薬の威力(その1)

昨日は秋分の日だったので、本格的な秋が始まりましたね。今年の夏もあっという間に過ぎ去ってしまったのですが、とても嬉しいニュースがありました。

春に開催されたSMIRAコンファレンスで出会ったティーンの女の子が、薬を服用することで話し始めたというのです!時々メールのやり取りをしていたんですが、8月始めにこのニュースを聞いた時は、本当に嬉しく思いました。本人の承諾を得たので、彼女について書きますね。

最初に会った時まず気になったのは、前かがみになって縮こまったような姿勢でした。大勢の人がいる公の場で、しかもテーマは場面緘黙。緊張して、自意識過剰になっても無理はありません。顔を隠すように前髪を長く垂らし、父親の後ろでうつむいて座っている姿を見て、なんだか緘動で固まっているみたいだなと思いました。

隣に座って筆談した際、時折指で前髪を少しだけかき分けて、私の方をチラっと見るのですが、前髪のせいで彼女の表情は殆ど読み取れませんでした(というか、顔が見えなかった)。でも、私の言ったことに対してペンはサラサラと進み、自分の思いをはっきり伝えてくれました。

緘黙や抑制的な気質の人って、目立ちたくないという気持ちが強いと思うんですが、その気持が姿勢や雰囲気に現れてしまい、損してしまうんじゃないでしょうか?なんとなく話しかけにくい雰囲気というか、私に構わないでオーラが漂ってしまうというか。本当は、楽しくおしゃべりしたいのに、不安が強く前面に出てしまう。

もっと酷くなると、緘動で動けなくなって姿勢が固まったり、顔が無表情になったり。こういった状態が固定化すると、「なんか暗い人」、「周りを無視している人」とレッテルを貼られてしまいそう

彼女がいつから緘黙になったのか、詳しいことは聞いていません。でも、セカンダリースクール(1216歳)に進学してから、徐々に学校に行けなくなってしまい、ホームスクールに切り替えたと聞きました。現在は特別支援校に毎日短時間通っているとのこと。

イギリスの公立校システムでは、小学校はどこも規模が小さく、1学年に1クラスということもザラです。そんなアットホームな環境が、セカンダリーからは1学年710クラスのマンモス校に。ベースになる教室はなく、日本の大学の様に教科毎にどんどん教室を移動していかなければならないんです。

校内の騒音、人の多さ、授業ごとに替わる教室・先生・生徒 – デリケートな彼女にはそれが大きな重荷になったんだろうなと想像しています。考えてもみてください。自分の教室も、机も、椅子もない状況って、すごく不安になるんじゃないでしょうか?

また、彼女は物事を深く考える性質のようで、クラスメイト達と話が合わなかったとも。周囲の女の子達が子供っぽいと感じていたようです。学校でずっと黙っている分、思考がどんどん内に向かっていったんでしょうね。

薬(どの抗うつ剤を使用しているかは不明)の服用を始めたのは6月頃からだそうです。彼女自身の言葉によると、「自分でもびっくりするくらいリラックスできた」とのこと。まるで自分じゃないみたい、とまで思ったそうです。それを聞いて、よっぽど症状が酷かったんだなと思いました。

リラックスできたお陰で、特別支援校の先生達と話せるようになり、知らない人達の前でも殆どの場合話せるようになったそうなんです!すごい進歩ですよね。

熱心に支援を続けてきた両親は、薬の服用を始めると同時に、特別支援学校の先生に相談して家庭訪問をしてもらったとか。まず、自宅で先生と話せるようになり、学校でも話せるようになっていったんですね。また、彼女を色々な場所に連れて行って、知らない人の前で話す練習をしたんだと思います。

アメリカのシポンブラム博士も「薬だけでは効果がない」と主張されていて、薬物治療をする際には支援プログラムと同時進行させないと十分な効果は得られないようです。「薬を飲めば何とかなる」というのものでは、決してありません。

また、抗うつ剤の効果には個人差があり、服用しても普段とあまり変わらない、副作用が酷い、というケースもあるので要注意です。色々試してみたけれど効果があがらず、最後の頼み綱としてトライするという感じでしょうか。

