかも。

天気はあまり良くなかったのですが
空気に春の兆しが感じられ、早春を告げる花々が咲き始めていました。

IMG_20150217_160712

IMG_20150221_141313

IMG_20150217_160440

こんな風に季節はまた巡り、新しい生命が芽吹いていくんですね。自然の力はすごいです。

私のひとりごとに最後までお付き合いくださった方、ありがとうございました。次からやっと、緘黙の話題に移れそうです。

2月ももう終わり

2月ももう終わりですね。

昨年の12月に一度エントリーしてから、もう2ヶ月以上が過ぎてしまいました。
その間に、ものすごくたくさんのものを失ってしまったような気がします。

小さな頃から大切にしていたもの
私を育んでくれたもの
ずっと心の支えにしていたもの

そういったもろもろを一度になくしてしまったような
心のなかにぽっかり穴が空いてしまったような
霧の中にひとり迷いこんでしまったような

そんな気持ちから抜けだせず、なかなか前に進めないでいました。

少しずつ心の整理をしていくために、忘れることができない今年の冬の心象景色をここに貼っておこうと思います。

IMG_20141218_071536IMG_20141219_113435IMG_20141222_094543IMG_20141229_163616

IMG_20150102_142538

IMG_20150102_142617IMG_20150102_142442

IMG_20150116_093304

支援セッションの構成

あっという間にもう12月も半ば。家庭の事情で学校の仕事を早めに切り上げ、先週末から急遽帰国しています。状況が少し落ち着いてきたので、10月中旬で止まっていたマギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンへの支援』の続きをぼちぼち再開していきます。

内容の著作権はマギーさんに属しますので、この記事の転記や引用は固くお断りします。なお、年が上の子どもへの支援は、緘黙支援のバイブルと呼ばれるマギーさんとアリソン・ウィンジェンズさんの著書『場面緘黙リソースマニュアル(Selective Mutism Resource Manual Speechmark社)』の第二版(2015年春/夏出版予定)に新項目として掲載される予定です。

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その12)

ジェイ君(15歳)のケース

<支援セッションの内容と構成>

セッションは毎回3つのカテゴリーに分けて行った(順番を決めたのはジェイ君自身)

1) キーボードとPC画面を使うセッション

ランキング表やスケール表を作ったり、概括的に考察しながら、自己分析をする。質問表のいくつかは、セッションの合間に電子メールを介して完成させた。

2) コミュニケーションスキルを上達させるための実用的なセッション

面接で良い印象を与えるための指導

3) 実際に課題をこなすセッション

(課題例)

・私(マギーさん)のパワーポイントのプレゼンをどう改善できるか、自分の考えを文書で説明する(非言語)

・PDFのソフトウェア設置と使用方法について説明する(準備したものを読み上げる)

・午後4時に電話を受け、指定しておいたPCに関する質問について答える(事前に警告)

・明日の午後に電話を受け、PCに関する質問に答える(事前の準備なし)

みく注: 子どもによって性格や緘黙の程度、家庭と学校の環境、得意とすること等が異なるため、それぞれの子どもに合わせて、その子のペースでセッションを進めていく必要があります。どんな風に接したら子どもが安心してくれるか–それは支援者との相性によるところも大きいかもしれませんね。とにかく、最後までじっくり付き合うという心構えでいきましょう。子どもが支援者に心を開いた時、すぐ声が出る子もいれば、ちょっとした工夫が必要な子もいるかと思います。どの時点で非言語の課題から「読む」・「電話で話す」に進むか、どの程度進むか、その見極めも重要なポイントとなってきそうです。

関連記事:

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その1)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その2)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その3)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その4)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その5)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その6)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その7)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その8)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その9)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その10)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その11)

 

もう12月ですね

早いもので、今年もあと残すところあと1ヶ月となりました。ふと気づけば、11月のブログ更新はたったの1回だけ…。

心配事がどんどん深刻になってきて、立ち往生したまま何もする気になれない毎日--学校で子ども達と向き合って忙しい時間を過ごすのが、とっても救いになっています。笑ったり、泣いたりしながら日々色々なことを吸収し、少しずつ成長している子ども達の姿を見ていると、こちらまで元気をもらえます。

IMG_20141124_075912

だんだん寒くなってきて、通勤路の草むらに霜の降りる日もちらほら

11月29日は主人の誕生日だったので、久しぶりに家族で外出しました。行き先はテムズ南岸にあるデザインミュージアム。インテリアデザイナーのテレンス・コンラン卿が1989年に開設した小規模なモダンデサインの博物館です。何のことはない、無料チケットの期限が切れる直前だったという理由から、テムズ河沿いの散歩がてら行って来たのでした。

IMG_20141130_143733IMG_20141130_143740

途中、キングスクロス駅で地下鉄を下りて、ちょっとだけショッピング。ヴィクトリア王朝時代に建てられたネオゴシック様式の重厚なセントパンクラスの駅舎は、6年がかりの大改装工事の末2007年にリニューアルオープンしたもの。左側は、ユーロスターが発着する駅に直結するセントパンクラス・ルネッサンス・ホテル

IMG_20141130_150857

ロンドンブリッジ駅で下車し、曇り空の下タワーブリッジの袂を通ってデザインミュージアムへ

IMG_20141130_150945IMG_20141130_153944

ロンドン市庁舎ではクリスマスデコレーションを設置中。右はデザインミュージアムで観た”Women Fashion Power”。女王、女優、政治家など、それぞれの地位を築いた女性たちがどのようにファッションを武器にしてきたか、コルセットの時代から現在まで150年の変遷を辿った展示です

IMG_20141130_162630デザインミュージアムを出たのは4時半過ぎ。既に薄暗いテムズ河岸の散歩道に電灯が輝き始めて

IMG_20141130_163436

対岸の夜景。右側に見える建物はロンドン塔です

IMG_20141130_164224

ヘイズ・ギャレリアのクリスマスツリー