支援セッションの構成

あっという間にもう12月も半ば。家庭の事情で学校の仕事を早めに切り上げ、先週末から急遽帰国しています。状況が少し落ち着いてきたので、10月中旬で止まっていたマギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンへの支援』の続きをぼちぼち再開していきます。

内容の著作権はマギーさんに属しますので、この記事の転記や引用は固くお断りします。なお、年が上の子どもへの支援は、緘黙支援のバイブルと呼ばれるマギーさんとアリソン・ウィンジェンズさんの著書『場面緘黙リソースマニュアル(Selective Mutism Resource Manual Speechmark社)』の第二版(2015年春/夏出版予定)に新項目として掲載される予定です。

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その12)

ジェイ君(15歳)のケース

<支援セッションの内容と構成>

セッションは毎回3つのカテゴリーに分けて行った(順番を決めたのはジェイ君自身)

1) キーボードとPC画面を使うセッション

ランキング表やスケール表を作ったり、概括的に考察しながら、自己分析をする。質問表のいくつかは、セッションの合間に電子メールを介して完成させた。

2) コミュニケーションスキルを上達させるための実用的なセッション

面接で良い印象を与えるための指導

3) 実際に課題をこなすセッション

(課題例)

・私(マギーさん)のパワーポイントのプレゼンをどう改善できるか、自分の考えを文書で説明する(非言語)

・PDFのソフトウェア設置と使用方法について説明する(準備したものを読み上げる)

・午後4時に電話を受け、指定しておいたPCに関する質問について答える(事前に警告)

・明日の午後に電話を受け、PCに関する質問に答える(事前の準備なし)

みく注: 子どもによって性格や緘黙の程度、家庭と学校の環境、得意とすること等が異なるため、それぞれの子どもに合わせて、その子のペースでセッションを進めていく必要があります。どんな風に接したら子どもが安心してくれるか–それは支援者との相性によるところも大きいかもしれませんね。とにかく、最後までじっくり付き合うという心構えでいきましょう。子どもが支援者に心を開いた時、すぐ声が出る子もいれば、ちょっとした工夫が必要な子もいるかと思います。どの時点で非言語の課題から「読む」・「電話で話す」に進むか、どの程度進むか、その見極めも重要なポイントとなってきそうです。

関連記事:

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その1)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その2)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その3)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その4)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その5)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その6)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その7)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その8)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その9)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その10)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その11)

 

もう12月ですね

早いもので、今年もあと残すところあと1ヶ月となりました。ふと気づけば、11月のブログ更新はたったの1回だけ…。

心配事がどんどん深刻になってきて、立ち往生したまま何もする気になれない毎日--学校で子ども達と向き合って忙しい時間を過ごすのが、とっても救いになっています。笑ったり、泣いたりしながら日々色々なことを吸収し、少しずつ成長している子ども達の姿を見ていると、こちらまで元気をもらえます。

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だんだん寒くなってきて、通勤路の草むらに霜の降りる日もちらほら

11月29日は主人の誕生日だったので、久しぶりに家族で外出しました。行き先はテムズ南岸にあるデザインミュージアム。インテリアデザイナーのテレンス・コンラン卿が1989年に開設した小規模なモダンデサインの博物館です。何のことはない、無料チケットの期限が切れる直前だったという理由から、テムズ河沿いの散歩がてら行って来たのでした。

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途中、キングスクロス駅で地下鉄を下りて、ちょっとだけショッピング。ヴィクトリア王朝時代に建てられたネオゴシック様式の重厚なセントパンクラスの駅舎は、6年がかりの大改装工事の末2007年にリニューアルオープンしたもの。左側は、ユーロスターが発着する駅に直結するセントパンクラス・ルネッサンス・ホテル

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ロンドンブリッジ駅で下車し、曇り空の下タワーブリッジの袂を通ってデザインミュージアムへ

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ロンドン市庁舎ではクリスマスデコレーションを設置中。右はデザインミュージアムで観た”Women Fashion Power”。女王、女優、政治家など、それぞれの地位を築いた女性たちがどのようにファッションを武器にしてきたか、コルセットの時代から現在まで150年の変遷を辿った展示です

IMG_20141130_162630デザインミュージアムを出たのは4時半過ぎ。既に薄暗いテムズ河岸の散歩道に電灯が輝き始めて

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対岸の夜景。右側に見える建物はロンドン塔です

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ヘイズ・ギャレリアのクリスマスツリー

バイリンガルと緘黙(その2)

