どきどきコテージと減感作療法

先週イギリスを含むヨーロッパは、シベリアからの大寒波にすっぽり包まれていました。ロンドンでは水曜日から本格的に雪が降り始め、それほどの積雪はなかったものの、とにかく零下の気温が継続。主人曰く「冷蔵庫の方が暖かい」という感じで、交通はマヒするし、私の学校も休校に…。

少し雪が積もったくらいでどうして混乱するかというと、イギリスではスノータイヤやチェーンがないんです…(例年雪が少なく、道路がデコボコになるのを防ぐため?)でも、スコットランドではかなりの豪雪となり、軍隊が出動して医療スタッフを病院に運んだり、不通になった道路の雪かきをしたり。大寒波にハリケーンが加わったウェールズでは、農家の人たちがトラクターで救助作業に当たったそう。

そんな中、主人と息子はいつも通り通勤・通学し、私だけ木・金と休みでした。先週はどういう訳か人に会う約束が多く、今日はSMiRAの定例会の予定だったんですが、全部キャンセルに…。雪道を運転するのが怖いので、ピラテスのクラスも休んでずっと家に籠ってました。

すごく楽しみにしていたんですが、こういう時もありますよね。気を取り直して、バナナケーキを焼き、大きな鍋いっぱいに野菜スープを煮、小豆とラベンダーのホットアイマスクを作りました。

      水曜の午後は息子のアレルギーチェックでパディントンの病院へ。駅の前を流れる運河も凍結。少々不格好ですが、ホットアイマスクを2個作りました

さて、先回の記事を書いた際、イギリスで放送されたTV番組のことを思い出したので追記します。

もう10年以上前になりますが、イギリスの国営放送BBCで『The House of Tiny Tearaways』というシリーズ番組がありました。様々な問題を抱える子どもとその家族3組が、同じ家で6日のあいだ衣食住を共にし、凄腕心理士のタニアさんの指導のもと、問題を解決していくという内容。

その中で、3歳半の緘黙の少年、チャーリーとその家族が出演。初めはみんなの前で全く声を出せませんでしたが、お母さんをかけ橋役にスモールステップを踏み、最終日には両親がいないところでも他の家族と話せるように!

克服方法はSLTのマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんの共著『Selective Mutism Resource Manual』を元に、マギーさんが提案・助言したもの。スモールステップで克服していく様子を実際に映像で観ることができ(今映像が見当たらないんですが)、すごく参考になりました。

緘黙児(人)の問題は新しい状況に慣れにくいことですが、一定時期を同じ家、同じメンバー(20名以下)で過ごすことが、減感作療法(Desensitisation)となるようです。

日本では緘黙には病院治療が効果的(イギリスにはありません)といわれています。これも、一定期間同じ環境・人・場面が継続することで、減感作療法desensitisationをしているんだと思います。それほど大きくない病棟で、同じ顔ぶれの医師、看護師などのスタッフと、毎日少しずつ「コミュニケーションを取る・話す」ステップを踏んでいく訳ですね。

病院という環境ではなく、どきどきコテージみたいな環境でこれができるといいなと思います。また、親戚の家に泊まりに行ったり、来てもらったりするのも同じ効果が期待できますね。後は、どうやってその人にあったステップを踏んでいけばいいのかかな。

緘黙克服に大きなプレッシャーはNGですが、常に小さなプレッシャー(挑戦)に立ち向かうことが必須です。経験からいって、抑制的な気質の子どもは挑戦を止めてそのまま時間が経つと、以前の状態に戻ってしまう傾向が強い。言葉が出始めていたのに、途中で夏休みが入ったことで、また元に戻ってしまったというような例が多いんです。プレッシャーとは感じないまでも、CBTの感覚で「今日はこれに挑戦してみよう」という目標を持ち、コツコツ実行し続けていくことが大切だと思います。

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身体的な緊張をほぐすには?

自己肯定感を培う

『バリバラ』の続編を観て

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2月も今日で終わりです。ラッパ水仙の一番花が咲き、春の兆しが感じられるようになったと思ったら、シベリアからの大寒気が。先週から最低気温が氷点下の日が続いています。今朝はロンドンも雪景色となり、午後は大雪警報…でも、こういう日に限って外出しなければならない用事がいっぱいという…。

1月下旬に放送されたNHK『バリバラ』の『どきどきコテージ』(前・後編)を観ることができました。

場面緘黙と吃音に悩む全国の若者たちに声をかけ、「コミュニケーションは苦手だけど人と関わりたい」と集まった男女8名。場面緘黙の女性と吃音の男性各4名が、三重県の海辺の町にあるどきどきコテージで2日間を一緒に過ごします。

昨年の場面緘黙特集に出演したユリエさんとサナさんも参加。吃音を抱える男性4名のうち、特に症状が顕著なトモヒロ君が、ムードメーカー的な役割を果たしていました。

1日目は顔合わせと自己紹介、そして2手に分かれての活動。写真が好きで緘黙の本も出版しているエリさんのグループは写真撮影に、もう一つのグループは横並びで釣りに挑戦。が、無言の女性たちに男性たちはどうやって対応していいのか分からず、まだまだぎこちない雰囲気…。

4人という小グループ、「カメラ」という媒体を通じたコミュニケーション、「横並び」という位置関係――こういった作戦いいですね!

