サキ君は緘黙を克服するにあたり、まず心理士に会いに行きました(動画の7:42分あたりから)。緘黙を克服するために、専門家のアドバイスを求めたんですね。
場面緘黙の克服には、認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)が効果的といわれています。特に、CBTのひとつであるエクスポージャー法(暴露療法 exposure)を用いるのが一般的。緘黙を恐怖症と捉えると、恐怖症の改善に有効なエクスポージャー法を用いるのは、理にかなっています。
イギリスの国民保健サービス、NHSのサイトでは、エクスポージャー法を次のように説明しています。
エクスポージャー法は、秩序だった体系的なアプローチによって、不安を引き起こすものや状況に向き合うことを学んでいく方法。不安を感じるものや状況をリストアップして順番をつけ、最初は不安度の低いもの・状況から始め、不安度が下がるまで何度かリピートしたら、順番に難度をあげていく。
認知行動療法という名前をきくと、何やら難しげ…。やはり心理士とのセッションが必須なのかなと思ってしまいます。でも、実は多くの人が取り組んでいるスモールステップこそが、エクスポージャー法なんです。素人でも理論とやり方さえ把握すれば、自己流でどんどんエクスポージャー法を実践していけると思います(ただし、他に何らかの問題を抱えている場合は専門家に相談する必要がありますが)。
病院やクリニックで心理士と信頼を築き、指導してもらうのもひとつの手段だと思いますが、場面緘黙が起こる現場は学校。学校で話せるようにするには、やはり学校内でのエクスポージャーが必要になってきます。伴走者として専門家のバックアップがあれば心強いですが、子どもの全体像を一番把握している保護者が、教師と協力してその子に合うステップを考え、実行できればベストなんじゃないでしょうか。ちなみに、イギリスでは緘黙治療を担うのは、言語療法士やTA(教育補助員)が中心です。
サキ君も心理士のアドバイスを元に、「自分に合う」エクスポージャー法を編み出しています。彼の場合は、まず普段より多く両親と話すことからスタート。日常的に話していても、自分から話しかけたり、その日の出来事について色々喋るのは苦手だったようです。その苦手を少しずつ克服することで、街に出て見知らぬ人に話しかける勇気が出てきたんじゃないでしょうか。学校内での取り組みは、いくつかの段階をクリアしてからの最終段階。最初は場所と人を設定しておいて「”ハイ”とひと言だけ声をかける」という小さな挑戦からスタートしたのが、成功の秘訣だったのではと思います。
息子の場合は、お店で好きな品をひとつ買って自分でお金を払うことから始め、「ありがとう」と言えるまでをスモールステップで練習しました。ちょっと遠くの大きなスーパーからスタートし、徐々に近所の小さなお店に移行。当時大流行していた『Dr Who』のカードを手に入れるため、かなり頑張れたと思います。楽しみがあると、子どもも抵抗なく挑戦できそう。
ひとつ注意したいのは、緘黙児には抑制的な気質の子が多いので、少し間が空くと元に戻ってしまう可能性があること。せっかく学校で進歩したのに、長い休みの間にできなくなってしまったケースも…。頻繁にステップを繰り返していると、自発的に挑戦できるようになってくるので、そこまでしっかり続けてください。
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