2019年SMiRAコンファレンス(その8)SMとASDが併存している子どもへの介入

6月も半ばに近づいてきましたが、イギリスはここのところ雨模様の天気が続いています。今日は一日中雨で、最高気温が14度…寒っ。先週の土曜は午後から雨があがって天候が回復したので、ハイドパーク内のSerpentine Sackler Gallery に行ってきました。

    ギャラリー&カフェをデザインしたのは、東京の国立競技場の初回コンペで選ばれた建築家、故ザハ・ハディド氏。曲線の遊び心溢れるデザインは、昔流行ったTeletabbiesという子ども番組に出てくるTeletabby House(右)に似てる?

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SMとASDが併存している子どもへの介入

<SMを併発するASD児への対応>

ASDは理解されているが、SMは理解されていないケースの問題点

  • ASD児には、期待されていることを明確にする(例:ソーシャルストーリーなどを使って、社会性を身につけさせる)対応がとられる。しかし、SMを併発している子どもに対しては注意が必要。それがプレッシャーになると、不安による反応を誘発し問題が深刻化することもある
  • 言葉が出ない理由を、何を期待されているかを理解できていない(例:社会的な理解の問題)、会話をする気持ちの欠如(社会的コミュニケーションの問題)と限定して考えると、間違った指導方法に結び付きやすい(「何をしなければいけないか解っているのに、やりたがらない」と考えがち)。不安が原因、また話さない状態を持続させている要因だということを考慮すべき
  • 話さないこと、対話/ 自分の意見をいう課題をやらないことを、「頑固」「拒否」と誤解される可能性がある。賞罰式の指導に結び付いたり、長期に渡ってネガティブな評価を受けかねない

★早期介入がなされないと、緘黙状態が固定してしまう傾向が強い

SMは理解されているが、ASDは理解されていないケースの問題点

  • 表出している行動・言動のみに焦点が当てられ、ASD児が持つ三原則(TRIAD)と感覚過敏を背景にした通常とは異なる情報処理の方法や社会的理解のニーズが理解されにくい。子どもの行動・言動をひきおこしている要因への対処がないため、介入の成功がより難しくなる
  • 時間割変更などの問題に積極的に対処する支援が得られにくいため、学校での不安が続きやすい
  • 学校で一日中我慢し続けているため、家で「爆発」しやすく、保護者は子どもをネガティブに評価する傾向が強い。また、特別扱いしがち
  • 学校側は「単に言葉の問題だけではない」ことを理解できず、頑固な子と誤解されやすい

<結論>

  • ほとんどのASD児はSMを併発していない
  • ほとんどのSM児はASDを併発していない
  • しかしながら、重複する部分がある――根源に不安があり、コミュニケーションに影響を与えている
  • 表出している行動・言動の根底にある要因を探る
  • 子どもの幅広いコミュニケーションに着目する
  • 常に不安を減らすサポートを心がける――現時点からのスモールステップで可能なチャレンジを

クレアさんの講演はSMとASDの併存について、以下の点に着目して、今後のさらなる研究が必要ということで締めくくられました。

  • 2018年リサーチの結果と男女比に対しての更なる研究
  • SMとASDが併存する若者の支援
  • ASD児(人)が抱える社会不安がSMを引き起こす可能性
  • SMの若者に対して、適切なASD診断プロトコルが必要

みく備考:

ASDに関しては、「発達障害」という概念のもと1980年代くらいから一般に広く知られるようになりました。これに反して、SMの知名度はまだまだ低いように思います。

ただ、「自閉症」が一般に知られているといっても、ASD児は「人に興味がない」「一人でいることを好む」「視線が合わない」「会話ができない」など、ステレオタイプにはめ込んでいないでしょうか?実は、私がそうでした。

私が今働いている特別支援学校は、いわゆるアスペルガーの子どもを対象にしています。最初、「人に興味がない」はずのASDの子どもたちが、友達同士でゲームをしたり、校庭で一緒に遊んだりしているのを見てびっくり。一方的ではあっても「会話」は通じるし、視線を全く合わせないということもありません。「友だちが欲しい」と思っている子、「自分は人と違う」と違和感を持っている子が多いことも、だんだん判ってきました。

SM児もそうですが、ASD児にも色々なタイプの子がいて、一人ひとり個性が違います。また、発達の凸凹を持った子も多くいることが解ってきています。子どもの個性や特性を良く見極めて、困っている部分をうまくサポートしてあげたいですよね。