緘黙の人は直接顔を見ながらのコミュニケーションが苦手です。人に感情を見られるのが怖くて、自分の気持ちを顔に出せず無表情になってしまう…。反応が薄いため、相手はどうしていいか判らず、「自分とやり取りしたくないんだ」という誤解を与えがち。

ワンクッション置いたコミュニケーションからスタートすれば、安心できますよね。そこから徐々に慣れて、少しずつ顔を見ながらのコミュニケーションに移行できればいいと思います。

1日目の夜、夕食を囲んで和やかな雰囲気にと思いきや、女性たちはとても緊張した様子。緘黙児(人)は人前でものを食べることが苦手なことが多いんですが、症状がひどい場合は「会食恐怖症」(せせらぎメンタルクリニックのサイトで詳しく説明されていました eseragi-mentalclinic.com/deipnophobia/」)だと思います。

イギリスでは場面緘黙を恐怖症のひとつとして捉える考え方が主流になっていますが、会食恐怖症も恐怖症のひとつ。CBTのスモールステップで少しずつ克服していく方法は、場面緘黙の治療法と同じです。

1日目の夜、男性たちはエリさんの本を読むなどして、場面緘黙についてより深く理解します。翌日は、筆記、カメラを通じてなど様々なコミュニケーションを許容し、女性たちのアシスト役に。

写真が好きなエリさんは、自らの写真アルバムを皆に見せ、筆談のスピードも分量もアップ。1日目に自分から話せなくて輪の中に入れなかったマイさんは、「一緒に言おう」と協力してくれた男子のおかげで一歩を踏み出すことができました。ユリエさんとサナさんも自分なりのペースと工夫で参加。

2日目は水族館へ。ここでも二手に分かれて行動しましたが、魚という媒体を通してのコミュニケーションはかなり和んだいい雰囲気に。最後に一緒にピザを作って食べる過程も、前日よりスムーズでグループとしての一体感ができていました。女性たちを気遣う男性たちの目が、とても温かかったです。

1泊2日はちょっと短いかなという気がするので、彼らが今後も個人的なお付き合いをしていけたらいいですね。

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身体的な緊張をほぐすには?

自己肯定感を培う

自己肯定感を培う

ふと気づけば、既に2月も半ば過ぎ。バレンタインデーももう終わってしまいましたね。

2018年の出だしは、受験生君がクリスマス休みからインフルで体調が悪く、赤信号のスタート。元々家で全く勉強しない/できないうえ、授業も休みがちになってしまいました。やっと治って通常運転になったと思ったら、2学期のハーフタームに突入。その間、確定申告や他の仕事が入って、気持ち的にアップアップ…。

ということで、前回の投稿からずいぶん時間が空いてしまいました。

さて、前回の続きです。緘黙のために身についてしまった無表情や身体の緊張を、まず家で改善できないか?――家では普通に話してるんだから、関係ないと思われるかもしれません。

でも、緘黙の人にとって、家は唯一普通の自分でいられる場所。いわば陣地です。身に着けてしまった自分を守る殻を、いきなり外で破るのはハードルが高いですよね。まず、陣地で「自分を認める」「自己肯定感を持つ」ことから始めるのがいいと思うんです。

まずは、自分を認めて好きになることから。「私は大丈夫」「なんとかなる」という基盤がないと、何をやっても不安がつきまといます。最近つくづく思うのですが、自分という存在がこの世に生を受け、今ここにいるってまさに奇跡。誰かに廻り遭うのもそうとうな奇跡ですよね。だから今ここにいる自分を大切にして欲しいです。

1) 自分に優しく

私には、自分は「すごく内向的」と宣言している友達がいるんですが、実は彼女の仕事は大勢の会社役員や大企業のビジネスマン・ウーマンを相手に講義したり、指導することなんです。自分の内向性と対峙するため、今までに様々なセラピーを試してきたそう。以前、SE(Somatic Experiencing ソマティック・エクスペアリエンシング 体細胞療法)について書いたのですが(『出生時のトラウマ体験と不安になりやすい気質』をご参照ください)、彼女がSEについて興味深いことを教えてくれました。

SEは主にトラウマの解消に効果的といわれていますが、彼女は「自己調勢力」を養うことを学んだそう。

「自己調勢力」というのは、簡単にいうと「心のバランスを調整する力」という感じでしょうか。例えば、落ち込んでいる時って気持ちがネガティブになりますよね?そういう時に、天気が悪いと余計に気分が落ち込んだり、家族のふとした言葉が気に障ったり…。すべてが自分に反するように感じて、負のスパイラルに陥りがちです。

(特に、不安の強い人は、悪い方へ、悪い方へと考えがちじゃないでしょうか?私自身その傾向があって、被害妄想気味でした)。

悩んでいる時に、何故こうなってしまったのか?どうして自分が?--などと嘆いたり、原因を追究するよりも、まず心を落ち着かせて、居心地をよくすることが大切だと。

少しでも気持ちを楽にするために、お気に入りの音楽をかけたり、好きな飲み物を作ったり。ペットの猫を抱っこしたり、好きなものに囲まれて、心の持ちようを変えてみるんだそうです。

滅入った気分はいつか自然に晴れますが、ただ待ってるだけでは先が見えません。誰かに慰めてもらいたくても、そういう時に限ってあまり声をかけてもらえないことが多いし…。というのも、内向的な人って自分自身の問題を人に打ち明けられない傾向が強いように思うんです。そういう点では、かなり損してますね。

「自分なんかダメだ」から、「なんとなく大丈夫かな」になれたら、問題を違う角度から見ることもできるはず。心が落ち着いていると視野も開けてくるし、チャンスが来た時にすぐ動けると思うんです。

