2018年SMiRAコンファレンス(その1)

先月21日、イギリスのレスターで2018年SMiRAコンファレンスが開催されました。例年だと3月に行われるのですが、今年は大雪で延期になり4月に。全国から保護者、学校関係者、専門家など90名ほどが集まり、4つの講演と意見交換会で盛り上がりました。講演の内容は下記の通りです。

  • 「恐怖の顔を変える Changing the Face of Fear」 アナ・ビアバティ゠スミス SLT(言語療法士)&場面緘黙のための臨床ネットワーク事務局長
  • 「SMiRAによる、『場面緘黙の支援の求め先一覧』の紹介 Introducing SMiRA’s “How to Get Help for SM” chart 」スザンナ・トンプソン SLT
  • 「保護者そして教員の視点から見た場面緘黙 SM from a parent and teacher’s perspective」クレア・ニール 保護者&SMiRAコミッティメンバー
  • 「場面緘黙トーキングサークル―場面緘黙経験者による成人のためのサポート SM Talking Circles- Peer support for adults with lived experience of SM」 ジェーン・サラザー 元緘黙当事者

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昨年と変わったことは、会長のアリス・スルーキンさんがご高齢のため正式に退任され、シャーリー・ランドック゠ホワイトさんが会長に就任されたことでした。

前会長のアリスさんは、シニア精神医学ソーシャルワーカーとして働いていた1960年代後半に「話さない子どもたち」に遭遇し、いち早く場面緘黙を研究・支援してきたパイオニア的存在。事務局長であるリンジーさんの娘さんを治療した縁から、1992年に二人でSMiRA(Selective Mutism Information Research Association)を創設。緘黙児支援に尽力されてきました。(実は、2005年に電話でうちの息子を「緘黙」と診断していただき、個人的にも大変お世話になりました)。

今回会長になられたシャーリーさんは、長らくSMiRA役員会のメンバーとして活躍されてきた女性です。元農学研究科学者で現在はセカンダリースクールの教師。20代の緘黙の娘さんがいるため(最近になって良い支援者に巡り合い、現在自立するための準備中だとか)、保護者、教師の立場も理解し、総合的な視点でSMiRAを引っ張って行ってくれそうです。

<シャーリーさんの挨拶より>

場面緘黙を患う子どもは、140人にひとり。イギリス全国だと7万9000で、成人も入れるとかなりの数になります。何と、世界中に約1370万人のSM児がいる計算になるそう。(ただ、私は地域コミュニティの絆が強い国は、発症率が少ないんじゃないかと推測していますが…)。

近年、イギリスでは財政赤字のため、国民医療(NHS)に費やされる国家予算がどんどんカットされています。学校における特別支援教育に対する援助も厳しい状況になってきているのが現状。

そのため、学校や公共機関からの支援を待つのではなく、保護者が学校での介入・対策に積極的に働きかけ、関わることを強調していました。

その際、武器となるのが2016年に改定された『場面緘黙リソースマニュアル(The Selective Mutism Resource Manual)』です。

約500ページに及ぶこの実用書は、緘黙治療の第一人者といわれるSLTのマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが最新の知見と治療体験をもとに共著。2001年に初版が出版されて以来、イギリスでは緘黙治療のバイブルと呼ばれ、専門家や学校関係者に高い評価を受けてきました。

改訂版では、最新の情報に加え幅広い克服方法がステップ・バイ・ステップで説明されていて、実践に役立つ情報が満載。マニュアルを購入すると、ウエブ上で膨大な資料にアクセスできる仕組み。(イギリスの学校・教育システムに合わせた実用書なので、日本の学校で活用できるかは不明ですが)

まず保護者がマニュアルを勉強して、介入・支援をリードしていく――難しいことですが、専門家による治療に頼らなくても、理論さえ正確に理解できていれば、自分の子どもの特質を一番よく知っている保護者と現場スタッフで、緘黙支援に取り組めるということ。もちろん、マギーさん著によるSMiRA資料やFBでの意見交換なども頼りにできる場です。「臆せずに、自分の子どものために行動を起こして」と、保護者の後押しをしてくれる挨拶でした。

★お断り:コンファレンスでは講演資料は配布されず、私が取ったメモを頼りに書き起こしています。間違った箇所があるかもしれませんので、どうぞご了承ください。