SM=ASDではないし、例えSMのお子さんがASD診断を受けたとしても、お子さん自身は今までと全く変わりません。最後にクレアさんが、「グレッグがASDじゃなかったら、今の彼じゃなくなるから、ASDで良かった」「今の彼が好き」と、息子さんをありのまま受け止めていたのに、とても共感できました。

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2019年SMiRAコンファレンス(その7)ASDとSMの併存が疑われる場合

あっという間にもう6月ですね。イギリスではバラの花薫る季節が到来し、どこを歩いても美しいバラが目に飛び込んできます。

リージェントパークにあるメアリー女王のバラ園。今が真っ盛りです

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ASDSMの併存

  • 大部分のASDの人たちは、SMを併存していない
  • ASDの人は社会不安、特に予測不安を抱えていることが多い
  • 内気なASDの人でも、不安が薄れれば状況に慣れてくる
  • ASDの診断基準にSMは含まれていない

2018年度、SMiRAのFBグループで行った調査から(詳しくは『2018年SMiRAコンファレンス(その5)』をご参照ください)

1) 第一調査:参加者(大半は保護者)364名

SMのみ   66% (240名)  /  SM とASDが併存 34% (124名)

2) 第二調査(1) 対象:「SMのみ」の診断に納得している参加者(162名)

男女比:      男子 23%(37名) :  女子 77%(125名)

3) 第二調査(2)対象:「ASDとSMが併存」の診断に納得している参加者(98名)

男女比:      男子 50%(49名) : 女子 50%(49名)

みく備考:この調査はSMiRAのFBグループに呼びかけて行われたもので、参加したのは364名(FB参加者は現在1万人に達しているので、調査に参加したのは全体の4~5%程度ではないかと考えられます)。その中の3割近くの回答者が併存と答えています。今のところ、ASDとSMの併存率については公式な数字が発表されておらず、イギリスではこれまでもっと少ないと考えられていたように思います。

この結果について、クレアさんは「きちんとした調査が必要」と語っていました。SMとASDの特性に重なる部分があるため、過剰に診断されている可能性がある。また、まだASDの診断が下りていないため、過少に診断されている可能性も考えられるとのこと。以前は、SMがまだ一般に浸透しておらず、ASDの二次障害として現れるSMが見逃されていた点があるとも。

ASDSMの併存が疑われる場合

<ASD児に対するチェックポイント>

  • 他の状況と比べ、ある状況では格段に良く話すか?
  • ある特定の状況において、殆ど話さない、または特定の人(たち)にしか話さないか?
  • 答えが正しいと解っている時のみ話す?
  • 自らコミュニケーションを始めるか?(SM児には困難)
  • 話すこと以外にも、広範囲の行動抑制があるか(例:給食が食べられない、学校でトイレに行けない、決まった解答のない課題は拒否するなど)?
  • 人から「無作法、不愛想、引込み思案」と思われているか?

★もし上記の答えが「はい」の場合は、SMを考慮に入れる

<SM児に対するチェックポイント>

  • 子どもが安心でき、話せる状況で、非定型な言語特徴があるか?

(極端に狭い範囲の話題、ひとりで延々と話し続ける、エコラリア、声の高低や音量の異常、限定的な会話のやり取りなど)

  • 社交的というより、内容重視の会話ではないか?

下記の事項を確認(ビデオ、マジックミラー、保護者の報告などを利用)

  1. 視線が合わない
  2. 拒否的、否定的なボディランゲージ(自分が興味のあること以外は、会話をするモチベーションが低い)
  3. ジェスチャー他の非言語的なコミュニケーションの有無(表情が豊かでジェスチャーを多用する=ASDではない可能性大)
  4. 挨拶など社会的習慣は?
  5. 質問されると不安がる
  6. 感覚過敏があるか

★これらのチェックポイントは子どもが普通に話せる場面・状況においてのみ有効

みく備考:SMであれASDであれ、子どもの普段の姿や言動を撮影しておき、心理士にビデオを見せることはとても重要だと思います。病院やクリニックで子どもが本来の姿を見せることは難しいため、診断の大きな助けになるはず。長年の習慣で家族が個性と捉えていることでも、専門家の目から見ると何かの症状ということもあるかもしれません。

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2019年SMiRAコンファレンス(その6-2)ASDの定義

5月も後半に入り、イギリスでは天気のいい日が続いています。先日、仕事の帰りに公園を抜けていったら、不思議な光景に出遭いました。

  「葉っぱが白くなってる?」とよく見たら、どうやら花のよう。調べたところ、Dove Tree(鳩の木)という名前らしいんですが、「ハンカチの木」とも呼ばれているらしいです。不思議な光景でした~。