2) いつもより積極的に

自分から家族に話しかけたり、いつもより長く話したり、家事を手伝ったりして、コミュニケーションを多くとりましょう。また、アプリや電話を使って声を出す練習をしてみてください(過去記事『声を出す練習を』を参照してください)

3) 大声で歌ってみる

おもいっきり大声で気持ちよく歌ってみましょう。大音量で音楽をかけられる状況だったら、一緒に歌っても恥ずかしくない?安心できる人(兄弟姉妹や親)と一緒にカラオケに行ってみるのも楽しいかも。

4) ひとりで外に出てみる

まずはコンビニやスーパーでの買い物など、外に出る機会を多く作りましょう。家族に声をかけて、一緒に外出してください。知り合いに遭遇することが怖いかもしれませんが、会釈できればOK。犬を飼っている方は、散歩係を引き受けてみては?少しずつ行動範囲を広げていくことで、自信がついて次のステップに進みやすくなると思います。

またとりとめのない文章になってしまいましたが、もう春がそこまで来ています。早春の花々の生命力を見て、感じて、パワーに変えたいですね。

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『バリバラ』を観て--身体的な緊張

身体的な緊張をほぐすには?

身体的な緊張をほぐすには?

NHK Eテレの『バリバラー場面緘黙編』を観た後、身体的な緊張をほぐすにはどうすればいいのか考えてみました。

緊張すると喉が閉まったような感じになって、体までいうことをきかなくなる…。そんな体験を重ねる毎に、話せず動けない自分が人にどう見られているかが怖くて、人と接する機会を避けるようになってしまう。

緘黙で苦しんでいる本人は、普通に人と接して話したい・友達を作りたいのに、ものすごく理不尽な状況ですよね…。

でも、事情を知らない人は、無言・無表情で身体を固くしている緘黙の人に、正直どう対処していいのか分からないんじゃないでしょうか?自分が受け入られていないように感じ、それこそ不安になって、そのシチュエーションを回避しようとするかもしれません。「この人は私と接したくないんだ」と誤解されることも多いかも…。

だからこそ、場面緘黙がもっと一般に広まって、もっともっと理解が深まることを願わずにはいられません。ひとりでも普通に接してくれる人が傍にいれば、周囲の見方や反応も変わってくるはず。

それにしても、緊張による無表情やぎこちない身体の動きを改善する方法ってないものでしょうか?

番組を観ていて、人と接する時の緊張度が低いほど、顔の表情やふるまいがより自然な感じになるのが判りました。人前で恥ずかしそうに黙っているのと、無表情でカチンコチンに固まっているのとでは、印象が随分違ってくると思うんですよね。

たとえ無言でも、「あの人感じいいな」と思ってもらえれば、相手の態度も違ってくるんじゃないでしょうか?

緘黙のために身についてしまった無表情と身体の緊張を、なんとか家で改善する方法はないものかと、色々探していたところ、次のような動画に巡りあいました。

ご存知かもしれませんが、大愚元勝という和尚さんの人生相談です。

ひとつめは、ほぼ引きこもりでニートの女性へのアドバイス。

話すことだけがコミュニケーションではなく、ボディランゲージ、絵を描くこと、歌うことなど様々な表現方法があるという言葉に、ハッとさせられます。

また、できないこと・持っていないものばかり追うのでなく、今できること・持っているものを磨くことを提案しています。

うまく話せなくても、素敵な笑顔があれば、思いやりのある手紙が書けばそれでいいと。処方箋として、鏡の前で笑う練習をすること(動画の10分あたりから)をあげています。

実は、私もこれを実行していた時期がありました。

息子が赤ちゃんだった頃、夜泣きが酷くていつも機嫌が悪く、母親の私の方が相当参ってました。睡眠不足で疲れはててしまい、一日を乗り切るのが精いっぱい。当時は、めっちゃ暗い顔をしていたと思います。

相談した保健婦さんのアドバイスは、「息子さんはちゃんと育ってるし、こんなに可愛いじゃない?あなたはよくやってるわよ。毎日鏡を見て、にっこり笑って自分に『頑張ってるね』って言ってあげて」というもの。

で、実際にやってみたら、ほんのりと暖かい気持ちになれたような…(息子の夜泣きは睡眠スペシャリストに相談したり、専門書を読んで、なんとか解消)。自己暗示かもしれませんが、一定の効果があったと思ってます。

気休めかもしれないし、何も変わらないかもしれませんが、気は持ちよう。まず試してみては?大愚和尚は、特に「女の子は」と言ってますが、男の子も是非試してみてください。

ふたつめは、何もしていないのにイライラのはけ口にされるという30歳の女性へのアドバイス

緘黙の人と状況は違うのですが、毎日5分正座をすることによって、身体を変える(22分あたりから)ことを提案しています。

私は昨年からピラテスを始めたんですが、やっているうちに姿勢が良くなったように感じています。みなさん若いんだから、試してみる価値大ありです。

みっつめは、精神的な多汗症に悩む18歳の男子高校生へのアドバイス

こちらも状況は全く違いますが、その元凶は不安です。自分の身体に起こることのしくみ(なぜ緘黙状態になるのか)を理解し、緊張した時にはそのことを考えるのではなく、何か別のことに集中することが問題の解決になるのではと説明しています(15分あたりから)。

