イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その6)

2) イギリスの教育システムと学習形態

かつてはイギリスでも日本と同じようなシステム・学習形態だったそうですが、現在ではクラス全員が同じスピードで同じことを学習すべき、という概念はないようです。大まかなガイドラインはあるものの、子どもの成長速度や能力はそれぞれ違うので、ガイドライン内でその子のレベルに合う学習を、という方針のよう。

ジュニアになると主要科目(算数と国語)は、能力別のグループに分かれて学習することが多いようです。といっても、各グループで全く別々のことをやっている訳ではなく、新しい項目を導入する際は、ホワイトボードを使って全員に説明し、それぞれのグループに難易度の違う課題をさせるという感じです。

例えば、算数の掛け算で、2と5の段のみの問題をやっているグループもあれば、1~5段までの問題をやってるグループも、全部を含めた問題をやってるグループもある、といった具合に。読本はグループ別に難易度が異なる本を読み、同じ課題をさせたり。

たいていの場合、一番下のグループにはTAがついて支援。その一方で、飛びぬけて上の子ども(グループ)はギフテッド(gifted)と呼ばれ、特別に英才教育の支援をすることも。真ん中にいるその他大勢の子どもたちは、普通に進めるので支援は殆どありません。

日本人の感覚からいうと、一定の子ばかりが支援されるようで不公平に思えるかもしれませんが、別に保護者への説明もないのです。ちなみに、私がこういうシステムなんだなと気づいたのは、随分後になってからでした(笑)。

それから、驚くことに自分の教科書がない!(私立校はちゃんとあるらしいです)日によって、学校においてある古い教科書を使ったり、プリントを使ったり…。科目別に学科のノートがあるんですが、それも自宅に持ち帰ることはできません。だから、カバンの中には教科書もノートも入ってないんです。

また、日本と比べると宿題が少ない!学校にもよりますが、息子の小学校では金曜日にまとめて宿題が出て、火曜日に提出するという方式でした(これは働いている保護者が週末に監督できるように)。そして、宿題も能力別なんですよね~。

困ってしまうのは、教科書がないので予習・復習ができないこと。そして、子どもが今何を勉強してるのか、さっぱり解らないことです。読本は家に持ち帰りますが、国語の授業で何をやってるのかは謎…。テストしても学期末にしか返ってこなかったり。

で、子どもは家でどんな勉強をしてるかというと、書店で参考書やドリルを買って保護者の方針でめいめい勝手にやってる感じです。熱心な親は早くから家庭教師をつけて、どんどん先のレベルへ。塾というのはないんですが、大体どこの町にも公文があります。やらない子はそのまま、やってる子はものすごく進むので、その差は歴然!

成績表はクラスや学校で何番とかではなく、文部省で定められた学年の水準と比較してどのレベルにいるか、という相対的なものなんです。最初のうちは何がなんだか訳が判らず、実は今も完全には理解できていないという(笑)…。

不思議なことに、同じ公立小学校でも校長の方針によって平均成績に格差があり、評判のいい学校とそうでない学校の差が激しかったりします。学区制なので、子どもがまだ小さいうちに、お目当ての学校の近くに引っ越す人も多いです。

子どもにとってみると、こういったシステムは精神的に楽なんじゃないでしょうか?特に、学習面で困難のある子にとって、皆と同じスピードで同じ様に学習することは大変なストレスになります。周りの目や態度を気になるでしょうし、自己評価も下がってしまう…メンタル面でかなりの負担になると思うのです。グループ学習の場合、できなくてもそれ程目立たないし、クラス中から注目が集まることもありません。

次回はクラス運営や特別支援などのシステムについて説明したいと思います。

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イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その2)

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イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その4)

イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その5)

イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その5)

イギリスの小学校と日本の小学校の違い

1) 学校や教室の雰囲気

イギリスの小学校(5~11歳)に行ってみて、まず思うのは規模が小さいこと。都会でも1学年に1クラスのみ(30人)のところがあり、3クラスあると「大きい学校」とみなされます。平均は2クラスくらいでしょうか。小学校(Primary School)はインファント(5~7歳)と呼ばれる幼児部とジュニア(8~11歳)に分かれていて、同じ学校内に両方あるところもあれば、全く別々の学校として独立していることもあります。

息子の小学校は1学年3クラスでしたが、担任はもちろん、殆どの先生と学校職員が全校生徒だけでなく、母親の顔と名前も知ってることに驚きました。インファントのうちは子どものお迎えが義務なので、自然と親の顔を覚えるのかもしれませんが…。そのせいか先生と話しやすく、日本より親しみやすい感じです。

