場面緘黙と自閉症スペクトラム障害(ASD)SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その10)

4月も半ばにさしかかりましたね。イギリスでは記録的な好天が続き、昨日・今日と最高気温が22度に達しました。でも、明日から天気が崩れてまた肌寒い天候に逆戻りするよう。

       白い小花をつけた木々が続く雑木林の散歩路。ロンドンの八重桜はほぼ満開で、ブルーベルも既に花を開き始めています

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ASDとSMが併存する場合、特に注意すべきことは?

ASDの人から見ると、健常と言われる人の言葉は非常に曖昧です。私たちはそれに気づいていません。ASD児は長い質問に答えられないことが多いですが、それは文章の中に含まれる隠喩を理解できないという理由からかもしれません。また、私たちが常識としている概念を理解できていないかもしれないのです。

例えば、『いつ親友と出会ったか』という作文の課題が出たとします。まず親友がいるか、そのことを書きたいかどうか(公表したいか)、そして書くことが全部事実でなくてもいいという通念を持っているかどうか、などを考慮する必要があります。

クレアさんにはASDの息子さんがいますが、『架空のマーケットのガイドブックを作る』という課題に詰まってしまったことがあったとか。第一に、ガイドブックは事実が書いてあるものなのに、架空のことについて事実は書けないというのが理由でした。

ASDの人には隠喩が通じません。教師は課題の目的が何なのか、重要な点は何なのかなどを明確に伝える必要があります。何を求められているのか、曖昧さが残らないように丁寧に説明することで不安が減ります。また、間違えることを恐れる傾向が強いのも考慮に入れておきましょう。

スモールステップの組み方

まず、コミュニケーションロード(communication load :コミュニケーション負荷=情報伝達や意思疎通の量と質)を考慮する必要があります。コミュニケーションにはリスクが高いものと低いものがあることを忘れないこと。

まずは、低リスクのコミュニケーションから

  1. 曜日を順番に言う/ 数を数える
  2. Yes/Noの回答
  3. 短い回答
  4. フレーズを入れた回答
  5. 自分の意見を言う/ 自分のことを言う

例えば、学芸会でセリフを言うことは低リスクに含まれます。というのも、いつ・どこで・何を言えばいいかが明確だからです。これと同じで、声を出して読むこと(音読)も低リスク。話すことだけでなく、書くことも同じです。

反対に、誰かとの会話は自分が話題やその経過をコントロールできないため高リスク。簡単そうに思えますが、「今日は」と挨拶することも高リスクです。挨拶は会話を始めるツールとなるため、次に何かを聞かれる可能性が高いからです。「ごめんなさい」「お願い」「ありがとう」「さよなら」なども、言うことを期待される言葉であり、過去に苦い経験をしたことがある子どもには、心理的に重たい言葉なのです。

ASDの若者にとって、興味のあるもの/ことは低リスクとなるため、それに纏わるコミュニケーションを奨励しましょう。

クレアさんからのアドバイス

「まずはSMに関する周囲の理解を深めることが肝心。悲しいことに、まだまだ周知の症状ではないため、保護者が周りに伝えていかなければならないことが多いのが実状。また、ASDとの併存の場合は、「不安を減らすこと」と「不安と対峙すること」のバランスを取るのが難しいことも理解しておきましょう。いつ押していつ引くのか、その判断が難しいところ。不安に対峙する機会を潰さないこと、できるだけ多くの機会を作ることも重要です。

「息子は何かが起きた時に母親の私にも言いたがらない傾向があります」。子どもに何か嫌なことが起こった時、すぐに原因を探るのではなく、時間をあげて自分から言い出すのを待つことも重要。すぐ答えを強要するのではなく、「今言わなくてもいいよ。あとで言いたくなったら言いに来て」と声をかけましょう。「原因は学校、それとも家?」「先生、それとも生徒?」など、選択制の質問をすることも有効です。

保護者が過保護すぎると言われたり、家族のせいにされたりすることもまだまだ少なくありません。気に病まないようにしましょう。

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場面緘黙と自閉症スペクトラム障害(ASD)SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その9)

もうすでに4月…この春休み(私立なので月曜日からイースターホリデーに突入しました)はやるべきことが山積みになっているのですが、遅々として進んでいません。 まだプライベートと受験の生徒さんの授業は残っているし、予期せず日本から友達がやってくるし、快晴の日が続くので家の中ばかりにいたくないし…。

  陽射しも暖かなロンドンは、まさに春爛漫!色々な花が咲き乱れて綺麗です。ハムステッドヒースでは森のアネモネが満開でした

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さて、クレア・キャロルさんの対談の続きです。

ASD(自閉症スペクトラム障害)とSM(場面緘黙)併存ケースの治療法

これはSMのみの場合も同じですが、話せないことだけでなく、児童やティーンの全体像を把握してからスモールステップを計画すること。担任、TA、そして友だちを含めた小さなグループを作り、子どもの興味に沿ったスモールステップを始めます。

馬が好きな女の子の例

SM治療のトレーニングを積んだTAがSM児と友人2人を含むポニークラブを作成。TAを媒介にして、馬に関する話題で一緒にゲームをしています。女児は話し始めたものの、TAが返答をシェイピング(shaping法:  最初は吐く息やささやき声から始め、単語から短文、長文、自発的な言葉へと発話をより高度なものへと導く方法)する必要があるそう。

