季節が目まぐるしく移り変わり、またアメリカの保護者、ケリー・メルホーンさんが主催するSM H.E.L.P.サミットが開催されました。が、先週末はいろいろ先約が入っていて、残念なことに最初のビデオしか視聴する時間がありませんでした。
Regents Park のバラ園では早咲きのイングリッシュローズがほぼ満開でした
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スティーヴン・クィンラン 臨床ソーシャルワーカー Stephen Quinlan, Licensed Clinical Social Worker
不安を抱える子どものセラピストとして20年の経験を持つスティーヴン。非営利支援団体、イースターシールズ(Easterseals)では、ニューイングランド唯一のマルチディシプナリー形式の場面緘黙クリニックにて、メンタルヘルス面を担当。場面緘黙と診断された数百人の子どもと向き合った実績の持ち主。著書に『Raising Voices: A workbook for parents, teachers, and kids with Selective Mutism 』がある
場面緘黙は年齢が若いほど治療プログラムによって克服できる可能性が高い。将来的に何らかの不安を持ち続けるかもしれないが、充実した人生を送れることが多い。
1) どのようにして子どもの不安と向き合い、支援するか
場面緘黙にせよ、それ以外の不安障害にせよ、不安への向き合い方は同じ。子どもが「怖い」と感じる時、脳は自衛のために扁桃体(アミグダラ)から「何らかの危険が迫っている」というシグナルを送る。実際に危険が存在するかしないかに関係なく、脳はそのように反応してしまう。次に同じような体験をすると、簡単にシグナルのスイッチが入り、それが不安や恐怖症に結びつく結果となる。
最良のアプローチは、その子が恐怖を乗り越えられるよう支援すること。恐怖から逃げようとしたり、同じ体験をしないよう回避しようとしたりすることは、結果的にその恐怖を強化する。少しずつ恐怖に直接向き合い、問題はなんなのかを解明していくことが大切。
例えば、犬が怖い場合:CBTのエクスポージャー法を使って、徐々にその子が犬との肯定的な関係を築けるようにしていく。まずは、恐怖の程度を把握し、子どもが耐えられる範囲のエクスポージャーを試みれば、少しずつ恐怖を克服していくことが可能。そうすることで、脳は自動的に書き換えられていく。
例(思考の流れ):
- あそこに犬がいる ⇒ 怖いと感じる
- 逃げる/ 回避する ⇒ 思考を変換 全部の犬が吠えたり、襲ってきたりするわけではない
- お母さんと一緒なら、5メートル離れているなら大丈夫? ⇒ チャレンジできそう
- チャレンジ成功 ⇒ 肯定的な体験をすることで自信がつく
2) 場面緘黙子どもになぜその症状が起こっているか理解させるには
殆どの子どもは自分の体に何が起こっているか理解しているが、それを自分の言葉で表現することは難しい。年齢や症状に応じて場面緘黙がなぜ起こるのか、その症状など例や比喩などを使って分かりやすく説明する。リラックスした雰囲気で、自分の体験やユーモアを交えながら。
例(緘黙の症状):
- 胸が苦しくて、呼吸ができなくなるような気がする
- 心臓がドキドキする
- 喉がつまったような感じがする
3) セラピールームでのスモールステップ支援
不安を感じさせず、リラックスできる環境を整えてから始めること。まず最初はどんな形でもいいので、子どもとコミュニケーションを取ることから。体を動かしたり、ゲームをしたり、音楽を聴いたりすることで緊張が溶けることも多い。事前に保護者から子どもの情報を収集しておくと良い。
- セッションで何をするか子どもに選択肢を与える
- 言葉がでるように期待をかけない(はじめから片言話せる子もいる)
- 言葉が出なくても、指差しやうなずきなど返事ができるように
- 子どもがどの段階にいるか判断する
- 症状に合わせて質問形式を変える(「はい/いいえ」→オープン)
4) セラピールームから日常生活への移行
子どもの症状に合わせて、コミュニティ(ショップ、レストラン、スポーツクラブなど)や学校でも可能なスモールステップを組んで実行していく。失敗すると落ち込んでしまう保護者も多いが、急がず、長い目・スパンで考えることが大切。
- 子どもも保護者も期待しすぎないこと
- 失敗しても気にしないこと(いい時も悪い時もあるということを説明しておく)
- チャレンジするだけでOK(チャレンジすることの重要性を理解)
5) 学校でのチャレンジ
学校は最後の、最も困難な場面であることが多い。学校側のサポートは必要不可欠。担任と保護者とのコミュニケーションが十分に取れていることが大切。
- 事前に担任や学校の空間に慣れておくといい
- 担任に子どもを知ってもらい、トイレなど子どもに一番やりやすい形のコミュニケーション法を予め決めておく
緘黙治療には人間関係が一番大きなファクターとなる 「沈黙」は誰にとっても居心地が悪いものだが、保護者でも、セラピストでも、学校関係者でも、子どもが反応するかどうか5秒間は待つこと。例えば、レストランで注文するチャレンジをする際、全く声が出せなくても、すぐに助け舟を出さないようにする。5秒間待って、反応がなければメニューを読んで「Aにする、Bにする?」と子どもに訊ねる。片言、指差し、うなづきで返事ができればOK。
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緘黙治療として目新しいものはありませんでしたが、子どもの心によりそって、気長に、コツコツと克服していくことの大切さを再確認できたような気がしました。
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