大愚和尚さんの言葉、とても愛情がこもっていると思います。話だけでも聞いてみてください。

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『バリバラ』を観て--身体的な緊張

『バリバラ』を観て――身体的な緊張

明けましておめでとうございます。

えっ、もう2018年になっちゃったのか~という感じで始まった新年、もう6日目に入り、今日はクリスマス飾りをかたづけました。

そして、仲間の好意で昨年10月に放送されたNHK Eテレの『バリバラー場面緘黙編』を観ることができました。

10~20歳代の、いわば大人(ひとりは学生)の当事者さんと経験者さん計4名が出演。番組では長期間緘黙で苦しんだ・苦しんでいる人の問題が浮き彫りにされたように感じました。

私の印象に残ったのは、「話せないこと」よりも、身体的な緊張です。

不安や緊張を隠すため(?)に長年身に着いてしまった無表情な顔、そして委縮した身体の不自然な動き…。

無表情だから、困っていてもあまり困ったように見えない…。手足や体の動きがぎこちなくて、話さないことよりもそれ自体が目立つような…。

緘黙のせいで「話せない」だけでなく、他人と接する場面で身体が思うように動かなくなってしまう――そのため外出したり、誰かと会うこと自体が怖くなり、家の外に出ること自体を避けるようになってしまう…。社会生活と直結しているだけに、ものすごく深刻です。

出演したのは、母親と祖母としか話せない加藤さん(男性)、小学校時代に緘黙で今も雑談が苦手な田中さん(女性)、学校ではほとんど話せないほのっぴさん(女性)、外ではほとんど話せない遠藤さん(女性)。

学校や外でほとんど話せないのに、明るいライトに照らされたスタジオで、大勢の人の視線を浴びながら自己紹介?!

と思いきや、ほのっぴさんも遠藤さんも、少し時間はかかりましたが声を出すことができて大感動!

みんなが固唾をのんで見守る中、ものすごい勇気だなと思いました。

きっと、出演者たちの中で「変わりたい!話せるようになりたい!」という気持ちがめっちゃ強かったんだろうなと…。

自己紹介したとき、司会者たちの方を見られたのは、緘黙経験者の田中さんだけでした。

番組冒頭で普段の様子を取材された加藤さんは、音声アプリを使用。無理に声を絞り出そうとはせず、自分が「これなら出来る」と安心できる方法でコミュニケーションしました。

彼は新聞配達の仕事や講演会などの啓蒙活動もしていて、チャレンジ精神がすごいです。まず自分ができそうなことから始めて、行動を広げてきたようですが、そこでは得意のケン玉が大いに役立っているとのこと。やはり好きなこと・得意なことがあると強いですね。「好き」「やりたい」というエネルギーが、緘黙の殻を破る力につながるんだと思います。

専門家の高木先生が言われるように、同じ場面緘黙でもひとりひとり本当に違います。「この人ができるから私も、うちの子も」という訳にはいきません。

声を出せそうな人は音声アプリに頼らない方がいいと思うのですが、音声アプリで自信を得てから、声を出すことに挑戦という人もいるでしょう。信頼できる人に協力してもらい、自分の緘黙・不安状態をしっかり把握することが大切だと改めて思いました。そのうえで、その人に合う方法で少しずつステップアップしていくのが一番かと。

加藤さんの場合は、自宅でも、勤務先の新聞販売所でも、スタジオでも、カメラの前では笑顔は見られませんでした。小学低学年までは話せたそうですが、緘黙になった当時は朝自分の席に座ったら、トイレも行けず、給食も食べられず、一日中ずーっとそのままの姿勢で過ごしたとか…。完全な緘動状態で、毎日緊張でヘトヘトだったのでは?

小学校高学年になると自意識が強くなり、他人の目が気になります。「みんなに変に思われる」と余計に緊張しがち。そのため、緘黙・感動状態が定着する傾向が強くなってしまうのです。

彼の中で、人に声を聴かれることと同じように、感情を外に出すことが一番怖いのかもしれません。母親と二人きりで会話しているシーンでは、言葉が普通にでるだけでなく、身体の動きもずっと自然です。そこに取材スタッフが入ると、すっかり固まって手や腕の動きまでぎこちなくなる…。

そんな彼が、新聞配達の仕事を3年間続けて周囲の信頼を得、講演会や啓蒙活動を通して大勢の人と接しているのは、本当にすごいと思います。

ところで、新聞販売店の所長の「加藤君は大事な戦力」という言葉――本人はもちろん、緘黙の人やその保護者たちにも本当に希望が持てて嬉しいですよね。

どんどん自信をつけて、緘黙克服の力をため込んで欲しいです。

一方、ひとりでの買い物に挑戦した遠藤さんは、自宅で母親が隣にいる状態だと、緊張もそれほど強くないよう。言葉も出やすく、表情も和らいで笑顔に近い…。話すとき、スタッフと視線を合わせているな、というのが判ります。

買い物チャレンジでは、すっとお店に入って店員に会釈も。ただ、事前の分析で緊張レベル2(ふつう)と思っていた「服を選ぶ」行為が、実際やってみたら最難関のレベル5だということが判明。でも、スタッフの所にきて首振りでやり取りしている遠藤さんの緊張度はそれほど高くないように見えました。

急遽、服を決めることだけ母親と一緒にしたのですが、母娘で歩いている時はほっとして嬉しそう。服を決めた時言葉が出て、ひとりで試着した後に店員さんに笑顔で「大丈夫です」と言えました。

新しい洋服、とっても似合ってましたね。

気に入った洋服を手に入れるというワクワク感が、不安に勝ったように見えました。これからも、ひとりでお買い物したり、カフェに入ったりする挑戦をどんどん繰り返してステップアップして欲しいです。もし不安が強い場合は、最初だけお母さんにお店の外で待っててもらったり、店の近くにいてもらえばいいんじゃないかな。

