保護者へのアドバイス SM H.E.L.P 2025年10月サミットより(その3)

イギリスでは1週間ほど前から冷え込みが厳しくなってきました。冬時間に変わってから日が短くなり、どんより曇り空が続く毎日。そんな中、太陽と青空を見ると本当にほっとします。

       すぐ変わる天気予報とにらめっこの今日この頃。ウォーキングや散歩、外出が晴れの日に当たったら超ラッキー

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講演者:ルース・ペレドニク(Ruth Perednik)

心理士でエルサレムにある場面緘黙治療センターの所長。息子が場面緘黙を患ったことをきっかけに、緘黙に苦しむ子どもや十代の若者の治療に情熱を注いできた。

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家族全員の理解を

緘黙児の両親に多いのは、ひとりが熱心な支援者でもうひとりはそれほど関わっていないケース。両者ともにSMについて学び、家族全員を教育する必要があります。緘黙の子どもに対して、どんなスモールステップを計画していて、家族がどの様な態度を取ればよいかを全員に理解してもらうこと。

祖父母に理解・協力を求める

祖父母はスライドインに使える貴重な要員であり、祖父母から他の親戚へと子どもの世界を広げていくことができます。SMを言葉で説明するのが難しい場合は、映像や緘黙のドキュメンタリーを見せるのが効果的。それでも「ちゃんと挨拶しなさい」と子どもにいう場合は、わざと話さない訳ではないことを説明し、「すべきこと」「してはいけないこと」を具体的に伝えてください。

祖父母や親戚の方へ

久しぶりに会っても目も合わせず、言葉も発さない孫に、祖父母としては傷つくかもしれません。でも、パーソナルなことと捉えないようにしてください。

「挨拶しなさい」ではなく、返事がなくても笑顔で「よく来たね」と声をかけてください。会話の有無にかかわらず、子どもが好きな遊びを一緒にやって、自分たちも楽しみましょう。自分たちの理想や一般論を押し付けるのではなく、子どもの今をそのまま受け止めて。子どもがそこにいること、一緒に何かできることが大切なのです。非言語のコミュニケーションでも信頼関係を築くことができます。

きょうだい児への配慮

緘黙児の兄弟姉妹(きょうだい児)にもきちんと説明・理解してもらうことが重要。自分が構ってもらえないジェラシーを抱え続けていたり、「お前の妹、話せない」などと同級生などに言われて傷つくことも。SMは克服可能であることを説明し、状況や年齢に合わせて、その時々に何が起こっているのか、どうしたら助けることができるのかを説明しましょう。短くてもいいので、きょうだい児と1対1で向き合える時間を作ってください。

成長したら治る訳ではない

多くの緘黙児は学業には問題なく学校生活を送れていて、話せないかもしれませんがちゃんと友達もいます。そのため、周囲は子どもが話す気になるまで待とうと考えがち。でも、子どもが自分だけの力で克服することは困難です。思春期の子どもは不安のために他の不安障害を発症してしまう可能性もあることを忘れないで。焦る必要はありませんが、同級生たちはスポーツや習い事など、どんどん社会的な経験を積んでいることも心にとめておきましょう。

もし成人だったら、自分で病院に行ったり、薬を飲んだりできます。でも、子どもは大人に依存するしかありません。学校で一日話せなくて、どんな気持ちで無言の時間を過ごしているのか、それが子どもの自己肯定感にどんな影響を与えているか…。

毎日の暮らしの中で話せないこと、質問に答えられないこと、自分から何もできないこと、要求を口にできないことーー周囲の人間が気づいて配慮することで、随分違ってきます。全く知識のない人に説明するのは大変かもしれません。でも、サポートネットワークの輪を広げていくことは、子どもだけでなく保護者のためにも重要です。

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緘黙児の保護者として SM H.E.L.P 2025年10月サミットより(その2)

イギリスは先月末に夏時間から冬時間に変わり、どんどん日が短くなってきました。今秋は例年になく暖かで、春夏の日照時間が長かったためか紅葉がきれいです。といっても、落葉樹の葉はかなり散り始めていて、もうあたりは晩秋の風景。

      今年のアメリカ蔦も、紅葉も例年より赤かったような…。街角の郵便ポストには児童書のキャラクター達の編みぐるみが

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講演者:ジョリーン・ファーナルド博士(Dr. Joleen Fernald)https://www.joleenfernald.com/