場面緘黙は人間関係によっても起こるため、まず人間関係を築く必要があります。研修を受けた支援スタッフを配置して、まず人への不安を和らげることから始めます。1対1か、それとも小グループか、その子どもに適切なプログラムを作成することが大切。

年齢が上のティーンの場合は、通常のケースと同様に、支援スタッフと1対1、もしくは信頼できる小グループで町に出かけてカフェで注文してみる、というような社会的なチャレンジに広げていくといいでしょう。

クレアさんは既に治療プログラムを開始している支援者達から相談を受けることが多く、問題解決の方法についてこうアドバイスしています。

「よく相談されるのは、子どもを取り巻く大人全員が研修を受けていないために起こる問題。ASD児はコミュニケーションロード(communication load :コミュニケーション負荷)に非常に敏感なため、ちょとした不注意な言葉で深く傷ついてしまったり、声のトーンだけで影響を受ける子もいたりするので要注意です」

すぐに治療に取り掛かるより、まず関係者が場面緘黙について学ぶこと。スモールステップで停滞してしまうケースが多いのは、躓いたところで支援者が困惑して止まってしまうから。ステップを更に細かくする自信がないため、同じステップを何度も繰り返して子どもの自信も削ってしまう結果に。また、話すことばかり優先して、人間関係を充分に育てることをしないのも問題。ASD児の場合は、特に信頼関係が発話を招くことが多いので、機械的にスモールステップを続けるのでなく、一歩下がって何故上手くいかないのか考えてみる必要があります。ASD児は好きなもの・ことに関しては不安が少ないため、本人の興味を利用すると良いでしょう。

緘動(身体がフリーズして動けない)になるケース

あるASD児はSMが表面化した際、SM以上の問題があることが明らかでした。話せないだけでなく、置かれた環境に完全に圧倒されて身体がフリーズ状態に。ゼスチャーなどの非言語コミュニケーションも取れず、ペンを持つこともできず、トイレに行くことさえできなかったのです。こういうケースは、まず環境から変える必要があります。支援プログラムの中には、普段見慣れない支援者が学校を訪問して週複数回介入するというものもありますが、これでは信頼関係を築くのは困難です。

一般的に、中学生が学校のトイレを使えないとは思わないものです。でも、子どもが何に対して不安を感じているか、明確にすることが必須です。

また、SM児は幅広いコミュニケーションの問題を抱えている傾向が強いことも忘れずに。例えば、書字ができない、長い返答ができない・書けない、自分の意見をまとめることができないといった言語の問題もあります。

学校側は「昼休みに作文のグループがあるから、行ってみて」と勧めるかもしれません。こういう場合、ASD児にはもっと丁寧な説明や声掛けが必要です。例えば、「昼休みに作文のグループがあるから、明日一緒に行くからね。試してみて楽しかったら続けよう」というふうに。SM児は自発的に何かをすることが苦手なため、信頼できる大人や友だちが付き添うことで不安を軽減できます。子どもが自分で選べるように支援しましょう。

またまた長くなったので、次回に続きます。

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場面緘黙と自閉症スペクトラム障害(ASD)SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その8)

3月も後半になり、イースターの長期休暇まであと1週間。急に暖かくなったかと思うと、また気温が下がったりして、寒暖差が激しい今日このごろです。

     でも、野外はすっかり春の様相。花屋さんの店先は季節の花々があふれています。

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さて、またまたSM H.E.L.P. 秋サミットの続きです。今回はSMとASD併存のケースについて。

クレア・キャロルさんは教育心理学者として20 年近いキャリアを持ち、英国マンチェスターの One Education に所属。教育現場における神経多様性のある子ども達のためのプロジェクトに参加している。ASD(自閉症スペクトラム障害)の息子さんにSM(場面緘黙)の症状があったため、2014 年に場面緘黙の追加トレーニングを受講。2017 年に英国の場面緘黙支援団体 SMiRA の理事に就任している。

2018年北欧で発表された論文からの抜粋

ステファンバーグ等の研究(『ASDとSMを併存する児童(Children with Autism Spectrum Disorders and Selective Mutism: Steffenburg H, Steffenburg S, Gillberg C, Billstedt E. )』によると、北欧におけるSM発症の平均年齢は 4.5 歳。診断時の平均年齢は 8.8 歳でした。男女比では女子の方が多く(男子: 女子 = 2.7: 1)、研究グループの63%(2/3)がASD(男女差なし)であることが判明。 ASDを併存するSMグループは、症状の発現が遅く、診断時の年齢が高く、言語遅延の病歴はより多く、境界線IQまたは知的障害の割合が高いという結果が出ています。

ASDと場面緘黙の併発率について

イギリスではつい最近までASDとSMが併存するという診断を下しにくい状態にありました。これは、ASDが一次障害として上位診断されていたためです。

SMiRAが現在行っている調査によると、参加した264名の家族のうち自信を持って緘黙のみと答えたのは全体の28%。 残り72%の家族は他の疾患を併発していると考えており、その中ではASDの疑いが最多。その内、85%は診断がおりておらず、62%がASDの診断中・または診断待ちの状態です。