和らいだ表情だと、周りの人も親しみが持てて、とっつき易いですよね。

次回は、どうやったら身体的な緊張をほぐせるか考えてみたいと思います。

サキ君の動画について(その5)-緘黙とエクスポージャー法-

サキ君は緘黙を克服するにあたり、まず心理士に会いに行きました(動画の7:42分あたりから)。緘黙を克服するために、専門家のアドバイスを求めたんですね。

場面緘黙の克服には、認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)が効果的といわれています。特に、CBTのひとつであるエクスポージャー法(暴露療法 exposure)を用いるのが一般的。緘黙を恐怖症と捉えると、恐怖症の改善に有効なエクスポージャー法を用いるのは、理にかなっています。

イギリスの国民保健サービス、NHSのサイトでは、エクスポージャー法を次のように説明しています。

エクスポージャー法は、秩序だった体系的なアプローチによって、不安を引き起こすものや状況に向き合うことを学んでいく方法。不安を感じるものや状況をリストアップして順番をつけ、最初は不安度の低いもの・状況から始め、不安度が下がるまで何度かリピートしたら、順番に難度をあげていく。

認知行動療法という名前をきくと、何やら難しげ…。やはり心理士とのセッションが必須なのかなと思ってしまいます。でも、実は多くの人が取り組んでいるスモールステップこそが、エクスポージャー法なんです。素人でも理論とやり方さえ把握すれば、自己流でどんどんエクスポージャー法を実践していけると思います(ただし、他に何らかの問題を抱えている場合は専門家に相談する必要がありますが)。

病院やクリニックで心理士と信頼を築き、指導してもらうのもひとつの手段だと思いますが、場面緘黙が起こる現場は学校。学校で話せるようにするには、やはり学校内でのエクスポージャーが必要になってきます。伴走者として専門家のバックアップがあれば心強いですが、子どもの全体像を一番把握している保護者が、教師と協力してその子に合うステップを考え、実行できればベストなんじゃないでしょうか。ちなみに、イギリスでは緘黙治療を担うのは、言語療法士やTA(教育補助員)が中心です。

サキ君も心理士のアドバイスを元に、「自分に合う」エクスポージャー法を編み出しています。彼の場合は、まず普段より多く両親と話すことからスタート。日常的に話していても、自分から話しかけたり、その日の出来事について色々喋るのは苦手だったようです。その苦手を少しずつ克服することで、街に出て見知らぬ人に話しかける勇気が出てきたんじゃないでしょうか。学校内での取り組みは、いくつかの段階をクリアしてからの最終段階。最初は場所と人を設定しておいて「”ハイ”とひと言だけ声をかける」という小さな挑戦からスタートしたのが、成功の秘訣だったのではと思います。

息子の場合は、お店で好きな品をひとつ買って自分でお金を払うことから始め、「ありがとう」と言えるまでをスモールステップで練習しました。ちょっと遠くの大きなスーパーからスタートし、徐々に近所の小さなお店に移行。当時大流行していた『Dr Who』のカードを手に入れるため、かなり頑張れたと思います。楽しみがあると、子どもも抵抗なく挑戦できそう。

ひとつ注意したいのは、緘黙児には抑制的な気質の子が多いので、少し間が空くと元に戻ってしまう可能性があること。せっかく学校で進歩したのに、長い休みの間にできなくなってしまったケースも…。頻繁にステップを繰り返していると、自発的に挑戦できるようになってくるので、そこまでしっかり続けてください。

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サキ君の動画について(その1)

サキ君の動画について(その2)

サキ君の動画について(その3)

サキ君の動画について(その4)

 

サキ君の動画について(その4)-家庭での会話の大切さー

幼少の頃は両親しか話せる人がいなかったというサキ君(動画の1:20分あたり)。学校で話さなかった9年間も、やっぱり親が一番の話し相手だったようです。学校や家庭外で話せないからこそ、家庭での会話やコミュニケーションを増やし、楽しい体験を積み重ねて自信を培うことが本当に大切になってきます。

といっても、保護者は忙しい一日の終わりに、家でほっと一息つきたいという気持ちが大きいですよね。子どもも宿題をしたり、塾に行ったり、TVを観たり、SNSで友だちとやり取りしたりと忙しいし--自分の部屋に閉じこもりがちなティーンも多いかも…。平日家族が集って話す時間といえば、夕食時かTVタイムくらいでしょうか?

緘黙の子どもに「今日は学校(園)どうだった?」と訊いても、あまり反応が返ってこないかと思います。5歳に満たない園児でも、「黙っていることは悪いこと」「自分は他の子と違う」と感じているよう。ちなみに、うちの息子は昔から園や学校の事を話したがりませんでした。でも、何かきっかけがあると、訊いてもいないのに色々ペラペラ喋りまくるのです。自分のことじゃない方が、話しやすいんですね。

食事を囲みながら、子どもが興味を持ちそうな話題をあげてみてはどうでしょう?例えば、好きなタレントやキャラ、ゲームのこととか(兄弟姉妹がいる場合は、発言のチャンスをふってあげる必要があるかもしれません)。家族で楽しくダベリングする時間は緘黙の話題はNGかな。その代わり、短くてもいいので子どもと2人きりの時間をとって、様子を見ながら話してみてもいいかもれません。