薬物治療に関しては、かんもくネットでアメリカの支援団体、SMG~CANの薬物治療に関するQ&Aを翻訳していますので、参考にしてください。

http://kanmoku.org/ask-the-doc.html

 

イギリスの小学校

実は、1週間半前から地元の小学校でTA(教育補助員)の仕事を始めました。近隣の学校の新学期が始まったばかりの月曜日、所属するSEN TA(特別支援員)のエージェントから連絡があり、10月頭まで単発の仕事をしないかとのこと。翌日面接に行き、1週間のトライアル期間を経て無事雇ってもらえることになったのです。

最初は、「4年生クラスのTA」という話だったんですが、実際はASD児が2人いるレセプションクラス(1年生の前の学年)に配属されることに。学校側はASD児がひとり入学することは把握していたものの、蓋を開けてみたらもっと大変な子がもうひとりいて、急遽人員が必要になったようです。今学期いっぱい、毎日午前中だけ勤務する予定です。

昨年度のASD児専門校での体験と、レセプションクラスでの研修体験を評価してもらえたようで大感激。それと、エージェントの信用も大きいですね。英語がネイティブではない中年の日本人を雇ってくれるなんて、イギリスの学校って太っ腹!男女雇用均等法どころか、人種・性別・年齢均等雇用法ですよねまあ、急遽TAが必要になって困ってたんでしょうが。ちなみに、担任は英国生まれの若いイスラム教徒の女性です。

もし私が海外からイギリスに来たばかりの母親で、子どもの先生達が白人のイギリス人じゃなかったら、複雑な気持ちになると思います。ちゃんとした英語の発音を学べるのか、それに「せっかくだからイギリス人の先生がいいな」って思うんじゃないかな。でも、イギリスは英連邦諸国から大量の移民を受け入れてきた歴史があり、インド系やカリブ系移民の2世や3世は、れっきとした英国生まれのイギリス人なんです。最近では東欧からの移民も多いし、イギリスの大学で学んだ外国人がそのまま就職するケースも。なので、職員室もクラスも多国籍なところが多いようです。

イギリスの小学校職員は女性が多くて、校長先生も女性ということが珍しくありません。独身の先生も多く、先日ふと周りを見回してみたら多分私が最年長かも。でも、担任はとっても親切で、まだ慣れない私に気を使ってくれてるよう。うっかりミスをしないよう、頑張らなくては。ちなみに、ASD専門校では、校長も副校長も若い独身女性でした。

レセプションクラスの子どもたちは45歳で、日本だとまだ幼稚園の年中さん。遊びながら、徐々に集団生活や基礎学習の準備に慣れ、しっかりと基礎学習を始める1年生に備えるという感じです。どの子も本当に可愛くて、母性本能を刺激されまくり!かなり困ったちゃん状態のASD児のお世話を中心に、泣いてる子をなだめたり、一緒に遊んだり、殆ど保母さんみたいな感じですね(笑)。現在は、担任の他にもうひとり先生がいて、TAの私を含め常に34人の大人がついています。

教室の外にはクラス専用の小さな校庭があり、今のところは全員揃ってカーペットに座り、担任の話を聞いたり、本を読んでもらったり、歌ったり、踊ったりする時間(カーペットタイム)の他は、自分の好きな活動を選べます。4つのテーブルに毎日違うアクティビティが用意されている他、絵本コーナーやPCコーナー、キッチンコーナー、水遊び、砂遊び、ペイント、遊具などなど盛りだくさん。だんだん文字や数字のアクティビティを増やしていって、遊び感覚で国語や算数などを学んでいくんですね。

男の子がかなりリアルな赤ちゃん人形を入浴させたりしてるのを見ると、ああイギリスだなって思います(笑)。赤ちゃん人形は、ちゃんと白人・黒人、女の子・男の子と分かれているんです。残念ながら、黄色人種の赤ちゃん人形はまだ見たことはありませんが。でも、キッチンコーナーにはにぎり寿司の玩具があります。