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この講演におけるASDの定義について

ある方から、この講義におけるASD(Autistic Spectrum Disorder自閉症スペクトラム障害)の定義について訊かれたので、講演者のクレアさんに確認を取りました。

結論から言うと、クレアさんのいうASDの中には、グレーゾーンやASD傾向の子は含まれていません。なので、確実にASDと診断された子ども(人)を対象にしています。

教育心理学者のクレアさんはASDの診断の専門家でもありますが、勤務するマンチェスター地区ではグレーゾーンやボーダーラインASDという診断は避けているということ。曖昧な診断は本人のためにならないという見解で、疑いがある場合は時間を空けて再度様々な角度から慎重に診察するそう。

イギリスではグレーソーンやASD傾向という言葉をあまり聞かないので、イギリス全国で同じような方針なのかな?自閉症のような習性(Traits)を持っていても、3つの特性が備わっていなければASDと診断しないということですね。

(DMS5 では「コミュニケーション」と「社会性」の質的障害から、「社会的コミュニケーションと対人相互交渉の障害」にまとめられ、自閉症の「3つの特性」から「2つの特性」に変わりました。が、イギリスでは80年代にアスペルガー症候群の研究を発表したローナ・ウィング女史(英国人)の「3つの特徴」説が基本となっているよう)

対して、日本ではグレーゾーンやASD傾向と診断を下すことが多いようです。そう診断することで、本人や周囲の利点になると考えてのことだと思います。多分、各国の医学的・文化的な背景の違いが影響しているのではないでしょうか?

以前、『イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その3)』で、発達障害の権威、杉山登士郎氏の考え方について書きました。

杉山氏は、認知に高い峰と低い谷の両者を持つグループを発達凸凹とし、その中で適応障害があるグループを自閉症スペクトラム障害としています。典型的な自閉症ではなく、知的障害のない、より軽度の、しかし社会的な問題を多発させている人たちの中で、適応障害がない状態(=困っていない状態)が発達凸凹

発達凸凹レベルの問題を自閉症スペクトラム適応障害を持ち、教育的、治療的な介入が必要なレベルのものを自閉症スペクトラム障害と分けて書くことにする(『発達障害のいま』より引用)。

(日本ではASDに対して、自閉症スペクトラム、自閉症スペクトラム症、自閉症スペクトラム障害と3種類の呼び方があり、グレーゾンについては明確な定義がないように思います)

ASDの特性を持っていても、周囲とうまくやっていけるようであれば、「障害」と診断する必要はないということですね。発達凸凹というと、誰でも多少なりとも持っている感じがして受け入れやすいです。

SM児とASD児の特性は重なるところがあり、見分けは難しいです。大事なのは、それぞれの子どもの特性をふまえてサポートを行うことだと思います。

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2019年SMiRAコンファレンス(その6)SMとASDへの基本姿勢

早いもので、5月もすでに中ば。イギリスではずっと天気がすぐれず肌寒い日が続いていたのですが、やっと5月らしい陽気になってきました。まだまだSMとASDの記事が続きます。

森林公園ハムステッドヒースで午後の散歩

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ASD児とSM児に対する基本的な姿勢

<ASD: 考慮すべきこと>

  • 自閉症は生涯続く
  • 当事者にとっては、自分が一生自閉症のままであること、それは問題ではないことを自覚することが精神的な助けとなる
  • 常に自閉症の三原則(アイスクリームサンデーの3種類のアイスクリーム、及びシロップ(感覚の違い))が存在するが、ウエハース部分(行動・言動)は時間の経過とともに変化してゆく
  • 自閉症の脳は一般的な脳とは異なるが、劣位にあるという訳ではない = 脳の多様性
  • 自閉症はその人から切り離せる症状ではなく、その人の個性を形成しているもの
  • 本人が自閉症を個性として受容する
  • 周囲はその子の個性として捉える

<ASD児が問題行動を起こしてしまうリスク要因>

  • 常に不安や恐怖症を抱えている
  • 感情的な反応を規制することが難しい
  • 他人の意図を読み取ることが難しい
  • 予測可能でない・自分でコントロールできない状況だと不安になる
  • 場や人に合わせたり、応じたりするモチベーションの欠如
  • 経験から学ぶことが難しい

みく備考:ASD児は成長するにつれて自分が他の子と違うこと(人とうまく関与できず、社会的な集団になじめない等)を意識するようになります。この違和感 /疎外感が自己否定感に繋がらないよう、自分も周囲もASDを個性として受容し、自己肯定感を育んでいくことが課題になってくるかと思います。