日本での滞在後半に大きな問題が持ち上がり、ロンドンに戻ってからも心配事が多くてなかなかブログを更新する気持になれませんでした。もし更新を待っていてくださっている方がいたら、どうもすみませんでした。

天気が悪いせいか、年齢的なものもあるのか、通常それほど酷くない時差ボケが長引いたのもこたえました…。夕方5時(日本時間の午前2時)頃になるとめちゃめちゃ眠くなり、夕食後は起きていられないくらいで。家事はそこそこにして早めに眠りにつくものの、朝2時頃目が覚めてしまい、それからほとんど寝付けず…。

ちょっとつらい毎日でしたが、こちらに戻った翌日に眠い目をこすりながら学校に行ったら、子ども達が「淋しかった~!」と抱きついてきてくれたのが本当に嬉しかったです。

さて、ここから本題に入ります。

私が今TAとして働いているレセプションクラスは、東欧から来た移民の子どもが多く、やはり英語よりも母国語の方が得意です(ちなみに、うちの学校では白人系イギリス人はマイナリティー)。

今学期(秋ターム)の前半、全員がカーペットに座って活動する「カーペットタイム」で、輪になって「今朝何を食べたか」を順番に言いあいました。そうしたら、東欧出身の女の子2人が何も言えずにうつむいてしまったんです。担任は何度か軽く促したんですが答えはなく、「じゃ、また次にね」と隣の子に移りました。

彼女たちは、個々やグループのアクティビティでは元気が良い方で、かなりお喋りなんです。だけど、皆の前で発言するのは、誰でも緊張するもの。まして、英語は彼女たちの母国語ではありません…。

次に担任がしたのは、相手の名前を呼んでからボールをその相手に転がすゲーム。この時は、全員がちゃんと声を出すことができました。「友達の名前のみ」+「ボールを転がす動作」で、声を出すハードルが少し下がったんじゃないかな。

毎日のカーペットタイムは、1回20分~30分くらいで1日に4回程度。この時間はクラス全員で国語や算数の勉強をしたり、歌を歌ったり、読み聞かせをしたり、ゲームをしたり(現在は、朝一番にアルファベットの発音を覚えるフォニックス(Phonics)を学んでいます)。この時間を利用して、皆の前できちんと話すという練習も少しずつ重ねています。家庭でのインフォーマルな会話から、学校へのフォーマルな会話への移行ですね。

例えば、「好きな果物は何?」という質問をすると、4~5歳の子どもは「バナナ」、「リンゴ」と一言で答えることがほとんど。担任は「私の好きな果物はーから始めてね」と毎回声をかけ、徐々にきちんとした文章で答えるよう練習させてるんです。

もちろん、最初のうちはひとことでも全然オーケー。文章で言えたら褒めるのは当然ですが、普段声の小さい子が頑張って大きい声を出したりした時には、「頑張ったね」と随時コメントが。担任がひとりひとりの子どもの能力をしっかり把握していて、それに合わせて声掛けをしているのに感心させられます。

秋タームも後半に入った現在では、クラス全員がちゃんと発言できてます。毎日繰り返して「場を経験する」ことで、少しずつ自信がついたみたい。バイリンガルの子も、そうじゃない子も、毎日新しいことに挑戦しながら、場数を踏んで経験値をあげています。失敗することもありますが、「失敗しても大丈夫」と思える雰囲気なんですね。

カーペットタイムは特にインファント(小学校の幼児部・5~7歳)で使われるんですが、カーペットにペタンと座ることで、気安い雰囲気が生まれるように思います。雑談も多くなるし、日本の小学校の雰囲気と比べると、とっても気楽な感じ。これは私だけの感想ではなくて、息子の学校にいた日本人駐在員の子ども達がよく言っていたことです。ちなみに、授業の速度もなんかゆるい感じ(笑い)なんですが、まあ一長一短ですね。

ところで、クラス担任は教師歴3年目で、イギリス人とモロッコ人のハーフだそう。「今までに場面緘黙の子はいた?」と訊いたところ、「一人いたけど、自然に話せるようになったわ」とのこと。彼女の子ども達への接し方、授業の仕方を見ていると、「うん、うん、そうだろうな」と頷けます。

関連記事:

イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その5)

 

