告知することの重要性 SM H.E.L.P. 2025年10月サミットより(その1)

今秋もアメリカのケリー・メルホーンさん主宰のSM H.E.L.P.が、恒例のオンラインサミットを開催。今回のテーマは神経心理学による診断・子どもへの告知から、子どもを支える家族のメンタルヘルスケアに至るまで、ますます裾野を広げた内容になっていました。

      ロンドンは街じゅうがハロウィンの飾りだらけ。31日の今宵は生憎の雨となってしまいましたが、子ども達が”Happy Halloween!”と大勢やってきました

…………………………………………………………………………………………………………………………..

講演者:リズ・アンゴフ博士(Dr. Liz Angoff)

神経心理学の専門医資格を持つアメリカの教育心理士。20年にわたり学校神経心理士として勤務した後、自らの診療所を設立。脳の多様性を持つ子どもとその家族が、子どもの脳の特性を理解し、子どもの考え方や感情を支援していけるよう尽力している。

神経心理学(Neuropsychology)とは?

近年の研究により、発達障害がある子どもの脳は通常の子どもの脳と機能に違いがあることが確認されています。この脳機能の特性の違いが、コミュニケーションや行動に影響を及ぼすと考えられています。現在では、この違いを多様性として捉え、互いに尊重し合い、活かしていこうという考え方が主流になってきました。 神経心理学では、人の脳と神経系が行動や認知機能にどのように関連しているかを研究。神経心理学士は臨床評価と認知機能検査を組み合わせて患者のもつ課題を理解し、管理と治療のための方針・対策を決めます。

子どもが持つ負のイメージを覆すために

脳/神経の多様性(neurodiversity)がある大人と話すと、それぞれの発達障害が何であれ全員が同じことを言います。「小さい頃から自分が他の子達と違うのは判っていた。自分はバカで、のろまで、怠け者で、駄目なんだって…」。

彼らの話から見えてくるのは、幼少期から自分に対して否定的な負のイメージを持ち続けてきたということ。

私たち神経心理士が目指すのは、子どもが創りあげた負の自己イメージをくつがえし、自信を持って生きられるようにすること。そのためには、保護者だけでなく、子ども本人にも(年齢相応に)自らの脳の働きを説明し理解させることが重要になってきます。

どの段階で神経心理士に相談するか?

例えば、学校での発表が不安な子がいたとします。発表について子どもと話したり、落ち着くための呼吸法を教えたり、不安を和らげるためのセラピーを受けさせたり、学校に支援を求めたり、というのが第一段階の介入です。

それでも根本的な問題が解決せず、疑問や混乱が残る場合、次のレベルとして神経心理学が使われます。

私が良く使うメタファーは、私たちの脳は常に建設途上で、新たな回路やコネクションを常時作り続けているというもの。どの回路の性能が良く、どの回路の性能が悪いかーーよく使う回路は効率的で安定しており、中には高速回路もあるかもしれません。反対に、工事中の回路はショートしたりと不安定です。保護者に求められるのは、子どもが脆弱な回路を使わなければならない時、その回路をどう強化していくか。また、その回線が使えなければ、新たな回路を開発していくことです。健常児が使う典型的な回路が有効でない場合は、その子に合う新たな回路を見つけるよう支援します。

場面緘黙の子どものケース

場面緘黙の子どもの場合は、不安の背景にあるものは何かを探ります。例えば、他の神経系の問題として ASDやADHD、学習障害などが根源にあることも。また、不安になりやすい神経系統に生まれついた子もいます。

アセスメントは子どもに複数の活動(非言語のものが多数)を行わせる他、保護者や子どもを良く知る教師などに問診をします。そうして、子どもが情報をどう処理して、世界をどう捉えているかを理解していきます。

場面緘黙の子どものアセスメントにおいては、子どもが安心して自由に話せる場が限られているため、保護者の助けが必須。「得意なこと・苦手なことは?」「もし魔法の杖があったら、変えたいことは何?」など、保護者が子どもに訊くよう指導することもあります。