そして、校内・教室内がとってもカラフルで、日本よりずっとカジュアルな雰囲気なんです。生徒が作った壁画、図工の作品、写真などがそこら中に飾られ、学習用具や図書コーナーはラベルや絵つき。大きな行事があると、学校中を飾りつけたりします。

話がそれますが、息子の学年がエジプト文明のワークショップをした際、手伝いにいってビックリ。担任たち全員が「コスプレですか!?」みたいな出で立ち(笑)!お隣のクラスの男性教師が、長い黒髪のカツラ+オレンジ色の衣装+化粧で美女に変身していて、生徒にも大うけ。先生方のハッスルぶりも半端ないです。

教室を見回して一番違うな~と思うのは、机がグループ毎に固めてあること。インファントでは、自分の机というのはなくて、テーブルを囲んで座ることが多いようです。学校によって違うと思うのですが、私の経験では概ねそうでした。

出入口は前方にひとつ。前方の壁にはPCと直結したホワイトボードがあり、ホワイトボードを使う際は、子どもたちを床に座らせることも多いようです。

イギリスの小学校の画像を見つけたので貼り付けますね。幼稚園みたいな玩具のある教室は、レセプションクラス(1年生の前の学年)のものです。

イギリスでは、グループで学習しているところに、先生がまわってくることも多く、授業中も割とガヤガヤしてます。日本よりも寛容な感じがするというか、何か失敗してもそれほど気にならない雰囲気があるような気がします。

次回は教育システムについて説明します。

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イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その1)

イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その2)

イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その3)

イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その4)

イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その4)

さて、ここからやっと本題に入ります。

私は日本の学校に比べ、イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい(=二次障害としての緘黙を発症しにくい)のではないかと考えています。なお、ここで言うASD児の中には、ASD系の発達凸凹のある子どもたちも含めています。

マギージョンソンさんが「複合的な場面緘黙」のカテゴリーにASDとの併存症を含めていること、またDSM-IVで触れていることからも、ASD(及び広汎性発達障害)の二次障害として場面緘黙が発症するケースがあることは周知の通りです。

場面緘黙とは?(その2)

場面緘黙とは?(その3)

でも、二次障害としての場面緘黙がどの程度の割合で発症しているのか、その発症率は環境や文化の違いによって異なるのか、というような研究は殆どなされていません。

二次障害については、「子どもが抱えている困難さを周囲が理解して対応しきれていないため、本来抱えている困難さとは別の二次的な情緒や行動の問題が出てしまうもの」と定義されています。また、軽度の発達障害を持つ子どもは、他の軽度発達障害の合併や二次障害を併存することが多いといわれています。

私は2年ほど前からSENTA(特別支援助手)専門のエージェントに登録しています。仕事はASDなどの発達障害児を中心とした、学習に困難のある子どもの支援が中心です。希望としては場面緘黙の子どもを支援したいのですが、緘黙だけで地区の行政局から学校に支援金がおりることは稀で、学校には緘黙児のためにSENTA(日本でいう加配)を雇う予算がないというのが現状です。

エージェントの仕事はフルタイムが殆どだし、イギリスで教育を受けた訳でもなく、英語にもハンデがあり、経験も不足してる私…。今まで受けた仕事は、小学校での短期TA勤務と家庭教師的なものばかり。ASD児の支援の仕事を何度か打診されたのですが、時間などの都合と自信がないのとで、お断りしてました。

経験を積むため、昨年9月から小規模なASD児専門の私立校(8~17歳)で、週に1回研修をさせてもらっています。一昨年前の夏には、息子が通っていた公立小学校のレセプションクラス(5歳児)と小4のクラスで1学期間お手伝いさせてもらいました。

専門校に在籍する30人のアスペっ子のうち緘黙症状がある子はゼロ。息子の出身校は全校生徒約700人中10人程度のASD児がいるということでしたが、緘黙を併存している子はここでもゼロ。配属されたクラスに回復中のハーフの緘黙児がいたんですが、ASDではありませんでした。

また、エージェントを通じて、移民の多い地区の小学校で2人のASD男児のサポートと小3クラスのTAを担当しましたが、2人とも緘黙傾向はありませんでした。

今までSMIRAの保護者会や緘黙のワークショップに参加したり、イギリスの学校で働いてみて、環境に適応できないために二次障害を起こすASD児が少ないのでは、という感想を持った次第です。

