再び、場面緘黙は発達障害なのか?

<イギリスの見解と日本の見解>

以前、『緘黙は発達障害なのか?』と題した記事を書きました。イギリスの専門家のあいだでは、「場面緘黙≠自閉症スペクトラム症(ASD)」という見解で一致しているようです。

調べてみたら、イギリスの国民保健サービス(NHS)による緘黙の説明に、下記のような記述がありました。

Another common misconception is that a selectively mute child is controlling or manipulative, or that the child has autism. There is no relationship between SM and autism, although the two conditions can occur in the same child.

(その他のよくある誤解は、緘黙児は強情・狡猾というものや、緘黙は自閉症であるというもの。この2つの症状を併せ持つ子どもはいますが、緘黙と自閉症の間に関連性はありません)。

NHSホームページ 病気A-Z 場面緘黙のページから

こちら→http://www.nhs.uk/conditions/selective-mutism/pages/introduction.aspx

一方、日本では広汎性発達障害やASD、グレーゾーンと診断される緘黙児が多いという研究結果が複数出ています。そのためか、「場面緘黙=広汎性発達障害・ASD」と捕らえる傾向があるよう。

<ASDの人の脳>

先回の記事でご紹介したアスペルガーの女性、ロビンさんは、まず最初にASDの人と普通の人の脳の写真を提示しました。ASDは先天性の脳の機能障害であり、普通の人とは脳の構造が違うというのです…私は知らなかったのでビックリ。

日本語の説明はないかなと探してみたら、『日刊アメーバニュース』の「早期発見がポイント―子供の「自閉症」、MRIで診断可能に」という記事に出くわしました。

こちら → http://news.ameba.jp/20131026-160/

脳の構造が違うため、初めから認知の仕方が普通の人とは違う。だから、心理的な発達も通常とは異なってくる--社会性が育たないのはこういう理由からなんですね。

場面緘黙はというと、発達の問題というよりも、やはり心の問題(心因性の精神障害)だと思うんです。心因性ということは、普通の子、ASDの子に関係なく、特定の心の問題を抱えたときに緘黙になるということではないでしょうか?

家では普通にしゃべれるのに、学校など公の場でしゃべれない--「公の場」では家で使う話し言葉以上のものが求められます。それは、社会的な場で使う「話し言葉」とソーシャルスキルを伴う「コミュニケーション」。さらに、これらは年齢に見合うものでなければなりません。

家だったら、家族に「あれ取って」と言えば通じますが、学校で先生に向かってそうは言えません。また、複数のクラスメイトとの対話では、適切なタイミングで適切なことを言う必要があります。家で使ってる言語&コミュニケーションと比べると、ぐっとハードルが高くなるのです。

言語や発音に問題がある子、コミュニケーションや社会性に問題のある子にとって、学校で話すことはかなりの難題です。授業で上手く答えられなかったり、クラスメイトに何か言われたら、子どもはひどく傷つき、学校で話すことが不安になるでしょう。繊細で不安が強い子は、特にその傾向が強いのではないでしょうか。

ASD児は社会性がなく、コミュニケーションが苦手なため、緘黙になるケースが多くみられるのではと推測しています。特に、自己主張せず、苦手な部分を隠したがるタイプの子が…。日本では診断を受けることなく、ずっと理解・支援なしで普通クラスに在籍しているASD児(傾向の子)も多いようで、学校生活が辛そうです。

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緘黙は発達障害なのか?

 

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息子の緘黙・幼児期2~3歳(その1)

イギリスでは2歳児のことを”Terrible Twos”というんですが、日本では「魔の2歳児」と呼ぶようですね。第一次反抗期が始まり、何でも「イヤイヤ」と駄々をこねて、親の言うことをきかない時期…。

ご多分に漏れず、うちの息子にも魔の2歳がやってきました。2歳になりたての頃、人前で何度かものすごく激しく駄々をこねて、ほとほと困り果てた思い出があります。

一度は、プレイグループにあったミニカーの玩具がひどく気に入り、それを手放すのが嫌で大絶叫!見かねた責任者さんが、「来週返してくれればいいから、持っていけば?」と親切に言ってくれたのに、ちゃんと躾けねばとお断りしたのが間違いでした。

玩具を返し、バギーに乗せてしばらく歩いても、全く泣き止まないんです。サイレンの様に泣き叫ぶ息子を連れて、大通りを歩く私….またもや穴があったら入りたい、の心境でした。

いつまでたっても泣き止まないので、根負けして途中にあったオモチャ屋さんに駆け込み、同じような消防車のミニカーを買ったのでした。弱い母です…。

その次は、風邪を引いて連れて行ったクリニックで、またもや電車の玩具を見つけて放さず…。「さ、おうちに帰るから、電車は返そうね」と言った途端に、バギーの中で体をのけぞらせて大泣き!今では想像もつかないのですが、その声がすごくデカイんです。

