場面緘黙から登校拒否に

前回のBBCラジオ・スリーカウンティ局の番組に関する記事の続きです。

クレアさんの娘さんの緘黙は、残念ながらセカンダリースクール(12~16歳)にあがってから悪化してしまいました。入学したばかりの1学期の前半は先生や友達とも話し、質問にも答えていたそう。それが、後半に入ってから状況がガラリと変わってしまったのです。

イギリスのセカンダリースクールは1学年6クラス以上あるマンモス校が多く、日本の大学のようなシステムです。教科ごとに先生が変わるのみでなく、ベースになる教室がないため、常に鞄を持って教室を移動しなければなりません。全ての先生が全校生徒と保護者の顔と名前を知っている、小規模でアットホームな雰囲気の小学校とは対照的。宿題も週に1、2回程度から、いきなり毎日に複数の教科の宿題が出るように。

頑張ればポイントが加算され、家に労いの葉書が届いたりする反面、宿題や教科書を忘れたり、遅刻したりすると、罰として居残り――というアメとムチ政策。小学校ではユルユルだった授業体制から、ぐんと厳しくなるため、勉強の仕方に戸惑う子も大勢いると思います。

また、自分の教室や机がないということは、休み時間毎に居場所を確保しなければならないということ…。まだ友達がいなかったり、自信のない子どもには、かなり辛いのではないかな…。イギリスの小学校では不登校は殆どないのですが、セカンダリーでドロップアウトする子は多いようです。

クレアさんの娘さんは、学校生活のプレッシャーが大きすぎて、次第に不安が募っていったそう。教科ごとに変わる教師、成績やクラスの人間関係――そして毎日の宿題が大きなストレスになったといいます。

緘黙児は完全主義の傾向が強いといいますが、クレアさんの娘さんもそうでした。全部正解と思えなければ不安で、宿題ができない状況に…。そのうちに、毎日学校へ行かせるのが難しくなり、ついには登校拒否に陥って7ヶ月間学校を休むことに…。

学校側は、娘さんの頑固な性格に問題があるとみなし、クレアさん夫婦は周りから「育て方が悪い」と責められたこともあったとか。家庭内で大きな問題を抱えて、ただでさえ辛いのに、周囲が追い打ちをかけるなんて…。これって、あまりに理不尽すぎる…。

しかも、家に引きこもってしまった娘さんが、家族に向かって感情を爆発させるようになったそう。責任の重い夜勤の仕事をしていたクレアさんは、仕事を辞めざるを得なくなってしまいました。どうにかして娘さんを外に連れ出そうと、犬の散歩の仕事を見つけるなど、様々な努力をしたそうですが、家庭が荒れて本当に大変だった様子。

現在はというと、状況はかなり改善してきているとのこと。医師に相談して4ヶ月前に抗鬱剤フルオキセチン(Fluoxetine)を服用し始めたところ、速攻で効果があったそうです。以前より楽観的になり、少しずつ自信が持てるようになってきたとか。学校も、クレアさんの緘黙に理解を示してくれる、規則がゆる目のアカデミー系に転校。再び勉強し始め、料理クラスなどにも参加できているそう。学校外では話せる友達がいるものの、残念ながら学校内では未だ話せていません。

クレアさんの願いは、娘さんが一日一日をしっかり重ねて、少しずつ自信をつけ、不安を対処できるようになることだといいます。そして、充実した人生を過ごせるようになればと…。その気持、ものすごく解ります。他人と比べたりせず、ゆっくりマイペースで歩くことで、道が拓けてくるといいなと願わずにはいられません。

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イギリスでは10月が場面緘黙啓発月間です

おとなしい子 vs 緘黙児

緘黙のスペクトラム?

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場面緘黙啓発月間の広報活動の一貫として、10月7日にはBBCラジオ・スリーカウンティ局が、場面緘黙を特集しました。

メンタルヘルスをテーマにした’Shrink Wrapped’という番組で、たっぷり1時間のあいだ場面緘黙の話題に集中。SMiRAの会員(保護者)2名をスタジオに招き、DJのルィーザさんがそれぞれのケースについて話を聞いています。精神科医のチェトナ・カングさんの解説つきで、とても分かりやすい内容になっていました。後半には、 SMiRAコーディナーターのリンジーさんとミスUKのカースティ・ヘイズルウッドさんの電話インタビューも。

http://www.bbc.co.uk/programmes/p032l5nk#play

(↑ リンクです。クレアさんのインタビューは8分くらから。日本でも聴けるかどうか不明ですが、リンクは25日間有効です)