ちなみに、SMIRAの会員にはASD児が殆どいない印象ですが、ASDと緘黙を併発している子どもがいることは確かです。それは、SENTAのエージェントが主催する『発音・言語・コミュニケーションの困難を持つ子どもの支援(Supporting Children with Speech, Language and Communication Needs)』の短期コースを受講した際に実感しました。受講者はフルタイムで働いている35名ほどのTAで、うち70%程度がASD児専門ユニットやASD児を含む支援をしていました。緘黙児がいるかどうか訊いてみたところ、2名から「いる」という答えが。両方ともASD児でASDの症状が重いため、緘黙はそれほど問題になってない様子でした(SMIRAの資料を渡しましたが、反応が薄かったです)。

偶然にも、コース受講中に懇意になったTAの中に、「息子(14歳)は現在の担任になってから話さなくなった」というASD児の母親がいたのですが、彼女は「学校が息子を理解してくれない。環境が悪い」と嘆いていました。子どもの性格や気質が第一の要因だと思いますが、ASD児が学校の環境に適応できるかどうかも大きな要因だと思います。

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イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その2)

イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その3)

イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その3)

発達凸凹という考え方

杉山登志郎氏著の『発達障害のいま(講談社現代新書 2011年)』を読み、発達凸凹という考え方を知って、目からウロコの思いでした。

「自閉症スペクトラム」という概念では、健常人からカナータイプの典型的な自閉症の人まで、人類全員がそのスペクトラム(連続体)の中に含まれます。連続体なので各カテゴリーの境界線は曖昧で、さらに他にも様々な濃淡を持つ要素が複雑に絡み合っているものと思われます。

杉山氏の解釈では、《一般人 - 発達凸凹 - 自閉症スペクトラム障害 - 自閉症》という順番で、下記のような三角形の中に、一般人のグループを左端、自閉症のグループを右端にして入れています(この説明では解りにくいかな…。直角三角形の画像を探したんだけど、直角マークが入ってるのしかなかった…)。 triangle

認知に高い峰と低い谷の両者を持つグループを発達凸凹とし、その中で適応障害があるグループを自閉症スペクトラム障害としています。典型的な自閉症ではなく、知的障害のない、より軽度の、しかし社会的な問題を多発させている人たちの中で、適応障害がない状態(=困っていない状態)が発達凸凹という説明。

この図は自閉症スペクトラム障害についてですが、LDやADHD、言語障害、協調運動障害など、それ以外の障害に関しても、凸凹といえる状態の子ども達がいるのではないか?場面緘黙は社会不安がベースになっていると言われていますが、社会不安や脅迫感が強すぎるのも、ある意味で発達の凸凹ではないかな?と勝手に考えています。

自閉症スペクトラムだけでなく、他の発達の凸凹を持つ子ども達も、社会的に適応できていれば個性や苦手の範囲にとどまるケースや、二次障害を発症せずにすむケースが多くなるのでは?と考えたんですが….どうでしょう?適応できるかどうかは、子どものニーズに合う対応と、子どもが置かれている家庭や学校の環境要因に大きく左右されそうです。つまり、小さい頃から凸凹に優しい環境や周りの理解・サポートがあれば、社会に適応しやすくなるということ。(これがイギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくいのでは、という私の考えの根拠になってます)。

私が学生だった頃は、「自閉症」、「ADHD」、「学習障害」などという言葉は聞いたことがありませんでした。カナーが自閉症を発見したのが1944年頃、「Developmental Disorder (発達障害)」という言葉がDSM-III-Rに初登場したのが1987年と考えると、「発達障害」という概念自体がまだ比較的新しく、これからもっと研究が進みそうですね。

『ドラえもん』じゃないですが、クラスメートの中には個性の強い子が複数人いたような気がします。いつもオチャラケてて先生に注意されてる子とか、算数は得意なのに国語は全然できない子とか。今思えば、もしかしたらADHDやLDの傾向があったのかもしれません。でも、それが彼らの個性で、それほど問題になることなくクラスに溶け込んでいました。かくいう私も、低学年の頃は先生から見ると「極端におとなしい子」だったと思います。

小学校の頃は地区の「子ども会」があり、行事などで集団で活動することが多かったし、低学年の頃は近所の子どもが集まって一緒に遊んでいました。学校とはまた別の子ども社会があったのです。地域コミュニティの繋がりが濃く、大人と関わる機会も今の子ども達よりずっと多かったし、親戚関係ももっと濃厚でした(しがらみが強くて面倒な部分も多々あったんですが….)。

