ガーデニングの春休み

今年のイースター(復活祭)の週末は、例年より早く3月末にやってきました。これまでは、4月の第1週目の週末に当たることが多く、その後に学校の春休み(イースターホリデー)が続いて丸々3週間くらい休みというパターン。でも、今年はイースターの週末とは別に、先週から2週間の春休み中です。(私が日本語を教えている特別支援校は私立なので、イースターの週末から長~い春休みに突入しました)。

昨年の4月は家族で帰国したのですが、息子の全国試験が間近に迫ってきたこともあり、今年は2週間家で過ごすことに。この春休みのプロジェクトは、ずーっと放ったらかしにしていた中庭の手入れです。

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今年も小豆色のあけびの花が満開。1本の苗が5年でこんなに成長しました

我が家の庭は、イギリスの平均的な家の中庭と比べると、3分の1くらいの大きさしかありません。家屋は別名「ロンドン長屋」と呼ばれる、テラスドハウスのひとつ。同じ外観の建物が棟続きで並ぶ中の1軒なんですが、大通りに近いせいか、設計上しかたかなったのか、庭がものすごくコンパクトなんです。

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ロースト料理に便利なローズマリーも花ざかり

こちらでは、100年以上前に建てた住居を、修繕しながら延々と使い続けるのがふつう。住む人はどんどん移り変わり、その間に植えられた木樹が大木化してることも多いんです。うちはエドワード王朝時代(1910年頃)の住宅なんですが、引っ越してきた時は小さめの木が1本あったのみ。その木も虫がついてしまい、結局は伐採しました。

5年前に庭を大改造した際、ミミズ&ナメクジ系が苦手な私は、あまり庭仕事をしなくても済むように、三方の塀に沿って花壇を作ってもらいました。芝生は手入れが面倒なので、庭の大部分は敷石にしたのです。

でも、この敷石がくせものだった!1年、2年と経つうちに、だんだん石の色が黒ずんできました。パティオ専用の洗剤があるんですが、うちの場合は流した洗剤がすべて花壇に入ってしまう――ということで、昨年はブラシでごしごし擦って水洗いしたのでした。でも、薄汚れた感じは否めず…。

今年こそなんとかしなきゃと思っていたら、息子が「この間、ダディがもらってきた圧力洗浄機を使えばいいじゃん」と。シェッド(納屋)に変な機械がおいてあるのには気づいてたんですが、それが洗浄機だったとは。ということで、息子が担当して敷石を洗浄してくれることになりました~。

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ここのところ天候が変わりやすかったので、雨の合間をぬって毎日少しずつ作業。           洗浄した箇所は違いがこんなにくっきり

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最後に敷石の隙間に砂を入れて完成。

以前、セントポール大聖堂の建物が黒ずんで汚れてしまったため、長期間かけて大々的な洗浄作業を行いました。その時は「ふ~ん」と思っただけでしたが、うちの敷石の汚れも車の排気ガスや大気汚染のせい?私達家族ってそんなに悪い空気の中で暮らしてるんだ~と複雑な心境になりました。

その後、花の苗を求めてガーデンセンターめぐりをしたんですが、欲しかった多年草はけっこうなお値段…。まずは前庭用のラベンダーを3本と、花壇の隙間用にロベリアやバーゲンの小花の鉢をゲット。

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ラベンダーは鉢植えに。花壇はまだスカスカですね…                        窓辺に飾ったミニ水仙は1ポンド(約160円)でした

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     昨年、カタツムリと毛虫に食べられてしまったクレマチスにも芽が!            今年こそ無事に成長しますように

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手作りクッキーでコーヒータイム

マギー・ジョンソンさんの講演から――代弁はOK?