ASD児は常に不安や恐怖症を抱えており、思考の柔軟性に困難があるため、二次障害としての不安障害(恐怖症、社会不安、強迫性障害)やうつ病などを発症しやすい傾向にあります。私が働いている特別支援学校の生徒たちも、高機能ASDと他の症状を抱えているケースが多いです。

先月、『環境運動の旗手は場面緘黙?』というタイトルで、今欧州で時の人となっているグレタ・トゥーンベリさんについての記事を書きました。彼女はASDとSMの併存のみならず、OCD(強迫性障害)や摂食障害など(定かではないですが)にも苦しんできたよう。現在では、物事を「白か黒か」でしか見られないことやこだわりの強さを自分の個性と受け止め、活動の原動力としています。ASDの特性を生かした彼女の強さは賞賛に値しますし、ニュートンやアインシュタインなど、多くの天才たちがASDだったという説も。

(もし時代が変わって、自閉症の人口が健常と呼ばれる人たちの人口を越えれば、健常の人たちがマイナリティになり、「社会性」は重要ではなくなるのかも…。私たちはもっと脳の多様性(ニューロダイバーシティ)を理解し、色々な個性を尊重し合って共生していくべきなのかもしれませんね)

<SM: 考慮すべきこと>

  • SMは表に現れるウエハース部分(行動・言動)で、本人の意思で話さないのではない
  • 症状は変えることが可能で、時間をかければ改善できることが多い
  • SMを個性として受容することは、本人の精神的な助けにはならない
  • その子・人の個性として捉えず、外側にあるものとして捉える
  • 本来のその子らしさを第一に

みく備考:SMに対しては、「話せない」ことをその子の個性としないことが肝心です。「話せないのが自分」と自ら納得し、周囲が温かく見守り続けるだけだと、緘黙が定着してしまいます。本人が「変われる」「変わりたい」と思うことが克服の第一歩。

ただ、不安になりやすい抑制的な気質の子は、自分がそういう気質であることを認識し、対応策を身に着けていくことも大事かなと思います。自己評価が低い子が多いので、保護者は子どもにどんどん成功体験を積ませ、自己肯定感を育てていけるといいですね。緘黙だと社会的な場で「自分らしさ」を出せないことが多く、自信を持たせることが難しいのですが…。

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2019年SMiRAコンファレンス(その5)SMとASDの対比

日本では10連休ももうすぐ終わりですね。昨日は関東地区でゲリラ豪雨が発生し、大量の雹が降ったとか…やはり、世界各国で気候変動の影響が出ているように思います…。さて、SMiRAコンファレンスの続きです。

<ASDとSMの対比>

  • ASD: 自閉症スペクトラムは、人がコミュニケーションをする方法、世界を見る方法、他者と関与する方法に影響を及ぼす、生涯続く症状。程度の差はあれ、全ての状況で起こる
  • SM: 場面緘黙はある気質的な素因を持つ人が、不安をベースにした反応として起こす症状。全ての状況で起こる訳ではなく、生涯続く訳ではない
  • そして、ASDに不安障害はつきものであるため、ある気質的な素因を持つ人の何割かはASDであると思われる

もし、表に出てくる行動や言動――アイスクリームサンデーのウエーハウスの部分――だけを見るならば、SM児もASD児も似たように見えるかもしれない。

<ASDとSMで重複する行動>

  • 視線を合わせるのを避ける
  • 自発的に、自由に人の輪に参加しない
  • 限定された社会的興味
  • 限定された相互関係
  • 感覚の違和
  • メルトダウン

<ASDの人が抱える困難>

  • 社会的な相互関係
  • 社会的コミュニケーション
  • 思考の柔軟性(想像力)
  • 知覚

          ↑

   ★あらゆる状況で常時存在する(うまく隠せているケースもある)

<SMの人が抱える困難>

  •  社会的な相互関係
  • 社会的コミュニケーション

       ↑

   ★常時ではない(子どもの不安が強い時)

  • 思考の柔軟性
  • 知覚

                         ↑

   ★時として困難が伴うこともある

<なぜ混同されるのか?>

  • 他人の言動や行動は目に見えるが、それを起こしている要因は見えない
  • 自閉症は場面緘黙より認知度が高い
  • 専門家がSM状態の子どもといる時、当然子どものコミュニケーションは通常とは異なる → 保護者に普段の様子をきく必要がある

ASDとSMの併存率は現在のところ知られていない

みく備考:人前では引込み思案な割に、頑固で完全主義なところがある緘黙児は多いのではないでしょうか?ただの「頑固」なのか「こだわり」なのか、判断が難しいところだと思います。でも、「こだわり(柔軟な思考の困難)」が強いからといって、すぐに自閉症には結びつきません。3つの特性をすべて持ち併せているかが鍵となります。