当時の社会的な環境が子どもの社会性を育て、発達に凸凹のある子が適応障害になるのを防いでいた部分が大きいかもしれません。一緒に遊んでいるうちに仲間意識が育ち、それぞれの個性を受け入れ、自然と小さい子や困った子の面倒を見るようになります。それが学校での生活にも繋がっていました。

『発達障害のいま』の中で、「発達障害が増えている」ことを取り上げていますが、こういった社会の移り変わりもその原因のひとつなんだろうなと思います。

追伸: 時差ぼけやら何やらでぼーっとしている内に、あっという間に1月も半ばになってしまいました~。これからもう少し頻繁に更新しようと思ってますので、よろしくお付き合いください。

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イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その1)

イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その2)

 

イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その2)

やっとのことで、イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その1)の続きです。

杉山氏の意見について、私なりに考えてみました。

1) 緘黙はASD(自閉症スペクトラム障害)ではないと考えられてきたため、国際的な診断基準にもそのための除外診断の記載があるが、最近になって重症の緘黙児には高頻度にASDの子どもがいることが明確になってきた

DSM-IVでは、ASDと場面緘黙が併存している場合、場面緘黙はASD(広汎性発達障害)の二次障害と見なします。そのため、一次障害としての(独立した?)緘黙からは除外しています。

・E コミュニケーション障害(例えば、吃音)が原因ではなく、また、広汎性発達障害、総合失調症やその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものは含めない。(詳しくは場面緘黙とは?(その2)を参照してください)。

上記の文面から判断すると、杉山氏は一次障害と二次障害の区別はしておらず、「重症の緘黙児は、ASD児である頻度が高い」という事実から、場面緘黙=ASD、という可能性を示唆しているように思えます。

2) 軽症の緘黙児は不安感が強いとか、家族の中で見えない対立があるなどの家庭環境の要因がみられる。しかし、コミュニケーション全体に遅れを認める難治性の緘黙児は、殆ど実はASDの併存症として生じている

ここでは、コミュニケーション全体に遅れがある難治性の場面緘黙=自閉症スペクトラムの併存症、としています。別の視点で捉えると、ASD児が二次障害として場面緘黙を発症した場合、治りが悪いと言えるのではないでしょうか?とすると、マギージョンソンさんの下記の説に通じる部分があるのではないかなと思います(詳しくは場面緘黙とは?(その3)と(その4)を参照してください)。

純粋な緘黙の場合は、緘黙に対する取り組みだけでいいが、その他の場合(ASDがある場合は、4の複合的な場面緘黙に当ります)はそれぞれ併存している問題への対処が必要になる。純粋な緘黙に比べ、回復はゆっくりになる傾向が強い。

ただし、難治性の緘黙児は全員ASDを併発しているとは言い切れないのではないでしょうか?が、場面緘黙だけでなく、何らかの問題・障害が併存している可能性は高いのではと思います。

また、軽症の緘黙児について 「不安感が強い」、「家庭環境の要因がみられる」とありますが、不安感の強さは症状の強弱に関係なく、緘黙の子供にも大人にも共通していると思います。ちなみに、ASD児も不安感は非常に強いことで知られていますよね?また、「家庭環境の要因がみられる」というのは古い定説で、正しくないと思います。

追記:マーキュリー2世さんにコメントをいただき、「家庭環境の要因」については不透明だなと考え直しました。ただ、「親の育て方のせいで緘黙になるのではない」と思っていますし、「見えない対立」というような家庭環境が要因になっていることは稀なのではないかなと思います。

3) このグループは思春期に転帰が分かれ、外でコミュニケーションが取れる子と、取れないままの子に2分される。

これに関しては、調査や研究を読んでいないので何ともいえません。

4) ASDの併存症としての緘黙症に対しては積極的な治療、つまり入院治療を行うと成果があがる。入院して家族と離れて生活するだけで、早い子は2週間、粘る子でも1ヶ月、最悪の場合は3ヶ月あれば、家庭外でも会話によるコミュニケーションが可能となる。

イギリスでは緘黙の入院治療というのはありませんし、日本以外の国でも聞いたことがありません。日本だけの特殊な治療方法ではないかなと思います。

日本の学校教育システムを考えた場合、担任やTAがひとりの子供のために頻繁に時間を取ることは、放課後を除いて難しいのではないでしょうか?(イギリスでも住んでいる地区や学校によって、取り組みはまちまちです)。海外のようにIEP(個別教育プランIndividual Educational Plan)が設置されていない場合、担任の自己責任の範囲で協力ということになりますし…。イギリスでは、学校や学年によっては母親が学校に通ってキーワーカー(架け橋的な役割)になるケースもありますが、これも日本では難しいでしょう。そう考えると、学校内での取り組みや治療というのは、かなり限定されてくるような気がします。クリニックや児相などでの定期的な治療と比較すると、入院治療というのはもっと集中して場面緘黙を治療できる良い機会じゃないかなと思えます。