学校が始まったばかりですが、社交的な子、友達とくっついてる子、大人しい子、ひとりでいる子など、かなり個性が出てきています。引っ込み思案な男の子が2人いて、ひとりでいることが多いのが気になっていたんですが、話しかけると小さい声で答えてくれるし、萎縮している様子はなく、マイペースな感じ。最近になって、グループで遊べるようになってきたので、ほっと一安心。今のところ、緘黙になりそうな子はいないようです。

2人の先生は、先週から1週間に3人ずつ子ども達のアセスメントを始めました。身体面、心理面、性格、集団生活の様子、学習能力など、一人ずつ観察しながら細かくチェックしていて、とてもいいシステムだと思います。私がお世話をしているASD児は幼稚園では全く問題なしと言われたらしいのですが、小学校ではすぐに気づいて、私が雇われた訳です(もうひとりのASD児は、それ程問題なく学校生活をこなしています)。これからアセスメントをして、特別支援チームと共にしっかりとした対処法を決めていくのだろうと思います。

ところで、学校は車で20分くらいのところにあるんですが、6車線道路に乗って信号付の大きなroundabout(円形交差点)を通らないと辿りつけないんです。毎朝心臓がギューっとなる思いをしたくないので、私は6車線道路の近くに車を止め、地下道を使って道路の反対側にある学校に歩いて通っているのでした

 

お詫びと訂正

”マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』”の記事に関して、前書き部分に誤りがありましたので、お詫びし訂正させていただきます。

間違えていた箇所は、マギー・ジョンソンさんがアリソン・ウィンジェンズさんと共著している『場面緘黙リソースマニュアルSelective Mutism Resource Manual Speechmark)』の説明についてです。

 

なお、年が上の子どもへの支援は、緘黙支援のバイブルと呼ばれるマギーさんとアリソン・ウィンジェンズさんの著書『場面緘黙リソースマニュアルSelective Mutism Resource Manual Speechmark)に詳しく書かれています

                      ↓

なお、 年が上の子どもへの支援は、緘黙支援のバイブルと呼ばれるマギーさんとアリソン・ウィンジェンズさんの著書『場面緘黙リソースマニュアルSelective Mutism Resource Manual Speechmark)の第二版(2015年春/夏出版予定)に新項目として掲載される予定です

 

今年のSMIRAコンファレンスでマギーさんが講演された『小学校中・高学年&ティーンの支援』の資料を翻訳し、Knetの掲示板と拙ブログに掲載する許可をいただいた訳ですが、質問が出てきたのでマギーさんにメールしてお返事をいただいた際、過去のメールを読み返して間違いに気づきました。年が上の子どもへの支援については、来年出版が予定されている『場面緘黙リソースマニュアル』第二版に掲載されるということです!ですので、現在発売されている『場面緘黙リソースマニュアル』第一版には、掲載されていません。すっかり誤解していて、どうも申し訳ありませんでした。

私は昔から神経質な割におっちょこちょいで。マギーさんが快く翻訳・掲載の許可をくださったので、既にリソースマニュアルに掲載されていると思い込んでしまったんですね(マニュアルを持っているので、チェックすれば良かったんですが)。本当にすみません。

なお、私が翻訳の許可をいただいた資料は、SMIRAコンファレンス用に作成されたものです。来年出版予定の『場面緘黙リソースマニュアル』第二版に掲載される内容は、更に詳しいものになるということ。

さて、『小学校中・高学年&ティーンの支援』の続きに関してですが、ついこの間届いたマギーさんの返事は、「返事をしている余裕がないの!ごめんなさい」という短いものでした。多分、SLTの仕事の他に、リソースマニュアルの原稿加筆の締め切りやワークショップなどが重なり、超ご多忙なのだと思います。(そんな時に余計な質問をしてしまい、申し訳なかったです)

私の質問は、治療セッション例としてあげられていたジェイ君に関することでした。彼のケースだと、セッションのごく初期から「話す」課題が入っていたため、どの子もかなり早い段階で話し始めるものなのか、確認したかったのです。緘黙期間が長い子ども達なので、もっと時間がかかるんじゃないかと思ったので(多分、子どもによってすぐ話し始める子もいれば、なかなか声がでない子もいるんじゃないかと思うんですが…)。