また、騒音が苦手、服のラベルが肌に触れるのを嫌がるなど、SM児の感覚過敏に悩まされる保護者は多いと思います。感覚過敏もASD児に共通する特性ですが、感覚過敏=自閉症ではありません。ただ、SM児の感覚過敏は、成長するにつれて薄らいでいく/ うまく適応・対処していけるケースが多いのでは? うちの学校のASD児やティーンを見ていると、年齢があがっても食べられる食品が極端に少なかったり、「〇〇は絶対にしない」と頑固一徹(思考の柔軟性がない)なような…。状況から判断して、「ちょっと我慢・妥協した方がいいかな」という姿勢は見られません。

イギリスでは、最近になってASDの診断を受ける女の子や成人女性の増加が報告されています。女子は男子より精神的な成長が早く、周囲を見て模倣することや社会性の欠如を隠すことに長けているため、見つけにくいというのが理由のひとつのよう。また、ASD児の男女比は4:1とされているため、女子がアセスメントを受ける機会が少ないとも。アスペルガーや高機能ASDのアセスメントには、女子用のマニュアルが登場しているようです。

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2019年SMiRAコンファレンス(その4)SMとは何か?

<場面緘黙(SM)とは何か?>

  • 場面緘黙とは、学校のクラスメイトやたまにしか会わない親戚など、ある一定の社会的場面で話せなくなる深刻な不安障害
  • 通常は幼年期に始まり、未治療のままだと成人した後まで継続することがある。SMの子どもや成人は話すことを拒否したり選んている訳ではなく、文字通り話すことができない
  • しかし、SMの人たちは、身体がすくむような反応が起きる対象の人(たち)がいない状況であれば、親しい家族や友達など特定の人と自由に話すことができる
  • 幼児のSM発症率は140人にひとり。女子及び、外国に移住し第二言語を習い始めたばかりの子どもに多い

  注)バイリンガルの子どもの発症率は49人にひとりとされている

<ASDとの違い>

  • SMは根底にある要因から生じる行動・言動であるため、変えることが可能であり、多くの場合は治療が可能
  • SMは症状であり、アイスクリームサンデー・モデルのウエハースの部分(表出する行動・言動)に該当する
  • これは、自閉症のような広汎性の発達障害ではないことを意味する
  • SMは話すことのみでなく、他方面に影響を与えていることが多い: 特定の状況下および/ または特定の人とのコミュニケーションに対する極端な抑制がある(自発的な会話、ジェスチャー、文書による作業、食事などを含む)
  • 場面緘黙(Selective Mutism)という名は、根底に潜む困難さ――不安、恐怖症、そして?―― が起因して生じる行動の一つにちなんで名付けられたもの

注)「?」の部分には、バイリンガル環境、遺伝的な精神疾患などが考えられるが、現在の所明らかになっていない

みく備考:

以前にも書きましたが、緘黙のせいで社会的な体験を長期間積むことができないと、後々大きな弊害となることがあります(俗にいう緘黙の後遺症)。

話し言葉・言語・コミュニケーションの発達は、誕生から18歳くらいまで続きます。冗談のやりとり、比喩や隠喩、同年代特有の言葉遣いや付き合い方などは、現場で実際に体験しながら学んでいくもの。SMのために会話の輪に入れず、人との交流が少ないと、いざ話せるようになっても、すぐには上手くいきません。特に、同年代やグループでの自由な会話やコミュニケーションが難しいと感じる人が多いよう。

家族や話せる親しい人との会話、SNSを使った交信など、言語&非言語のコミュニケーションを絶やさないこと、なるべく社会的な場に参加することが、とても大切になってくると思います。

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2019年SMiRAコンファレンス(その3)ASDとは何か?

<自閉症スペクトラム障害(ASD)とは何か?>

「自閉症とは生涯にわたる発達の障害であり、他者とのコミュニケーションの仕方、関与の仕方、周囲の世界に対する感じ方に影響を与える(英国のASD支援団体National Autistic Societyより)

すべての自閉症者は共通する3つの特性を持つ TRIAD(三徴候)

• すべての自閉症者は、社会的なコミュニケーション、社会的な関わり、思考の柔軟性(想像力)に困難を抱えている
• すべての自閉症者は、感覚の違和(感覚過敏)を持つ
• 自閉症は広汎にわたる――その人が世界を見、関わり、経験する方法に影響を与える。それは恣意的にスイッチを入れたり、切ったりできるものではない。