里山の秋

先週の火曜日に帰国して、あっという間に1週間が過ぎました。山々に囲まれた岐阜県の故郷では、樹木が徐々に色づいて、紅葉シーズンも中盤という感じかな。昨夜はなんだか冷え込むと思っていたら、今朝は初霜が降りてました~。

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青空の下で紅葉していく樹々。今年は柿が大豊作だとか

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紅葉した葉っぱが色鮮やか。緑を背景に着物の裾模様みたいです

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金色に揺れる川岸のすすき

一昨日は名古屋から友達が訪ねてきてくれたので、知り合いのご夫婦が経営する森の中のカフェ、『アリスの不思議のお店』まで足をのばしました。車を飛ばして街をひとつ越え、村里を越え、さらにどんどん山奥へ。ときどき道脇に登場する『不思議の国のアリス』の白兎の看板が道案内です。

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山奥に突如として現れる黄色い木造のカフェは画家のアトリエとして建てられたもの

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     天井が高く、大きなガラス窓や高窓から森が見えます。ゆったりしたテーブル席や薪ストーブの暖かさ、オーナー夫妻のもてなしに、時間を忘れてお喋りに花が咲きました

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森のカレーセット(1680円)は、りんごサラダ、森のカレー、手作りケーキ、飲みもの付

一番人気の森のカレーは、スパイスから調合した手作りスープカレーです。ご飯の上に大きな海老、カボチャ、ナス、パプリカの素揚げと野菜もたっぷり。ケーキは蓬のシフォンケーキ、ベイクドチーズケーキ、チョコレートケーキがあって、どれも甘みをおさえた上品な味。オーナー夫妻はもともと同名の輸入雑貨店を経営していたんですが、料理とガーデニングの腕前もすごいんです。

バイリンガルと緘黙(その1)

バイリンガルの子どもは緘黙になりやすいといいます。正確には、抑制的な気質が強いバイリンガルの子どもが緘黙になりやすいということですが。

たとえ抑制的な気質ではなくても、学校で母国語ではない言語が話されている場合、どんな子どもでもその言語に慣れるのに数ヶ月はかかり、言葉がなかなか出ない期間があるといわれています。

言語の習得は、「聞く」 → 「理解する」 → 「話す」 という順番になるため、言葉が出ない時期があるというのは納得できます。私も英語学校に通っていた頃、最初は聞き取るのに苦労し、その次は理解出来てるのになかなか英文が出てこない時期がありました。文章を組み立てるのに、「日本語」 → 「英文に翻訳」という作業をしていたため、ぱっと英文が出てこなかった訳です。「解ってるのに、言いたいことを表現できない」というのは、かなりフラストレーションがたまる状態でした。

すっと言葉が出てくる頃には、知らないうちに英語のまま頭に入って、自然に英文を組み立てられるようになっているんですね。英語が何となく身につくというんでしょうか。まあ、いつまでたっても、まだまだ感いっぱいですが、言葉の習得って不思議です。

緘黙になりやすい抑制的な気質の子どもは、完全主義的な傾向が強い子が多いようです。気にしやすく傷つやすいため、ほんの小さな間違いにも、激しく落ち込んでしまう…。自分に自信がないんですね。

それに加えて、バイリンガルの子どもは二ヶ国語を同時に習得しなければならないため、ひとつの言語だけを話す子ども達に比べると、少し遅れがあることが多いかもしれません。息子の幼稚園時代(3歳半)の親友は両親とも日本人で日本育ち。やはり息子より語彙が多いし、日本文化に対する知識も深かったです。

繊細なバイリンガルの子どもが幼稚園や小学校に入った際、自分の言語能力に気づいて、引け目を感じてしまうことも頷けます。「できないかもしれない」、「間違えたら恥ずかしい」という気持ちが強く、引っ込み思案になって声が出にくくなるのではないでしょうか?そして、話さないことで身を守り、それが習慣化していく…。

うちの息子は早生まれなんですが、早生まれの子はずらして誕生日順に入学させるというのが学校の方針。9月ではなく、1月の下旬に最後にクラスの仲間入りをしました。そして、初日に帰宅しての第一声が、「僕の英語は皆みたいに上手くない」でした。クラスには外国から来たばかりで英語が全くできない子が数人いて、息子はまだ喋れる方だったんですが…。息子の中では、自分がいちばんダメだったんでしょう。