この8月に出版予定『場面緘黙リソースマニュアル』改訂版。言語療法士のマギーさんとアリソンさんが実体験や指導結果から導き出した緘黙支援・対処方法が、こと細かに解説されているようです。SMiRAの講演では、その一例として緘黙児の代弁をすることについて簡単に触れました。

友だちや親に代弁者として代わりに応えてもらうのが、緘黙児にとっていいことなのか、悪いことなのか?慣れすぎてしまうと、自分で話そうという気持ちや機会が失われてしまうのでは?そういう疑問を持つ保護者も多いのではないでしょうか。

<同年代の子どもの場合>

家の外でも、仲良しの友達や兄弟姉妹とだけなら囁ける・話せるという緘黙児も多いかと思います。マギーさんは緘黙児が「友達を通じて話す」ことを容認し、”架け橋”として使うことを奨励しています。

  1. 緘黙児への質問は友達を介して行う  例:「○○ちゃんに、何が飲みたいかきいて」「○○ちゃんは、何をして遊びたいかきいて」
  1. 最初は緘黙児が安心して話せるようその場から立ち去る、時間をかけて徐々に子どもたちの近くへ移動し、緘黙児が目の前で友だちとナイショ話しても平気になるようにする
  1. そのうちに第三者の存在に慣れ、緘黙児の声が徐々に大きくなってくる
  1. 第三者のいる前で、友だちに向かって直接聞こえる声で返事をするようになる
  1. 子どもが第三者に直接応えるようになる
  1. 友だちを介さずに、1対1で会話を始める   まずは、Yes/Noで答えられる質問から始め、徐々に長い答えを引き出していく

イギリスの小学校では席をグループで固めることが多く、支援の一貫として緘黙児の隣に話せる友達を座らせたり、同じグループにします。日本と比べると授業中もガヤガヤした雰囲気で、私語も多い(笑)。とてもインフォーマルな雰囲気なので、友達を”架け橋”役に使いやすいと思います。

日本の小学校では難しいかもしれませんが、幼稚園や保育園でならできそうですね。園だけでなく、例えば祖父母が兄弟姉妹を”架け橋”役に使えば、緘黙の孫とのコミュニケーションを改善していけるんじゃないかな?

注:上記はまだ緘黙が定着していない、園児や小学校の低学年向けと思われます。

 

<保護者の場合>

医者、買い物、親戚との会話など、母親が子どもの代わりに返事をしてしまうことって多いんじゃないでしょうか?特に、緘黙期間が長いと、それが習慣になってしまっているかもしれませんね。

マギーさんは、人から何か訊かれた時、親は返事ができない子どもを”救済”するのではなく、子どもが会話に加わる際に”不安を減らす”役割を担うよう提案しています。子どもへの重要なメッセージは、「誰かに何か訊かれたら、できたら答えればいい。でも、もし答えられなくても大したことじゃない。誰も気にしない」というもの。

  • 人に何か訊かれたら、子どもの返事をまず5秒待つ
  • 質問を繰り返していう、もしくは二者選択の質問にして子どもに訊く
  • 5秒待つ
  • 親に囁いたり、最初は非言語でも答えられればOK。徐々に言葉がでるようにしていく。子どもが答えない場合は、「ちょっと考える時間をください」「また来ます」とその場を立ち去る。もしくは、話題を変える

こうすることで、緘黙児が親に代弁してもらうのでなく、自分で答えることに慣れるのが大切ということ。親が代弁してくれることに慣れてしまうと、家庭外で話す機会がどんどん少なくなってしまうので、その通りだなと思いました。

ケント州のNHS(国民保険サービス)で言語療法士として働いているマギーさんは、保護者やTA(教育補助員)を集めて定期的に懇談会を行っていてるそう。ディスカッションや個人的なアドバイスも活発に行われているということで、大変羨ましい環境です。マニュアルの対処・支援法は、こうした場でのフィードバックや情報にも裏付けされているとか。

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期待大!『場面緘黙リソースマニュアル』改訂版

イギリスで緘黙治療のバイブルと呼ばれているのが、言語療法士のマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが共著した『場面緘黙リソースマニュアル』。場面緘黙の状態把握と学校での対処・支援において、最も効果の高い実用書として知られています。大版で312ページもあるうえ値段も高いため、保護者は購入をためらうことも多いよう。でも、言語療法士(SLT)やSENCOといった専門家の間では、必要不可欠な参考書なのです。

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そのマニュアルが改訂され、第2版としてこの8月に出版される予定です。

