緘黙のカテゴリーはひとつだけ

イギリスで緘黙治療といえば、言語療法士のマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが共著した『場面緘黙リソースマニュアル(The Selective Mutism Resource Manual)』なくしては語れません。

2001年に出版されて以来、その実用性が高く評価され、緘黙治療のバイブルと呼ばれてきました(詳しくは『場面緘黙とは?(その3)』をご参照ください)。実際の取り組みで得た知見やエビデンスをベースに、子どもの不安を軽減する多様な手法を体系化して掲載。2016年10月に出版された第二版では、ティーンや成人にまで範囲を広げ、多くの資料を追加しています。

実は、この第二版から場面緘黙のカテゴリーが変わりました。そのことを書かなくちゃというのは頭の隅にあったのですが、既に二年以上が過ぎてしまったという…(^^;)

2001年の初版では、「場面緘黙の要素を持つ引っ込み思案」から「年齢があがってから発症する場面緘黙」まで5つのカテゴリーがありました。それが、2016年の第二版からはひとつに統一されたのです。

SAD(社会不安障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)、言語関連の障害などを併発するケースも、年齢があがってから発症するケースも、全て同じ場面緘黙と捉える考え方です(注:トラウマが原因の緘黙(Traumatic Mutism)は除外)。早期発見・介入が治療の鍵になることは、以前と変わりません。

興味深いのは、カテゴリーはひとつに統一されたものの、認識されやすい場面緘黙(High-profile selective mutism*)と 認識されにくい場面緘黙(Low-profile selective mutism*)が新たに追加されたこと。(*High-profileとLow-profileの翻訳に関して、ぴったりくる訳が見つからないので、「ハイプロフィール」「ロープロフィール」とカタカナ表記の方がいいかもしれません)。

SMiRAのウエブサイトからダウンロードできる資料『ハンドアウト3 大人しい子?それとも緘黙?(Handout 3  “Quiet Child or Selective Mutism?”)』からその部分を抜粋しますね。

http://www.selectivemutism.org.uk/info-quiet-child-or-selective-mutism/

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<大人しい子どもは、どの時点で場面緘黙と判断されるか?>

緘黙児はひとりひとり違いますが、以下の共通点がある

★特定の人とは自由に話せるのに、それ以外の人とは話せない(よく2重人格といわれる)

★話せる状況と話せない状況の明確なパターンがある

★発話が期待されるイベントへの参加に回避的、または消極的

★自由に話すことの困難さが理解されないと、大きな苦痛を感じる

<認識されやすい緘黙児と認識されにくい緘黙児>

認識されやすい場面緘黙(High-profile selective mutism)

これらの子どもや若者たちは、特定の人々とは全く話しません。会話パターンのコントラストが明確なため、簡単に場面緘黙と認識できます。例えば、教育の現場では子どもとは話すのに、大人とは話さない。校庭では友達と自由に話すのに、他の人に聞こえる室では話さない、といった具合に。また、良く会う親戚とは話すのに、あまり会わない親戚とは話さないなど。通常は、他人に聞こえないところだと、すぐさま両親と話します。

いったん緘黙だと認識されれば、この子たちの沈黙は不安のためコミュニケーションが難しいからだと理解されます。

認識されにくい場面緘黙Low-profile selective mutism

これらの子どもや若者たちは、促されると少しは話すので、大人は「恥ずかしがり屋」「大人しい」または「反抗的」と捉えがち。認識されやすい緘黙児と同様に、話すことが強い不安を引き起こすのに、それを理解されにくいのです。彼らは期待に応えようとする思いが強く、なんとか言葉を絞り出します。実のところ、話さない結果への不安が、話す恐怖に勝るために声が出るのですが、このバランスは微妙で、話題に自信がある時しか作用しません。学校では出席の返事をしたり、要求に応じて音読したり、シンプルな問いに答えたりすることがあるかもしれません。しかし、普段より声は小さく、アイコンタクトも減ります。トイレなど必然の要求を発したり、指示に従って短いメッセージを伝えたりすることもあるかもしれません。しかし、親しい友達や家族を除いては、相互的な会話をすることはなく、自分からは話しかけません。「(して)ください」や「ありがとう」といった、何でもない依頼や挨拶が非常に難しいのです。いじめや病気を報告したり、助けや許可を求めたり、自ら説明したりできないことを解ってもらえるまで、彼らは危険にさらされます。困難に気付かれず、自分を守る発言ができないため、支援どころか懲戒されてしまうかもしれません。

もっと大きな声で話しなさい、もっと貢献しなさいと繰り返し奨励することは、更に子どもを苦しめるだけです。彼らの困難を誤って把握し続けると、ますます話さなくなり、不登校が多くなり、どんどん自信を失っていく可能性があります。

認識されやすい場面緘黙の子どもが適切なサポートを受けると、最初は質問には答えるけれど自分から会話を始めることはない――認識されにくい場面緘黙の子どもの症状と似た感じになります。

場面緘黙の子どもや若者を支援する際、認知しやすい緘黙も認知しにくい緘黙も、不安のないコミュニケーションと活動参加を可能にするために、同じ支援が必要です。まずは、 話すことに対する全てのプレッシャーを取り除いてください。その後、各自のペースで段階的に話すことへの恐怖と向き合わせます。 重要なのは、場面緘黙が本人の性格ではないことを説明し、自覚させることです。 場面緘黙は、彼らが幼少の頃に経験した「恐れ(例えば、暗闇や花火のように)」のように、乗り越えることができるものだと。

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緘場面緘黙とは?(その3)