英語学校に通っていた頃の私自身の体験から、その心情はすごく解ります。先生に指名される以外は、自分から挙手して発言することにかなりためらいがありました。「皆の前で間違えたら恥ずかしい」と自意識過剰になってたんですね。ちなみに、ヨーロッパ系、アラブ系の子たちは、我先にと発言するんです…でも、よく聞いてると、文法が間違ってるし。でも、全然気にしないんですよね。その一方で、アジア系の子たちはテストをすると成績がいいのに、授業中の発言は少ないんです。民族性もあるかもしれませんね。

そういえば、昨年所属するエージェントのTA達と一緒に『発音、言語、コミュニケーションに困難を持つ子どもの支援』というコースを受講していた時、私は極力当たらないように小さくなってました…。学校でのTA実体験が少ないうえ、皆の前で理論的に説明するというのが不可能に感じ(私だけ舌足らずの子どもレベルだった)、劣等感の塊みたいになってたんですね。それでも、レポートでは割と評価してもらえ、お陰様でちゃんと合格できました。

バイリンガルの子どもが、学校でどんな風に語学の苦手感に対処したらいいのか?私が現在TAの仕事をしている小学校にはバイリンガルの子どもが大勢いるんですが、レセプションクラスでは人前での発表や人とのコミュニケーションなど、色々な苦手感を徐々に克服できるような授業をしてるなと、感心することが多いんです。次回はその例をご紹介したいと思います。

 

 

目標を達成するために何をすればいいか?

この3月に開催されたSMIRAコンファレンスで、イギリスの緘黙治療の第一人者、マギー・ジョンソンさんが、小学校中・高学年&ティーンの支援方法について講演されました。その内容をKnetと拙ブログに公開する許可をマギーさんから得ましたので、概要を少しずつ翻訳してご紹介しています。

内容の著作権はマギーさんに属しますので、この記事の転記や引用は固くお断りします。なお、年が上の子どもへの支援は、緘黙支援のバイブルと呼ばれるマギーさんとアリソン・ウィンジェンズさんの著書『場面緘黙リソースマニュアル(Selective Mutism Resource Manual Speechmark社)』の第二版(2015年春/夏出版予定)に新項目として掲載される予定です

《緘黙に苦しむ小学校中・高学年生&ティーンの支援》 

場面緘黙アドバイザリーサービス 言語療法士マギー・ジョンソン著/ ケント州コミュニティヘルスNHSトラスト

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その11)

ジェイ君(15歳)のケース

取り組むべき2つの項目について、目的を達成するために必要なことを箇条書きにし、自分にとっての難易度をつけてみる

取り組み1 良い仕事につくために、カレッジに行く
それぞれの課題の難易度 0 – 10  0 = 問題なし 10 = 絶対に無理

<課題>

・ 電話を使う 0
・ 公共交通機関を使う 0
・ 学生食堂を利用する 0
・ お金/銀行口座の管理 0
・ 授業を理解する/課題・宿題をこなす 2
・ 新しい人たちとの出会い 2
・ 他の生徒(1人)に課題を説明する  3
・ 試験に合格する 3
・ 人に助けを求める 3
・ 仕事/アルバイトのインタビュー 4
・ 他の学生達/仕事の同僚とのディスカッションに参加する 4
・ 先生/上司とのディスカッションに参加する  5

<困難が予想されること>

1 全く経験したことがない/経験不足
2 安心できない
3 自意識過剰
4 言葉が出てこない
5 知らない人と会話をするのが苦手
6 緊張する
7 嫌いな食べ物
8 騒々しさ
9 (人は)自分の言ってることが聞こえない/理解できないかもしれない
10 楽しめない
11 自信がない
12 周囲が攻撃的/冷淡すぎる
13 その他?

●取り組み2 自立する – 人に頼らず自分でやる

下記を行う頻度はどれくらいか?自分でスコアをつけてみる。
0 = 全くない、1 = 殆どない、2 = 時どき、 3 = かなり頻繁、4 = 毎週、 5 = 毎日

・カフェや映画館などで食べ物や飲み物を購入する
・友達と公共の交通機関を利用する
・ひとりで公共交通機関を利用する
・友達と外出する
・ひとりで外出する(例:犬の散歩)
・電話を使う - 友達と話す
・電話を使う - 電話注文/映画館/親戚など
・お店でのやり取り/質問(例:PC販売店などで)
・買い物 - コンビニ、スーパーマーケットなど
・アルバイトする - 週末のバイトやベビーシッターなど