3月上旬に開催されたSMIRAコンファレンスでは、マギー・ジョンソンさんが講師として招かれ、改訂版の特別プレビューが行われました。

注目すべきなのは、オリジナル部分が修正された訳ではなく、下記の追加項目が加わったこと。

  • 家庭、学校外での支援
  • ティーンと大人の支援

改訂版の総ページ数はなんと、なんと900ページに及ぶそう!そのうち書籍として印刷されるのは500ページ、残りの400ページはインターネットでアクセスする仕組みです。書籍を購入するとアクセスコードがもらえて、資料を閲覧・ダウンロードできるとか。

緘黙状態を表すスケール(段階)表は4つの部門に着目。より的確なサポートができるよう、緘黙児が到達しているコミュニケーション状況をさらに細かく分けたということです。

第1版ではイギリスの学校における支援が中心でしたが、改訂版は日本でも充分に活用できそう。家庭や学校外での有効な支援法が解れば、保護者が中心になってどんどん支援の輪を広げていけるかも。また、まだまだ資料が少ないティーンや大人の支援法にも大いに期待したいところです。

ところで、先回のエントリーから随分日数が経ってしまいました。その間に仕事が集中したのと、復活祭の連休で主人の実家に出かけていたのとで、バタバタしていてなかなか更新ができず、すみません。

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復活祭というとお花はやはり水仙ですね

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3家族、合計9名が集まってローストランチを楽しみました

その間に桜の季節はすっかり終わり、今は沿道の黃水仙が満開です。義母の庭では忘れな草やムスカリが可憐な花を咲かせていました。

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場面緘黙の成人、サブリーナさんのプレゼンテーション

昨年の夏、イギリスの国営放送BBCで場面緘黙の特集があり、サブリーナ・ブランウッドさんという35歳の緘黙の女性が登場しました。(詳しくは『BBCが大人の場面緘黙を紹介』を参照してください)。そのサブリーナさんが、今回のSMiRAコンファレンスでプレゼンを行ったのです。

偶然、私の後ろの席に妹(?)さんと一緒に座っていたので、図々しくも声をかけてしまいました。そうしたら、無言でしたが、はにかんだ笑顔で応じてくれたんです。TVで観た時の殻に閉じこもったような印象はなく、ずっと穏やかな表情になっていました。

サブリーナさんのプレゼンは、小さい頃から現在までの写真&映像アルバムに、字幕で短い説明をつけたもの。本人は前に出ずに、最後列の自分の席に座ったままでした。

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一番手前のポニーテールの女性がサブリーナさん。

写真の中のサブリーナさんは、ずっと微笑みを絶やしません。途中、「あれっ?」と思ったら、サブリーナさんが車を運転しているんです!そこに、「運転免許を取りました」と字幕が。次に、「NHS(国民保健サービス)でボランティアをしています」と…。

プレゼンを観ているうちに、BBCが取材する前からSMiRAとマギー・ジョンソンさんが介入していたことが判明。それから、ひとり暮らしを始め、運転免許を取得して、今ではボランティアの仕事もしてるんです。実家に閉じこもりがちだったサブリーナさんが、外に出てどんどん交際範囲を広げている!

最後の方では、特にお世話になったというマギー・ジョンソンさんやSMiRAの役員に対するお礼の言葉が。サブリーナさんの隣に座っていたマギーさんが、感極まってウルウルしていたのが、とても印象的でした。

サブリーナさんは今でも、初対面の人に対して普通にしゃべれる状態にはなっていません。でも、実家から出て自分ひとりで行動できるようになったんです。これって、すごくないですか?

長期間場面緘黙が続くと、社交・社会不安が高まって、外に出て働いたり、活動することを怖れる傾向が強くなります。その結果、就職できても長続きしなかったり、自宅に引きこもりがちになる人も多いんじゃないでしょうか?

このプレゼンは、緘黙の成人でも適切なサポートと周囲の理解が得られれば、ちゃんと自立できるという証明だと思いました。長い間自分を閉じ込めていた心の枷から抜けだして、自由になることができるんだと。

勇気を出してSMiRAコンファレンスに来てくださったサブリーナさんに、会場から惜しみない拍手が送られました。

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ポーランドから場面緘黙の画期的な治療法?