私は入院治療に関する情報を持っていないので、病院の小児病棟でどのように緘黙治療をするのか見当がつきません。多分、1対1もしくは、小規模なグループセラピーのような感じかなと想像しています。家族と切り離して病院の環境に慣れさせ、毎日同じ看護婦さんたちやと医師たちと触れ合って信頼関係を築くことで、不安を減らして言葉を引き出すことができるんだろうなと思います。家だったら暗黙の了解だったり、母親がやってくれていたことなど、何らかの意思表示をしなければならないサバイバル的な部分も出てきますよね(例えば、トイレに行きたい時や欲しいものを選ぶ時など)。家族の助けなしに緘黙児が自分でコミュニケーションを取り、話し始めることができたら、きっと大きな自信になるはずです。ただ、場所が病院なので、学校でも同じように話せるかというと、どうなんでしょう…?

ここでは、「ASDの併存症としての緘黙症に対しては」とありますが、決してASD併存のケースだけが入院治療に向いているということではないと思います。多分、どんな緘黙児にも入院治療は効果があり、特にASD併存の緘黙児には成果が期待できるということなのかなと。

私は全くの想像でものを言っているので、もし入院治療をされた方、子供を入院治療させた方がいらしたら、是非その体験をおききしたいです。

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イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その1)

 

イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その1)

『日本では発達障害と見なされやすい?』のシリーズでは、日本では場面緘黙児がPDD(広汎性発達障害)と診断されることが多いように思えること、またその理由について考えてきました。今度は、イギリスの学校環境やシステムの中では、ASD児が二次障害として場面緘黙を発症する率が低いのではないか、という私の勝手な仮説について考えてみたいと思います。

その前に、『日本では発達障害と見なされやすい?(その5)』でも触れたのですが、杉山登志郎氏の著書『発達障害のいま』に着目したいと思います。日本における高機能自閉症の権威のひとりといわれる杉山氏は、あいち小児保健医療総合センターの心療科(児童精神科)の部長として、2010年まで9年間、臨床の最前線にいた方です。

2011年夏にこの本が出版された時は随分話題になったようですが、読まれた方はどの様な感想を持たれたでしょうか?私は2011年秋に帰国した折、Knetのおしゃべり会 in 名古屋に行く途中立ち寄った書店で、偶然にこの本と出遭いました。読んでみて、難解な中にも目からうろこの発想が沢山あったように思います。特に、発達障害が何故増えているのか、発達の凸凹とトラウマについては興味深く何度も読み返しました。

ご存知かもしれませんが、この本の中には「選択性かん黙」についての記述があります(P170)。      要約してみると、

1) 緘黙はASD(自閉症スペクトラム障害)ではないと考えられてきたため、国際的な診断基準にもそのための除外診断の記載があるが、最近になって重症の緘黙児には高頻度にASDの子どもがいることが明確になってきた。

2) 軽症の緘黙児は不安感が強いとか、家族の中で見えない対立があるなどの家庭環境の要因がみられる。しかし、コミュニケーション全体に遅れを認める難治性の緘黙児は、殆ど実はASDの併存症として生じている。

3) このグループは思春期に転帰が分かれ、外でコミュニケーションが取れる子と、取れないままの子に二分される。

4) ASDの併存症としての緘黙症に対しては積極的な治療、つまり入院治療を行うと成果があがる。入院して家族と離れて生活するだけで、早い子は2週間、粘る子でも1ヶ月、最悪の場合は3ヶ月あれば、家庭外でも会話によるコミュニケーションが可能となる。

(『発達障害のいま』 杉山登志郎 講談社現代新書 2011年)より抜粋&要約)

ここから、またまた続きます。

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緘黙は発達障害なのか?

