ハミングすることの有効性

今日で10月も終わりです。コロナ禍のせいで、今年のハロウィーンは子ども達の活動も少なかったよう…。それでも、子供がいる家はジャカランタンや蜘蛛の巣などで飾りつけられ、夕方には通りから楽し気な笑い声も聞こえてきました。

    せっかくのハーフターム休みは毎日雨、雨、雨…。イギリスでは来週木曜日から2度目の全国ロックダウンが決定しました…。

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遅まきながら、10月は場面緘黙啓発の月でした。ご存じのように、ヨーロッパでは新型コロナ感染の第二波が襲来中で、メディア露出は限定的(BBCに掲載されたニュース:https://www.bbc.co.uk/news/uk-wales-54731963)。でも、その代わり(?) に、オンラインで複数のSM講習会が開催され、そのいくつかに参加することができました。

先週末の3日間は、アメリカから発信されたSMサミットに参加(当日の参加は無料だったので、大助かり)。その中で、興味深かった講演をご紹介します。要点だけかいつまんで説明しますが、聞き漏らしや誤訳もあるかと思いますので、ご容赦ください。インタビュー形式だったので、情報にムラがあります…。

セザール・ルイズ博士(Dr. Cesar Ruiz): 音声言語病理学者、嚥下・嚥下障害スペシャリスト、米ラサール大学教授

人が発する声は2種類ある。笑いや咳など、思考とは別の脳の部位で起こる非自発的なスピーチと、言おうとすることを考えながら声を出す自発的なスピーチだ。自発的なスピーチを司るのは前帯状皮質(Anterior Cingulate Cortex)で、不安の影響を大きく受ける。緊張が高ければ高いほど、自発的に声を出すことに影響を及ぼし、声を出すことができなくなることもある。

喉が閉まったようになって声が出ない状態は、本人にとって非常に不快で恐ろしい。この不快な体験を繰り返さないために、子どもは声を出すことを恐れるようになる。

リサーチ:

SMクリニックで緘黙児をインタビューし、センサーを使用して体のどの部分に不快感や違和感を感じるか調査。話さなければならないプレッシャーある時、首に強い緊張が認められた。話さなくてもいい状態になると、緊張は即座に下がる。感知器で緊張度を測ることにより、場面緘黙の診断が可能となる。また、年齢が上がるにつれて、緊張が減少することが認められた。これは、話さなければ不快・不安にならないことを学習したせいと思われる。従って、早期に発見することが重要である。

治療方法:

まずは一歩引いて、話すことからスタートすることを避ける。子どもたちは話すことはできるのだから。

最初は話すことに焦点を当てるべきではなく、まず音と声で遊ばせ、自主的に声を出すことに取り組む。自分で声を出すことができるようになれば、話し始めることができる。

音声練習プログラム

  1. 体系的に音声を出す/ 音声のコントロール法
  2. 自発的に話す・質問する
  3. シミュレーション(学校ベースのシナリオ)でコミュニケーション・会話の練習

これはセラピスト、教師、緘黙児自らができるプログラムで、関わる人全てに有益。子どもが言語の問題を抱えている場合があるので、言語療法士が加わると良い。

まずは、意図して音(自発的)を出せるようにし、徐々に声の大きさや異なる音声をコントロールできるようにしていく。これにより、声が出ない状態になると感じる不快感は気にならなくなる。一旦声をスタートさせることができれば、話すことは難しくない。

どのように声をスタートさせるか子どもに教える。ハミング(口を開けずに出す音)で「フン・フフ・ンン」など、10秒間音を継続させてみる。緊張が強いとハミングするのも難しいが、まずは5秒から。長くハミングできるようになると、緊張も和らいでいく。ハミングをコントロールできるようになったら、次は指示したら音を出せるように練習する。10秒間続けて音を出せるようになれば、子どもは自信をもって対処できるようになり、不安を克服できることを学ぶ。