みく注: 子ども自身が取り組むと決めた2つの大きな目標を達成するために、何をする必要があるか、どんな課題が出てくるか、支援者と一緒に書き出していきます。それに難易度をつけることで、既にできていること、克服すべきことが明確になってくるはず。克服すべきことのリストの中から、まず難易度が低く、自分ができそうと思えることから取り組んでいけばいいのだと思います。ジェイ君の場合、取り組み1の難易度チェックを見ると、最も難易度が高いのが「先生/上司とのディスカッションに参加する」で、5/10と自己判断しています。「問題なし(0)」と「絶対に無理(10)」の間なので、それ程の不安はないんですね…ちょっと驚きました。

取り組みの内容やスピードなどは、それぞれの子どもによって大きく異なってくると思います。子どもと支援者がよく話し合い、納得しながら決めていく必要があるでしょう。また、実際のチャレンジの結果により、もっと小さなステップにしたり、アプローチの仕方を変えなければいけないケースも出てくるかと思います。それをしていくためには、やはり子どもと支援者の信頼関係が不可欠ですね。

関連記事:

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その1)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その2)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その3)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その4)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その5)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その6)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その7)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その8)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その9)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その10)

 

秋も深まってきました

今週はずっと風邪をひきそうな感じを引きずっていて、ちょっと怠けてしまいました。小学校に入学したばかりの時期って、子どもたちが病気にかかりやすいんですが、うちのクラスでも毎日45名の欠席者が出ています。風邪やら、水疱瘡やら、りんご病やら多分クリスマスまでこういう状態が続くのではないかな。息子がレセプションの時もクラスで風邪が流行り、私も感染してクリスマスに声が出なかった思い出が(大人が感染すると、症状が酷くなります~)。

子どもたちは至近距離でクシャミをするし、鼻を拭いた手で触ってくるしで、クラス担任も先週頭痛に悩まされ、もうひとりの先生は2日間お休み。私は昼間は大丈夫なんですが、早朝と夕方に咳が出て、今朝は土曜日のウォーキングをキャンセルしました。

風邪なんかに負けるものかと、ここのところハニーレモン入りの紅茶を飲んでいます。コテッジホリデー中に購入したダンスターの養蜂家のハチミツが大活躍。自家製の天然ハチミツは無添加で熱処理をしていないため、市販のものとは香りや味わいが全く違いますね。エクスムーアの野に咲く花の蜜かと思うと、過ぎ去った夏がとっても恋しい

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       ラベルにはダンスターの観光名所が描かれていました。蓋のところまでたっぷり入っていて、味も、お値段も申し分なしです

だいたい朝740分くらいに家を出て、直線コースで車を走らせ勤務先の学校に向かいます。道が混んでなければ20分くらいの距離なのに、このところ冷え込んできたためか、ずっと渋滞続き。近くに大規模なセカンダリースクールがあるため、子どもを学校に送っていく保護者の車が列をなすのです。

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     運転中に車中から撮った朝の通勤風景。郊外の村と林の中を通ってまっすぐ続く、のどかな直線コースです

うちの学校は新しく設備が充実していて、お隣に障害児のための児童センターがあります。学校内には保育施設も併設され、入口は何と自動ドア!ロビーと受付だけ見ると、学校というよりも公共施設みたいな感じで、最初はビックリしました。

レセプション専用の校庭はけっこう広いんですが、学校の近くには雑木林があって、木曜日の午前中に「Forest 探検」の授業があるんです(こんなに設備の整った学校って珍しいかも)。で、子ども達は汚れてもいいように探検用の私服に着替え、長靴をはいて出かけます。

私は踝までのブーツのまま2度付き添ったんですが、今週は雨が多くて地面がぬかってました。滑って転ぶ子や、水たまりで遊ぶ子もいて、みんなドロドロ!担当するASD児がひとりで走って行ってしまうので、後を追っかけるのが大変ですが、林で自然に触れる授業っていいですね。みんなが採った葉っぱや木の実は、後で学習教材として使います。

先週、私も長靴が必要と思い、近くのショッピングセンターに車を走らせたんですが、種類がなくて仕方なく、ネットで安いのを購入。届いてみたら、「あれっ、こんなに丈が長かったんだ~」。しかも履きにくくて、あまり実用的じゃないんです。置き場所もないし、もっと丈の短い、脱ぎ着が簡単のじゃないと、学校では使えなさそうIMG_6156IMG_6161

