2018年SMiRAコンファレンス(その4)

場面緘黙のセラピー  SM Therapy

SMiRAのホームページを見ると、『場面緘黙の支援の求め先一覧』は1で、その後に2『SMのセラピー』、3『SMについて学ぶ』、4『SM情報』と続きます。この4つの情報があれば、子どもの場面緘黙を発見したばかりの保護者や大人の当事者が、すぐ行動を起こすことができそうです。

ただし、すぐ行動したからといって、緘黙克服は長期戦だし、学校や担任に当たり外れがあるので、速攻で支援を得られるという保証はありません。また、全部の項目をスルスルとクリアできる訳はなく、いっぱい壁に突き当たりながらの長旅になると予想されます。

それでも、まず家族が理解して周囲に支援を求める姿を見れば、子どもは心強いし、親子の信頼も深まるはず。学校や専門機関とのやり取りは、時間もストレスもかかりますが、とにかく早いスタートを切ることが肝心だと思います。

Info: Where to Get Help with Selective Mutism

SM児に対するセラピー(英国の場合)は、下記のプロセス(かなり簡略化されてます)を踏んで行われます。

  1. 家庭と学校でのSM教育
  2. 家庭、学校、その他の身近な場所で、子どもに対する大人の応答や行動を変える
  3. 子どもに場面緘黙について説明し、治療・克服方針を決める際にできるだけ子どもに関与させるようにする(子どもの意見を取り入れる)
  4. 『新SMマニュアル』に沿って、学校で*定期的な介入セッション(週3回が理想的)を行う。セッションは保護者(もしくは子どもが自由に話せる人)と学校のキーワーカーによって行い、子どもがキーワーカーに自由に話せるようになったら、保護者はセッションから退く。定期的なセッションを一貫した一貫して行えば、子どもがキーワーカーと話せるようになるまでに何か月もかかることはない
  5. 保護者はスモールステップ方式で、学校外でも話せるようにしていく
  6. より多くの場面・人と話せるようになるよう、機会を増やしていく(一般化)

注:4)の学校における定期的な介入セッションは、スライディング・イン法(Sliding In:SM児が自由に話せる人を架け橋に、徐々にキーワーカーに話せるようにしていく)ですが、他にシェイピング法(Shaping:徐々に声を出せるようにする)から始める方法もあります。

スライディング・イン法で、キーワーカーと自由に話せるようになったら、次はキーワーカーを介して話せる人を徐々に増やしていきます。その速度や人数などは、進行状況や子どもの状態によって異なるため、その子にとって現実可能なチャレンジを行うことが重要。

(みく注:3)子どもにSMについて説明する――保護者にとって子どもに緘黙のことを告げるかどうかは、悩むところだと思います。以前これについて書いたので、良かったらご参照ください(『告知するかしないか(その1)』

スライディング・イン法で、キーワーカーと自由に話せるようになったら、次はキーワーカーを介して話せる人を徐々に増やしていきます。その速度や人数などは、進行状況や子どもの状態によって異なるため、その子にとって現実可能なチャレンジを行うことが重要。

要となる 4) の学校でのセッションについてですが、これは日本ではすごく難しいですよね…。イギリスでも実際にやってくれる学校はそれ程多くなくて、途中でうやむやになったり、うまく進まないケースも耳にします。保護者が放課後の教室や校庭を借りて、自己流のセッションをするケースも。

また、一番下の欄に、「SMは子ども(人)が誰とでも不安なしに話せるようになった時、真に克服できたといえる」とあります。

これも以前も書きましたが、私自身は緘黙ではなかったものの、小さい頃はかなりの内弁慶で、小学校では常に緊張していました。特に、授業中に発言しなければならない時、緊張がマックスに。当時は、先生にため口をきける子が信じられなかったです。イギリスの小学校では、先生と生徒の距離が近いと感じますが、それでも全く不安なく話せるようになれるのかは疑問です――子どもの性格によると思うので。緊張はしても普通に受け答えできるようになったらOKじゃないかな?)

