14歳まで緘黙と診断されなかったケース

11月15日に投稿した記事『場面緘黙が増加の傾向?』の続きです。10月26日付のDaily Telegraph紙で紹介された記事の後半に、14歳まで場面緘黙と診断されなかったダニエルさんについての記述がありました。幼少の頃から長年緘黙に苦しみ続けた彼女の体験も、お伝えしておきたいと思います。

リンク: http://www.telegraph.co.uk/wellbeing/health-advice/selective-mutism-health-parent-child-advice

ダニエルさんは現在21歳.。カーディフ大学で数学を専攻する大学生です。緘黙と診断されたのは今から7年前の2008年。イギリスでも、ようやく場面緘黙が一般に広まり始めた頃のことです。その1年前の13歳の時、受診した12人目の心理士から、まずうつ病の診断を受けたとか。その後14歳で場面緘黙と診断がおりましたが、それまでクラスメイトや先生からのイジメや重度のパニックアタックに耐え続けていたそうです…。

13歳までに12人もの心理士を訪ねたということは、保護者が早くから異変を察し、治療を求めて奔走したんでしょうね…。イギリスの国民保険制度NHSを使うと、薬代以外は全て無料ですが、専門家とのアポが取れるまで何ヶ月かかることも。その上、クリニックや心理士を指定することはできません。おそらく、家族は私費を投入して(めっちゃ高額です)、色々模索したんだろうなと想像します。

ダニエルさんは現在は知らない人とも話すことができますが、今なお社会不安とパニックアタックに悩まされているそう。ある程度コントロールされた環境だったら平常でいられるものの、誰かが予期せず近づいてきたら、すごく不安になるとのこと。

ダニエルさんは、学校に行くことで緘黙症状がどんどん悪化してしまったと考えています。また、教師が彼女のことをただの恥ずかしがり屋と誤解し、内気さを克服させるためにクラスの前でしゃべらせたことも、悪化の大きな原因だったと…。

先生がよかれと思ってやったことが、二次障害としてパニックアタックを引き起こしてしまった――緘黙の知識がなかったとはいえ、大変胸が痛みます。抑制的な気質が強い子どもの中には、一般的な教育方針でいくと逆効果になる子も…。ちょっとした出来事で学校に行けなくなってしまうこともあるので、要注意です。大変だとは思いますが、関係者の方は子どもの性格や状況をよく見極めたうえで、対策を考えてもらいたいですね。そして、大人しくて問題を起こさないからといって、後回しにしないで欲しいです。

場面緘黙の子どものニーズに即した対応をすると、「特別あつかい」と見なされてしまうかもしれません。特に、クラス全員が同じように進むことを求められる日本では、ひとりだけできないと目立ってしまう傾向が強いかと思います。それでも、担任の先生が普段から「みんな違ってていい」という毅然とした態度を取ると、クラスの雰囲気が随分違ってくると思います。

ダニエルさんは、緘黙の状態を「実際にのどが閉まったようになって、言葉を発することができないの。頭の中では言いたいことがハッキリしてるのに、不安でいっぱいになってしまう」と説明しています。そんな思いを何年も引きずりながら学校に通うのは、相当つらかったことでしょう。

自分の子ども時代にもっと場面緘黙が広く知られていれば、こんな体験はせずに済んだのではないか。自分が受けた試練を他の誰にも経験してほしくない――ダニエルさんはその強い思いで、新聞記者のインタビューを受けたようです。

特別支援教育が根付いているイギリスでも、緘黙児への支援はまだまだ…。もっともっと一般に広く知ってもらって、早期発見・介入が徹底するといいなと願っています。

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