SM H.E.L.P. 2023年10月サミット(その1)

11月も今日で終わりですね。ロンドンでは今週から急に気温が下がり、今朝は路上駐車している車の窓ガラスに初霜が! 予報ではまだ冷え込みが続くらしいので、近いうちに初雪が降るかもしれません。

  

 

   黄色く紅葉した落葉樹もずいぶん葉を落とし、冬の風景に変わりつつあります。街角の花屋さんで季節外れのチューリップを発見

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10月は欧米における場面緘黙の啓蒙月間でした。アメリカではケリー・メルホーンさんが毎年恒例となっているSM H.E.L.P. の秋サミットを開催。今回のサミットでは、より総合的でホリスティックな視点から場面緘黙を捉えているように思いました。

時間がなくて一部しか視聴できず、よく理解できていない部分が多々あるのですが、印象に残った対談の一部概要をお伝えします。

まず、フロリダ州でカイロプラクターの診療所を営む、マイケル・ロングイヤー博士(Dr. Michael Longyear)との対談から。博士はカイロプラクターを養成する私立大学、ライフ大学の神経科学研究所の元所長です。

注:カイロプラティック:骨の歪みを矯正し、体の不調を改善させる施術 

娘さんが場面緘黙を克服できるよう、ケリーさんは心理士や言語療法士のみならず、幅広い分野の専門家に支援を求めました。カイロプラクターのロングイヤー博士もそのひとり。

脳と身体の繋がり

この対談のキーワードは「迷走神経(vagus nerve)」。昨今、脳神経科学の研究が盛んに行われていますが、SM(場面緘黙)においても脳神経の研究は欠かせないものになってきているよう。対談ではステファン・Wポージェス博士が1994年に提唱したポリヴェーガル理論(Polyvagal theory)の話も少し出ましたが、ここでは割愛します。

迷走神経とは何か?

迷走神経は脳と末梢器官を結ぶ神経で、頚部から胸部、腹部の内臓、心臓や血管などに広く分布。感覚・運動・副交感神経として働き、声帯心臓胃腸消化腺の運動、分泌司っています。さらに、メンタルヘルスとも密接に関わっていることが解明されています。

<Wikiの解説>

迷走神経

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BF%B7%E8%B5%B0%E7%A5%9E%E7%B5%8C

ポリヴェーガル理論:

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%AB%E7%90%86%E8%AB%96

ロングイヤー博士が強調するのは、迷走神経の身体をリラックスさせる機能

「迷走神経は身体を休ませ、回復させる機能を持つ、いわば生命維持システムの中で最も重要な部分。注目すべきは、身体がリラックスしている間に身体や神経の再生・再構築を行っていること。例えば、迷走神経はストレスで疲れた身体を回復させる役割を果たす。また、末梢神経は消化とも深く関わっている」

「迷走神経に対し、脳の扁桃体(アミグダラ amygdala)は不安や恐怖を司るセンター。脳が危険を察知すると扁桃体が活性化して、ハイアラート状態になる。扁桃体と迷走神経は緊密に関わり合っており、扁桃体のスイッチが入ると迷走神経のスイッチかオフになる。脳も身体も、全てが繋がっているから、そのバランスを保つことが大切」

SM(場面緘黙)の人は不安や恐怖を感じやすく、扁桃体が過剰に反応してアラート状態が続くといわれています。その間、迷走神経がきちんと作動しないため、身体を休息・回復させることができません。ストレスがたまったままだと、身体的にも精神的にも疲労した状態。また、迷走神経が司る心拍、体温調整、消化などの機能にも影響が出て、身体の不調につながることも。

うちの息子は緘黙が酷かった頃、よく家でかんしゃくをおこしていました。SM児は学校で大きなストレスを抱えているため、抑えられていた感情が家で爆発してもおかしくありませんね…。また、息子は緊張するとトイレが近くなったり、ストレスでお腹を壊すことが多かったんです。ちなみに、私は過敏性腸症候群(IBS)なのですが、3年ほど前息子にも同じ診断が下ったのでした^^;