乳幼児期における精神保健学の博士号を持ち、フロリダ州で神経多様性を尊重する診療所を運営。場面緘黙の子どもたちに使用するDIR(The Developmental, Indidual-difference, Relationship-based)-SMカードデッキを出版している。

緘黙児の親としての道のり

ファーナルド博士の娘さんが場面緘黙(SM)になったのは、今から21年前のこと。まだインターネットが普及しておらず、SMが知られていなかった時代でした。言語療法士の資格も持つ彼女でさえ、SMに対する知識はなかったといいます。

「当時3歳だった娘は、恥ずかしがり屋で臆病なところがあり、音に対する強い感覚過敏がありました。家では自信たっぷりに話すのに、外に出たとたん貝のように押し黙る…」

当時、SMの原因はトラウマと考えられており、診断までに随分時間がかかったそう。治療してくれる専門家が見つからず、緘黙について学びながら自身で治療にあたることに。

ファーナルド博士は娘さんとSMについてオープンに話し合い(年齢相応に)ながら、小さなステップを積み重ね症状を改善させていきました。

もちろん、目標は話すことですが、そこに行きつくまでの小さなステップのひとつひとつが大切だと話します。

「一歩進んで三歩下がるといった感じで、落胆して泣きたくなることも多かったわ。緘黙児はそれぞれ違うから、子どもも支援者も常に手探りで学んでいる状態。だから、失敗してもいいんです。失敗を振り返って、更に細かいステップに分けてみたりと、子どもに合った工夫を重ねていければ大丈夫」

例えば、「こんにちは」と言えなくても、スクールバスから手を振るだけで大きな進歩。それを支援チームみんなで喜ぶことで、次に向かう勇気がわいてきます。反対に、失敗したときは一緒に支え合うことが大切。

娘さんは早くから「SMは特定の場所で言葉を出しにくい症状」と説明を受け、理解していたそう。言語能力が高く、大好きだった『オズの魔法使い』の中の臆病なライオンをよく引き合いに出していたとか。

彼女たちは発話以外にもっと多くの挑戦ができる様、抗不安薬の服用にも踏み切りました。娘さんはこの薬を「勇気がでる薬」と命名。積極性が出てきて、かなりの成果があがったそうです。

SMの背後にあったもの

「実は、娘には気がかりな点がありました。同年代の女の子とは興味の対象が全く違っていて、社会性の遅れが明確だったんです。ASD(自閉症スペクトラム障害)ではないかと疑っていたんですが、色々な専門家に相談してもずっとグレーのまま。今考えると、娘はマスキングが上手かったんでしょうね」と当時を回想します。

「思春期になっても、娘にはお洒落をしたり、恋愛をしたり、遊びに出かけたりといった経験が全くなくて。社会性では妹にも追い越されてしまい、親としてはすごく落胆したし、悲しかったわ。娘は一生友達も恋愛もできないんじゃないかと悩みました」

この疑惑は、コロナ禍にドキュメンタリー番組を観ていた時に解けました。ASDの主人公の女の子を見て、娘さん自身が「私にそっくり」と気づいたからです。

最終的にASDの診断が下りたのは19歳の時でした。家族は娘さんの性格やそれまでの行動に納得し、安心できたといいます。

娘さんは、今では結婚して家庭を持ち、幸せに暮らしているそう。

「保護者はどうしても『普通の子のように』と望んでしまい、失望や落胆や悲しみを感じるでしょう。でも、今何が起こっていようと、どんなに大変だろうと、それは今だけのこと。子どもは日々必ず成長していくものです。明日、来年、5年後にはどうなっているか誰にも判りません。今子どもができて嬉しいことは何か?今子どもとの絆を深められることは何か?子どもが今できることに焦点を当て、子どもとの時間を楽しみましょう」

近年、脳の多様性が重んじられる様になり、その人らしく生きるという考え方・フレームワークが主流になってきています。多様性があるからといって、決して人より劣っている訳ではありません。子どもに診断名を告げることは昔より楽になってきているといえます。

子どもにどんな診断名がつこうと、今までと変わらないあなたの子どもだということをどうか忘れずに。

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