    最近雨ばかりのお天気です。右がネットで購入した15ポンド(2600円くらい)の長靴

180cmはあろうモデルが着用すると、丈が短く見えるんですよねスカートやコートも同じような感じで、156cmしかない私はよく失敗します。で、いざショップに出向いてもサイズや色が無かったり — ただ、ここ10年ほどで色々なブランドがPetiteというサイズを出し始めたので、助かってます)。

返品すると送料が高いので、雪の日のためにそのままキープすることにして、水曜日の午後に地下鉄でロンドン中心部まで遠征しました。暫く振りですっかり様変わりしたコベントガーデンの雑踏の中を、傘をさして歩き回ったものの、季節がらかブーツばかり。流行りのHunter社の長靴は80ポンド(14000円くらい)もするし。そのうちに頭痛がしてきて、風邪が悪化してきた模様。早々に切り上げてきましたが、来週の探検どうしよう

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       今週は秋雨が振り続け、冬の到来を感じさせる気候です。でも、庭のイングリッシュローズはまだ咲き続けています。この白い蔓バラはClare Austin

再来週の月曜日から2週間ほど帰国する予定なので、その前にちょっと頑張って記事をあげたいと思ってます。マギーさんから返事をいただいたので、やっと続きを書けそうです。日本は連休中なのに、台風19号が来襲しそうですね。皆さんどうかお気をつけて。

場面緘黙の最新本”Tackling Selective Mutism”が出版されました

遅まきながら、9月中旬に場面緘黙の新しい本”Tackling Selective Mutism”が出版されました。私の手元にも1週間ほど前に届きましたが、何やかやと忙しくなってしまい、部分的に斜め読みしている状態です。

まず最初に謝らなければならないのですが(最近、間違えてばかりですね)、この本はSMIRAの新書ではなく、SMIRAの幹部2人が編集し・SMIRAに関わる多数の専門家やSM経験者・保護者が執筆している新たな緘黙本です。

最初にアリスさんとスミスさんから連絡をいただいた際、「私達の新しい本(Our new book)」と説明されたのを、「SMIRAの会長と幹部の新しい本=SMIRAの本」と思い込んでしまったのでした。どうも申し訳ありませんでした。ちゃんと事実関係を確認すべきでしたね…(しかし、もう少しSMIRAが強調されるものと思っていたんですが、表紙にはSMIRAの名前は入りませんでした)。

この出版社(Jessica Kingsley Publishings) は、2012年にSLTのマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんのコンビ(SMバイブルと称される『場面緘黙マニュアル』の著者)による、”Can I Tell You About Selective Mutism” を出しているので、SM本の第二弾ですね。

ちなみに、”Can I Tell You About Selective Mutism”は、ハナというSMの女の子が自分の状態や気持ちを語るイラストつきの本です。子どもにも理解できるよう簡単な言葉で書かれていて、支援者や専門家の理解を深め、共感を呼ぶ内容。ただし、イラストがあまり可愛くないのが難かも…。

ここから内容の一部を見られます(紫の本をクリック) → http://www.amazon.co.uk/Tell-About-Selective-Mutism-Professionals/dp/1849052891

新書をチラチラ読みながら感じたのは、やはり場面緘黙の治療には「子どもとの信頼関係」が要になってくるということ。元教育心理学者のジーン・グロスさんが書いた序文には、30年前に彼女が初めてSMの女の子の治療に携わった時のことが書かれています。

女の子はジーンさんを信頼して話し始め、ジーンさんは大きな誇りと満足感を得ました。が、その一方で、担任教師は自分が拒絶されたように感じ、イライラする複雑な心境だったろうことにも触れています。

そのくだりを読んでいて、ふと思い出したことがありました。場面緘黙の子どもには、「怖いと感じる人」の細かい順番があります。うちの息子の場合は、子どもより大人への不安が強く、学校で一番怖い大人は担任の先生だったのです。

家に招いて遊ばせていた友達に囁くことから始まり、学校で最初に話した大人は地区の教育心理士(1対1で遊戯療法中)、その次はTA(読本の個別指導中)でした。そのTAに慣れるに従い、教室内外での小グループ活動中にも囁けるようになっていったのです。これを報告してくれる担任が、「私にはまだ話してくれないのよ…」と呟く都度に、大変申し訳なく感じたものです…。

イギリスの小学校では、低学年のうちは担任の他にTA(教育補助員や特別支援員)が付きます。子ども30名に大人が2人以上、ということが多いかな—ちなみに、今私が働いているクラスには私を含めて3名。それに比べ、日本では通常担任ひとりだけ…ハードルが高いなと思います。

