トリイ・ヘイデンさんの緘黙治療法

14日から次々と伝わってくる熊本地震のニュースに、胸がふたがれる思いです。昨日未明の本震で再び大きな被害が出たうえ、いまなお余震が続いているようですね…。被災地のみなさんに心からお見舞い申し上げるとともに、亡くなった方々のご冥福をお祈りします。一日も早く余震が収まりますように。

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この間チャリティショップに立ちよったら、トリイ・ヘイデンさん著の『Ghost Girl (日本語タイトルは『幽霊のような子』)』が目にとまりました。なんだか懐かしさを感じて、75ペンス(約120円)でそのペーパーバックを購入。先週ガーデニングの合間に読んでいました。

トリイ・ヘイデンさんという作家のことを知ったのは、2005年に息子が4歳半で場面緘黙になってから。会ったことがない義伯母が、義母を通じて「読んでみれば」と勧めてくれたのです。当時はイギリスでも場面緘黙はまだ広く知られておらず、それまで義母にとっては”社交的でおしゃべり”だった孫が急に話さなくなり、びっくりして義姉に相談した結果でした。

最初に読んだのは『Silent Boy(日本語タイトルは『檻の中の子』)』でした。次に『Beautiful Girl(日本ではまだ翻訳されていない?)』をやはりチャリティショップで見つけて購入。その後、帰国した際に『よその子』の文庫本を買って読んだので、今回で4冊目ですね。

トリイさんは特別支援教育の現場でキャリアを積み、場面緘黙(まだElective Mutismと呼ばれていたころ)の研究にも力を入れていました。彼女のノンフィクションの中には多くの緘黙児が登場し、いずれも早い段階で話せるようになっています。

1970・80年代には、まだ場面緘黙の治療法は確立されていなかったはず。子どもが「話せない」のではなく、故意に「話さない」と考えられていた時代――トリイさんの本にもそういう記述があるんですが、自らの経験からいち早く独自の治療法を見つけ出していたようなのです。

マギーさんの基準と照らし合わせると、トリイさんの作品に出てくるのは「複合的な場面緘黙」のために長期間話していない子どもたち?どの子もそれぞれ育った家庭環境に問題があり、読み進めると場面緘黙の背景にある問題が解き明かされていく、という形になっています。

  • 『檻の中の子』の15歳の主人公、ケヴィン――8年間ずっと緘黙。4年前ホームに入所してからは机と椅子で檻を作り、その中に閉じこもっている
  • 『幽霊のような子』の8歳の少女、ジェイディ――園や学校ではひとことも話さず、感情を顔に表すこともない。背中が不自然に曲がっている
  • 『Beautiful Child』のヴィーナスは7歳――学校では全く話さず、時々他の子どもに対して凶暴になる

通常だったら、複合的な緘黙の治療にはかなり時間がかかるとされています。それなのに、どの子も比較的早い段階で話し始めているのです。これってすごい!

『幽霊のような子』には、トリイさんの緘黙治療法について下記のように書かれています(原書しかないので訳が違っていると思いますが、その点は悪しからず)。彼女がリサーチの結果たどり着いた治療法は、ごくごくシンプル。

“子どもが初めて会う大人が、子どもが話すことを前提に、即座に有無をいわせず答えを言わせるようにする”というもの。子どもの沈黙が習慣になってしまう前に行うことが重要。

この方法を使って、トリイさんは初日にジェイディから言葉を引き出し、会話をしています。重要なのは、事前にジェイディに下記のことを告げ、信頼関係を結ぶきっかけを作ったことかなと思います。

  • 今までにジェイディのように話さない子を治療してきた
  • 自分の気持ちを話せないことがどんなに辛いか理解している
  • 話せるようになるよう助けてあげられる

『檻の中の子』では、自身も檻の中に入ってケヴィンとの信頼関係を築きます。シェイピング法を使い、まず”Haa”という音を出すことからスタート。数日で話し始めることに成功しています。

『Beautiful Child』に関しては、探したんですが本が見つからず、あらすじもうろ覚え…。確か、休み時間に1対1で人形を使ってロールプレイをすることで、徐々に声が出るようになったと記憶しています。こちらは、もう少し日数がかかっていたような。

緘黙治療の鍵となるのは、大人が真摯に子どもと向き合い、信頼関係を築いていくことにあるような気がします。