それと、話をする際はなるべく長い会話を引き出せるといいですね。子どもが何か言ったら、「うん、うん」「それ面白いね」「それで、それで?」など、相槌をうって子どもの話に興味をしめしながら、話を聴いてあげてください。子どもが次に何か言うまで10秒くらい待って、もっともっと言葉を引き出せるよう、何気なく促すようにするといいと思います。

私がイギリスで子育てしてみて感じたのは、「理屈っぽい子が多いなあ」ということでした。英語には丁寧な言い方や単語はありますが、日本語のような敬語体系はありません。なので、複雑さは別にして、だいたい大人と変わらない言葉遣い。言語構造上、英語だと文章をきちんと言わないと意味が通じないことが多いので、小さい子でもけっこう長い文章で話すんです。

それと、日本のように「察する文化」ではないので、自分の意見を言わないと「この人は何も言わないからこれで満足しているんだ」と思われてしまう。子どもでも、自己主張をすることが求められる訳です。自分はこうしたい、こう思うとハッキリ言わなければならないのもあって、なんか理屈っぽくなるのかなと…。

これに反して、日本語は主語や目的語、助詞などを省略しても意味が通じます。特に、気心がしれた家庭内では、短い単語だけで充分解り合えてしまう。それほど言葉で説明する必要がなく、また、あまりキチンと言うと返って角が立つのが「察しの文化」なんですね(その分、場の空気を読めないと、まずいことになりがちですが…)。

この前も触れたのですが、私は2年ほど前に『話し言葉、言語、コミュニケーションに困難を持つ子どもの支援(Supporting Children with Speech, Language & Communication Needs)』というコースを受講していました。「話し言葉」の課題で、当時13歳だった息子と友だちの会話をモニターして分析したんです。13・14歳の標準は、ひとつの文章が7~12単語で構成され、相手によって丁寧語やスラングを自在に使い分けられるというもの。

人がいくつの単語からなる文章で話してるかなんて、それまで全く考えたことがありませんでした。で、録音した会話を分析してみたら、全部ではありませんが、標準に近い単語数で話していることが判明。「えっ、私と話す時もそんなに長い文章で話してたっけ?」そう思って、主人と息子の会話に耳を傾けてみたら、文章が結構長くて専門的(PCやITに関する会話が多い)なのでした…。私と話してる時と比べると、なんか大人っぽい。もしかして、私との会話では、私の英語レベルに合わせてるのかも…(恥)。

緘黙の子どもたちは、一日の大半を過ごす学校で会話の実践練習ができません。頭で考えたことを、実際に口に出して話術をみがく機会が、普通よりかなり少ないんです。だからこそ、家庭でいっぱい話して欲しいです。親もなるべく単語を省略しない文章を使って、毎日楽しいダベリングタイムを持てるといいなと思います。

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暖冬だと思っていたら、もう1月末からスノードロップもクロッカスも水仙も咲き始めました。

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サキ君の動画について(その1)

サキ君の動画について(その2)

サキ君の動画について(その3)

 

サキ君の動画について(その3)-自分を信じる強さー

私はこの動画を訳していて、サキ君の学校に驚いてしまいました(動画の15:10分あたりから)。場面緘黙で9年間も話せていない生徒に、『絶対しゃべりやまないで』賞を授与しようなんて、日本の学校だったら思いもつかないでしょう。下手をしたら、保護者から訴訟を起こされかねないのでは…。

サキ君に訊いてみたところ、事前に学校側から打診され、快く承諾したのだとか。「まあ、受け狙いだよ。学校も授賞式を盛りあげなきゃいけないからね」とクールな対応。受賞のために壇上にあがったら、みんなにヤンヤ言われることは承知していた訳ですね。

サキ君がすごいと思うのは、場面緘黙に対する皮肉も軽いジョークと受け流せていたこと。普通、抑制的な気質の人って、ものごとをネガティブに考えがちですよね?実は、私もそういう傾向が強い方で、私がサキ君だったらめちゃくちゃ凹んで、学校に行くのが嫌になっていたかもしれません…。ましてや、話さないことで嫌がらせをする同級生もいた訳ですから。

きっと本人は、心のどこかに「自分は大丈夫」という自信を持ってたんじゃないかな?ミスイングランドのカースティさんに会った時も、「自分はどこも変じゃない」とずっと思っていたとききました。生まれ持った性格もあるかもしれませんが、お母さんは一体どんな育て方をしたのかなと感心します。以前、カースティさんのお母さんにその質問をしたら、「この子はこういう性格だから大丈夫」と大きく構えていたそう。子どもへの信頼がすごいですね。私なんか何かあるごとに「大丈夫かな?」とユラユラ揺らいでいたので、見習わないといけません。

ちょっと照れるかもしれませんが、親は子どもに緘黙で辛いのは解かっていること、自分が味方だということを、時々口に出して言った方がいいような気がします。態度で判るとはいえ、言葉で言ってもらえると、やはり嬉しいし、安心できると思うので。

サキ君のお母さんは息子が話さないこと(社会性がないこと?)に関しては、とても心配して手を尽くしたようです。でも、息子がティーンになってからは学校で話すことを話題にしなくなり、そのままの状態になっていたとか。だから、サキ君は自分から「話したいから心理士に会わせて」と親に切り出したのです。

自ら緘黙の克服に動き出した際、親も学校も素早く対処してくれたようですね。きっとそれまでは、「現状でOK。無理に改善させようとしない」という環境だったのでしょう。外部の心理士を巻き込んで、専門家に学校と交渉してもらうことで、うまく支援体勢が整ったのかなと思いました。