クレアさんによる自閉症のアイスクリームサンデー・モデル

(ASDをアイスクリームサンデーに例え、実際に会場で作りながら説明してくれました)

  • アイスクリームの器:脳
  • 3種類のアイスクリーム: ASDの3つの特性
  • バニラ:社会的コミュニケーションの困難
  • ストロベリー:社会的な関わりの困難
  • チョコレート:思考の柔軟性の困難(想像力の欠如)
  • アイスクリーム全体にかけられたシロップ: 感覚の違和(感覚過敏)
  • ウエハース:*表出する行動・言動

アイスクリームは必ず3種類あることが定義。かけられたシロップの濃度や分量は人によって異なるが、行動・言動に影響を与える。

みく備考:

注意していただきたいのは、はっきり見えるのは*行動・言動 / ウエハース部分のみということ。感覚過敏 / シロップ部分は、本人も明確に説明できないため、保護者や周囲がよく観察し、対処法を考える必要があります。

ひとくくりにASD児・SM児といっても、各自それぞれ違います。私はここ5年ほど高機能ASDのティーンたちに日本語を教えているのですが、本当に個性も行動パターンも千差万別。ASDの3つの特性で判断といわれても、スペクトラム状になっていて明確な境界線がないため、解り難いと思います。

高機能自閉症専門の特別支援学校で会うティーンの中には、ぱっと見ただけだと「この子本当にASD?」と思える子も。ぴょんぴょん跳んだり、手をひらひらさせたりというような目に見えやすい常同行動がない子が多く、あっても中学生くらいになると目立たなくなる傾向にあるような…。

何度かやり取りすると、「あれっ?」と違和感が強くなり、その子独特の行動パターンが見えてくるという感じです。普通の公立校で学校生活や友人関係に支障をきたし、転校してくる子も多いよう。数は少ないですが、小学校高学年までASDと診断されなかったケースも。

幼少期にASDを疑われなかった子どもは、高機能(アスペルガー)でそれほど言葉に問題がない子が多いのではないでしょうか?学校でそれなりに順応できていれば、発見されにくいと思います。家族は一緒に暮らしている年月が長いため、子どものコミュニケーション方法や行動パターンに慣れてしまい、それを「個性」ととらえがち。「何か変だな」と思いながらも、問題が起こるまで受診しないことも多いのでは?

確かに、ASD児の行動パターンはその子の「個性」ですが、早く気付いて支援を受けることができれば、日常生活の困難さや生きづらさを改善できます。成長の過程で、自己肯定感や自尊心を培うことができないと、自己評価が下がってしまい、社会不安などの二次障害をおこしやすい――これはSM児にも言えることだと思います。

もし子どもが「グレイゾーン」や「ASDの傾向が強い」と言われた場合も、その子の生きづらさや苦手分野を認識し、その子に合う支援ができれば、随分違ってくると思います。

目標は子どもが「その子らしく」、自己肯定感を持って生きられるということじゃないでしょうか?

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2019年SMiRAコンファレンス(その2)SMとASD

講演1:場面緘黙と自閉症スペクトラム障害:コミュニケーションに影響を与える二つの症状:  類似点、相違点、重複部分 Selective Mutism and Autism Two conditions affecting communication: Similarities, differences and overlap

イングランド北西部のマンチェスター市に勤務する教育心理士のクレアさん

講演の一番バッターは、昨年のコンファレンスでも『SMとASDの併存(詳しくは『2018年SMiRAコンファレンス(その5)』をご参照ください)』というタイトルで短い報告をしてくれた教育心理学者のクレア・キャロルさん。今年はそのテーマをもっと掘り下げて、より詳しく説明してくれました(資料は、クレアさんが勤務するマンチェスター市のOne Educationスキームから)。

今回のコンファレンスで最も注目を集めた議題なので、複数回に分けてお伝えしたいと思います。

まずはクレアさんの紹介から。

クレアさんは2000年に教育心理士の仕事を始め、2004年に自閉症の専門家に。場面緘黙の研修を受けたのは2014年とのこと。

クレアさんの長男、グレッグ君(仮名17歳)は、SMとASDの両方を抱えています。ASDの診断は幼少の頃におりたものの、SMは10歳(2012年?)になるまで診断されなかったとか。

(イギリスでは2006年にTVで場面緘黙のドキュメンタリー番組が放送されてから、少しずつ場面緘黙が知られるようになりました。私の息子が2005年春にSMを発症した当時は、SENCOを含む学校関係者も全く知識がなかったのです)。

