場面緘黙と自閉症スペクトラム障害(ASD)SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その8)

3月も後半になり、イースターの長期休暇まであと1週間。急に暖かくなったかと思うと、また気温が下がったりして、寒暖差が激しい今日このごろです。

     でも、野外はすっかり春の様相。花屋さんの店先は季節の花々があふれています。

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さて、またまたSM H.E.L.P. 秋サミットの続きです。今回はSMとASD併存のケースについて。

クレア・キャロルさんは教育心理学者として20 年近いキャリアを持ち、英国マンチェスターの One Education に所属。教育現場における神経多様性のある子ども達のためのプロジェクトに参加している。ASD(自閉症スペクトラム障害)の息子さんにSM(場面緘黙)の症状があったため、2014 年に場面緘黙の追加トレーニングを受講。2017 年に英国の場面緘黙支援団体 SMiRA の理事に就任している。

2018年北欧で発表された論文からの抜粋

ステファンバーグ等の研究(『ASDとSMを併存する児童(Children with Autism Spectrum Disorders and Selective Mutism: Steffenburg H, Steffenburg S, Gillberg C, Billstedt E. )』によると、北欧におけるSM発症の平均年齢は 4.5 歳。診断時の平均年齢は 8.8 歳でした。男女比では女子の方が多く(男子: 女子 = 2.7: 1)、研究グループの63%(2/3)がASD(男女差なし)であることが判明。 ASDを併存するSMグループは、症状の発現が遅く、診断時の年齢が高く、言語遅延の病歴はより多く、境界線IQまたは知的障害の割合が高いという結果が出ています。

ASDと場面緘黙の併発率について

イギリスではつい最近までASDとSMが併存するという診断を下しにくい状態にありました。これは、ASDが一次障害として上位診断されていたためです。

SMiRAが現在行っている調査によると、参加した264名の家族のうち自信を持って緘黙のみと答えたのは全体の28%。 残り72%の家族は他の疾患を併発していると考えており、その中ではASDの疑いが最多。その内、85%は診断がおりておらず、62%がASDの診断中・または診断待ちの状態です。

ASDで話さない子と、ASDとSMを併発している子との違い

Non-Verbal (言語を伴わない)のASD児はどこでも話せませんが、ASDとSM併存の子どもは場所によっては話せるという明確な違いがあります。SMの基準は全く話せないということではなく、普段の様に話せないということ。また、自発的に話すことができず、少しだけ返答をするケースも考慮に入れなくてはなりません。

イギリスではここ5年の間に、ASDに対する考え方が変わってきています。 ASDであることを肯定的に捉えてサポートする動きに変わりつつあるのです。社会的スキルのトレーニングに重点を置くのでなく、ASDの若者のニーズを分析・考慮し、彼ららしく人生を歩いていける様にサポート。彼らがしたいこと、家族が望むことを応援し、やりたくないことは絶対に強要しないといううスタンスを取っています。

ASDにSMが加わるケースを調査していくと、どうして緘黙になるのか、通常とは異なる原因が見えてくるといいます。一般的に、ASDではないSM児においては、人に話しているところを見られる恐怖や社会不安が大きな要因。一方、ASD児は不安のために圧倒(overwhelmed)された状態に陥り、そのせいで緘黙になっていると考えられます。この場合、話せないだけでなく、身体が硬直している場合が多く、部屋の片隅でひとり突っ立ったままということも。

こうしたケースでは、話せない環境そのものに目を向ける必要があり、通常のスモールステップは有効ではありません。

ちょっと長いので次回に続きます。

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場面緘黙と社会不安障害 SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その5)

場面緘黙と強迫性障害 SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その6)

場面緘黙とPDA(病理学的要求回避) SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その7)

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場面緘黙とPDA (病理学的要求回避)SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その7)

3月ももう半ばですね。時間があっという間に過ぎ去って、季節がどんどん移り変わっていきます。そのスピードに全然ついていけていない自分が怖い(^_^;)

       イギリスでは先週末まで初夏のような気候で、樹木の花が一斉に咲き始めました。が、それから以前の寒い日々に逆戻り…。

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さて、昨年秋のSM H.E.L.P.の記事はまだまだ続きます。

