場面緘黙と恐怖症

先週末の日曜日、3か月ぶりに息子に会いにサリー州まで車で行ってきました。大学の進級試験があったので、ロックダウン中も大学のある田舎町に残っていたのですが、友達と自由を謳歌しているよう。元緘黙の恥ずかしがり屋の息子が自立していくのは、嬉しいような淋しいような…。

  

親子3人で森の中でピクニックしてから、テムズ河沿いを歩きました

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イギリスの幼児教育家で著者のキャシー・ブロ-ディさんが、6月1日から1週間、幼児期の話し言葉・言語・コミュニケーション(SLC: Speech, Language and Communication)に関するオンラインサミットを開催しました。

3日目にはSLT(言語聴覚士)で場面緘黙治療の第一人者と言われるマギー・ジョンソンさんが出演。場面緘黙についてわかりやすく説明し、幼児期の早期発見・介入の重要性を訴えました。その中で、特に印象に残った箇所を書き留めておきたいと思います。

●場面緘黙の発症は入園・就学前が多い

様々な研究によると場面緘黙の発症時期は、平均して2~4歳。入園や小学校入学の時期と重なる(英国では3歳で入園、4歳で就学)と言われるが、実はその前から既に発症している子が多い。

久しぶりに会った親戚と口をきかなかったり、ショップで店員に話しかけられると固まってしまったり--こうした緘黙のサインを見落としてしまう親も。子どもは側にいる親には話すので、「うちの子は恥ずかしがり屋だから」「幼稚園に入ったら大丈夫」と思いがち。親が自覚していれば、入園や就学の前に園や学校に相談できる。

園や学校では場面緘黙の研修を行い、こういう症状があるということを周知させておくことが重要。内気なだけなのか、それとも緘黙なのか、注意深く観察する必要がある。「大人しいけどそのうちに慣れる」と見守らず、すぐに行動を起こす。時間が経つほど緘黙が固定化する傾向が強い。

  • 園での子どもの不安/ 緊張度をチェック
  • 緘黙児は話すことを期待される場面での緊張が強く、視線を避けたり、身体が固まったりと、そうでない時とのコントラストが明確
  • おとなしい子は大人が近づいても緊張はそれほど強くなく、1対1だったら割と早く打ち解けて話始める
  • 保護者に家庭での普段の様子を聞き出し、園や学校での様子と比較
  • 保護者から、子どもの個性、好きなこと、得意なこと、どんな話題が好きかなど聞きだしておく

●場面緘黙を恐怖症と捉え、恐怖症の対処法と同じような支援をしていく

例えば、ヘビに対する恐怖症がある人は、極力ヘビに遭遇することを避けたがる。写真や映像を見たり、遠くにヘビを見つけただけで、鳥肌が立ったり、冷や汗が出たり、心臓がドキドキしたりする。

緘黙児も同様に、「話さなければいけない」場面に遭遇すると察知しただけで、不安が高まり、身体的な症状が出る。園や学校では固まってフリーズする傾向が強い。(みく注:緊張が高まると、感情のない能面のような顔になったり、下を向いて黙り込んでしまう子が殆どの様に思います。緘黙児は安心できる家庭ではメルトダウンを起こしますが、園や学校で騒ぎだすことは殆どありません)

緘黙の知識がなければ、教諭は話さない緘黙児をリラックスさせ言葉を引き出そうと、「ここにおいで」「何が好き?」「水遊びしようか?」と質問を浴びせかけがち。そうすると、子どもは更に緊張して押し黙ってしまう。

まずは「話す」プレッシャーを取り払うこと。子どもを放っておくのではなく仲間に入れ、自分の傍に来させて、まずは答えを必要としない言葉がけをしていく。「猫ちゃんかわいいね」「これは何かな?どうやって使うのかな」など、子どもにではなく自分に話しかけるように。

子どもが何かできたら、「上手に描けたね」「この車かっこいいね」などと声に出してコメントしていく。

子どもと信頼関係が築けたら、始めはうなずいたり、指さしできる質問からしていく。「話さなくてもいいから指さしで答えてね。準備ができたら話せばいいからね」と隠さずオープンに。話せないことを知っていることを伝えると、子どもは安心できる。

わざと間違えると、子どもはとっさに訂正してくることが多い。これが自信を与え、話すきっかけになることも。指さしやうなずきで答えられるようになったら、スモールステップで質問を次の段階へと上げていく。

恐怖症と同じで、成長することで場面緘黙が自然に治るということはない。本人が不安と向き合い克服していく必要がある。自然に治ったように見えても、実は子ども自身が頑張って話せるようになったケースが多い。良い環境と適切な支援があれば話すことへの不安が減り、声が出やすくなる。