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2018年SMiRAコンファレンス(その1)

2018年SMiRAコンファレンス(その2)

2018年SMiRAコンファレンス(その3)

2018年SMiRAコンファレンス(その3)

「SMiRAによる『場面緘黙の支援の求め先一覧』の紹介」Introducing SMiRA’s “How to Get Help for SM” chart

次に登場したのは、SLTでSMiRA事務局メンバーのスザンナ・トンプソンさん。彼女はSMiRAのFBグループにおける常連アドバイザーで、とても頼りになる存在。でも、トレードマークのピンクの髪がブルーに変わっていて、一同ビックリ(笑)。日本では考えられないことですが、イギリスの学校には髪を派手な色に染めたり、入れ墨が見える服を着たりしている教育関係者がけっこういるんです(笑)。各学校によって方針は異なるものの、髪型、服装、宗教など本人の趣味や主張に対して寛容だなと思います。

講演は題名の通り、SMiRAが作成した「イギリスではSM支援をどこに求めればいいか」をまとめたチャートの紹介でした。この表はSMiRAホームページで検索することができます。

http://www.selectivemutism.org.uk/info-where-to-get-help-with-selective-mutism/

自分または知っている誰かが、ある場面では自由におしゃべりできるのに、他の場面では全くできないと気付いた時:

1) まず最初にすべきこと  → 場面緘黙について学ぶ

(場面緘黙が疑われる場合、環境や対応の仕方を変え始めるのに診断は不要)

2) 次に、気づかないまま緘黙を持続させる原因となっている大人の行動を見分け、その行動を変える

3) どうやって・どこで支援を得られるか見つける

チャートでは、公的・私的な支援を求める前に、まず緘黙の知識をつけることからスタート。そして、周囲が応答や環境を変え始めることが先になっています。

これは、適切な支援を得られるまでに時間がかかるケースが多いためかな?今すぐできるのは家庭での対応を変えることですよね。家族が味方と解れば、SM児(人)は心強いはず。

イギリスでは、子ども(17歳まで)と成人(18歳以上)とで支援先が異なります。子どもの場合は、SMiRAの資料を持参して学校のSENCo(特別支援教育コーディネーター)に相談するのが第一歩。一方、成人の場合は、GP(主治医)を訪ね、SMもしくは社会不安の専門家に紹介してもらう手順。でも、大人の場面緘黙はまだそれほど認知されていないため、治療者確保が難しいかもと注意書きがあります。

表の右下は、専門家の支援を得られないケース。

その場合は、保護者と学校、もしくは本人主導で介入を行います。SM支援のトレーニングを受けたSLTや心理士の支援の有無にかかわらず、『新SMリソースマニュアル』を参考にした克服法は効果大とあります。

イギリスでは住む地区や通っている学校によって、支援体制の有無や支援の程度が全く異なります。現在、場面緘黙の認知度はかなり高くなっていますが、支援や治療が得られるかどうかは宝くじみたいなもの。まずは家庭でSM児(人)の問題を認知し、大人が対応を変え、周囲へも啓発していくことが大切といえそうです。

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2018年SMiRAコンファレンス(その1)

2018年SMiRAコンファレンス(その2)

2018年SMiRAコンファレンス(その2)

日本語の生徒さんと初めてのGCSE試験に取り組んでいる間に、すでに10日が過ぎてしまいました。イギリスは晴天が続き、今日は飛び切りの青空の下で、ハリー王子とメガンさんの結婚式が無事終了。式の時間帯に食料を買いに出たら、お店はガラガラで人通りもまばらでした(笑)。

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「恐怖の顔を変える Changing the Face of Fear」

2018年SMiRAコンファレンスの1番バッターは、SLT(言語療法士)でSMのための臨床ネットワーク団体事務局長のアナ・ビアバディ・スミスさん。

まず、「花という言葉から何をイメージしますか?」という質問からスタート。

「真っ赤なチューリップ」

「野に咲く白いデイジーの群」

など、会場からは様々な花のイメージが出ました。日本人だったら、季節がら桜の花を連想したかもしれません。

と、導入は楽しかったのですが、そこから脳科学の領域に突入。「ニューロプラスティシティ Neuroplasticity 神経の可塑性(かそせい)」という難しい言葉が飛び出し、頑張ってメモを取ったものの、進行が速すぎて後から見たらチンプンカンプン…。文章のつながりがおかしな部分もあると思いますが、どうぞご容赦ください。

