サキ君の動画について(その5)-緘黙とエクスポージャー法-

サキ君は緘黙を克服するにあたり、まず心理士に会いに行きました(動画の7:42分あたりから)。緘黙を克服するために、専門家のアドバイスを求めたんですね。

場面緘黙の克服には、認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)が効果的といわれています。特に、CBTのひとつであるエクスポージャー法(暴露療法 exposure)を用いるのが一般的。緘黙を恐怖症と捉えると、恐怖症の改善に有効なエクスポージャー法を用いるのは、理にかなっています。

イギリスの国民保健サービス、NHSのサイトでは、エクスポージャー法を次のように説明しています。

エクスポージャー法は、秩序だった体系的なアプローチによって、不安を引き起こすものや状況に向き合うことを学んでいく方法。不安を感じるものや状況をリストアップして順番をつけ、最初は不安度の低いもの・状況から始め、不安度が下がるまで何度かリピートしたら、順番に難度をあげていく。

認知行動療法という名前をきくと、何やら難しげ…。やはり心理士とのセッションが必須なのかなと思ってしまいます。でも、実は多くの人が取り組んでいるスモールステップこそが、エクスポージャー法なんです。素人でも理論とやり方さえ把握すれば、自己流でどんどんエクスポージャー法を実践していけると思います(ただし、他に何らかの問題を抱えている場合は専門家に相談する必要がありますが)。

病院やクリニックで心理士と信頼を築き、指導してもらうのもひとつの手段だと思いますが、場面緘黙が起こる現場は学校。学校で話せるようにするには、やはり学校内でのエクスポージャーが必要になってきます。伴走者として専門家のバックアップがあれば心強いですが、子どもの全体像を一番把握している保護者が、教師と協力してその子に合うステップを考え、実行できればベストなんじゃないでしょうか。ちなみに、イギリスでは緘黙治療を担うのは、言語療法士やTA(教育補助員)が中心です。

サキ君も心理士のアドバイスを元に、「自分に合う」エクスポージャー法を編み出しています。彼の場合は、まず普段より多く両親と話すことからスタート。日常的に話していても、自分から話しかけたり、その日の出来事について色々喋るのは苦手だったようです。その苦手を少しずつ克服することで、街に出て見知らぬ人に話しかける勇気が出てきたんじゃないでしょうか。学校内での取り組みは、いくつかの段階をクリアしてからの最終段階。最初は場所と人を設定しておいて「”ハイ”とひと言だけ声をかける」という小さな挑戦からスタートしたのが、成功の秘訣だったのではと思います。

息子の場合は、お店で好きな品をひとつ買って自分でお金を払うことから始め、「ありがとう」と言えるまでをスモールステップで練習しました。ちょっと遠くの大きなスーパーからスタートし、徐々に近所の小さなお店に移行。当時大流行していた『Dr Who』のカードを手に入れるため、かなり頑張れたと思います。楽しみがあると、子どもも抵抗なく挑戦できそう。

ひとつ注意したいのは、緘黙児には抑制的な気質の子が多いので、少し間が空くと元に戻ってしまう可能性があること。せっかく学校で進歩したのに、長い休みの間にできなくなってしまったケースも…。頻繁にステップを繰り返していると、自発的に挑戦できるようになってくるので、そこまでしっかり続けてください。

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サキ君の動画について(その4)-家庭での会話の大切さー

幼少の頃は両親しか話せる人がいなかったというサキ君(動画の1:20分あたり)。学校で話さなかった9年間も、やっぱり親が一番の話し相手だったようです。学校や家庭外で話せないからこそ、家庭での会話やコミュニケーションを増やし、楽しい体験を積み重ねて自信を培うことが本当に大切になってきます。

といっても、保護者は忙しい一日の終わりに、家でほっと一息つきたいという気持ちが大きいですよね。子どもも宿題をしたり、塾に行ったり、TVを観たり、SNSで友だちとやり取りしたりと忙しいし--自分の部屋に閉じこもりがちなティーンも多いかも…。平日家族が集って話す時間といえば、夕食時かTVタイムくらいでしょうか?

緘黙の子どもに「今日は学校(園)どうだった?」と訊いても、あまり反応が返ってこないかと思います。5歳に満たない園児でも、「黙っていることは悪いこと」「自分は他の子と違う」と感じているよう。ちなみに、うちの息子は昔から園や学校の事を話したがりませんでした。でも、何かきっかけがあると、訊いてもいないのに色々ペラペラ喋りまくるのです。自分のことじゃない方が、話しやすいんですね。

食事を囲みながら、子どもが興味を持ちそうな話題をあげてみてはどうでしょう?例えば、好きなタレントやキャラ、ゲームのこととか(兄弟姉妹がいる場合は、発言のチャンスをふってあげる必要があるかもしれません)。家族で楽しくダベリングする時間は緘黙の話題はNGかな。その代わり、短くてもいいので子どもと2人きりの時間をとって、様子を見ながら話してみてもいいかもれません。

