バイリンガルと緘黙(その2)

日本での滞在後半に大きな問題が持ち上がり、ロンドンに戻ってからも心配事が多くてなかなかブログを更新する気持になれませんでした。もし更新を待っていてくださっている方がいたら、どうもすみませんでした。

天気が悪いせいか、年齢的なものもあるのか、通常それほど酷くない時差ボケが長引いたのもこたえました…。夕方5時(日本時間の午前2時)頃になるとめちゃめちゃ眠くなり、夕食後は起きていられないくらいで。家事はそこそこにして早めに眠りにつくものの、朝2時頃目が覚めてしまい、それからほとんど寝付けず…。

ちょっとつらい毎日でしたが、こちらに戻った翌日に眠い目をこすりながら学校に行ったら、子ども達が「淋しかった~!」と抱きついてきてくれたのが本当に嬉しかったです。

さて、ここから本題に入ります。

私が今TAとして働いているレセプションクラスは、東欧から来た移民の子どもが多く、やはり英語よりも母国語の方が得意です(ちなみに、うちの学校では白人系イギリス人はマイナリティー)。

今学期(秋ターム)の前半、全員がカーペットに座って活動する「カーペットタイム」で、輪になって「今朝何を食べたか」を順番に言いあいました。そうしたら、東欧出身の女の子2人が何も言えずにうつむいてしまったんです。担任は何度か軽く促したんですが答えはなく、「じゃ、また次にね」と隣の子に移りました。

彼女たちは、個々やグループのアクティビティでは元気が良い方で、かなりお喋りなんです。だけど、皆の前で発言するのは、誰でも緊張するもの。まして、英語は彼女たちの母国語ではありません…。

次に担任がしたのは、相手の名前を呼んでからボールをその相手に転がすゲーム。この時は、全員がちゃんと声を出すことができました。「友達の名前のみ」+「ボールを転がす動作」で、声を出すハードルが少し下がったんじゃないかな。

毎日のカーペットタイムは、1回20分~30分くらいで1日に4回程度。この時間はクラス全員で国語や算数の勉強をしたり、歌を歌ったり、読み聞かせをしたり、ゲームをしたり(現在は、朝一番にアルファベットの発音を覚えるフォニックス(Phonics)を学んでいます)。この時間を利用して、皆の前できちんと話すという練習も少しずつ重ねています。家庭でのインフォーマルな会話から、学校へのフォーマルな会話への移行ですね。

例えば、「好きな果物は何?」という質問をすると、4~5歳の子どもは「バナナ」、「リンゴ」と一言で答えることがほとんど。担任は「私の好きな果物はーから始めてね」と毎回声をかけ、徐々にきちんとした文章で答えるよう練習させてるんです。

もちろん、最初のうちはひとことでも全然オーケー。文章で言えたら褒めるのは当然ですが、普段声の小さい子が頑張って大きい声を出したりした時には、「頑張ったね」と随時コメントが。担任がひとりひとりの子どもの能力をしっかり把握していて、それに合わせて声掛けをしているのに感心させられます。

秋タームも後半に入った現在では、クラス全員がちゃんと発言できてます。毎日繰り返して「場を経験する」ことで、少しずつ自信がついたみたい。バイリンガルの子も、そうじゃない子も、毎日新しいことに挑戦しながら、場数を踏んで経験値をあげています。失敗することもありますが、「失敗しても大丈夫」と思える雰囲気なんですね。

カーペットタイムは特にインファント(小学校の幼児部・5~7歳)で使われるんですが、カーペットにペタンと座ることで、気安い雰囲気が生まれるように思います。雑談も多くなるし、日本の小学校の雰囲気と比べると、とっても気楽な感じ。これは私だけの感想ではなくて、息子の学校にいた日本人駐在員の子ども達がよく言っていたことです。ちなみに、授業の速度もなんかゆるい感じ(笑い)なんですが、まあ一長一短ですね。

ところで、クラス担任は教師歴3年目で、イギリス人とモロッコ人のハーフだそう。「今までに場面緘黙の子はいた?」と訊いたところ、「一人いたけど、自然に話せるようになったわ」とのこと。彼女の子ども達への接し方、授業の仕方を見ていると、「うん、うん、そうだろうな」と頷けます。