 

日本では発達障害と見なされやすい?(その6)

イギリスにおけるASD(自閉症スペクトラム障害)のアセスメント

この間、セカンダリースクール(12~16歳)に通うSMの女の子のお母さんと話す機会がありました。娘さんは幼稚園入園時から場面緘黙になり、小学校低学年で一端回復したものの、5年生の頃から徐々にまた緘黙傾向が強くなったそうです。娘さんの社会性を心配して最近ASDのアセスメントを受けたと聞き、その経過を教えてもらいました。アセスメントの際、日本のようにWISCなどの知能テストが行われるかどうか知りたかったからです。

言語療法士経由で学校に相談したのは、娘さんが6年生の時。学校から地区のCAMHS(Child and Adolescent Mental Health Service 子どもと青少年の心の健康を専門とするクリニック)に紹介してもらい、実際に精神科医に会うのに2年もかかったとか!イギリスの国民医療サービス(NHS)は無料だし、専門医の質も高いんですが、システムが複雑で待ち時間が長いのが玉に瑕…。同じNHSの医師に私立の病院で診てもらうと、目玉が飛び出るほど高額なんです(万単位)。

まず、CAMHSに紹介された時点で、オンラインの申し込用紙に娘さんの情報などを記入。その後、学校側と専門家がミーティングを行い、精神科医に診断してもらう必要があるかどうか相談する予定だったそうですが、CAMHS側が診断必要ありと判断したため、10ヵ月後に最初のアポが入ったとか。

初診は何と医師ではなく精神科のナースによる面談。その結果を専門家たちが話し合い、ASDの可能性があるのでアセスメントが必要と判断されたそうです。

それから次の受診日を待つこと1年。精神科医が両親に問診を行い、その結果ASDではなく社会不安障害という診断がおりたそうです。娘さん個人にも別個に質問する予定でしたが時間が足りず、そちらの方は次回に回されたそうですが、まだそのセッションは行なっていないとのこと。

CAMHSからの報告書によると、ASDのアセスメントに使われたのは、Dimensional Developmental and Diagnostic interview (3DI) Observational assessment

不安障害の診断に使われたのは、SCARED (Screening for Child Anxiety Related Disorders)
だそうです。

言語療法士たちは、最初からASDではなく不安障害ではないかという意見で、これはASDの疑いを除くためのアセスメントではないかと話していたそう。やはり、日本のようにWISCなどの知能テストで自閉症スペクトラムかどうかを判断することはないようですね…。

「日本では発達障害と見なされやすい?(その2)」で触れたのですが、うちの息子も主治医(GP)に頼んでCAMHSに紹介してもらい、7歳の時にASDのアセスメントを受けました。その際は5ヶ月後に診察してもらえたので、私が住む地区は待ち時間が短い方なのかもしれません。結果からいうと、問診してすぐにASDの心配はないと言われました。

受診の理由は、当時かんもくネットでPDDと診断されるお子さんが多く、心配になったこと。息子には感覚過敏があり、学校で男子のグループの中に溶け込めなかったり、家で意固地になることが多かったためです(友達関係に関しては、診察を待っている間にかなり改善されました)。

うちの場合は、私と医師、(父親が隣について)子どもと医師が別々に問診を受けました。多分、彼女の家族が受けたのと同種類の質問だったと思いますが、報告書には「アスペルガーシンドロームのスクリーニング質問表使用」とあるだけ…。加えて、学校での様子や友人関係、成績などについて担任からの情報と、それに対する医師の所見も記載されていました。

スクリーニング質問表は既成の自己診断テストをもっと具体的にした感じかな。息子の普段の生活の態度や性格など、細かいところまで具体的に訊かれた記憶があります。

「軽度発達障害フォーラム」というサイトでPDD(ASD?)自己診断テストを見つけました。気になる方は参考程度にトライしてみてください。自己診断で特に問題がないようであれば、それ程心配することはないように思います。もし心配な場合は、早急に児童相談所などに相談に行くことをお勧めします。どんな問題であれ、子どもが直面している困難を見極めて、どの様なサポートが必要かを知ったうえで、早めの対策を練ることが大切かと思います。

PDDオンライン自己診断

http://www.mdd-forum.net/check_sheet/checksheet_pdd.htm

PDD・アスペの定義と診断基準

http://www.mdd-forum.net/asp_teigi.html

ASDの定義自体が一般の健康な人を含んだスペクトラム(連続体)なので、少々社会性に欠けるとか、コミュニケーションが苦手であっても、環境に適応できていれば、個性の範囲に入るのではと私は思っています。また、そういう傾向を持つ子どもには、その傾向に対するASD児への対応を参考にできると思います。

私は9月から自閉症児専門の小規模な私立校で、週に1回TAの研修をさせてもらっています。生徒は殆どアスペの男児ばかりでなんですが、会話をしていると、話題が一方的で視野が狭く、会話のキャッチボールができないという共通点があるように感じます。視線は合うし、質問にもちゃんと答えるものの、こちらのボディランゲージや周りの状況を全く読めないよう。話題が自分の興味に集中して、話が膨らまないんですよね。ちなみに、30名強の生徒のうち、場面緘黙の子はひとりもいません。

緘黙は発達障害なのか?