それと、話をする際はなるべく長い会話を引き出せるといいですね。子どもが何か言ったら、「うん、うん」「それ面白いね」「それで、それで?」など、相槌をうって子どもの話に興味をしめしながら、話を聴いてあげてください。子どもが次に何か言うまで10秒くらい待って、もっともっと言葉を引き出せるよう、何気なく促すようにするといいと思います。

私がイギリスで子育てしてみて感じたのは、「理屈っぽい子が多いなあ」ということでした。英語には丁寧な言い方や単語はありますが、日本語のような敬語体系はありません。なので、複雑さは別にして、だいたい大人と変わらない言葉遣い。言語構造上、英語だと文章をきちんと言わないと意味が通じないことが多いので、小さい子でもけっこう長い文章で話すんです。

それと、日本のように「察する文化」ではないので、自分の意見を言わないと「この人は何も言わないからこれで満足しているんだ」と思われてしまう。子どもでも、自己主張をすることが求められる訳です。自分はこうしたい、こう思うとハッキリ言わなければならないのもあって、なんか理屈っぽくなるのかなと…。

これに反して、日本語は主語や目的語、助詞などを省略しても意味が通じます。特に、気心がしれた家庭内では、短い単語だけで充分解り合えてしまう。それほど言葉で説明する必要がなく、また、あまりキチンと言うと返って角が立つのが「察しの文化」なんですね(その分、場の空気を読めないと、まずいことになりがちですが…)。

この前も触れたのですが、私は2年ほど前に『話し言葉、言語、コミュニケーションに困難を持つ子どもの支援(Supporting Children with Speech, Language & Communication Needs)』というコースを受講していました。「話し言葉」の課題で、当時13歳だった息子と友だちの会話をモニターして分析したんです。13・14歳の標準は、ひとつの文章が7~12単語で構成され、相手によって丁寧語やスラングを自在に使い分けられるというもの。

人がいくつの単語からなる文章で話してるかなんて、それまで全く考えたことがありませんでした。で、録音した会話を分析してみたら、全部ではありませんが、標準に近い単語数で話していることが判明。「えっ、私と話す時もそんなに長い文章で話してたっけ?」そう思って、主人と息子の会話に耳を傾けてみたら、文章が結構長くて専門的(PCやITに関する会話が多い)なのでした…。私と話してる時と比べると、なんか大人っぽい。もしかして、私との会話では、私の英語レベルに合わせてるのかも…(恥)。

緘黙の子どもたちは、一日の大半を過ごす学校で会話の実践練習ができません。頭で考えたことを、実際に口に出して話術をみがく機会が、普通よりかなり少ないんです。だからこそ、家庭でいっぱい話して欲しいです。親もなるべく単語を省略しない文章を使って、毎日楽しいダベリングタイムを持てるといいなと思います。

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暖冬だと思っていたら、もう1月末からスノードロップもクロッカスも水仙も咲き始めました。

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サキ君の動画について(その1)

サキ君の動画について(その2)

サキ君の動画について(その3)

 

サキ君の動画について(その3)-自分を信じる強さー

私はこの動画を訳していて、サキ君の学校に驚いてしまいました(動画の15:10分あたりから)。場面緘黙で9年間も話せていない生徒に、『絶対しゃべりやまないで』賞を授与しようなんて、日本の学校だったら思いもつかないでしょう。下手をしたら、保護者から訴訟を起こされかねないのでは…。

サキ君に訊いてみたところ、事前に学校側から打診され、快く承諾したのだとか。「まあ、受け狙いだよ。学校も授賞式を盛りあげなきゃいけないからね」とクールな対応。受賞のために壇上にあがったら、みんなにヤンヤ言われることは承知していた訳ですね。

サキ君がすごいと思うのは、場面緘黙に対する皮肉も軽いジョークと受け流せていたこと。普通、抑制的な気質の人って、ものごとをネガティブに考えがちですよね?実は、私もそういう傾向が強い方で、私がサキ君だったらめちゃくちゃ凹んで、学校に行くのが嫌になっていたかもしれません…。ましてや、話さないことで嫌がらせをする同級生もいた訳ですから。

きっと本人は、心のどこかに「自分は大丈夫」という自信を持ってたんじゃないかな?ミスイングランドのカースティさんに会った時も、「自分はどこも変じゃない」とずっと思っていたとききました。生まれ持った性格もあるかもしれませんが、お母さんは一体どんな育て方をしたのかなと感心します。以前、カースティさんのお母さんにその質問をしたら、「この子はこういう性格だから大丈夫」と大きく構えていたそう。子どもへの信頼がすごいですね。私なんか何かあるごとに「大丈夫かな?」とユラユラ揺らいでいたので、見習わないといけません。

ちょっと照れるかもしれませんが、親は子どもに緘黙で辛いのは解かっていること、自分が味方だということを、時々口に出して言った方がいいような気がします。態度で判るとはいえ、言葉で言ってもらえると、やはり嬉しいし、安心できると思うので。

サキ君のお母さんは息子が話さないこと(社会性がないこと?)に関しては、とても心配して手を尽くしたようです。でも、息子がティーンになってからは学校で話すことを話題にしなくなり、そのままの状態になっていたとか。だから、サキ君は自分から「話したいから心理士に会わせて」と親に切り出したのです。