また、いつまでもいつまでも泣き止まないのかと思っただけでゲンナリしてしまい、今度は勇気を出して、受付の女性に「すみません、必ず返しますから少しお借りしていいでしょうか?」と訊いたのです。すると、「子どもを甘やかしちゃ駄目!」と注意されてしまいました…。

(イギリス人って、結構ストレートにものを言う人が多いです。見ず知らずの人に、しつけが悪いと注意されたことが何度かあるんですが、この時は初めてで大ショック。それでも、大謝りに謝ってお願いし、玩具を借りて帰りました)。

息子はなんというか、「これが欲しい」、「こうしたい」と心に決めると、それについてどんどん想像を膨らませるクセがあるようでした。そのせいか、それが適わなかった時の癇癪は半端なかったです。いつまでも、いつまでも、しつこく泣き叫ぶのです。そういう時は、何を言おうと、どう優しくなだめようと、全く効果なし…。

このしつこさの故に、「こだわりが強い、頑固な子」と思ってました。その反面、自分にとって大切ではない事柄については、あまり執着しません。何が癇癪の原因になるのか良く判らなくて、混乱したものです。

しつこいくらい頑固な性格は、反対にいうと柔軟性がないということで、この性格も緘黙になった一因なんだろうなと思っています。思い込みが激しいというか…。よく、緘黙児には完壁主義者が多いといいますが、息子もそうでした(今は成長したためか、自分なりに折り合いをつけられるようになりました)。

ちなみに、緘黙症状が重かった4歳半~6歳くらいは、癇癪も輪をかけて酷かったように記憶しています(家でのみ)。あまりに激しいので、小1(5歳)の頃から癇癪を起こした時は、「自分の部屋に行って頭を冷やしてきなさい」と2階に行かせるようにしました。ひとりになると冷静になれるのか、割とすぐに泣き止み、5分くらいで落ち着いてダイニングキッチンに戻ってくるのです。

息子は元来とてもオシャベリで、常に話しかけてきたり、歌を口ずさんだりと、小学校までは一緒にいると煩いくらいでした。一人遊びに夢中になる反面、結構淋しがり屋のところがあり、人と一緒にいたがる傾向も強かったように思います。

(余談ですが、幼い頃こんなに癇癪がすごかった息子は、13歳のいま、世を悟った老人のごとく落ちついています。カースティーさんのお母さんが、「カースティはうちで一番落ち着いてるの。何があっても慌てず、頼りになるのよ」とおしゃってましたが、よく考えるとうちもそうかも….。第二次反抗期は、いつ来るんでしょう?)

 

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衝撃のロビンさん

もう先学期のことになってしまったのですが、研修中のASD児専門校で、アスペルガーの女性、ロビン・スチュワード(Robyn Steward )さんの講演会がありました。

講演は小学生の部(9~12歳)とセカンダリー以上の部(11~18歳)に分けて、少し違う内容で1回ずつ行われました。私は両方視聴させてもらったのですが、まず彼女の出で立ちにビックリ。

ラメが光るパープルの帽子と紫のメガネ、自らハンドペイントしたというジーンズ、足元はDr Martin’sでも珍しい、パテントの青いワークブーツ。一度見たら忘れられない、鮮烈な印象!

ロビンさんのサイトはここ→ http://www.robynsteward.com/knowing-me-knowing-autism/

彼女の肩書きは、

  • ASDの専門家のトレーナー
  • ASD児のメンター
  • ASDコンサルタント&啓発者
  • ライター (著書に『The Independent Woman’s handbook to super safe living on the Autistic Spectrum』など)
  • アーティスト
  • ミュージシャン

現在28歳のロビンさんは、7ヶ月の未熟児で生まれ、アスペルガーを筆頭に10種類の障害を併せ持っているそうです。小児脳性麻痺のため真っ直ぐに歩けず、相貌失認症(prosapagnosia)のために、何と人の顔を認識できないのだとか。

道でお母さんに会っても、お母さんと判らない。むこうで知人が手を振っていても、一体誰だか見当もつかないんだとか…。自分の顔も同じで、写真に写った自分の顔が判別できないそう。うわ~、めちゃくちゃ大変そう。

なのに、本人は「帽子を見て自分だって判るの」と涼しい顔。なるほど~、だから他の人が選ばないような、ちょっと奇抜な帽子をかぶってる訳なんですね。自分以外の人はというと、何と履いてる靴で見分けてるんだそう!

