ナターシャ・デールさんの緘黙克服(その2)

遅くなりましたが、ナターシャさんの講演の続きです。

実は、ナターシャさんがスピーチしている間、昨年のコンファレンスの講演者でSLTのリビー・ヒルさんが傍でずっと見守っていました。それで、リビーさんの支援を受けてるんだなと思ったんですが、彼女の話しの中には出てこず…。

また、18歳でカレッジに進学したことが緘黙を克服のきっかけとなったということでしたが、どんな支援を受けたのかイマイチ不明確…。

この辺りの詳細を知りたくて本人に連絡してみたら、すぐ返事をくれました。写真もお貸りできることになったので、ここに掲載しますね。

よく転校や進学によって環境が変わることで緘黙を克服・改善できた、という話を聞きます。自分が緘黙だということを周囲が知らない新たな場所で、勇気を出して話し始める人は多いよう。ナターシャさんの場合もそうでした。

進学した農学系のカレッジはのんびりした雰囲気で、動物飼育のコースにはたくさんの動物がいたそう。動物たちに囲まれた環境、そして学校が1対1でTAをつけてくれたことが、ナターシャさんの不安を減少させました。緘動が和らいだのがターニングポイントとなったようです。

かわいい動物たちに話題が集まって、彼女が話さないことがそれほど注目されなかったのかも?それで、以前ほど自意識過剰にならなくて済んだのかもしれませんね。

まずは不安度が下がらないと話す練習もままならないので、環境を変えたことが大きなプラスとなったケースだと思います。そこからかなり努力して、現在までコツコツと緘黙を克服してきたそうです。

どういう縁なのかは判りませんが、ナタリーさんは昨年からリビー・ヒルさんの言語療法センターで働いているとか。そこで場面緘黙に対処できるよう、リビーさんからソーシャルシンキングのセッションを受けたそうです。場面緘黙に対するセラピーは、これが初めてだったということ。

それ以前に不安(多分、社会不安ですね)に関連するセラピーを何度か受けたそうですが、緘黙状態は改善しませんでした。多分、学校の環境が変わらなかったため 、不安を下げることができなかったんでしょう。それでも、誰かが気にかけてくれることは重要ですが…。

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<SMiRAコンファレンスより>

ナターシャさんの緘黙克服法

  • 実現可能な、毎日の小さなゴールを定める
  • 微笑みやジェスチャーも進歩の印とする
  • 家族や親戚に文書でメッセージを送ることから始め、徐々に難度をあげていく

ナターシャさんから家族への願い

もし私が話すようになっても、「よくやった」とか言わないで欲しい。普通のことなんだから褒めたりせずに、他の子と同じように扱って。

(みく注:ナターシャさんは完璧主義の傾向が強いので、他の子と違う扱いをされるのが嫌なんだろうと思われます。子どもによっては、褒めることでどんどん自信をつける子もいます。お子さんの性格を見極めたうえで対応してください)

今はまだ緘黙克服の道半ば。まだまだ、私が緘黙であることを理解して、支援をしてもらう必要があります。

緘黙に苦しむ子や成人は完全主義の傾向が強く、ものを詳細まで見たり、物事を詳細まで考えたりする傾向が強いと思います。だから、写真を撮ることに向いているんじゃないかな。

私にとっては、カメラを持って外に出ること、写真で自分を表現することが助けになりました。

緘黙の克服に取り組んで1年経った19歳の頃、不安が原因で脱毛症になったことも…。ネガティブな思考が頭に浮かぶこともしょっちゅうでした。

でも、「もしこうだったら」と悔やんだり、考え込んだりするのは時間の無駄。

幼いころからの写真やビデオを観返して、自分が誰なのか、何がしたいのか――欠落した部分を探し出そうとしました。自らの不安が作り出した私、ではなく本来の私を取り戻すために。

緘黙は今もまだ私の一部です。まだ不安になることもあって、自分の限界を学んでいるところです。

現在は特別支援の場で働いていて、殆どの人と話すことができます。たとえ何かうまくいかないことがあっても、それでいい、違う形でアプローチすればいい、と思えるようになりました。

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環境を変えるのはひとつの方法ですが、「学校を変えれば、緘黙を治せる」と安易に考えない方が懸命です。環境は変わっても、それが合わないこともあるし、特に人間関係は運に左右されることが多いので。また、「このチャンスに絶対話し始める」とハードルをあげすぎると、かえって落胆してしまい、逆効果になることも…。

ナターシャさんも言ってましたが、緘黙児・の人は完璧主義の傾向が強いです。「これができなきゃ駄目」と頑なにならず、失敗しても「まあいいか」と居直れることも大事。自分に優しく、マイペースでゆっくり一歩ずつ進むことが大切ではないでしょうか?

