緘黙児とHSP

場面緘黙の遺伝的な要因として、行動抑制的な気質があげられます。以前にも書きましたが、私は息子が ”とても敏感な人 HSP (Highly Sensitive Person)” に生まれてついた、と思っています。 

赤ちゃん時代は大泣きするし、幼少時も敏感で繊細すぎて「どうして他の子みたいにパッと行動できないの?」とヤキモキすることが多々ありました。16歳になった今でも、まだまだシャイなところが多く、「面倒なヤツ」と思うこともしばしば (でもその半面、優しくて思いやりがあって、なかなか頼りになるヤツでもあるのです)。

HSP (Highly Sensitive Person) という言葉・概念は、アメリカの心理学者エレイン・アーロンによって考案されました。彼女が1996年に出版した” The Highly Sensitive Person” には、HSPとは何か、またHSPが抱える生きづらさや人生への対処法について書かれています。

日本では2000年に翻訳本『ささいなことに動揺してしまうあなたへ』が出版され、大ヒットしたので、ご存じの方も多いのでは?彼女自身がHSPで、大勢のHSPの体験を例にして書かれているため、説得力があり、とても参考になります。

HSPは生まれつき感覚処理感受性(SPS: Sensory Processing Sensitivity)が通常より高いため、ささいな事に対して傷つきやすい性質を持つとしています。また、通常では気にならないほどの感覚刺激に対して、興奮しやすいという特性もあると。

アーロン女史は、この本の中で子どもの行動抑制的な気質を研究したアメリカの発達心理学者、ジェローム・ケイガン(Jerome Kagan 1989) を引用。自らが研究する「敏感さ」は、彼が研究してきた特徴と同じであり、「HSP=行動抑制的な人(子ども)」としています(ケイガンによると行動抑制的な子どもは全体の10-15%)。

(ただし、ケイガンがこの特徴を主に「inhibited 臆病」と呼ぶことに賛成しかねると。子どもは怖がっているのではなく、周囲で起こっていることを処理しているだけかもしれないと反論しています)

地球の全人口の15-20%が敏感な精神を持つ、ということは人類の5分の1がHSP。この確率の高さからも、HSPは病気/ 障害 (disorder)ではなく、正常だと断定しています。ただ、人類の5分の4は非HSPで、その中でHSPはマイノリティー。多数派の非HSPによって常識や価値が決められてきた世界で、感受性が高すぎることが「欠点」と捉えられる傾向が強い…だから、生きづらさを感じてしまうんだと。

敏感さの程度や反応の仕方は人によってさまざまで、スペクトラム状になっているものと推測されます。そのうえ、環境要因が大きく影響してくるため、HSPの子どもには、どんな風に接したらいいのか、どんな風に育てればいいのかが異なってきます。

非HSPにはスパルタ式のやり方が有効かもしれませんが、HSPの心は折れてしまうかも。過保護といわれようが、子どもが自己肯定感を持てるよう、かなり注意して育てる必要があるように思います。この本には色々な事例が載っていて、総括的に書かれているので、すごく参考になると思います。

また、同著者の『ひといちばい敏感な子 (Highly Sensitive Child)』は、HSPの子どもを持つ保護者のために書かれていて、緘黙児を持つ親御さんにはお勧め。私はまだ日本語版を持っていないのですが、5年位前に図書館でこの本に出会った時は、目からウロコでした。そして、「もっと早くに出会ってれば」と心底思いました。

私は外国で子育てをするにあたり、「しっかりしつけないと」という思いが強く、「○○しちゃ駄目」と言うことが多かったように思います。自分自身にも完全主義の傾向があり、父親がかなり厳格だったためか、「とにかく、やってみる」「一度始めたら最後まで」と意固地になってたような…。主人は放任主義というか、「やりたくないなら、しょうがない」という態度なので、つい私のほうが厳しくなっちゃうんですよね。

息子は新しいことをさせようとすると、かなり長い間手を出さないで見ている傾向が強かったのですが、私の気持ちをビンビン感じ取って、「押し付けられる」「やらなきゃ」と息苦しかったと思います。もっと大らかに見守ってあげていれば、と今は大反省。息子の敏感さを肯定的に捉えて、もっともっと褒めて育ててあげていればよかったなと思うのです。

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