グレッグ君は家の外では話さなかったものの、学校では答えが明確な質問には、声を出して答えることができていたそう。クレアさんは「緘黙児は学校で全く話さない」と思い込んでおり、長年息子さんの緘黙に気付いてあげられなかったことを悔やんでいました。

当時は専門家の間でも場面緘黙のトレーニングは殆どなかったそうです。早期発見が重要なのに10歳まで診断されなかったことを後悔し、「誰にも同じ思いをして欲しくない」と。その思いが、このSM とASDの研究に繋がっているよう。

SMiRA委員会のメンバーは、自分の子どもがSMだった、または現在も当事者である方が殆ど。それだけに、研究や啓蒙活動にも熱が入るんだと思います。

講演の内容は:

  • 自閉症とは何か? 場面緘黙とは何か?
  • 何故この二つは混同されるのか?
  • 違いは何か?
  • 類似性は何か?
  • 重複する部分はあるのか?
  • 次にすべきこと

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2019年SMiRAコンファレンス(その1)

2019年SMiRAコンファレンス

今年もまた、SMiRAの定例コンファレンスが、SMiRAの本拠地レスターにて3月30日に開催されました。例年のように、全国から70名ほどの保護者や専門家が集結。今回は、特に場面緘黙の成人とLST(言語療法士)の参加者が多かったのが印象的でした。

   故アリス会長への追悼をのべる現会長のシャーリー・ランドック゠ホワイトさん(最後列に座っていたので、写真がブレててすみません)

<コンファレンスの内容>

  • SMiRA創始者、故アリス・スルーキン会長への追悼
  • 場面緘黙と自閉症スペクトラム障害 教育心理士&SMiRA委員会メンバー クレア・キャロルさん SM & ASD Two Conditions affecting Communication: similarities, differences and overlap
  • ノーサンプトン州における緘黙児支援 SLT(言語療法士) ベス・シェリーさん&ハリエット・ウィルスさん Supporting Children with Selective Mutism in Northamptonshire
  • 「教師に伝えて欲しいこと」 専科SLT リビー・ヒルさん “What would you have wanted me to tell your teachers?”
  • 当事者が緘黙を説明する手紙のテンプレート  ジェーン・サラザー 元当事者& SMトーキングサークル主催 SM Adjustment Templates
  • 大学生活を始めるにあたって Starting at University:
    • 選択肢、申請&インタビュー SMiRAチーム
    • 大学で受けられるサポート レスター大学・学生支援サービス シャロン・スタージェスさん
    • 実際の体験談 SMiRA会員

SMiRAは承認制の活発なFBページを運営していて、現在のところ50カ国以上の国から1万人近くが登録。毎日、相談の投稿にたくさんのコメントがついています。

最近の傾向として、ASDとSMを併発する子ども、緘黙のティーンに関する相談が増えているよう。今回のコンファレンスはその傾向を反映しているように感じました。

私は息子がSMを発症した2005年にSMiRA会員となり、2006年からできるだけコンファレンスに参加するようにしてきました。かつてはSM児とASD児を分けて考えるような風潮がありましたが、現在はSMとASDを併せ持つ子どもの存在が、周知の事実になってきているような。

イギリスでは各地区によって差はあるものの、最近では学齢期の緘黙児への支援方法は学校関連機関(小児・青少年のメンタルヘルスサービスを含む)に定着してきた感があります。そのため、まだ支援が行き届いていない分野での相談が増えているのかなと…。

また、場面緘黙が一般に知られるようになり、ASDの二次障害としてのSMが注目されるようになったのではないか?SMで医療機関を受診する人口が増え、その際にASDが疑われるケースが増えてきたのではないか?とも推測しています。

これから順を追って公演の内容を報告していく予定ですが、特に注目が集まったクレア・キャロルさんの『SMとASD』について詳しく触れていきたいと思っています。

【訃報】SMiRA創設者、アリス・スルーキンさん逝く

2月15日夜、SMiRA創設者で、一昨年前まで代表を務めていたアリス・スルーキンさん(Alice Sluckin)が亡くなりました。99歳でした。

アリスさんは、1992年にリンジー・ウィテントンさん(SMiRAコーディネーター)と支援団体SMiRA(Selective Mutism Information Research Association)を設立。場面緘黙の支援に情熱を注いで来られました。設立当時すでに精神医学ソーシャルワーカーの仕事を退いており、晩年を場面緘黙の子ども、大人、保護者たちの支援に捧げたといっても過言ではありません。

アリスさんと場面緘黙児たちとの出遭いは、緘黙が殆ど知られていなかった60年代に遡ります。夫君(Wladyslaw Sluckin )がレスター大学教授で心理学者という環境の中、心理学の原則を当てはめながら緘黙を研究し、論文を発表。場面緘黙治療のパイオニア的な存在となりました。