「お返事はいつでも結構です」と伝えたため、いつ答えをいただけるか判らない状況です。ということで、続きについてはしばらく保留させていただきますので、どうぞご了承ください。

 

9月の夏休み(その4)

今回コテッジを借りたダンスター村の西隣には、その辺りではちょっと大きなマインヘッド(Minehead)という町があります。チェーン展開している大型スーパーやガソリンスタンド等があって便利ですが、観光やショッピングには物足りないかな

金曜日に地元の特産品市が開かれると知り、いそいそと出かけてみたら、「あれ、これだけ?」という感じでがっかり。それでも、コーニッシュパスティとスコッチエッグを買い、近くのスーパーで果物と飲み物を調達して、車で5分ほど西に行ったところにあるセルワージー村(Selworthy)へ。

可愛らしい集落や村、農地、牧場、ムーアランドを含むその周辺50k㎡は、ハニカットエステート(Holnicote Estate)と呼ばれ、ナショナルトラストの所有地です。そのためか、昔ながらの藁葺き屋根の家屋や牧草地が、ベストコンディションで保存されているよう。

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緑の樹木のトンネルを抜けてドライブ

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セルワージー村のナショナルトラストショップ近くでテーブル付ベンチを発見

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朝調達した食品を並べてピクニックランチ。手前が炭鉱夫のランチだったコーニッシュパスティ

食後にクリームティーで有名なペリウィンクル・コテッジのカフェの営業時間を確認してから、近くの港町ポーロック(Porlock)へ出発。

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美しい町並みに旗飾りがはためいていました

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        断崖の多いエクスムーアの海岸は石がゴロゴロ。写真右に見える石垣のようなものはPill Box     と呼ばれる掩蔽で、第二次世界大戦に上陸してきたドイツ軍を銃撃するために造られたそう。右はTorr Stepsを真似て海中に橋(足場?)を建設中の息子

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    午後4時頃、再びセルワージー村に戻り、絵葉書に出てくるような茅葺き屋根のペリウィンクル・コテッジでティータイム

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    噂のクリームティーは今まで食べた中で2本の指に入る美味しさ。地元のおばあちゃんが1日3回焼いているというスコーンは、ほんのり温かく軽くて上品な味。セッティングも素敵です

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腹ごなしにボシントン村(こちらもナショナルトラスト所有)をぶらぶら散歩

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日が沈む前に海まで歩きました。浜の石はポーロックの海岸よりも小さめ

長くなってしまいましたが、夏休みシリーズはこれで最後です。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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9月の夏休み(その1)

9月の夏休み(その2)

9月の夏休み(その3)

9月の夏休み(その3)

1週間のコテッジホリデーの後半は、ブリストル海峡を臨む港町や村を周りました。仕事疲れに運転疲れが加わったためか、主人が肩凝りに悩まされ、なるべく近場でということに…。本当は、風光明媚といわれるデヴォン州の海岸をもっと見たかったので、ちょっと残念。

(おそるおそる「私が運転しようか?」と申し出てみたんですが、家族からキッパリと却下されました(笑)。というのも、曲がりくねった狭い田舎道でバッタリ対向車に出遭うと、10m以上バックする羽目になることもざら。おまけに、交通量が少ないためか、みんな結構スピード出してるんですよね。ご近所ドライバーでトロトロ運転してる私には、とてもとても…)。

まずは、ダンスターから西へ40分ほどの距離にあるデヴォン州の港町、リンマス(Lynmouth) とリントン(Lynton) へ。切り立った崖のくねくね道を走っていると、道の真ん中に羊がいてビックリ!本来なら海の向こうにウェールズが見えるはずなんですが、濃い靄のせいで全く見えず…。木・金曜日は朝からずっと靄がかかっていて、海辺の写真は全部ぼんやり霞んでいました。

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        ごろごろした石だらけのリンマスの浜辺。水は美しく澄んでました。息子が凧を買って揚げようと          するも、足場が悪くて断念

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      崖の下にあるリンマスと崖の上にあるリントンの町は、水動力のケーブルカー            で結ばれています。高低差は150mだとか

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リントンのアート&クラフトセンターとエクスムーア博物館

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      ティーガーデンがあるカフェでランチ。私と主人は海の町恒例のフィッシュ&チップス、        息子はガーモンハムを巻いた鶏肉にチーズがとろけるハンターズチキンを堪能

ひなびた感じのエクスムーア博物館(入場料1ポンド・約170円)は2時に開館というので、先にランチにしたのですが、ゆっくり話しながら食べていたら、崖の下の駐車場の駐車券が時間切れになりそう…。どうしても博物館をのぞきたかった私は、主人と息子に車を取りに行かせたのでした。携帯で連絡しあうということにして別れたんですが、そこから問題が発生!