かつて、自分が21歳になる頃には、麻薬中毒のホームレスになってるかもしれない、と将来を悲観していたロビンさん。

アスペルガーの特性で小学校の頃からクラスに馴染めず、長い間いじめに遭い、学校のトイレが怖くて行けなかったり、先生やクラスメイトに理解されなくて問題を起こしたり…。結局、セカンダリースクールから放校されてしまいました。

そんな彼女を救ったのが、何とか入ったカレッジ(大学へ行く前の段階)のICT教師。ICTが好きで放課後毎日ICT教室に通い、この教師を相手に話しまくったとか。教師は、ただただ彼女の話に耳を傾けてくれたといいます。

緘黙も同じだと思うのですが、やっぱり根本にあるのは信頼関係なんじゃないかな…。誰かが自分のことを解かってくれる、自分の話(悩みでなくても)を聞いてくれるというのは、本当に心強いことだと思うんです。

これを機に、彼女はどんどん自信をつけ、苦手な人間関係もなんとかこなし、自分のやりたいことに向かってまい進できたそう。大学に進学後、経験者としてASDを啓発すべく世界に飛び出しました。

今でも抱えている問題が消えてしまった訳ではなく、次々と新しい壁にぶつかることは容易に想像できます。それにどうやって対処するか--自分で考えてひとつひとつクリアすることで、「大丈夫、やれる」というポジティブな姿勢になれるそう。

どんな問題を持って生まれたにしろ、子どもはそれに対処していく力を持ち合わせている--そんな風に思わせてくれた講演会でした。

 

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平等ってなに?

息子がイギリスの学校に入学して、つくづく日本と違うなぁと思うことが沢山あります。中でも全く違うと思ったのは、「平等の概念」でした。

個人主義の国というのもあると思うんですが、イギリスでは「人はみな平等」ではなく、「人は不平等に生まれつくから、できるだけ平等になるように」という考え方のように思えるんです。

イギリスは歴史的に移民を多く受け入れてきました。今でも海外からの移住者や移民が多いため、英語を母国語としない子どもが大勢います。ロンドンには特定の民族が集中する地区があり、英語を母国語とする白人の子が20%に満たない学校も!

例えば、息子が通っていた小学校では、EUが拡大したためか東欧からの転校生が目立っていました(特に、小5、6年ころ)。驚いたことに、両親がまだ経済的に自立できていない場合は、優先して学校に入れてもらえ、給食費やその他の経費が免除に!さらに、英語を母国語としない子どものために、特別な英語のクラスが設けられているんです。

こういった政策に反対しているイギリス人もいるし、移民が増えすぎて社会問題にはなっているものの、一般的には「仕方ない」という受け取め方のよう。クラスのママさん達の中で、文句を言ってる人はいませんでした。鷹揚というか、気にしないというか…。英語ができないんだから、支援するのは当たり前という感じ。

こういう状況なので、特別支援が必要な子どもや授業についていけない子に対しても、支援は当たり前というスタンスです。例えば、低学年のクラスにはTA(教育補助員)がいるんですが、TAはたいてい特別支援(SEN)が必要な子どもやできない子をアシスト。特別な小グループ活動をしたり、1対1の指導をすることもあり、その他の子を個別にアシストすることは殆どありません。

その一方で、”Gifted”と呼ばれる、高い能力を持つ子達が、特別な授業を受けることもあります。運動能力のある子どもを集めて強化チームを作り、地区の競技会に出場させたり、楽器が得意な子を集めてオーケストラを作ったり。

以前の記事にも書いたのですが、支援や強化をする子どもを選ぶプロセスについては、選ばれた子どもの保護者だけにしか通知されないことが多いんです。学校が毎週発行するスクールレターで、「陸上大会で○○君が優勝」、「学校のオーケストラが受賞」などという報告を見て、「えっ、そんな大会があったの?!」と初めて知ることに(笑)。

大雑把にいうと、特別上と特別下の子どもにはエクストラの支援が与えられ、真ん中のその他大勢は通常授業のみという状態…。

これって日本だったら考えられないと思うんですね。日本でいう「平等」って、どの子も同じように扱うことじゃないでしょうか?

例えば、子どもの友達が放課後特別に授業を受けているのに、自分の子は受けられなかったら、保護者は「あの子だけズルイ」と、思うのでは?

日本で学校に緘黙の支援をお願いしたら、「特別扱いはできません」と言われたという話を耳にしたことがあります。学校や担任に支援をお願いする時、「みなさんに悪いな」と遠慮される保護者もおられるのではないかと思います。

クラスに担任がひとりしかいないこともあり、特定の生徒により多くの時間を割くことが問題視される風潮があるような気がします。

日本の学校における緘黙治療の難しさは、こういったところにもあるような気がしています。イギリスの学校も千差万別で、受けられる緘黙支援はピンからキリまでなんですが…。先生に迷惑をかけるとか、他の保護者から迷惑に思われると気にしてしまうと、かなりやりにくいですよね。

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イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その6)

イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その7)

 

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リッチモンドのガーデンセンター、Petersham Nurseries

ロンドンはお天気の変わりやすい日が続き、先週まで最高気温は16度くらい。イギリス人って、肌寒い日には暗色のコート、晴天だといきなりノースリーブと、あまり季節感を意識していないよう。日本のように衣替の概念がないため、冬服も夏服も一緒にクローゼットに入っているのでは、と推測しています。

昨日は、午前中のウォーキングで雨に降られましたが、午後から太陽が出て気温が急上昇。今日も朝から青空が広がる中、ロンドン南西部に位置するリッチモンドまで行ってきました。

