場面緘黙と他の不安障害の関連性――場面緘黙のワークショップから

前の記事『場面緘黙のワークショップに行ってきました』の続きです。

ここからは、場面緘黙と他の不安障害の関連性について、ワークショップで学んだことと、私が思ったことを書きますね。

データ1については出典が定かでないのですが、発達的な障害は除外して、情緒的な障害に的を絞っているようです。データ1と2の「不安障害全般」を比較すると、61-97%と74%で同じような傾向といえます。緘黙児には、不安になりやすい抑制的な気質の子が多いことが解っていますが、それを証明する数字ではないでしょうか?

2つのデータからみえてくるのは、場面緘黙の子どもや大人は、場面緘黙+別の不安障害を発症している確率が70%くらいは(あるいはそれ以上)あるということ。アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアルの最新版、DSM-V (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders) では、「場面緘黙」は不安障害に分類されています。ということは、同じ不安障害のカテゴリー内で、「場面緘黙」に加え、多くの子どもや大人が「社会不安障害」や「分離不安」などを併行して発症しているのです。

そんなこと当たり前と思われるかもしれませんが、

不安になりやすい気質 → 様々な不安障害になりやすい

ということを心しておくべきではないでしょうか?(もちろん、生まれ持った気質や発達の問題、育った環境、人間関係などが影響してくると思いますが)。

合併症ではなく併存症という言葉が使われているので、「場面緘黙」になったから、それが原因で「社会不安障害」など他の不安障害になる訳ではありませんよね…。どちらかというと、不安になりやすい子どもが、社会的な場面に適応できなかった場合、何らかの不安障害を発症したり、複数の不安障害を併せもつ傾向が強いといえるのではないでしょうか?

(Wikiで調べると、

合併症:「あ病気が原因となって起こる別の病気」または「手術検査などの後、それらがもとになって起こることがある病気」 

併存症:「異なる病気が時系列に関係なく起こる」)

マギーさんが強調していたのは、「場面緘黙」と「社会不安障害」などの他の不安障害は、異なるということ。一般的に緘黙児には社会的な不安が強い子が多いですが、社会不安が悪化して「社会不安障害」になった時、別の独立した障害として、緘黙と切り離して考える必要が出てきます。

  • 場面緘黙:人前で話すことに対する恐怖や不安
  • 社会不安障害:他者から否定的な目で見られたり、否定的な評価をされることへの恐怖や不安

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“場面緘黙の権威”として知られる、マギー・ジョンソンさん

例えば、不登校を考えてみると、緘黙だから不登校になる訳ではないですよね?学校や園の環境が整っていれば、緘黙児は毎日普通に学校に通い、普通に学校生活を送ることができるはず。不登校になる背景には、社会不安障害や何らかの恐怖症が潜んでいるのではないでしょうか?

場面緘黙治療や取り組みは、子どもの持つ「不安」にスモールステップで対処し、自己評価を高めていく、(認知)行動療法が主流。これは他の不安障害にも有効なようです。特に、早期発見・治療ができれば、その後の学校生活に問題が残らないことが多いよう。ただ、緘黙は治っても、併存していた他の不安障害が同時に治るとは限りません。特に、緘黙期間が長く続くと、併存症を発症する傾向が大きくなるように思います。ただでさえ心のバランスが崩れやすい思春期に、緘黙を抱えていることが大きなストレスになるのは想像に難くありません。

もし「社会不安障害」や「パニック障害」などが残ってしまった場合は、程度にもよりますが、そのための治療が必要になってきます。「後遺症」だから仕方ないと諦めず、早い段階で心理士やセラピストに相談してみてください。

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場面緘黙のワークショップに行ってきました

場面緘黙のワークショップに行ってきました

先週から、なにやらバタバタ忙しくなり、また更新が遅れてしまいました。なので、今回の記事の内容ももう1週間以上前のこと…時間が過ぎるのが早いです!

先週の水曜日、SMiRAが主催した場面緘黙ワークショップのエクステンションレベルに参加しました。講師は『場面緘黙リソースマニュアル』の共著者、言語療法士のマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさん。

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講師のアリソン・ウインジェンズさん

2日間の集中コースでしたが、基本的な対応を学ぶコアレベルは3年ほど前に済ませたので、今回は複合的な場面緘黙やティーンの支援に焦点をあてたエクステンションレベルに挑戦。この日の参加者30名のうち、両日参加した人が9割を占めました。言語療法士、教師、TA、看護師といった専門家が多かったです。

ちなみに、私の隣に座っていたのは、ポーランド出身でアイルランド在住という緘黙児のママ。ポーランド人のための支援グループを立ち上げ、今や会員が2000人近くいるとか。彼女の隣には、わざわざポーランドからやってきた言語療法士が2人。国内に場面緘黙の専門家がいないということで、彼らの熱意が伝わってきました。

ところで、3月14日に『ポーランドから場面緘黙の画期的な治療法?』という記事を書いたんですが、いまひとつピンと来ず。お隣さんに訊ねてみたところーー「私は信用していない!」と否定的な返答が…。実際のところはどうなんでしょうね?

 

さて、話を元にもどすと、今回のワークショップで興味深かったのは、場面緘黙と併存症、それぞれの対処方について。まずは、併存症とその発症率について、3つのデータを紹介します。

データ1:場面緘黙に併存する症状と併存率(概要)

□ 不安障害全般 ― 全体の61-97%

  • 社会不安障害(SAD)― 約65%
  • 分離不安 ― 12-32%
  • 特定の恐怖症 ― 30-50%

□ 反抗性障害 ― 6-10% (平均より高め)

  • 軽度の反抗的な兆候 ― 非緘黙児における不安障害の割合と同じ

*注:反抗性障害の認識は、教師よりも保護者の方がが少ない

*みく注:多分、イギリスにおける最新の統計かと思うのですが、資料にはこのデータのソースがついておらず出典は不明。できたらマギーさんに質問しようと思ってます。

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データ2:Hクリステンセン(2000年)による併存症と併存率/(研究対象:54名の緘黙児)

発達障害全般 ― 69% (うち調節障害 13%)

□ コミュニケーション障害 ― 50%

  • 音韻障害 ― 43%
  • 受容-表出混合性言語障害 ― 17%
  • 表出言語障害 ― 11%

□ 排泄障害 ― 30% (うち調節障害 9%)

□ 発達性協調障害 ― 17%

□ アスペルガー(ASD児は除外) ― 7%

□ 軽度の学習障害 ― 8%

不安障害全般 ― 74%

  • 社会不安障害(SAD) ― 68%
  • 分離不安障害 ― 32%
  • 全般性不安障害(GAD) ― 13%
  • 特定の恐怖症 ― 13%
  • 強迫性障害(OCD) ― 9%

★全体の46%の子どもが発達関連の障害と不安障害を併存

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データ3:マギーさんとアリソンさんの治療現場から見た併存症

  •  分離不安
  • 全般性不安
  • 問題行動
  • 他の恐怖症
  • 自閉症スペクトラム(ASD)
  • 社会不安障害(SAD)
  • 自傷/ うつ

*注:幼児からティーンまで、年齢の低い順から顕著な症状を並べています。

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ちょっと長くなりそうなので、次回に続きます。