<感情的なスピーチブロック(発話の壁)を打ち破る>

SMIRAコンファレンスの2人目の講演者は、ポーランドのシレジア大学で「言語と感情」について研究しているソニア・ツァラメック-カルツ(?)教授。吃音も場面緘黙も「感情的な発話の壁」に阻まれて起こる症状であり、全く新しい発声・発話方法を習得することによって、緘黙を克服できるというもの。

最初におことわりしておきたいのですが、私はこの講演の内容について、実はよく理解できていないのです。いきなり「吃音」と「場面緘黙」が出てきて解りづらかったうえ、ポーランド語訛りが強い英語と私の聞き取り能力のなさが重なって、最後まで??でした。後からメールで確認して、多分こういうことだろうと思って書いています。

私は吃音症については全く知識がありません。なので、吃音症の子ども/人が、ある場面ではスラスラよどみなく話せるのに、ある場面では吃ってしまうものなのか--また吃音の程度が場面によって違うものなのか、その辺りがよく判らないのです。場面緘黙の場合は、だいたい学校などの公の場で言葉がでないことが多いのですが、話せる相手も場所も人によって違いますよね?

ソニア教授は、吃音や場面緘黙の症状が起こるのは、「Emotional Speech Block Syndrome」(直訳すると「感情的なスピーチブロック症候群」)のためと捉えています。最初は吃音が原因で場面緘黙になった子どもや人のケースを話しているのかなと思い、会場で質問したのですが、なんだか要領を得ないまま…。で、メールで確認した結果、どちらの症状も同じように感情的な要因が大きいと理解しているとのことでした。

場面緘黙は不安のために「話せない」訳ですが、「言葉がうまく出てこず吃ってしまう」のも不安のせい?どちらも原因はメンタル面にあるんでしょうか?「うなく話せない」と焦れば焦るほど、吃音がひどくなる傾向にあるのは解るような気がするんですが…。そして、何故Psychological (心理的/心理的)Speech BlockでなくEmotional(感情的)という単語を使っているのか?

ソニア教授のチームは、体を完全にリラックスさせ、従来とは異なる新たな発声・発話方法を習得することで、吃音や場面緘黙を克服するというユニークなプログラムを発案。すでに多くの子どもや大人に試して、成功例を重ねているようです。

人は恐怖や不安に襲われると、声帯が閉まったようになって声が出にくくなります。場面緘黙になるきっかけも、こういった不安体験が絡んでいそう。もしくは、声を出そうと不安のなかで頑張りすぎて、どうしても声がでない状態で固まってしまい、緘黙症状が持続することもあり得るのではないでしょうか?

そう考えると、体と心を完全にリラックスさせれば、声帯もリラックスするため、声は出しやすくなりますよね。映像で新たな発声方法を見せてくれたのですが、最初は言葉を長く発音し、徐々に普通の長さに調節していくという感じだったように記憶しています。

早い人では2日くらいで、遅くても12日間で声が出るようになるということ。Youtubeの”Nowa Mowa”というチャンネルで映像を観ることができます。が、ポーランド語なので何を行ってるのか分からないんですよね…。

下の映像は新たな発話方法によって吃音が治った例のようです。

なお、4月2~4日にポーランドのカトワイスで「言語と感情」と題した国際的なコンファレンスが開催される予定だそう。シレジア大学の主催でソニア教授も講演する他、『場面緘黙リソースマニュアル』の共著者であるアリソン・ウィンジェンズさんの講演も予定されています。場面緘黙治療の新しい方向性を示唆するものになるかもしれませんね。早く英語の翻訳が欲しいです。

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SMIRA2016年コンファレンス(その2)– 二人の少女の例