ハミングや口笛を吹く遊びなどをし、家庭でもゲームを続ける。「バー、バー、バー」など、子どもが出せる音を繰り返し、だんだん声を大きくしたり、やわらかくしたり。慣れてきたら、ダイヤルを回して「mmm..ママ…mmm」など間接的に言葉を出す遊びなど、安心な環境で音声ゲームを楽しむ。車や飛行機の音を真似したりするのも良い。小グループやクラスでの活動に取り入れるのも良い。

子どもが音を出し始めたら、自分の内でハミングして喉をリラックスさせる。その状態の時に「名前は?」と尋ねる。答えることができたら緊張は和らぐが、子どもは何でも言えるようになった訳ではない。学校で話す経験を積んでこなかったため、答えたり、聞いたりする練習をする必要がある。

学校を想定したシミュレーションで、更にコミュニケーションや会話の練習をする。

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実は、『場面緘黙リソースマニュアル』第二版(2016年改訂)にも、ハミング(唇を閉じたままで音声を出すこと)の有効性が書いてあります(オンライン資料の『ティーンと成人のための場面緘黙情報』から)。

「できる限り、唇を閉じたまま静かにハミングする練習をしましょう。喉の振動を感じること――これは声帯がリラックスしていることを意味します。喉が締まるように感じたら、ハミングしながら息を吐くことで喉を緩めてください。音を口ずさむことで、声を開放できます」

ハミング法、試してみる価値がありそうですね。

緘黙(恐怖症)のスペクトラム

緘黙治療は長期戦になることが多く、人によって症状はそれぞれ違います。人前で話すことの恐怖だけでなく、人前でものを食べること、自分から会話を切り出すこと、電話での会話、対人関係の難しさなどがある場合は、それぞれの苦手分野を克服していかなければなりません。

以前の記事で書いたのですが、私は車の運転が苦手です。渡英後ずっとペーパードライバーだったのが、息子が生まれた後必要にかられてハンドルを握るようになりました。知らない道を運転するのが不安で、高速道路や片側三車線の道路に至っては、超怖いので避けているという状態。家の周囲15キロ以内くらいをトロトロ走ってるご近所ドライバーなのです。

新しい道でも、何度か通えばドキドキ感は薄れて平気になります。が、必要がない限り新しい道や目的地にチャレンジすることはないので、いつまでたっても行ける場所は増えません…。恥ずかしながら、知らない道に連れて行かれるのが嫌で、カーナビもひとりだと使わないという。

こんな自分は「運転恐怖症なんだろうか?」と考えてみると、そこまでいってないんじゃないかと思ってます。でも、人から見たらそうですよね…。同じ「運転恐怖症」でも、交通事故などの後に絶対車に乗れなくなった人から、私のように限られた範囲内だったら大丈夫な人まで、症状はいろいろじゃないでしょうか?

思うに、恐怖症も緘黙もスペクトラム状になっていて、「苦手」程度ですんでいる場合もあれば、何らかの引き金となる事件が起こったり、環境要因が重なって、急にどーんと重症になってしまう場合もあるように思うのです。

「○○障害」というと、とてもシリアスな印象を受けますよね?でも、「○○が苦手」「○○がすごく駄目」だったら、親も子どもも受けとめやすい。「苦手」を克服するためにはどうしたらいいのか?専門家に相談しなくても、自分なりに考えたり、親が対策をねったりできそうです。

私の場合、「まずインストラクターと一緒に高速に乗って練習すれば?」とよく言われるんですが、あの怖い思いをするのかと思うだけで気力が萎えてしまいます。それに、高速は主人に運転してもらえばいいし….。

先日、息子を車で20分ほどのところまで送っていった際、途中で道路工事をしていて、すごい交通渋滞。「帰りも渋滞だと困る~!」という私の言葉に、息子が携帯のカーナビをセットしてくれて、「大きい道はないから大丈夫」と去っていきました。

一抹の不安はあったものの、とにかく急いできたのでカーナビの案内通り進むことに。途中から大通りに出て、道路が4車線に。この時点で、既に身体が緊張し始め、胸がドキドキ…。すると、なんということか、先に信号付きの巨大なラウンダバウト(Roundabout 円形交差点)が見えてきたのです!