ASDで話さない子と、ASDとSMを併発している子との違い

Non-Verbal (言語を伴わない)のASD児はどこでも話せませんが、ASDとSM併存の子どもは場所によっては話せるという明確な違いがあります。SMの基準は全く話せないということではなく、普段の様に話せないということ。また、自発的に話すことができず、少しだけ返答をするケースも考慮に入れなくてはなりません。

イギリスではここ5年の間に、ASDに対する考え方が変わってきています。 ASDであることを肯定的に捉えてサポートする動きに変わりつつあるのです。社会的スキルのトレーニングに重点を置くのでなく、ASDの若者のニーズを分析・考慮し、彼ららしく人生を歩いていける様にサポート。彼らがしたいこと、家族が望むことを応援し、やりたくないことは絶対に強要しないといううスタンスを取っています。

ASDにSMが加わるケースを調査していくと、どうして緘黙になるのか、通常とは異なる原因が見えてくるといいます。一般的に、ASDではないSM児においては、人に話しているところを見られる恐怖や社会不安が大きな要因。一方、ASD児は不安のために圧倒(overwhelmed)された状態に陥り、そのせいで緘黙になっていると考えられます。この場合、話せないだけでなく、身体が硬直している場合が多く、部屋の片隅でひとり突っ立ったままということも。

こうしたケースでは、話せない環境そのものに目を向ける必要があり、通常のスモールステップは有効ではありません。

ちょっと長いので次回に続きます。

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場面緘黙とPDA(病理学的要求回避) SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その7)

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場面緘黙とPDA (病理学的要求回避)SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その7)

3月ももう半ばですね。時間があっという間に過ぎ去って、季節がどんどん移り変わっていきます。そのスピードに全然ついていけていない自分が怖い(^_^;)

       イギリスでは先週末まで初夏のような気候で、樹木の花が一斉に咲き始めました。が、それから以前の寒い日々に逆戻り…。

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さて、昨年秋のSM H.E.L.P.の記事はまだまだ続きます。

ダニエラ・ジェタホール(Danielle Jata-Hall)さん は、ニューロダイバージェント(neurodivergent: 神経多様性=脳や神経の発達が「標準的」な人々とは異なるため、認知機能または感覚機能が標準とは異なる)の 子どもを3人持つ母親。3人ともASD(自閉症スペクトラム障害)で、うち2人はPDA(Pathological Demand Avoidance 病理的要求回避 ) 。ダニエラさんは特別支援が必要な子どもをサポートする教育現場で働き、支援グループの運営も。受賞歴を持つブロガーでもある。特に、PDA の啓蒙・研究者として知られ、著書に『Black Rainbow』や『 I’m Not Upside Down, I’m Downside Up』がある。

我が子のPDA(病理学的要求回避)を発見

長女の様子がおかしいと気づいたのは2016年のこと。表面的には社交的でコミュニケーションスキルに問題はないと思っていたため、レーダーから外れていました。でも、思えば赤ちゃん時代から感情の起伏やコントロール要求が激しく、どう扱っていいか判らず振り回されていました。

小学校に入学すると、コミュニケーションに問題があることが明らかに。娘は自分をコントロールすることができず、精神的に大変な状態に陥りました。学校に相談したところ、返ってきたのは「心配しすぎ」との返答。外見上は上手くやっているように見えるため、信じてもらえなかったのです。

ペアレントコントロール等を学んで対応しましたが、上手くいかず…。行き過ぎの行動に罰を与えるようにしたところ、頭を壁にぶつける自傷が始まってしまいました。

そんな時、英国のSLTリビー・ヒルさんがアドバイザーをしているTV番組を観て、娘の症状がPDAだと気づいたのです(詳しくは『PDA(病理的要求回避)の具体例』をご参照下さい)

例え自分がしたいことであっても、要求だと思うと全てが不安に繋がってしまうのがPDA。極端なケースだと、歯を磨いたり、お風呂に入ったりなど、暮らしの中ですべき当然のことでさえ要求と捉え、実行することが困難になります。娘は楽しみにしていたハロウィーンでさえ行けませんでした。

巧みな言い訳で逃れようとする

歯を磨くのを避けるために、「顔を先に洗ってから」「着替えてから」など、もっともらしい言い訳をします。どのくらい回避・拒否し続けるかは決まっておらず、すぐ終わるときもあれば長く続くことも。玩具などを使ってやらせることに成功しても、本人がそれを要求だと見破れば再び拒絶。今日我慢できても、明日我慢できるとは限りません。娘は感情の起伏が激しく、その変化の速さに追いつけない状態です。

人に執着することも

娘はロールプレイやごっこ遊びが異常に上手く、誰かになったつもりになると外でも問題なく行動できたりします。また、人に焦点を当て執着してしまうこともあります。

現在13歳になる娘をトイレに連れて行き、時には手助けをしなければならない場合も。「どうやって歯を磨かせるか」と考えた時、「磨かせる」という表現自体が要求ですよね? 子どもと話し合い、もしできなければ口を濯ぐだけでOKという選択肢も用意しましょう。私は子どもが自分でコントロールできていると感じられる様、言葉を選んだり、間接的に告げたりする様にしています。