診療所、家庭、学校などから集めた情報を元に、アセスメントの評価を行います。その評価を元に診断を下し、治療・支援方法を考えていきます。

アセスメントと診断・告知の手順

  1. アセスメントを始める前に、本人に後で結果を教えると告げる
  2. アセスメントを行う
  3. 脳がどう働いているかを解析したら、その情報をシェアしていいか子どもに確認する。子どもにも参加させ、意見を言う場を与える
  4. 保護者に子どもの脳の特徴と診断名を告げ、支援方法を話し合う
  5. 子どもに脳の特徴・診断名を告げ、今後どうしていくかを話し合う
    • 高速回路(得意分野)は何か?
    • 脳が工事中のところ(不得意分野)は何か?
    • 今頑張って進歩していると思えるところは?(例えば、自転車に乗ること、特定のPCゲームなど)
    • 日常生活で困難なところは?
    • 診断名を告げる時は、世界中に同じ様な子がいること、子どもの持つ良い面(集中力がある、観察力が鋭いなど)を強調する

…………………………………………………………………………………………………………………………..

みく注:

私が勤めている特別支援学校(高機能ASD児専門)でも、脳の多様性の理論が浸透していて、それぞれの生徒が自分らしく生きられるよう支援しています。本人が自分の特性を知り、それをどう生かしていくか、苦手な部分をどうカバーしていくかが課題。書字障害がある子が試験の時にワープロを使ったり、ADHDの子が頻繁に小休憩を取ったり。周囲の理解と協力がどんどん広がっていくといいなと願っています。

<関連記事>

SM H.E.L.P. 2024年10月サミット

SM H.E.L.P. 2023年10月サミット

SM H.E.L.P. 2022年10月サミット

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

10月は場面緘黙の啓発月間

気がつけば、もう今月も半ばに突入。昨日、10月10日は世界精神保健連盟(WFMH)が定めるメンタルヘルスデーでした。10月はメンタルヘルスの啓発月で、イギリスでは毎年この時期になると場面緘黙がメディアに取り上げられます。今回ご紹介する記事は昨年3月にBBCエセックスニュースに掲載されたものですが、よりインパクトが強いと思い翻訳してみました。

…………………………………………………………………………………………………………………………..

場面緘黙:『人は私のことを礼儀知らずとみなすけど、本当は恐怖で凍り付いてるの』

英国エセックス州に住むデイジー・メイさん

デイジー・メイさんが成長していく中、家族は彼女がただ内気なだけだと思っていました。しかし、見知らぬ人の前での頑ななまでの沈黙は、実は場面緘黙(SM)だったのです。

この不安障害のため、エセックスに住む12歳のデイジーさんは、両親以外の人とほとんど話すことができません。

NHS(英国国民保健サービス)によると、場面緘黙は特定の社会的状況でフリーズ反応を引き起こす外的な症状で、本人は不安やパニックに陥っていると言われています。

この症状のためにデイジーさんは友達を作ることができません。しかしながら、ダンスやオンライン動画を通して演技をすることに情熱を見出し、自分を表現して自信を持つことができるようになりました。

メールで行われたインタビューで、デイジーさんはSMが日常生活にどのような影響をもたらしているか、自分自身の言葉で語ってくれました。

楽しみは、ダンスとオンライン動画制作で自分を表現すること

「想像してみてください。毎日の生活の中で人と交流する時、体はそこにあるのに口が動かず、不安で言葉が出ません。頭の中は空っぽなの。周りの人たちが話しているのを見ても、自分は話せない――行き詰まってしまう。トイレに行きたくても、どこにあるのか訊ねることさえできません。

これが場面緘黙を抱える私の人生。

ただただ言葉が見つからない。家の外では、たとえ言葉が浮かんだとしても、怖すぎて固まってしまうんです。何の助けも求めることができず、笑ったりおしゃべりすることもできない。