簡単にいうと、以下の脳の働きに着目して「話すこと」への不安・恐怖のイメージを変えることができるというお話でした。

  • 同じ言葉でも人それぞれ持っているイメージが違う。
  • 人が言葉を発する(連想する)までには、イメージやそれにまつわる感情、そこにたどり着くまでの思考がある。
  • 人の行動や決定は意識的にコントロールされるだけでなく、無意識的な機能(潜在意識)による部分もかなり大きい(それまで蓄積された膨大な認識や体験が行動や決定の基盤となっている)。
  • 人にはそれぞれ「世界(外界?)」に対する自分のモデル(世界観?)があり、その「世界」の範囲内でものごとを理解しようとする。
  • 脳は適応可能な状態を維持し続ける → 人は誰でも脳を改善していく能力を備えている → 自助的な神経可塑性が備わっている。

周囲が子どもを「恥ずかしがり屋」「内気」とみなし、そう呼んでいると、子どもは自分がそうだと思い込んでしまう。大人のボディランゲージを読み取り、負のイメージを受け取ってしまう。その結果、塗り重ねた「自分は恥ずかしがり屋」という観念から抜け出すのが難しくなる。

また、不安が強い人・子どもは癖や習慣を持ちやすい傾向にある。

同じ思考や行動を何度か繰り返しているうちに、新しいシナプス(脳の神経細胞を繋ぐ回路)ができあがる。回を重ねることで回路が強化され、その思考や行動が癖になったり、習慣化してしまう。時に、習慣化した癖・行動はやめようと思っても、やめられないほど強くなることもある。

(みく注:場面緘黙の場合を当てはめてみると、最初は反射的に声を出せないことが多いのではないかと思います。次に同じような場面に遭遇した時、黙っていることで少し安心できた(無意識かもしれませんが)と感じる――「黙る」という不安・恐怖への対処法を繰り返していくうちに、それが強化され習慣化してしまう。自分も周囲もそれが「当たり前」になると、周りの反応が気になって声を出すことがますます難しくなります)。

しかし、これらのシナプスは固定化された回線ではないので、癖・習慣を変えていくことは可能。急に変えることは無理なので、スモールステップで少しずつ改善させる。それには、まず周囲が子どもへの見方を変え、態度を変えることが重要。

(みく注:まず、子どもが安心できる環境づくりをすることによって、周囲だけでなく、子ども自身の意識や考え方を変える → 子どもの心の準備ができたら、スモールステップに取り組む)

<スモールステップの注意点>

子どもが不安・恐怖を感じない「安全地帯」から少しだけ出て不安と向き合い、実現可能な目標を作ること。

その時に、子どもの学習タイプが役立つ。

  • 視覚優位型
  • 聴覚優位型
  • 体感優位型

学習タイプにリンクさせると、不安・恐怖のイメージを変えやすい。

まず、不安・恐怖がどんな風に見える/聞こえる/感じるかを探り、子どもの持つイメージ/音/フィーリングなどを変えていく。

不安・恐怖に名前をつけ、「脳の中の小部屋に怖がりのチャーリーが隠れてるのよ」と子どもに説明する。不安や恐怖は子ども自身ではなく、別の存在だと認識させる。その存在のイメージ/音/フィーリングなどを変えていく。

(みく注:緘黙の子どもは、「話すこと」以外にも、「トイレに行けない」「給食が食べられない」「体がうまく動かない」「人の目が気になる」など、他の不安・恐怖も抱えていることが多いです。これらに名前をつけて、絵を描いて可視化することも有効だと思います。

家庭でできることは、「できない部分」ではなく「できる部分を」に着目して、それを言葉にして伝える。例えば、「大人しい」の代わりに、「繊細でよく気が付く」など。人と比べず、その子の良さを見つけ、いいところを伸ばしていくこと。難しいですが、子どもがのびのびできる家庭環境を作れればベストですよね)

ちょっと尻切れトンボになってしまいましたが、主旨はこんな感じでした。脳の可塑性は生涯続くため、何歳になっても自分を変えることが可能とのこと。年齢を重ねると、より時間がかかるということですが、なんだか嬉しく思えました。私たちも、まだ変わることができるんですね。

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2018年SMiRAコンファレンス(その1)

2018年SMiRAコンファレンス(その1)