日本では発達障害と見なされやすい?(その1)

日本では発達障害と見なされやすい?(その2)

日本では発達障害と見なされやすい?(その3)

日本では発達障害と見なされやすい?(その4)

日本では発達障害と見なされやすい?(その5)

日本では発達障害と見なされやすい?(その5)

発達障害とは具体的に何なのか?

では、発達障害とは具体的にどの障害を指すんでしょうか?かんもくネットの『場面緘黙Q&A』では、DSM-IVによる発達障害の種類を表にまとめています。

  • 精神発達遅滞
  • PDD広汎性発達障害(自閉性障害・レット障害・小児期崩壊性障害・アスペルガー障害・特定不能の広汎性発達障害)
  • 学習障害(読字障害・算数障害・書字表記障害)
  • 運動能力障害(発達性強調運動障害)
  • ADHD注意欠陥他動性障害(混合型・不注意優勢型・特定不能の注意欠陥/他動性障害)
  • コミュニケーション障害(表出性言語障害・受容-表出混合性言語障害・音韻障害・吃音症)
  • チック(発達障害に含めることもあり)

『場面緘黙Q&A』 かんもくネット著/角田圭子編 (学苑社 2008年)より引用

金原氏の研究報告では、発達障害についての定義には触れていません。そこで、日本における高機能自閉症の権威のひとりといわれる、杉山登志郎氏の『発達障害のいま』を参照してみました。

目次の後に、発達障害の新たな分類とその経過として、発達障害の分類表が記載されています。

  •  第一グループ    精神遅滞/ 境界知能
  •  第二グループ    知的障害を伴った自閉症スペクトラム/ 高機能自閉症スペクトラム障害
  •  第三グループ    注意欠陥多動障害(ADHD)/ 学習障害(LD)/ 発達性協調運動障害
  • 第四グループ    子ども虐待

『発達障害のいま』杉山登志郎著 (講談社現代新書 2011年)

……………………………………………………………………………………………..

やぱり、杉山氏の分類には言語やコミュニケーションの発達に関わる、コミュニケーション障害が見当たりません…。学習障害の中に含まれているんでしょうか?もしご存知の方がいたら、是非教えてください。

何だか、この定義の曖昧さにも、日本で場面緘黙が発達障害と見られやすい理由があるように思えます。(言葉が遅かったり、問題があるのは高機能ではない自閉症の特徴でもあるので)

イギリスでは発達の問題(Developmental problem)という場合、発達の問題全般を指すと思います。ASD(自閉症スペクトラム障害)はその一部に過ぎません。だから、場面緘黙=ASDとは結びつきません。

場面緘黙児の3分の1が言葉やコミュニケーションの問題を抱えていると言われていますが、問診やIQテスト、病院などでの観察で、子どもにどの程度の言語・コミュニケーション能力があるのか、どの程度まで解るんでしょう?

保護者としては子どもの苦手な部分を詳しく知り、より早い段階でその部分を支援してあげたいですよね。

まだ続く予定ですが、書き溜めたものはここで切れてしまったので、次は少しというかもっと間が空きそうです…。週末には仕事が一段落するといいなぁ。

 

日本では発達障害と見なされやすい?(その4)

金原氏は『選択性緘黙例の検討-発症要因と併存障害を中心に』の中で、自分の研究結果をH.クリステンセン(2000年〝Selective Mutism and comorbidity with developmental disorder”)のそれと比較しています。H.クリステンセンは、欧米では唯一、併存障害のケースも含めた研究結果を出しています。

金原・発達に関連する障害との併存率: 60%

  •          PDD: 52% (疑いのあるケースも含めると70%)
  •     精神遅滞: 13%
  •          LD: 9%
  •         (社会不安障害: 65%)

クリステンセン・発達に関連する障害との併存率: 69%

  •      アスペルガー: 7%、
  •      言語・コミュニケーション関連の障害: 50%
  •      発達性強調運動障害: 17%
  •      軽度精神遅滞: 8%
  •            (不安障害: 74%)

『選択性緘黙例の検討-発症要因と併存障害を中心に』かねはら小児科・金原洋治著(2009年 日小医会報)より引用

…………………………………………………………………………………………..