かなり中途半端で申し訳ないのですが、この続きは次回へ。

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場面緘黙に対する思い ー マギー・ジョンソンさんのポッドカストから

11月も半ばに差し掛かり、季節は秋から冬へと変わりつつあります。今年は日本でもコロナ禍が終焉した(様に報じられていますよね)ためか、この寒くて暗い時期にまだまだ海外からの訪問者が途切れません。

    今週末はブルガリアから友人家族が来訪。イスラエル軍のガザ侵攻に反対する大規模な抗議デモがあったため、街中は避けてテムズ河南岸&バラマーケット付近を散策してきました

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さて、マギー・ジョンソンさんのポッドカストの続きです。

マギーさんは最近NHS(国民保険サービス)におけるSLT(言語聴覚士)の仕事を退職されました。でも、その後もワークブック執筆や他国での講演会、国内でのワークショップなど多忙を極めているとのこと。

場面緘黙の定義や一般の知識については、まだまだ誤解が多く改善の余地があると思っているそう。

まず、Selective Mutismという疾患名について。「selective」は本人が話さないことを選択していると誤解されやすいため、Situational Mutism(状況的緘黙)という呼び方が適切だと考えています。

また、ASD(自閉症スペクトラム)とSM(場面緘黙)が併存するのは周知の事実なのに、DMS-5では併存が認められず(詳しくは『場面緘黙と自閉症(その3)SMiRAの立場』をご参照ください)、改正を望むとも。

マギーさんはDMS-5 (2013年)において、SMセクションのコンサルテーション・パネルに選ばれ、「不安障害」へのカテゴリー変更に尽力しています。これにより成人の場面緘黙が診断されやすくなりました。

現在は「場面緘黙」と「不安障害」との関連について、更に深く考察しているよう。SM児は社会不安を抱えている訳ですが、SMになる前からそうだった訳では無いといいます。

「SMは社会不安による極端なシャイネスと思われることが多いけど、家庭では活発でお喋りな子が多いの。よく考えて欲しいのは、SMは不安が原因で起こる症状ではないということ。恐怖症と同じで、SMは恐怖条件が起因となって起こる症状。そして、SMになったことが原因となって、大きな不安を覚えるようになるんです。

例えば、犬恐怖症の人は犬に対する不安が原因で犬恐怖症になった訳ではない。何かがきっかけがあって、何故だか解らないけれど犬に対して理不尽なまでの恐怖にかられる様になる――そこから、犬を避けたり、犬に遭ったらどうしようと大きな不安を抱えるようになるんです。

生まれつき不安になりやすい気質を備えているとしても、多くの子どもはSMになるまでは不安障害というほど重症ではなかったと思う。SMになったことで、深刻な社会不安になるんです」

そう言われてみると、抑制的な気質を持って生まれた我が息子も、SMになってから社会不安が深刻化したような…。SMはもう随分前に克服しましたが、未だ自己評価がとても低いと感じます。

DSM (米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアルDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)におけるSM(場面緘黙)の遍歴:

1980年DSM-3

  • 初めて記載
  • 疾患名はElective Mutism(選択性緘黙)
  • 分類カテゴリー:通常、幼児期・小児期、または青年期に初めて診断される疾患
  • 定義:正常に話す能力があるにもかかわらず、ほとんど全ての社会的状況で話すことを拒否し続ける(”a continuous refusal to speak in almost all social situations” despite normal ability to speak.)