お目当ては、温室内にあるティーハウスが有名なガーデンセンター、Petersham Nurseries (http://petershamnurseries.com/eat/teahouse)。以前から行きたかったのですが、電車で行くにはちょっと遠いし、ご近所ドライバーの私には運転は無理…。今日は創設10周年記念のイベントもあると知り、家族で出かけることになりました。

町から少し離れた、テムズ河の畔にあるのですが、ロンドンのガーデンセンターの中ではピカいち!シャビーシック風の趣のある建物や温室、植物のセレクションも洗練されていて、秘密の花園といった感じでした。

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趣のあるディスプレイが素敵

花や植物を観賞するだけでも楽しく、花に囲まれてゆったりとお茶やランチできるスポットです。ティーハウスの軽食メニューはイタリアンテイストのヘルシーなサラダ類が中心。今日は8種類のサラダと2種類のキッシュ、そしてサンドイッチ類もありました。お値段は少々高めです。

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 温室の中にあるティ-ハウス、外にもテーブル席が

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手前はズッキーニのキッシュ、中央はモッツァレラチーズ&トマトのサラダとチキンサラダ

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きちんと食事したい時は、こちらのカフェへ

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花を見てるだけで癒されます

創設10周年の記念イベントとして、普段は公開していないキッチンガーデンと隣接する屋敷Petersham Houseと庭園にも入ることができました。

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 バラを絡ませた建物は鶏小屋です。採れたての卵とハーブはキッチンで使用

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       Petersham House の庭園ではブラスバンドの生演奏と地区の劇団の                            パフォーマンスも。プライベートのプールもありました

IMG_4937リッチモンドは、ロンドナーも憧れる自然豊かな郊外の高級住宅地

お天気がいいと、ロンドンの風景はいつもの10倍くらいきれいです。最後までおつきあいくださり、ありがとうございました。

 

 

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まず体を動かす遊びから

大人が誘導して、楽しい遊びを

研修中のASD専門学校では、学期の中間に入るハーフターム(1週間の休日)が終了し、今週からサマーターム(夏学期)の後半がスタート。先学期の後半から、PSHE(Personal, Social, Health and Economic Education 個人、社会、健康、経済にまつわる教育?)の授業で、子どもの社会性を伸ばし、チームワークを育てる楽しい遊びを導入しています。

今週は、”Boom Boom, Eek!(訳不明)”、伝言ゲーム、フルーツバスケットで遊びました。先学期は遊びに加われなかった子も、特大の色つき砂時計を片手に「5分だけ」の条件で参加。伝言ゲームで3度目に正しいメッセージが伝わった時、「あ~、やっとちゃんとできた(この子は完璧主義者で、いつも監督役)!」と大喜び。めでたく全ゲームに参加することができました。

遊びで思いついたのですが、うちは友達を家に招くプレイデートが、非常に役立ちました。まず、ひとりの友達と家や公園で何度も遊ばせ、徐々に友達の輪を広げていったんですが、息子がクラスで最初に囁いたのはこの友達でした。

でも、友達を自宅に招いたのに、緘黙のわが子が固まったままで、なかなか一緒に遊べないケースもあるかと思います。

どのくらい家で友達と話し・遊べるかは、子どもによって違います。学校の門を出てほっとした途端に母親に話し始めたり、家では別人のようにしゃべる子もいれば、時間が経つにつれて少しずつ言葉が出てきたり、中にはずーっと緊張したままの子もいるかもしれません。

小学校低学年までだったら、まず体を動かして緊張を解くことから始めるといいと思います。それには、まず大人の誘導が必要になってきます。

家でも緊張してる子にお勧めの、話さなくていい遊びの例をあげてみると、

? オニごっこ

保護者が毎回オニになり、子どもたちが隠れます。つかまえるまでの時間を計りながら何度もチャレンジ。なるべく大げさに声を出して、雰囲気を盛り上げて。友達と一緒に隠れているうちに、連帯感が生まれますし、興奮してうっかり声を発することができたらラッキー。

? 風船つき

とっても単純ですが、なかなか楽しめます。子ども達が平等に風船をつけるよう誘導して。キャーキャーいいながら、「50回まであと2回。○○ちゃん、頑張れ!」と声をかけましょう。

? 宝探し

子どもが好きなお菓子や玩具などを予め隠しておき(人数分一緒に)、子ども達に捜させます。大声でヒントやコメントを散りばめて、楽しい雰囲気に。

単純なものばかりですが、みんなで一緒にできて、楽しめるものがいいと思います。複雑なゲームになってくると、勝ち負けにこだわったり、できなくて劣等感を味わったりすることもあるので要注意。他にも色々あると思うので、子どもが好きそうな遊びを考えてみてくださいね。