ラウンダバウトまで来た時は、もう頭が真っ白になり、サテナビの説明も殆ど耳に入らず!「一体、どの道に進めばいいの?!」とパニック状態。幸い、赤信号で前の車が止まったので、「助けて~!!」と叫びつつ、その車の後に続いたのでした。

何とか三車線道路を切り抜けて家にたどり着いた時は、もうクタクタ…。「もうカーナビはこりごり」と思い、また挑戦しようという気にはなれませんでした。ましてや、「やった!あのラウンダバウトを乗り切れた!」という喜びなど全くなかったです。

「苦手」を引きずっている人、特に大人は、自分の中で「苦手」との折り合いをつけて、限られた範囲内で対処している人が多いんじゃないでしょうか?「全て克服」までいかなくても、「この位でいいんだ」という程度に。

でも、車の運転と違い、緘黙は社会生活や自己評価に大きく影響してくるので、「この位でいいんだ」とは思えないかも…。

もし、あのラウンダバウトを使わなければならない状況に追い込まれたら?もし、誰かが側についていてくれて、「頑張れ、頑張れ」と応援してくれたら?もし、自分がもっと若くて、将来の必要性を感じていたら?

そうなったら、私でも多分「仕方ない、やるか」という気持ちになるでしょう。ひとりでは仲々できないけれど、誰かと一緒ならモチベがあがりますよね?特に、時間をかけてスモールステップでコツコツ進むまなければならない場合には。

ダイエットでもそうですが、やはりひとりでやるよりグループに入ったり、仲間や専門家と気楽に話し合えた方が、絶対心強いと思います。

自分の経験から、まずは自分が「変わりたい」と思う気持ちが大きくないと、挑戦するのは

難しいものだなと思った次第です。そして、専門家でなくてもいい、理解してくれる人が誰か寄り添ってくれたら頑張れるなと。

 

 

 

 

専門家に相談する必要性?

前回の記事で、取り組みには「心理士とのセッションは必須ではない」と書いたのですが、良い心理士や精神科医に巡り合えれば、子どもも保護者も安心できるし、心強いと思います。私の印象だと、日本ではまだまだ特別支援教育が徹底しておらず、学校全体としての支援体制はあまり整っていないような…。その反面、担任の先生の個人的な努力によって、ものすごくきめ細やかで理想的なサポートが実現しているケースも多いですよね。イギリスではビジネスライクな人が多いのに、日本の教師ってスゴイ!

こちらでは特別支援体制は整っているのですが、各学校によって支援の程度が大きく異なります。特にセカンダリー(中・高校)だと、場面緘黙だけでは殆ど支援なしのところも…。NHS(国民保健制度)にはCAMHS(Child and Adolescent Mental Health Service 小児・青少年メンタルヘルスサービス)部門があり、児童から18歳までの子どものメンタルヘルスを専門に扱っています。とはいえ、受診は2~8ヶ月待ちというのもざらで、担当のセラピストや心理士が場面緘黙の知識や経験を持ちあわせていないことも。また、予算の関係もあるのか、保護者や学校に丸投げというケースも多いんです。

住んでいる地区によって、通っている学校によって、基準やサービスの格差が激しい――まるで宝くじだな、といつも思います。CAMHSのアポを待っている間にSMIRAの会員になり、学校と協力して取り組みを始める保護者が多いんじゃないかな。とはいえ、イギリスでは「学校でしゃべらない」というのは一大事なので、担任から保護者に連絡がくるのが早いんです。また、5歳になる年から小学校が始まるため、早期発見につながってると思います。

昨年イギリスで出版された最新の緘黙研究本、『Tackling Selective Mutism』では、『場面緘黙リソースマニュアル』の著者、マギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが、場面緘黙のカテゴリーを大きく3つに分けています。