学校外で話せるようになった子どもが、どうしても学校だけで話せないというケースだったら、転校してみる価値はありそう。その際は、本人の意志を確かめてください。規模が小さい面倒見のよさそうな学校、子どもが得意なことを活かせそうな学校が見つかるといいですね。

緘黙の克服には時間がかかります。思い通りに進まないことも、うまくいかないこともあるでしょう。有能な専門家やセラピストにめぐりあえても、彼らはあくまで支援者。誰かが治してくれる訳ではなく、自分が努力して声を出し、話す練習をしていくしかないんです。

不安で緘動になっていた時期が長かったというナターシャさん。18歳からコツコツ頑張って、21歳の今、100人近くの聴衆の前でスピーチできるようになっています。本人はもちろん、ご家族も長いこと悩み苦しんできたんだろうなと思うと、本当に感慨深いものがあります。

そうそう、ナターシャさんの質疑の時に、最前列の端にいた元緘黙の女性が、「緊張するので前を向いたまま話しますね」と前置きしてから発言したのが印象的でした。自分の不安を減らすだけでなく、周りの理解も得られる不安への対処法ですね。

あと、午後の質疑の時間には、家族以外と何年も話したことがないという女性が、手を挙げて堂々と発言!「周囲が緘黙を理解してくれる人たちばかりだと、話すのがこんなに楽!」と本人も驚いてました。きっと、同年代のナターシャさんが頑張っているのを見て、触発されたんだろうと思います。

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SMiRAの2017年コンファレンス

場面緘黙克服のために抵抗力 Resilience を高める

ナターシャ・デールさん(21歳)の緘黙克服

 

ナターシャ・デールさん (21歳)の緘黙克服

SMiRAコンファレンス2017年の講演内容の続きです。

ナターシャ・デールさん 『SM–My Recovery 場面緘黙――私の回復』

次に登場したのは、ここ4年間でかなり緘黙を克服しつつある21歳のナターシャさん。7歳の頃から緘黙に苦しみ、学校では緘動で動けなかった時期も長かったそうです。緘黙克服への道を歩み始めたのは18歳と、年齢的にはかなり遅い時期。

緘黙期間が長いと社会不安障害やパニック障害、OCDなどを併発する可能性も高くなり、克服はより難しくなるといわれます。でも、ナターシャさんは現在ほとんどの人と話せるようになっているとか。年齢が上の人たちにとって、とても励みになるんじゃないでしょうか。

今回のSMiRAコンファレンスは満席に近く、参加者は90名を超えていたと思います。後ろの方に座っていたナターシャさんが、かなり緊張した様子で登壇した時、大丈夫かなと少々心配になりました。が、原稿を棒読みしている感じは否めなかったものの、しっかり聞こえる声でひと安心。ナターシャさんがスピーチを終えると、会場は温かい拍手に包まれました。

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<スピーチの内容>

場面緘黙だった時は、まるで2人の私がいるみたいでした――学校での私ナターシャと、家での私タッシュ。

学校では緘黙が私を支配し、常に大きな不安に押しつぶされそうでした。体が硬くなって姿勢が悪くなり、たびたび腹痛に襲われて…。世界から自分が隔離されてるような感覚だったんです。

家では不安から開放され、本当に安堵しましたが、ものすごい疲労感も…。

緘黙が私の人生を支配し、私には何の主導権もなかったんです。いつも誰か理解してくれる人が側にいてくれれば、と願っていました。

私が緘黙を克服し始めたのは18歳の時。もちろん、それ以前にも一生懸命話そうと試みましたが、そうできる環境じゃなかったんです。

学校は騒がしくて、そのために不安が増しました。学校スタッフは緘黙についての教育を受けてなくて、緘黙のアセスメントもIEP(Individual Educational Plan 個別教育支援計画)もなかったんです。

もしも、席順を配慮してもらえていたら――

体育や音楽やドイツ語などの授業、ランチを食べる学校のカンティーン(全生徒用の大食堂)など、何らかの配慮をしてもらえていたら――もう少し楽になっていたかもしれません。

転機が訪れたのは、18歳になってカレッジに進学し、動物飼育のコースを始めた時。

5年ぶりに家族以外の人と話せました。動物がいて、微笑んだりジェスチャーを使えることが多かったのが功をなしたと思う――今考えると、アニマルセラピーですね。

でも、話せたからといって、誇らしくは感じなかったし、決して楽しい経験ではなかった…。

とにかく、話そうと試みる回数を増やすにつれて、徐々に話すことが楽になっていきました。

母がウサギを飼わせてくれたこともすごく助けになりました。ブランブルという名前をつけて親しんだことが、ポジティブな効果を生みました。

毎日庭に出て、ブランブルに話しかけてたんです。

あと、TVのコメディ番組からも学ぶことも多かったかな――人生にはポジティブな面もあるって。時には、自分の失敗を笑い飛ばすことも大切だって。

自分の他にも緘黙に苦しむ人が大勢いると知り、自分の話を共有しようという自信が持てました。私だけじゃなかったんだと。

それで、昨年7月にFBに『Selective Mutism Recovery–Natasha’s Story 場面緘黙からの回復--ナターシャの話』を開設したんです。