行動する前に、どういう風に言い回しを変えるか、どこまで妥協するかを考えておくこと。私が優先するのは子どもの衣食住と健康です。優先したことを終わらせるために、他は妥協せざるを得ない場合も多々あります。

保護者はPDAの子どもの困難を理解し、どのように支援できるかを探って下さい。一方、子どもは自分の困難を理解して、それをどう管理できるようにするかを学んでいきます。全部はできないので、まずは優先順位を決めて、後はできなくても仕方ないと諦めることも必要です。

外から見ると、保護者が子どもを甘やかしているだけに見えるかもしれません。躾がなっていない子どもの保護者として、責められることも多いでしょう。でも、人がどう思うかより、自分の子どもが毎日の要求にどうやって対処していけるかの方が大切です。PDAは比較的新しい症状なので、まだまだ研究中。全員が理解してくれる訳ではないから、周囲が少しずつ変わっていくのを待つしかありません。周囲に説明する時、私は解りやすいようにウェブや本のページを借りて伝えるようにしています。

保護者の心理を考えると心労がすごいと思います。周囲がPDAの知識を持たないため、保護者はいくら頑張っても批判されがち。批判されると、自分の行動が正しいのかどうか判らなくなり、混迷してしまう人も多いことでしょう。

PDA協会には豊富な資料があり、コンタクトを取ることが可能です。是非アドバイスをもらって下さい。あとは、少しでもいいから自分の時間を持つこと。保護者が自分を守ることが大切です。PDAの子どもを抱える母親、父親、家族に、独りじゃない、本当によくやっているよと声をかけたいです。自体はこれからもっと良くなって行くはずだと信じています。

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場面緘黙と社会不安障害 SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その5)

場面緘黙と強迫性障害 SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その6)

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PDA(病理的要求回避)の具体例

6月ももうすぐ終わり…ということは2024年がすでに半分過ぎ去ってしまったんですね。早っ!イギリスでは10日ほど前から天気が回復し、やっと初夏らしい気候になってきました。ここのところ夜9時半過ぎまで明るいのですが、6月20日の夏至から徐々に日が短くなっていると思うと、なんだか淋しいです。

      6月は果物が美味しい季節。露地栽培の国産の苺が出回り、時おりヘタに花びらがついた苺も。忘れた頃に芽吹いた鉢植えの苺は、5年連続で小さな実をつけました。ブルーベリーの実は、今年こそ小鳥に盗られないようにしないと…。イギリスでは甘みの強いフラットピーチ(平たい桃)が人気です

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これまで3回にわたってPDAの説明をしてきましたが、実際にはどんな症状なのか?文章を読んだだけでは良く判りませんよね。

9年前にイギリスで放送されたTV番組シリーズ ”My Aggressive Toddler/ Born Naughty?(うちの攻撃的な子ども/ 生まれつき反抗的?)” で、PDAと診断された子がいるので映像を観ていただければと思います(英語ですが、彼の行動を目で追うだけでもかなり参考になるはず)。

この回に出演したのは、3歳のビリーと8歳のチャーリー、そして家族たち。両家の保護者は、ともに子どもがASD(自閉症スペクトラム)ではないかと疑っています。

注目していただきたいのは、8歳のチャーリー(7:19-/ 15:18-/ 20:10-/ 28:17-/ 34:37-/ 34:40-)の方。母親のマキシーンさんは、彼の行動は発達上の問題に起因するものと確信し、支援を求めて4年のあいだ不毛な戦いを続けてきたそう( 15:18-)。番組の終わりに、ようやく「ASDのPDAプロフィール」という診断が降りました。

撮影時点では、チャーリーはホームスクーリングを余儀なくされ、ほとんど家で過ごす毎日(7:19-)。ゲームで負けると不機嫌になり、母親がスイッチを切った途端、叫んで母親を攻撃し始めます。自分の意向にそわないと態度が激変――そんな彼をマキシーンさんは「ジキル博士とハイド氏みたい。全く予測不可能」と告白。

ラビ医師が家を訪問し、まず祖父にインタビュー(17:09-)。祖父母には懐いていますが、祖父いわく「チャーリーは私達を側にいさせるけれど、いつもひとりで遊んでいる」とのこと。ソーシャルスキルの問題を示唆していますね。

学校や友達について聞かれると(17:38-)、チャーリーは「やってないのにいつも怒られるから学校は嫌い」「友達はX Boxの仲間たち。喧嘩しても実際に殴り合いにならないから」と答えました。ラビ医師は「思考や行動に柔軟性がなく、曖昧な言葉や冗談が理解できない。変化を嫌い、社交性がない」とASDの疑いを強めます。

私が気になったのは、ASD児の5人に1人が学校システムから排除されているというナレーション(20:10-)…チャーリーもそのひとりで、週に数時間は家庭教師がつくものの、ほとんどの時間をTVやPCゲームに費やしているのです。外出は極度に嫌うそう。