自ら緘黙の克服に動き出した際、親も学校も素早く対処してくれたようですね。きっとそれまでは、「現状でOK。無理に改善させようとしない」という環境だったのでしょう。外部の心理士を巻き込んで、専門家に学校と交渉してもらうことで、うまく支援体勢が整ったのかなと思いました。

特に、年齢が上の子の場合、取り組みをする際に最も重要なのは本人の意思。周りがいくら頑張っても、本人のやる気と努力がなければ、目標を達成することはできません。自分が主導権を握り、納得しながらステップを踏んでいくことで、成功体験を実感しながら重ねることができ、それが達成感と自信につながっていくのだと思います。

ところで、サキ君が変わろうと決意した大きな理由は、「色々な国を旅したい」という夢だったんだろうなと想像していたところ、実は違っていました。それよりも、「もうこんな状態ヤダ!早くみんなと同じようにになりたい!じゃないと、もうヤバイ!」という、高校卒業が視野にはいってきた危機感の方が大きかったそう。そして最後に、「ガールフレンドも欲しかったし」と照れ笑いしながら追加。そうだよね~青春を楽しみたいのは誰も同じですよね。そして、誰もが悩み自己を確立していく時期。だからこそ、思春期まっただ中の緘黙はより複雑なんだろうなと思います。

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サキ君の動画について(その1)

サキ君の動画について(その2)

 

サキ君の動画について(その2)-友達の大切さ-

 

サキ君の動画を観て、次に気になったのは学校生活と友達関係です。幼少の頃は友達遊びが全くできず、両親としか話せなかったという彼。それが、緘黙だった9年間の学校生活ではちゃんと友達がいたということ。どの時点で、どうやって友達付き合いができるようになったのか――本人も覚えてないかもしれませんが、とても興味深いです。

サキ君の第一印象は、オージー出身の人には珍しく(過去の経験から、そういう偏見がありました…汗)、ちょっとナィーブで控えめな好男子というもの。自分のことばかりでなく、ちゃんと相手の話を聞き、気を遣ってくれる――近づきやすいソフトな雰囲気を持っていました。何回か会った後も、その印象は変わっていません。

多分、緘黙を克服する前も、サキ君の人柄はそれほど変わってないんじゃないかな。だから、クラスメイトも親しみやすかったと思うし、サキ君も環境に慣れて徐々に心を開くことができたのではと推測しています。担任や学校も、しゃべらない部分を含めてサキ君を受け入れていたよう。担任の対応次第でクラスの子どもたちの態度が変わってくるので、先生の姿勢が学校生活の要になってくるんじゃないでしょうか?

(しかし、サキ君自身が書いて筆談するのではなく、補助員が間に入って筆談で周囲とコミュニケーション? 補助員にはどうやって自分の気持ちを伝えてたんでしょう?――具体的にどうしていたのか、今度訊いてみたいと思います)。

話が飛びますが、「場面緘黙は小学校低学年までの方が治りやすい」というデータが出ています。これは、小さい子どもほど、物事をありのまま受け止めることができるから。よく「9歳の壁」といいますが、まだ他人をあまり意識しない時期だからでしょうね。「この子はこういう子」と自然に受け止め、全て抱擁するパワーを持っています。

私の息子は小学校のレセプションクラス(4-5歳)に入った後、2、3週間経ってから緘黙・緘動を発症しました。現在は変わりましたが、息子の学校では誕生日順に時期をずらせて入学させるという方針。早生まれで一番最後に入学した息子は本当に小さく幼くて、おしゃまな女子に抱っこされたり、お世話されたり(笑)。ある日、「なんで○○君は(課題を)やらないの?」と子どもが先生に訊ねているところに遭遇したら、若い担任は「○○君は(心の)準備ができたときにやるから、いいのよ」と当然のように即答。子どもは納得したように去っていき、私はその対応にいたく感心したのでした。

さて話を戻して、動画の18:13分、学校での取り組みをステップアップさせたあたりから、彼の学校生活の様子がうかがえます。昼休みはクラスメイトと一緒に行動せず、ひとりで図書館やスクールカウンセラーのところにいたと語っています。友達と交わらないで、どうやって交友関係を保っていたんでしょう?