ここで注目したいのは、PDD(広汎性発達障害)とアスペルガー障害(ASD自閉症スペクトラム障害でなく、それに含まれるアスペルガーのみ?)ですが、何故か45%も違いがあります。ASDだったら、違いはもっと少なくなるんでしょうか?とっても謎です。

『場面緘黙Q&A』には、「クリステンセンの研究対象はDSM-IVの診断基準で抽出された緘黙児ですが、アスペルガー障害やコミュニケーション障害の緘黙児は除外されていません」とありますね。(私はクリステンセンの論文の抄録を読んだだけなので、不勉強ですみません)

また、注目したいのは、金原氏の併存障害の中には、緘黙児の3分の1が持つといわれる、言語やコミュニケーション関連の発達障害(吃音、音韻障害、受容-表出言語の障害など)が含まれていないこと。

これは、緘黙児に言語能力テストを行えないため、言語やコミュニケーションに問題があるかどうか解らないという理由から?それとも他に理由があるのでしょうか? 言語能力(特に、話し言葉)については、IQテストでどの程度判断できるんでしょう?

異なる研究であるにせよ、併存している発達障害の種類がバラバラなのも気になります。

こうやって見てみると、「発達障害」という言葉が示す障害の範囲が、使う人やケースによって、明確に定められていないのではという疑問も湧いてきます。日本で発達障害という場合、どうも「自閉症関連の発達障害、LD、ADHD」といった狭い範囲で使われているような…。

またまた続きます。

 

日本では発達障害と見なされやすい?(その3)

日本では場面緘黙児がPDD(広汎性発達障害)と診断されやすいという印象はどこからきているか?

これはイギリスに住んでいる私の印象なので、もしかしたらそうではないのかもしれません。ただ、勉強不足で間違っているかもしれないのですが、日本の小児科医の論文や書籍からも、その傾向が読み取れるような気がします。そういう学会の傾向が、医師や心理士の考え方に影響を与えているとは考えられないでしょうか?

まず、2009年に日本小児科医会会報(日小医会報)で発表された、山口県小児科医会の金原洋治氏の研究報告『選択性緘黙例の検討-発症要因と併存障害を中心に』を見てみます。

抄録によると、かねはら小児科で経験した23例の選択性緘黙例について、主に発症要因と併存障害を中心について検討したとあります。

●発症時期: 幼稚園や保育園入園時が圧倒的に多かった

●初診時年齢: 3~14歳(平均7、8歳) 発症から3~4年経過した例が多かった

●緘黙経過中に完全な知能検査が可能だった例: 12例

IQ60~69: 3例
IQ70~99: 7例
IQ100以上: 2例

●併存障害の有無:

社会不安障害: 15例
広汎性発達障害: 12例(他に疑い4例)
精神遅滞: 3例
LD: 2例
登園・登校しぶり/不登校 10例

●受診理由:

緘黙: 5例
緘黙以外: 17例 (不安障害、発達障害、心身症など)

『選択性緘黙例の検討-発症要因と併存障害を中心に』かねはら小児科・金原洋治著(2009年 日小医会報)より引用

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23例中、広汎性発達障害が12例、またその疑いがあるケースが4例(合計16例)と、半数を超えています。これを最初に見た時は、「ええっ?!」と驚きました。また、平均IQが低いのも気になります。

ただ、かねはら小児科は発達障害で知られていること、場面緘黙のために受診した例が5例しかないことを考えると、症例のデータが偏っていることが考えられると思います(これは報告書にも記してありました)。(アメリカ精神医学会の診断基準DSM-Vに従えば、この場合の場面緘黙はPDDの二次障害となるので、場面緘黙には含まれないことになります)。

それから、初診の平均年齢が7、8歳で、発症から3~4年経った後というのも引っかかります。場面緘黙が固定化して、学校生活で不適応を起こすような他の問題(不登校など)が表面化してから受診しているように思えるからです。多分、緘黙が固定化しても、学校でしゃべらないだけでコミュニケーションは取れており、友達関係も勉強面もそれほど問題がないケースの場合、発症から数年経って初めて病院に連れて行くという保護者は少ないのでは?

また、今年更新されたアメリカ精神医学会の診断基準DSM-Vで、場面緘黙は不安障害の中に含まれるようになったんですが、社会不安障害が15例しかないのも不思議です…。

以後、またまた続きます。

P.S. 今、仕事やKnetの任務など、色々なことが一度に重なって時間がない状態です。少し書きためたノートを元にブログを更新しようと考えてますが、途切れがちになるかもしれません。(また、うっかりミスや誤字脱字も多くなりそうです)

気長につきあってくださると嬉しいです。