庭があったら、ボール遊び(柔らかいもので)、バブルマシーンでシャボン玉をいっぱい作っておいかけっこしたり、夏季には水遊びも楽しいですね。

友達が遊びに来る前に予め練習しておくと、子どもも臆することなく楽しめると思います。友達が、「楽しかった。また遊びに来たい」と思ってくれるよう、親も頑張りましょう。子どもはよく見てるので、友達ばかり褒めず、平等に接することを忘れずに。

保護者が一緒になって遊ぶことで、友達の性格や子どもとの相性が見えると思います。学校や先生の情報、学校での子どもの様子なども聞けるかもしれません。また、同年齢の子どもの行動や思考がわかり、子育ての参考にも(自分の子と比較という意味ではありません。うちの場合は「今過去形を使い始める時期なんだな」、「あ、今このTV番組が流行ってるんだ」という感じで、大変有用でした)。

結局は、PCや携帯ゲームに落ち着いてしまうかもしれませんが、その時は大きい画面を使って、みんなで一緒に楽しめるゲームを。昔、緘黙の友達が遊びに来た際に、親も一緒にWiiでアバター作りをしたら、すごく盛り上がりました。

 

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9月にSMIRAの新しい緘黙本が出ます

この9月に、SMIRAの新しい緘黙本『Tackling Selective Mutism 場面緘黙への取り組み(仮)』が出版される予定です。2004年に『Sillent Children(場面緘黙へのアプローチ)』が出版されて以来なので、何と10年ぶり!

前書と同じく、緘黙治療の最前線にいる多数の専門家や支援者が寄稿していて、最新の情報を取りこんだ総括的な内容になっています。編集を担当したのは、SMIRA会長のアリスさんと言語病理学&セラピーを専門とする元SLTのベニータ・レイ・スミスさん(子どもの言語・コミュニケーションに関する複数の著書あり)。レイ・スミスさんから、新書籍のチラシが送られてきたので、紹介させていただきますね。

Tackling Selective Mutism - A Guide for Professionals and Parents Edited by Benita Rae Smith and Alice Sluckin

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ここから目次を見ることができます↓

http://www.jkp.com/catalogue/book/9781849053938/contents/

かんもくネット代表の臨床心理士、角田けいこさんも、日本における場面緘黙について寄稿しています。微力ながら、私も英訳とレイ・スミスさんとのやりとりをお手伝いさせていただきました。

緘黙とASDやコミュニケーション症との関連性、吃音、音楽療法などに加え、緘黙のティーンに関する章もあり、大変興味深い内容になっていると思います。

目次をざっと要約すると、下記のような感じです(急ぎだったので、誤訳があったらすみません!)

<序章>

  • 1) 場面緘黙の概要とアプローチ法      編集も担当したSMIRA会長のアリスさんと元SLTのレイ・スミスさん

<第1章 場面緘黙の現在の理解>

  • 2) 半世紀にみる場面緘黙の見解の移り変わり   ロンドン大学 トニー・クライン教授
  • 3) 場面緘黙のティーンと保護者の声    SMIRA副会長 ヴィクトリア・ロウさん
  • 4) 支援ネットワーク:SMIRA         アリスさん、SMIRAコーディネーターのリンジー・ウィテントンさん、レイ・スミスさん

<第2章 場面緘黙に関連・併存する症状>

  • 5) 場面緘黙とコミュニケーション症    豪在住の言語病理士、ヒラリー・クリーターさん
  • 6) 場面緘黙とASD(自閉症スペクトラム症)の関連性   元SLT、アリソン・ウィンジェンズさん(イギリスの緘黙治療バイブルと呼ばれる『場面緘黙リソースマニュアル』の共著者)
  • 7) 場面緘黙と吃音    スペシャリストSLT、ジェニー・パッカーさん

<第3章 介入・治療戦略と支援>

  • 8) 緘黙治療と薬の有効性   ハル大学講師&SM支援者 ジェフリー・ギブソン氏 (過去に緘黙の息子さんとITVの緘黙ドキュメンタリーに出演)、LD青少年精神科医 デビッド・ブランブル博士
  • 9) 学校と地域コミュニティにおけるアプローチ法    遊戯インタラクション・スペシャリストのジョティ・シャーマさん、ユース・アドバイザーのジェーン・ケイさん、特別支援コーディネーターのスーザン・ジョンソンさん
  • 10) 家庭と学校をつなぐアプローチ法    アリスさん
  • 11) 効果的なケアプラン   マギー・ジョンソンさん(イギリスの緘黙治療バイブルと呼ばれる『場面緘黙リソースマニュアル』の共著者)、ミリアム・ジェメットさん、シャーロッテ・ファースさん (全員SLT)
  • 12) 他言語における場面緘黙   アリスさん、レイ・スミスさん、テルアビブ大学他の客員教授、ニッツア・カッツ・バーンスタイン教授、かんもくネット代表の臨床心理士、角田けいこさん
  • 13) 声を出すための音楽療法    音楽療法士、ケイト・ジョーンズさん
  • 14) ティーンに自信を持たせる教育    教育研究所&ロンドン大学 ローズマリー・セージ教授
  • 15) 法的なサポート   元特別支援教員、デニス・レーンズさん、レイ・スミスさん