ダニエラ・ジェタホール(Danielle Jata-Hall)さん は、ニューロダイバージェント(neurodivergent: 神経多様性=脳や神経の発達が「標準的」な人々とは異なるため、認知機能または感覚機能が標準とは異なる)の 子どもを3人持つ母親。3人ともASD(自閉症スペクトラム障害)で、うち2人はPDA(Pathological Demand Avoidance 病理的要求回避 ) 。ダニエラさんは特別支援が必要な子どもをサポートする教育現場で働き、支援グループの運営も。受賞歴を持つブロガーでもある。特に、PDA の啓蒙・研究者として知られ、著書に『Black Rainbow』や『 I’m Not Upside Down, I’m Downside Up』がある。

我が子のPDA(病理学的要求回避)を発見

長女の様子がおかしいと気づいたのは2016年のこと。表面的には社交的でコミュニケーションスキルに問題はないと思っていたため、レーダーから外れていました。でも、思えば赤ちゃん時代から感情の起伏やコントロール要求が激しく、どう扱っていいか判らず振り回されていました。

小学校に入学すると、コミュニケーションに問題があることが明らかに。娘は自分をコントロールすることができず、精神的に大変な状態に陥りました。学校に相談したところ、返ってきたのは「心配しすぎ」との返答。外見上は上手くやっているように見えるため、信じてもらえなかったのです。

ペアレントコントロール等を学んで対応しましたが、上手くいかず…。行き過ぎの行動に罰を与えるようにしたところ、頭を壁にぶつける自傷が始まってしまいました。

そんな時、英国のSLTリビー・ヒルさんがアドバイザーをしているTV番組を観て、娘の症状がPDAだと気づいたのです(詳しくは『PDA(病理的要求回避)の具体例』をご参照下さい)

例え自分がしたいことであっても、要求だと思うと全てが不安に繋がってしまうのがPDA。極端なケースだと、歯を磨いたり、お風呂に入ったりなど、暮らしの中ですべき当然のことでさえ要求と捉え、実行することが困難になります。娘は楽しみにしていたハロウィーンでさえ行けませんでした。

巧みな言い訳で逃れようとする

歯を磨くのを避けるために、「顔を先に洗ってから」「着替えてから」など、もっともらしい言い訳をします。どのくらい回避・拒否し続けるかは決まっておらず、すぐ終わるときもあれば長く続くことも。玩具などを使ってやらせることに成功しても、本人がそれを要求だと見破れば再び拒絶。今日我慢できても、明日我慢できるとは限りません。娘は感情の起伏が激しく、その変化の速さに追いつけない状態です。

人に執着することも

娘はロールプレイやごっこ遊びが異常に上手く、誰かになったつもりになると外でも問題なく行動できたりします。また、人に焦点を当て執着してしまうこともあります。

現在13歳になる娘をトイレに連れて行き、時には手助けをしなければならない場合も。「どうやって歯を磨かせるか」と考えた時、「磨かせる」という表現自体が要求ですよね? 子どもと話し合い、もしできなければ口を濯ぐだけでOKという選択肢も用意しましょう。私は子どもが自分でコントロールできていると感じられる様、言葉を選んだり、間接的に告げたりする様にしています。

行動する前に、どういう風に言い回しを変えるか、どこまで妥協するかを考えておくこと。私が優先するのは子どもの衣食住と健康です。優先したことを終わらせるために、他は妥協せざるを得ない場合も多々あります。

保護者はPDAの子どもの困難を理解し、どのように支援できるかを探って下さい。一方、子どもは自分の困難を理解して、それをどう管理できるようにするかを学んでいきます。全部はできないので、まずは優先順位を決めて、後はできなくても仕方ないと諦めることも必要です。

外から見ると、保護者が子どもを甘やかしているだけに見えるかもしれません。躾がなっていない子どもの保護者として、責められることも多いでしょう。でも、人がどう思うかより、自分の子どもが毎日の要求にどうやって対処していけるかの方が大切です。PDAは比較的新しい症状なので、まだまだ研究中。全員が理解してくれる訳ではないから、周囲が少しずつ変わっていくのを待つしかありません。周囲に説明する時、私は解りやすいようにウェブや本のページを借りて伝えるようにしています。

保護者の心理を考えると心労がすごいと思います。周囲がPDAの知識を持たないため、保護者はいくら頑張っても批判されがち。批判されると、自分の行動が正しいのかどうか判らなくなり、混迷してしまう人も多いことでしょう。

PDA協会には豊富な資料があり、コンタクトを取ることが可能です。是非アドバイスをもらって下さい。あとは、少しでもいいから自分の時間を持つこと。保護者が自分を守ることが大切です。PDAの子どもを抱える母親、父親、家族に、独りじゃない、本当によくやっているよと声をかけたいです。自体はこれからもっと良くなって行くはずだと信じています。

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