追記:ナターシャさんの現在のブログは『I am not Shy:I have Selective Mutism』でした。リンク先を追加しますね。

https://www.facebook.com/Iamnotshyblog/

https://iamnotshyblog.wordpress.com/

それまで色々なタイプのセラピーを受けました。でも、殆どのセラピストは私のこと、緘黙のことを理解していなかったと思います。

それでも、セラピーを受けたことで不安を減らすことができ、自分の夢を追うことができました。

ずっと何かを成し得たいと思いつづけてきて、最終的にはカウンセラーになることが目標なんです。

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このスピーチは当時のメモを見ながら書きだしたのですが、抜けている箇所や誤解している箇所もあるかもしれませんのでご了承ください。

長くなってしまったので、続きは次回ご紹介しますね。

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SMiRAの2017年コンファレンス

場面緘黙克服のために抵抗力 Resilience を高める

 

場面緘黙克服のために抵抗力(Resilience)を高める

2017年SMiRAコンファレンスより

SLT(言語療法士)アニータ・マッキアナンさんの講演『場面緘黙克服のために抵抗力(Resilience)を高める』

実は、当日地下鉄工事のため予定していた電車に乗り遅れ、講演会が始まってから会場入りした私。すでに満席に近くて、空いている席がなかなか見当たらず…。昨年より参加者が増えたという印象でした。

やっと見つけた席につくと、既にSMiRAコーディネーターのリンジーさんの挨拶が終わり、アニータさんの講演が進行中。

講演者のアニータさん(右)

現代のカウンセリングの基礎である、来談者中心療法(Client-Centered Therapy)を創始した、アメリカの臨床心理学者、カール・ロジャーズの「Actualizing  Tendency (自己現実の性質)」について話しているところでした。

あとで調べたら、これは「人間には有機体として自己実現する力が自然に備わっている」という説。アニータさんは、緘黙の克服には生まれつき備わっている困難に抗う力、Resilienceを高めることが重要と考え、その方法を話してくれました。

 

<アニータさんによる場面緘黙の説明>

    子どもが初めて場面緘黙になった時:

     怖い体験  →   Fight or Flight(戦うか逃げるか)の本能的な反応 

                           ↓    

              脳からの信号により 喉がしまったような状態に                                                                                                                                                                ↓  

                  同じような恐怖に襲われそうになると、無意識のうちに同じ反応がおきる

               ★この反応が繰り返されることで、緘黙が定着

高い所に行くと足がすくんでしまう高所恐怖症などと同じように、場面緘黙の場合は話さなければならない状況になると、喉がしまったような状態になって声を出すことができない。この反応は無意識のうちに起こるので、本人にはどうしてそうなるのか判らない。

克服法:Graded Exposure(認知行動療法CBTによる段階的な暴露法)

何故話せないのかを本人に説明。スモールステップで少しずつ話す恐怖に立ち向かい、意識的に恐怖を克服していく(アニータさん自身、緘黙ではありませんでしたが、幼少の頃から複数の恐怖症を抱え、それをひとつずつ克服したとか。経験者故に話に説得力がありました)。

<緘黙の克服に重要な3つのキー>

  1. Resilience     抵抗力
  2. Self-Efficacy    自己効力感
  3. Healthy Coping   健全な対処 

1)Resilience 抵抗力を高める

SM児は学校で話せないこと、家庭外で友達や大人と円滑なコミュニケーションを取れないことで、集団やグループの中で孤立しやすく、弱い立場におかれやすい。学校生活が負担になることも多く、長期間の緘黙が人間関係に大きく影響することも。こういった負の状況に負けない抵抗力をつけることが重要。(「反発力」や「回復力」と訳すことが多いようですが、ここでは「抵抗力」という言葉を使いますね)

・肯定的な人間関係 → 家族、親戚、友人など、子どもを囲む社会的なネットワーク作り/ SM児にとって暖かい家庭環境・人間関係があることが必須

 ・感情面での支援     →   ひとりでも信頼できる人がいると、子どもの心境は全く違ってくる/ 友達や愛情を注げるペットを持つことも大きな支援となる

2) Self-Efficacy 自己効力感を育てる

「自己効力感」とは、簡単にいうと自己に対する信頼感や有能感のこと。何か問題がおきた時、「対処できる」「大丈夫」と思えること。自己効力感を育てることにより子どもの自己評価があがり、行動を起こすことができる。

・自分で問題を解決する機会を持たせる → 子どもが自分のアイデアを持てるようにする(親はサポーター役)

・役割や責任を持たせる → 自分のことは自分で

・自分の価値観を持ち、自己防衛できるよう奨励していく

・子どもの興味や才能を伸ばす  → 得意なことや好きなことが、話すことや対人恐怖のバリアを破るきっかけになる

3) Healthy Coping   健全な対処法を身につける

問題に対して健全な対処をするためには、自分の感情を理解してコントロールできることが必要。ネガティブな感情やストレスも人生の一部として受け入れ、自分なりの対処法を身につける。