本人に直接訊いてみたところ、短い休み時間は教室にいて、仲間と一緒に過ごしていたそう。だから、いつもひとりでいた訳じゃなく、ちゃんと友達付き合いがあったんです。学校行事やイベントがある時は、彼らと行動をともにしていたので、動画で話している学校主催のパーティーにも一緒に出かけたんですね。しかし、親しい仲間はサキ君が急にしゃべり始めて、本当にビックリしたことでしょう。

クラスで孤立せず、仲間がいて自分の居場所があると感じられたことで、それほど深い孤独や劣等感・絶望感を持たずにすんだのかなと思います。人それぞれなので、同じ立場でも違う風に感じる緘黙児もいるかもしれませんが…。話さなくても友達がいることが、心の安定だけでなく自信にもつながったんじゃないでしょうか。

もう2年以上前になりますが、私は『話し言葉、言語、コミュニケーションに困難を持つ子どもの支援(Supporting Children with Speech, Language & Communication Needs)』というコースを受講していました。話し言葉、言語、コミュニケーション・スキルの発達は、子どもが16歳くらいまで続くのです。緘黙児は黙っているので話す機会がないからこそ、友達同士の会話やコミュニケーションを身近で見る・体験することがすごく重要だと思います。

よく「緘黙の後遺症」という言葉を耳にしますが、職場で仕事のやり取りはできても、複数の人との何気ないおしゃべりが苦手という元緘黙の方も多いのです。なぜ三人以上のダベリングが難しいかというと、話題が決まっていない上に、自分がどこでどんなことを言えばいいのかを瞬時に判断して、会話に参加する必要があるから。場の空気を読んで、複数人の相手の反応をみながら、タイミングよく適切な態度で適切なことを言う――何気ないようでいて、実はとても高度な技術が必要です。

子どもには子どのも世界があって、流行の言葉や話題が常に変化していきます。それは大人が家で教えられるものではありません。特に、話し言葉やコミュニケーションの力は、実践によって培われる部分が大きいので、友達の存在は本当に大切だなと思います。

追伸:日本もアメリカも記録的な大雪に見舞われているようですね。どうぞお気をつけて。ロンドンは先週末まで冷え込み初雪が降ったのですが、それからまた暖冬に戻っています。

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先週日曜の風景。地面の雪はすっかり溶けてますが、雪ダルマくんは頑張ってます

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サキ君の動画について(その1)

 

サキ君の動画について(その1)

前回の記事で、場面緘黙のために小3の頃から9年間学校で全く口をきかなかったサキ・ギャラクシディス君の動画をご紹介しました。多くの方が観てくださっているようで、ありがとうございます。実は、昨日本人がたまたまロンドンに来る用事があり、ついでにうちに寄ってお茶を飲んでいきました。3年前の自分を見返すのは恥ずかしいと言いつつ、緘黙に苦しむ日本の人たちの役に立てたらと喜んでくれました。この動画について少し説明したいことがあるので、ブログの先頭にあげてあります。

サキ君の家族は、祖父母の代にギリシャからオーストラリアに移民。彼はオーストラリアで生まれ育った、ギリシア系のオーストラリア人です(二重国籍を持っているので、ギリシャ人でもあります)。そのサキ君がイギリスにいると偶然知ったのは、昨年の夏のこと。マギーさんの講演で彼の動画を観て以来とても気になっていたので、「おお、これは何かの啓示かも」とコンタクトを取ったのでした。以来、時々連絡を取り合っています。

高校で話すようになったサキ君は、進学や就職は全く考えず、文字通り世界に飛び出したそう。アマゾンのジャングルやシベリア鉄道の旅をはじめ、アメリカやヨーロッパ諸国など色々な国を周ったようです。多くの場合、訪問した国のホテルなどで住み込みのバイトをしながら、次の冒険の資金をかせいだとか。現在は湖水地方のホテルで働きながら、休みを利用して各地を訪れています。

旅先からの写真を紹介するサキ君のインスタグラム:https://www.instagram.com/sakitraveller

彼はギリシャのパスポートも保持しているので、EU内の移動や就労の問題はありません。世界中どこに行っても英語は通じるし、かなりラッキーですね。でも、自分で仕事を探してお金を稼ぎ、行ってみたい国々を旅するのは、ものすごいガッツと行動力です!

実は、昨年夏に湖水地方に行く前に、うちに2晩泊まっていったのです。その時は、まだバイト先も宿泊先も全く決まってなくて、コーチも電車も予約していませんでした(当日券だと高い)。本人は「ホテルやユースホステルなどの住み込み仕事を斡旋するサイトがあるから大丈夫」と余裕たっぷり…。最終的に、何も決まらないまま「湖水地方に行ってみる。仕事がなかったら、知り合いを頼ってエジンバラに行くよ」とロンドンを後にしました。

ちなみに、移動には素人による個人タクシーのサイトを利用――これは、車で移動予定の普通の人が、同じ日に同じ目的地まで行きたい人を格安の値段で乗車させるというもの。全然知らない人の車に乗っても大丈夫なの?と心配していたら、感じの良い若い男性が、購入したばかりのピカピカの新車でやって来ました。仲良く話しながら出発する二人を見て、感心することしきり。これが9年間も話さなかった人かと思うと、感慨深いものがありました。サキ君は因習や既成概念に捕らわれない強さと、人を思いやる優しさを持っている人だと思います。

さて、動画の内容についてですが、3分55秒のところで、最後までいた小学校の説明があります。「そこでは普通の子と一緒だったけど、僕は全くしゃべらなかった」――「普通の子」という表現が気になって質問してみたら、社交性のなさが問題視され、幼少期にアスペルガー症候群と診断されたとか…。本人は、「最新のDSM-V(アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル)では、アスペルガーは消失しちゃったし、気にしてないよ」とのこと(←本人の許可を得て書いています)。今だったら、DSM-Vで新たに登場した社会的(実践的)コミュニケーション障害(Social (pragmatic) communication disorder)と診断されるのかもしれませんね。