「犬の散歩に行くから靴を履いて」と頼む母親を拒絶するチャーリー。なんとか玄関まで来させると、チャーリーは止める母親を無視して外へ猛ダッシュ。いつも公園の樹に登り、母親が犬を散歩させている間中ずっとそこにいるのが習慣なんだそう。今まで母親や犬と一緒に歩いたことは一度もないとか…。

次に、児童心理士のケネリーさんと言語聴覚士のヘレンさんがチャーリーを訪問(21:52-)。一人がアセスメントを行う間、もう一人はボディランゲージ他を確認します。体を揺らす、思考が狭い範囲に限定されている、非言語コミュニケーションを使わない――ASDの特性が見て取れます。

また、いつもと違うビスケットを出されたチャーリーは、彼女たちと視線を合わせたり、問いかけたりしません。食べかけのビスケットを口から出して「おいしくない」とテーブルに戻しました。

チャーリーの睡眠のパターンを調べてみると(28:17-)、寝かせようとする母親に対してメルトダウンを起こし、暴力を振るっています…。ここで心理学者のケネリーさんが着目したのは、チャーリーが何度も体を揺らしていたこと。

複数のアセスメントの結果、常同行動や思考の狭さから、専門家チームはチャーリーがASDであると診断(40:00-)。加えて、新しくできたPDA問診を行ったところ、通常よりかなり高い数字が出たため、ASDのPDAプロフィールであることも同時に診断されました。診断結果が出ると、母親のマキシーンさんは安堵の涙を浮かべました。これでやっと皆に理解してもらえ、適切な支援をしてもらえると希望を持てたからです。

診断後、この情報は地方自治体に通達され、チャーリーは新しい学校に受けいられることに(TVで取り上げられたため、上手く行った部分も大きいかと思います)。家庭でも家族がPDAについて学んだことで、状況は好転。以前より笑顔が増え、かなり落ち着いて暮らせているよう。

朝チャーリーを起こす時(44:50-)、マキシーンさんは大きな砂時計を枕元に置き、「今から10分、砂が全部下に落ちたら起きるのよ」と告げます。こうすることで母親の要求は砂時計の要求にすり替わり、彼女が攻撃されることはないのだとか。

砂時計はゲームをやめさせる時や、寝る時にも使えそうですね。また、「◯◯をしなさい」ではなく、「何分で◯◯ができるかな?競争しよう」とゲーム感覚にすれば、要求の様には聞こえません。

緘黙もそうですが、子どもに合う支援を見つけることの重要性を感じました。

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PDA(病理的要求回避)とは?(その3)

イギリスでは先週末から天気が回復して、やっと通常の6月の気温に戻った感じです。一年で一番いい季節を楽しもうと日本からやってきた友達にとっては、雨降りの寒い日が続いて気の毒でした。

    ロンドンのキングスクロス駅近くにある生物学研究所、フランシス・クリック・インスティテュートで脳の研究をテーマにした『Hello Brain!』展を観てきました。現代神経科学の父、サンティアゴ・カハル(1852-1935年)による細密な脳細胞のスケッチや毛糸で編まれた脳細胞を見て不思議な気持ちに

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PDA(病理的要求回避)はASD(自閉症スペクトラム)のプロフィールのひとつ」と言われますが、標準的なASDの支援対策では機能しないことが多いといいます。

英国PDA協会が推奨するアプローチはPANDA:

P(Pick Battles)  やらせたいことを選ぶ

  • ルールは最小限に
  • こどもが選択しコントロールできるようにする
  • 理由を説明する
  • できないこともあると受け止める

A(Anxiety Management) 不安の管理

  • 低覚醒アプローチを使う
  • 不確実性を軽らす
  • 根底にある不安と社会的/ 感覚的な課題を確認する
  • 事前に考えて計画を立てる
  • メルトダウンはパニックアタックとして扱う:一貫したサポートを行い、先に進む

N (Negotiation & Collaboration)  交渉と協力

  • 冷静さを保つ
  • 課題を解決すべく積極的に協力し、交渉を行う
  • 公平性と信頼を主眼とする

D (Disguise & Manage Demands) 要求を隠して、管理

  • 要求は間接的に
  • 常に要求に対する許容範囲をモニターし、それに応じた要求をする
  • 子どもと一緒にやることが助けとなる

A (Adaptation)  臨機応変に

  • ユーモアや気晴らし、目新しさ、ロールプレイを試してみる
  • 柔軟な態度
  • プランBを立てておく
  • 十分な時間を与える
  • ギイブ&テイクの量的バランスを取る

では、具体的にはどうサポートしたらいいのでしょう?

例えば、部屋を片付けさせたい時:

<時間など選択肢を与える/ 柔軟な対応をする>

今部屋を片付けなさい  ⇒  今日は部屋を片付けてみようか? いつやってみる、今それとも後で?

★子どもが何かを要求してきたら、子どもと相談して小さなご褒美を与える

<間接的に言い換える:「~なさい」など直接的な要求は避ける>

部屋を片付けなさい ⇒ 何から片付けたらいいかな? 誰が早く片付けられるか競争しよう!

おもちゃを箱にしまいなさい ⇒ ゲームしようか? 何個おもちゃ箱に入るかな?