まずは13歳の娘を持つクレアさんの話から。娘さんは入園前のプレイグループでは誰とも口をきかず、ママにべったりだったそう。幼稚園(3歳から)では2人くらいの友達に囁やけたということ。ただ、大人に対しては全くダメで、親族の中にも話せない人が大勢いたようです。小学校(4歳~11歳)では初日に先生に囁くことができ、質問に答えることもあったそうですが、自分から何かいうことはありませんでした。

「少しは話せる状態でも、場面緘黙なのか?」この問に対して、チェトナ医師は「他の精神疾患と同様に、症状が白黒はっきりしている訳ではなく、グレ-のスペクトラム状に広がっていると考えられる」と答えています。囁けるといっても、どこでも誰にでもという訳ではなく、話せるようになる保証はないため、やはり支援が必要です。

セカンダリースクール(12~16歳)に進学する前、学校の提案で心理士に会ったところ、「ものすごく心配症の子ども」と診断され、それでおしまい。フォローアップは全くなかったそう。これって、うちの息子が4歳で受診した時と同じです――イギリスでも6、7年ほど前までは場面緘黙を知らない専門家がいて、サポートを受けられないことも多かったのです。

幸運なことに、うちの場合は診察アポを待っている間に「場面緘黙」という疾患(?)があることを発見。事前にSMiRAに連絡し、アドバイスを得ることができました。診察のあと、2人の心理士に「場面緘黙だと思うんですが…」と自己申告し、主人と一緒に「言語療法士に紹介してください。お願いします!」と必死で頼み込んだのでした(国民保険を使用する場合は、紹介状がないと受診できません)。

話をクレアさんの娘さんに戻すと、かなり活発な子で、水泳やガールスカウトなど複数のアクティビティに参加していたそう。でも、学校外のこういった活動では全く話せませんでした。5年ほど前、緘黙のドキュメンタリー番組を観たスカウトのリーダーから電話があり、クレアさんはその時初めて「場面緘黙」を知ったのです。

興味深いなと思ったのは、娘さんが家族にも自分の気持ちを言葉にしない(できない)こと。それから、学校外の活動でも、ボディランゲージが変わり、スピードが落ちることです。誰でも緊張すると普段通りにできないものですが、緘黙児は緘動とはいかないまでも、動作が鈍くなり、スピードが落ちる傾向が強いように思います。

想像してみてください。魚みたいに泳げる娘が、スイミングスクールでは水に入るのを怖がる。やっと入ったと思ったら、今度は隅っこでいつものようには泳がない――親としてはフラストレーションがたまりますよね…。

クレアさんは緘黙を知らなかったため、良かれと思って娘さんをプッシュしてしまったと反省していました。親としては、もう少し頑張らせたいのは当然ですよね。でも、このインタビューの当日に、本人から「(ママ達が)私にしゃべらせようとして、酷かった」と言われたとか――そう言われちゃうと本当にショックです。

ところで、娘さんは校庭の片隅で遊んでいて緊張が溶けることもあり、大声で叫んだり、はしゃいで話したりしていたとか。だから、周囲も彼女がしゃべれることは知っていたのです。そのために、いつも上級生に「なんでしゃべらないの?」と責められるハメになったよう…。娘さんには幅広い友達がいたけれど、特別な仲良しを作るのは難しかったと回想しています。

不安のために話せないだけではなく、動作も遅くなって、しかも家で普通にできることができなくなってしまう…。たとえ、少し話せたり、囁やけたりしても、やはり持って生まれた抑制的な性格は変わらないのです。「この子は症状が軽いから」と思って、周囲がプッシュしすぎたり、支援がなかったりすると、状況次第では症状が悪化してしまうことも…。超敏感な子どもへの接し方は、本当に難しいと思います。

話が長くなってしまったので、次回に続きます。今ブルガリアの友達家族が遊びに来ているため、なかなか時間が取れなくて支離滅裂になってしまい、すいません。

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イギリスでは10月が場面緘黙啓発月間です

おとなしい子 vs 緘黙児

大人しい子  vs  緘黙児

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イギリスでは先週から場面緘黙啓発月間が始まり、メディアや精神医学関係機関、SNSなどを中心に盛り上がりを見せています。初日には、SMiRAの本拠地であるレスターのBBCラジオ局が、場面緘黙を取り上げました。

http://www.bbc.co.uk/programmes/p0322npy

(6分50秒くらいから。日本でも聴けるかどうか不明ですが、リンクは今月末まで)