<第4章 まとめ>

  • 16) 場面緘黙からの回復-元緘黙児の保護者からの証言   アリスさんとSMIRAの保護者たち
  • 17) まとめ&これからの提言   アリスさん、レイ・スミスさん
  • 付録: 成人における場面緘黙    カール・サットン博士

(注: 元と書いてあるのは、退職していて現役ではないという意味です)

 

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最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その4)

入院治療の有効性

『選択性緘黙への治療』では、入院を含めた治療の結果、外での(家庭外?)言語的コミュニケーションがどのように変化したかというデータも出しています。

あいち小児保健医療センターで緘黙の治療を受けた子ども89名(うち17名が入院治療)のうち、

  • 通常に近い会話が可能になった子ども 33名                                 (小3以前に受診 18名、小4以降に受診 15名)、うち入院治療は11名
  • 限定された会話が可能になった子ども 46名                                 (小3以前に受診 18名、小4以降に受診 28名)、うち入院治療は6名
  • 不変 10名                                                      (小4以降に受診)、うち入院治療は 0名

(『そだちの科学』2014年4月号掲載、『選択性緘黙への治療(山村淳一・内山幹夫・加藤大典・杉山登志郎)』より)

結論として、下記のことが明らかになっています。

  1.  小3以前(年齢が低い方が)が治りやすい
  2. 入院治療を受けて成果のでなかった子どもはいない

1. について

緘黙児が小学校中学年になると回復がゆっくりになることは、SMart Center(アメリカの場面緘黙症不安研究治療センター)のシポンブラム博士が早くから指摘していました。また、SMIRAは1992年の創設当時から早期発見・介入を唱えています。

この研究でも、上記の理論の正当性が証明されてますね(他に同じような調査結果かあると思うのですが、まだチェックしていません)。

どうして9歳の壁と重なる小学校中学年が、治療の転帰が分かれる年齢となるんでしょうか?論文では「この時期は神経の剪定が終了する時期であり、母国語や基本的なジェスチャーが決まることが知られている。さらに、この神経の剪定の後、新たな神経ネットワークの構築のためには、これまでとは別の方法が必要になる」と説明しています。

9歳という年齢は、自分のことを客観視できるようになり、自己肯定感や劣等感を持ちはじめる時期です(告知するかしないか(その3))。緘黙している自分を意識しすぎて自意識過剰になり、「しゃべらない子」として定着している自分のイメージを壊すことがより難しくなるんじゃないでしょうか?

また、小学校の6年間は、だいたい同じ学校・同じ顔ぶれのまま続くので、大きな変化がありません。あまり変化のない環境の中で、「しゃべらない子」として定着したイメージを変えることは、難しいのではないかと思います。

進学や転校などの大きな変化があれば、子ども自身が「何とかしたい」と危機感を持ち、自ら動き始めるきっかけになることもあるかと思います。ただ、中学進学時は思春期の真っ只中で、身体と心が大きく変化する時期なので、周りの目がもっと気になる時期でもありますね…。

2. について

確かではないのですが、場面緘黙の入院治療というのは日本以外では聞いたことがありません。イギリスにもそういう治療オプションはなく、多分日本特有ではないかと思います。

でも、入院治療が有効というのは、何となく納得できる気がします。というのは、緘黙治療というのは、基本的には子どもの不安を取り除き、信頼関係を築く(この人の前で話しても大丈夫と感じられるようになる)ことだと思うので。

子どもは家庭では話せるのだから、学校・クラスで話すという恐怖、クラスメートや先生、集団への不安を取り除くことができれば、家庭で話すほどではなくても、話せるようになるはずです。

イギリスでは、小学校低学年のクラスにはたいてい担任の他にTA(教員助手)がいます。クラスに2人大人がいるため、子どもへの支援をしやすい状況。また、学校によって差はありますが、特別支援教育のシステムが浸透しています。さらに、地区の医療機関が学校とつながっていて、専門家が学校に出張するなど、教育現場での治療が可能です。

一方、日本ではクラスに担任がひとりしかおらず、授業の妨害になるような子がクラスにいる場合、緘黙児にまで手が回らないのではないでしょうか?学校と児相などの相談機関、医療機関の繋がりが薄く、特別支援教育の制度もまだまだ浸透していない…。担任まかせのところが大きいため、教育の現場で治療(直接介入・支援)をするのが難しいと思います。

入院治療がどういうものか判らないのですが、小グループ療法のような感じじゃないかなと推測しています。保護者から切り離して、あてがわれた病室の環境と人間関係に慣れさせることで、不安を減少させ、少しずつ信頼関係を築き、コミュニケーションが取れるようにしていくような方法ではないかと…。

24時間病院にいて、同じメンバーの医師や看護師たちと頻繁に顔を合わせていれば、嫌でも慣れてくると思うんです。学校で担任が子どもと1対1でゆったり向かい合う時間なんて殆どないんじゃないんじゃないでしょうか?