★要求されているのではなく、自分で選んでコントロールできるかのような言い方に換える

「色合わせ」をゲームにした具体例:

https://www.instagram.com/tv/Cbrk7S4pkrU/?utm_source=ig_web_copy_link

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PDA(病理的要求回避 Pathological Demand Avoidance)とは?

5月も今日で終わりです。何もしないうちに、またあっという間に時間が経ってしまいました。一時期は初夏の気候になって暑かったのですが、1週間ほど前からぐずぐずの天気に。今日は風が強い雨の一日で、冬に逆戻りした様な肌寒い一日でした。

   今年もまたリージェントパークのメアリー女王の薔薇園に行ってきました。生憎の雨の中、イングリッシュローズが静かに薫って

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イギリスではここ数年の間に、: PDA(Pathological Demand Avoidance 病理的要求回避)という症状名をよく耳にするようになりました。

PDAはASD(自閉症スペクトラム)のプロフィールのひとつと理解されていますが、その研究はまだ初期段階です。ただ、イギリスでは自閉症の診断時にPDAのアセスメントが追加されることも多くなってきているよう。

PDAの子ども/人は、社会的コミュニケーションの困難さや感覚過敏などASDの特徴を併せ持つといわれています。その上で、毎日すべき義務(タスク)を社会的な策略を駆使しながら、異常なまでに避けるというのが特徴。

英国PDA協会(Pathological Demand Avoidance Society)による定義は:

<自閉症スペクトラムのPDAプロフィール>

  • 現在「持続的な困難」と定義されるASDの特徴――社会的コミュニケーションと社会的な相互関係の困難さ、そして制限的で反復的な行動・活動・興味のパターンを――を併せ持つ
  • 多くの場合、一般とは異なる視覚・臭覚、触覚、聴覚、さらに飢えや渇きといった内的感覚などの感覚体験を覚えることが含まれる

上記に加え、下記のPDAプロフィールの多くの主要特性を備えている

  • 日常生活のあたり前の要求に抵抗し、回避する
  • 回避のいち手段として、社会的な策略を使う
  • 社交的に見えるものの、理解力に欠ける――予測よりもっと「社交的」に見えるかもしれない(例えば、より「従来型」に近いアイコンタクトや会話スキルなど)。しかし、これによって根底にある社会的コミュニケーションと社会的な相互関係の困難さが隠蔽されている可能性がある
  • 感情や気分の起伏が激しい
  • 時として極端なまでに、ロールプレイ、ふり、空想に没頭する
  • 多くの場合、度を超えて人に執着する――PDAの場合「反復的または限定的な興味」は社会的な性質のもので、実在または架空の人物が対象となる
  • 自己コントロールの必要性が高い――これは不安、または要求に直面した際の自動的な「脅威反応」によって引き起こされることが多い
  • 支援、子育て、教育における従来的なアプローチに反応しない傾向が強い

About autism & PDA

緘黙児のなかにもPDAを持つ子どもが?

緘黙児にとって「おはよう」や「いただきます」など、毎日の挨拶はとても難しいことです。当たり前のことだからこそ、話すことを期待されていると強く意識してしまう。だから、余計に緊張して言葉がでなくなると考えられます。

当たり前の挨拶をしない――緘黙を知らない人からすれば、「失礼な子」と誤解されてしまいますよね。

言うことが決まっているから簡単と思ってしまいがちですが、うちの息子も学校で声が出始めてから、朝の出欠確認に答えられるようになったのは随分後のことでした。

ただ、日常の挨拶ができないのは緘黙のせいではなく、PDAのケースもあるかもしれません。

イギリスのSLT(言語療法士)、リビー・ヒルさんは、緘黙児の中にもASDの特性を併せ持ち、PDAの症状を持つ子どもがいると警鐘を鳴らしています。

もしPDAの場合は、従来とは異なるアプローチが必要だからです。

(長くなってしまったので、次回に続きます)

場面緘黙と自閉症(その3)SMiRAの立場

イギリスはもうすっかり秋の気候。今日は久しぶりに秋晴れのいい天気になりました。これから落葉樹の梢がだんだんと紅葉していくのが楽しみです。

    雨降りの夕方、東の空にくっきりと円い虹がお目見え。よく見たらダブルレインボウでした。近くの公園でイギリスでは珍しいススキを発見

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場面緘黙の診断に関するSMiRAの立場

a. 診断担当医は、患者がSMの診断基準を満たしていると考える場合、SM(かどうか)の評価を行う必要がある。2018年、ICD-11が発表される前に推奨されていた診断基準は、SMを不安障害として記載していた DMS-5の診断基準でした。ICD-11ではSMを「不安障害または恐怖関連障害」として分類しています。除外疾患として次のものが挙げられます:

  • 統合失調症
  • 幼児の分離不安の一部としての一過性緘黙症
  • 自閉症スペクトラム障害

ICD-11における除外とは、「他(の分野)に分類されるという条件」であり、「ICD内で相互参照として機能し、カテゴリーの境界を定めるのに役立つ」ものです。これはSMとASDが別の障害として分類され、したがって併存疾患として診断できることを意味します。これは「(ASDの経過中)のみに起こるものではない」というDSM-5で使用されている除外の定義とは異なります。