博物館に行ってみたら、”Open” のサインが出てるのにドアは閉まったまま。入口の前に人か集まってたんですが、ノックしても応答なし…。電話番号もない小さな博物館なので、夏休みが終わって平日は閉館になったのかもしれません。急いで主人の携帯に電話したら、電波が届いてなくてかけられず!別れる前にチェックした時は大丈夫だったのに…。イギリスの田舎では携帯が繋がらない場所がけっこうあるのです。

小さな町なので、20分ほどして何とか巡り合えたんですが、「あ~、良かった!」と思ったのもつかの間。主人が、「博物館の前に駐車したんだけど、鍵を差し込んだままロックしちゃった」と…。探し回ってクリーニング屋さんで針金製のハンガーをもらい、僅かに開けてあった窓から針金を入れて色々試した後、何とか鍵を釣りあげることができました~。

ちょうど小学校が終わる時間で、お迎えのお父さん・お母さんに注目されてしまいました(汗)。まるで泥棒 – でも、こういうハプニングが旅の醍醐味かもしれませんね。

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帰り道の風景。途中で車を止めて灯台まで歩きだしたのですが、あまり遠いので途中で挫折

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半野生の馬がいる平原で凧揚げを楽しむ息子

おまけ:

エクスムーア国立公園内の道には、鹿や野生馬に注意!の道路標識がたくさん立っています。水曜日の夕方、コテッジに戻る道にはキジが何羽もいて、もう少しで轢きそうになりました。

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   10月~1月のキジ狩猟シーズンに備え、養雉農家で育てているキジが自由に歩き回ってるんです

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9月の夏休み(その1)

9月の夏休み(その2)

 

 

9月の夏休み(その2)

私達家族が滞在しているサマセット州西部は、その大部分が広大なエクスムーア国立公園(Exmoor National Park) に含まれています。イギリスにはムーア(Moor)と呼ばれる、酸性土壌の上に低木や背の低い草のみが繁る広い荒野が点在しているのですが、エクスムーアもそのひとつ。ムーアという名前はついていますが、ムーアランドだけでなく、森林や緑の丘陵、ドラマチックな海岸線や湖、複数の河など、損なわれていない自然を楽しめる地区です。

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       今回借りたコテッジの外観とメインベッドルーム。季節外れなのでお値打ち価格でした。お隣が聖ジョージ教会で、息子が使っている寝室の窓の向こうは墓地!

エクスムーア国立公園内には数多くのウォーキングコースがあり、私達もそのいくつかに挑戦。近くの森に「イングランドで一番高い樹」を見に行ったんですが、そこは”Tall Tree Trail”という名の通り、高い木ばかりなので「えっ、これ?」という感じでした(笑)。

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        イングランドで一番高い樹は、高さ60.05m(2009年計測)のモミの木。右の写真の人(主人)と比べると、その大きさが分かります

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        「コウモリ城サーキット」では靄のかかる丘をゼイゼイいいながら登ること40分あまり。              コウモリ城跡という説明にワクワクしていたら、鉄器時代の砦(集落)跡と説明があるだけ…      丘の麓でクマさんがゴメンナサイ

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『嵐が丘』に出てくるヒースの荒野も

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      ターステップス(Tarr Steps)は紀元前1000年に造られたとされる古代の橋。流れの         速いバール河に大石版を渡した橋は2012年の洪水で流され、再築されたばかり

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サマセット州とデヴォン州の堺にある町、Exbridge のパブでランチ

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フィッシュ&チップスの魚が巨大!ビール入の衣がカリッと揚ってました