・大人が模範を見せていく → 理知的な問題解決、問題に立ち向かい、ストレスに耐える姿など

・子どもの視野を広げる → ポジティブな行動や考え方を奨励し、間違いは認め、柔軟性のある対応を

・自分の感情について話せる環境づくり

・大人が自分の人生体験について話す機会を持つ

・緘黙を恐怖症と捉える → 恐怖症は無意識のうちに定着する不合理な思考 → 思考は変えられる → 克服可能

・不安になった時のために、自分なりの対処法を見つけ出す → 呼吸法やマインドフルネスなど、自分にあったものを

★緘黙児は自分の感情について話したがらない傾向が強いので、絵本などを使い誰でも不安になる時があることを理解させる

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3つのキーの他にも、ポジティブな学校環境、助けを求める勇気を持つことなど、いろいろな提案がありました。が、ひとつアニータさんが強調していたのは、「助けを待っているだけではダメ」ということ。イギリスでは緘黙支援が充実していると思われがちですが、参加した保護者たちの多くは「支援不足」を訴えていました。

学校が支援プログラムを準備してくれるといっても、やはり限度があります。政府は各セクターの予算カットを強要していて、特別支援に関しても見直されているのが現状…。場面緘黙のみでは行政からの予算はおりないため、どうしても後回しにされがちなのです。

また、「やっと専門家に会えた」と思っても、専門家が緘黙を治してくれるというものではありません。専門家の提案にそって支援プログラムを遂行していくのは、結局のところ家族が中心。イギリスでも保護者が中心となって、学校に働きかけて協力関係を築き、専門家も巻き込んでスモールステップで克服していくという感じです。それには、本人の努力も不可欠です。

アニータさんは、日常の「小さな機会」を見逃さないようにとアドバイス。例えば、赤ちゃんが産まれたばかりの同級生の家族がいたら、同級生の学校の送り迎えを引き受けたり、近所の子を自宅に招いて遊ぶ機会を設けたり、職場の同僚の家族と出かける機会をもつなど。

アニータさんが担当した子どもの母親は、友達の送り迎えをかって出たとか。初めは何も話せないので、お母さんが間に立って会話を盛り上げていましたが、子どもは徐々に声がでるようになり、友達とも話せるように!以前は通学の際に緊張が強かったそうですが、学校にいくまでの時間を楽しく過ごせるようになったということです(注:子どもの気持ち次第なので、無理強いは禁物です)。

緘黙児にとっては、ほんの小さな変化が大きなステップアップとなります。そのため、保護者には家庭や職場でのソーシャルネットワーク作りを奨励していました。

保護者もシャイな方が多いかもしれませんが、できる範囲で頑張りましょう。小学校高学年になると親の出る幕は少なくなってしまうから、低学年までが頑張りどころかもしれませんね。でも、日本の小学校だと集団登下校だし、他の保護者と会う機会が少ないかな…。

次回は、場面緘黙を克服中のナターシャ・デールさんの講演について書く予定です。

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SMiRAの2017年コンファレンス

 

SMIRAの2017年コンファレンス

学期末でバタバタしていて随分遅れてしまったのですが、3月18日(土)に、イギリスの場面緘黙支援団体SMIRAの定例総会に行ってきました。

今年も全国各地から緘黙児の家族、言語療法士を中心とする専門家やTA(教育補助員)などが集まり、参加者は90名ほど。昨年10月に『場面緘黙リソースマニュアル第2版』を出版したSLT(言語療法士)のマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさん、昨年の講演者でアニマルセラピストのリビー・ヒルさん、BBCに出演した緘黙克服中の成人女性、サブリーナさんなど、錚々たる顔ぶれが揃い、活発に意見が交わされました。

SMiRAコーディネーターのリンジーさん(左)と役員のヴィッキーさん

今年の講演プログラムは:

  • 場面緘黙克服のために抵抗力(Resilience)を高める SLT(言語療法士)アニータ・マッキアナンさん
  • 私の回復体験 ナターシャ・デールさん(21歳)
  • NYの治療プログラム “Brave Buddies” 参加体験 児童セラピスト ルーシー・ナサンソンさん
  • ディスカッション
  • 1月に亡くなった緘黙児、ケイティ・ラフちゃん(7歳)の追悼イベント(希望者のみ)

今回講演した二人のセラピストは、いずれもプライベートでSM治療を行っています。NHS(国民保健サービス)に頼る場合は、長い順番待ちがあるうえセラピストや専門家を選ぶことはできません。また、地区によってサービスにバラつきがあり、宝くじに例えられることも…。

最近イギリスでは、オンラインで言語やコミュニケーションの治療を受けられるプログラム等も出現。料金はかかりますが、プライベート治療の選択肢が随分増えたように思います。

コンファレンスでは資料が配布されなかったため、手書きのメモしかないのですが、講演の概要は追ってKnet会員掲示板と稚ブログで紹介していく予定です(大幅に遅れててすみません)。

追記:

コンファレンスが終了した後、会場となった教会ホールの向かい側にある公園で、ケイティ・ラフちゃんの追悼イベントが行われました。

春の花が一斉に咲き始め日増しに春めいてきていましたが、この日は朝から灰色の曇が垂れ込め、肌寒い気候に逆戻り。どんよりとした曇り空の下、ケイティちゃんの冥福を祈って、自由の象徴ともいえる白い鳩を空に放ちました。

 

イギリス北部の都市、ヨークに住む7歳のケイティちゃんがナイフで殺害されるという痛ましい事件が起きたのは、今年1月のこと。犯人がまだ15歳の少女だったという事実が明かされ、全国的なニュースになりました。