注:解りにくいのですが、DSM-5ではASDの経過中にSMを発症した場合はASDが一次障害として上位診断され、二次障害であるSMは除外されて診断されないことになります。

SMIRA’s position on diagnosis of SM:

a. Diagnosing practitioners should make an assessment for SM where they believe the patient meets the criteria for such a diagnosis.The preferred diagnostic criteria prior to the publication of ICD-11 in 2018 were those published in APA DSM5, which lists SM as an anxiety disorder. ICD-11 classifies SM as an ‘Anxiety or Fear Related Disorder’. It lists as exclusions:

  • Schizophrenia
  • Transient mutism as part of separation anxiety in young children
  • Autism spectrum disorder

Exclusions in the context of ICD-11 are ‘terms which are classified elsewhere’ and which ‘serve as a cross reference in ICD and help to delimitate the boundaries of a category’. This means that SM and ASD are classified as separate disorders and can therefore be diagnosed as co-morbid. This differs from the definition of exclusions used in DSM5 as ‘does not occur exclusively’.

b. 診断担当医は、たとえ他の疾患に対する既存の診断があったとしても、SMについては別個の診断をくだす必要があります。SMiRAではDSM-5の併存診断からSMを「除外」することは、医療従事者とその患者にとって非常に無役だと考えています。これは、特に併存障害がASDの場合に当てはまります。私たちはASDを持つ人はSMの可能性もあると考えており、これはIDC-11の分類を使用すれば〈診断は)許容されます。

このSMiRAの立場は、『場面緘黙リソースマニュアル第2版 The Selective Mutism Resource Manual 2nd Edition』と『場面緘黙支援の最前線 Tackling Selective Mutism』で明らかにされており、後者ではマイケル・ラッター教授(キングスカレッジ・ロンドン精神医学研究所)によって支持されています。

b. Diagnosing practitioners should make a separate diagnosis for SM even if there is a pre-existing diagnosis for another disorder. SMIRA believes that ‘excluding’ SM as a comorbid diagnosis in DSM5 has been very unhelpful to medical practitioners and their patients. This is especially true in the case of ASD. We believe a person with ASD can also be selectively/situationally mute (SM), and this is allowable using ICD-11 classification.

This position is made clear in The Selective Mutism Resource Manual 2nd Edition and in Tackling Selective Mutism, the latter being endorsed by Professor Sir Michael Rutter (Institute of Psychiatry, King’s College London).

SMiRAがこの声明を出しているということは、イギリスでもまだSMの併存診断がつかないASD児がいるということですね…。うちの特別支援学校でも、SMや書字障害などのLD、ADHDを併せ持つ子が大勢います。イギリス国内ではASDの他に、これらも別個の障害として診断がおりているものと思いこんでいました…。

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場面緘黙と自閉症(その2)DMS-5 と ICD-11

今週は雨が降ったり・止んだりの肌寒い天気が続いています。雲の合間に陽が射して青空がのぞく時間もありますが、あたりはもうすっかり秋の空気。学校は始まったものの、まだ最終的な時間割が決まらず、ちょっと中途半端な日々です。

      久しぶりに訪れたハイゲートの森。うちの四季咲きのイングリシュローズは色も姿も儚げ

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さて、前回の続きです。

「現在の規定ではASDとSMの併存を診断できないのか?」という質問に対して、匿名で下記のような回答がありました。

DMS-5 (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders  米国精神医学会が作成する精神疾患の診断・統計マニュアル第5版) においても、ICD-11 (International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems 世界保健機関WHOが作成する疾病及び関連保健問題の国際統計分類 第11版) においても、ASDとSMとが同時に診断することは可能です。ただし、そのためには子供の持つ発話の問題はASDが原因ではないことを確認する必要があります。

DMS-5よりSMの規定の抜粋

The disturbance is not better explained by a communication disorder (e.g. childhood-onset fluency disorder) and does not occur exclusively during the course of autism spectrum disorder, schizophrenia, or another psychotic disorder.

この障害はコミュニケーション障害(例えば、小児期発症流暢症)では説明がつかず、ASD、総合失調症、その他の精神障害の経過中のみに起こるものではない。

DMS-5より(どこに記されているか不明)

Neurodevelopmental disorders Individuals with an autism spectrum disorder, schizophrenia or another psychotic disorder, or severe intellectual disability may have problems in social communication and be unable to speak appropriately in social situations.

ASD、総合失調症、その他の精神障害を持つ神経発達障害の人、または重度の知的障害がある人の中には、社会的コミュニケーションに問題があったり、社会的状況で適切に話すことができなかったりするケースがある。

       ⇑  <上記に対する投稿者の意見>

でも、彼らにSMの症状がある場合、そのコミュニケーション上の問題は別の種類のものだから、ASDだからという理由ではうまく説明ができません。その問題は様々な場面(状況)を超えて持続する、もしくは会話の欠如ではなく会話の内容に関連するかのどちらかです。

ICD-11から

Boundary with Autism Spectrum Disorder and Disorders of Intellectual Development:

Some individuals affected by Autism Spectrum Disorder or Disorders of Intellectual Development exhibit impairments in language and social communication. However, unlike Selective Mutism, when language and social communications impairments are present in Autism Spectrum Disorder and Disorders of Intellectual Development, they are notable across environments and social situations.