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3種類の魚の燻製プレート。西洋わさびのソースが美味でした

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こちらはダンスターの海辺。引き潮で遠くまでこんな感じ

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海岸に沿ってホリデー用コテッジ?が立ち並んでいました

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間取りは、キッチンとトイレと部屋がひとつのよう

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       コテッジに帰る途中、「自家製ハチミツあります」の看板を発見。普通の民家の庭先にハチミツを      入れた棚が置いてあって、買った分のお金をカゴに入れるシステム。味見もできました

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「徐行してね」のサインも手描き

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            地元Styles社 のアイスクリームは羊のミルク製。濃いクリームとブラックベリーの酸味がベストマッチでした

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             Scrumpy社のアップルサイダーは「サマセットの味」?アルコール分6%

別に取り立てて有名な場所に行ったり、ものすごく美味しいものを探して旅してる訳では全くないのですが、家族で森林や緑の丘を歩きながら話をしたり、普段ない体験をしたりするのが、我が家のホリデーです。

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9月の夏休み(その1)

9月の夏休み(その1)

息子の学校では、2016年の完成を目指して校舎の建て替え工事が行われています。そのため、去年から夏休みが他校より3、4日長くなることに。9月に入ってそろそろ学校が始まる時期ですが、うちは8月30日からイングランド南西部に位置するサマセット州の西側で1週間のコテッジホリデーを楽しんでいます。

土曜日の朝ロンドンを出発し、最初のストップは温泉で有名なバースの南東にある小さな市場町、ブラッドフォード・オン・エイボン(Bradford on Avon)。小高い丘に古い石造りの住居が並び、町の中央をエイボン川が流れる、人口1万人弱の可愛らしい観光地です。

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主人の大学時代の友達2人の家族と合流して、まずバートンファーム・カントリーパークで、タイズバーン(Tithe barn)と呼ばれる有名な14世紀の穀物倉を見学。

IMG_5635     教会みたいな外観と思ったら、教会の所蔵でした。当時は農場の農産物の10分の1を教会に収めていたんだとか。その規模の大きさに、教会が一大勢力を振るっていた時代が忍ばれました

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      散歩の後は、橋の袂にあるティールームThe Bridgeへ。お茶とケーキの味もさることながら、16世紀の建物と、ヴィクトリア王朝風のエプロンドレスを身につけたウエイトレスが売り

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   伝統的なヴィクトリアスポンジケーキ。ケーキもマシュマロ入のホットチョコレートも半端ない大きさ!

午後6時に他の家族たちと別れ、我々はグラストンベリーの町を抜けて、夕日の落ちるなか海に向かって西へ西へと車を走らせました。8時半過ぎに、やっとダンスター(Dunster)の村にたどり着き、ちょっと迷いながらもコテッジを見つけることができました。

IMG_5728      中世の家並みが残る小さな村。写真左上がダンスター城、右端に見えるのは聖ジョージ教会の塔

翌日は、まずナショナルトラスト所有のダンスター城(Dunster Castle)へ。小高い丘の上に聳えるこのお城は、中世に建てられたノルマン王朝時代の要塞。何度か改築が重ねられ、現在の建物は19世紀にルトレル家のカントリーハウスとして改造さたものだそう。

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IMG_5709広大な庭園の北側には川が流れ、水車小屋もあります

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ついでに近くにあるコニガーの森(Conygar Wood)も散策

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頂上には18世紀の塔の廃墟がありました

勝手にアンケート

マギー・ジョンソンさんのSMIRA講演会の翻訳を続ける予定でしたが、疑問点が出てきたので今問い合わせをしています。その間、ちょっと違うトピに飛びますね。

夏休みに入る前、せっかくASD専門校で研修をしてるんだから、先生や専門家たちの場面緘黙に対する意識調査をしたいなと思いました。

まず副校長の了承を得て、終業式の4週間前に彼女に簡単なアンケート用紙を送付し、先生方にアンケート用紙を転送してくださるようお願いしました。が、3学期末は行事が多く、学校見学に来る家族もいっぱい。何度もお願いして、結局終業式の当日にアンケート用紙が配られることに…。