ケイティちゃんが場面緘黙だったこと、SMiRAとの関わりがあったことで、SMiRA役員や関係者、保護者や当事者のメンバーたちの間に大きな衝撃が走りました…。

はにかんだ笑顔が本当に可愛い女の子――ケイティちゃんは緘黙ではあったけれど、みんなと一緒に外遊びをするのが大好きで、友達も多かったといいます。いつもは自宅の庭で遊んでいたそうですが、彼女が発見されたのは自宅のすぐ近くの公園…。

もしかしたら、話せないケイティちゃんを無理やり誘い出したのかも…、叫びたくても「助けて」の声が出なかったのかも…。どんなに怖かったことか――そう考えると本当に切ないし、ご家族の気持ちを思うとやり切れないです。

娘を悲劇の少女としてではなく、自分たち家族を幸福にしてくれた茶目っ気ある美しい少女として覚えていて欲しい――そんなご両親の思いに敬意を払いたいです。

ケイティちゃんのご冥福を心からお祈りします。

https://www.theguardian.com/uk-news/2017/feb/13/funeral-seven-year-old-katie-rough-archbishop-of-york-sentamu

 

国会議事堂内で場面緘黙の啓発イベント

7月6日(水)、ウェストミンスター宮殿(国会議事堂)内で、ルーシー・パウエル議員(労働党)とナイジェル・エバンズ議員(保守党)、そしてSMiRAが共催する場面緘黙の啓発イベントが開かれました。

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このイベントは昨年10月の場面緘黙啓発月から計画されていたもので、何度か延期された後、一昨日無事に開催されました。SMiRAの活動に感銘を受けた保護者が匿名で大きな寄付をし、その資金でこのようなハイグレードの啓発キャンペーンが可能になったのです。

参加したのは、大学教授や言語療法士などの専門家、SMiRAの役員、SMiRA会員の保護者、そして複数の国会議員ほか。2階のビッグベン側に位置する個室で、ドリンクとカナペがふるまわれ、和やかな雰囲気の中で啓発会が始まりました。

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    左から、『場面緘黙リソースマニュアル』の共著者、アリソン・ウィンジェンズさん、トニー・クライン教授、SMiRAコーディネーターのリンジーさん。『Tackling SM』の寄稿者やSMiRAに協力する専門家たちが大勢参加していました

最初の挨拶は、場面緘黙の著書を持つトニー・クライン教授。60年代に初めて緘黙児に遭遇した時の思い出や、場面緘黙を取り巻く状況がどのように変わってきたかをユーモアたっぷりに話してくれました。SMiRA会長のアリス・スルーキンさんは現在97歳というご高齢で、今回参加されなかったのですが、クライン教授は彼女の功績にも触れました。

次に、SMiRAに大きな寄付をし、このイベントの推進にも貢献したジョナサン・ストレイト氏が登場。保護者の心情とSMiRAを支援することになったいきさつを語りました。昨年は匿名で参加されていたのですが、今回は前に出て挨拶し盛大な拍手を浴びました。
IMG_20160706_133514娘さんが学校で話せない姿を見て愕然とし、学校側が手をこまねいているのを見かねてSMiRAに連絡したとか。娘さんの症状は、現在かなり改善しているとのこと。彼の寄付金のお陰でSMiRAのサイトデザインも一新し、昨年秋の啓発キャンペーンは効果大だったようです。
   

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その後は、SMiRAの役員や会員たちが、緘黙の子どもたちの声や保護者の心情を短い言葉で伝えました。特に、子ども自身が書いた文章や詩は、心にじーんと響くものが多かったです。

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   最後は、このイベントのホスト役を務めたパウエル議員が締めくくりました

近年、イギリスではNHS(国民保健サービス)の予算カットにより、子どものメンタルヘルスケアの予算も削られつつあります。そのうえ、先日の国民投票でEU離脱が決まり、政治的にも経済的にも不安定な状態――そんな中での啓発会でしたが、議員たちとのパイプが今後、場面緘黙の子どもたちの助けになることを願ってやみません。

<おまけ>

現在、国会議事堂として使われているウエストミンスター宮殿の歴史は、11世紀に遡ります。1529年に大火災が起こるまで王室の宮殿だったのが、修復後には議会や裁判が行われる場所に。1834年に再び大火事に見舞われ、1860年に修復した際に現在のゴシック・リバイバル様式になりました。

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     まさに豪華絢爛!バッキンガム宮殿にも勝っているような…。全長265mの建物内に1100以上の部屋と11個の庭があるとか…

仕事中の国会議員に混じって、観光客や社会見学できた小学生の一群など、人がいっぱい。至る所に警察官が立っていて、入る前に飛行場と同じようなセキュリティチェックがありました。

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           入口の大広間。1834年の大火を免れた天井の梁が荘厳です!

何とこの大広間の一角にはカフェと下院のギフトショップまであるんです。帰る前に、SMiRAの役員たちと一緒にお土産を物色しました~。もうこんな機会もないと思うと、ついつい真剣に。斬新なネーミングのアイテムも多かったです。

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下院のロゴ入りミントクリーム、”CHURCHILL’S” と名づけられたポートワイン、ビッグベンのTシャツ

 

 

マギー・ジョンソンさんの講演から――代弁はOK?