もし子どもの一番怖いと感じる大人が担任の先生だったら、その距離を縮めるのにかなりの時間がかかるかもしれません。担任が緘黙を理解してくれて、何らかの配慮をしてくれれば、子どもにはその気持がちゃんと伝わるとは思います。が、他に問題のある子がいる場合、大人しい緘黙児にまで手が回らないというのが現状かも…。

私には日本で行われている「言葉の教室」の制度が良く解っていません。が、他校に通級することになるにせよ、学校内でコミュニケーションの個別指導や小グループ活動ができるというのは、すごくいいと思います。

特に、担当教師が言語やコミュニケーションの問題を理解していて、続けて指導してもらえるというのが強みですね。担当教師がクラス担任にどれくらいフィードバックしてくれるのか不明ですが、担任の他に深く関わってくれる大人がいるのは貴重だと思います。

新書の感想とはなんの関係もない内容になってしまいましたが、思いついたことを書き留めておきますね。

関連記事:

9月にSMIRAの新しい緘黙本が出ます

追記: 今、日本のニュースを見たら、台風18号が本州に上陸したんですね…。うちの実家がある東海地方も、激しい暴風雨に見舞われているよう…。皆さん、どうかお気をつけて。被害がでないことをお祈りしてます。

 

恐怖症の克服は認知行動から?

TAの仕事も2週目が終わり、やっと子どもの名前と顔が一致するようになりました。私は人の名前を覚えるのがすごく苦手で、今回もなかなか覚わらず…。

クラスには黒人の男の子が4人いるのですが、そのうちの2人が顔も背格好もよく似ているんです。クリクリした目も単髪ヘアスタイルもそっくりで見分けがつかず、毎回「◯◯君だよね?」と確かめるという情けなさ…。昔、イギリス人ママ達が日本人の男の子2人を見て、「兄弟なの?よく似てる」と言っているのを聞き、「えっ、全然違うのに」と思ってましたが、きっとこんな感じだったのかも。

今のところ、私の仕事はASD児のA君とB君から目を離さないようにしながら、教室内または外の子ども達の活動を監督するというものです。先週はA君が体調を崩して3日間休んだので、他の子ども達の相手をする時間がたくさん取れました(B君は幼稚園時代から特別支援を受けているせいか、A君ほど問題はありません)。

火曜日、5人ほどの男の子が初めて専属校庭の片隅にある「泥んこコーナー」に足を踏み入れました。持参した長靴を履き、わいわい言いながらショベルやスコップで土を掘り始めたんです。私がテーブル席で数人の女の子達に名前の書き方を教えていると、「見て見て~!カタツムリがいた!」という声が。どれどれと思って見に行くと、男の子が差し出すスコップの上に乗ってたのは、小さなミミズでした!

《実は、私ミミズとかナメクジとか、ヌメヌメした軟体・環形動物がダメなんです。恐怖症に近い感じで、見ると背筋がゾゾッとなるんですよね…。単に形態が気持ち悪いのと、小学校の頃の強烈な記憶が恐怖心と結びついてしまったようです。私の通っていた小学校は確か3年生のころ鉄筋の新校舎に建て替えたんですが、旧校舎は県下で最も古い木造の建物でした。古くて暗い保健室にガラスのフレームに入った上半身の内蔵模型(?)があって、その中にぎょう虫の模型が!!(書くのも嫌ですが、形態が似てますよね)「こんなのが体の中に入ったらどうしよう」、と心底恐怖を感じたんです》

話を子ども達に戻すと、私は一瞬何も言えず、固まってしまいました…。別の子が、土の中にミミズを発見して、指でほじくり出すのも見てしまいました(涙)。でも、私の気持ちにはお構いなしに、子ども達は次々にミミズを掘り出し、小さい可愛らしい手のひらにのせて、「また、見つけた~っ!」と、嬉々として見せに来るんです。

ミミズが近くに来た時、教育関係者という本分をついつい忘れ、後ずさりして逃げました~!子ども達は面白がって、追っかけてくるし。いつの間にか、クラスの3分の2ほどを巻き込んだ、追いかけっこ大会になってしまったのです。子ども達の歓声があまり大きかったためか、担任が出てきて「そんなに大声を立てたら駄目でしょう!」とお説教されるハメに。スミマセン、私の責任です…。