特に、年齢が上の子の場合、取り組みをする際に最も重要なのは本人の意思。周りがいくら頑張っても、本人のやる気と努力がなければ、目標を達成することはできません。自分が主導権を握り、納得しながらステップを踏んでいくことで、成功体験を実感しながら重ねることができ、それが達成感と自信につながっていくのだと思います。

ところで、サキ君が変わろうと決意した大きな理由は、「色々な国を旅したい」という夢だったんだろうなと想像していたところ、実は違っていました。それよりも、「もうこんな状態ヤダ!早くみんなと同じようにになりたい!じゃないと、もうヤバイ!」という、高校卒業が視野にはいってきた危機感の方が大きかったそう。そして最後に、「ガールフレンドも欲しかったし」と照れ笑いしながら追加。そうだよね~青春を楽しみたいのは誰も同じですよね。そして、誰もが悩み自己を確立していく時期。だからこそ、思春期まっただ中の緘黙はより複雑なんだろうなと思います。

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サキ君の動画について(その1)

サキ君の動画について(その2)

 

サキ君の動画について(その2)-友達の大切さ-

 

サキ君の動画を観て、次に気になったのは学校生活と友達関係です。幼少の頃は友達遊びが全くできず、両親としか話せなかったという彼。それが、緘黙だった9年間の学校生活ではちゃんと友達がいたということ。どの時点で、どうやって友達付き合いができるようになったのか――本人も覚えてないかもしれませんが、とても興味深いです。

サキ君の第一印象は、オージー出身の人には珍しく(過去の経験から、そういう偏見がありました…汗)、ちょっとナィーブで控えめな好男子というもの。自分のことばかりでなく、ちゃんと相手の話を聞き、気を遣ってくれる――近づきやすいソフトな雰囲気を持っていました。何回か会った後も、その印象は変わっていません。

多分、緘黙を克服する前も、サキ君の人柄はそれほど変わってないんじゃないかな。だから、クラスメイトも親しみやすかったと思うし、サキ君も環境に慣れて徐々に心を開くことができたのではと推測しています。担任や学校も、しゃべらない部分を含めてサキ君を受け入れていたよう。担任の対応次第でクラスの子どもたちの態度が変わってくるので、先生の姿勢が学校生活の要になってくるんじゃないでしょうか?

(しかし、サキ君自身が書いて筆談するのではなく、補助員が間に入って筆談で周囲とコミュニケーション? 補助員にはどうやって自分の気持ちを伝えてたんでしょう?――具体的にどうしていたのか、今度訊いてみたいと思います)。

話が飛びますが、「場面緘黙は小学校低学年までの方が治りやすい」というデータが出ています。これは、小さい子どもほど、物事をありのまま受け止めることができるから。よく「9歳の壁」といいますが、まだ他人をあまり意識しない時期だからでしょうね。「この子はこういう子」と自然に受け止め、全て抱擁するパワーを持っています。

私の息子は小学校のレセプションクラス(4-5歳)に入った後、2、3週間経ってから緘黙・緘動を発症しました。現在は変わりましたが、息子の学校では誕生日順に時期をずらせて入学させるという方針。早生まれで一番最後に入学した息子は本当に小さく幼くて、おしゃまな女子に抱っこされたり、お世話されたり(笑)。ある日、「なんで○○君は(課題を)やらないの?」と子どもが先生に訊ねているところに遭遇したら、若い担任は「○○君は(心の)準備ができたときにやるから、いいのよ」と当然のように即答。子どもは納得したように去っていき、私はその対応にいたく感心したのでした。

さて話を戻して、動画の18:13分、学校での取り組みをステップアップさせたあたりから、彼の学校生活の様子がうかがえます。昼休みはクラスメイトと一緒に行動せず、ひとりで図書館やスクールカウンセラーのところにいたと語っています。友達と交わらないで、どうやって交友関係を保っていたんでしょう?

本人に直接訊いてみたところ、短い休み時間は教室にいて、仲間と一緒に過ごしていたそう。だから、いつもひとりでいた訳じゃなく、ちゃんと友達付き合いがあったんです。学校行事やイベントがある時は、彼らと行動をともにしていたので、動画で話している学校主催のパーティーにも一緒に出かけたんですね。しかし、親しい仲間はサキ君が急にしゃべり始めて、本当にビックリしたことでしょう。

クラスで孤立せず、仲間がいて自分の居場所があると感じられたことで、それほど深い孤独や劣等感・絶望感を持たずにすんだのかなと思います。人それぞれなので、同じ立場でも違う風に感じる緘黙児もいるかもしれませんが…。話さなくても友達がいることが、心の安定だけでなく自信にもつながったんじゃないでしょうか。

もう2年以上前になりますが、私は『話し言葉、言語、コミュニケーションに困難を持つ子どもの支援(Supporting Children with Speech, Language & Communication Needs)』というコースを受講していました。話し言葉、言語、コミュニケーション・スキルの発達は、子どもが16歳くらいまで続くのです。緘黙児は黙っているので話す機会がないからこそ、友達同士の会話やコミュニケーションを身近で見る・体験することがすごく重要だと思います。

よく「緘黙の後遺症」という言葉を耳にしますが、職場で仕事のやり取りはできても、複数の人との何気ないおしゃべりが苦手という元緘黙の方も多いのです。なぜ三人以上のダベリングが難しいかというと、話題が決まっていない上に、自分がどこでどんなことを言えばいいのかを瞬時に判断して、会話に参加する必要があるから。場の空気を読んで、複数人の相手の反応をみながら、タイミングよく適切な態度で適切なことを言う――何気ないようでいて、実はとても高度な技術が必要です。