翌日から夏休みに突入だし、どのクラスも終業式の準備で忙しく、どう考えてもアンケートに答えている時間はなさそう — お昼休みに校庭に出ていた先生やTAにお願いして回り、何とか6名から回答をゲット。更に、5名がメールで回答を添付してくれて、総計36名のうち11名から回答を得ることができました。

今から考えるともっと詳細なアンケートにすれば良かったなと思うのですが、何せ忙しい職場。書き込み蘭はなしで、殆どYes/Noで答えられる質問をいくつかに留めました。

<場面緘黙に関する意識調査 2014年7月>

回答者: 北ロンドンのASD専門校(殆どは高機能/アスペルガーの子ども)の職員 計11名(内訳: クラス担任 3名、TA(クラス担任補助員) 5名、専門家 2名、事務員 1名)

Q1. 場面緘黙という症状を聞いたことがありますか?

a) はい  10名                                                            b) いいえ 1名

* b)と答えたのは教師暦3年のクラス担任の先生でした。多分、このASD専門校が初めての職場だと思うのですが、2010年の創設から現在まで、SMの児童・ティーンはひとりもいないということで、知識がなかったものと思われます。

Q2. 下記のどの説明が場面緘黙の症状に適していると思いますか?(Q1で「はい」と答えた10名のみが回答/複数の回答可)

a) 話すことを拒否している     5名

b) 不安のため話せない      6名

c) 引っ込み思案で話せない    3名

d) (子どもが)誰に話すかを選んでいる   8名

* 現在SMの説明は、b) の 「不安のため話せない」が代表的と思うのですが、意外にもa) とd)が多かったのに驚きました。いまだ60年代の”Elective Mutism” という名称のイメージが強いのか、それとも”Selective Mutism”のselective という単語に「選択している」というイメージがあるのか…。経歴18年というベテランSLT(言語療法士)がa)~d)までを全部選んでいたので理由を訊いてみたら、彼女が受け持ったSMの子どもの中に、わざと話さないようにしていたらどんどん話せなくなっていった子がいたそう。その子は、結局話せないまま卒業してしまったようです…。

Q3. 今までに、学校で話さないASD児に出会ったことはありますか?ある場合は、何人ですか?

a) ある 6名                                              b) ない 5名

  • 1人   3名
  • 2-3人   2名
  • 10人以上  1名

* 10人以上と答えたのは、職歴14年というTAの女性。かなり多いので、多分SM児だけでなく重い自閉症で言葉が出ない子も含まれていると思います。

Q4. 自閉症スペクトラム症の子どもが、場面緘黙になることもあると知っていましたか?

a) はい 8名                   b) いいえ 3名

この学校には、現在まで緘黙症状のある子どもがひとりもいないためか、職員の場面緘黙に対する興味・知識はそれほど深くないように感じました。場面緘黙という症状は知っていても、不安障害のひとつという認識はそれほどないような…。イギリスの国民医療サービス、NHSのサイトには「発症率は150人にひとりの割合」とあるので、普通の小学校だったら(イギリスの学校は小規模で全校生徒数が2、300人のところが多いです)、1~2人いるという計算になります。ちなみに、息子の小学校のインファントスクールには3学年315名の児童の中に、緘黙児が2人いました。息子はもちろん含まれてますが、同じクラスにもうひとりいたんです!

イギリスの国民医療サービス・サイトの場面緘黙ページ

 

イギリスはすっかり秋です

イギリスでは8月上旬まで夏日が続きましたが、中旬から気温が下がり始め、今やすっかり初秋の気候です。いつもの散歩コースでは、もう秋の花が咲き、ブラックベリーが熟し始めていました。1週間前の土曜日、友人との散歩の後に家族で再び出かけ、3つの袋にいっぱいになるほど摘んできました。

IMG_20140816_152230IMG_20140816_150959ブラックベリーの茂みだらけ。よく熟しているのは甘くて美味です

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       大量に採れたので、鍋でグツグツ煮てお砂糖少なめのブラックベリーソースを沢山作りました。スーパーではもう少し大きな実でひとパック£2(約340円)くらい

 