現在のサキ君と接していて、コミュニケーションに問題があるようには全く感じられません。(私はASD児のための特別支援校で2人のティーンに日本語を教えていて、他の子供達とも良く話をするんですが、みんな会話が一方的になったり話題が偏ったりする傾向があります)。素人なので判らないのですが、場面緘黙とASDの特性が類似するため(詳しくは、ASD児と緘黙児--類似する特性?(その2)をご参照ください)、ASDとの判別が難しいケースが出てくるのかも…。(グレイゾーンの場合もあるでしょうし、ASDと緘黙が併存することもあるので、専門家に診てもらって適切な支援をすることが重要だと思います)。

とにかく、幼少の頃は友達遊びができなかったというサキ君が、今では常に新たな出会いを体験し、人種や国を問わずどんどん人脈を広げているのです。9年間も学校で話せなかったなんて、嘘みたいに—。今緘黙で苦しんでいる人たちも、色々な可能性を秘めているということですね。自分を信じて、とにかく一歩を踏み出して欲しいです。

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ASD児と緘黙児--類似する特性?(その2)

DSM-Vに登場した新たなコミニュケーション障害(その1)

DSM-Vに登場した新たなコミニュケーション障害(その2)

 

明けましておめでとうございます

というか、もうすっかりお正月気分も抜けてますよね…。実は、三が日のうちに記事をあげようと思い、もう書いてあったのです。が、大幅に予定が狂いました。貼ろうと思っていた動画に字幕を合体させられず――主人に頼んだのですが、前回できたのに何故かできない! ツベの字幕作成機能を使うと、観る人が字幕ボタンを押さねばならないし…。結局、息子が学校で教わったという Movie Maker のソフトを使い、手動で1つ1つ字幕を入れなおしてました…。そして、昨夜ツベにアップするのに7時間もかかりました~。ゼイゼイ。ということで、6日前に書いた記事をそのまま載せますね。

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もう2016年です!時間が過ぎるのは本当に早いですね。昨年はなかなか思うように記事が書けなかったので、今年はもう少し頻繁に更新できるようにしようと思っています。拙いブログですが、本年もどうぞよろしくお願いします。個人的には、ここ三年ほど大殺界ではないかと思えるような出来事が色々続いたので、今年こそ良い年になるよう願わずにいられません。

でも、そんな中でも、昨年は素敵な出会いがありました。2014年7月25日の記事でお借りした動画の作成者、サキ・ギャラクシディス君に、昨夏ロンドンで会うことができたのです(詳しくは、マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その3)をご覧ください)。

7~15歳まで9年間、学校生活を沈黙のうちに過ごしたサキ君。彼のYoutTubeビデオを観て、日本語訳をつけられたらなと考えていたら、実はサキ君がロンドンに住んでることを発見!コンタクトしてみたところ、日本語の字幕をつけることを快く承知してくれて、更に会うことになりました。

真夏の午後、約束したカフェに先に着いてちょっと緊張しながら待っていると、ビデオで見たサキ君がやってきました。第一印象は、とても繊細でナイーブな好青年という感じ。彼はギリシア人なのでかなり濃い目のお顔です――ビデオを観て「この人本当に緘黙だったの?」と感じる方も多いかもしれません。長いこと社会不安を抱え、緘黙に苦しんでいたようには見えませんよね?でも、実際はちょっと控えめで、相手の気持ちや反応にとても敏感な男の子でした。

私はアナログ人間なので字幕ソフトの使い方が解らず、なんだかんだしているうちに色々事件が起きて、時間だけがどんどん過ぎてしまいました。やっと昨年末に字幕が完成したので、今年最初の記事でサキ君のビデオを紹介させていただきますね。

なお、サキ君は昨年秋からイングランド北西部にある湖水地方のホテルで忙しく働いています。ビデオに関して何か質問があれば、サキ君自身が答えてくれるとのこと。もし良かったら、コメント欄に質問や感想をお寄せください。ビデオの内容に関しては、追って記事を書く予定です。

それでは、2016年がみなさんにとって良い年となりますように。

 

母親も緘黙だった6歳の男の子のケース

BBCで放映された場面緘黙の番組の続きです。今回もBBCニュースYou-Tube チャンネルの映像『話すことへの恐怖症があります』をお借りして、最後の部分をご紹介します。

8:00~12:34までの、ダニエルのケースを御覧ください。

「ダニエルは6歳、場面緘黙です。彼のお母さんも子供の頃緘黙でした。」

記者アシュリー(A): ダニエル、話すのは難しい?

ダニエル(D): 頷く

A: 話さなきゃいけない時、怖くなる?

D: 頷く

A: いつか、自由にしゃべれるようになると思う?

D: 肩をすくめる

A: いつでも話せるようになりたい?