言語療法士のリビー・ヒルさんの講演の続きです。

<治療例2>

小学校低学年のスージーちゃん: 話せるのは唯一お母さんのみ。父親とも、親しくしている3人の叔父とも全く話せない。

このケースでは、犬の調教を利用したスライディングイン法の説明をしてくれました。スライディングインというのは、通常は緘黙児が話せる大人(母親やTA)と言葉ゲームをしているところに、徐々に第三者(大人もしくは子ども)を入れていき、緘黙児が自分の声を聞かれる・言葉を交わすことに慣れさせていくという手法。学校や自宅の一室で行うイメージが強いですが、スージーちゃんの場合はアニマルセンターで犬を介して行いました。動物が好きな子にはぴったりですね。

どの段階で、犬の調教をセラピーとして取り入れたのかは不明ですが、多分お父さんや家族に話せるようなってからかな?まずは、スージーちゃんが、「来て」「お座り」「待て」など言葉をかけ、ラルフという名の犬をしつけました(どれ位で声がでるようになったかは不明)。慣れてきた頃、スージーちゃんとセラピストがいる部屋に叔父さんがひとりずつ入り、スージーちゃんがラルフに話しかけるところを見せました。最後は3人の叔父さんたちが見ている前で、「Come! 来て!」と大きな声を出せたそう!

<治療例3>

4歳のミリーちゃん: 家庭外では全く話せない。母親との分離不安あり。2歳半の時にリビーさんのセンターで治療を開始。

まず、関係者の教育・啓発からスタート。まず、「ただ内気なだけ」と考えていた父親や幼稚園の先生たちに、本や映像を使って場面緘黙について説明しました。遠方に住んでいたため、Skypeを利用してファミリーセラピーを行ったそう。

イギリスでは5歳になる年から小学校のレセプション・クラスが始まります。ミリーちゃんはまだ4歳ですが、昨年9月に同じ建物内にある幼稚園から小学校に進学。進学前に、新しい教室に慣れさせるため、幼稚園の教室から小学校のレセプションクラスに何度も足を運んだとか。また、新しい教室を中心に、これから使用する施設の写真を撮って写真付ストーリーブックを作成。上級生の女の子にお世話係を頼むなど、スムーズに小学校生活に移行できるよう計らいました。出席を取る際は、名前を呼ばれた子が「I am here(ここにいます)」というべき返事を、クラス全員に言わせるという工夫も。

<まとめ>

  • 取り組みは常に計画通りにはいかない。子どもの心によりそって、じっくり構える
  • 子ども、保護者、学校のスタッフのサポート体制が整っているか、省みることが必要
  • どの子も違うので、決まったルールはない。柔軟な対応を心がける

以上が、リビーさんの駆け足の講演内容でした。なお、この講演については資料が配布されず、私のメモと記憶からお伝えしているため、誤りがあるかもしれません。その点はどうぞご容赦ください。

リビー・ヒルさんのサイト Small Talk http://www.private-speech-therapy.co.uk

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SMIRA2016年コンファレンス―― 子どもにあう多面的なアプローチ

《場面緘黙とスピーチセラピー:効果的な治療を組み合わせて》 言語聴覚士&アニマル関連セラピスト、リビー・ヒルさん

SMIRAの2016年コンファレンスにおける講演の内容を、できるだけ簡潔にお伝えしたいと思います。一番バッターはSLT(言語療法士)のリビー・ヒルさん。イングランド中部にあるスタフォード州に言語療法センターを構え、アニマルセラピーやCBT、学校との連携などを含む、多面的なアプローチで子どもの話し言葉、言語、コミュニケーションの改善に取り組んでいます。なお、このセンターは場面緘黙が専門ではなく、言語の問題からASDや学習障害を抱える子までを幅広くカバー。私立の施設ならではの、細やかな治療例について話してくれました。

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まず、最初に強調したのは「子どもはそれぞれ違うから、その子にあった治療法が必要」ということ。場面緘黙の発症率は150人にひとりとされていますが(昨年夏にBBCの情報番組で発表された最新の数字と同様。詳しくは、BBCの最新データをご参照ください)、学校とNHS(国民保健サービス)だけでは対処しきれず、プライベートの治療にたよるケースも多いのが現状のよう。