この8月に出版予定『場面緘黙リソースマニュアル』改訂版。言語療法士のマギーさんとアリソンさんが実体験や指導結果から導き出した緘黙支援・対処方法が、こと細かに解説されているようです。SMiRAの講演では、その一例として緘黙児の代弁をすることについて簡単に触れました。

友だちや親に代弁者として代わりに応えてもらうのが、緘黙児にとっていいことなのか、悪いことなのか?慣れすぎてしまうと、自分で話そうという気持ちや機会が失われてしまうのでは?そういう疑問を持つ保護者も多いのではないでしょうか。

<同年代の子どもの場合>

家の外でも、仲良しの友達や兄弟姉妹とだけなら囁ける・話せるという緘黙児も多いかと思います。マギーさんは緘黙児が「友達を通じて話す」ことを容認し、”架け橋”として使うことを奨励しています。

  1. 緘黙児への質問は友達を介して行う  例:「○○ちゃんに、何が飲みたいかきいて」「○○ちゃんは、何をして遊びたいかきいて」
  1. 最初は緘黙児が安心して話せるようその場から立ち去る、時間をかけて徐々に子どもたちの近くへ移動し、緘黙児が目の前で友だちとナイショ話しても平気になるようにする
  1. そのうちに第三者の存在に慣れ、緘黙児の声が徐々に大きくなってくる
  1. 第三者のいる前で、友だちに向かって直接聞こえる声で返事をするようになる
  1. 子どもが第三者に直接応えるようになる
  1. 友だちを介さずに、1対1で会話を始める   まずは、Yes/Noで答えられる質問から始め、徐々に長い答えを引き出していく

イギリスの小学校では席をグループで固めることが多く、支援の一貫として緘黙児の隣に話せる友達を座らせたり、同じグループにします。日本と比べると授業中もガヤガヤした雰囲気で、私語も多い(笑)。とてもインフォーマルな雰囲気なので、友達を”架け橋”役に使いやすいと思います。

日本の小学校では難しいかもしれませんが、幼稚園や保育園でならできそうですね。園だけでなく、例えば祖父母が兄弟姉妹を”架け橋”役に使えば、緘黙の孫とのコミュニケーションを改善していけるんじゃないかな?

注:上記はまだ緘黙が定着していない、園児や小学校の低学年向けと思われます。

 

<保護者の場合>

医者、買い物、親戚との会話など、母親が子どもの代わりに返事をしてしまうことって多いんじゃないでしょうか?特に、緘黙期間が長いと、それが習慣になってしまっているかもしれませんね。

マギーさんは、人から何か訊かれた時、親は返事ができない子どもを”救済”するのではなく、子どもが会話に加わる際に”不安を減らす”役割を担うよう提案しています。子どもへの重要なメッセージは、「誰かに何か訊かれたら、できたら答えればいい。でも、もし答えられなくても大したことじゃない。誰も気にしない」というもの。

  • 人に何か訊かれたら、子どもの返事をまず5秒待つ
  • 質問を繰り返していう、もしくは二者選択の質問にして子どもに訊く
  • 5秒待つ
  • 親に囁いたり、最初は非言語でも答えられればOK。徐々に言葉がでるようにしていく。子どもが答えない場合は、「ちょっと考える時間をください」「また来ます」とその場を立ち去る。もしくは、話題を変える

こうすることで、緘黙児が親に代弁してもらうのでなく、自分で答えることに慣れるのが大切ということ。親が代弁してくれることに慣れてしまうと、家庭外で話す機会がどんどん少なくなってしまうので、その通りだなと思いました。

ケント州のNHS(国民保険サービス)で言語療法士として働いているマギーさんは、保護者やTA(教育補助員)を集めて定期的に懇談会を行っていてるそう。ディスカッションや個人的なアドバイスも活発に行われているということで、大変羨ましい環境です。マニュアルの対処・支援法は、こうした場でのフィードバックや情報にも裏付けされているとか。

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期待大!『場面緘黙リソースマニュアル』改訂版

イギリスで緘黙治療のバイブルと呼ばれているのが、言語療法士のマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが共著した『場面緘黙リソースマニュアル』。場面緘黙の状態把握と学校での対処・支援において、最も効果の高い実用書として知られています。大版で312ページもあるうえ値段も高いため、保護者は購入をためらうことも多いよう。でも、言語療法士(SLT)やSENCOといった専門家の間では、必要不可欠な参考書なのです。

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そのマニュアルが改訂され、第2版としてこの8月に出版される予定です。

3月上旬に開催されたSMIRAコンファレンスでは、マギー・ジョンソンさんが講師として招かれ、改訂版の特別プレビューが行われました。

注目すべきなのは、オリジナル部分が修正された訳ではなく、下記の追加項目が加わったこと。

  • 家庭、学校外での支援
  • ティーンと大人の支援

改訂版の総ページ数はなんと、なんと900ページに及ぶそう!そのうち書籍として印刷されるのは500ページ、残りの400ページはインターネットでアクセスする仕組みです。書籍を購入するとアクセスコードがもらえて、資料を閲覧・ダウンロードできるとか。