  • 純粋な場面緘黙
  • 言語に問題がある、または学校で話される言語が母国語でないケース
  • 複合的な場面緘黙 - 自閉症スペクトラム障害(ASD)や学習障害(LD)、社会不安障害(Social Anxiety Disorderなどの障害が併存していたり、親の死など大きな心理的問題を抱えているケース

あれっと思ったのは、以前はなかった社会不安障害SADが複合的な場面緘黙に含まれていること。2013年に改定されたアメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル、DSM (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)の最新版DVS-Vでは、場面緘黙が「通常、幼児期・小児期、または青年期に初めて診断される疾患」から、「不安障害」へと移行しました(詳しくは場面緘黙とは?(その2)をご参照ください)。

同じく不安障害のカテゴリーに入っている社会不安障害については、DSM-Vから社会恐怖(social phobia)という名称が社会不安障害(Social Anxiety Disorder)に変わりました。子どもの社会不安障害については、下記の基準1で触れています。

  1. 他者から意識、注目、または批評されていると感じる社会的状況において生じる、特有の恐怖や不安。成人では初デートや面接、初対面の人と会う時、発表会、クラスや会合での発言などを含む。小児では、これらの恐怖症的/回避的行動は成人との交流というより、同世代の子どもとの社会的場面で起こるものでなければならず、親から離れない・泣くなど、年齢相応の明確な恐怖や不快感を示す
  • fear or anxiety specific to social settings, in which a person feels noticed, observed, or scrutinized. In an adult, this could include a first date, a job interview, meeting someone for the first time, delivering an oral presentation, or speaking in a class or meeting. In children, the phobic/avoidant behaviours must occur in settings with peers, rather than adult interactions, and will be expressed in terms of age appropriate distress, such as cringing, crying, or otherwise displaying obvious fear or discomfort.

基準6には「こうした状態が6ヶ月以上続く」とあります。

場面緘黙の子どもは抑制的な気質の子が多く、繊細で不安になりやすい--普通だったら気にしないような出来事や他者の言動に、酷く傷ついてしまうこともあると思います。振り返ってみると、息子は幼少の頃、複数の犬に追いかけられて犬恐怖症に、レジャープールのすべり台から水の中に深く沈んでプール恐怖症になった過去が…。2つともDIYのエクスポージャー法で7、8歳までに克服できたものの、恐怖症になる傾向が強かったよう。

小児の不安障害を調べてみたら、場面緘黙や社会不安障害のみでなく、全般性不安障害(GAD)、強迫性不安障害(OCD)、パニック障害、分離不安障害、外傷後ストレス障害(PTSD)もあるんですね…。

メルクマニュアル医学百科 小児の不安障害 (←このサイトに詳しく書かれています)

言語に問題がある、または複合的な緘黙になると、取り組みがなかなか進まず、改善がゆっくりになる傾向があります。取り組みやステップが子どもに合わないケースもあるでしょうし、併存している問題が絡んでいるかもしれません。そういう場合は、心理士や精神科医を訪れた方が良さそうです。また、新たな兆候や症状が出たり、いつもと違うなと感じたら、二次的な問題を防ぐためにも専門機関に相談してください。なんでもなければ安心できるし、早期発見だったら症状が軽いうちに治せるかもしれません。

風邪をひいたら医者に行くように、心が風邪をひいたら気軽にセラピストや心理士を訪ねられるといいですよね。イギリスではプライベートのカウンセリングルームがあちこちにあって、人間関係や仕事の悩みなどの相談をする人も多いんです。ただ、敷居は低いんですが、なにせ料金が高い!色々あって落ち込んでいた時期に、誰かに話を聴いてもらいたいと思って調べたら、1回1万円以上でした..。そのうえ、通常は4~6セッション必要と書いてあって、すぐ断念。その代わりに、新しいサークルに入ったのでした(笑)。

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サキ君の動画について(その5)ー 緘黙とエクスポージャー法

薬の威力(その2)