<治療例1>

17歳のエイミーさん: 幼稚園から現在まで学校では全く話せず、直接話せるのは家族のみ。友だちとはスカイプやSNSを通して会話するものの、人との集まりを避け、自分の部屋に閉じこもりがち。

年齢がうえの子どもやティーンについては複合的なケースが多いため、カウンセリング的なアプローチを用いるそう(リビーさんはマギー・ジョンソンさんの場面緘黙ワークショップで研修し、CBT(認知行動療法)の資格も持っています)。

エイミーさんのケースは「話す」ことよりも、「今後何をしたいか目標をたてチャレンジする」ことに焦点を当てました。これはマギーさんによる、年齢がうえの子への支援と同じですね。

エイミーさんのやりたいことは、以下の3つでした。

  • アルバイトをする
  • 運転免許を取る
  • カレッジで勉強する

人前で長年話せていない、引っ込み思案のティーンがどうやってこんな目標をかなえられるのか?

まず、セラピストに目標を打ち明け、どうすればいいか話し合う(多分、最初はキーボードを使用したんだと思います)ことで、エイミーさんのモチベーションをあげました。

詳細は判りませんが、「ほとんど話さなくてもいい」仕事探しをスタート。やりたい仕事を見つけたら、まず文書で自分の緘黙状況を説明してから応募するという方法を取ったとか。「そんな仕事あり?」って思ってしまいますよね?でも、ものすご~くいっぱい探した後に、見つかったそうです!それはネットで見つけたオンライン貸し衣装(コスチューム)の仕事。ネット上で注文を受けるため、顧客と話す必要はなく、職場は物静かな人とふたりだけ。あまり話をする必要はなく、注文のチェック&発注といった作業を淡々とこなせばOKの仕事だそう。実は、応募したのはエイミーさんのみで、めでたく採用となった模様。人生、何事もやってみなければ分からないものですね。

こうしてお小遣いが手に入るようになったエイミーさんは、次に運転免許取得に着手。まず、あまり話さなくてもいい教官を探すことから始めました(イギリスには自動車教習所がないため、プライベートの教官を雇って、いきなり路上で練習します)。口コミで探した末、ビデオで予習させてくれる女性教官を見つけ、実際あまり話しをせずに実技をマスター。その教官が試験官に事情を説明してくれて、エイミーさんはなんとか合格できました!(事前に動画サイトを見まくって、試験のパターンを学んだそう)

そして、最後がカレッジで勉強すること。イギリスでは18歳まで勉強する権利を保証されているため、カレッジとかけあってSkypeでのインタビューに挑んだそうです(結果はまだ出ていないそう)。

目標にタックルしている間、リビーさんはCBTでエイミーさんの考え方を徐々に前向きなものに変えていきました。その成果もあり、着実にスモールステップに取り組むことができたよう。また、実際にインタビューの練習をしてコツを覚えるなど、話す経験を積むことが自信に繋がりました。

エイミーさんが今どれだけ話せるようになったのか、そのあたりは曖昧でした。が、「話すこと」でなく、まず明確な目標を持たせて、「自分の力で目標をかなえる」ために動けたこと、人との信頼関係を築けたことが大きかったんじゃないかと思います。その過程で自信をつけ、自然と「話すこと」にもチャレンジする精神が培われたんじゃないでしょうか?

心のなかで「これがしたい」と思っている → 誰かにその思いを伝える

些細な事ですが、これだけでもかなり違うと思うんです。自分の思いを言う・書くことで、客観視もできるし、まずはコミュニケーションの始まりですよね。

なお、この講演については資料が配布されず、私のメモと記憶からお伝えしているため、誤りがあるかもしれません。その点はどうぞご容赦ください。

リビー・ヒルさんのサイト Small Talk http://www.private-speech-therapy.co.uk

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SMIRAの2016年コンファレンス

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マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年とティーンの支援』

 