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バイリンガルと緘黙(その1)

バイリンガルの子どもは緘黙になりやすいといいます。正確には、抑制的な気質が強いバイリンガルの子どもが緘黙になりやすいということですが。

たとえ抑制的な気質ではなくても、学校で母国語ではない言語が話されている場合、どんな子どもでもその言語に慣れるのに数ヶ月はかかり、言葉がなかなか出ない期間があるといわれています。

言語の習得は、「聞く」 → 「理解する」 → 「話す」 という順番になるため、言葉が出ない時期があるというのは納得できます。私も英語学校に通っていた頃、最初は聞き取るのに苦労し、その次は理解出来てるのになかなか英文が出てこない時期がありました。文章を組み立てるのに、「日本語」 → 「英文に翻訳」という作業をしていたため、ぱっと英文が出てこなかった訳です。「解ってるのに、言いたいことを表現できない」というのは、かなりフラストレーションがたまる状態でした。

すっと言葉が出てくる頃には、知らないうちに英語のまま頭に入って、自然に英文を組み立てられるようになっているんですね。英語が何となく身につくというんでしょうか。まあ、いつまでたっても、まだまだ感いっぱいですが、言葉の習得って不思議です。

緘黙になりやすい抑制的な気質の子どもは、完全主義的な傾向が強い子が多いようです。気にしやすく傷つやすいため、ほんの小さな間違いにも、激しく落ち込んでしまう…。自分に自信がないんですね。

それに加えて、バイリンガルの子どもは二ヶ国語を同時に習得しなければならないため、ひとつの言語だけを話す子ども達に比べると、少し遅れがあることが多いかもしれません。息子の幼稚園時代(3歳半)の親友は両親とも日本人で日本育ち。やはり息子より語彙が多いし、日本文化に対する知識も深かったです。

繊細なバイリンガルの子どもが幼稚園や小学校に入った際、自分の言語能力に気づいて、引け目を感じてしまうことも頷けます。「できないかもしれない」、「間違えたら恥ずかしい」という気持ちが強く、引っ込み思案になって声が出にくくなるのではないでしょうか?そして、話さないことで身を守り、それが習慣化していく…。

うちの息子は早生まれなんですが、早生まれの子はずらして誕生日順に入学させるというのが学校の方針。9月ではなく、1月の下旬に最後にクラスの仲間入りをしました。そして、初日に帰宅しての第一声が、「僕の英語は皆みたいに上手くない」でした。クラスには外国から来たばかりで英語が全くできない子が数人いて、息子はまだ喋れる方だったんですが…。息子の中では、自分がいちばんダメだったんでしょう。

英語学校に通っていた頃の私自身の体験から、その心情はすごく解ります。先生に指名される以外は、自分から挙手して発言することにかなりためらいがありました。「皆の前で間違えたら恥ずかしい」と自意識過剰になってたんですね。ちなみに、ヨーロッパ系、アラブ系の子たちは、我先にと発言するんです…でも、よく聞いてると、文法が間違ってるし。でも、全然気にしないんですよね。その一方で、アジア系の子たちはテストをすると成績がいいのに、授業中の発言は少ないんです。民族性もあるかもしれませんね。

そういえば、昨年所属するエージェントのTA達と一緒に『発音、言語、コミュニケーションに困難を持つ子どもの支援』というコースを受講していた時、私は極力当たらないように小さくなってました…。学校でのTA実体験が少ないうえ、皆の前で理論的に説明するというのが不可能に感じ(私だけ舌足らずの子どもレベルだった)、劣等感の塊みたいになってたんですね。それでも、レポートでは割と評価してもらえ、お陰様でちゃんと合格できました。

バイリンガルの子どもが、学校でどんな風に語学の苦手感に対処したらいいのか?私が現在TAの仕事をしている小学校にはバイリンガルの子どもが大勢いるんですが、レセプションクラスでは人前での発表や人とのコミュニケーションなど、色々な苦手感を徐々に克服できるような授業をしてるなと、感心することが多いんです。次回はその例をご紹介したいと思います。