D: 頷く

ダニエルの母親、フラン(F): 学校に迎えに行ったら、今日したこととか、楽しかったこととか、学校での出来事を話してくれたわ。(背景にダニエルの話し声が聴こえる)。

先生には話せないの。しゃべれない人は多いけれど、友達には私(の緘黙時代)より多く話せるわね。私が小さかった頃は、まったく誰にも話せなかったから。当時は何故か解らなかったし、今でも解らない。誰かに話しかけられると、すごく返事をしたかったのにできなかった。どう頑張っても、やっぱり無理だった。先生も(場面緘黙を)知らなくて、ただの恥ずかしがり屋だと思われてたの。話さないことが問題になって、教室の外に出されたこともあったわ。質問にも答えられなかった。

あら、ダニエルはブランコを降りてしまったわ。クラスの女の子がブランコに乗ってきたから、声を聞かれるのが心配なのよ。私はダニエルが赤ちゃんの頃から、自分と同じだと気づいてたの。ベビーカーの中から私に向かって元気におしゃべりしてるのに、誰か知らない人が来て「こんにちは」って話しかけた途端、顔が石みたいに固まってしまうの。そして下を向いて、その人と視線を合わそうとしない。例え、くすぐっても、笑わせようとしても、表情は固まったまま…。

この子の気持ちは誰よりもよく解る。私も同じだったことは伝えたから知ってるし、「マミーも話せなかったけど、今は話せるから大丈夫」って言ってあるの。

A: 場面緘黙を知らない人は、ダニエルが頑固だから、もしくは注目されたくてわざと話さないと思うかもしれない。そういう人たちに何かいいたいことはある?

F:もしダニエルが話せたら—それはあの子が一番したいことよ。普通でいたいのよ。自分ではコントロールできないの。もしできるんだったら、黙ってなんかいないわ。皆と同じでいたいんだから。

<ダンス教室で>

F: ダンス教室には1年位かよってるの。踊ることが大好きなのよ。
最初は恐がって教室に入るのも嫌がったし、全くやりたがらなかった。でも、最初のレッスンの後、ダンスクラスが大好きになって、今では皆の前で踊るようにまでなってるの。以前はできなかったことよ。

ダンスの先生: 最初にダニエルに会った時、何か通じるものを感じたんです。すごくいい子よ。お母さんは彼が話さないのを心配してたけど、踊りは動きで自分を表現することでしょ。最初に来た時から、彼にとってここは我が家のようなもの。自分自身でいられる場所、自分を表現できる場所を見つけたんだと思うわ。彼が私達を見つけてくれて、本当に嬉しく思ってます。

12:35~ 150人に1人の子どもが場面緘黙です。共感的な支援で、ほとんどの子どもが回復します。
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ダニエル君の場合は、お母さんも小さいころ緘黙だったというケース。抑制的な気質が遺伝したんですね。親子揃って恥ずかしがり屋というパターンだと、子どもの気持ちを理解しやすいと思います。でも、子どもの抑制的な気質を理解できないという保護者の方もいるでしょう。

もしそうだったら、エレイン・アーロン著の『ひといちばい敏感な子(Highly Sensitive Child)』を読むことをお勧めします。超敏感な子どもの気質、行動、育て方、スモールステップ式の支援の仕方などについて詳しく書かれています。私はこの本を読んで、「これうちの子だ!HSCだったんだ」と安心し、同時に「育て方はかなり難しいな」と思いました。

私は、かつてから場面緘黙になる子(人)には、HSP(Highly Sensitive Person 日本語では「とても敏感な人」/『ささいなことでもすぐに動揺してしまうあなたへ』エレイン・アーロン著より)が多いのではないかと思っていました。アーロン女史は著書の中で、子どもの行動抑制的な気質を研究した発達心理学者、ケイガン(Jerome Kagan 1989) の研究を頻繁に引用していて、私は彼女のいうHSP=ケイガンの行動抑制的な子どもと捕らえています。

以前、『遺伝的な要因-動抑制的な気質』という記事の中で、ケイガンの研究について触れましたが、「行動抑制的な子ども」は全体の10~15%、HSC (Highly Sensitive Child) は全体の15~20%と、似たような数字です。緘黙児には行動抑制的な気質を持った子どもが多いと言われています。『ひといちばい敏感な子』に場面緘黙や緘黙児は出てきませんが、原本では確か入園後に数ヶ月間話さなかった子どもの例が複数あげられていたような…。今パラパラと見返してみたら、「ランダルがクラスで一言話すまでに6ヶ月かかった」、「アリスは入園してから4ヶ月話すことを拒否した」という行を発見。「話せなかった」とは書いてありませんが、やっぱり緘黙傾向のある子が多いんだと思いました。

子どもの好きなことを伸ばすことが奨励されますが、ダニエルはダンス教室でとても活き活きとしてますね。ダニエルには緘動はないようですが、家の他にも自分を表現できる場所があれば自己評価の向上にも繋がると思います。

おしまいに、最後の字幕には150人に1人の子どもが緘黙だけど、その殆どが回復するとありますね。早期発見・介入して、適切な支援をしていけば、子どもの緘黙は克服できるということだと思います。希望が持てますね。