SMIRAの2016年コンファレンス

先週の土曜日2月20日に、イギリスの場面緘黙支援団体SMIRA(Selective Mutism Information Research Association)の定例総会に行ってきました。今年も全国から、緘黙児の保護者や家族、言語療法士を主とする専門家やTA(教育補助員)など、合計61名が参加。特に、場面緘黙の成人3名が友だちや姉妹と参加していたのが印象的でした。会場は例年とおなじくSMIRAの本拠地、レスターにある教会のホール。2階では参加者の子どもを集めた活動が行われ、午後になると上階でドタドタ走り回る音が聞こえたので、子どもたちも楽しめたようです。

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今年のプログラムは:

  • 場面緘黙とスピーチセラピー:効果的な治療を組み合わせて(SM & Speech Therapy: Doing what it takes)by 言語聴覚士&アニマル関連セラピスト、リビー・ヒルさん
  • 場面緘黙とスピーチブロック (SM & Speech Blocks) by シレジア大学(ポーランド)ソニア・ツラメク・カーツ教授と研究員
  • プレゼンテーション by サブリーナ・ブランウッドさん(場面緘黙の成人)
  • 『場面緘黙リソースマニュアル』第2版のプレビュー by 言語聴覚士、マギージョンソンさん
  • 啓発キャンペーンの成果発表 by SMIRAコーディネーター、リンジー・ウィティントンさん

特に、犬を使ったアニマルセラピーやCBTを組み合わせた多面的なアプローチ法と、大幅に改定されたという『場面緘黙リソースマニュアル』第2版のプレビューが興味深かったです。このマニュアルは今年8月に出版予定ですが、今回は家庭や学校外での取り組みを総括的にカバーし、学校での取り組みと平行して行う内容だとか。教育システムが違う日本でも、大いに活用できそうで期待大です。

なお、定例会の内容については、追ってかんもくネット掲示板とこのブログでお伝えしていく予定です。

 

専門家に相談する必要性?

前回の記事で、取り組みには「心理士とのセッションは必須ではない」と書いたのですが、良い心理士や精神科医に巡り合えれば、子どもも保護者も安心できるし、心強いと思います。私の印象だと、日本ではまだまだ特別支援教育が徹底しておらず、学校全体としての支援体制はあまり整っていないような…。その反面、担任の先生の個人的な努力によって、ものすごくきめ細やかで理想的なサポートが実現しているケースも多いですよね。イギリスではビジネスライクな人が多いのに、日本の教師ってスゴイ!

こちらでは特別支援体制は整っているのですが、各学校によって支援の程度が大きく異なります。特にセカンダリー(中・高校)だと、場面緘黙だけでは殆ど支援なしのところも…。NHS(国民保健制度)にはCAMHS(Child and Adolescent Mental Health Service 小児・青少年メンタルヘルスサービス)部門があり、児童から18歳までの子どものメンタルヘルスを専門に扱っています。とはいえ、受診は2~8ヶ月待ちというのもざらで、担当のセラピストや心理士が場面緘黙の知識や経験を持ちあわせていないことも。また、予算の関係もあるのか、保護者や学校に丸投げというケースも多いんです。

住んでいる地区によって、通っている学校によって、基準やサービスの格差が激しい――まるで宝くじだな、といつも思います。CAMHSのアポを待っている間にSMIRAの会員になり、学校と協力して取り組みを始める保護者が多いんじゃないかな。とはいえ、イギリスでは「学校でしゃべらない」というのは一大事なので、担任から保護者に連絡がくるのが早いんです。また、5歳になる年から小学校が始まるため、早期発見につながってると思います。

昨年イギリスで出版された最新の緘黙研究本、『Tackling Selective Mutism』では、『場面緘黙リソースマニュアル』の著者、マギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが、場面緘黙のカテゴリーを大きく3つに分けています。

  • 純粋な場面緘黙
  • 言語に問題がある、または学校で話される言語が母国語でないケース
  • 複合的な場面緘黙 - 自閉症スペクトラム障害(ASD)や学習障害(LD)、社会不安障害(Social Anxiety Disorderなどの障害が併存していたり、親の死など大きな心理的問題を抱えているケース