ASDおよび知的発達障害との境界:

ASDや知的発達障害がある人の中には、言語や社会的コミュニケーションに問題を抱える人もいる。しかし、ASDや知的発達障害の人に言語や社会的コミュニケーションの障害がある場合は、SMとは異なり、その問題は環境や社会的状況を問わず現れる。

 ⇑   <上記に対する投稿者の意見>

そのため、ASDの子どもが場面緘黙になっている状況でのみ沈黙している場合は、SMとASDの両方を診断することが可能。反対に、彼らが常にコミュニケーションの問題を抱え、その原因がASDである場合はSMの診断はできません。ASDが除外セクションに記載されているのはこのためです(SMと診断する前に、言語の障害の原因としてのASDを除外する必要があるため)。子どもが安全と感じる状況では話し(例:家庭)、不安が強い状況では話さない(例:学校)のはSMに特有な性質で、ASDが原因ではないからです。

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DMS-5の「SMはASD等の経過中のみに起こるものではない」という言い回し、すごく解りにくくないですか? ASD経過中にも起こりうるし、そうじゃない時にも起こりうるということ?

追記:DSM-5では、ASDの経過中にSMが起こった場合、医学的にはASDが一次障害でSMは二次障害という位置づけ。そのため、一次障害のASDが上位診断となり、原則的に併存するSMは診断されないということだそう。

私は高機能ASD児を専門とする特別支援校に8年間勤務しているのですが、ティーンの生徒たちは言語能力が高く目立つ常同行動もないため、一見するとASDだとは分からない子が殆ど。グレーゾーンの子も入れると、学校などで問題が起きなければ、周囲が子どものASDに気づかないということも理解出来るんですよね…。

スレを立てた方の質問は、診察やテストの際にSM児が話さないから診断不可ということでしたが、子どもが家で話している映像を利用したら、少しは手助けになるかもしれないと思ったのでした。

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場面緘黙と自閉症(その1)

もう9月も半ばですね。今年は日本から友達が二人もやってきて、あっという間に夏休みが終わってしまいました。最後の最後に、この夏の課題だった遮光ブラインド作りに着手。やっと完成したんですが、ギリギリになるまで夏休みの宿題をやらなかった学生時代と同じ^^;  なんやかんやでブログをさぼってしまい、前の記事から1ヶ月近く空いてしまいました…。

     

     秋風が吹き始めた中庭に咲く花々。ご近所さんにもらったナスタチウム(?)が巨大化して、あっという間に庭の一角を占拠してます😲

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私がこのブログを始めた2013年頃、イギリスでは場面緘黙(以降SMとします)と自閉症(以降ASDとします)の関連はほとんど取り沙汰されていませんでした。当時はSMとASDの併存という話題も非常に少なかったと記憶しています。その反面、日本では多くのSM児に発達障害が認められると言われていました。

当時、イギリスでは緘黙治療法が進んでいて、マギー・ジョンソンさんをはじめとする専門家たちや緘黙支援団体のSMiRAが全国的な活動を行っていました。そのイギリスで発達障害との関連について議論されていないのに、どうして日本では?と不思議に思っていたのです。

そこで、『日本では発達障害と見なされやすい(1-6)?』という記事で自分の見解を書いた訳です。

ところが、ここ5、6年ほどの間に随分様相が変わりました。SMiRAのFB掲示板でもSMとASDの併存についての話題がぐっと増えてきたのです。

今ではASDとSMが併存することは周知の事実。ただし、これはSM=ASD/ 発達障害ということでは決してありません。ただ、SMの背後に潜んでいるかもしれないASDや他の発達障害、言語の問題等の可能性を慎重に考慮すべきという姿勢になっていると思います。

最近、SMiRAのFB掲示板に特別支援教育の関係者から下記のような質問がありました。

質問者は複雑なニーズを持つ子どもたちを担当。彼女の職場では、子ども達が話さないために5/6歳で行ったASDの診断テストの評価をすることができなかったそうです。子ども達が10、11歳になった現在、心理士達はASDの評価を行うことに消極的なのだとか。その理由が、SMの診断基準ではASDは存在し得ないと規定されているため。両方の診断マニュアルによると、ASDとSMの両方を持つことができないというのです。それで、実際のところはどうなのかと。

この質問に対して多くの反響があり、当事者1人と29人の緘黙児の保護者が「子ども(自分)にはSMとASD両方の診断がおりている」と返答。更に、「SMだからASDの診断ができないというのはおかしい」という書き込みが多くありました。

保護者たちの回答から、子どもたちの診断パターンが2つに別れているのが分かりました。ひとつは幼児期にSMの診断がおりて、複数年後(長くて10年ほど)にASDの検査をして診断がおりたケース。もうひとつは、ASDの診断が先におり、数年後にSMの診断がおりたケースです。SMとASDの診断が同時におりたケースはなく、何故なのか気になっています。別々の専門機関で診断してもらう必要があるんでしょうか?

次回はアメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)DSM5と国際疾病統計マニュアル(ICD 11)におけるSMとASDの規定を比べてみたいと思います。

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