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BBCが大人の場面緘黙を紹介

緘黙を克服しつつある17歳

 

緘黙を克服しつつある17歳

前回のBBCで放映された場面緘黙の番組の続きです。実は、テレビで取り上げたのはサブリーナさんのケースのみで、お借りして貼り付けている映像はBBC News のMagazine サイトで紹介されているものです。いつまでアップされてるか分らないので、消されない内に映像の続きを翻訳しました。(聞き取りづらい部分もあり、正確ではないかもしれませんが、その辺りはご容赦ください)。

今回は17歳のケイティさんのケースです。映像の5:47~7:59を御覧ください。

<ケイティの独白>

話さなきゃいけないというプレッシャーに押されて、やっても無駄だと思うこともあったわ。自分の感情を押し殺して、きまり悪さを完全にシャットアウトしてたの。しゃべらない状態のほうが幸せなんだって。

友達A:カレッジを終了したらどうするつもり?

ケイティ(K):大学に行って、できればテレビやラジオ制作を学びたいの。

「ケイティ・スミスには3歳の時から場面緘黙の症状がありました。今17歳でカレッジの最終学年。場面緘黙を克服しようと、大きなステップを踏みだしています」

友達B: 場面緘黙を克服して、たくさんの人と接するようになって自信をつけていくって、どんな感じ?

K:うーん、説明するのは難しいわ。えーと…。

友達B: 多くの人に助けられたと思ってる?それとも、自分で何とかしたの?家族とか友達とか、助けてくれる人はいっぱいいた?

K:えっと、実は7年生になってあなた達と出会った時期が――あなたやトーリア達と出会って、新しい友だちができたことが、大きな助けになったわ。

友達C: 友達関係が変わったことで自信がついたの?

K: そう思うわ。家族は私がずっと緘黙だったことを知ってたから、変わってほしいと願ってたけど、もちろん強制するようなことはしなかった。進学してセカンダリーやカレッジに行ったら、新しい友人関係を築かなきゃいけないって思ってたから。

友達D: セカンダリースクールに入って、知らない子に話しかけるのはどんな気持ちだった? 人に評価されるよね?

K: そうね、偏見を持っていそうな、人気のある子達からは距離をおいたわ。あなた達がいてくれて本当に良かった。だって、あなた達だったら人をこうだって決め付るようなことはしないと判ってたの。

友達B: 私もちょっと変わった子だったし(笑)。

K: 変わった子が一番よね(笑)。

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17歳のケイティが友達に囲まれておしゃべりしている様子を見る限り、青春真っ只なかの普通の高校生にしか見えません。前出のサブリーナと比べると、ものすごく対照的です。

「捕われた様に感じている」というサブリーナは見るからに固まっていて、文字を打ち込みながら眉間にしわをよせ、いつの間にかしかめっ面のような表情に…。彼女のボディランゲージからは、「逃げたい」、「見られたくない」、「隠れたい」というネガティブなメッセージを受けませんか? きっと、長い間沈黙を続けている間に、縮こまったようなオドオドした態度や姿勢が身についてしまったのではないかと…。 一方、友達と談笑しているケイティは、自然でオープンな印象。最初の独白部分で沈黙している彼女とは違う人みたいです。

ちょっと微笑むだけで、人が受ける印象は随分違うもの。オープンな感じだと、声をかけやすそうだなと思ってもらえます。その点でも、サブリーナはすごく損をしてるなと思わずにはいられません。場面緘黙が長引くと、弊害はより広範囲で大きなものになってしまう可能性を含んでいるのではないでしょうか?

詳細は判りませんが、ケイティは小学校の頃から両親や学校から支援を受けていたものと想像しています。学校からの支援はなかったにしろ、両親の場面緘黙への理解と支援があったのは確かですね。イギリスでも10年ほど前は緘黙が知られておらず、学校や教育関係者、心理士から適切な支援を受けられない状況でした。

ケイティは、セカンダリースクールに進学した7年生(12歳)の時、新しい友達を作ったことが大きな転機になったと語っています。進学したり、転校したりして新しく環境が変わると、周りは「自分がしゃべらない」ということを知らないから、話し始めるのが楽になると言われています。年が上の緘黙の子どもに有効な方法ですが、誰にでも効果的という訳ではありません。

ここで決め手になるのは、やはり自ら「話すんだ」という意志を持ってチャレンジすることでしょう。そのためには、それ以前にスモールステップを積み重ね、「新しい環境だったら話せる」という自信を持っていることが重要だと思います。学校で話さなくても、外で話せるとか、知らない人には話せるとか、親以外にも親密に話せる人がいるとか…。

また、話せなくても同年代の友達がいるということが、すごく重要になってきそうです。ずっと友達付き合いがないという場合、最初は話せても、どんな話題で、何を話をしたらいいのか見当がつかず、友達付き合いが難しくなるかもしれません。好きなことや趣味が話の糸口になったりするので、子どもが好きなことを尊重してあげるのも大切ですよね。