緘黙児への接し方は、『北風と太陽』方式で忍耐が必要だと思います。繊細で傷つきやすい子どもが、自分で上着を脱ぐまで待つ必要があるのではないかなと。

論文の終わりでは、「緘黙の治療には得手不得手があり、頭が良すぎたり、切れすぎたりする治療者、積極的な治療者は緘黙児と相性が良くない」と述べています。こういう医師は、時として大人でも脅威ですものね。「こどもを脅かさない治療者や看護師が、子どもの沈黙を解く働きをすることが多い」のだそう。

忍耐強く見守りながら、必要なところで少しずつ後押しできるのが理想的なんじゃないでしょうか?

関連記事:

最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その1)

最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その2)

最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その3)

 

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最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その3)

場面緘黙とASDの併存率

この研究では、自閉症スペクトラム障害(ASD)が89名中34名で全体の38%でした。

なお、2009年の金原洋治氏の『選択性緘黙例の検討-発症要因と併存障害を中心に』(日本では発達障害と見なされやすい?(その3))では、ASDは23名中12名で全体の52%となっています。

アスペルガー障害やコミュニケーション障害の緘黙児を除外していない、H.クリステンセンの研究 『Selective Mutism and comorbidity with developmental disorder/delay, anxiety disorder、and elimination disorder(2000年)』では、アスペルガー症候群が7%(ASDという項目はなし)とそれほど多くありません。

発達障害以外の問題を調べた結果は、

<言語発達関連>

  • 言語の遅れ 55名 (全体の62%)
  • 聴力障害 3名

<迫害体験の有無>

  • 被虐待児 29名
  • 学校でのいじめ体験が契機 16名

驚いたことに、純粋な場面緘黙児は20名(全体の22%)のみとあります。全体の75%が介入を要する問題を抱えていると、場面緘黙の背景にある問題にもスポットを当てています。

緘黙発症から受診まで

また、大変気になったのは、緘黙の発症年齢と初診年齢にかなりの差があること。

●平均初発年齢 4.7歳

  • 3歳(幼稚園入園時) 45名 (全体の51%)
  • 6歳(小学校入学時) 35名 (全体の39%
  • 7歳 4名
  • 8歳 2名
  • 9歳 2名
  • 11歳 1名

(7~11歳の9名は、もともと不適応があり途中から緘黙が加わったケース)

●平均初診年齢 9.45歳

90%の子どもたちは、集団教育の開始から緘黙があったのに、場合によっては6年間放置されておかれたことになる。緘黙は非行児とちがって人に迷惑をかけないので、放置されやすいという状況が如実に示されている」

(『そだちの科学』2014年4月号掲載、『選択性緘黙への治療(山村淳一・内山幹夫・加藤大典・杉山登志郎)』より)

もしかしたら、子どもが家で普通にしゃべっていれば、保護者はそれほど深刻に捕えられないのかもしれません。きちんと学校に通い、成績も良く、友達との交流もあり、学校から問題視されていない場合は、特に。また、児相やスクールカウンセラーには相談しても、病院の児童精神科を受診するまではいかないのかも…。

眠れない・朝起きれない、腹痛・体調不良といった身体症状が出たり、登校しぶり・不登校、学業不振、いじめなどの問題が起こってから、初めて病院を訪ねるケースが多いのかもしれません。この調査において、緘黙のみで受診した子どもが何人だったのか、とても知りたいです。

でも、問題が起こってから受診しても、緘黙も固定化しているだろうし、問題も深刻な状態になってますよね…。学校で話さないことが1ヶ月以上続いたら、保護者もですが、学校も動いて欲しいです。

全体の38%を占めるASDの子どもたちは、社会性とコミュニケーションに問題があるため、学校生活が大変だったはず。この子達は、受診するまでずーっとASDの診断がなかった訳でしょうか?学校で何らかの支援を受けていたのならいいんですが…。家族も気づかないということは、ASDの傾向くらいだったかも…それが、ずっと放置さ れマイナス体験が重なった結果、悪化したということも考えられると思います。また、精神遅滞、ADHD、言葉の遅れを持った子ども達も、授業についていくのが大変だったのでは?また、児童虐待が多いのも気になりますね…。

日本ではクラスに担任1人しかいないので、他に授業の妨害になるような子どもがいる場合、手が回らないような気がします。担任まかせではなく、子どもに何か問題があると感じたら、学校全体で取り組んでもらえるようになるといいなと思います。

関連記事:

最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その1)

最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その2)

 

【今月は場面緘黙症啓発月間です】

  • 場面緘黙は子どもの将来を大きく左右しかねない深刻な状態です!早期の発見と介入が望まれます。どうか後回しにしないでください
  • わざと話さないのではありません。本当は皆と同じように話し、行動したいんです!ひとり黙っているのは、とても辛くて苦しいんです
  • 周囲の理解と共感が不可欠です!すぐには治りません。温かく、忍耐強く見守ってください
  • 緘黙していると、言語、社会性、コミュニケーション・スキルの発達が妨げらる恐れがあります。家庭では安心して、楽しくおしゃべりできる環境を整えましょう

 (5月の場面緘黙症啓発月間の発起人は、『場面緘黙ジャーナル』の富重さんです)

 

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最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その2)

緘黙と不安障害、自閉症スペクトラム障害との関連性は?