翌日、雨上がりの道を学校に向かう途中、アスファルトの上に何やら不気味なものが…。5~7cmくらいの大きなナメクジが、何匹も何匹もいるのです!それも、オレンジがかった色やら、グリーンのやら、うわ~っ。校庭にいないことだけを祈りながら教室へ入り、昨日の失敗を担任に再度謝りました。この日から、子どもがミミズを見せに来ても、「よく見つけたね。でも、土の中に戻そうね」と冷静に言えるように。何事も経験、経験。というか、心の準備をしておくと、何とか対処できるみたい。

でも、担任から「実は、来週wormery(ミミズの観察キット)が来ることになってるのよ。でも、プラスティックの器に入ってるから大丈夫よ」と告げられているんです。うわ~っ、教室内でも気が抜けない。明日(というかもう今日ですが)学校に行くのが怖いです。

薬の威力(その2)

この夏私たち家族は、イングランド南西部に位置するエクスムーア国立公園で、1週間のコテッジホリデーを楽しみました。その帰り道、SMIRAコンファレンスで出会ったティーンの女の子の家を訪ねたんです(彼女は家族と一緒にコンファレンスに参加していたので、ご両親とも顔見知りでした)。

今回私は家族連れだし、コンファレンスで話さなかった姿を見られているため、彼女が話すことはないだろう  そんな風に予測してました。緘黙の法則というか、一度話さない姿を見られている人には心理的に話しずらいだろうなと思ったので。

その予測の通り、1時間半ほどの滞在中ずっと筆談のみ。でも、彼女の姿勢や態度には大きな変化が見られました。薬の影響に加え、自分が一番安心できる自宅という環境、そして両親が側にいたことがプラスに働いたと思います。

まずお母さんに案内されて居間に入ると、彼女はちょっと固まった感じでうつむいて立っていました。前と印象が全然違うなぁと思ったら、長かった前髪をばっさりカットし、メガネをかけた彼女の顔がはっきり見えたからなんですね。後でお母さんと二人になった時、「薬を飲み始めてすぐに、自分から切るっていったのよ」と。もう前髪で顔を隠す必要はないと感じたんでしょうね。

彼女の家はかなり田舎にあって、家のすぐ横には大きな河が流れ、広い庭の向こうは林という、自然に囲まれた環境。お父さんの趣味で、庭には珍しい種類の鶏が何羽も駆けまわっていました(囲いはあるんですが、とにかく広い!)。挨拶が終わったあとは、お父さんの提案ですぐ庭に移動(グッドアイデアですね)したんですが、その頃には彼女の姿勢も態度もごく自然な感じに。

お父さんが彼女に話をふると、手に持った小さなホワイトボードに返事を書いてくれます。そのうちに、鶏を抱っこして私に見せてくれたり、息子と私の手にエサを入れてくれたり。ふと気づくと、私と二人きりになっていたのですが、鶏たちが小屋の中ではなく河のほとりにある樹の高い枝にとまってで眠ることや、キツネに襲われた時、何羽かは河向こうまで飛んだことなど、自分から色々教えてくれました。

隣にいて、彼女がリラックスしてお喋りしたい気分なんだなというのが伝わってきました。もし私が一人で訪問し、もっと長い時間滞在していたら、もしかしたら声が出ていたかもしれません。でも、そんなことよりも、彼女から人と接したいという気持ちが伝わってきたこと、少しはにかんではいるものの本来の彼女の姿が垣間見られたことが大きかったです。

最初の出会いで感じたネガティブな要素(カチカチに固まって、私に話しかけないでオーラが漂っている)が消え、「大人しくて、ちょっとはにかみ屋の女の子」という良い印象だけが残りました。

これって、人付き合いをする中で結構重要じゃないでしょうか?

私達がおいとまするのと入れ替わりに、彼女のご両親の知り合いがやってきて、「頑張って社交の機会を増やしてるのかな」と感じました。多分、彼女を色々なところに連れて行って、見知らぬ人と話す機会を作っているんではないかと小さな村だから、知り合いばかりですものね。

彼女の家を訪問してみて、こんなに小さな村の学校から、少し離れた町のマンモス校に移るのは、相当大きな負担になったんだろうなと思いました。ご両親は、彼女が特別支援学校で話し始めても、今のところ授業は一日3~4時間にとどめているとか。「焦らず、少しずつ」をモットーに、娘の気持ちや体調によりそいながら、サポート体制を整えているようです。

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