緘黙状態を表すスケール(段階)表は4つの部門に着目。より的確なサポートができるよう、緘黙児が到達しているコミュニケーション状況をさらに細かく分けたということです。

第1版ではイギリスの学校における支援が中心でしたが、改訂版は日本でも充分に活用できそう。家庭や学校外での有効な支援法が解れば、保護者が中心になってどんどん支援の輪を広げていけるかも。また、まだまだ資料が少ないティーンや大人の支援法にも大いに期待したいところです。

ところで、先回のエントリーから随分日数が経ってしまいました。その間に仕事が集中したのと、復活祭の連休で主人の実家に出かけていたのとで、バタバタしていてなかなか更新ができず、すみません。

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復活祭というとお花はやはり水仙ですね

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3家族、合計9名が集まってローストランチを楽しみました

その間に桜の季節はすっかり終わり、今は沿道の黃水仙が満開です。義母の庭では忘れな草やムスカリが可憐な花を咲かせていました。

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場面緘黙の成人、サブリーナさんのプレゼンテーション

昨年の夏、イギリスの国営放送BBCで場面緘黙の特集があり、サブリーナ・ブランウッドさんという35歳の緘黙の女性が登場しました。(詳しくは『BBCが大人の場面緘黙を紹介』を参照してください)。そのサブリーナさんが、今回のSMiRAコンファレンスでプレゼンを行ったのです。

偶然、私の後ろの席に妹(?)さんと一緒に座っていたので、図々しくも声をかけてしまいました。そうしたら、無言でしたが、はにかんだ笑顔で応じてくれたんです。TVで観た時の殻に閉じこもったような印象はなく、ずっと穏やかな表情になっていました。

サブリーナさんのプレゼンは、小さい頃から現在までの写真&映像アルバムに、字幕で短い説明をつけたもの。本人は前に出ずに、最後列の自分の席に座ったままでした。

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一番手前のポニーテールの女性がサブリーナさん。

写真の中のサブリーナさんは、ずっと微笑みを絶やしません。途中、「あれっ?」と思ったら、サブリーナさんが車を運転しているんです!そこに、「運転免許を取りました」と字幕が。次に、「NHS(国民保健サービス)でボランティアをしています」と…。

プレゼンを観ているうちに、BBCが取材する前からSMiRAとマギー・ジョンソンさんが介入していたことが判明。それから、ひとり暮らしを始め、運転免許を取得して、今ではボランティアの仕事もしてるんです。実家に閉じこもりがちだったサブリーナさんが、外に出てどんどん交際範囲を広げている!

最後の方では、特にお世話になったというマギー・ジョンソンさんやSMiRAの役員に対するお礼の言葉が。サブリーナさんの隣に座っていたマギーさんが、感極まってウルウルしていたのが、とても印象的でした。

サブリーナさんは今でも、初対面の人に対して普通にしゃべれる状態にはなっていません。でも、実家から出て自分ひとりで行動できるようになったんです。これって、すごくないですか?

長期間場面緘黙が続くと、社交・社会不安が高まって、外に出て働いたり、活動することを怖れる傾向が強くなります。その結果、就職できても長続きしなかったり、自宅に引きこもりがちになる人も多いんじゃないでしょうか?

このプレゼンは、緘黙の成人でも適切なサポートと周囲の理解が得られれば、ちゃんと自立できるという証明だと思いました。長い間自分を閉じ込めていた心の枷から抜けだして、自由になることができるんだと。

勇気を出してSMiRAコンファレンスに来てくださったサブリーナさんに、会場から惜しみない拍手が送られました。

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ポーランドから場面緘黙の画期的な治療法?

<感情的なスピーチブロック(発話の壁)を打ち破る>

SMIRAコンファレンスの2人目の講演者は、ポーランドのシレジア大学で「言語と感情」について研究しているソニア・ツァラメック-カルツ(?)教授。吃音も場面緘黙も「感情的な発話の壁」に阻まれて起こる症状であり、全く新しい発声・発話方法を習得することによって、緘黙を克服できるというもの。

最初におことわりしておきたいのですが、私はこの講演の内容について、実はよく理解できていないのです。いきなり「吃音」と「場面緘黙」が出てきて解りづらかったうえ、ポーランド語訛りが強い英語と私の聞き取り能力のなさが重なって、最後まで??でした。後からメールで確認して、多分こういうことだろうと思って書いています。

私は吃音症については全く知識がありません。なので、吃音症の子ども/人が、ある場面ではスラスラよどみなく話せるのに、ある場面では吃ってしまうものなのか--また吃音の程度が場面によって違うものなのか、その辺りがよく判らないのです。場面緘黙の場合は、だいたい学校などの公の場で言葉がでないことが多いのですが、話せる相手も場所も人によって違いますよね?