なお、新しい環境だったら絶対に大丈夫という保証はどこにもありません。もし、ケイティが新しい友達を作れなかったら、学校で嫌な体験をしていたら、徐々にまた沈黙の世界に戻ってしまっていたかも…。新しい環境が自分に合うか合わないかは、宝くじのようなものだと思います。でも、これは緘黙でなくても、誰にとっても同じですよね。

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BBCが大人の場面緘黙を紹介

 

BBCが大人の場面緘黙を紹介

先週、イギリスの国営放送BBCで場面緘黙が取り上げられました。『Victoria Derbyshire』という情報番組の中で紹介され、解説役にはSLTのアリソン・ウィンジェンズさん (『場面緘黙リソースマニュアル』の共著者) と緘黙経験者のコメディアン、ヘレン・キーンさんが登場。今回は大人の場面緘黙を紹介したことが特徴的といえます。

BBCニュースのYou-Tubeチャンネルに「話すことへの恐怖症があります」というタイトルで映像(TV番組とは少々異なる)があがっていました。お借りして貼り付けます。すぐ消されないといいんですが…。

まずは、イギリスの地方の町に住む35歳のサブリーナさんの話から。

<サブリーナの独白>

意図して話さないと思われるのは悲しい。でも、自分で変えようと思っても変えられるものじゃないの。お祖母ちゃんには何でも話せたわ。なのに、お祖母ちゃんが脳卒中を起こした時、不安にかられて全く話せなくなってしまった…。それから、お婆ちゃんは亡くなってしまったけれど、それでも話せなくて、大好きとさえ言えなかったの。

映像では、BBCの記者、アシュリーがロッチデールという町に住むサブリーナの家を訪問します。

「現在35歳のサブリーナは、子どもの頃からずっと場面緘黙に苦しんできました。コミュニケーションは母親と電子機器に頼っています」

記者アシュリー(A): SM状態の時、どんな気持?

サブリーナ(S): 捕われた感じ。

A: 今、そういう風に感じてるの?

S: そう。何か訊かれると考えるのが難しくなる。

A: 子どもの頃のことを教えて。

S: 友達を作ったり、必要な時に助けを求めるというようなことが、本当に難しかった。

A: これまでずっと捕われたように感じてきた?

S: そう。

A: 場面緘黙だったせいで、友達を作ったり、ごく普通の生活を送ることにも努力しなければならない生活を、どう感じてきた?

S: やりたかったことを本当にたくさん逃してしまった…。

A: 場面緘黙が長く続くと、楽になるというより、むしろ困難が増すという印象を受けたんだけど、そうなのかな?

S: そう。今はさらに生きづらくなってる。

A: どうして今の方が難しいと思う?

S: 子どもの頃の方が親ができることが多いし、代弁してもらえるから。大人になると全部自分でやるのが当然と思われちゃうけど、私には無理。

母親のダイアンさん(D): 年を追うごとにどんどん症状が悪化して、不安に襲われるようになって…。だから、この娘は本当に辛い思いをしてるのよ。

A:緘黙状態になると、どうなるの?

D:すごく無口になって、内に籠ってしまうの。話しかけられて答えなければならなくなると、パニックに襲われるようになって。答えないから失礼だと思われるし…実際、そう言われるのを何回も聞いたわ。他にも無知だとか、色々ね…「こんんちは」って言われても、答えないから。でも、不安が本当に酷くなると、私にさえものを言うことができなくなるの。何年か前、何かですごく同様して電話をかけてきたんだけど、泣いてるだけで声を出すことができなかったことがあったわ。1時間位電話してたんだけど、全く言葉がでなくて。だから車に飛び乗って、ここまで慰めに来なければならなかった。

A: 1時間ずっと泣いてただけ?

D:そう、1時間泣き続けたの。私がどんな気持ちになったか想像できる?胸がつぶれそうだった。自分の子どもが親にもしゃべれないなんて、本当に辛い。

A:母親としてどう思う?サブリーナにずっと寄り添ってきて、母親として何かもっとしてあげられたと思う?

D:ええ。何であの時気づいてあげられなかったのか。何でもっとしてあげられなかったのかって、何度も自分を責めたわ。もし場面緘黙だということを知っていたら、支援を得られるようにもっと努力したと思う。適切な所に出向いて、助けを求めていたはずよ。でも、知らなかった。場面緘黙なんてきいたことがなかった。

夫と私はただの恥ずかしがり屋だと思ってたの。でも、成長してから場面緘黙だということが判って、母親失格という気持ちになったわ。夫も同じ。子どもが出すサインを受け止められなくて、親として失格だったって…。

A:今僕に話しかけられて、どんな気持ち?

S: 怖い。

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長年話さない状態が続いたために、緘黙が固定化してしまったケースです…。それだけでなく、他の社会不安の症状も悪化して、パニック障害なども併発しているよう。彼女や家族の心中を思うと、いたたまれない気持ちになります。早期発見と早期介入の重要さを再確認するとともに、緘黙を抱える大人への理解が広まり、治療法が確立されるよう願います。次回は動画の続きを訳していこうと思ってます。