10分ほどのスロットに、SMiRAコーディネーターのリンジー・ウィティントンさんと15歳になる緘黙の少女の母親、エマ・ガスキンズさんが出演。リンジーさんが場面緘黙について解説し、エマさんは娘について語っています。ちょっと時間がないので翻訳はしませんが、興味深いなと思ったところだけ。

「場面緘黙って何?」とDJのエイディ・デーモン氏に訊かれ、リンジーさんは「不安によって起こる症状」と答えました。使ったのは、”disability (障害)”でなく、”condition (症状)”という単語。やはり、イギリスでは「恐怖症」と同様で、「症状」という捉え方になってきているようですね。

背景には様々な原因があって特定できないものの、不安によって話せなくなる状態が場面緘黙。入園・入学時に発症することが多く、話さない状態が2・3週間も続いたら要注意です。なるべく早い段階で言語療法士(SLT)にアセスメントをしてもらい、不安を取り除いてからスモールステップで支援を始めるよう勧めていました。

日本だと心理士や児童精神科医に相談すると思うのですが、イギリスでは場面緘黙といえば言語療法士です。これは、言葉に関わる問題だからという理由に加え、子どもの言語に問題がないかチェックする必要もあるから? 緘黙治療の第一人者と言われるマギー・ジョンソンさんがSLTなので、SLT界では緘黙に関する知識が豊富というのもあるかもしれません。

スモールステップでの治療については、それほど難しいものではないため、やり方さえ理解できていれば、専門家でなくても教師やTAで充分と説明。私は、治療の要は子どもとの相性と愛情と、とにかく根気じゃないかな、と思っています。

(ところで、緊張すると実際に喉が締まったようになって、声が出しにくくなることって普通の人でもありますよね?ネットで探してみたら下記のページを見つけました。「首筋の肩甲舌骨筋が膨らむことによって、声が圧迫される」とあります――これが緘黙の正体??)

→ http://ure.pia.co.jp/articles/-/17026?p

DJのエイディは、「小学校のクラスに、レセプション(準備学年)から6年生まで、7年間ずっーとしゃべらない女の子がいた」と回想。その子が話さないことに周囲がヤキモキして、教師までもが「恥ずかしくないよ。話せば?」と本人に言ってたそう…。自分がしゃべらないことをみんなに注目されて、すご~く嫌だったでしょうね…余計話せなくなっちゃいそう…。

エマさんの娘さんは、緘黙傾向の強い恥ずかしがり屋だった?

イギリスでは3歳から幼稚園、4・5歳から小学校が始まるので、緘黙の発症年齢は通常3~5歳くらいなのですが、エマさんの場合は、娘さんが15歳で学校を変わってから「全く話さない」と宣告されたということ。自分の娘に問題があると認めるのが、ものすごく辛かったと話しています。

エマさんもご主人もシャイで、娘さんも小さい頃から外では大人しくて恥ずかしがり屋――多分学校では少し話せていて、先生たちはそれほど深刻に捉えてなかったのでしょう。緘黙傾向がある恥ずかしがり屋でも、学校で少しはしゃべれて、友達がいて、表情がよく、勉強面で問題なければ、親も先生も「おとなしい子」で安心してしまうことが多いのかも。エマさんの娘さんのように、家でとてもおしゃべりな場合は、特に。

「うちの子は恥ずかしがり屋で、クラスで発言ができない」くらいに思っていたのが、いきなり全く話せなくなったら、それはものすごいショックですよね…。なんだか、身につまされるものがあります。

実は、リンジーさんの娘さんも元緘黙児だったのですが、リンジーさんは子どもが幼児の頃から「何か違う」と感じていました。赤ちゃん時代はよく笑う、おしゃべりでハッピーな子だったのに、1歳半頃からガラリと変わり、極度の引っ込み思案に。知らない人に話しかけられると固まるようになり、その度合いがどんどん悪化していったそう。

場面緘黙になるかならないか、いつなるのか――性格や環境に加えて、子どもをめぐる人間関係や出来事にも大きく左右されそうですね。とにかく、親は諦めず、根気よく、気長にサポートするのみ。でも、決してひとりじゃないので、一緒に頑張りましょう。

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