ソニア教授は、吃音や場面緘黙の症状が起こるのは、「Emotional Speech Block Syndrome」(直訳すると「感情的なスピーチブロック症候群」)のためと捉えています。最初は吃音が原因で場面緘黙になった子どもや人のケースを話しているのかなと思い、会場で質問したのですが、なんだか要領を得ないまま…。で、メールで確認した結果、どちらの症状も同じように感情的な要因が大きいと理解しているとのことでした。

場面緘黙は不安のために「話せない」訳ですが、「言葉がうまく出てこず吃ってしまう」のも不安のせい?どちらも原因はメンタル面にあるんでしょうか?「うなく話せない」と焦れば焦るほど、吃音がひどくなる傾向にあるのは解るような気がするんですが…。そして、何故Psychological (心理的/心理的)Speech BlockでなくEmotional(感情的)という単語を使っているのか?

ソニア教授のチームは、体を完全にリラックスさせ、従来とは異なる新たな発声・発話方法を習得することで、吃音や場面緘黙を克服するというユニークなプログラムを発案。すでに多くの子どもや大人に試して、成功例を重ねているようです。

人は恐怖や不安に襲われると、声帯が閉まったようになって声が出にくくなります。場面緘黙になるきっかけも、こういった不安体験が絡んでいそう。もしくは、声を出そうと不安のなかで頑張りすぎて、どうしても声がでない状態で固まってしまい、緘黙症状が持続することもあり得るのではないでしょうか?

そう考えると、体と心を完全にリラックスさせれば、声帯もリラックスするため、声は出しやすくなりますよね。映像で新たな発声方法を見せてくれたのですが、最初は言葉を長く発音し、徐々に普通の長さに調節していくという感じだったように記憶しています。

早い人では2日くらいで、遅くても12日間で声が出るようになるということ。Youtubeの”Nowa Mowa”というチャンネルで映像を観ることができます。が、ポーランド語なので何を行ってるのか分からないんですよね…。

下の映像は新たな発話方法によって吃音が治った例のようです。

なお、4月2~4日にポーランドのカトワイスで「言語と感情」と題した国際的なコンファレンスが開催される予定だそう。シレジア大学の主催でソニア教授も講演する他、『場面緘黙リソースマニュアル』の共著者であるアリソン・ウィンジェンズさんの講演も予定されています。場面緘黙治療の新しい方向性を示唆するものになるかもしれませんね。早く英語の翻訳が欲しいです。

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言語療法士のリビー・ヒルさんの講演の続きです。

<治療例2>

小学校低学年のスージーちゃん: 話せるのは唯一お母さんのみ。父親とも、親しくしている3人の叔父とも全く話せない。

このケースでは、犬の調教を利用したスライディングイン法の説明をしてくれました。スライディングインというのは、通常は緘黙児が話せる大人(母親やTA)と言葉ゲームをしているところに、徐々に第三者(大人もしくは子ども)を入れていき、緘黙児が自分の声を聞かれる・言葉を交わすことに慣れさせていくという手法。学校や自宅の一室で行うイメージが強いですが、スージーちゃんの場合はアニマルセンターで犬を介して行いました。動物が好きな子にはぴったりですね。

どの段階で、犬の調教をセラピーとして取り入れたのかは不明ですが、多分お父さんや家族に話せるようなってからかな?まずは、スージーちゃんが、「来て」「お座り」「待て」など言葉をかけ、ラルフという名の犬をしつけました(どれ位で声がでるようになったかは不明)。慣れてきた頃、スージーちゃんとセラピストがいる部屋に叔父さんがひとりずつ入り、スージーちゃんがラルフに話しかけるところを見せました。最後は3人の叔父さんたちが見ている前で、「Come! 来て!」と大きな声を出せたそう!

<治療例3>

4歳のミリーちゃん: 家庭外では全く話せない。母親との分離不安あり。2歳半の時にリビーさんのセンターで治療を開始。

まず、関係者の教育・啓発からスタート。まず、「ただ内気なだけ」と考えていた父親や幼稚園の先生たちに、本や映像を使って場面緘黙について説明しました。遠方に住んでいたため、Skypeを利用してファミリーセラピーを行ったそう。

イギリスでは5歳になる年から小学校のレセプション・クラスが始まります。ミリーちゃんはまだ4歳ですが、昨年9月に同じ建物内にある幼稚園から小学校に進学。進学前に、新しい教室に慣れさせるため、幼稚園の教室から小学校のレセプションクラスに何度も足を運んだとか。また、新しい教室を中心に、これから使用する施設の写真を撮って写真付ストーリーブックを作成。上級生の女の子にお世話係を頼むなど、スムーズに小学校生活に移行できるよう計らいました。出席を取る際は、名前を呼ばれた子が「I am here(ここにいます)」というべき返事を、クラス全員に言わせるという工夫も。

<まとめ>

  • 取り組みは常に計画通りにはいかない。子どもの心によりそって、じっくり構える
  • 子ども、保護者、学校のスタッフのサポート体制が整っているか、省みることが必要
  • どの子も違うので、決まったルールはない。柔軟な対応を心がける

以上が、リビーさんの駆け足の講演内容でした。なお、この講演については資料が配布されず、私のメモと記憶からお伝えしているため、誤りがあるかもしれません。その点はどうぞご容赦ください。

リビー・ヒルさんのサイト Small Talk http://www.private-speech-therapy.co.uk

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