周りの人は、私のことを無関心でフレンドリーじゃないと思っています。不愛想な子だと。まるで、自分たちと同じ世界の人間じゃないみたいに。

私は一人ぼっち。

友達は1人もいません。私は「友達はいらない、1人でいたい」と言っています。でも、友達同士が一緒にいるのを見ると、いいなって思う。でも、誰とも話せないから、私には無理でしょうね…。家族ともまともに話せず、人と会った後はすごく疲れてしまいます」

 母親のルイーズさんと一緒に舞台に立つことで、演技を通して自信を深めてきた

「昨年パントマイムに出演した時は、母とは更衣室が別でした。他の子たちはゲームをしていたけれど、私は参加できず側で見ているだけ。話すことも参加することもできないから、ただ傍観するだけでした。

でも、私は人真似がすごく得意で、家に帰って母に彼らの会話の内容を全部説明できるんです。皆が何を言っていたかちゃんと覚えています――皆は私が関心を持ってないと思っているかもしれないけれど、すごく興味があるので。

でも、演技をしている時は別。話すことはまだできなくても、その力があるように感じじられるんです。皆と一緒にショーに参加している時だけが、何かできるように思える唯一の時間です。一人ぼっちじゃない。

私は人と一緒にいること、そして大勢の観客の前で演技することが好きです。大勢の人がいるけれど、彼らは私が話しかけることを期待していないし、しっかりリハーサルするから演技には自信があります。

私は耳栓をしなければならないけれど、音楽が好きなんです。観客が笑顔になって、拍手してくれて、私を見てくれるのが好き。そうしたら、私も笑顔になれて、違う人間になれるから。

今月初め、「Uniquely Me(ユニークな私)」というチャリティ・タレントショーを開催しました。何週間も練習して、なんとか短いスピーチもすることができたんです。

彼女は今後、もっと多くの募金活動や啓発イベントを開催したいと考えています。

「特に、私と同じような人たちに才能を発揮する機会を持ってもらいたいと思って、タレントショーを開催しました。誰でも参加できて受け入れられる場――私がいつも感じる疎外感がない場を。

参加してくれた子どもたちは、様々な背景、文化、障害を持っていましたが、皆で一緒に幸せに過ごすことができました。イベントが上手くいって、人々に場面緘黙について知ってもらえたのがとても嬉しくて、また開催したいと思っています」

デイジー・メイさんは緘黙のせいで他の子どもたちと話すことができないため、友達はいらないと自分に言い聞かせようとしてきました。

「誰も場面緘黙症が何なのかを理解してくれません。私が話さないと大騒ぎするか、完全に無視して諦めてしまうかのどちらかです。人付き合いが悪いわけじゃなくて、人は好きなんだと説明できればいいんですが…。

場面緘黙と書かれたストラップを首から下げて、周りの人に理解してもらいたいです。自閉症の人と同じように。手話を習おうとしましたが、誰かの前で固まってしまうと腕も何も動かないから、難しいです。

私は自閉症なので、将来のことはあまり心配していません。将来のことを話したり想像したりするのが苦手だからあまり考えませんが、ママがすごく心配していることは知っています」

デイジー・メイさんの母親、ルイーズさんは、『Uniquely Me』の後、他の保護者たちから、このショーが子どもたちの自信を高めるのに役立ったという手紙を受け取りました。

ルイーズさんは娘が見逃してきたものについて心配しています。

「私は毎日娘の将来を案じています。デイジー・メイは何でも私に頼っているから。娘はお店で簡単なことさえ頼むことができないんです。緊急事態に自分で対処できないだろうと思うと、ひとり放っておくことはできず、本当に辛いです。

娘は一度も友達と遊んだり、お泊まりに行ったこともないから、どこかで何かを頼んだり、自分の要求を伝えたりすることはできないでしょう。もし私に何かあったら彼女はどうなるのかと、不安でなりません」

BBCエセックスニュース 記者:レイチェル・マクメネミー

https://www.bbc.co.uk/news/uk-england-essex-68388212

<関連記事>

BBCの緘黙記事とバイリンガル

BBCの最新データ

BBCが大人の場面緘黙を紹介

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村