緘黙と不安障害の関連性については、過去に多くの文献で取り上げられていて、最新版のDSM-V(アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル)から、場面緘黙は「不安障害」のカテゴリーに含まれるようになりました。

緘黙と不安障害の強い関連性を示した文献:

“研究対象となった50名の子ども全員が、社交恐怖症または回避性障害というDSM-III-Rの基準を満たした” -1997 ”Systematic Assessment of 50 Children With Selective Mutism”(Dummit, E.S. Klein, R.G. Tancer他著)の抄録より引用

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S089085670962832X

“対象となった30名の子どもの97パーセントは、幼年期あるいは青春期に、社交恐怖症または回避性障害と診断された” -1995 ”Psychiatric Characteristics of Children with Selective Mutism: A Pilot Study”(Black, Uhde著)の抄録より引用

http://www.jaacap.com/article/S0890-8567%2809%2963594-2/abstract

上記の2つの文献では、不安障害を併せ持つ割合は97%と100%。ものすごく高いです。

一方、『選択性緘黙への治療』では、分離不安35%、不登校46%(回避性障害とは異なりますが…)。論文内でも、「選択性緘黙は本当に不安障害なのだろうか」と疑問を投げかけています….。

説明が遅れましたが、『選択性緘黙への治療』の調査対象は、2001年~2010年までの9年間に、あいち小児保健医療センター診療科を受診し、選択性緘黙の診断を受けた89名(男児35名、女児54名)の子どもたち。母集団が89名というのは、緘黙研究では規模が大きい方だと思います。

ちなみに、2009年の金原洋治氏の『選択性緘黙例の検討-発症要因と併存障害を中心に』(日本では発達障害と見なされやすい?(その3))では、社会不安障害は23名中15名で全体の65%となっています。

こちらも、海外の2つの研究と比べると、不安障害の割合は低いですね…。日本では社会的、文化的な背景が異なるため、欧米とは異なる特有のパターンになるんでしょうか??

次に気になったのが、「調査の対象はいずれもDSM-IVの選択性緘黙の診断基準を満たしている」のところ。

発達障害の有無を調べた結果、

  • 自閉症スペクトラム(ASD) 34名 (その多くは高機能で、全体の38%)
  • 精神遅滞 7名
  • ADHD 2名

という結果が出ているのですが、DSM-IVによる場面緘黙の定義には下記の項目が入っています。

E. コミュニケーション障害(例えば、吃音)が原因ではなく、また、広汎性発達障害、統合失調症やその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものは含めない

(『場面緘黙へのアプローチ-家庭と学校での取り組み-』(Rosemary Sage & Alice Sluckin/編著 かんもくネット/訳 田研出版 2009年)より引用)

ASDは「広汎性発達障害」に、精神遅滞とADHDは「その他の精神病性障害」に含まれるのではないでしょうか?その場合、この定義によると場面緘黙は二次障害になるため、診断基準を満たさないのではないか、と思ったのですが…。

(尚、2013年に改定されたDSM-Vでは、広汎性発達障害(PDD)という診断がなくなり、自閉症スペクトラム(ASD)に代わりました。また、ASDの判断基準が変わり、アスペルガーという用語が消滅しています)

★追加情報: DSM-Vでは、場面緘黙の定義の部分でも、PDDがASDに変更されています。(ネットで見つけることができず、SMIRAのVicky Roeさんが助けてくださいました)

E. コミュニケーション障害(例えば、吃音)が原因ではなく、また、自閉症スペクトラム障害、統合失調症やその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものは含めない

長いので、またまた次回に続きます。

関連記事:

最新の緘黙研究、『選択性緘黙への治療』を読んで(その1)

場面緘黙とは?(その2)

 

【今月は場面緘黙症啓発月間です】

  • 場面緘黙は子どもの将来を大きく左右しかねない深刻な状態です!早期の発見と介入が望まれます。どうか後回しにしないでください
  • わざと話さないのではありません。本当は皆と同じように話し、行動したいんです!ひとり黙っているのは、とても辛くて苦しいんです
  • 周囲の理解と共感が不可欠です!すぐには治りません。温かく、忍耐強く見守ってください
  • 緘黙していると、言語、社会性、コミュニケーション・スキルの発達が妨げらる恐れがあります。家庭では安心して、楽しくおしゃべりできる環境を整えましょう

 (5月の場面緘黙症啓発月間の発起人は、『場面緘黙ジャーナル』の富重さんです)

 

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