アリスさんとSMiRAのお陰で、イギリスではいち早く場面緘黙の支援・治療の方法が一般に浸透していきました。現在でも支援体制が整ったとはいえませんが、SLTのマギー・ジョンソンさん他、多くの専門家が誕生し、学校関係者の知識も豊富になっています。

私自身も、息子が緘黙になり闇の中にいた14年前、アドバイスや温かな激励をいただき、アリスさんには感謝してもしきれません。個人的にも懇意にさせていただき、昨夜リンジーさんから訃報を聞いて以来、心にぽっかり穴があいたように感じています。

2005年にSMiRAとアリスさんとの出遭いがあり、2006年に『場面緘黙ジャーナル』のフォーラムで心理士の角田けいこさんや緘黙児の保護者たちと出遭い、その翌年にK-netが誕生したのです。考えてみると、縁というのは本当に不思議ですね。

       2013年、SMiRA創設21周年記念パーティにて。緘黙経験者でミスイングランドのカースティ・ヘイズルウッドさんと

19歳の時に単独でチェコからイギリスに亡命したアリスさん(詳しくは『プラハの夏休み(その2)』をご参照下さい)。小柄ですがバイタリティーにあふれ、慈愛とユーモアに富む、本当に可愛らしい方でした。

アリスさんとの想い出は尽きませんが、2009年のSMiRAコンファレンスにKnet代表の角田さんと私を招待してくださり、会の後にレスターのご自宅に泊めてくださった時のことが鮮明に心に残っています。

当時89歳だったアリスさんは、すでに夫君を亡くされて一人暮らしでした(息子さん二人は独立)。閑静な住宅地にある家は、書籍だらけ。日当たりのいい居間には、ご家族の写真と鉢植えがたくさんありました。

すでにご高齢だったにもかかわらず、テキパキ動き回って会話も達者。夕食をご馳走になったんですが、アリスさんの食べるスピードの速いこと!食事に集中する姿に驚き、感動し、これが彼女のバイタリティの源なんだな、と思いました。翌日、私たちが作った具沢山のインスタントラーメンを、同じように「美味しいわ」と食べてくださり、また感激。

アリスさんは、2010年にその貢献を称えられ、OBE大英帝国勲章(Order of the British Empire)を受勲しています。受章者はバッキンガム宮殿に赴き、エリザベス女王から直接勲章を授かるのです。が、「衣装は?」「晴れ舞台よ!」と浮かれる周囲の興奮をよそに、アリスさんは何とチャリティショップで中古の洋服を購入。誰かのおさがりを身に着けて、女王様に謁見したのでした。

自然体で飾らない、彼女らしいエピソードなのですが、まだ続きがありました。昨年夏、99歳の誕生会に参加させていただいた時、ご子息が「母らしい」と、額縁ではなくチョコレートの空き箱に張り付けた受章時の記念写真を見せてくれたのです!

2010年代に入ってからは、SMiRAコンファレンスの昼食後、講演中にこっくり居眠りをする姿が頻繁に。今考えれば、90歳代だったので当然なのですが、保護者や専門家たちと歓談し、積極的に会に関わっておられました。

2015年SMiRAコンファレンスにて

2015年にプラハ旅行から帰った後、プラハのシナゴグ(ユダヤ教会堂)でホロコーストの犠牲になった子どもたちの遺品や日記を見た話をしました。「たった一人で亡命して、本当に大変でしたね」と声をかけると、「それはもう昔のことだから」と…。

アウシュビッツの強制収容所で家族全員を亡くしたアリスさんですが、一言も誰も責めようとはしませんでした。現在SMiRAは海外の支援団体と協力し合っていて、その中にはKnetはもちろん、ドイツの支援団体も含まれています。

後ろではなく、前を向いて生きていく――アリスさんの生きる力に尊敬の念を抱かずにはいられません。彼女の情熱が人々を動かし、場面緘黙を一般に広め、支援の輪を広げてきたのです。

2年ほど前、ケアを受けながらまだご自宅で独り暮らしを続けるアリスさんを訪たことがあります。ものすごく喜んでくれて、帰り際に私の手をぎゅっと握ってくださいました。その手の温かさを、今も忘れることができません。その温もりは、アリスさんの人柄そのもののように感じました。

アリスさん、本当にありがとうございました。

本当に温かくて、芯が強くて可愛らしい女性――誰からも愛されたアリスさんのご冥福を、心からお祈りいたします。