あれっと思ったのは、以前はなかった社会不安障害SADが複合的な場面緘黙に含まれていること。2013年に改定されたアメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル、DSM (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)の最新版DVS-Vでは、場面緘黙が「通常、幼児期・小児期、または青年期に初めて診断される疾患」から、「不安障害」へと移行しました(詳しくは場面緘黙とは?(その2)をご参照ください)。

同じく不安障害のカテゴリーに入っている社会不安障害については、DSM-Vから社会恐怖(social phobia)という名称が社会不安障害(Social Anxiety Disorder)に変わりました。子どもの社会不安障害については、下記の基準1で触れています。

  1. 他者から意識、注目、または批評されていると感じる社会的状況において生じる、特有の恐怖や不安。成人では初デートや面接、初対面の人と会う時、発表会、クラスや会合での発言などを含む。小児では、これらの恐怖症的/回避的行動は成人との交流というより、同世代の子どもとの社会的場面で起こるものでなければならず、親から離れない・泣くなど、年齢相応の明確な恐怖や不快感を示す
  • fear or anxiety specific to social settings, in which a person feels noticed, observed, or scrutinized. In an adult, this could include a first date, a job interview, meeting someone for the first time, delivering an oral presentation, or speaking in a class or meeting. In children, the phobic/avoidant behaviours must occur in settings with peers, rather than adult interactions, and will be expressed in terms of age appropriate distress, such as cringing, crying, or otherwise displaying obvious fear or discomfort.

基準6には「こうした状態が6ヶ月以上続く」とあります。

場面緘黙の子どもは抑制的な気質の子が多く、繊細で不安になりやすい--普通だったら気にしないような出来事や他者の言動に、酷く傷ついてしまうこともあると思います。振り返ってみると、息子は幼少の頃、複数の犬に追いかけられて犬恐怖症に、レジャープールのすべり台から水の中に深く沈んでプール恐怖症になった過去が…。2つともDIYのエクスポージャー法で7、8歳までに克服できたものの、恐怖症になる傾向が強かったよう。

小児の不安障害を調べてみたら、場面緘黙や社会不安障害のみでなく、全般性不安障害(GAD)、強迫性不安障害(OCD)、パニック障害、分離不安障害、外傷後ストレス障害(PTSD)もあるんですね…。

メルクマニュアル医学百科 小児の不安障害 (←このサイトに詳しく書かれています)

言語に問題がある、または複合的な緘黙になると、取り組みがなかなか進まず、改善がゆっくりになる傾向があります。取り組みやステップが子どもに合わないケースもあるでしょうし、併存している問題が絡んでいるかもしれません。そういう場合は、心理士や精神科医を訪れた方が良さそうです。また、新たな兆候や症状が出たり、いつもと違うなと感じたら、二次的な問題を防ぐためにも専門機関に相談してください。なんでもなければ安心できるし、早期発見だったら症状が軽いうちに治せるかもしれません。

風邪をひいたら医者に行くように、心が風邪をひいたら気軽にセラピストや心理士を訪ねられるといいですよね。イギリスではプライベートのカウンセリングルームがあちこちにあって、人間関係や仕事の悩みなどの相談をする人も多いんです。ただ、敷居は低いんですが、なにせ料金が高い!色々あって落ち込んでいた時期に、誰かに話を聴いてもらいたいと思って調べたら、1回1万円以上でした..。そのうえ、通常は4~6セッション必要と書いてあって、すぐ断念。その代わりに、新しいサークルに入ったのでした(笑)。

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サキ君の動画について(その5)ー 緘黙とエクスポージャー法

お知らせ

めっちゃ遅れてしまいましたが、教育・知育ソフト、学び空間などの企画・開発を行っているレデックス社のメールマガジンで、『場面緘黙の子どもへの理解と対応』という連載記事を掲載中です。この連載はかんもくネットが執筆を担当し、リレー方式で5回まで続く予定です。第2回目の『(第2回)場面緘黙児の不安を減らす』(担当させていただきました)をレデックス社のHPで読むことができます。よろしかったら、下記のWebページをのぞいてみてくださいね。1月29日配信の2つ目の記事です。

レデックス社メールマガジン http://www.ledex.co.jp/mailmag/20160129