先月21日、イギリスのレスターで2018年SMiRAコンファレンスが開催されました。例年だと3月に行われるのですが、今年は大雪で延期になり4月に。全国から保護者、学校関係者、専門家など90名ほどが集まり、4つの講演と意見交換会で盛り上がりました。講演の内容は下記の通りです。

  • 「恐怖の顔を変える Changing the Face of Fear」 アナ・ビアバティ゠スミス SLT(言語療法士)&場面緘黙のための臨床ネットワーク事務局長
  • 「SMiRAによる、『場面緘黙の支援の求め先一覧』の紹介 Introducing SMiRA’s “How to Get Help for SM” chart 」スザンナ・トンプソン SLT
  • 「保護者そして教員の視点から見た場面緘黙 SM from a parent and teacher’s perspective」クレア・ニール 保護者&SMiRAコミッティメンバー
  • 「場面緘黙トーキングサークル―場面緘黙経験者による成人のためのサポート SM Talking Circles- Peer support for adults with lived experience of SM」 ジェーン・サラザー 元緘黙当事者

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昨年と変わったことは、会長のアリス・スルーキンさんがご高齢のため正式に退任され、シャーリー・ランドック゠ホワイトさんが会長に就任されたことでした。

前会長のアリスさんは、シニア精神医学ソーシャルワーカーとして働いていた1960年代後半に「話さない子どもたち」に遭遇し、いち早く場面緘黙を研究・支援してきたパイオニア的存在。事務局長であるリンジーさんの娘さんを治療した縁から、1992年に二人でSMiRA(Selective Mutism Information Research Association)を創設。緘黙児支援に尽力されてきました。(実は、2005年に電話でうちの息子を「緘黙」と診断していただき、個人的にも大変お世話になりました)。

今回会長になられたシャーリーさんは、長らくSMiRA役員会のメンバーとして活躍されてきた女性です。元農学研究科学者で現在はセカンダリースクールの教師。20代の緘黙の娘さんがいるため(最近になって良い支援者に巡り合い、現在自立するための準備中だとか)、保護者、教師の立場も理解し、総合的な視点でSMiRAを引っ張って行ってくれそうです。

<シャーリーさんの挨拶より>

場面緘黙を患う子どもは、140人にひとり。イギリス全国だと7万9000で、成人も入れるとかなりの数になります。何と、世界中に約1370万人のSM児がいる計算になるそう。(ただ、私は地域コミュニティの絆が強い国は、発症率が少ないんじゃないかと推測していますが…)。

近年、イギリスでは財政赤字のため、国民医療(NHS)に費やされる国家予算がどんどんカットされています。学校における特別支援教育に対する援助も厳しい状況になってきているのが現状。

そのため、学校や公共機関からの支援を待つのではなく、保護者が学校での介入・対策に積極的に働きかけ、関わることを強調していました。

その際、武器となるのが2016年に改定された『場面緘黙リソースマニュアル(The Selective Mutism Resource Manual)』です。

約500ページに及ぶこの実用書は、緘黙治療の第一人者といわれるSLTのマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが最新の知見と治療体験をもとに共著。2001年に初版が出版されて以来、イギリスでは緘黙治療のバイブルと呼ばれ、専門家や学校関係者に高い評価を受けてきました。

改訂版では、最新の情報に加え幅広い克服方法がステップ・バイ・ステップで説明されていて、実践に役立つ情報が満載。マニュアルを購入すると、ウエブ上で膨大な資料にアクセスできる仕組み。(イギリスの学校・教育システムに合わせた実用書なので、日本の学校で活用できるかは不明ですが)

まず保護者がマニュアルを勉強して、介入・支援をリードしていく――難しいことですが、専門家による治療に頼らなくても、理論さえ正確に理解できていれば、自分の子どもの特質を一番よく知っている保護者と現場スタッフで、緘黙支援に取り組めるということ。もちろん、マギーさん著によるSMiRA資料やFBでの意見交換なども頼りにできる場です。「臆せずに、自分の子どものために行動を起こして」と、保護者の後押しをしてくれる挨拶でした。

★お断り:コンファレンスでは講演資料は配布されず、私が取ったメモを頼りに書き起こしています。間違った箇所があるかもしれませんので、どうぞご了承ください。