この夏私たち家族は、イングランド南西部に位置するエクスムーア国立公園で、1週間のコテッジホリデーを楽しみました。その帰り道、SMIRAコンファレンスで出会ったティーンの女の子の家を訪ねたんです(彼女は家族と一緒にコンファレンスに参加していたので、ご両親とも顔見知りでした)。

今回私は家族連れだし、コンファレンスで話さなかった姿を見られているため、彼女が話すことはないだろう  そんな風に予測してました。緘黙の法則というか、一度話さない姿を見られている人には心理的に話しずらいだろうなと思ったので。

その予測の通り、1時間半ほどの滞在中ずっと筆談のみ。でも、彼女の姿勢や態度には大きな変化が見られました。薬の影響に加え、自分が一番安心できる自宅という環境、そして両親が側にいたことがプラスに働いたと思います。

まずお母さんに案内されて居間に入ると、彼女はちょっと固まった感じでうつむいて立っていました。前と印象が全然違うなぁと思ったら、長かった前髪をばっさりカットし、メガネをかけた彼女の顔がはっきり見えたからなんですね。後でお母さんと二人になった時、「薬を飲み始めてすぐに、自分から切るっていったのよ」と。もう前髪で顔を隠す必要はないと感じたんでしょうね。

彼女の家はかなり田舎にあって、家のすぐ横には大きな河が流れ、広い庭の向こうは林という、自然に囲まれた環境。お父さんの趣味で、庭には珍しい種類の鶏が何羽も駆けまわっていました(囲いはあるんですが、とにかく広い!)。挨拶が終わったあとは、お父さんの提案ですぐ庭に移動(グッドアイデアですね)したんですが、その頃には彼女の姿勢も態度もごく自然な感じに。

お父さんが彼女に話をふると、手に持った小さなホワイトボードに返事を書いてくれます。そのうちに、鶏を抱っこして私に見せてくれたり、息子と私の手にエサを入れてくれたり。ふと気づくと、私と二人きりになっていたのですが、鶏たちが小屋の中ではなく河のほとりにある樹の高い枝にとまってで眠ることや、キツネに襲われた時、何羽かは河向こうまで飛んだことなど、自分から色々教えてくれました。

隣にいて、彼女がリラックスしてお喋りしたい気分なんだなというのが伝わってきました。もし私が一人で訪問し、もっと長い時間滞在していたら、もしかしたら声が出ていたかもしれません。でも、そんなことよりも、彼女から人と接したいという気持ちが伝わってきたこと、少しはにかんではいるものの本来の彼女の姿が垣間見られたことが大きかったです。

最初の出会いで感じたネガティブな要素(カチカチに固まって、私に話しかけないでオーラが漂っている)が消え、「大人しくて、ちょっとはにかみ屋の女の子」という良い印象だけが残りました。

これって、人付き合いをする中で結構重要じゃないでしょうか?

私達がおいとまするのと入れ替わりに、彼女のご両親の知り合いがやってきて、「頑張って社交の機会を増やしてるのかな」と感じました。多分、彼女を色々なところに連れて行って、見知らぬ人と話す機会を作っているんではないかと小さな村だから、知り合いばかりですものね。

彼女の家を訪問してみて、こんなに小さな村の学校から、少し離れた町のマンモス校に移るのは、相当大きな負担になったんだろうなと思いました。ご両親は、彼女が特別支援学校で話し始めても、今のところ授業は一日3~4時間にとどめているとか。「焦らず、少しずつ」をモットーに、娘の気持ちや体調によりそいながら、サポート体制を整えているようです。

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薬の威力(その1)

 

薬の威力(その1)

昨日は秋分の日だったので、本格的な秋が始まりましたね。今年の夏もあっという間に過ぎ去ってしまったのですが、とても嬉しいニュースがありました。

春に開催されたSMIRAコンファレンスで出会ったティーンの女の子が、薬を服用することで話し始めたというのです!時々メールのやり取りをしていたんですが、8月始めにこのニュースを聞いた時は、本当に嬉しく思いました。本人の承諾を得たので、彼女について書きますね。