子どもには子どのも世界があって、流行の言葉や話題が常に変化していきます。それは大人が家で教えられるものではありません。特に、話し言葉やコミュニケーションの力は、実践によって培われる部分が大きいので、友達の存在は本当に大切だなと思います。

追伸:日本もアメリカも記録的な大雪に見舞われているようですね。どうぞお気をつけて。ロンドンは先週末まで冷え込み初雪が降ったのですが、それからまた暖冬に戻っています。

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先週日曜の風景。地面の雪はすっかり溶けてますが、雪ダルマくんは頑張ってます

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明けましておめでとうございます

サキ君の動画について(その1)

 

サキ君の動画について(その1)

前回の記事で、場面緘黙のために小3の頃から9年間学校で全く口をきかなかったサキ・ギャラクシディス君の動画をご紹介しました。多くの方が観てくださっているようで、ありがとうございます。実は、昨日本人がたまたまロンドンに来る用事があり、ついでにうちに寄ってお茶を飲んでいきました。3年前の自分を見返すのは恥ずかしいと言いつつ、緘黙に苦しむ日本の人たちの役に立てたらと喜んでくれました。この動画について少し説明したいことがあるので、ブログの先頭にあげてあります。

サキ君の家族は、祖父母の代にギリシャからオーストラリアに移民。彼はオーストラリアで生まれ育った、ギリシア系のオーストラリア人です(二重国籍を持っているので、ギリシャ人でもあります)。そのサキ君がイギリスにいると偶然知ったのは、昨年の夏のこと。マギーさんの講演で彼の動画を観て以来とても気になっていたので、「おお、これは何かの啓示かも」とコンタクトを取ったのでした。以来、時々連絡を取り合っています。

高校で話すようになったサキ君は、進学や就職は全く考えず、文字通り世界に飛び出したそう。アマゾンのジャングルやシベリア鉄道の旅をはじめ、アメリカやヨーロッパ諸国など色々な国を周ったようです。多くの場合、訪問した国のホテルなどで住み込みのバイトをしながら、次の冒険の資金をかせいだとか。現在は湖水地方のホテルで働きながら、休みを利用して各地を訪れています。

旅先からの写真を紹介するサキ君のインスタグラム:https://www.instagram.com/sakitraveller

彼はギリシャのパスポートも保持しているので、EU内の移動や就労の問題はありません。世界中どこに行っても英語は通じるし、かなりラッキーですね。でも、自分で仕事を探してお金を稼ぎ、行ってみたい国々を旅するのは、ものすごいガッツと行動力です!

実は、昨年夏に湖水地方に行く前に、うちに2晩泊まっていったのです。その時は、まだバイト先も宿泊先も全く決まってなくて、コーチも電車も予約していませんでした(当日券だと高い)。本人は「ホテルやユースホステルなどの住み込み仕事を斡旋するサイトがあるから大丈夫」と余裕たっぷり…。最終的に、何も決まらないまま「湖水地方に行ってみる。仕事がなかったら、知り合いを頼ってエジンバラに行くよ」とロンドンを後にしました。

ちなみに、移動には素人による個人タクシーのサイトを利用――これは、車で移動予定の普通の人が、同じ日に同じ目的地まで行きたい人を格安の値段で乗車させるというもの。全然知らない人の車に乗っても大丈夫なの?と心配していたら、感じの良い若い男性が、購入したばかりのピカピカの新車でやって来ました。仲良く話しながら出発する二人を見て、感心することしきり。これが9年間も話さなかった人かと思うと、感慨深いものがありました。サキ君は因習や既成概念に捕らわれない強さと、人を思いやる優しさを持っている人だと思います。

さて、動画の内容についてですが、3分55秒のところで、最後までいた小学校の説明があります。「そこでは普通の子と一緒だったけど、僕は全くしゃべらなかった」――「普通の子」という表現が気になって質問してみたら、社交性のなさが問題視され、幼少期にアスペルガー症候群と診断されたとか…。本人は、「最新のDSM-V(アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル)では、アスペルガーは消失しちゃったし、気にしてないよ」とのこと(←本人の許可を得て書いています)。今だったら、DSM-Vで新たに登場した社会的(実践的)コミュニケーション障害(Social (pragmatic) communication disorder)と診断されるのかもしれませんね。

現在のサキ君と接していて、コミュニケーションに問題があるようには全く感じられません。(私はASD児のための特別支援校で2人のティーンに日本語を教えていて、他の子供達とも良く話をするんですが、みんな会話が一方的になったり話題が偏ったりする傾向があります)。素人なので判らないのですが、場面緘黙とASDの特性が類似するため(詳しくは、ASD児と緘黙児--類似する特性?(その2)をご参照ください)、ASDとの判別が難しいケースが出てくるのかも…。(グレイゾーンの場合もあるでしょうし、ASDと緘黙が併存することもあるので、専門家に診てもらって適切な支援をすることが重要だと思います)。

とにかく、幼少の頃は友達遊びができなかったというサキ君が、今では常に新たな出会いを体験し、人種や国を問わずどんどん人脈を広げているのです。9年間も学校で話せなかったなんて、嘘みたいに—。今緘黙で苦しんでいる人たちも、色々な可能性を秘めているということですね。自分を信じて、とにかく一歩を踏み出して欲しいです。

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