専門家に相談する必要性?

前回の記事で、取り組みには「心理士とのセッションは必須ではない」と書いたのですが、良い心理士や精神科医に巡り合えれば、子どもも保護者も安心できるし、心強いと思います。私の印象だと、日本ではまだまだ特別支援教育が徹底しておらず、学校全体としての支援体制はあまり整っていないような…。その反面、担任の先生の個人的な努力によって、ものすごくきめ細やかで理想的なサポートが実現しているケースも多いですよね。イギリスではビジネスライクな人が多いのに、日本の教師ってスゴイ!

こちらでは特別支援体制は整っているのですが、各学校によって支援の程度が大きく異なります。特にセカンダリー(中・高校)だと、場面緘黙だけでは殆ど支援なしのところも…。NHS(国民保健制度)にはCAMHS(Child and Adolescent Mental Health Service 小児・青少年メンタルヘルスサービス)部門があり、児童から18歳までの子どものメンタルヘルスを専門に扱っています。とはいえ、受診は2~8ヶ月待ちというのもざらで、担当のセラピストや心理士が場面緘黙の知識や経験を持ちあわせていないことも。また、予算の関係もあるのか、保護者や学校に丸投げというケースも多いんです。

住んでいる地区によって、通っている学校によって、基準やサービスの格差が激しい――まるで宝くじだな、といつも思います。CAMHSのアポを待っている間にSMIRAの会員になり、学校と協力して取り組みを始める保護者が多いんじゃないかな。とはいえ、イギリスでは「学校でしゃべらない」というのは一大事なので、担任から保護者に連絡がくるのが早いんです。また、5歳になる年から小学校が始まるため、早期発見につながってると思います。

昨年イギリスで出版された最新の緘黙研究本、『Tackling Selective Mutism』では、『場面緘黙リソースマニュアル』の著者、マギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが、場面緘黙のカテゴリーを大きく3つに分けています。

  • 純粋な場面緘黙
  • 言語に問題がある、または学校で話される言語が母国語でないケース
  • 複合的な場面緘黙 - 自閉症スペクトラム障害(ASD)や学習障害(LD)、社会不安障害(Social Anxiety Disorderなどの障害が併存していたり、親の死など大きな心理的問題を抱えているケース

あれっと思ったのは、以前はなかった社会不安障害SADが複合的な場面緘黙に含まれていること。2013年に改定されたアメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル、DSM (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)の最新版DVS-Vでは、場面緘黙が「通常、幼児期・小児期、または青年期に初めて診断される疾患」から、「不安障害」へと移行しました(詳しくは場面緘黙とは?(その2)をご参照ください)。

同じく不安障害のカテゴリーに入っている社会不安障害については、DSM-Vから社会恐怖(social phobia)という名称が社会不安障害(Social Anxiety Disorder)に変わりました。子どもの社会不安障害については、下記の基準1で触れています。

  1. 他者から意識、注目、または批評されていると感じる社会的状況において生じる、特有の恐怖や不安。成人では初デートや面接、初対面の人と会う時、発表会、クラスや会合での発言などを含む。小児では、これらの恐怖症的/回避的行動は成人との交流というより、同世代の子どもとの社会的場面で起こるものでなければならず、親から離れない・泣くなど、年齢相応の明確な恐怖や不快感を示す
  • fear or anxiety specific to social settings, in which a person feels noticed, observed, or scrutinized. In an adult, this could include a first date, a job interview, meeting someone for the first time, delivering an oral presentation, or speaking in a class or meeting. In children, the phobic/avoidant behaviours must occur in settings with peers, rather than adult interactions, and will be expressed in terms of age appropriate distress, such as cringing, crying, or otherwise displaying obvious fear or discomfort.

基準6には「こうした状態が6ヶ月以上続く」とあります。

場面緘黙の子どもは抑制的な気質の子が多く、繊細で不安になりやすい--普通だったら気にしないような出来事や他者の言動に、酷く傷ついてしまうこともあると思います。振り返ってみると、息子は幼少の頃、複数の犬に追いかけられて犬恐怖症に、レジャープールのすべり台から水の中に深く沈んでプール恐怖症になった過去が…。2つともDIYのエクスポージャー法で7、8歳までに克服できたものの、恐怖症になる傾向が強かったよう。

小児の不安障害を調べてみたら、場面緘黙や社会不安障害のみでなく、全般性不安障害(GAD)、強迫性不安障害(OCD)、パニック障害、分離不安障害、外傷後ストレス障害(PTSD)もあるんですね…。

メルクマニュアル医学百科 小児の不安障害 (←このサイトに詳しく書かれています)

言語に問題がある、または複合的な緘黙になると、取り組みがなかなか進まず、改善がゆっくりになる傾向があります。取り組みやステップが子どもに合わないケースもあるでしょうし、併存している問題が絡んでいるかもしれません。そういう場合は、心理士や精神科医を訪れた方が良さそうです。また、新たな兆候や症状が出たり、いつもと違うなと感じたら、二次的な問題を防ぐためにも専門機関に相談してください。なんでもなければ安心できるし、早期発見だったら症状が軽いうちに治せるかもしれません。

風邪をひいたら医者に行くように、心が風邪をひいたら気軽にセラピストや心理士を訪ねられるといいですよね。イギリスではプライベートのカウンセリングルームがあちこちにあって、人間関係や仕事の悩みなどの相談をする人も多いんです。ただ、敷居は低いんですが、なにせ料金が高い!色々あって落ち込んでいた時期に、誰かに話を聴いてもらいたいと思って調べたら、1回1万円以上でした..。そのうえ、通常は4~6セッション必要と書いてあって、すぐ断念。その代わりに、新しいサークルに入ったのでした(笑)。

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