先週末から今日まで、3連休を利用して主人の実家に滞在。先に泊まりに来ていた姪と甥に合流し、久々に一緒の時間を過ごしました。

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          義母の庭ではフルーツ類が大豊作。2mくらいの樹にりんごが鈴なり。イングリッシュローズ、ジェネラスガードナーも元気でした

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義父が通うゴルフ場でレッスンを受ける息子と従兄弟たち

イギリスの田舎では殆どの土地が私有地なのですが、Public Footpassと呼ばれる公共の細い散策道があちこちにあります。道といっても、林や草原、誰かの畑のあぜ径や牧場の脇を通らせてもらうという感じ。

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        草ぼうぼうの小径をイザ行かん。大抵は白丸に黒い矢印で進行方向を表示。柵を越えるためのステップ(石もしくは木)が設置されています

IMG_5560IMG_5559        羊が放牧されている牧場の中を、ちょっと失礼。牛や馬の牧場だと結構怖いです

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日曜日の午後には、義理父と一緒にノーサンプトン(Northampton)からマーケットハーボロ(Market Harborough)へと続く自転車道へも散歩に行きました。ここにもブラックベリーがいっぱい。

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かつて鉄道が通っていた道なので、真っ暗なトンネルが複数あります

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ローストディナーを作りながら留守番していた義母に、野の花のお土産

自分がしたいことは何か? 書き出して順位をつける

この3月に開催されたSMIRAコンファレンスで、イギリスの緘黙治療の第一人者、マギー・ジョンソンさんが、小学校中・高学年&ティーンの支援方法について講演されました。その内容をKnetと拙ブログに公開する許可をマギーさんから得ましたので、概要を少しずつ翻訳してご紹介しています。

内容の著作権はマギーさんに属しますので、この記事の転記や引用は固くお断りします。なお、年が上の子どもへの支援は、緘黙支援のバイブルと呼ばれるマギーさんとアリソン・ウィンジェンズさんの著書『場面緘黙リソースマニュアル(Selective Mutism Resource Manual Speechmark社)』に詳しく書かれていますの第二版(2015年春/夏出版予定)に新項目として掲載される予定です

《緘黙に苦しむ小学校中・高学年生&ティーンの支援》

場面緘黙アドバイザリーサービス 言語療法士マギー・ジョンソン著/ ケント州コミュニティヘルスNHSトラスト

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その10)

ジェイ君(15歳)のケース

2) 自分がしたいことを、重要度別にグループ分けする

● 第1グループ (最も重要) – なし

●  第2グループ (かなり重要)

  • 健康でいる
  • 良い仕事につく
  • 試験に合格する
  • 自信を持つ
  • 学校の課題をもっとうまくこなせるようにする
  • カレッジに行く
  • 自立する – 人に頼ることなく自分でやれるように

● 第3グループ (それほど重要でない)

  • 趣味や特別な興味を持つ
  • 新しい友だちを作る

3) 第2グループ(かなり重要)の項目に順位をつける

  1. 良い仕事につく
  2. 試験に合格する
  3. 自立する – 人に頼ることなく自分でやれるように
  4. カレッジに行く
  5. 自信を持つ
  6. 学校の課題にもっとうまく対処する
  7. 健康でいる

4) 2回めのセッションで、上記から取り組むべき項目を2つ選ぶ

  1. 良い仕事につくために、カレッジに行く
  2. 自立する – 人に頼ることなく自分でやれるように

*みく注: ジェイ君のリストには、「誰かと話す」など直接場面緘黙を克服するための事項は含まれていません。でも、子どもによっては「先生と話す」、「友達に電話する」など、具体的な対策がリストアップされる場合もあるでしょう。各自したいことは異なり、自らの問題に対する思いも違うため、それぞれの個性や状況に合わせたリストができあがると思います。リストに直接「話す」項目が入っていなくても、目的を達成するためには、少なからず人とのコミュニケーションが必要なはず。まずは、自分がどうありたいか、将来何をしたいのか、現状を踏まえて考えること。そして、その目標向かって、現実的にできそうなことはなにか、どうアプローチすればいいかを、支援者と共に決めて、スモールステップで実行に移していくことになります。

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