最初に会った時まず気になったのは、前かがみになって縮こまったような姿勢でした。大勢の人がいる公の場で、しかもテーマは場面緘黙。緊張して、自意識過剰になっても無理はありません。顔を隠すように前髪を長く垂らし、父親の後ろでうつむいて座っている姿を見て、なんだか緘動で固まっているみたいだなと思いました。

隣に座って筆談した際、時折指で前髪を少しだけかき分けて、私の方をチラっと見るのですが、前髪のせいで彼女の表情は殆ど読み取れませんでした(というか、顔が見えなかった)。でも、私の言ったことに対してペンはサラサラと進み、自分の思いをはっきり伝えてくれました。

緘黙や抑制的な気質の人って、目立ちたくないという気持ちが強いと思うんですが、その気持が姿勢や雰囲気に現れてしまい、損してしまうんじゃないでしょうか?なんとなく話しかけにくい雰囲気というか、私に構わないでオーラが漂ってしまうというか。本当は、楽しくおしゃべりしたいのに、不安が強く前面に出てしまう。

もっと酷くなると、緘動で動けなくなって姿勢が固まったり、顔が無表情になったり。こういった状態が固定化すると、「なんか暗い人」、「周りを無視している人」とレッテルを貼られてしまいそう

彼女がいつから緘黙になったのか、詳しいことは聞いていません。でも、セカンダリースクール(1216歳)に進学してから、徐々に学校に行けなくなってしまい、ホームスクールに切り替えたと聞きました。現在は特別支援校に毎日短時間通っているとのこと。

イギリスの公立校システムでは、小学校はどこも規模が小さく、1学年に1クラスということもザラです。そんなアットホームな環境が、セカンダリーからは1学年710クラスのマンモス校に。ベースになる教室はなく、日本の大学の様に教科毎にどんどん教室を移動していかなければならないんです。

校内の騒音、人の多さ、授業ごとに替わる教室・先生・生徒 – デリケートな彼女にはそれが大きな重荷になったんだろうなと想像しています。考えてもみてください。自分の教室も、机も、椅子もない状況って、すごく不安になるんじゃないでしょうか?

また、彼女は物事を深く考える性質のようで、クラスメイト達と話が合わなかったとも。周囲の女の子達が子供っぽいと感じていたようです。学校でずっと黙っている分、思考がどんどん内に向かっていったんでしょうね。

薬(どの抗うつ剤を使用しているかは不明)の服用を始めたのは6月頃からだそうです。彼女自身の言葉によると、「自分でもびっくりするくらいリラックスできた」とのこと。まるで自分じゃないみたい、とまで思ったそうです。それを聞いて、よっぽど症状が酷かったんだなと思いました。

リラックスできたお陰で、特別支援校の先生達と話せるようになり、知らない人達の前でも殆どの場合話せるようになったそうなんです!すごい進歩ですよね。

熱心に支援を続けてきた両親は、薬の服用を始めると同時に、特別支援学校の先生に相談して家庭訪問をしてもらったとか。まず、自宅で先生と話せるようになり、学校でも話せるようになっていったんですね。また、彼女を色々な場所に連れて行って、知らない人の前で話す練習をしたんだと思います。

アメリカのシポンブラム博士も「薬だけでは効果がない」と主張されていて、薬物治療をする際には支援プログラムと同時進行させないと十分な効果は得られないようです。「薬を飲めば何とかなる」というのものでは、決してありません。

また、抗うつ剤の効果には個人差があり、服用しても普段とあまり変わらない、副作用が酷い、というケースもあるので要注意です。色々試してみたけれど効果があがらず、最後の頼み綱としてトライするという感じでしょうか。

薬物治療に関しては、かんもくネットでアメリカの支援団体、SMG~CANの薬物治療に関するQ&Aを翻訳していますので、参考にしてください。

http://kanmoku.org/ask-the-doc.html