1994年DSM-4

  • 疾患名がelective mutism(選択性緘黙)から現在のselective mutism(場面緘黙)に変更
  • 定義:特定の社会的状況では一環して話すことができない(consistent failure to speak in specific social situations)に変更

2013年DMS-5

  • 分類カテゴリー:不安障害に変更

DSMが改正される度にSMの定義は変わってきているので、今後も変わっていくんでしょうね。専門家・一般に緘黙の知識が広く浸透し、もっと多くの支援が得られるようになると良いですね。

このポッドカストはSMiRAのサイトからリンクされています: http://www.selectivemutism.org.uk/videos/

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マギー・ジョンソンさん出演のポッドカストから

ハロウィンも終わり、午後4時すぎにもう暗くなり始める今日このごろ。雨混じりの曇り空の下、そこかしこに残るハロウィンのジャカランタンがオレンジ色の灯火のようです。

先月天気のいい日を狙って訪れたノーサンプトンシャーの田舎町、オルニー(Olney)

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この5月に新書『保護者や専門家のためのワークブック The Selective Mutism Workbook for Parents and Professionals』を出版したマギーさん。教育コンサルタントのキャシー・ウエストン博士との対談から、印象に残った言葉やアドバイスをご紹介しています。

このポッドカストはSMiRAのサイトからリンクされています: http://www.selectivemutism.org.uk/videos/

どうして場面緘黙になるのか?

緘黙の人が声を出そうとすると、喉の筋肉が動かなくなって、実際に喉が詰まったように感じます。身体が麻痺した様になり、恐怖にかられ、胸がドキドキして、息が苦しくなったり、冷や汗が出たり、吐き気や頭痛がしたりということも…。

この反応が起こるのは、本人にとって安全圏外の人たちから話すことを期待されている時。

人は極度の脅威にさらされると、本能的に「闘うか・逃げるか(Fight or Flight)」反応が起こります。注目したいのは、恐怖のために身体が凍りつく・虚脱したような感じになる「不動化(Freeze)」反応も起こること。

蜘蛛が嫌いな人が蜘蛛を見たら恐怖で固まってしまう――それと全く同じ反応。場面緘黙は正式に不安障害と定義されていますが、マギーさんは恐怖症と捉えるのがいいと提唱しています。

恐怖症の治療はCBT(認知行動療法)のエクスポージャー法が基本。スモールステップで恐怖の対象に少しずつ慣れ、最終的に克服していくのは場面緘黙も同じことですね。

シャイネスとの違い――緘黙児の見分け方

緘黙の子どもは「内気な子」と見過ごされがち。マギーさんは、話さないことだけではなくボディランゲージにも注目して欲しいとアドバイスしています。

子どもは話すことを予期されると、身体の動きや表情まで不自然に凍りついたようになります。内気な子はもっと自然に振る舞うものです。身体やしぐさが極端にぎこちなくなったり、無表情になるということはありません。

また、緘黙児はアイコンタクトを避けて常に下を向いていることが多く、いつまでたっても特定の状況に慣れません。シャイな子どもは(1対1の場合は特に)徐々に打ち解けてコミュニケーションを取り始めるもの。

緘黙児は同じ学校内でも、安心できる子/ 人と一緒の時と、そうでない状況の時とでは、ボディランゲージが全く違います。そして、そのパターンは一貫して続きます。ある子/ 人とは話せても、他の子/ 人とだと凍りついたように押し黙ってしまう――教室では縮こまっているのに、校庭の片隅ではリラックスした表情を見せるなど。ある日は調子良く話せて、ある日は全く話せないということはありません。

保護者だったら家での様子と全く違うことにすぐに気づくはず、とマギーさんは言います。

でも、うちもそうでしたが、親は学校での子どもの様子を知らないため、場面緘黙に気づくのが遅れてしまうんですよね…。反対に、教師は学校での子どもの様子しか知らないため、内気な子なんだと思い込んでいる可能性が高いのです。

緘黙が起こっている場で早期発見してもらうためには、子どもの様子をよく見て、気になる点があったらすぐにアラームを鳴らすことが必要です。そのためにも、学校で緘黙を含むメンタルヘルスの研修をしてもらえたらと思います。

毎年盛大にハロウィンを祝うお向かいさん家

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